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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-215031(P2017-215031A)
(43)【公開日】2017年12月7日
(54)【発明の名称】メカニカルシール装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/38 20060101AFI20171110BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20171110BHJP
【FI】
   F16J15/38
   F16J15/34 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-111162(P2016-111162)
(22)【出願日】2016年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100163212
【弁理士】
【氏名又は名称】溝渕 良一
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100156535
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 多恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】橘 諒
(72)【発明者】
【氏名】中原 信雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 崇行
(72)【発明者】
【氏名】松原 亮
(72)【発明者】
【氏名】深沼 哲彦
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA02
3J041BB03
3J041BB04
3J041BB05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ケースとガスケットとの干渉を抑制できるメカニカルシール装置を提供する。
【解決手段】軸に垂直な摺動面30aを有するメイティングリング30と、軸方向に移動可能に設けられ、メイティングリング30の摺動面30aと接触する軸に垂直な摺動面41aを有するシールリング40と、シールリング40を軸と回転不能に保持するケース6と、メイティングリング30をハウジング1に保持するガスケット50と、を有し、ガスケット50は、補強環51を内在する弾性材52からなり、弾性材52が補強環51よりもシールリング40に対し軸方向反対側に延びる後退面53b,54bを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸に垂直な摺動面を有するメイティングリングと、
前記軸方向に移動可能に設けられ、前記メイティングリングの摺動面と接触する軸に垂直な摺動面を有するシールリングと、
前記シールリングを前記軸と回転不能に保持するケースと、
前記シールリングと前記ケースとの間に配置された弾発部材と、
前記メイティングリングをハウジングに保持するガスケットと、を有し、
前記ガスケットは、補強環を内在する弾性材からなり、前記弾性材が前記補強環よりも前記シールリングに対し軸方向反対側に延びる後退面を有することを特徴とするメカニカルシール装置。
【請求項2】
前記ケースは、軸方向に延びるガイド片を具備し、該ガイド片は径方向に突出した係合片を有し、前記係合片と前記メイティングリングに設けられたフランジとが、前記弾発部材の弾発力により係合していることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール装置。
【請求項3】
前記係合片は、周方向に等配されて配置されていることを特徴とする請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記後退面は周方向に連続する環状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3に記載のメカニカルシール装置。
【請求項5】
前記後退面は前記補強環の内径側及び外径側の弾性材に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記補強環と前記ケースの前記係合片とは径方向で重なる位置に配置されていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれかに記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転リングと固定リングとの摺動面を介して流体をシールするメカニカルシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシール装置は、ハウジングと、ハウジングを貫通するように配置される回転シャフトとの間に装着して使用されるものである。
