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特開2017-218525リン酸化セルロース繊維の製造方法及びセルロース含有物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-218525(P2017-218525A)
(43)【公開日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】リン酸化セルロース繊維の製造方法及びセルロース含有物
(51)【国際特許分類】
   C08B 5/00 20060101AFI20171117BHJP
【FI】
   C08B5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-115012(P2016-115012)
(22)【出願日】2016年6月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】松原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【テーマコード(参考)】
4C090
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA27
4C090BB64
4C090BD08
4C090BD19
4C090BD35
4C090CA04
4C090CA38
4C090DA21
4C090DA32
(57)【要約】
【課題】本発明は、リン酸化セルロース繊維の生産効率を高めることを課題とする。
【解決手段】本発明は、セルロース繊維をリン酸化する工程を含むリン酸化セルロース繊維の製造方法であって、反応系の初期含水率が40質量%未満であるリン酸化セルロース繊維の製造方法に関する。本発明は、このような製造方法で製造されたセルロース含有物及び繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むセルロース含有物に関するものでもある。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維をリン酸化する工程を含むリン酸化セルロース繊維の製造方法であって、
反応系の初期含水率が40質量%未満であるリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記リン酸化する工程は、前記セルロース繊維と、有機溶媒と、リン酸化剤と、を混合する工程を含む請求項1に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、アニリン、ピリジン、キノリン、ルチジン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン及び尿素から選ばれる少なくとも1種を含む請求項2に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
前記リン酸化剤は、脱水縮合リン酸、無水リン酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種を含む請求項2又は3に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
前記リン酸化する工程は、加熱をする工程を含み、
前記加熱をする工程において140℃で加熱をした場合に、加熱開始時から60分経過時までのリン酸化反応速度が0.018mmol/g・min以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸化する工程を経る前のセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定した比粘度をV1とし、前記リン酸化する工程で得られるセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定した比粘度をV2とした場合、V2/V1の値が0.74以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
前記リン酸化する工程で得られるセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定される比粘度が8.0以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
【請求項8】
繊維幅が1000nm以下であるセルロース繊維を含むセルロース含有物であって、
前記セルロース含有物を固形分濃度が0.4質量%となるように水により希釈して得られるスラリーの、3rpm、液温25℃の条件にてB型粘度計により測定される粘度が14500mPa・s以上であるセルロース含有物。
【請求項9】
0.1mmol/g以上のリン酸基を有するセルロース繊維を含み、かつTappi T230に準じて測定される比粘度が8.0以上であるセルロース含有物。
【請求項10】
Tappi T230に準じて測定して得られる重合度が870以上である請求項9に記載のセルロース含有物。
【請求項11】
有機溶媒成分を含む請求項9又は10に記載のセルロース含有物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸化セルロース繊維の製造方法及びセルロース含有物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
また、繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。微細繊維状セルロースはシートや複合体の構成原料として用いることができる。微細繊維状セルロースを用いた場合、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。また、微細繊維状セルロースは、増粘剤などの用途へ使用することも検討されている。
【0004】
微細繊維状セルロースは、従来のセルロース繊維を機械処理することで製造可能であるが、セルロース繊維同士は水素結合により、強く結合している。したがって、単純に機械処理を行うのみでは、微細繊維状セルロースを得るまでに膨大なエネルギーが必要となる。
【0005】
より小さな機械処理エネルギーで微細繊維状セルロースを製造するためには、機械処理と合わせて、化学処理や生物処理といった前処理を行うことが有効であることが知られている。特に、化学処理により、セルロース表面のヒドロキシル基に親水性の官能基(例えば、カルボキシル基、カチオン基、リン酸基など)を導入すると、イオン同士の電気的な反発が生じ、かつイオンが水和することで、特に水系溶媒への分散性が著しく向上する。このため、化学処理を施さない場合に比べて微細化のエネルギー効率が高くなる。
