特開2017-216941(P2017-216941A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017216941-皮膚状態の診断方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-216941(P2017-216941A)
(43)【公開日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】皮膚状態の診断方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/37 20060101AFI20171117BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20171117BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20171117BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
   C12Q1/37
   G01N33/68
   G01N33/50 Q
   A61B5/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-114059(P2016-114059)
(22)【出願日】2016年6月8日
(71)【出願人】
【識別番号】504401994
【氏名又は名称】株式会社セプテム総研
(74)【代理人】
【識別番号】100106817
【弁理士】
【氏名又は名称】鷹野 みふね
(72)【発明者】
【氏名】石神 政道
(72)【発明者】
【氏名】森 亮太
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C117
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA25
2G045BA13
2G045BB03
2G045CB09
2G045DA20
2G045DB22
2G045FA19
2G045FA29
2G045FB11
2G045GC10
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ36
4C117XA02
4C117XB13
4C117XD05
4C117XE03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】従来の見た目で判断したり、肌のシワやキメの状態あるいは肌荒れの観察、肌の水分量やメラニン量の測定などを機器を用いた分析方法で評価したりしていた肌年齢の評価方法に比べ、非浸襲的・簡便な方法で、より定量的に肌年齢を測定し、皮膚状態、特に肌年齢を明確かつ正確に診断する方法の提供。
【解決手段】角層チェッカー等を用いて非侵襲的に安全・簡便に皮膚角層を採取し、当該皮膚角層中の酸化蛋白質分解酵素(OPH)活性を、アシルアミノ酸遊離酵素(AARE)を用いた検量線により求めるなどの方法で測定することにより、皮膚状態を診断する肌年齢の診断方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚角層中のOPH活性を測定する工程を含む、皮膚状態の診断方法。
【請求項2】
肌年齢の診断方法である、請求項1記載の診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化蛋白質を分解する生体内酵素である酸化蛋白質分解酵素(oxidized protein hydrolase:OPH)の作用を活用して、皮膚状態を診断する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内での蛋白質糖化反応が皮膚老化、認知症、癌、高血圧、動脈硬化症などの加齢による機能低下や疾病に関与していることが明らかになっている。例えば、糖化反応により蛋白質は褐変化するが、これにより肌などにくすみが生じることになる。このような加齢により生じる疾病や機能低下をもたらす要因となる蛋白質の糖化反応を抑制するための研究が種々行われている(特許文献1)。
【0003】
また、加齢による疾病や機能低下をもたらす他の要因として、蛋白質の酸化反応も注目されている。生体内における蛋白質の酸化反応がもたらす細胞や組織への影響としては、例えば、組織コラーゲンなどの加齢変化、アルツハイマー病、白内障、皮膚老化などさまざまな疾患や機能低下が挙げられる。
【0004】
生体内において蛋白質の酸化反応により生成される酸化蛋白質は、酸化蛋白質分解酵素(oxidized protein hydrolase:以下、OPHと記す)という生体内酵素により分解除去される。OPHは生体組織中に広く分布し、酸化蛋白質を優先的に分解するセリンプロテアーゼの一種であり、蛋白質のN末端アシル化アミノ酸を遊離する酵素であるアシルアミノ酸遊離酵素(Acylamino-acid-releasing enzyme:AARE)として知られている。
【0005】
OPHは加齢とともにその生体内活性の低下が示唆されており、その活性低下が上記のような皮膚老化や疾病などをもたらす一因と考えられている。そこで、疾患や老化を予防するためにOPHの活性を促進させる作用物質についての研究がなされている(特許文献2)。
【0006】
一方、皮膚の老化の度合いは実際の年齢と必ずしも一致せず、乖離して進むことがある。例えば実際の年齢より若々しい肌をしている人もいれば、肌の老化が進んで実際より老けて見える人もいる。そして、このような肌の老化を防ぐため多種類のスキンケア化粧品が開発されている。
【0007】