【0003】
図9には代表的なメカニカルシール装置103が示されている。このメカニカルシール装置103は、ハウジング101に非回転状態に装着された静止側摺動環であるメイティングリング130、回転シャフト102側に装着されてこの回転シャフト102と一体的に回転する回転側摺動環であるシールリング140を有する。メイティングリング130はハウジング101にガスケット150を介して固定される。また、メカニカルシール装置103は、シールリング140を回転シャフト102に嵌着するための構成として、ケース160、コイルドウェーブスプリング170及びOリング180を有する。メイティングリング130とシールリング140とは、回転シャフト102の軸方向に沿って互いに対向するように配置されており、使用状態(図9ではシールリング140の一部を破線で示している。)ではその対向した端面同士130a、141aが密接することにより被密封流体をシールする(特許文献1)。また、ガスケット150は、補強環151を内在するゴム材152からなり、補強環151を押すことでガスケット150をハウジング101に取り付けやすくなっている。
【0004】
シールリング140は、回転シャフト102の外周面にOリング180を介在させて軸方向移動可能に嵌合されている。シールリング140のメイティングリング130側の端面には、メイティングリング130方向に突出した摺動突起141が形成されており、摺動突起141の端面である摺動面141aがメイティングリング130の摺動面130aに摺動可能に密接される。
【0005】
スプリングホルダ171の背面側にはケース160が配置されている。ケース160は、回転シャフト102に対し軸方向及び回転方向に移動不能に固定されている。スプリングホルダ171とケース160との間には、コイルドウェーブスプリング170が軸方向に適宜圧縮された状態で介在されており、使用状態ではこれによりシールリング140はスプリングホルダ171を介してメイティングリング130方向に付勢される。また、ケース160の外周部には、軸方向に延在された複数の係合爪161が均等間隔で形成されており、シールリング140の外周面に同じく均等間隔に形成された係合切欠142と係合している。これにより、シールリング140は、回転シャフト102の軸方向には移動可能な状態となり、回転シャフト102の周方向(回転方向)には移動不能な状態(一体的に回転する状態)で回転シャフト102に装着される。
【0006】
このような構成により、使用状態では回転シャフト102の回転に伴って、メイティングリング130の摺動面130aとシールリング140の摺動突起141の先端の摺動面141aとは密接した状態で摺動することとなり、メイティングリング130の摺動面130aとシールリング140の摺動面141aとが面接触して被密封流体をシールする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/129950号(段落0016−0026、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなメカニカルシール装置にあっては、シールリングの回転シャフトの回転方向の移動を規制するために、ケースの係合爪が軸方向に延びて形成されており、この係合爪の設計によっては、係合爪の先端とガスケットとが軸方向に近接する場合がある。また、ガスケットは一般的にゴム素材により形成されていることから、ガスケットに接触する冷媒やオイル等により当該ガスケットが膨潤することがあり、仮に係合爪の先端とガスケットとが近接している状態でガスケットが膨潤した場合に、ガスケットと係合爪が干渉し、双方の破損を引き起こす虞があった。
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、ケースとガスケットとの干渉を抑制できるメカニカルシール装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシール装置は、
軸に垂直な摺動面を有するメイティングリングと、
前記軸方向に移動可能に設けられ、前記メイティングリングの摺動面と接触する軸に垂直な摺動面を有するシールリングと、
前記シールリングを前記軸と回転不能に保持するケースと、
前記シールリングと前記ケースとの間に配置された弾発部材と、
前記メイティングリングをハウジングに保持するガスケットと、を有し、
前記ガスケットは、補強環を内在する弾性材からなり、前記弾性材が前記補強環よりも前記シールリングに対し軸方向反対側に延びる後退面を有することを特徴としている。
この特徴によれば、ガスケットに接触する冷媒やオイル等により当該ガスケットの弾性材が膨潤した場合であっても、シールリングに対し軸方向反対側(すなわちシールリングより反対側)に延びる後退面が弾性材の膨潤による膨らみの逃げとして機能し、ガスケットがケースと干渉することを抑制することができる。