【0006】
例えば、特許文献1及び2には、リン酸基がセルロースのヒドロキシル基とエステルを形成したリン酸化微細繊維状セルロース及びリン酸化微細繊維状セルロースの製造方法が開示されている。特許文献2では、リン酸化反応工程を尿素の存在下で行うことや、リン酸化反応工程を複数回行うことでリン酸基導入量を増加させることが検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/073652号公報
【特許文献2】国際公開第2014/185505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、さらに効率よくリン酸化セルロース繊維を製造する方法を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、セルロース繊維をリン酸化する工程における反応系の初期含水率を所定値以下とすることにより、リン酸化セルロース繊維の生産効率を高め得ることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0010】
[1] セルロース繊維をリン酸化する工程を含むリン酸化セルロース繊維の製造方法であって、反応系の初期含水率が40質量%未満であるリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[2] リン酸化する工程は、セルロース繊維と、有機溶媒と、リン酸化剤と、を混合する工程を含む[1]に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[3] 有機溶媒が、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、アニリン、ピリジン、キノリン、ルチジン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン及び尿素から選ばれる少なくとも1種を含む[2]に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[4] リン酸化剤は、脱水縮合リン酸、無水リン酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種を含む[2]又は[3]に記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[5] リン酸化する工程は、加熱をする工程を含み、加熱をする工程において140℃で加熱をした場合に、加熱開始時から60分経過時までのリン酸化反応速度が0.018mmol/g・min以上である[1]〜[4]のいずれかに記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[6] リン酸化する工程を経る前のセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定した比粘度をV1とし、リン酸化する工程で得られるセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定した比粘度をV2とした場合、V2/V1の値が0.74以上である[1]〜[5]のいずれかに記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[7] リン酸化する工程で得られるセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定される比粘度が8.0以上である[1]〜[6]のいずれかに記載のリン酸化セルロース繊維の製造方法。
[8] 繊維幅が1000nm以下であるセルロース繊維を含むセルロース含有物であって、セルロース含有物を固形分濃度が0.4質量%となるように水により希釈して得られるスラリーの、3rpm、液温25℃の条件にてB型粘度計により測定される粘度が14500mPa・s以上であるセルロース含有物。
[9] 0.1mmol/g以上のリン酸基を有するセルロース繊維を含み、かつTappi T230に準じて測定される比粘度が8.0以上であるセルロース含有物。
[10] Tappi T230に準じて測定して得られる重合度が870以上である[9]に記載のセルロース含有物。
[11] 有機溶媒成分を含む[9]又は[10]に記載のセルロース含有物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、リン酸化セルロース繊維の生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0014】
(リン酸化セルロース繊維の製造方法)
本発明は、セルロース繊維をリン酸化する工程(以下、リン酸化反応工程ともいう)を含むリン酸化セルロース繊維の製造方法に関する。本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法における反応系の初期含水率は40質量%未満である。
【0015】
本発明では、反応系の初期含水率を所定値未満とすることにより、効率よくリン酸化セルロース繊維を製造することができる。本発明においては、リン酸化セルロース繊維を製造する際にかかるエネルギーコストを削減することができる。また、リン酸化反応工程におけるリン酸化反応時間を短縮することができる。これにより、リン酸化セルロース繊維の生産効率を高めることができる。
セルロース繊維のリン酸化反応は実質的に水が存在しない条件下で進行する。しかし、従来は、リン酸化反応工程におけるセルロース繊維の溶媒は、リン酸化剤の溶解性を高め均一分散をさせやすくするために水系溶媒であることが好ましいと考えられていた。このためリン酸化反応が進行するまでに時間を要するという問題があった。本発明では、敢えて、リン酸化反応工程における溶媒の初期含水率を低くすることにより、セルロース繊維のリン酸化反応の開始時点を早め、さらに、リン酸化反応時のリン酸基導入速度を速めることに成功したものである。特に、リン酸化反応の開始時から所定時間経過時までのリン酸化反応の速度を速めることができるため、リン酸化反応工程にかかる時間を大幅に短縮することができる。これにより、リン酸化セルロース繊維の生産効率を効果的に高めることができる。
【0016】
