前記第1推定温度、前記第2推定温度、前記対象物の体積に対する前記第1領域の体積の割合、及び前記対象物の体積に対する前記第2領域の体積の割合に基づき、前記対象物の温度履歴を評価するステップをさらに含む
請求項1に記載のシミュレーション方法。
前記対象物の温度履歴を評価するステップでは、前記第1推定温度、前記第2推定温度、前記対象物の体積に対する前記第1領域の体積の割合、及び前記対象物の体積に対する前記第2領域の体積の割合に基づき第3推定温度を演算し、該第3推定温度により前記対象物の温度履歴を評価する
請求項2に記載のシミュレーション方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、対象物の殺菌の観点のみならず殺菌以外の観点でも加熱条件を評価し得るシミュレーション方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるシミュレーション方法は、対象物の加熱条件が設定されるステップと、前記加熱条件に基づき、前記対象物における中心部の温度としての第1推定温度を演算するステップと、前記第1推定温度に基づき、前記対象物における前記中心部の第1領域を囲む第2領域内の温度としての第2推定温度を演算するステップとを含むことを特徴とする。
【0009】
上記シミュレーション方法により演算される第1、第2推定温度は、殺菌の観点や殺菌以外の観点で加熱条件を評価する際に用いられる。第1推定温度は、対象物の中心部の推定温度であるため、殺菌の観点で加熱条件を評価する際の指標に適している。一方、第2推定温度は、対象物における中心部の領域を囲む領域内の温度であるため、殺菌以外の観点で加熱条件を評価する際の指標として好ましい。このように、上記シミュレーション方法により、対象物の殺菌のみならず殺菌以外の観点でも加熱条件をより正確に評価することができる。
【0010】
本発明にかかるシミュレーション方法の一態様として、前記第1推定温度、前記第2推定温度、前記対象物の体積に対する前記第1領域の体積の割合、及び前記対象物の体積に対する前記第2領域の体積の割合に基づき、前記対象物の温度履歴を評価するステップをさらに含んでもよい。
【0011】
上記シミュレーション方法において、対象物の体積に対する第1、第2領域の体積の割合を考慮することで、より正確に(対象物の実物の温度に近似した値で)温度を求めることができ、加熱条件をより正確に評価することができる。
【0012】
本発明にかかるシミュレーション方法の一態様として、前記対象物の温度履歴を評価するステップでは、前記第1推定温度、前記第2推定温度、前記対象物の体積に対する前記第1領域の体積の割合、及び前記対象物の体積に対する前記第2領域の体積の割合に基づき第3推定温度を演算し、該第3推定温度により前記対象物の温度履歴を評価してもよい。
【0013】
上記シミュレーション方法において、第3推定温度という一つの温度を用いることで、第1、第2推定温度という複数の温度を用いる場合よりも、加熱条件をより簡単に評価することができる。
【0014】
本発明にかかるシミュレーション方法の一態様として、前記加熱条件は、雰囲気温度と前記対象物の加熱時間とを含み、前記第2推定温度は、前記対象物における前記第1推定温度と前記雰囲気温度との平均値であってもよい。
【0015】
上記シミュレーション方法において、第2推定温度は、第1推定温度と雰囲気温度との平均値であるため、熱収支等の複雑な関係式を用いて演算される場合よりも、より簡単に演算される。
【0016】
本発明にかかるシミュレーションプログラムは、演算装置に、加熱対象物の推定温度の演算を実行させるためのシミュレーションプログラムであって、演算装置に、対象物の加熱条件の設定を受け付けるステップと、前記加熱条件に基づき、前記対象物における中心部の温度としての第1推定温度を演算するステップと、前記第1推定温度に基づき、前記対象物における前記中心部の第1領域を囲む第2領域内の温度としての第2推定温度を演算するステップとを実行させることを特徴とする。
【0017】
第1推定温度は、対象物の中心部の推定温度であるため、殺菌の観点で加熱条件を評価する際の指標に適しており、第2推定温度は、対象物における中心部の領域を囲む領域の温度であるため、殺菌以外の観点で加熱条件を評価する際の指標として好ましい。このように、上記シミュレーションプログラムにより、殺菌のみならず殺菌以外の観点でも加熱条件を評価することができる。