【0011】
前記ケースは、軸方向に延びるガイド片を具備し、該ガイド片は径方向に突出した係合片を有し、前記係合片と前記メイティングリングに設けられたフランジとが、前記弾発部材の弾発力により係合していることを特徴としている。
この特徴によれば、ケースが回転軸の接続を受けて移動するのみで、メイティングリングと係合片との接触を容易に解くことができる。
【0012】
前記係合片は、周方向に等配されて配置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、ケースをガスケットに押し付けてガスケットをハウジングに取り付ける際に、係合片が補強環の周方向に等配された位置で当接可能であることから、軸方向に均等に力を伝達させ易い。
【0013】
前記後退面は周方向に連続する環状に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、周方向に渡り後退する量が一定であるので、ケースの当接箇所の周方向位置によらず、ガスケットがケースに干渉することを抑制することができる。
【0014】
前記後退面は補強環の内径側及び外径側の弾性材に形成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、内径側及び外径側共に弾性材の膨潤に対処することができ、弾性材によるシール性を維持することができる。
【0015】
前記補強環と前記ケースの前記係合片とは径方向で重なる位置に配置されていることを特徴としている。
この特徴によれば、補強環とケースの係合片とは径方向で重なる位置に配置されていることから、軸方向に対向しており、ハウジングへの組み付け時に、補強環がケースの軸方向への過剰な移動を規制する規制部として機能する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例における機器に取り付けられた使用状態における使用長に保持されたメカニカルシール装置を一部切り欠いて示す正面図である。
図2】機器に取り付けられる前の使用前状態(保持状態)における保持長に保持されたメカニカルシール装置を一部切り欠いて示す正面図である。
図3】メイティングリングを示す斜視図である。
図4】ケースを示す斜視図である。
図5】ガスケットを一部切り欠いて示す拡大正面図であり、(a)は膨潤前の状態、(b)は膨潤後の状態を示している。
図6】ガスケットのハウジングへの取り付けを一部切り欠いて示す正面図である。
図7】ガスケットのハウジングへの取り付けが完了した状態を一部切り欠いて示す正面図である。
図8】(a)はガスケットの変形例1を、(b)はガスケットの変形例2を一部切り欠いて示す拡大正面図である。
図9】従来の機器に取り付けられる途中のメカニカルシール装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るメカニカルシール装置を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。本実施例においては、自動車空調用コンプレッサに適用されて冷媒たる炭酸ガス(CO2)をシールする回転型のメカニカルシール装置について説明する。
【実施例】
【0018】
実施例に係るメカニカルシール装置につき、図1から図8を参照して説明する。以下、図1の紙面左、右、上、下側をメカニカルシール装置の左、右、上、下側として説明する。
【0019】
図1、2に示すように、メカニカルシール装置3は、コンプレッサ(機器)のハウジング1(機器)と、ハウジング1の軸孔11を貫通してコンプレッサの内部(機内側)と外部(大気側)に連通するように配置されるシャフト2との間に装着される。シャフト2(機器、回転シャフト)は、大気側においてエンジンのクランク軸からの駆動力が図示せぬ電磁クラッチ等の機構を介して伝達され、これにより回転し、コンプレッサ内部(機内側)の機構を駆動する。
【0020】
メカニカルシール装置3は、ハウジング1に非回転状態に装着される静止側摺動環であるメイティングリング30、シャフト2側に装着されてこのシャフト2と一体的に回転する回転側摺動環であるシールリング40を有する。また、メカニカルシール装置3は、シールリング40をシャフト2に嵌着するための構成として、ケース60、コイルドウェーブスプリング70(弾発部材)、スプリングホルダ71及びOリング80を有する。
【0021】
メイティングリング30とシールリング40とは、シャフト2の軸方向に沿って互いに対向するように配置されており、その対向した端面である摺動面30a、41a同士が密接することにより、被密封流体をシールする。すなわち、機内側の被密封流体が大気側に漏洩、流出しないようにシールされる。
【0022】
ここで、ハウジング1の右側の摺動面30a、41aの外周側の空間が、被密封流体たる炭酸ガス(CO2)が充満する機内側空間Pであり、摺動面30a、41aの内周側からハウジング1の左側に至る空間が大気側(機外)空間Aである(図1)。
【0023】