ここで、反応系の初期含水率とは、リン酸化反応工程において、セルロース繊維とリン酸化反応に必要なリン酸化剤を混合した直後の含水率であり、実質的にはリン酸化反応が始まる前の混合物の含水率である。反応系の初期含水率は、リン酸化反応工程において、はじめに混合される各種成分の含水率から算出することができる。例えば、リン酸化反応工程において、セルロース繊維とリン酸化剤のみが混合される場合は、セルロース繊維の含水率と、リン酸化剤が有する含水率から、反応系の初期含水率を算出することができる。また、リン酸化反応工程において、セルロース繊維と、リン酸化剤と、溶媒が混合される場合や、セルロース繊維が溶媒に分散したスラリー状である場合には、セルロース繊維の含水率と、リン酸化剤が有する含水率と、溶媒の含水率から反応系の初期含水率を算出することができる。さらに、セルロース繊維がヘミセルロースなどを含むセルロース含有物として混合される場合には、セルロース含有物の含水率と、リン酸化剤などの他成分の含水率を算出して初期含水率を求めることができる。
【0017】
反応系の初期含水率は、40質量%未満であればよく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましく、3.5質量%以下であることが特に好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。反応系の初期含水率を上記範囲内とすることにより、リン酸化反応時のリン酸基導入速度を速めることができ、リン酸化セルロース繊維の生産効率を高めることができる。
【0018】
本発明においては、たとえばセルロース繊維を含むセルロース含有物のリン酸化反応を行うことにより、セルロース繊維をリン酸化することができる。セルロース含有物は、セルロース繊維からなるものであってもよいが、セルロース繊維以外に、グリコシド結合によって単糖が2個以上結合した多糖類などの他の成分を含んでいてもよい。単糖としては、例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、キシロース等が挙げられる。多糖類には、これらの単糖が2個結合した二糖類やオリゴ糖類も含まれる。セルロース繊維以外の多糖類としては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヘミセルロース等が挙げられる。また、上記他の成分としては、パルプなどの原料に由来する、多糖類以外の成分が含まれていてもよい。
本実施形態において、リン酸化反応工程に供されるセルロース含有物は、たとえばセルロース繊維を75質量%以上含むものであることが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、85質量%以上含むことがさらに好ましい。これにより、リン酸化セルロース繊維の製造効率をより効果的に向上させることが可能となる。一方で、セルロース含有物中に含まれるセルロース繊維の含有量の上限値は、特に限定されず、たとえば100質量%とすることができる。なお、セルロース含有物としては、たとえば後述するパルプを挙げることができる。
【0019】
リン酸化セルロース繊維の製造方法は、たとえばリン酸化反応工程の後には、さらに解繊処理工程を含むことができる。このような解繊処理工程を経ることにより、リン酸化されたセルロース繊維は微細化され、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(微細繊維状セルロース)を得ることができる。
【0020】
<リン酸化反応工程>
リン酸化反応工程は、セルロース繊維にリン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)を導入する工程である。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には−PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0021】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化1】
【0022】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1以上n以下の整数)およびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0023】
セルロース繊維の原料(以下、繊維原料ともいう)としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きく、重合度の高い長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。重合度の高い微細繊維状セルロースを用いると高粘度が得られる傾向がある。
【0024】
リン酸化反応工程では、セルロース繊維に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化剤」又は「化合物A」ともいう)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化剤は、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーにリン酸化剤の粉末や水溶液を添加してもよい。すなわち、リン酸化反応工程は、少なくとも、セルロース繊維とリン酸化剤を混合する工程を含む。
【0025】
また、リン酸化反応工程は、セルロース繊維と、リン酸化剤と、溶媒と、を混合する工程を含むことがより好ましい。ここで、溶媒は、セルロース繊維のスラリーに含まれる溶媒であってもよく、セルロース繊維もしくはセルロース繊維スラリーとは別に添加される溶媒であってもよい。溶媒の含水率は、40質量%未満であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることがよりさらに好ましく、5質量%以下であることが特に好ましく、3.5質量%以下であることがより特に好ましく、1質量%以下であることが最も好ましい。中でも、溶媒は有機溶媒であることが特に好ましく、有機溶媒のみからなるものであることが最も好ましい。
【0026】
リン酸化反応工程において用いられる有機溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチルピロリドン(NMP)、アニリン、ピリジン、キノリン、ルチジン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジオキサン及び尿素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも、有機溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)及び尿素から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、有機溶媒としては、上述した有機溶媒を1種のみ用いてもよいが、2種以上を混合した有機溶媒を用いてもよい。この場合、有機溶媒には尿素を混合することが好ましい。なお、尿素は、リン酸化反応工程中では、有機溶媒として用いられるが、後述するリン酸化剤として機能してもよい。
