【実施例1】
【0010】
図1は、本発明の実施例1に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
実施例1の自動車用駆動装置は、エンジン1のクランク軸2からダンパー3を介して動力を受け入れる入力軸10を備え、該入力軸10はエンジン1とは逆方向に配置したクラッチ12を介して歯車駆動軸30と連結可能である。なお、クラッチ12は一般的なマニュアル・トランスミッション用の乾燥単板クラッチでよい。
また、入力軸10は、ダンパー3と後述する第1変速機構遊星歯車FGおよび第2変速機構SGとの間に配置された遊星歯車20と連結している。
すなわち、遊星歯車20は、一般的にシングルピニオン型と呼ばれるもので、サンギヤ22と、リングギヤ24と、サンギヤ22およびリングギヤ24に噛み合った複数のピニオン26を回転自在に軸支するキャリア28と、の3つの回転要素で構成されている。
【0011】
ここで、キャリア28は本発明の第1回転要素を構成し入力軸10と連結する。
また、リングギヤ24は本発明の第2回転要素を構成し中間軸34と連結している。
入力軸10と平行に配置した中間軸34とリングギヤ24は3個の歯車で連結している。すなわち、リングギヤ24と一体の駆動歯車24aと、中間軸34と一体の被動歯車34aは、中間歯車14と噛み合っている。
さらにサンギヤ22は本発明の第3回転要素を構成し、第1モーター・ジェネレーター(以降、「第1MG」という)36の回転子36aと連結している。
第1MG36は、サンギヤ22と連結した回転子36aと、ケース38に固定された固定子36bからなっており、遊星歯車20の外周側に配置されて、該遊星歯車20をその内部に内包するようにしている。
入力軸10と平行に配置した出力軸40は、出力歯車40aが一体になっており、出力歯車40aは図示しない相手歯車を介して自動車の車輪を駆動可能である。
【0012】
はじめに、第1変速機構FGについて説明する。
中間軸34と出力軸40との間には、中間軸34上に回転自在の1速駆動歯車48aと、これに噛み合い出力軸40と一体の1速被動歯車48bと、中間軸34上に回転自在の3速駆動歯車50aと、これに噛み合い出力軸40と一体の3速被動歯車50bを有する、第1変速機構FGが配置されている。
【0013】
中間軸34には、該中間軸34と連結した1−3ハブ52と、該1−3ハブ52と回転方向が一体で軸方向に移動可能な1−3スリーブ54とが設けられ、1−3スリーブ54は
図1で描いた中立位置から左側へ移動することでその内歯(図示せず、以降も同様)が1速駆動歯車48aのドッグ歯48cと噛み合って1速駆動歯車48aと中間軸34とを連結し、右側へ移動することでその内歯が3速駆動歯車50aのドッグ歯50cと噛み合って3速駆動歯車50aと中間軸34とを連結する。
1−3スリーブ54とドッグ歯48cおよびドッグ歯50cとは、本発明の第1ドッグクラッチを構成する。
したがって、1−3スリーブ54を軸方向左右にそれぞれ移動することにより、1速および3速の2種類の変速比で、中間軸34と出力軸40との間で動力伝達可能である。
なお、3速駆動歯車50aにはパーキング歯車50dが一体に設けてあり、一般的なオートマチック・トランスミッションのように、図示しないセレクトレバーのパーキング位置にて図示しないロック機構でこれを固定することができるようになっている。
【0014】
つぎに、第2変速機構SGについて説明する。
歯車駆動軸30と出力軸40との間には、歯車駆動軸30上に回転自在で1速被動歯車48bと噛み合った2速駆動歯車42aと、入力軸10上に回転自在で3速被動歯車50bと噛み合った4速駆動歯車70aが設けられている。
【0015】
歯車駆動軸30には、該歯車駆動軸30と連結した2−4ハブ44と、該2−4ハブ44と回転方向が一体で軸方向に移動可能な2−4スリーブ46とが設けられ、2−4スリーブ46は
図1で描いた中立位置から左側へ移動することでその内歯が2速駆動歯車42aのドッグ歯42cと噛み合って2速駆動歯車42aと中間軸34とを連結し、右側へ移動することでその内歯が4速駆動歯車70aのドッグ歯70cと噛み合って4速駆動歯車70aと歯車駆動軸30とを連結する。
