(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-217324(P2017-217324A)
(43)【公開日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】弾性ストッキング
(51)【国際特許分類】
A61F 13/08 20060101AFI20171117BHJP
A41B 11/00 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
A61F13/08
A41B11/00 B
A41B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-115689(P2016-115689)
(22)【出願日】2016年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(71)【出願人】
【識別番号】516172226
【氏名又は名称】山▲崎▼ 一元
(71)【出願人】
【識別番号】399038240
【氏名又は名称】吉田司株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】506073812
【氏名又は名称】越屋メディカルケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】臺 美佐子
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 祐子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 康紘
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 典子
【テーマコード(参考)】
3B018
【Fターム(参考)】
3B018AA01
3B018AC01
3B018AD07
(57)【要約】
【課題】夏季において接触冷感に優れ、且つ薄さ及び紡糸安定性に優れた弾性ストッキングの提供を目的とする。
【解決手段】キュプラとポリエステルとの混撚糸を用いたものであることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キュプラとポリエステルとの混撚糸を用いたものであることを特徴とする弾性ストッキング。
【請求項2】
前記混撚糸は天然物由来の糖アルコールによる涼感加工が施されていることを特徴とする請求項1記載の弾性ストッキング。
【請求項3】
前記混撚糸を用いて筒状に丸編みで構成されていることを特徴とする請求項1又は2記載の弾性ストッキング。
【請求項4】
前記丸編みはメッシュ編みで構成されていることを特徴とする請求項3記載の弾性ストッキング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は着用時に圧迫力が加わる弾性ストッキングに関する。
【背景技術】
【0002】
下肢静脈流の還流を改善するのに弾性ストッキングが用いられている。
また、リンパ浮腫における圧迫療法の1つとして医療用弾性ストッキングが用いられている。
静脈血やリンパ液を心臓方向へ流れやすくするために、この弾性ストッキングは足首の圧迫圧が一番強く、太ももに向かって圧迫圧が弱くなっている。
よって、弾性ストッキングは比較的厚手の生地で製作されており、夏季において発汗し蒸れ感が生じる課題があった。
患者らは、皮膚の掻痒感により掻把行動を惹起し、皮膚創傷を生じることがある。
また、蒸れ感から不快感を生じ患者の治療モチベーション低下や装着中断といった問題が生じることもある。
これらの行動は浮腫増加や蜂窩織炎発症要因となるリスクを有しており、患者らが安心してリンパ浮腫管理を継続できる環境整備が求められている。
【0003】
特許文献1には蒸れ感を軽減する目的で、ポリアミド繊維と弾性繊維からなるストッキングにおいて少なくともレッグ部に吸湿差率ΔMRが2.5%以上である生地が使用されている血流速促進弾性ストッキングを開示する。
しかし、この弾性ストッキングは接触冷感を有するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−075236号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「接触冷感向上に関する要因解析」,あいち産業科学技術総合センター研究報告2014,P.100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、夏季において接触冷感に優れ、且つ薄さ及び紡糸安定性に優れた弾性ストッキングの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る弾性ストッキングは、キュプラとポリエステルとの混撚糸を用いたものであることを特徴とする。
【0008】
キュプラは、綿花を採取した後の綿実の表面に密生している2〜6mmのコットンリンターと称される繊維を原料としたものである。
シルクに似た光沢があり、しなやかで肌触りが良く吸湿性がある。
キュプラはセルロース系繊維であり、このセルロース系繊維としては木材パルプを原料としたレーヨンがある。
これらセルロース系繊維は、肌に接触したときの接触冷感が生じる。
本発明では、レーヨンよりも繊維の細いキュプラを用いた。
しかし、キュプラだけでは弾性ストッキングに要求される圧迫圧が充分に得られないので、本発明は弾性糸にすべく紡績する際に、キュプラとポリエステルとの糸を撚り合せたものである。
ポリエステルはエステル縮合された合成繊維であり、高強度であるとともに後述するように糖アルコールを付加しやすい。
本発明において、キュプラとポリエステルの割合はキュプラの配合比率として20〜40%の範囲が好ましい。
また、キュプラ,ポリエステルに例えば、ポリウレタン等の他の弾性糸を撚り合せてもよい。
【0009】
本発明において、前記混撚糸は天然物由来の糖アルコールによる涼感加工が施されているのが好ましい。
糖アルコールにて涼感加工を行うと、キュプラによる接触冷感に持続性を付与することができる。