メイティングリング30のシールリング40側の端面は、シールリング40の摺動面たる環状の摺動突起41の摺動面41aが摺動可能に密接される摺動面30aとして形成されている。メイティングリング30のシールリング40側の端部には、径方向外側に延び周方向に等間隔に3カ所の切欠32が設けられた3カ所のフランジ31が設けられている(図3)。
【0024】
シールリング40のメイティングリング30側の端面には、メイティングリング30方向に突出した環状の摺動突起41が形成されており、摺動突起41の摺動面41aがメイティングリング30の摺動面30aに摺動可能に密接される。シールリング40とメイティングリング30はSiC等のセラミックスにより形成される。また、材料は前述のものに限定されることなく、その他、カーボンや金属等も適用可能であり、前述の材料の組合せも適用可能である。
【0025】
Oリング80は、シールリング40の背面側(メイティングリング30とは反対側の面)の端部の内周面に形成されたOリング装着凹部43に収容された状態で、シールリング40に装着される。シールリング40の背面には、金属板であるスプリングホルダ71が当接配置され、その内径部はシールリング40のOリング装着凹部43の背後を塞ぐように延びている。スプリングホルダ71の背面側には三脚台状の金属板(例えばステンレス鋼板)からなるケース60が配置されている。
【0026】
図4を参照し、ケース60は、中央に嵌合孔62を有する鍔状の底板61、底板61から軸方向に僅かに(コイルドウェーブスプリング70よりも短い。)延びるリブ63、リブ63から軸方向に延びる3本のガイド片64(ガイド部材)、ガイド片64の先端の係合突起66(保持手段としての係合片)から形成されている。ガイド片64の先端の係合突起66は、ガイド片64を径方向内側にプレスすることにより形成されている。このプレスにより係合突起66の突出方向とは反対側に凹部65が形成される。ガイド片64は周方向に均等間隔で形成されており、シールリング40の外周面に同じく均等間隔に形成された切欠42(図2)と係合している。これにより、シールリング40は、シャフト2の軸方向には移動可能な状態となり、周方向(回転方向)には移動不能な状態(一体的に回転する状態)とされる。
【0027】
メカニカルシール装置3を組み立てるには、ケース60内に、コイルドウェーブスプリング70、スプリングホルダ71、Oリング80が装着されたシールリング40を順に収容する。この状態で、ケース60のガイド片64を、メイティングリング30の切欠32の位置に合わせ、コイルドウェーブスプリング70の弾発力に抗しながら軸方向(ケース60の底板61とメイティングリング30とが近づく方向)に押し込み、係合突起66がフランジ31を超えた位置(係合突起66とフランジ31が径方向に見て重複しない位置)でケース60を周方向に60度回転させることにより、係合突起66の係合面66a(右側の面)とフランジ31の被係合面31a(左側)の面が当接させられ、更にメイティングリング30のハウジング1側の端部にカップ形状のガスケット50を取り付けることにより組み立てられる。図2に示されるメカニカルシール装置3が機器に取り付けられる前の状態を保持状態(又は使用前状態)と言う。
【0028】
図1に示されるように、メイティングリング30は、ガスケット50を介在させてハウジング1の軸孔11の機内側開口部に拡径形成された環状凹部12に嵌入されている。図5(a)に示されるように、ガスケット50は、金属製の補強環51が、ゴム製の弾性材52により覆われて形成されている。補強環51は、環状凹部12の軸方向端面12aに対向する円板部51aと、該円板部51aから軸方向に屈曲して延設され、環状凹部12の内側面12bに対向する側壁部51bと、により断面視略L字状に形成されている。
【0029】
弾性材52は、補強環51の円板部51aのハウジング1側から側壁部51bの外径側にかけて面接して配置される環状の第1弾性材52Aと、円板部51aのメイティングリング30側から側壁部51bの内径側にかけて面接して配置される環状の第2弾性材52Bと、から構成されている。
【0030】
第1弾性材52Aのメイティングリング30側の端面53aは、補強環51における側壁部51bのメイティングリング30側の端部51cと径方向に面一となっており、その外径側の一部にシールリング40に対し軸方向反対側に延びる後退面53bが形成されている。この後退面53bは、端面53aから外周面53cにかけて周方向に連続する環状に形成されている。
【0031】
同様に、第2弾性材52Bのメイティングリング30側の端面54aは、補強環51における側壁部51bのメイティングリング30側の端部51cと径方向に面一となっており、その内径側の一部にシールリング40に対し軸方向反対側(すなわちシールリング40より反対側であり、図においてはハウジング1側(円板部51a側))に延びる後退面54bが形成されている。この後退面54bは、端面54aから内周面54cにかけて周方向に連続する環状に形成されている。また、後退面54bは、軸方向に延びる前方面54dと、前方面から斜めに屈曲して内周面に延びるテーパー面54eと、を備えている。