【0018】
本発明にかかるシミュレーション装置は、上記シミュレーションプログラムを内蔵した記憶媒体を含み、前記シミュレーションプログラムを演算装置が実行させることを特徴とする。
【0019】
第1推定温度は、対象物の中心部の推定温度であるため、殺菌の観点で加熱条件を評価する際の指標に適しており、第2推定温度は、対象物における中心部の領域を囲む領域の温度であるため、殺菌以外の観点で加熱条件を評価する際の指標として好ましい。このように、上記シミュレーション装置により、殺菌のみならず殺菌以外の観点でも加熱条件を評価することができる
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、対象物の殺菌の観点のみならず殺菌以外の観点でも加熱条件を評価し得るシミュレーション方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のシミュレーション方法について、添付図面を参酌して説明する。本実施形態のシミュレーション方法は、
図1のフローチャート図に示すように、対象物の各種条件又は物性がシミュレーション装置に設定されるステップ(S01)と、加熱条件がシミュレーション装置に設定されるステップ(S02)と、シミュレーション装置が第1推定温度T
1nを演算するステップ(S03)と、シミュレーション装置が第2推定温度T
2nを演算するステップ(S04)と、シミュレーション装置が第3推定温度T
3nを演算するステップ(S05)とを含む。本実施形態のシミュレーション方法は、シミュレーション方法を実施できるプログラムを内蔵した記憶媒体と、プログラムを実行させる演算装置(CPU)とを含むシミュレーション装置で実施される。シミュレーションの結果は、例えば、シミュレーション装置に設けられたディスプレイに表示されるとともに、メモリーカードに保存される。以下、本実施形態のシミュレーション方法に含まれる各ステップについて、順に説明する。なお、本実施形態では、対象物の中心部の温度を演算する方法として、ATS法(Ambient Temperature Slide method)を採用した場合について説明する。
【0023】
そこで、まず、ATS法の概略について説明する。ATS法では、雰囲気からの伝熱により対象物の温度が上昇することを前提とする。また、「雰囲気が対象物に与える熱量」と「対象物が雰囲気から受け取る熱量」とが一致することを前提として計算が行われる。ここで、単位時間をΔtとし、対象物の中心点を中心点Pとし、雰囲気温度及び対象物の中心点温度をそれぞれT
wn、T
pnとし(下添え字nは時間刻みのn番目を示す)、対象物の表面温度が雰囲気温度T
wnと一致することとし、対象物の内部の温度勾配を直線とし、対象物の表面から中心点までの距離をLとし、対象物の熱伝導率をkとし、対象物の表面積をAとすると、単位時間当たりに「雰囲気が対象物に与える熱量」即ち下記式の左辺が得られる。
【0024】
また、対象物の体積をVとし、対象物の密度をρとし、対象物の比熱をc
pとし、中心点温度T
pnは体積平均温度T
p*nと一致するものとすると、単位時間当たりに「対象物が雰囲気から受け取る熱量」即ち下記式の右辺が得られる。
kA(T
wn−1−T
pn−1)Δt/L=Vρc
p(T
p*n−T
p*n−1)
【0025】
上記式においてk/(ρc
p)を熱拡散係数αとして整理すると、下記式が得られる。
T
p*n=T
p*n−1+αΔt(T
wn−1−T
pn−1)/L
2
【0026】
実際には、中心点温度T
pnは体積平均温度T
p*nと異なるため、中心点温度T
pnと体積平均温度T
p*nとのずれ率βを用いて、T
pn=T
p*nβとすると、下記式が得られる。
T
pn=T
pn−1+αβΔt(T
wn−1−T
pn−1)/L
2
【0027】
さらに、αβΔt/L
2を伝熱係数τとすると、下記式が得られる。下記式では、単位時間あたりに、対象物の表面温度T
wn−1と中心点温度T
pn−1との差分に伝熱係数τを乗じた分だけ、中心点温度が上昇することが表されている。