糖アルコールとしては、キシリトール,ソルビトール,グリセロール,エリスリトール,マルチトール,マンニトール等が例として挙げられる。
本発明においては、天然物から抽出したキシリトールが好ましい。
涼感加工としては繊維への練り込み、吸着、あるいはマイクロカプセル吸着等、各種方法が採用される。
【0010】
本発明に係る弾性ストッキングは、前記混撚糸を用いて筒状に丸編みで構成されていてよく、丸編みはメッシュ編みで構成されていてよい。
弾性ストッキングとしては、足首の圧迫圧が10〜40mmHg、好ましくは20〜40mmHgがよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る弾性ストッキングは、キュプラとポリエステルを組み合せることで、さらには糖アルコールによる涼感加工を行うことで、これまで市販されている医療用の弾性ストッキングと同等の圧迫圧を確保しつつ、涼感性に優れた弾性ストッキングが得られる。
また、本発明に係る弾性ストッキングは冷凍庫に保管した後に使用するとさらに効果的である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る弾性ストッキングについて、市販品(従来品)と比較調査したので、以下説明する。
本実施例に係る弾性ストッキングの混撚糸としては、キュプラ:ポリエステル:ポリウレタン=28.4%:61.1%:10.5%のものを用いた。
【0014】
まず、生地室温20℃から40℃センサーへの瞬間熱移動を測定した接触冷温感評価値は、0.244W/cm
2であったことから、高い接触冷温感機能を有していた。
【0015】
<着圧値>
圧力計(Pico press,ナック商会)を用いて、健康成人の下肢5部位の着圧値を計測した。
対象者は、健康成人女性2名(ストッキングサイズM)の平均値を算出した。リンパ浮腫患者に使用されているストッキングを3種類選択し、本発明品と値を比較した。
その結果を
図1の表に示す。
医療器具としての条件である着圧値30mmHgを足背部で満たしており、医療器具として認められる着圧値であった。
【0016】
<通気性>
JISL1096 (8.26)A法フラジール型法で測定した。
リンパ浮腫患者に使用されているストッキングを3種類選択し、本発明品と値を比較した。
その結果を
図2の表に示す。
本発明品は、足底部以外の4部位において最も高い通気性を示した。
【0017】
図3に生地の温度分布の比較を示す。
次に、夏用弾性ストッキングの衣服内気候を検証することを目的として、健康成人女性に対し、夏季環境の恒温恒湿実験室で本発明品と従来品とを交互に装着し、衣服内温度・湿度・発汗量を比較した。
[方法]
健康成人女性1名を対象とした。セッティングは、恒温恒湿室で本邦の夏季環境を模した室温37℃・湿度70%に設定した。
実験前1時間から飲食禁止とし、排尿を実験前に済ませた。
プロトコル:恒温恒湿室での馴化時間20分間・従来品20分間装着・休息30分間・馴化時間20分間・本発明品を20分間装着とした。
測定部位と測定方法:
図4に示すように膝窩5cm下部位にマーキングし、皮膚とストッキング間の衣服内温湿度を温湿度計(TSDL_HT2,テクノサイエンス株式会社)、発汗量を発汗計(SNT−200,ルーセット・ストラテジー株式会社)で計測した。
いずれも、ストッキング装着後20分間連続計測した。
[結果]
対象者は40歳代女性で、Body Mass Index 21.5kg/m
2、下肢周囲径は足首が21.0(左)、21.5(右)cmであった。
実験開始から終了後にかけて、皮膚トラブル発症なく安全に遂行した。
図5に示すように装着開始時に、衣服内温度が本発明品は従来品より約1.5℃低かったが、約1分30秒経過後に従来品の方が低い温度となった。
湿度は、
図6に示すように装着後1分経過後から本発明品が従来品より約5%低い状態を保ち、10分経過後に同等となった。
発汗量は、
図7に示すように装着後約10分まで本発明品の方が最大約7g/m
2/min少なく、その後本発明品の方が多くなった。
[考察]
衣服内温湿度・発汗量の各推移値から、ストッキング装着直後に従来品は発汗量が多く、それにより湿度が高く保持され、発汗による皮膚冷却効果で皮膚温度が下降したと考えられる。
本発明品は、初期の発汗が抑えられたことで湿度が低い状態で保たれ、温度の降下が緩やかであったと考えられる。
発汗量の緩やかな上昇は、温度の急激な変化を防いでおり、弾性ストッキング内の急激な蒸れ感を防ぐ効果があると推測される。
[まとめ]
健常成人女性1名に対する夏季環境内での検証結果では、本発明品は装着時の急激な発汗が抑えられ、温湿度の急激な変化が防がれていた。
【0018】
<快適性>
本発明品の快適性を従来品と比較検証することを目的とし、下肢リンパ浮腫患者が装着した後快適性についてアンケート調査を実施した。
[方法]
対象者は、リンパ浮腫外来に通院中の下肢リンパ浮腫患者とし、着圧値に適応する患者の中から医療者の同意を得た者4名をリクルートした。
外来診察時に本発明品を装着し、約10分〜2時間装着した後で普段使用中の従来品と比較して調査アンケートに回答した。
アンケートは、清涼感・風合いについてVisual Analog Scale(VAS)で対象者自身が本発明品と従来品を各々評点した。
[結果]
下肢リンパ浮腫患者4名全員が、婦人科癌術後の続発性リンパ浮腫であり、従来品のストッキングサイズはSまたはXSの者であった。
快適性のアンケートでは、清涼感は全員が本発明品の方が従来品より高値を示し、風合い感は2名が高値、1名が同等、1名が低値を示した。
風合い感は、患者らの嗜好が理由としてそれぞれ記載されていた。
[まとめ]
下肢リンパ浮腫患者に対する快適性検証では、本発明品は装着時の清涼感は全員が感じており夏季に装着する際の暑さを軽減できることが期待される。
風合い感は、嗜好の違いはあるものの、4名中3名は風合いが良いまたは同等である結果であり、日常生活で快適に装着できる可能性が広がったと考えられる。
【0019】
以上のことから本発明に係る弾性ストッキングは、夏季においても装着時に清涼感を感じ、且つ発汗を抑えることで患者らのリンパ浮腫管理モチベーション向上や皮膚創傷予防につながり、浮腫悪化防止及び蜂窩織炎発症・再発予防に寄与できることが期待される。