【解決手段】縦置き多気筒エンジンに適用される本発明の排気構造は、エンジン本体1の車幅方向一方側の側面に取り付けられた前側排気通路部(11)と、前記側面における前側排気通路部(11)よりも後側の位置に取り付けられた後側排気通路部(12)と、前側排気通路部(11)および後側排気通路部(12)の少なくとも一部を覆うように取り付けられ、エンジンルームEに導入された走行風の一部が前側排気通路部(11)を経由せずに後側排気通路部(12)にあたるように走行風を案内するインシュレータ50とを備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の構造によれば、空気流入穴から遮熱カバーの内部に導入された走行風が排気マニホールドの各枝管にあたることで、排気マニホールドの過度な温度上昇がある程度は抑制されると考えられる。しかしながら、上記特許文献1では、最も前側の枝管には比較的低温の走行風があたるものの、前から2番目以降の枝管については、当該枝管よりも前側の枝管を通過した後の(それによって高温化した)走行風があたるので、十分な冷却性を確保できないおそれがあった。特に、最も後側に位置する枝管については、それより前側に位置する枝管の数が多い分、より高温になり易く、その周りの部品に熱害などの悪影響を及ぼす可能性が高くなる。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、前後方向に並設された複数の排気通路部を均等に冷却することが可能な縦置き多気筒エンジンの排気構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するためのものとして、本発明は、気筒列が車両前後方向に沿う縦置きの姿勢でエンジンルームに配設されたエンジン本体を含む縦置き多気筒エンジンに適用される排気構造であって、前記エンジン本体の車幅方向一方側の側面に取り付けられ、当該エンジン本体の少なくとも1つの気筒から排出される排気ガスが流通する前側排気通路部と、前記側面における前記前側排気通路部よりも後側の位置に取り付けられ、前記前側排気通路部に対応する気筒よりも後側に位置する少なくとも1つの気筒から排出される排気ガスが流通する後側排気通路部と、前記前側排気通路部および後側排気通路部の少なくとも一部を覆うように取り付けられ、前記エンジンルームに導入された走行風の一部が前記前側排気通路部を経由せずに前記後側排気通路部にあたるように走行風を案内するインシュレータとを備えた、ことを特徴とするものである(請求項1)。
【0007】
本発明によれば、前側排気通路部および後側排気通路部の少なくとも一部を覆うインシュレータにより、エンジンルームに導入された走行風の一部が前側排気通路部を経由せずに後側排気通路部にあたるように走行風が案内されるので、前側排気通路部と後側排気通路部とを順に走行風が通過することによる不具合、つまり、前側排気通路部を通過するのに伴って高温化した走行風がそのまま後側排気通路部にあたることにより当該後側排気通路部の冷却が阻害されるような事態を回避することができる。これにより、前側排気通路部および後側排気通路部が前後方向に並ぶように配置される(つまり車両前方から見たときに後側排気通路部が前側排気通路部の後側に隠れるように配置される)縦置きエンジンであるにもかかわらず、後側排気通路部を走行風によって十分に冷却することができ、当該後側排気通路部の温度を、低温の走行風があたり易い(そのために冷却の面で有利な)前側排気通路部と同等もしくは近い温度まで低下させることができる。また、このように後側排気通路部と前側排気通路部とが均等に冷却されて後側排気通路部の温度上昇が抑制されることにより、例えば後側排気通路部の下流側に設けられる触媒装置が高温により劣化したり、後側排気通路部の周辺部品の信頼性が損なわれるといった懸念が低減され、エンジンの信頼性を向上させることができる。
【0008】
本発明において、好ましくは、前記インシュレータは、隔壁によって区画された第1導風路および第2導風路を有し、前記前側排気通路部は前記第1導風路に収容され、前記後側排気通路部は前記第2導風路に収容され、前記インシュレータの前端には、前記第1導風路の入口となる開口と、前記第2導風路の入口となる開口とが、前記隔壁を挟んで上下方向に並ぶように形成される(請求項2)。
【0009】
この構成によれば、インシュレータの前端の開口から各導風路に導入された走行風を互いに分離したまま確実に前側および後側排気通路部にあてることができ、両排気通路部を均等かつ十分に冷却することができる。
【0010】
ここで、前記エンジン本体は、後側ほど高さが低くなる後下がりの傾斜状態で前記エンジンルームに配設されていてもよい(請求項3)。