ここで、4速駆動歯車70aは、第2回転要素のリングギヤ24と歯車駆動軸30とにそれぞれ連結可能な本発明の高速段歯車を構成する。
2−4スリーブ46とドッグ歯42cおよびドッグ歯70cとは、本発明の第2ドッグクラッチを構成する。
したがって、2−4スリーブ46を軸方向左右にそれぞれ移動することにより、2速および4速の2種類の変速比で、歯車駆動軸30と出力軸40との間で動力伝達可能である。
【0016】
また、上記した第1変速機構FGと第2変速機構SGの両者を橋渡しする形で、リングギヤ24と4速駆動歯車70aとを連結可能にしている。すなわち、4速駆動歯車70aと一体の5速ハブ70dと、該5速ハブ70dと回転方向が一体で軸方向に移動可能な5速スリーブ71とが設けられ、5速スリーブ71は
図1で描いた中立位置から右側へ移動することでその内歯が駆動歯車24aのドッグ歯24cと噛み合って4速駆動歯車70aとリングギヤ24とを連結する。
【0017】
前述の1−3スリーブ54、2−4スリーブ46、5速スリーブ71は、図示を省略したシフトフォークにより、軸方向の移動が可能なようになっている。
また、図示を省略したが、1−3スリーブ54、2−4スリーブ46、5速スリーブ71と、これら1−3スリーブ54、2−4スリーブ46、5速スリーブ71が連結する相手歯車との間に、同期装置を設けることができる。
上記した第1変速機構と第2変速機構は機械的駆動を行うものであって、一般的なマニュアル・トランスミッションと基本的に同様の構成・作用を有していて、これらは周知であるので、以下の説明において作動の詳細を省略する場合がある。
【0018】
入力軸10と平行に配置した第2モーター・ジェネレーター(以降、「第2MG」という)56は、中間軸34および駆動歯車24aを駆動可能である。
すなわち、第2MG56は、駆動歯車58と連結した回転子56aと、ケース38に固定された固定子56bからなっており、駆動歯車58は中間歯車14と噛み合っており、これを介して中間軸34、駆動歯車24aを駆動可能である。
図示は省略するが、
図1に示した自動車用駆動装置は、これを作動させるため必要に応じてバッテリー、各種センサ、コントローラー、アクチュエーターなどを備えており、以下の作動はコントローラーの指示に基づいて行われる。
【0019】
つぎに、
図1に示した実施例1の自動車用駆動装置の作用を説明する。
なお、以下の説明において「正転」とはエンジン1と同じ回転方向か、または車両を前進させる方向の回転を意味し、「逆転」はその逆である。
【0020】
図1に示した自動車用駆動装置は、以下のようにEVモード、HVモード、歯車変速モードの、3種類の駆動モードで自動車を駆動することができる。
はじめにEVモードは、バッテリーから供給される電力により第2MG56が第1変速機構FGまたは第2変速機構SGを介して出力軸40を駆動する。
すなわち、中間歯車35と被動歯車34aの間の歯数比(被動歯車34aの歯数/中間歯車35の歯数)をAとして、中間歯車35と駆動歯車24aの間の歯数比(駆動歯車24aの歯数/中間歯車35の歯数)をBとした場合、第2MG56側から見た駆動で説明すると以下になる。
【0021】
1−3スリーブ54を、左方へ移動した場合は1速の変速比(1速被動歯車48bの歯数/1速駆動歯車48aの歯数)とAの積をEVモードの1速の変速比として駆動し、右方へ移動した場合は3速の変速比(3速被動歯車50bの歯数/3速駆動歯車50aの歯数)とAの積をEVモードの3速の変速比として駆動する。
また、5速スリーブ71を右方へ移動した場合は4速の変速比(3速被動歯車50bの歯数/4速駆動歯車70aの歯数)とBの積をEVモードの5速の変速比として駆動する。
したがって、EVモードでは上記の3種類の変速比で駆動することができる。
また、第2MG56を逆転させることで、上記3種類の変速比で後進の駆動が可能であるが、一般的に後進はEVモードの1速の変速比で走行する。