【0032】
第1弾性材52A及び第2弾性材52Bは、ともにゴムにより形成されており、図5(b)に示されるように、ガスケット50に接触する冷媒やオイル等により膨潤する虞があるが、前述したように、第1弾性材52A及び第2弾性材52Bは、それぞれ後退面53b,54bを有しているため、後退面53b,54bが膨潤による膨らみの逃げとして機能する。そのため、第1弾性材52A及び第2弾性材52Bがガイド片64の先端面64aに干渉しづらくなっており、ガスケット50とガイド片64の双方の破損を防止するとともに、シャフト2の回転を阻害しないようになっている。
【0033】
保持状態では、係合突起66の係合面66aとフランジ31の被係合面31aの面が当接し、コイルドウェーブスプリング70が軸方向に保持長に圧縮された状態で介在されており、これによりシールリング40はスプリングホルダ71を介してメイティングリング30に保持圧力で付勢される。すなわち、シールリング40とメイティングリング30とが、コイルドウェーブスプリング70と係合突起66との間に弾発保持されてなる。ここで、保持長はコイルドウェーブスプリング70の自然長よりも短く、図2に示されるメカニカルシール装置3の使用長よりも長い長さである。
【0034】
ついで、図2に示されるメカニカルシール装置3が機器に取り付けられた使用状態について説明する。メイティングリング30は、ガスケット50を介在させてハウジング1の軸孔11の機内側開口部に拡径形成された環状凹部12に嵌入されている。シールリング40は、メイティングリング30よりも機内側に配置され、シャフト2の外周面にOリング80を介在させて軸方向移動可能に嵌合されている。
【0035】
ケース60は底板61の外側面(右面)が、シャフト2の第1の段差部21に当接されることにより、ケース60はシャフト2の軸方向に係止されている。また、ケース60は嵌合孔62の平坦部62aがシャフト2の第1の段差部21の一部に形成された切欠部26と係合するように構成されている(図4)。これによりシャフト2に対して周方向に移動不能に、すなわち、シャフト2の回転に伴ってシャフト2と一体的に回転するように、シャフト2に嵌合されている。
【0036】
ここで、シャフト2は、ケース60の平坦部62aが係合される位置に切欠部26が形成された第1の段差部21(図1)が形成されており、また、シールリング40の内周に対応する位置に第2の段差部22が形成されている。これら第1の段差部21及び第2の段差部22を境として、シャフト2は、第1の段差部21よりも大気側の部分であってハウジング1の軸孔11及びメイティングリング30の内周部へ挿通している小径部23、第1の段差部21と第2の段差部22の間のシールリング40がOリング80を介在させて軸方向移動可能に嵌着されている中径部24、及び第2の段差部22よりも機内側の大径部25により形成されている。これにより、流体圧力がかかるシールリング40の最内径よりもメイティングリング30とシールリング40との摺動面30a、41aの最内径を内径側に配置することができ、バランス形メカニカルシールとして用いることができる。ここで、バランス形とは、摺動面に流体圧力の作用しない面積の部分を持っていて、流体圧力による摺動面への負荷を低減できるシール形式のことを指す。(他に関連するものとして、アンバランス形が挙げられ、これは摺動面に流体圧力が全て作用し、流体圧力による摺動面への負荷を低減できないシール形式のことを指す。)
【0037】
続いて、取り付けについて図6及び図7を用いて説明する。図6に示されるように、保持状態のメカニカルシール装置3のメイティングリング30に取り付けられたガスケット50をハウジング1の軸孔11の環状凹部12に嵌入させて固定し、その後、メカニカルシール装置3にシャフト2を挿入し、設置する。
【0038】
ケース60の平坦部62aを押すことで、メカニカルシール装置3をハウジング1側に移動する。
【0039】
このとき、ガスケット50の外径が環状凹部12の内径と略同径又は若干大きいことから、ガスケット50のハウジング1側の端部50aを環状凹部12の軸方向端面12aに当接させるまで嵌入させるには、ガスケット50を環状凹部12の開口に位置合わせした状態で圧入させる必要がある。ガイド片64の先端面64aとメイティングリング30側の端部(側壁部51bの端部51c)とは径方向で重なる位置に配置されている(図6)ことから、軸方向に対向しており、前述の圧入に伴い、コイルドウェーブスプリング70が圧縮され、ガイド片64の先端面64aがメイティングリング30側の端部に当接する。
【0040】
ガイド片64の先端面64aを側壁部51bの端部51cに当接させた状態で、更にケース60をハウジング1側に押し込むことで、ケース60を押す力が、ガイド片64を介して直接ガスケット50に作用する。このように、ガスケット50は内在する補強環51が押されることでハウジング1に取り付けやすくなっている。