【0011】
この構成によれば、エンジン本体から後方に延びる動力伝達用のプロペラシャフトを、その後部の高さが比較的低くなるように配置することができる。これにより、当該プロペラシャフトを通すために車室フロアに突設されるトンネル部の高さを、特に車室の後部において低く抑えることができ、後席乗員の足元スペースを広く確保することができる。
【0012】
ただし、前記のようにエンジン本体を後下がりに傾斜させた場合には、後側排気通路部の上面が前側排気通路部の上面よりも低くなるので、本来であれば、後側排気通路部に低温の走行風が一層あたり難くなり、後側排気通路部の温度が上昇し易くなる。これに対し、本発明では、前側排気通路部を経由しない走行風が後側排気通路部にあたるようにインシュレータにより走行風が案内されるので、前記のようにエンジン本体を傾斜配置して車室内の居住性を確保しながらも、後側排気通路部を前側排気通路部と同等に冷却することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、前記前側排気通路部および後側排気通路部は、それぞれ、複数の気筒から個別に延びる複数の独立排気管を有し、前記各排気通路部における複数の独立排気管は、平面視で、後側の気筒の独立排気管が前側の気筒の独立排気管よりも外側のループを描くような態様で湾曲しつつ下流側に延びている(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、各排気通路部に含まれる複数の独立排気管の中で最も後側に位置する独立排気管を最も外周側に配置できるので、相対的に走行風があたり難い当該独立排気管の外気への放熱性を高めることができ、複数の独立排気管の間に大きな温度差が生じるのを抑制することができる。
【0015】
前記インシュレータは、前記前側排気通路部を覆う第1インシュレータと、前記後側排気通路部を覆う第2インシュレータとを別体に有したものであってもよい。この場合、前記第1インシュレータの前壁に開口が形成されるとともに、前記第2インシュレータの上壁に複数の開口が形成されることが好ましい(請求項5)。
【0016】
この構成によれば、第1インシュレータの前壁の開口から第1インシュレータの内部に導入された走行風によって前側排気通路部を冷却できるとともに、このように第1インシュレータに導入される走行風とは別の走行風(つまり前側排気通路部を経由していない走行風)を、第2インシュレータの上壁に形成された複数の開口から第2インシュレータの内部に導入することができ、この走行風によって後側排気通路部を効果的に冷却することができる。
【0017】
第1インシュレータおよび第2インシュレータを別体に有する別の態様として、前記第2インシュレータは、前記第1インシュレータの後方に位置する本体部と、本体部から上方に突出するダクト部とを有し、前記第1インシュレータの前壁に開口が形成されるとともに、第1インシュレータよりも高い位置で開口する開口が前記ダクト部の前端に形成されていてもよい(請求項6)。
【0018】
この構成によれば、第1インシュレータの前壁の開口から第1インシュレータの内部に導入された走行風によって前側排気通路部を冷却できるとともに、このように第1インシュレータに導入される走行風とは別の走行風(つまり前側排気通路部を経由していない走行風)を、第2インシュレータのダクト部の前端に形成された開口から第2インシュレータの内部に導入することができ、この走行風によって後側排気通路部を効果的に冷却することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の縦置き多気筒エンジンの排気構造によれば、前後方向に並設された複数の排気通路部を均等に冷却することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
図1〜
図3は、本発明の排気構造が適用された縦置き多気筒エンジンの第1実施形態を示す側面図、平面図、および背面図であり、
図4〜
図6は、
図1〜
図3から一部の部品(後述するインシュレータ50)を取り外した状態を示す図である。これらの図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される車載用の多気筒エンジンであり、車両の前部に形成されたエンジンルームEの内部に図外のエンジンマウントを介して取り付けられている。このエンジンは、列状に並んだ6つの気筒2A〜2F(
図2、
図5)が内部に形成された直列6気筒型のエンジン本体1と、エンジン本体1で生成された燃焼ガス(排気ガス)を外部に排出するための排気通路10とを備えている。なお、エンジン本体1を挟んだ排気通路10の反対側には、エンジン本体1に空気を導入するための吸気通路(図示省略)が設けられている。