【0022】
なお、EVモードで走行中に1速と3速と5速、それぞれの間で変速する場合は、第2MG56による駆動を一旦やめて、1−3スリーブ54または5速スリーブを他方へ移動させてから再び第2MG56で駆動する方法と、後述するようにエンジン1を始動してHVモードの2速または4速に切り替えて駆動しつつ1−3スリーブ54または5速スリーブを他方へ移動させてから、エンジン1を停止してEVモードの走行に戻る方法の2つがある。
むろん、後者のやり方はエンジン1による駆動力で、出力軸40のトルクを維持したまま変速することができる。
【0023】
つぎに、停車中におけるエンジン1の始動からHVモードの5速に至る作動を説明する。なお、以降の説明で特に断らない場合は、1速、3速、5速の奇数段はHVモードでの駆動をいい、2速、4速の偶数段は歯車変速モードでの駆動をいう。
【0024】
停車中のエンジン1の始動は、クラッチ12を解放して、1−3スリーブ54を左側へ移動した1速駆動状態にしておいて、第1MG36を正転させるとキャリア28と入力軸10等を介して連結したクランク軸2が回転し、エンジン1への燃料供給と点火操作で始動することができる。1速の駆動状態でエンジン1を始動する理由は、つづくHVモードでの発進に備えるためである。
なお、上記作動中、エンジン1の始動で第1MG36を正転させたとき、リングギヤ24を逆転させる方向に反力トルクが作用するので、これを相殺するため一時的に第2MG56に正転方向のトルクを出させる。
【0025】
エンジン1が始動すると、そのトルクは遊星歯車20で2つに分割されて、一方のトルクはサンギヤ22から第1MG36を駆動して発電し、他方のトルクはリングギヤ24から1速駆動歯車48a、1速被動歯車48bなどを介して出力軸40を駆動する。
そして、第1MG36が発電した電力はコントローラーを通して第2MG56に供給され、第2MG56は上記のEVモードの1速と同様に出力軸40を駆動する。
したがって出力軸40は、リングギヤ24と第2MG56から駆動されて、1速にて自動車を発進させ、走行する。
【0026】
エンジン1のトルクと回転速度を一定とした場合、出力軸40および第2MG56の回転速度が低い場合はサンギヤ22および第1MG36の回転速度が高く、したがって第1MG36の発電電力が大きく、その電力の供給を受けて出力軸40を駆動する第2MG56の発生するトルクが大きい。
そして、出力軸40および第2MG56の回転速度が徐々に高くなるとともに、第1MG36の回転速度と発電電力が低下していき、第2MG56の発するトルクも低下していくという、いわゆる電気式CVTとしての作用で、出力軸40を駆動する。
この状態がHVモードにおける1速の走行である。
【0027】
つづいて、1速から2速への変速について説明する。
上記の1速における走行でさらに車速が高くなると、やがて第1MG36の回転速度が0(ゼロ)になり、さらには逆回転するようになる。
この、第1MG36の回転速度が0になる電気式CVTとしての速度比(入力軸10の回転速度/出力軸40の回転速度)の近辺に、2速の変速比(1速被動歯車48bの歯数/2速駆動歯車42aの歯数)を設定しておく。
そして、2−4スリーブ46を左方へ移動して2速の連結状態にしておいて、電気式CVTの速度比が2速の変速比とほぼ同じになったときにクラッチ12を接続するとともに、第1MG36の発電と第2MG56による駆動をやめて、それらを空転させると入力軸10のトルクは2速駆動歯車42aに作用するので、自動的かつスムーズに2速に切り替わる。2速は固定変速比の機械的な駆動である。
【0028】
つぎに、2速から3速への変速について説明する。
2速での駆動中は、中間軸34にはトルクがほとんど作用しないので、ここで1−3スリーブ54を中立にする。そして、コントローラーの制御により第1MG36と第2MG56の回転速度を変化させ、3速駆動歯車50aが中間軸34の回転速度と同じになるように制御する。つづいて1−3スリーブ54を右方へ移動して3速駆動歯車50aと中間軸34とを連結すると、3速として駆動可能な状態に切り替わる。
