【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
実験
1.動物
11週齢のC57BL/6J系雄マウス(日本エスエルシー株式会社、静岡県)を標準的なポリカーボネート製ゲージにて、室温21〜23℃、相対湿度50%、そして12時間の明暗サイクル(午前7時に点灯;午後7時に消灯)に制御して、個別に飼育した。全ての動物は、筑波大学動物実験指針に基づき、動物実験委員会の承認を得て行われた。
【0035】
2.飼料
まず、マウスには、1週間の順化期間中、非精製基本飼料としてMF粉末飼料(オリエンタル酵母工業株式会社、東京都)及び水を自由摂取させた。マウスを4群分け、その後4週間、アスタキサンチンの代わりにプラセボ粉末を混ぜたMF飼料、又はアスタキサンチン(アスタリール(登録商標)パウダー20F;Haematococcus pluvialis由来のアスタキサンチンをフリー体換算値で2重量%含有する;富士化学工業株式会社、富山県)を様々な量で含有するMF飼料のいずれかを与えた。
【0036】
すなわち、マウスに与えた飼料は以下に示す4種のうちの1種である。
PL群:アスタキサンチン含量は0重量%であり、代わりにプラセボ粉末を含有させたMF粉末飼料
0.02%群:アスタキサンチンを0.02重量%含有するMF粉末飼料
0.1%群:アスタキサンチンを0.1重量%含有するMF粉末飼料
0.5%群:アスタキサンチンを0.5重量%含有するMF粉末飼料
【0037】
3.実験設計
個別に2種の実験を行った(
図1)。アスタキサンチン摂取による急性効果を除くために、各飼料を摂取させた最終日の翌日にサンプルをあつめた。
【0038】
4.BrdU投与及びサンプリング
5−ブロモ−2’デオキシウリジン(BrdU)は、チミジンアナログ分子として細胞周期のS期に細胞核へ取り込まれ、細胞の分裂や増殖、その後の生存を評価するのに用いられる。海馬神経新生を評価するためには、アスタキサンチン含有飼料を与える前日に、マウスに2回(午前8時及び午後8時)BrdU50mg/kg体重を腹腔内注射した。免疫組織化学のために、マウスに深麻酔を施し(ペントバルビタール、100mg/kg体重)、0.9%生理食塩水を経心腔的に潅流させて血液を取り除いた。潅流後、すぐに脳を取り出した。脳を、免疫組織化学用(左脳)と、DNAマイクロアレイ用(右脳)とに分けた。すぐに右脳の海馬を解剖し、−80℃で保存した。左脳は4%パラホルムアルデヒド溶液(ナカライテスク株式会社、京都府)において4℃で24時間固定した。
【0039】
5.免疫組織化学
選択した連続脳切片を免疫蛍光染色により調べた。サンプルを凍結組織切片作成装置を用いて50μmの冠状切片とし、リンスした後、インキュベーションした。一次抗体には、ラットモノクローナル抗BrdU抗体及びマウスモノクローナル抗NeuN抗体を用いた。二次抗体には、Cy3ロバ抗ラット抗体及びAlexa488ロバ抗マウス抗体を用いた。
【0040】
Ki67陽性細胞を調べるために、様々な連続切片を免疫蛍光染色に供した。切片を2%正常ヤギ血清を含むブロッキング溶液(2%NGS−PBT)を用いてインキュベーションした。切片を4℃で48時間2%NGS−PBTで希釈した一次抗体とともにインキュベーションした。一次抗体は、ウサギモノクローナル抗Ki67抗体及びマウスモノクローナル抗NeuNであった。切片を4℃で24時間適切な二次抗体とともにインキュベーションした。二次抗体は、Alexa488抱合ロバ抗マウス抗体及びCF555抱合ロバ抗ウサギ抗体であった。切片をLeica DMRB光学顕微鏡で分析した。歯状回内の増殖細胞(Ki67
+)、新生細胞の生存(BrdU
+)及び新生成熟細胞(BrdU
+/NeuN
+)といった標識細胞を計数した。細胞の総数は、全切片における平均細胞密度と歯状回総体積の積から計算した。
【0041】
6.モリス水迷路