【0022】
エンジン本体1は、上記6つの気筒2A〜2Fが並ぶ方向である気筒列方向が車両の前後方向と平行になる縦置きの姿勢でエンジンルームEに配設されている。エンジン本体1は、前後方向に長尺なブロック状のシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に取り付けられたシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下面に取り付けられたオイルパン5とを有している。シリンダブロック3およびシリンダヘッド4の内部には、上記6つの気筒2A〜2Fが前後方向に並ぶように形成されており、各気筒2A〜2Fにはピストン(図示省略)が往復摺動可能に収容されている。なお、以下では、気筒2A〜2Fを特に区別せずに指すときは、単に気筒2というものとする。
【0023】
シリンダヘッド4には、各気筒2に燃料を噴射するインジェクタ(図示省略)が取り付けられている。エンジンの運転中は、図外の吸気通路を通じて各気筒2に供給された空気がインジェクタからの噴射燃料と混合されて燃焼し、その燃焼エネルギーを受けて上記ピストンがシリンダ軸線Yに沿って上下方向に往復運動する。
【0024】
シリンダブロック3には、上記ピストンの往復運動に応じて回転するクランク軸が、前後方向に延びる中心軸線X(以下、クランク軸線という)に沿って配設されている。
【0025】
図1および
図4に示すように、クランク軸線Xは、側面視において、後部の方が前部よりも下側に位置するようにやや傾斜しつつ前後方向に延びており、水平線Hと所定角度をもって交差するように設定されている。すなわち、エンジン本体1は、車両後側ほど高さが低くなるように後下がりに傾斜した姿勢でエンジンルームEに配設されている。
【0026】
エンジン本体1の後面には、エンジン本体1のクランク軸の回転を変速しつつ車輪側に伝達する変速機7が取り付けられている。当実施形態において、変速機7は、車両の走行状態に応じて自動的に変速を行う自動変速機(AT)であり、上記クランク軸の回転を流体を介して伝達するトルクコンバータ8と、トルクコンバータ8の出力軸(タービン軸)の回転を自動的に減速または増速する変速ギヤ機構9とを有している。変速ギヤ機構9の出力回転は図外のプロペラシャフトに伝達され、当該プロペラシャフトの回転がディファレンシャル機構等を介して駆動輪のドライブシャフトに伝達されるようになっている。
【0027】
排気通路10は、エンジン本体1における車幅方向一方側つまり車両右側の側面(以下、排気側側面という)に取り付けられている。当実施形態において、排気通路10は、前側の3つの気筒2A〜2Cと後側の3つの気筒2D〜2Fとに対応してグループ分けされた2組の配管群を有している。具体的に、排気通路10は、1つ目の配管群として、前側の3つの気筒2A〜2Cから排出される排気ガスが流通する前側排気マニホールド11(請求項にいう前側排気通路に相当)と、前側排気マニホールド11の下流端に接続された触媒装置13と、触媒装置13の下流端に接続された下流側配管15とを有している。また、2つ目の配管群として、後側の3つの気筒2D〜2Fから排出される排気ガスが流通する後側排気マニホールド12(請求項にいう後側排気通路部に相当)と、後側排気マニホールド12の下流端に接続された触媒装置14と、触媒装置14の下流端に接続された下流側配管16とを有している。なお、排気通路10に関する下流(または上流)とは、エンジン本体1から排気通路10を通じて外部に向かう排気ガスの流れ方向の下流(または上流)のことをいう。
【0028】
前側排気マニホールド11は、エンジン本体1(シリンダヘッド4)の排気側側面の前部にフランジ17を介して取り付けられており、後側排気マニホールド12は、エンジン本体1(シリンダヘッド4)の排気側側面の後部にフランジ18を介して取り付けられている。両排気マニホールド11,12は、エンジン本体1のほぼ同じ高さ位置において前後方向に並ぶように、つまり車両前方から見て後側排気マニホールド12が前側排気マニホールド11の後側に隠れるような状態で配設されている。
【0029】
触媒装置13,14は、前側および後側排気マニホールド11,12の下流側にそれぞれ設けられるとともに、両排気マニホールド11,12の前後方向の位置関係に準じて、触媒装置14が触媒装置13よりも後側に位置するように配設されている。触媒装置13,14は、その中心軸線が概ね上下方向を向く(下流側ほど高さが低くなる)立向きの姿勢でエンジン本体1の排気側側面に取り付けられている。より詳しくは、触媒装置13,14は、その中心軸線が上方ほど車両前側に位置するように傾斜しつつ上下方向に延設されており、その傾斜角度は、前側の触媒装置13の方が後側の触媒装置14よりも大きく設定されている。