【0027】
リン酸化反応工程は、セルロース繊維にリン酸化剤を反応させることにより行うことができるが、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」ともいう)の存在下で行ってもよい。
【0028】
化合物Aを化合物Bの共存下でセルロース繊維に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態のセルロース繊維に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、セルロース繊維のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態のセルロース繊維に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。セルロース繊維の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0029】
リン酸化剤(化合物A)は、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。リン酸化剤としては、例えば、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩、脱水縮合リン酸、無水リン酸、リン酸等が挙げられる。中でも、リン酸化剤は、脱水縮合リン酸、無水リン酸及びリン酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。なお、リン酸としては、種々の純度のものを使用することができ、たとえば100%リン酸(正リン酸)や85%リン酸を使用することが可能である。正リン酸は、例えば、五酸化二リンとリン酸を反応させることにより得ることができる。具体的には、氷浴中で、五酸化二リンに対し、85%リン酸をゆっくり滴下することで得ることができる。脱水縮合リン酸は、リン酸が脱水反応により無機高分子となったものであり、例えばピロリン酸、ポリリン酸等を挙げることができる。無水リン酸としては、五酸化二リン等を挙げることができる。
【0030】
反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率がより高くなることからリン酸化剤(化合物A)は水溶液として用いることが好ましい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。リン酸化剤(化合物A)の水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0031】
繊維原料に対するリン酸化剤(化合物A)の添加量は特に限定されないが、リン酸化剤(化合物A)の添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、リン酸化セルロース繊維の収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量は100質量%以下とすることにより、収率向上の効果とコストのバランスをとることができる。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0032】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1−フェニル尿素、1−ベンジル尿素、1−メチル尿素、1−エチル尿素などが挙げられる。
【0033】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0034】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0035】
本実施形態においては、たとえばリン酸化反応工程は、セルロース繊維を含むセルロース含有物をリン酸化する工程であってもよい。この場合、リン酸化反応工程は、たとえばセルロース含有物と、溶媒と、化合物Aと、必要に応じて化合物Bと、を混合する工程を含むこととなる。なお、セルロース含有物としては、たとえば上記に例示した繊維原料を用いることが可能である。
【0036】
リン酸化反応工程は、さらに加熱をする工程(以下、加熱処理工程ともいう)を有することが好ましい。加熱処理工程における加熱処理温度は、セルロース繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0037】
加熱処理の際、化合物Aを添加したセルロース繊維スラリーに水が含まれている間において、セルロース繊維を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は撹拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0038】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、重合度の高い微細繊維を得ることができる。
【0039】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上60分以下であることがより好ましく、10秒以上1500秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0040】
セルロース繊維へのリン酸基の導入量は、0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、リン酸化セルロース繊維に解繊処理を施す際にはセルロース繊維の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0041】
セルロース繊維へのリン酸基の導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的にはリン酸化反応工程後に得られたスラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。なお、上記測定は、解繊処理を施したリン酸化セルロース繊維を用いて行ってもよい。本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法が解繊処理工程を含む場合、リン酸基の導入量の測定は、解繊処理工程後に得られたスラリーを用いて行ってもよく、リン酸化セルロース繊維の製造方法が解繊処理工程を含まない場合は、上記測定前に解繊処理を行ってもよい。