モリス水迷路を日中(午後1時と午後4時の間)行った。非毒性顔料を添加して不透明化した水道水(20〜22℃)を入れた黒色プラスティック円形プール(直径150cm、バイオリサーチセンター株式会社、愛知県)でマウスを試験した。四分円のうちの1つの表面から0.5cm下には、透明のエスケーププラットフォーム(直径15cm)があった。空間学習逃避訓練を、10分間の休憩をはさんで、1日4回4日間おこなった。各訓練では、隠されたプラットフォームにたどり着くまで、又は最大60秒間経過するまでマウスを泳がせた。マウスがプラットフォームを見つけられなかった場合には、プラットフォームへ誘導補助した。各訓練後に、マウスをプラットフォーム上で10秒間待機させた。
【0042】
空間記憶力を評価するプローブテストでは、隠されたプラットフォームを取出し、マウスを60秒間泳がせた。各四分円についやした総時間を記録した。各学習訓練及びプローブテストについての行動パラメータはビデオで記録した。
【0043】
7.DNAマイクロアレイ分析及びIngenuity Pathway Analysis(IPA)
総RNAをQIAGEN RNeasy Mini Kit(QIAGEN、米国)を用いて粉末化サンプルから抽出した。総RNAの量及び質を、分光光度的に及びホルムアルデヒドアガロースゲル電気泳動により決定した。4種のランダムに選択したマウスから同量の総RNAをDNAマイクロアレイ分析用にプールした。Agilent Low RNA Input Fluorescent Linear Amplification Kit (Agilent Technologies、米国)を用いてDye−swap法と組み合わせて、総RNAをCy3又はCy5の色素で標識した。PL群及びアスタキサンチン0.5%群サンプルの蛍光標識ターゲットを60merのプローブとともに、同じマイクロアレイスライドにハイブリダイズさせた。生物学的機能及び遺伝子相互作用ネットワークを、IPAソフトウェアにより生成した。
【0044】
8.逆転写酵素PCR
cDNA合成は、1μgの総RNAを用いてAffinity Script QPCR cDNA Synthesis Kit(Agilent Technologies、米国)により実施した。反応混合物は一本鎖cDNA0.6μL、各プライマーセット7pmol及びEmerald Amp PCR Master Mix(宝酒造株式会社、京都府)6.0μLを含み、総量は12μLであった。Thermal cycling(C1000(商標); Thermal Cycler; Bio-Rad Laboratories、米国カリフォルニア州)のパラメータは、97℃5分間の最初の変性後、22〜38サイクルとして、サンプルを増幅させた。PCR完了後、総反応混合物を1.6%アガロース(ナカライテスク株式会社、京都府)ゲルのウェルにのせた。次に、電気泳動を20分間100ボルトで、1×TAE緩衝液においてMupid-exU 電気泳動装置(株式会社アドバンス、東京都)を用いて実施した。ゲルをエチジウムブロミドで7分間染色し、染色したバンドをImage Quant LAS 4000 system(GEヘルスケア・ジャパン株式会社、日本)を用いて可視化した。mRNA発現を各サンプルについて、Gapdhの mRNAレベルに正規化した。
【0045】
9.統計分析
免疫組織化学及びプローブテストを、一元配置分散分析法により、続いてBonferroni's多重比較検定により分析した。RT−PCRについての群間(PL群vs0.5%群)の差の結果を、unpaired t-testにより分析した。逃避潜時及び遊泳速度を、二元配置反復測定分散分析法により、続いてpost-hocとしてのBonferroni's多重比較検定により分析した空間記憶とmRNA発現との間の相関は、ピアソン相関分析法により計算した。統計学的有意性は、P<0.05であった。
【0046】
結果
1.アスタキサンチンは成体海馬神経新生を高める