T
pn=T
pn−1+τ(T
wn−1−T
pn−1)
【0028】
ところが、実際の対象物では表面と中心点とが離れているため、中心点の温度変化が表面の温度変化よりも遅れるが、この遅れは上記式に反映されていない。これに対して、上記式において、表面温度として、雰囲気温度T
wn−1の代わりに、雰囲気温度T
wn−1の時間変化をδ
1だけ遅らせた仮想的な雰囲気温度T
w†n−1を用いると、下記式が得られる。
T
pn=T
pn−1+τ(T
w†n−1−T
pn−1)
【0029】
従って、ATS法を採用する場合には、ステップS01において、例えば、ユーザーの入力により、伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1がシミュレーション装置に設定される。伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1は、対象物を構成する材料や対象物の形状により異なる。ユーザーは、対象物の伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1のデータを所持している場合、このデータをシミュレーション装置に入力する。ユーザーは、対象物の伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1のデータを所持していない場合、伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1を求め、これをシミュレーション装置に入力する。伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1を求めるには、ユーザーが、適当な伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1を予測し、この予測値に基づきATS法により第1推定温度T
1nを演算し、この第1推定温度T
1nと実測温度とを比較して、伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1の予測値を調整し、調整した伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1に基づき第1推定温度T
1nを再度演算し、実測温度に近づくまでこれを繰り返すことにより適切な伝熱係数τ及び遅れ時間δ
1を求めることができる。即ち、トライアルアンドエラーの手法を採用し得る。なお、対象物の実測温度は、例えば、サーミスタのような温度検出センサーを用いて測定される。
【0030】
例えば、伝熱係数τが不明である場合、予測した伝熱係数τ’
1に基づき第1推定温度T’
1nを演算し、第1推定温度T’
1nと実測温度との差を計算する。第1推定温度T’
1nと実測温度との差が、所望の値以下である場合、伝熱係数τ’
1をシミュレーション装置に入力する。
【0031】
第1推定温度T’
1nと実測温度との差が所望の値よりも大きい場合、伝熱係数τ’
1に近い四つの伝熱係数τ’’
1…を予測し、四つの伝熱係数τ’’
1…各々に基づき第1推定温度T’’
1n…を演算し、四つの第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差を計算する。
【0032】
第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差の最小値が、第1推定温度T’
1nと実測温度との差よりも小さく、且つ、所望の値よりも小さい場合、第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差の最小値の演算に用いた伝熱係数τ’’
1をシミュレーション装置に入力する。
【0033】
第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差の最小値が、第1推定温度T’
1nと実測温度との差よりも小さく、且つ、所望の値よりも大きい場合、第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差の最小値の演算に用いた伝熱係数τ’’
1に近い四つの伝熱係数τ’’’