しかしながら、肌年齢を正確に測定することは案外に難しく、肌のつややシワ、肌表面の粗さ、たるみなど見た目に依存するところが大きい。そのため、スキンケア化粧品を選ぶときの基準があいまいになり、誤った選択に気づかない人も多い。そこで、実際の年齢と必ずしも一致しない肌年齢や肌の健康状態を正確に把握する方法の開発が望まれている。
【0008】
これまでは、レプリカ採取によるしわやキメの評価、マイクロスコープによる観察、キュートメーターによる肌弾力の測定など、機器を用いて客観的な評価を行うためのさまざまな方法が提案されている。しかしながらこれら機器測定法は煩雑であるばかりでなく、肌年齢を的確に測定するには、外観変化に基づく評価だけでは不十分であり、生化学的な加齢変化を調べることが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4195840号公報
【特許文献2】国際公開番号WO2011/004733
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のように、肌老化度を的確に測定するには外観変化に基づく評価だけでは不十分であり、また機器を使った評価は簡便ではない。そこで、生化学的な加齢変化を簡易的に調べる方法の開発が求められている。こうした技術的背景のもと、本発明者らは先に皮膚角層中にOPH活性が存在しているという知見を得た。本発明は、かかる皮膚角層中のOPH活性を用いた新しい皮膚状態の診断方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、非侵襲的に安全・簡便に角層採取ができる角層チェッカーを用いるなどの方法によって、皮膚角層中OPH活性を測定することにより様々な皮膚状態を診断しうることを見いだし、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、本発明は、以下に示す皮膚状態の診断方法に関する。
1)皮膚角層中のOPH活性を測定する工程を含む、皮膚状態の診断方法。
2)肌年齢の診断方法である、1)記載の診断方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の皮膚角層中のOPH活性を活用した皮膚状態の診断方法によれば、これまで肌の見た目で判断していた肌年齢を、非浸襲的・簡便な方法で測定することができる。また、従来の肌の見た目年齢を評価する方法に比べて、より定量的に肌年齢を測定することができ、皮膚状態を明確かつ正確に診断することが可能となる。そのため、その人の実際の皮膚状態に合った適切なスキンケア化粧品を選ぶための基準として活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】年齢とOPH活性との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の皮膚状態の診断方法は、皮膚角層中のOPH活性を測定する工程を含む。
OPH活性とは、酸化蛋白質分解酵素(oxidized protein hydrolase:OPH)の作用である。OPHは生体組織中に広く分布するが、このたび皮膚角層中にも存在することが明らかとなった。
【0016】
皮膚角層中のOPH活性の具体的な測定方法としては、例えばアシルアミノ酸遊離酵素(Acylamino-acid-releasing enzyme:AARE)を用いた検量線により求めることができる。また、そのほかに、人工的に糖化させた蛋白質の蛍光強度の減少を測定するという方法によって求めることができる。
また、皮膚角層は、非侵襲的に安全・簡便に角層採取ができる角層チェッカーを用いることができる。
【0017】
本発明によれば、皮膚角質層中のOPH活性は肌年齢と良好な相関を有する。よって、これまで肌の見た目で判断していた肌年齢を、非浸襲的・簡便な方法で測定することができる。また、従来の肌の見た目年齢を評価する方法(肌のシワやキメの状態あるいは肌荒れの観察、肌の水分量やメラニン量の測定など)に比べて、より定量的に肌年齢を測定することができ、皮膚状態を明確かつ正確に診断することが可能となる。
【実施例】
【0018】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0019】
<実施例1>(年齢と皮膚角層中のOPH活性との関係)
(1)皮膚角層の採取
パネラー53名について、以下に示す方法でヒト皮膚角層のサンプルを採取した。
1)メーク落としシート(製造元;株式会社コーセー)を用いて、右頬部を洗浄した。
2)精製水を含ませたコットンを用いて、メーク落としシートで洗浄した前記右頬部(以下、「前記右頬部」という)を再度拭き取った。
3)角層チェッカー(アサヒバイオメッド製)を用いて、前記右頬部の皮膚角層サンプルを採取した。すなわち、前記角層チェッカー(粘着シート;2.5cm×2.5cm/1箇所)を前記右頬部の任意の2箇所に貼り付けて剥がし、それを3回繰り返して2箇所×3枚(計6枚)の皮膚角層サンプルを採取した。
【0020】
(2)OPH活性の測定
上で得られた各パネラーのヒト皮膚角層抽出液について、OPH(酸化蛋白分解酵素)活性を、以下の方法で測定した。
【0021】
実施例1に記載した方法にて採取したスキンチェッカー(皮膚角層)の2層目の角層の半分(2.5cm×1.25cm)とφ4mmのステンレスビーズ1個を2mLスクリューキャップチューブに入れ、氷冷したTritonX-100を0.025%濃度の0.1M−リン酸バッファー(pH7.4)溶液を300μL加えた。ビーズ破砕機(タイテック(株)製、商品名「μT−12」)にて3,000rpnで5分間抽出した。その後遠心分離(4℃、10,000rpm、5分)し、上清をヒト皮膚角層抽出液とした。
【0022】