アスタキサンチン摂取が生体海馬神経新生を増大するのか否かを決定するため、マウスに種々含量(0%、0.02%、0.1%及び0.5%)のアスタキサンチンを混ぜた餌を4週間与えた。多段階の生体海馬神経新生がアスタキサンチンにより影響されるのか否かを検討した。0.1%及び0.5%アスタキサンチンは、両者ともに対照に比べて、有意にKi67陽性細胞数を増加させた(神経前駆細胞の増殖)(F(
3,19)=7.92、P<0.01)。同様に、0.1%及び0.5%のアスタキサンチンは、両者ともに対照よりも、新生神経の生存を示すBrdU陽性細胞数が有意に高かった(F(
3,19)=10.65、P<0.001)。また、0.5%のアスタキサンチンは、0.02%のアスタキサンチンに比べて、有意にBrDU陽性細胞を増加させた(P<0.01)。他方、新生神経の成熟を示すBrdU/NeuNの二重陽性細胞数は、対照に比べて、0.5%アスタキサンチンでのみ有意に増大したが(F
(3,19)=4.75、P<0.05)、0.1%アスタキサンチンではそうではなかった(
図2)。これらの所見から、アスタキサンチンは用量依存的に全ての段階で成体海馬神経新生を高めることが示唆された。成体海馬神経新生という結果に基づき、0.5%のアスタキサンチンによる海馬での認知を評価したが、それは特には新生成熟神経の増大において、成人海馬神経新生に最も効果があった。
【0047】
2.アスタキサンチンは海馬依存認知機能を高める
用量依存的な実験の結果を受けて、新生神経の成熟を最も促進させるアスタキサンチンの摂取が海馬依存的な機能、例えば空間学習や記憶も高めるのか否かをモリス水迷路を用いて検討した。反復測定のための二元配置反復測定分散分析(群×日)により、逃避潜時について、日(F
(3,57)=26.11、P<0.0001)及び群(F
(1,19)=5.16、P<0.05)に主な効果が示された(
図3A)。0.5%のアスタキサンチンの群はずっと早い学習曲線を描いたが、続くpost-hoc試験では、両群での学習パフォーマンスが向上した。また、0.5%のアスタキサンチンの群は、4日目のみ対照群よりも速い逃避潜時を示した(P<0.05)。しかしながら、遊泳速度においては、両群間で、有意差はなく(F
(1,19)=0.68、P=0.42)、遊泳能は学習時に観察された差異には影響しなかった(
図3B)。学習期間の終わりに参照記憶を確認するため、隠されたプラットフォームを、最終訓練日後に、プローブテストのために取り除いた。プローブテストでは、他のいずれかの四分円に比べて、ターゲットとした四分円(NW)で、0.5%のアスタキサンチンの群のみが有意な時間を費やした(F
(3,39)=4.07、P<0.05)(
図3C)。これらの所見から、アスタキサンチンの摂取により、神経回路として成体海馬神経新生が増大したことによるであろう学習能力の向上だけでなく、空間記憶の保持が示唆された。
【0048】
3.アスタキサンチンは海馬遺伝子発現変化を差異的に誘導する
0.5%アスタキサンチンが誘導した成体海馬神経新生のうらにあるであろう分子機構を特定するために、DNAマイクロアレイ分析を用いてマウス海馬で様々に発現される遺伝子を、0.5%アスタキサンチン群及びその対照群(0%アスタキサンチン)において比較した。多数のアスタキサンチン調節遺伝子を同定した。アスタキサンチンを4週間摂取後、348の遺伝子が上方制御(>=1.5倍変化)され、229の遺伝子が下方制御(<=0.75倍変化)されていた。本研究で用いたDNAマイクロアレイ分析の結果は、GSE62197のアクセッション番号でGene Expression Omnibus(GEO)に寄託された。
【0049】
4.IPAでは遺伝子相互作用ネットワークのアスタキサンチンによる生物学的機能が明らかとなる
DNAマイクロアレイによりアスタキサンチンが誘導した遺伝子発現のデータセットが明らかとなったが、アスタキサンチン摂取に応答して、アノテーションされた遺伝子の生物学的機能、そして考えられる分子ネットワークを同定するためにIPAを行った。アノテーションされた遺伝子は、141の上方制御遺伝子、そして176の下方制御遺伝子を明らかにした。