【0041】
そして、ガスケット50のハウジング1側の端部50aを環状凹部12の軸方向端面12aに当接させるまで嵌入させた(図7)後、シャフト2をメカニカルシール装置3に挿入し、図1の状態にする。尚、ガイド片64は、周方向に等配されて配置されていることから、補強環51に均等に軸方向に力を伝達させることができる。また、ガイド片64の先端面64aを側壁部51bの端部51cに当接させた状態で、コイルドウェーブスプリング70が弾性変形領域に圧縮されている構造とすることが好ましい。この構造により、コイルドウェーブスプリング70が密着長となりシールリング40を介してメイティングリング30を押し込むことが無く、過度な応力による破損を抑制できる。
【0042】
メカニカルシール装置3の軸方向の長さは、図1に示される使用状態が図2に示される保持状態よりもLだけ短い長さである。ここで、メカニカルシール装置3の軸方向の長さは、ガスケット50の外側端面(図1、2における左側の端面)とケース60の外側端面(図1、2における右側の端面)の間の長さである。このため、メカニカルシール装置3を機器に取り付けた使用状態では、シールリング40はコイルドウェーブスプリング70からメイティングリング30に図2に示される保持圧力よりも高い使用圧力で付勢される。図1に示される状態では、メイティングリング30とケース60とは係合しておらず、シャフト2の回転を妨げることがない。
【0043】
このような構成により、シールリング40にはコイルドウェーブスプリング70による付勢力がシャフト2の軸方向に与えられ、摺動突起41先端の摺動面41aはメイティングリング30の摺動面30aに適切な使用圧力で押し付けられる。また、シールリング40は、シャフト2からの回転トルクをケース60を介して与えられることとなり、シャフト2と一体的に回転する。この結果、シャフト2の回転に伴って、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとは密接した状態で摺動することとなり、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとの接合により被密封流体をシールする。
【0044】
また、両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aが、メカニカルシール装置3が機器に取り付けられる使用状態(図1)に加え、機器に取り付けられる前の使用前状態(図2)においても両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aがコイルドウェーブスプリング70の弾発力に基づく圧力で互いに接触しているため、メイティングリング30の摺動面30aとシールリング40の摺動面41aとの間に入る塵埃を極力抑制できる。
【0045】
また、使用状態で使用されるコイルドウェーブスプリング70を、機器に取り付けられる前の使用前状態において両リング30、40の軸に垂直な摺動面30a、41aが互いに接触する状態に保持する弾発部材として用いるため、部品の共通化が可能となる。
【0046】
また、係合突起66によりコイルドウェーブスプリング70の弾発力を受けたメイティングリング30の移動を阻止できるようになっている。このため、機器に組み込む際に、ケース60がシャフト2の軸方向からの接続を受けて移動するのみで、メイティングリング30と係合突起66との接触を容易に解くことができる。
【0047】
また、ガスケット50とフランジ31との間に、径方向内向きの係合突起66の好適な待機場所を確保できる。
【0048】
また、フランジ31と係合突起66はいわゆるバヨネット係合により着脱可能となり、簡単な手順によりメイティングリング30とシールリング40とを弾発状態(保持状態)に組み立てることができる。
【0049】
また、メカニカルシール装置3は、各要素それぞれが一体化(ユニット化)されるため、取り扱いが簡素化されるばかりか、取り付け取り外し時の作業の煩雑さが解消される。
【0050】
また、回転不能に固定されるメイティングリング30にフランジ31が設けられるため、軸方向に移動可能かつ回転軸に回転不能に固定されるように構成されたシールリング40の構成を更に複雑にすることがない。
【0051】
また、ガイド片64が回転するシールリング40側に設けられるとともに当該ガイド片64はメイティングリング30とシールリング40との摺動面30a、41aの径方向外側に位置する。このため、使用時に、当該摺動面30a、41aの外側にガイド片64の回転に伴う周方向の流れが生じ、当該周方向の流れが所謂流体カーテンとなって急激な被密封流体の圧力変動等が摺動面30a、41aに作用することを抑制できる。
【0052】
また、後退面53b,54bは周方向に連続する環状に設けられているため、ガイド片64の周方向位置によらず、周方向に渡り後退する量が一定であるので、ガスケット50がケース60に干渉することを効果的に抑制できる。