【0030】
各触媒装置13,14には、排気ガス中に含まれる有害物質を浄化するための触媒(例えば三元触媒、酸化触媒、NOx触媒のいずれかもしくはその組合せ)が内蔵されている。なお、このような触媒に加えて、排気ガス中に含まれるPMを捕集するためのフィルターが内蔵されていてもよい。
【0031】
下流側配管15,16は、触媒装置13,14の下流端から車両後方に向かって延びており、その途中部には振動吸収用のフレキシブルチューブ15a,16aがそれぞれ設けられている。
【0032】
図3および
図6に示すように、エンジン本体1は、その上部が排気側(排気マニホールド11,12が取り付けられる車両右側)にやや傾くような姿勢でエンジンルームEに配設されている。すなわち、気筒2の中心軸線をシリンダ軸線Yとすると、エンジン本体1は、前後方向視において、シリンダ軸線Yが鉛直線Vと所定角度をもって交差するように、より詳しくは、シリンダ軸線Yの上部の方が下部よりも車両右側に位置するように傾いている。
【0033】
エンジン本体1の排気側側面には、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12を覆うインシュレータ50が取り付けられている。
【0034】
図7は、排気通路10およびインシュレータ50をエンジン本体1から切り離した状態で示す斜視図であり、
図8は、
図7からインシュレータ50を取り外した状態を示す(排気通路10を単独で示す)図であり、
図9は、
図7に対応する側面断面図である。これら
図7〜
図9、および先の
図4〜
図6に示すように、前側排気マニホールド11は、エンジン本体1の排気側側面(フランジ17)からそれぞれ延びる独立した3本の独立排気管21〜23と、独立排気管21〜23の各下流端部が集合した集合部24と、集合部24から触媒装置13に向けて延びる共通排気管25とを有している。独立排気管21は最も前側の気筒2Aと連通し、独立排気管22は前から2番目の気筒2Bと連通し、独立排気管23は前から3番目の気筒2Cと連通している。各気筒2A〜2Cからの排気ガスは、対応する独立排気管(21〜23のいずれか)を流通した上で、集合部24、共通排気管25、および触媒装置13を通じて下流側配管15へと排出される。
【0035】
後側排気マニホールド12の構造も同様である。すなわち、後側排気マニホールド12は、エンジン本体1の排気側側面(フランジ18)からそれぞれ延びる独立した3本の独立排気管31〜33と、独立排気管31〜33の各下流端部が集合した集合部34と、集合部34から触媒装置14に向けて延びる共通排気管35とを有している。独立排気管31は前から4番目の気筒2Dと連通し、独立排気管32は前から5番目の気筒2Eと連通し、独立排気管33は前から6番目(最も後側)の気筒2Fと連通している。各気筒2D〜2Fからの排気ガスは、対応する独立排気管(31〜33のいずれか)を流通した上で、集合部34、共通排気管35、および触媒装置14を通じて下流側配管16へと排出される。
【0036】
前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12は、それぞれ平面視でループ状に形成されている。すなわち、前側排気マニホールド11(後側排気マニホールド12)における3つの独立排気管21〜23(31〜33)は、それぞれフランジ17(18)から車幅方向に遠ざかる側(つまり車両右側)に一旦延びた後、車両前方の集合部24(34)に向かって方向転換するように湾曲している。より詳しくは、各独立排気管21〜23(31〜33)は、平面視において、後側の気筒の独立排気管が前側の気筒の独立排気管よりも外側のループを描くような態様、言い換えると、独立排気管21〜23(31〜33)の中でも最も後側の気筒2C(2F)に対応する独立排気管23(33)のループの内側に他の気筒の独立排気管21,22(31,32)が位置するような態様で湾曲しつつ下流側に延びている。そして、各独立排気管21〜23(31〜33)の下流端部は、集合部24(34)の直前で互いに近接するように束ねられた状態で、集合部24(34)に対し車両後方側から接続されている。共通排気管25(35)は、集合部24(34)から再びエンジン本体1に近づく側(つまり車両左側)に方向転換するように湾曲しており、触媒装置13(14)の上流端部(上面)における前寄り位置に斜め上方から接続されている。
【0037】
主に
図7および