【0042】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0043】
本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法は、加熱処理工程においては、リン酸化反応速度が速い点にも特徴がある。例えば、加熱処理工程において、140℃で加熱をした場合に、加熱開始時から60分経過時までのリン酸化反応速度は、0.018mmol/g・min以上であることが好ましく、0.020mmol/g・min以上であることがより好ましく、0.022mmol/g・min以上であることがさらに好ましい。本発明においては、加熱開始時から所定時間経過時までの初期のリン酸化反応速度が十分に高く、これにより、リン酸化セルロース繊維の製造工程におけるエネルギー効率を高めることができる。
【0044】
加熱処理工程において、140℃で加熱をした場合に、加熱開始時から60分経過時までのリン酸化反応速度は、以下の方法で算出することができる。まず、加熱開始時から10分経過時、20分経過時、30分経過時、40分経過時、50分経過時、60分経過時のそれぞれの時間におけるリン酸基導入量を上述した方法で測定する。次いで、縦軸がリン酸基導入量(mmol/g)、横軸が反応時間(min)とし、得られたデータをグラフにプロットする。プロットしたグラフにて近似直線を作成し、近似直線の傾きを反応速度a(mmol/g・min)とする。
【0045】
リン酸化反応工程を経る前のセルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定した比粘度をV1とし、リン酸化反応工程で得られるセルロース繊維を含むセルロース含有物(以下、リン酸化セルロース含有物ともいう)のTappi T230に準じて測定した比粘度をV2とした場合、V2/V1の値は0.74以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.81以上であることがさらに好ましい。また、V2/V1の値は1.5以下であることが好ましい。本発明においては、リン酸化反応工程を経てもリン酸化セルロース含有物の比粘度の低下が少ない点に特徴があり、このようにして得られたセルロース含有物は優れた増粘特性を発揮することができる。なお、セルロース含有物は、たとえばセルロース繊維を75質量%以上含むものであることが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、85質量%以上含むことがさらに好ましい。セルロース含有物はセルロース繊維からなるものであってもよく、上述した多糖類などの他の成分を含むものであってもよい。
【0046】
セルロース含有物及びリン酸化セルロース含有物の比粘度はTappi T230に従って、以下の方法で測定することができる。まず、リン酸化前のセルロース含有物もしくはリン酸化セルロース含有物を、分散媒に分散させたスラリーの粘度(η1とする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定する。その後、比粘度(ηsp)及び固有粘度([η])を下記式に従って算出する。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時のセルロース含有物またはリン酸化セルロース含有物の濃度を示す。
【0047】
リン酸化前のセルロース含有物の比粘度は、8.0以上であることが好ましく、9.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。また、リン酸化セルロース含有物の比粘度は8.0以上であることが好ましく、8.5以上であることがより好ましく、8.8以上であることがさらに好ましい。
【0048】
リン酸化反応工程を経る前のセルロース含有物の重合度をDPaとし、リン酸化反応工程で得られるリン酸化セルロース含有物の重合度をDPbとした場合、DPb/DPaの値は0.92以上であることが好ましく、0.93以上であることがより好ましく、0.94以上であることがさらに好ましい。また、DPb/DPaの値は1.5以下であることが好ましい。本発明においては、リン酸化反応工程を経てのリン酸化セルロース含有物の重合度の低下が少ない点に特徴がある。これは、リン酸化反応工程において、セルロース含有物の加水分解が抑制されているためであると推定される。
【0049】
セルロース含有物及びリン酸化セルロース含有物の重合度は、Tappi T230に従い測定することができる。まず、上述した方法で比粘度(ηsp)及び固有粘度([η])を算出する。そして、下記式から重合度(DP)を算出する。
DP=1.75×[η]
このような重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0050】
リン酸化前のセルロース含有物の重合度は、500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、800以上であることがさらに好ましく、900以上であることが特に好ましい。また、リン酸化セルロース含有物の重合度は、500以上であることが好ましく、600以上であることがより好ましく、800以上であることがさらに好ましく、870以上であることが特に好ましい。
【0051】
上述したようなリン酸化反応工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。なお、本発明においては、リン酸化反応速度が早く、リン酸化の効率が高められているため、リン酸化反応工程の工程数を少なくすることも可能である。例えば、リン酸化反応工程の工程数は、1回以上3回以下であることが好ましく、1回とすることもできる。本発明では、リン酸化反応工程数を少ない回数とした場合であっても十分量のリン酸基をセルロース繊維に導入することができる。
【0052】
<アルカリ処理工程>
本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法は、リン酸化反応工程を含み、さらに解繊処理工程を含むことができる。リン酸化セルロース繊維の製造方法が解繊処理工程を含む場合は、リン酸化反応工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理工程を設けることが好ましい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸化セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。なお、当該アルカリ処理に供されるのは、リン酸化反応工程により得られたリン酸化セルロース含有物であってもよい。