96穴マイクロプレート(透明)に、前記ヒト皮膚角層抽出液;100μLを、次いで1mM−AAPA(acetyl-L-alanine p-nitroaniline)0.1M−Tris-HClバッファー(pH7.4)溶液(少量のDMSOにてAAPAを溶解);50μLを注入し、37℃で120分間インキュベートした。インキュベート前後における、Abs.405nmでの吸光度を測定した。
【0023】
またヒト皮膚角層抽出液について、400μLをスクリューキャップチューブに採取した後100℃にて乾燥させ、8MのKOHを400μL加えて100℃で8時間インキュベートした。
【0024】
所定時間経過後、5MのHClを600μL添加してボルテックスミキサーにて完全に混合させた後、4℃,10,000rpmにて5分間遠心分離をした。この上澄み100μLに対してOPA(o-phthalaldehyde)溶液を50μL加えて混合し、蛍光強度(Ex:340nm/Em:450nm)を測定してタンパク量を算出した。単位タンパクあたり、1時間あたりのpNA(p-nitroaniline)の生成量を酵素活性(OPH活性)とした。
【0025】
各パネラーの年齢とOPH活性の測定結果を表1に示す。また、各パネラーの年齢とOPH活性(単位;pNA(pmol/h/μg protein)との関係を表すグラフを図1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
上記結果より、皮膚角質層中のOPH活性は年齢とある程度の相関関係を示すことがわかる。
【0028】
<実施例2>(肌の見た目年齢とOPH活性との関係)
(1)肌の見た目年齢の評価
パネラー3名[A(年齢;64歳男性)、B(年齢;62歳男性)、C(年齢;48歳男性)]について、従来の肌の見た目年齢の評価方法として多く採用されている方法で肌の見た目年齢を評価した。具体的には、各パネラーについて以下の各項目に関する評価を行った。
【0029】
1)レプリカによるシワ個数(右目尻)とキメ個数(右目尻下)
2)肌水分量(右頬)
3)肌表面の粗さ(右頬及び右目尻の2箇所)
4)メラニン量(右頬及び右目尻の2箇所)
【0030】
上記各評価項目について、具体的な評価方法は以下の通りである。
[レプリカによるシワ個数とキメ個数の測定]
シリコーンラバーを用いて皮膚表面のレプリカを採取し、これに角度30度の平行光を照射し撮像して得られる陰影画像を基にして、皮膚の三次元形状を解析した。すなわち、前記平行光を照射して得られるシワ、キメ等の形状に応じた陰影画像をCCDカメラで撮像し、コンピュータに取り込んで画像処理し、シワ・キメ等の形状及び定量解析を行った。解析には、反射用レプリカ3D解析システム「ASA-03RXD」(アサヒバイオメド株式会社製)を用いた。
【0031】
なお、「キメ」とは、ヒトの肌表面に本来存在する「皮溝」とよばれる溝と、その溝に囲まれ隆起した「皮丘」とからなる網目構造である。若く状態の良い肌で肌年齢が低いほど、「皮溝」と「皮丘」がはっきりしていて網目構造が細かく明確に観察される。一方、年齢を重ねたり肌荒れを起こしたりして肌年齢が高くなった肌では、「皮溝」「皮丘」がはっきりしなくなり、肌表面がのっぺりとして網目構造が大きくなると同時にゆるく不明瞭になる。「キメ個数」は一定面積当りの「キメ」の数を表しており、肌年齢が高いほどキメ個数が減少する。
【0032】
なお、「シワ」とは、上述した皮溝とは異なり、加齢や紫外線、乾燥等により後天的に生じる皮膚の表皮から真皮にまで及ぶ変形をいい、上記「キメ」と明確に区別される。
上記の方法で求められた一定面積あたりのシワの個数は、少ないほどシワの数が少なく、肌の見た目(見た目の肌年齢)が若いことを示している。また、一定面積あたりのキメの個数は、大きい程キメの数が多く、見た目の肌年齢が若いことを示している。
【0033】
[肌水分量]
定圧センサープローブ接触高周波コンダクタンス交換方法(測定装置;商品名「SKICON-200EX」、株式会社ヤヨイ製)を用い、高周波正弦電流を用いて皮表の角層の水分を測定した。なお、測定条件としては、周波数;3.5MHz、時間;5秒程(安定するまで)、伝導度;0〜2000μSである。このようにして得られた肌の水分量は、数値が高い程水分量が多く、肌の見た目(見た目の肌年齢)が若いことを示している。
【0034】
「肌表面の粗さ・メラニン量]
肌表面を3Dで特定波長の光を照射して撮影し画像処理することで、肌表面の粗さ(凹凸度合い)やメラニン量を測定した(測定装置;商品名「ANTERA3D」、ガデリウスメディカル株式会社製)。
このようにして得られた肌表面の粗さ(凹凸度合い)は、数値が少ない程肌が滑らかであり、見た目の肌年齢が若いことを示している。また、肌表面のメラニン量は数値が少ない程メラニンが少なく、見た目の肌年齢が若いことを示している。
【0035】
上記各パネラー(A、B、C)については、実施例1と同様の方法で右頬のOPH活性を測定した。各パネラーの評価結果及びOPH測定結果を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2から、実年齢が近いパネラーAとBを比較すると、実年齢がほぼ同じなのに対し、従来の機器による肌の見た目年齢の評価方法での評価と同様、OPH活性が高い程肌の見た目年齢も高いことがわかる。またパネラーBとCを比較すると、OPHの活性がより高い程見た目年齢も若くなることがわかる。OPH活性は機器による肌の見た目年齢の評価法に新たな生化学的視点を加えるとともに、簡易的に肌の見た目年齢を評価する方法として有用である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、ヒト皮膚角層中のOPH活性を測定することにより、実際の年齢と必ずしも一致しない肌年齢や肌の健康状態を非侵襲的且つより簡便な方法で、より明確に把握することができる。そして、各人の実際の皮膚状態に合った適切なスキンケア化粧品を選ぶための基準として活用することができる。

図1