【0050】
本発明者らは2つの重要なネットワーク(2及び9)を選択し、アスタキサンチンにより高められる成体海馬神経新生に関連する可能性のある分子因子/経路を研究した(
図4)。ネットワーク2では、広く脳機能のための神経内分泌ホルモンであるPrl遺伝子が、主な分子であった。Mapk(分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ)及びCreb(cAMP応答エレメント結合)遺伝子が、このネットワークでのPrl遺伝子の可能性のある下流分子であると考えられた。ネットワーク9では、Itga4(インテグリンアルファ4)遺伝子が上方制御され、Fak(焦点接着キナーゼ)のための考えられる下流遺伝子がマッピングされた。他の上方制御遺伝子としては、抗炎症サイトカインであるIl4(インターロイキン4)がその下流分子であるPi3k(ホスホイノシチド3キナーゼ)に関連していた。半定量的RT−PCRを用いて、各サンプルにおけるPrl、Itga4及びIl4関連下流因子の発現を確認した。
【0051】
5.RT−PCRによるアスタキサンチン特異的遺伝子発現の確認
IPAネットワーク分析によりアスタキサンチン摂取による成体海馬神経新生の増大に貢献しているであろうと考えられる分子経路が明らかとなった。確認するために、RT−PCRを行い、12の遺伝子を確認した。Itga4、Il4、Il4ra(インターロイキン4受容体アルファ)、Mapk1、Mapk7、Fak、Jak1(ヤーヌスキナーゼ1)、Akt及びCreb(P<0.5)のmRNA発現が、対照に比べて0.5%のアスタキサンチンにより有意に増大していた。しかしながら、Prl(P=0.12)、PrlR(プロラクチン受容体)(P=0.28)及びPi3k(P=0.06)のmRNA発現については、群間に有意差は見られなかった。これにより、DNAマイクロアレイ及びバイオインフォマティクス分析の充分な検証がなされた。
【0052】
6.アスタキサンチン特異的であると考えられる空間記憶に関連した分子
モリス水迷路の後に、空間学習及び記憶の根底にありアスタキサンチンにより誘導されると考えられる機構を調べるために、IPA分析から仮定された遺伝子を確認した。モリス水迷路の後に、海馬組織を解剖し、アスタキサンチン誘導遺伝子を反復してRT−PCRにより確認した。mRNA発現を
図5に示す。さらに、標的四分円についやした時間のパーセンテージは、Mapk7(r=0.53、P<0.05)、Fak(r=0.58、P<0.05)、Jak1(r=0.49、P<0.05)及びAkt(r=0.56、P<0.05)についてポジティブに相関していた。これらの所見から、アスタキサンチンにより高められた空間記憶は部分的に可能性のある分子因子の増大が介在していると実証された。
【0053】
考察
アスタキサンチン摂取は成体海馬神経新生を高め、空間分子回路による空間記憶を向上させた。DNAマイクロアレイ及びバイオインフォマティクス分析では、Prl、Itga4及びIl4遺伝子が成体海馬神経新生を促進すると考えられる因子であることが明確となり、空間記憶に関連して上方制御され、これらの遺伝子のいくつかの下流因子はアスタキサンチンにより空間記憶のパフォーマンスが高められることとポジティブに関連していた。これらの結果は、アスタキサンチン摂取が、関連すると考えられる分子を誘導することにより、空間記憶の向上のために、成体海馬神経新生の段階的な進行を促すことに効果的な役割を果たしていることを示す。
【0054】
本発明者らは、まずアスタキサンチン摂取が成体海馬神経新生について、ポジティブで用量依存的な効果を有するのか否かを調べた。結果は、明らかに用量依存的に、アスタキサンチンが成体海馬神経新生の2つの発達段階(増殖及び成熟/生存)において効果を奏することを示し、0.5%で最も効果的であった。脳、特には海馬に及ぼすアスタキサンチンの有益な効果は、末梢での抗酸化効果(0.02%アスタキサンチン)に必要とされるよりも高い用量を必要とするようであった。効果は、アスタキサンチンが、インビボでの細胞増殖及び成熟を含む、多段階による成体海馬神経新生を高めるということに特有であった。新生細胞の増殖を示すKi67陽性細胞数は、0.1%及び0.5%アスタキサンチンで増大した。しかしながら、新生神経の成熟(BrdU