【0053】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、水系溶媒であってもよい。また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0054】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸化セルロース繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0055】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸化セルロース繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸化セルロース繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0056】
<酸処理工程>
本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法が解繊処理工程を含む場合は、リン酸化反応工程と、後述する解繊処理工程の間に酸処理工程を設けてもよい。また、リン酸化反応工程、酸処理、アルカリ処理及び解繊処理をこの順で行ってもよい。
【0057】
酸処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、酸を含有する酸性液中に、リン酸化セルロース繊維を浸漬する方法が挙げられる。使用する酸性液の濃度は特に限定されないが、10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。酸性液に含まれる酸としては、例えば、無機酸、スルホン酸、カルボン酸等を用いることができる。無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、次亜塩素酸、亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸等が挙げられる。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸等が挙げられる。中でも、酸としては塩酸を用いることが好ましい。また、当該酸処理に供されるのは、リン酸化反応工程により得られたリン酸化セルロース含有物であってもよい。
【0058】
酸処理工程における酸溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
酸処理工程における酸溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
酸処理における酸溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸化セルロース繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
<解繊処理工程>
リン酸化セルロース繊維は、たとえば解繊処理工程で解繊処理されてもよい。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。なお、当該解繊処理に供されるのは、リン酸化反応工程により得られたリン酸化セルロース含有物であってもよい。
【0060】
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0061】
解繊処理の際には、リン酸化セルロースもしくはリン酸化セルロース含有物を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶媒を使用することができる。好ましい極性有機溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中にリン酸化セルロースもしくはリン酸化セルロース含有物以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0062】
本発明では、リン酸化セルロース繊維を濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、リン酸化セルロース繊維を含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮したリン酸化セルロース繊維をシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0063】
リン酸化セルロース繊維を粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。また、処理条件も好ましい重合度が得られる条件であれば特に限定されない。
【0064】
本発明においては、リン酸化セルロース繊維の原料や製造条件をそれぞれ適切に選択することによりリン酸化セルロース繊維の平均重合度を好ましい範囲内に制御しやすくなる。このような製造条件としては、特に限定されないが、たとえばリン酸基導入工程における条件を調整したり、解繊処理工程における解繊処理条件を調整したり、製造装置の種類を選択したりすることなどが挙げられる。例えば、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いた場合、10000回転/分以上21500回転/分以下の条件で10分以上60分以下解繊処理を行うことが好ましい。
【0065】
(セルロース含有物)
<微細繊維状セルロースを含むセルロース含有物>
本発明は、微細繊維状セルロースを含むセルロース含有物に関するものでもある。ここで、セルロース含有物を固形分濃度が0.4質量%となるように水により希釈して得られるスラリーの、3rpm、液温25℃の条件にてB型粘度計により測定される粘度は、14500mPa・s以上である。なお、粘度測定時間は3分とする。上記スラリーの粘度は、15000mPa・s以上であることがより好ましく、15500mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、該スラリーの粘度の上限値は、特に限定されないが、たとえば40000mPa・sとすることができる。なお、セルロース含有物には、上述のように、たとえばヘミセルロースなどの他成分が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