図9に示すように、インシュレータ50は、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12を互いに隔離しつつ覆うように形成されている。具体的に、インシュレータ50は、前側排気マニホールド11の上方から後側排気マニホールド12の上方に亘って前後方向に延びるように形成された天井壁51と、天井壁51の後端から下方に延びて後側排気マニホールド12の後方を覆う後壁52と、天井壁51におけるエンジン本体1とは反対側の縁部から下方に延びて前側および後側排気マニホールド11,12の側方を覆う側壁53と、側壁53の前下角部に対応する位置に形成されて前側排気マニホールド11の前部下方を覆う前下壁54と、天井壁51と前下壁54との間に形成された隔壁55とを有している。このようなインシュレータ50は、例えばアルミ、鋼、ステンレス等の金属製の板材により構成されている。
【0038】
インシュレータ50の天井壁51、後壁52、前下壁54、および隔壁55は、それぞれ、側壁53からエンジン本体1の排気側側面までの間の車幅方向距離にほぼ一致する幅寸法を有している。すなわち、天井壁51、後壁52、前下壁54、および隔壁55は、エンジン本体1に近い側の縁部がエンジン本体1の排気側側面に対しわずかな距離をあけて対向するように配置されている。
【0039】
前下壁54は、エンジン本体1に取り付けられたウォータポンプ40(
図1、
図4)の近傍に位置している。すなわち、エンジン本体1の排気側側面の前端部には、エンジン本体1の内部に冷却水を流通させるためのウォータポンプ40(
図1、
図4)が取り付けられており、このウォータポンプ40と前側排気マニホールド11の前部(共通排気管25)との間に前下壁54が配置されている。
【0040】
隔壁55は、前側排気マニホールド11の直上方を通って前方から後方に延びた後、前側排気マニホールド11と後側排気マニホールド12との間を通って下方に湾曲するように形状されている。言い換えると、隔壁55は、前側排気マニホールド11の直上方を覆うとともに、前側排気マニホールド11と後側排気マニホールド12との間を前後方向に仕切るように形成されている。そして、この隔壁55によりインシュレータ50の内部が2分されることにより、インシュレータ50の内部には、前側排気マニホールド11が収容される第1導風路56と、後側排気マニホールド12が収容される第2導風路57とが区画形成されている。
【0041】
インシュレータ50は、車両の走行時にエンジンルームEに流れ込む空気(走行風)を第1導風路56および第2導風路57に導入し得るように、その前端面が開放されている。すなわち、インシュレータ50の前端面には、第1導風路56の入口となる開口56aと、第2導風路57の入口となる開口57aとが形成されている。これら開口56a,57aは、隔壁55を挟んで上下方向に並ぶように形成されている。
【0042】
また、インシュレータ50の下面には、第1導風路56および第2導風路57に導入された走行風の出口となる2つの開口56b,57b(
図9)が、隔壁55を挟んで前後方向に並ぶように形成されている。触媒装置13,14は、これらの開口56b,57bを通じてインシュレータ50の外部(下方)に露出するように配置されている。
【0043】
図10は、車両の走行時に各導風路56,57に導入された走行風の流れを示す図である。本図において矢印で示すように、開口57aを通じて第2導風路57に導入された走行風は、第2導風路57内を後方に向かって流れた後に、途中で下側に方向転換して後側排気マニホールド12を通過するように流れ、開口57bからインシュレータ50の外部に排出される。また、開口56aを通じて第1導風路56に導入された走行風は、前側排気マニホールド11を通過しつつ後方かつ下方に向かって流れ、開口56bからインシュレータ50の外部に排出される。このように、当実施形態では、前側排気マニホールド11を通過する走行風と、後側排気マニホールド12を通過する走行風とが、隔壁55によって区画された第1導風路56および第2導風路57内をそれぞれ個別に流通するようになっている。すなわち、第1導風路56に導入された走行風は、専ら第1導風路56内を流通する(第2導風路57に分流しない)ことにより、前側排気マニホールド11を通過しかつ後側排気マニホールド12を通過しないように案内される。同様に、第2導風路57に導入された走行風は、専ら第2導風路57内を流通する(第1導風路56に分流しない)ことにより、後側排気マニホールド12を通過しかつ前側排気マニホールド11を通過しないように案内される。
【0044】