1…を予測し、四つの伝熱係数τ’’’
1…各々に基づき第1推定温度T’’’
1n…を演算する等の一連の計算を繰り返す。
【0034】
第1推定温度T’’
1n…と実測温度との差の最小値が、第1推定温度T’
1nと実測温度との差よりも大きい場合、伝熱係数τ’
1にさらに近似した四つの伝熱係数τ’’’
1…を予測し、四つの伝熱係数τ’’’
1…各々に基づき第1推定温度T’’’
1n…を演算する等の一連の計算を繰り返す、又は、伝熱係数τ’
1をシミュレーション装置に入力する。
【0035】
ステップS02では、例えば、ユーザーの入力により、シミュレーション装置に対象物の加熱条件が設定される。加熱条件は、例えば、雰囲気温度T
wn及び加熱時間である。
【0036】
ステップS03では、シミュレーション装置が、ステップS01及びステップS02において設定された各種条件に基づき、対象物における中心部の温度である第1推定温度T
1nを演算する。ここでいう「対象物における中心部」として、対象物の中心点P又はその近傍を採用し得るが、本実施形態では、対象物の中心点Pを採用する。この場合、第1推定温度T
1として、対象物の中心点温度T
pnが用いられる。なお、対象物の中心点Pとして、対象物の質量中心、即ち、対象物の重心を採用し得る。対象物の重心の位置は、公知の方法により求めることができる。
【0037】
中心点温度T
pnは、上述したように、ATS法で導出される下記式により演算される。
T
pn=T
pn−1+τ(T
w†n−1−T
pn−1)
【0038】
ステップS04では、シミュレーション装置が、第1推定温度T
1n及び雰囲気温度T
wnに基づき、前記第2領域内の温度としての第2推定温度T
2nを演算する。本実施形態では、第2推定温度T
2nは、中心点温度T
pn(第1推定温度T
1nに相当)及び雰囲気温度T
wnの単純平均値として表され、具体的には、下記式により演算される。
T
2n=(T
pn+T
Wn)/2
【0039】
ステップS05では、シミュレーション装置が、第1推定温度T
1n、第2推定温度T
2n、対象物100の体積に対する第1領域AR1の体積V
AR1の割合、及び対象物100の体積に対する第2領域AR2の体積V
AR2の割合に基づいて、第3推定温度T
3nを演算する。具体的には、第3推定温度T
3nは、第1領域AR1と第2領域AR2との体積平均温度T
p*nとして演算される。第1推定温度T
1nとしては、上述したように、中心点温度T
pnが用いられる。第2推定温度T
2nとしては、上述したように、中心点温度T
pn及び雰囲気温度T
wnの単純平均値が用いられる。これにより、体積平均温度T
p*nは、下記式により、中心点温度T
pn及び雰囲気温度T
wnに基づき演算される。
T
p*n=0.296T
pn+0.704(T
wn+T
pn)/2
【0040】
対象物の形状としては、立方体形状、直方体形状、その他の形状が考えられるが、本実施形態では、対象物の形状が、
図2に示すような立方体形状であると仮定する。対象物100は、対象物100の中心部の領域である第1領域AR1と、第1領域AR1を囲む第2領域AR2とを含む。第1領域AR1が中心部の領域であれば、対象物をどのように二分割してもよいが、本実施形態では、対象物100を中心部分と表層部分とに二分割し、中心部分を第1領域AR1とし、表層部分を第2領域AR2としている。
【0041】
上記式の導出は、以下のように行う。対象物100における一辺の長さは、
図2に示すように、何れもL
1とする。これにより、対象物100の体積VはL
13と表され、対象物100の表面積Aは6L
12と表される。ここで、第1領域AR1の表面から第2領域AR2の表面までの距離をL
2とすると、距離L
2は対象物100における表層厚み(V/A)と一致するため、距離L
2は下記のように演算される。
L
2=V/A=L
1/6
【0042】
この場合、第1領域AR1の体積V
AR1は、下記のように演算される。
V
AR1=(L
1−2・L
2)
3=(2/3)
3L
13
【0043】
一方、体積平均温度T
p*nは、中心点温度T
pnに、対象物100の体積Vに対する第1領域AR1の体積V
AR1の比率を乗じたものと、中心点温度T
pn及び雰囲気温度T