【0066】
微細繊維状セルロースを含むセルロース含有物を固形分濃度が0.4質量%となるように水により希釈して得られるスラリーの粘度を上記範囲内とする方法としては、たとえば微細繊維状セルロースにリン酸基を導入することが挙げられる。すなわち、本発明のセルロース含有物は、リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維を含むものであることが好ましい。
本実施形態においては、上述のとおり、たとえばリン酸化セルロース繊維を含むセルロース含有物に対して解繊工程を行うことができる。これにより、リン酸化セルロース繊維が微細化された繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維(微細繊維状セルロース)を含むセルロース含有物が得られることとなる。リン酸基を有する繊維幅が1000nm以下のセルロース繊維のリン酸基量は、0.1mmol/g以上であることが好ましい。
【0067】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上50nm以下であり、よりさらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0068】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0069】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0070】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0071】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0072】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0073】
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合(結晶化度)は、本発明においては特に限定されないが、たとえば30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0074】
微細繊維状セルロースへのリン酸基の導入量は、0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、例えば増粘剤として用いた際には、良好な増粘特性を発揮することができる。なお、微細繊維状セルロースへのリン酸基の導入量は、たとえば上述したセルロース繊維へのリン酸基の導入量と同様に測定することが可能である。
【0075】
また、微細繊維状セルロースを含むセルロース含有物は、たとえば有機溶媒成分を含むものであってもよい。この有機溶媒成分は、セルロース含有物をリン酸化する際に反応系で混合された有機溶媒に由来するものである。本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法においては、リン酸化反応工程において、有機溶媒が用いられることが好ましく、この有機溶媒の一部は最終生成物であるセルロース含有物からも検出される場合がある。
【0076】
<セルロース繊維を含むセルロース含有物>
本明細書においては、セルロース繊維には、微細繊維状セルロースと、繊維幅が1000nmよりも大きい繊維状セルロースが含まれる。本発明は、セルロース繊維を含むセルロース含有物に関するものであってもよい。すなわち、本発明は微細化していないセルロース繊維を含むセルロース含有物に関するものであってもよい。このようなセルロース含有物は、0.1mmol/g以上のリン酸基を有するセルロース繊維を含み、かつセルロース含有物のTappi T230に準じて測定される比粘度は8.0以上であることが好ましい。比粘度は9.0以上であることがより好ましく、10.0以上であることがさらに好ましい。なお、セルロース繊維を含むセルロース含有物の比粘度はTappi T230に従って、上述した方法で測定することができる。
【0077】
セルロース繊維を含むセルロース含有物のTappi T230に準じて測定して得られる重合度は870以上であることが好ましい。なお、セルロース含有物の重合度はTappi T230に従って、上述した方法で算出することができる。
【0078】
セルロース繊維を含むセルロース含有物は、たとえば有機溶媒成分を含むものであってもよい。この有機溶媒成分は、セルロース含有物をリン酸化する際に反応系で混合された有機溶媒に由来するものである。
【0079】
(微細繊維状セルロース含有スラリー)
本発明は、微細繊維状セルロース含有スラリーに関するものであってもよい。微細繊維状セルロース含有スラリーは、上述した微細繊維状セルロースを含有するものであるため、高粘度を発揮することができ、さらに、高透明度を有するものである。
【0080】
微細繊維状セルロース含有スラリーを固形分濃度0.4質量%となるように水で希釈して得られるスラリー試料の粘度は、14500mPa・s以上であることが好ましく、15000mPa・s以上であることがより好ましく、15500mPa・s以上であることがさらに好ましい。なお、該スラリー試料の粘度の上限値は、特に限定されないが、たとえば40000mPa・sとすることができる。
【0081】
微細繊維状セルロース含有スラリーを固形分濃度0.4質量%となるように水で希釈して得られるスラリー試料の粘度は、B型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定することができる。測定条件は液温25℃とし、回転数3rpm、測定時間3分とする。
【0082】
微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロース含有スラリーのヘーズが上記範囲であることは、微細繊維状セルロース含有スラリーの透明度が高く、微細繊維状セルロースの微細化が良好であることを意味する。このような微細繊維状セルロース含有スラリーにおいては、微細繊維状セルロースが有する特有の機能が発揮される。
ここで、微細繊維状セルロース含有スラリー(微細繊維状セルロース濃度0.2質量%)のヘーズは、光路長1cmの液体用ガラスセル(藤原製作所製、MG−40、逆光路)に微細繊維状セルロース含有スラリーを入れ、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所社製、HM−150)を用いて測定される値である。なお、ゼロ点測定は、同ガラスセルに入れたイオン交換水で行う。