以上説明したように、本発明の第1実施形態では、エンジンルームEに縦置きされたエンジン本体1の車幅方向一方側の側面に前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12が前後方向に並ぶように取り付けられた縦置き多気筒エンジンにおいて、各排気マニホールド11,12を覆うインシュレータ50の内部に、隔壁55により区画された第1導風路56および第2導風路57が形成されるとともに、各導風路56,57に前側および後側排気マニホールド11,12がそれぞれ個別に収容されているため、両排気マニホールド11,12が均等に冷却されてエンジンの信頼性が高まる等の利点がある。
【0045】
すなわち、上記第1実施形態によれば、エンジンルームEに導入された走行風の一部が第2導風路57によって後側排気マニホールド12に案内されるとともに、これとは別の走行風が第1導風路56によって前側排気マニホールド11に案内されるので、前側排気マニホールド11と後側排気マニホールド12とを順に走行風が通過することによる不具合、つまり、前側排気マニホールド11を通過するのに伴って高温化した走行風がそのまま後側排気マニホールド12にあたることにより後側排気マニホールド12の冷却が阻害されるような事態を回避することができる。これにより、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12が前後方向に並ぶように配置される(つまり車両前方から見たときに後側排気マニホールド12が前側排気マニホールド11の後側に隠れるように配置される)縦置きエンジンであるにもかかわらず、後側排気マニホールド12を走行風によって十分に冷却することができ、当該後側排気マニホールド12の温度を、低温の走行風があたり易い(そのために冷却の面で有利な)前側排気マニホールド11と同等もしくは近い温度まで低下させることができる。また、このように後側排気マニホールド12と前側排気マニホールド11とが均等に冷却されて後側排気マニホールド12の温度上昇が抑制されることにより、後側排気マニホールド12の下流側に設けられる触媒装置14が高温により劣化したり、後側排気マニホールド12の周辺部品の信頼性が損なわれるといった懸念が低減され、エンジンの信頼性を向上させることができる。
【0046】
特に、上記第1実施形態では、隔壁55により区画された第1導風路56および第2導風路57がインシュレータ50の内部に形成され、これら第1および第2導風路56,57に前側および後側排気マニホールド11,12がそれぞれ個別に収容されているため、インシュレータ50の前端の開口56a,57aから各導風路56,57に導入された走行風を互いに分離したまま確実に前側および後側排気マニホールド11,12にあてることができ、両排気マニホールド11,12を均等かつ十分に冷却することができる。
【0047】
また、上記第1実施形態では、隔壁55との間で第2導風路57を画成する天井壁51が、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12のそれぞれの上方を覆うように設けられているので、例えばエンジンの運転中に比較的高温になった前側および後側排気マニホールド11,12の熱気がエンジンの停止後に上方に移動するのを天井壁51により抑制することができる。これにより、エンジンルームEの上部に配置される部品、例えばエンジンルームEを覆うボンネットフードの下面に取り付けられる遮音材等の部品の温度が過度に上昇するのを回避でき、当該部品が高温により損傷するのを防止することができる。
【0048】
また、上記第1実施形態では、隔壁55との間で第1導風路56を画成する前下壁54が、前側排気マニホールド11(共通排気管25)とウォータポンプ40とを前後方向に隔てるように設けられているので、前側排気マニホールド11からの熱気によりウォータポンプ40の温度が過度に上昇するのを回避でき、ウォータポンプ40が高温により損傷するのを防止することができる。
【0049】
また、上記第1実施形態では、前側排気マニホールド11(後側排気マニホールド12)に含まれる複数の独立排気管21〜23(31〜33)が、平面視で、後側の気筒の独立排気管が前側の気筒の独立排気管よりも外側のループを描くような態様で湾曲しつつ下流側に延びているので、複数の独立排気管21〜23(31〜33)の中で最も後側に位置する独立排気管23(33)を最も外周側に配置することができる。これにより、相対的に走行風があたり難い当該独立排気管23(33)の外気への放熱性を高めることができ、複数の独立排気管21〜23(31〜33)の間に大きな温度差が生じるのを抑制することができる。
【0050】