wnの単純平均値に、対象物100の体積Vに対する第2領域AR2の体積V
AR2の比率を乗じたものとを足し合わせることで得られる。具体的には、体積平均温度T
p*nは、下記式により演算される。
T
p*n=T
pn・V
AR1/V+((T
wn+T
pn)/2)・(V−V
AR1)/V
上記式に、V
AR1=(2/3)
3L
13、及び、V=L
13を代入することで、体積平均温度T
p*nを演算する下記式が得られる。
T
p*n=(2/3)
3T
pn+(1−(2/3)
3)・(T
wn+T
pn)/2
上記式における数値を、小数点第4位で四捨五入すると下記式が得られる。
T
p*n=0.296T
pn+0.704(T
wn+T
pn)/2
【0044】
このように、本実施形態に係るシミュレーション方法を実施することで、第1、第2、第3推定温度を演算することができる。演算された第1、第2、第3推定温度は、例えば、対象物がレトルト食品である場合、この食品の加熱条件を、殺菌の観点等の複数の観点で評価する場合の指標として用いられる。以下、殺菌の観点及びたんぱく質の分解の観点という2つの観点で、第1、第2、第3推定温度を指標として、食品の加熱条件を評価する場合について説明する。
【0045】
特定の加熱条件が食品の殺菌の観点で適切か否かは、一般に、加熱時の食品の温度履歴が、殺菌評価積算値であるF値を満たすか否かで評価される。また、殺菌の観点では、最も殺菌されにくい食品の中心部の温度を評価することが好ましい。そのため、殺菌の観点で加熱条件を評価するには、第1推定温度T
1nから第1推定温度履歴T
1を求めて、この第1推定温度履歴T
1が定められたF値に相当するか否かを評価する。
【0046】
特定の加熱条件がたんぱく質の分解の観点で適切か否かは、例えば、加熱時の食品の温度履歴が、温度と時間との関係で表されるたんぱく質分解評価積算値であるC値を満たすか否かで評価される。また、たんぱく質の分解の観点では、加熱中の食品全体の温度を評価することが好ましい。そのため、たんぱく質の分解の観点で加熱条件を評価するには、第3推定温度T
3nから第3推定温度履歴T
3を求めて、この第3推定温度履歴T
3が定められたC値を満たすか否かを評価する。
【0047】
このように、殺菌の観点で加熱条件を評価する際には、第1推定温度T
1nが指標として用いられ、たんぱく質の分解の観点で加熱条件を評価する際には、第3推定温度T
3nが指標として用いられる。以下、本実施形態の効果をまとめて説明する。
【0048】
本実施形態のシミュレーション方法により演算される第1推定温度T
1nは、上述のように、殺菌の観点で加熱条件を評価する際の指標に適している。一方、第2推定温度T
2nは、対象物における中心部の領域を囲む領域内の温度であるため、殺菌以外の観点で加熱条件を評価する際の指標として好ましい。このように、本実施形態のシミュレーション方法により、対象物の殺菌のみならず殺菌以外の観点でもより正確に加熱条件を評価することができる。
【0049】
本実施形態のシミュレーション方法において、対象物100の体積Vに対する第1、第2領域AR1、AR2の体積V
AR1、V
AR2の割合を考慮することで、より正確に(対象物100の温度に近似した値で)温度を求めることができ、加熱条件をより正確に評価することができる。
【0050】
第3推定温度T
3nという一つの温度を用いることで、第1、第2推定温度T
1n、T
2nという複数の温度を用いる場合よりも、加熱条件をより簡単に評価することができる。
【0051】
第2推定温度T
2nは、第1推定温度T
1nと雰囲気温度T
wnとの平均値として算出されることにより、熱収支等の複雑な関係式等を用いて演算される場合よりも、より簡単に演算される。
【0052】
なお、本発明のシミュレーション方法は、上記実施形態の方法に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
上記実施形態では、対象物の形状が立方体形状であると仮定したが、これに限定されない。例えば、対象物の形状が直方体形状、円柱形状や球形状等その他の形状である仮定してもよい。
図3に示すように、対象物200の形状が直方体形状であると仮定すると、以下のように、中心点温度T
pn及び雰囲気温度T
wnに基づく体積平均温度T