ここで、再び第1MG36に発電させ、その電力を第2MG56に供給して出力軸40を駆動させるとともに、クラッチ12を解放すると3速に切り替わる。
3速は、中間軸34と出力軸40との間の変速比が前述の1速と異なるのみで、1速で説明したのと同様に、いわゆる電気式CVTとしての作用で出力軸40を駆動する。
【0029】
つづいて、3速から4速への変速について説明する。
この場合も、上記の1速から2速への変速で説明したのと基本的に同じ手順で行う。
すなわち、3速において第1MG36の回転速度が0になる電気式CVTとしての速度比(入力軸10の回転速度/出力軸40の回転速度)の近辺に、4速の変速比(3速被動歯車50bの歯数/4速駆動歯車70aの歯数)を設定しておく。
これにより、上記の1速から2速への変速と同様に、4速へ切り替えることができる。4速は、2速と同様に固定変速比の機械的な駆動である。
【0030】
つぎに、4速から5速への変速について説明する。
この場合も、上記の2速から3速への変速で説明したのと基本的に同じ手順で行う。
すなわち、4速での駆動中は、中間軸34にはトルクがほとんど作用しないので、ここで5速スリーブ71を右方へ移動して、リングギヤ24と4速駆動歯車70aとを連結して5速の駆動が可能な状態にした上で、再び第1MG36に発電させ、その電力を第2MG56に供給して出力軸40を駆動させるとともに、クラッチ12を解放すると5速に切り替わる。
この場合、リングギヤ24と出力軸40の間は4速と同じ変速比であるが、駆動歯車24aと被動歯車34aの間の減速(減速比:A/B)がなくなるので前述の3速に較べて、それだけ低い変速比の電気的CVTになる。
【0031】
つづいて、運転条件の変化により、エンジン1が出力を出している状態で、5速から3速へ切り替える場合について説明する。
この場合は、2−4スリーブ46を4速の連結状態にしておいて、エンジン1の出力を維持したままでコントローラーの制御により第1MG36による発電と第2MG56による駆動を減らしつつ、クラッチ12を接続すると前述の4速に切り替わる。
【0032】
この4速で駆動しつつ、トルクの作用がなくなった5速スリーブ71を中立に戻した上で、コントローラーの制御により第1MG36と第2MG56の回転速度を、3速において4速の変速比と等しい電気式CVTの速度比になるように変化させるとともに、1−3スリーブ54を右方へ移動して3速の連結にして、再び第1MG36に発電させ、その電力を第2MG56に供給して出力軸40を駆動させるとともに、クラッチ12を解放すると3速に切り替わる。
【0033】
上記の説明は、5速から3速へ切り替える場合であるが、比較的低速走行中に5速から1速へ切り替えることも、上記と同様に可能である。
すなわち、5速で走行中に2−4スリーブ46を2速の連結状態にしておいて、エンジン1の出力を維持したままでコントローラーの制御により第1MG36による発電と第2MG56による駆動を減らしつつ、クラッチ12を接続すると前述の歯車変速モードの2速に切り替わる。
つづいて、2速で駆動しつつ、上記の4速から3速への切替えと同様の操作で、2速から1速へ切り替える。
むろん、2速で駆動しつつあるときに走行条件が変わったら、3速へ切り替えることも同様に可能である。
【0034】
つぎに、5速で走行中に制動する場合と、制動中に5速から3速へ切り替える場合について説明する。
5速で走行中に制動する場合は、ただちにエンジン1を停止するとともに、第2MG56に発電させる。第2MG56が発電した電力はバッテリーに蓄え、バッテリーに蓄えた電力は次にEVモードなどで自動車を加速する際に使用する、いわゆるエネルギー回生を行う。
【0035】
さらに強い制動を行う場合はつぎのように5速から3速へ切り替える。
すなわち、5速での制動中に第2MG56による制動をやめるとともに、2−4スリーブ46を4速の連結にしておいて、クラッチ12を接続すると歯車変速モードの4速に切り替わり、燃料を供給しないがエンジン1は回転する、いわゆるエンジンブレーキ状態になって制動力を維持する。