また、上記第1実施形態では、後側ほど高さが低くなる後下がりの傾斜状態でエンジン本体1が配設されているので、エンジン本体1(より詳しくはエンジン本体1の後面に取り付けられる自動変速機7)から後方に延びる動力伝達用のプロペラシャフトを、その後部の高さが比較的低くなるように配置することができる。これにより、当該プロペラシャフトを通すために車室フロアに突設されるトンネル部の高さを、特に車室の後部において低く抑えることができ、後席乗員の足元スペースを広く確保することができる。
【0051】
ただし、上記のようにエンジン本体1を後下がりに傾斜させた場合には、後側排気マニホールド12の上面が前側排気マニホールド11の上面よりも低くなるので、本来であれば、後側排気マニホールド12に低温の走行風が一層あたり難くなり、後側排気マニホールド12の温度が上昇し易くなる。これに対し、上記第1実施形態では、前側排気マニホールド11を経由しない走行風が後側排気マニホールド12にあたるようにインシュレータ50により走行風が案内されるので、上記のようにエンジン本体1を傾斜配置して車室内の居住性を確保しながらも、後側排気マニホールド12を前側排気マニホールド11と同等に冷却できるという利点がある。
【0052】
なお、上記第1実施形態では、隔壁55により区画された第1導風路56および第2導風路57を有するインシュレータ50により前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12を覆うようにしたが、インシュレータは、前側排気マニホールドを経由しない走行風が後側排気マニホールドにあたるように走行風を案内できるものであればよく、種々の変形が可能である。以下では、その一例を第2実施形態および第3実施形態として説明する。
【0053】
<第2実施形態>
図11は、本発明の第2実施形態にかかる縦置き多気筒エンジンの排気構造を示す斜視図である。本図に示すように、第2実施形態では、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12を覆うインシュレータとして、第1インシュレータ61および第2インシュレータ62を別体に備えたインシュレータ60が用意されている。
【0054】
第1インシュレータ61および第2インシュレータ62は、エンジン本体1(
図1〜
図6参照)の排気側側面に沿って前後方向に並ぶように配置されている。第1インシュレータ61は、前側排気マニホールド11を覆うように取り付けられ、当該前側排気マニホールド11の上部をその上方、前方、側方、および後方から囲むようにドーム状に形成されている。同様に、第2インシュレータ62は、後側排気マニホールド12を覆うように取り付けられ、当該後側排気マニホールド12の上部をその上方、前方、側方、および後方から囲むようにドーム状に形成されている。第1インシュレータ61および第2インシュレータ62の各下面はそれぞれ開放されている。
【0055】
第2インシュレータ62の上壁72には、3つの開口72aが形成されている。これら3つの開口72aは、それぞれ車幅方向に長尺な長孔状に形成され、かつ前後方向に並ぶように配置されている。第1インシュレータ61の前壁71には、単一の開口71aが形成されている。
【0056】
車両の走行時、エンジンルームEに導入された走行風は、第1インシュレータ61の前壁71の開口71aを通じて第1インシュレータ61の内部に導入され、前側排気マニホールド11を通過しながら第1インシュレータ61の外部(下方)に排出される。また、第1インシュレータ61に導入されなかった別の走行風は、例えば第1インシュレータ61の上面に沿って後方に流れ、第2インシュレータ62の上方に到達する。この走行風は、第2インシュレータ62の上壁72の開口72aを通じて第2インシュレータ62の内部に導入され、後側排気マニホールド12を通過しながら第2インシュレータ62の外部(下方)に排出される。
【0057】
以上のような第2実施形態の構成によれば、第1インシュレータ61の前壁71の開口71aから第1インシュレータ61の内部に導入された走行風によって前側排気マニホールド11を冷却できるとともに、このように第1インシュレータ61に導入される走行風とは別の走行風(つまり前側排気マニホールド11を経由していない走行風)を、第2インシュレータ62の上壁72に形成された複数の開口72aから第2インシュレータ62の内部に導入することができ、この走行風によって後側排気マニホールド12を効果的に冷却することができる。
【0058】
なお、上記第2実施形態では、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12の双方を覆う別体の2つのインシュレータ61,62を設けたが、例えば