【0053】
また、補強環51の内外径側の第1弾性材52A及び第2弾性材52Bに、それぞれ後退面53b,54bが形成されていることから、ガイド片64を補強環51に確実に押し当てることができる。
【0054】
また、補強環51とガイド片64とが軸方向に対向配置されていることから、ハウジング1への組み付け時に、補強環51がケース60の軸方向への過剰な移動を規制する規制部として機能している。
【0055】
また、ガスケット50は補強環51を有しているため強度を確保して密封性を高める他に、補強環51を押すことでガスケット50をハウジング1に取り付けやすくなっている。
【0056】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0057】
例えば、上述した実施例では、メカニカルシール装置3として回転型のものについて説明したが、静止型のものであってもよい。例えば、回転軸に回転不能に固定されるメイティングリング側にフランジ等の被係合部を設け、スプリングを介してハウジングに固定されるシールリング側に被係合部に係合する係合部を設ければよい。この場合には、回転側のガイド片を短くできるから、回転側を小型化できる。
【0058】
また、シールリング40とメイティングリング30とを弾発保持する保持部材として、ケース60のガイド片64に設けた係合突起66を例について説明したが、必ずしもケース60に設ける必要はない。要は、シールリング40とメイティングリング30とを弾発保持するものであればよく、例えば外部から着脱可能なクリップであってもよい。この場合には、機器に組み込む途中又は組み込み時にクリップを取り外せばよい。
【0059】
また、軸に垂直な摺動面を有するメイティングリングと、軸方向に移動可能に設けられ、メイティングリングの摺動面と接触する軸に垂直な摺動面を有するシールリングと、前記シールリングを軸方向にガイドするガイド部材と、前記シールリングを前記メイティングリング側に押圧する弾発部材とを備え、前記シールリングと前記メイティングリングとが、前記弾発部材と保持手段との間に弾発保持されるものとしてもよい。両リングの軸に垂直な摺動面が、メカニカルシール装置が機器に取り付けられる使用状態に加え、機器に取り付けられる前の使用前状態においても両リングの軸に垂直な摺動面が弾発部材の弾発力に基づく圧力で互いに接触しているため、メイティングリングの摺動面とシールリングの摺動面との間に入る塵埃を極力抑制できる。
【0060】
また、メカニカルシール装置3が使用される機器として自動車空調用コンプレッサである場合について説明したが、使用される機器は問わない。
【0061】
また、メカニカルシール装置3は、使用前の状態でメイティングリング30のハウジング1側の端部にガスケット50を取り付けておく態様に限らず、例えばハウジングの環状凹部12に予めガスケット50を取り付けた後に、ガスケット50にメイティングリング30の端部を挿入してもよい。
【0062】
また、メカニカルシール装置3は、使用前の状態でケース60の係合突起66と、メイティングリング30のフランジ31とが係合されるような構成に限らず、これらが係合しない構造とし、それぞれ機器に取り付けられてもよい。
【0063】
また、弾性材52に設けられる後退面は、第1弾性材52Aと第2弾性材52Bにそれぞれ設けられていなくてもよく、例えば、第2弾性材52Bにのみ設けられていてもよい。
【0064】
また、弾性材52は、第1弾性材52Aと第2弾性材52Bとに分かれていなくてもよく、例えば補強環51の端部51c側で一体に形成されていてもよい。
【0065】
また、補強環51の構造は上述の構造に限らず、例えば環状凹部12の軸方向端面12aに対向する円板部51aを省略した構成であってもよいし、ガスケット内に複数内在してもよい。
【0066】
また、後退面は補強環51の端部51cよりハウジング1側に位置していれば、後退面の形状も上述の実施形態に限らない。例えば図8(a)に示す変形例1のように、2段階の傾斜面540b,541bを有していてもよいし、図8(b)に示す変形例2のように、後退面が環状ではなく、略半球状の窪み540dを周方向に複数箇所有する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 ハウジング(機器)
2 シャフト(機器、回転シャフト)
3 メカニカルシール装置
30 メイティングリング
30a 摺動面
31 フランジ
32 切欠
40 シールリング
41 摺動突起
41a 摺動面
50 ガスケット
51 補強環
52 弾性材
52A 第1弾性材
52B 第2弾性材
53b 後退面
54b 後退面
60 ケース
61 底板
63 リブ
64 ガイド片(ガイド部材)
66 係合突起(係合片)
66a 係合面
70 コイルドウェーブスプリング(弾発部材)
A 大気側空間
P 機内側空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9