そして、前述と同様にトルクの作用がなくなった5速スリーブ71を中立にするとともに1−3スリーブ54を右方へ移動して3速の連結状態にする。
そして、第2MG56に発電させるとともに、クラッチ12を解放してエンジン1を停止させる。ここでも先述のように第2MG56の発電によるエネルギー回生をしながら、5速より強い制動力を得ることができる。
【0036】
さらに車速が低下して強い制動力を確保する場合は、3速から1速へ切り替える。
すなわち、上記の5速から3速への切替えと同様に、3速での制動中に第2MG56による駆動をやめるとともに、2−4スリーブ46を2速の連結にしておいて、クラッチ12を接続して2速に切り替えて、エンジンブレーキ状態にして制動力を維持する。
そして、前述の2速から1速への切替えと同様にトルクの作用がなくなった1−3スリーブ54を左方へ移動して1速の連結状態にし、第2MG56に発電させるとともに、クラッチ12を解放してエンジン1を停止させる。ここでも先述のように第2MG56の発電によるエネルギー回生をしながら、3速より強い制動力を得ることができる。
むろん、1速に切り替えた後、エネルギー回生による制動を続けることも、エンジン1を始動して1速で加速することも可能である。
【0037】
ここで、走行中のエンジン1の始動について説明する。
エンジン1が停止した走行中において、1−3スリーブ54、5速スリーブ71が1速、3速または5速の状態のいずれであっても第1MG36に発電させることで、キャリア28を介してクランク軸2を正回転させてエンジン1を始動することができる。
また、上記の2速または4速にして、クラッチ12を接続することでクランク軸2を正回転させてエンジン1を始動することもできる。
【0038】
なお、2速および4速は、1速と3速間、3速と5速間の切替えを行うためのポジションではあるが、動力伝達効率の高い固定変速比の機械的駆動として、燃費に有利な運転条件において定常的な駆動に用いることができるのは言うまでもない。
【0039】
以上が実施例1の作用の概要であるが、実施例1では以下のような効果を得ることができる。
HVモードの電気式CVTに、1速、3速、5速という副変速機としての機能を付加していながら、従来例のような油圧ポンプの駆動に伴うロスや、非作動の多板クラッチまたはブレーキでの引きずり抵抗というロスがないため、動力伝達効率が向上し、自動車の燃費や環境性能が向上する。
【0040】
そして、電気式CVT用3段の副変速機として、リングギヤ24と4速駆動歯車70aとを連結して5速の駆動をするので、5速専用の歯車を設けないで済む。このため、構造が簡単で重量も軽いので、この面でも燃費に有利であるとともに、製造コストも低く抑えることができる。
【0041】
図1は、いわゆるエンジン横置きの前輪駆動車に適した構成で説明したが、むろん、エンジンを車両後方に搭載した後輪駆動車にも適用可能である。
また、クラッチ12を一般的な乾式の摩擦クラッチとして説明したが、これを入力軸10と歯車駆動軸30を一体的に連結して、2−4スリーブ46の移動のみで2速、4速を切替える方式としてもよく、それに適宜ワンウエイクラッチを組み合わせることも可能である。
【実施例3】
【0047】
次に、本発明の実施例3の自動車用駆動装置につき説明する。
図3は、本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置における主要部のスケルトン図である。
ここでも、実施例1と異なる部分を中心に説明し、実施例1と実質的に同じ部分については、同じ符号を付しそれらの説明を省略する。
【0048】
実施例3における実施例1との違いは、第1に、入力軸10と出力軸40とを同じ回転中心にできるようにしたことである。
これに関連して、第2MG56を入力軸10と同じ回転中心に配置するとともに、その回転子56aをリングギヤ24と連結し、歯車駆動軸30と連結した副軸33を設け、これを入力軸10および出力軸40と平行に配置した。
第2の違いは、後進専用の第1後進歯車78、第2後進歯車80と、副軸33と平行な後進軸68を設けたことである。