−/Neu
+)は0.5%アスタキサンチンでのみ増大しており、特には新生成熟神経の増大、成体海馬神経新生の進行のための最も有効な用量として0.5%アスタキサンチンが海馬機能に直接関係することが示された。
【0055】
新たな証拠から、マウスにおけるアスタキサンチン誘導成体海馬神経新生による海馬依存性の空間学習及び記憶に有益な効果が示された。0.5%アスタキサンチン群は、モリス水迷路での記憶習得の4日目に優れた学習を発揮し、プローブテストの間、空間記憶の保持を高めた。新生神経は海馬依存性の学習及び記憶に機能的に決定的な役割を担うことを示す証拠は増えている。本実施例により、0.5%アスタキサンチンの機能的な結果を空間行動実験とともに特定したが、アスタキサンチンにより高められた成体海馬神経新生は特異的な用量で海馬依存性の学習及び記憶において支配的な役割を果たすことが示された。この結果はモリス水迷路における空間記憶が歯状回での新生神経とポジティブに関連することにより支持されている。これまでに、海馬依存性の認知機能についての効果が示されたことはなかった。本発明者らはモリス水迷路を用いて海馬依存性の空間記憶についてのアスタキサンチンの新たな効果を示した。よって、アスタキサンチンは成体マウスで海馬神経新生とともに、空間学習及び記憶を高めるのに有益な化合物であった。
【0056】
ニュートリゲノミクス研究によれば、栄養性の化合物により導かれる適応性変化の背景にある分子メカニズムを理解するための優れた機会が与えられる。本発明者らは、41,252個のプローブからなる全ゲノムDNAマイクロアレイチップを用いて、0.5%アスタキサンチンにより導かれる特有の海馬遺伝子プロファイルを得、そして続くIPAにより成体海馬神経新生及び空間記憶に関する2つの顕著な分子ネットワーク2及び9を特定した。多数の遺伝子のうち、Prlは最も上方制御された遺伝子であり、ネットワーク2では鍵となる因子も見つかった。成体海馬神経の進行に深く関与するMapk及びCreb遺伝子も、Prl遺伝子の下流にありうる因子としてこのネットワークに現れた。PRLタンパク質は、MAPK7発現により介在する成体海馬神経新生及び海馬神経可塑性における重要な制御因子として報告されてきた。別の顕著な遺伝子候補はCsh1(絨毛性乳腺刺激ホルモン様1)であり、これはマウスにおけるGh(成長ホルモン)としてよく知られている。海馬におけるGhのmRNA及びその受容体の存在は、成体海馬神経新生及び空間記憶の制御に関係していると以前に報告されている。よって、PRLやGHといった神経内分泌ホルモンが、アスタキサンチンにより高められた成体海馬神経新生や空間記憶に制御因子として関与する可能性がある。
【0057】
さらには、0.5%アスタキサンチンは、LIMホメオドメイン転写ファミリーのメンバーであるLhx8(LIMホメオボックス8)、Isl1(ISL LIMホメオボックス1)及びHoxb2(ホメオボックスB2)遺伝子を下方制御した。これらの因子は出生後段階では神経発達の重要な制御因子であるが、いくつかのLIMホメオボックス遺伝子は神経活性による出生後及び成体海馬の両者で差次的に制御される。
【0058】
ネットワーク9では、海馬での機能があまり知られていないItga4遺伝子も同定された。抗炎症サイトカインであるIl4遺伝子も鍵モジュールであるとして同定され、神経活性の潜在的な制御因子として働くので、その欠損は空間記憶の障害に至るであろう。
【0059】
まとめると、アスタキサンチン摂取によれば、成体海馬神経新生及び空間記憶が高められる。DNAマイクロアレイ及びバイオインフォマティクス分析により、海馬依存性の認知機能についてアスタキサンチンの神経原性効果に新たな分子見識が得られた。