p*n、即ち、第3推定温度T
3nを演算することができる。
【0054】
対象物200が、中心部の領域である第1領域AR1と、第1領域AR1を囲む第2領域AR2とを含むものとする。第2領域AR2は、対象物200における表層部分とする。対象物200において、底面の短辺の長さをw
aとし、底面の長辺の長さをw
bとし、高さをHとする。この場合、対象物200の体積VはV=w
a・w
b・Hで表される。また、対象物200の表面積Aは、2(w
a・w
b+w
a・H+w
b・H)で表される。一方、第1領域AR1の表面から第2領域AR2の表面までの距離L
2とすると、第1領域AR1の体積V
AR1は、下記式で表される。
V
AR1=(w
a−2L
2)・(w
b−2L
2)・(H−2L
2)
【0055】
距離L
2としては表層厚み(V/A)を採用できるため、距離L
2は下記式により演算される。
L
2=V/A=w
a・w
b・H/(w
a・w
b+w
a・H+w
b・H)
【0056】
さらに、体積平均温度T
p*nは下記式で表される。
T
p*n=T
pn・V
AR1/V+((T
wn+T
pn)/2)・(V−V
AR1)/V
【0057】
上記式に、体積V及び体積V
AR1の数値を代入することで、中心点温度T
pn及び雰囲気温度T
wnに基づき、体積平均温度T
p*nが演算される。
【0058】
このように、体積平均温度T
p*n、即ち、第3推定温度T
3nを求めることで、対象物200の形状により適した推定温度が演算される。
【0059】
また、上記実施形態では、第2推定温度T
2nとして、中心点温度T
pnと雰囲気温度T
wnとの単純平均値を用いていたが、これに限定されない。例えば、第2推定温度T
2nとして、別の平均値を用いてもよい。具体的には、第2推定温度T
2nとして、第2領域内の温度勾配を考慮した平均値、第2領域内の形状や比熱を考慮した平均値、第2領域を任意に二分割しこれらの体積を考慮した平均値等を用いてもよい。第2推定温度T
2nとして、このような平均値を用いることで、対象物の実物の温度により近似した温度を得ることができる。
【0060】
上記実施形態では、第3推定温度T
3nを演算し、この第3推定温度T
3nから求めた第3推定温度履歴T
3を指標として、殺菌以外の観点で加熱条件を評価していたが、これに限定されない。例えば、第3推定温度T
3nを演算せず、第1推定温度T
1n及び第2推定温度T
2nを指標として、殺菌以外の観点で加熱条件を評価してもよい。第1推定温度T
1n及び第2推定温度T
2nを指標とすれば、第3推定温度を指標する場合よりも、第1、第2領域の温度履歴をそれぞれ個別に評価できるため、対象物の実物の温度履歴に近似したより正確な加熱条件の評価が可能となる。
【0061】
上記実施形態では、対象物を二分割して第3推定温度を演算していたが、これに限定されない。例えば、対象物を三以上の複数の領域に分割し、それぞれの領域における推定温度を演算してもよい。また、各推定温度から求めた推定温度履歴を指標として加熱条件を評価してもよい。三以上の複数の領域の各々における推定温度履歴を指標とすることで、対象物の温度履歴により適した加熱条件の評価が可能となる。
【0062】
上記実施形態では、第1推定温度をATS法により演算したが、これに限定されない。例えば、Ballの数式法等の別の方法によって、第1推定温度を演算してもよい。
【0063】
上記実施形態のシミュレーション装置は、対象物を加熱する装置と別の装置であってもよいし、対象物を加熱する装置に組み込まれていてもよい。
【0064】
上記実施形態では、対象物はレトルト食品であったが、これに限定されない。例えば、缶詰等の他の包装食品や食品以外のもの、例えば、医薬品、注射器などの医療機器等であってもよい。
【0065】
上記実施形態では、対象物は食品であり、対象物を加熱する際の加熱条件を、殺菌とたんぱく質の分解との2つの観点で評価したが、これに限定されない。例えば、対象物が食品である場合、殺菌以外の評価の観点として、ビタミンの分解、酵素の分解、テクスチャーや色の劣化などが挙げられる。また、対象物が医薬品や医療機器等である場合、殺菌以外の評価の観点として、医薬品に含まれる成分や医療機器を構成する材料の変質が挙げられる。