【0049】
以下、詳細に説明する。
歯車駆動軸30と一体の第1駆動歯車30aは、副軸33と一体の第1被動歯車33aと噛み合っている。
中間軸34は、入力軸10および出力軸40と平行に配置しているが、リングギヤ24との連結は、リングギヤ24と一体の駆動歯車24aと中間軸34と一体の被動歯車34aの2個である。
副軸33は、歯車駆動軸30と一体の第1駆動歯車30aと副軸33と一体の副軸被動歯車33aが噛み合っており、副軸33は実質的に実施例1における歯車駆動軸30と同等とみなすことができる。
また、歯車駆動軸30と一体の5速ハブ30bと、該5速ハブ30bと係合した5速スリーブ71を設けてあり、この5速スリーブ71を左側へ移動してドッグ歯24cと連結することで、リングギヤ24と4速駆動歯車70aとを連結できる。それに加えて、2−4スリーブ46を4速駆動歯車70aと連結することで、リングギヤ24は4速駆動歯車70aと3速被動歯車50bを介して出力軸40を駆動可能になり、これが5速の連結である。
ここでも、4速駆動歯車70aは、第2回転要素のリングギヤ24と歯車駆動軸30とにそれぞれ連結可能な本発明の高速段歯車を構成する。
【0050】
後進軸68と一体の第1後進歯車78は駆動歯車24aと噛み合っている。なお、
図3では便宜上両者を離して描いてあるが、実際は鎖線で示すように噛み合っている。
後進軸68上に回転自在に設けた第2後進歯車80は第1被動歯車33aと噛み合っている。後進軸68と一体の後進ハブ82には、これと回転方向が一体で軸方向に移動可能な後進スリーブ84が設けられ、後進スリーブ84は
図3で描いた中立位置から右側へ移動することでその内歯が第2後進歯車80と一体のドッグ歯80cと噛み合って第2後進歯車80と後進軸68とを連結する。
したがって、第2後進歯車80と後進軸68とが連結すると、リングギヤ24は副軸33を逆転駆動することができる。
【0051】
次に、
図3に示した本発明の実施例3に係る自動車用駆動装置の作用を説明する。
ここでも、実施例1と異なる点を中心に説明する。
上記したように、一部の軸および歯車の配置は異なるが、後進軸68の周辺を除いて連結関係は基本的に実施例1と同じである。したがって、前進走行に関しては説明を省略する。
【0052】
後進に関しては、後進スリーブ84を右方へ移動して第2後進歯車80と後進軸68とが連結し、2−4スリーブ42を2速の連結状態にした上で、前進と同じように第2MG56の正転によるEVモードの後進と、エンジン1の始動および発進と走行を行うことができる。後進の駆動に用いるのが2速駆動歯車42a、2速被動歯車42bであるが、リングギヤ24と副軸33とを連結しているので、実施例3の後進だけはHVモードの2速での駆動になる。
【0053】
実施例3では、実施例1で説明した効果に加えて、以下のような効果を得ることができる。実施例3の自動車用駆動装置は、フロント・エンジン・リア・ドライブ(FR)車に適用することができるほか、いわゆるエンジン縦置き型の車両への適用性に優れる。
【0054】
以上の説明で分かるように、本発明の自動車用駆動装置は、多様な駆動モードを実現しながら、大きな引きずり抵抗を伴う湿式多板クラッチを用いていないので、一般的な自動変速機等で多用されている湿式多板型の油圧クラッチやブレーキを用いるのに較べて、油圧ポンプの駆動ロスや、非作動状態のクラッチやブレーキの引きずり抵抗を少なくして、動力伝達効率が高いことが最大のメリットである。
これにより、燃費が向上するとともに、環境面でも効果が期待できる。
以上は、1速から5速までの5段の例で説明したが、これに限ることなく変速段数を増やすことも可能である。
【0055】
本発明の自動車用駆動装置は、当業者の一般的な知識に基づいて、自動車の走行条件に応じて最適な駆動モードを選択して駆動を行うことや、GPS(全地球測位システム)、カーナビゲーションシステムなどの情報を基に、長い坂道の走行時や高速道路において最適な制御を行うなどの工夫と合わせた態様で実施することができる。