図12に示すように、前側排気マニホールド11を覆うインシュレータ(
図11のインシュレータ61)を省略し、後側排気マニホールド12を覆うインシュレータ62のみを設けるようにしてもよい。このようにした場合でも、インシュレータ62の上壁72に形成された複数の開口72aを通じて、前側排気マニホールド11を経由していない走行風をインシュレータ61の内部に導入することができる。
【0059】
<第3実施形態>
図13は、本発明の第3実施形態にかかる縦置き多気筒エンジンの排気構造を示す側面図である。本図に示すように、第3実施形態では、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12を覆うインシュレータとして、第1インシュレータ81および第2インシュレータ82を別体に備えたインシュレータ80が用意されている。
【0060】
第1インシュレータ81は、前側排気マニホールド11を覆うように取り付けられ、当該前側排気マニホールド11の上部をその上方、前方、側方、および後方から囲むようにドーム状に形成されている。第1インシュレータ81の前壁91には開口91aが形成されている。この開口91aは、先の第2実施形態における第1インシュレータ61の前壁71の開口71aと同様の形状を有している。また、第1インシュレータ81の下面は開放されている。
【0061】
第2インシュレータ82は、第1インシュレータ81の後方に位置する本体部92と、本体部92から上方に突出するダクト部93とを一体に有している。本体部92は、第1インシュレータ81と同様に、下面が開放されたドーム状に形成されており、後側排気マニホールド12の上部をその上方、前方、側方、および後方から囲むように形成されている。ダクト部93は、本体部92から上方に突出する基部94と、基部94の上端から前方に向かって延びる延設部95とを有している。基部94および延設部95は中空筒状に形成され、本体部92の内部と連通する空間を内部に有している。第1インシュレータ81よりも上方に位置する延設部95の前端には、開口95aが形成されている。
【0062】
車両の走行時、エンジンルームEに導入された走行風は、第1インシュレータ81の前壁91の開口91aを通じて第1インシュレータ81の内部に導入され、前側排気マニホールド11を通過しながら第1インシュレータ81の外部(下方)に排出される。また、第1インシュレータ81に導入されなかった別の走行風は、第2インシュレータ82のダクト部93の前端に形成された開口95aを通じて第2インシュレータ82の内部に導入され、後側排気マニホールド12を通過しながら第2インシュレータ82の外部(下方)に排出される。
【0063】
以上のような第3実施形態の構成によれば、第1インシュレータ81の前壁91の開口91aから第1インシュレータ81の内部に導入された走行風によって前側排気マニホールド11を冷却できるとともに、このように第1インシュレータ81に導入される走行風とは別の走行風(つまり前側排気マニホールド11を経由していない走行風)を、第2インシュレータ82のダクト部93の前端に形成された開口95aから第2インシュレータ82の内部に導入することができ、この走行風によって後側排気マニホールド12を効果的に冷却することができる。
【0064】
なお、上記第3実施形態では、第2インシュレータ82のダクト部93を、その先端が第1インシュレータ81の前壁91の近傍まで到達するような比較的長尺な形状としたが、ダクト部をこのような長尺物にすることは必ずしも必要ではなく、例えばダクト部の先端が第1インシュレータの上方にかからない程度にまでダクト部を短縮してもよい。
【0065】
また、上記第3実施形態では、前側排気マニホールド11および後側排気マニホールド12の双方を覆う別体の2つのインシュレータ81,82を設けたが、例えば
図14に示すように、前側排気マニホールド11を覆うインシュレータ(
図13のインシュレータ81)を省略し、後側排気マニホールド12を覆うインシュレータ82のみを設けるようにしてもよい。このようにした場合でも、インシュレータ82のダクト部93を通じて、前側排気マニホールド11を経由していない走行風をインシュレータ82の内部に導入することができる。
【0066】
<その他>
上記第1〜第3実施形態では、6つの気筒2A〜2Fが車両前後方向に並ぶ縦置き式の直列6気筒エンジンに本発明を適用した例について説明したが、本発明は、縦置き式の多気筒エンジンに総じて適用可能であり、例えば、縦置き式の直列5気筒エンジンや直列4気筒エンジン、さらにはV型8気筒エンジンなどにも本発明を適用可能である。なお、V型エンジンの場合には、エンジンの両側のバンクにそれぞれ本発明を適用することが可能である。