【0083】
(用途)
本発明のリン酸化セルロース繊維の製造方法により製造された微細繊維状セルロースは、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
また、微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は高く、このような特性を活かす観点から、本発明の繊維状セルロースは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することができる。
【実施例】
【0084】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0085】
<パルプの固形分濃度測定方法>
質量既知の秤量瓶にパルプシートもしくはパルプシートをフラッフ化処理した原料2gを入れ、乾燥機(ヤマト科学製、送風低温乾燥機DK600)にて16時間乾燥させた。乾燥後、乾燥機内で容器のふたをし、デシケーターに入れて放冷した。放冷後、容器内外の圧力差を除く為、容器のふたを半開きにして、素早く再び閉じ、乾燥後の質量を測定した。測定した重量を用い、下記式(1)よりパルプの固形分濃度を算出した。
dm=m1÷m0×100 (1)
dm:質量分率で表した絶乾率(%)
0:乾燥前の質量(g)
1:恒量まで乾燥後の質量(g)
【0086】
<正リン酸の調整法>
氷浴中で、五酸化二リン(関東化学社製)100質量部に対し、85%リン酸(関東化学社製)254質量部をゆっくり滴下し、正リン酸を調製した。
【0087】
<リン酸化反応工程>
(実施例A−1)
セルロース含有物として、王子製紙製のパルプシート(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を原料として使用した。パルプシート(絶乾質量)100質量部に、正リン酸32質量部、尿素(関東化学社製)100質量部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(関東化学社製)150質量部を加え、防爆型乾燥機(ESPEC製、SPH−200)にて140℃、30分間加熱乾燥を行い、パルプ中のセルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸化セルロース含有物Aを得た。
【0088】
<洗浄・アルカリ処理工程>
得られたリン酸化セルロース含有物Aに、イオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の薬液を十分に洗い流した。次いで、セルロース含有物濃度が2質量%となるようイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1N水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加して、pHが12±0.2のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、再びイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して脱水シートを得る操作を繰り返すことにより、余剰の水酸化ナトリウムを十分に洗い流して、リン酸化セルロース含有物Bを得た。
【0089】
<機械処理>
得られたリン酸化セルロース含有物Bにイオン交換水を添加して、固形分濃度が0.5質量%の懸濁液にした。この懸濁液を、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0090】
(実施例A−2)
N,N−ジメチルホルムアミド150質量部の代わりに、尿素300質量部を用いた以外は、実施例A−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0091】
(実施例A−3)
正リン酸32質量部の代わりに、85%リン酸(関東化学社製)38質量部を用いた以外は、実施例A−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0092】
(比較例A−1)
N,N−ジメチルホルムアミド150質量部の代わりに、イオン交換水150質量部を用い、加熱乾燥時間を50分間とした以外は実施例A−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0093】
(評価)
<リン酸基の導入量(リン酸基量)の測定>
リン酸基の導入量は、伝導度滴定法により測定した。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定した。
イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%微細繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の微細繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。
【0094】
この伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、リン酸基導入量(mmol/g)とした。
【0095】
<反応速度の求め方>
実施例A−1〜A−3及び比較例A−1のそれぞれについて以下のように反応速度を測定した。まず、加熱乾燥時間を60分にした以外は上述したリン酸化反応工程と同様にして、リン酸基導入を行った。その際、10分から60分まで10分毎にリン酸基導入量を測定した。縦軸がリン酸基導入量(mmol/g)、横軸が反応時間(min)とし、得られたデータをグラフにプロットした。プロットしたグラフにて近似直線を作成し、近似直線の傾きを反応速度a(mmol/g・min)とした。
【0096】
【表1】
【0097】
表1からわかるように、実施例においては、比較例に比べて加熱乾燥時間が短いが、十分量のリン酸基が導入されていた。また、リン酸化反応速度も速かった。すなわち、実施例においては、リン酸化微細繊維状セルロースの製造効率をより効果的に高め得ることがわかった。
【0098】
(実施例B−1)
セルロース含有物として、王子製紙製のパルプシート(固形分93質量%、坪量208g/m2シート状、離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)をフラッフ化処理し、フラッフ化パルプを得て、原料として使用した。フラッフ化パルプ(絶乾質量)100質量部に、正リン酸167質量部、尿素(関東化学社製)1000質量部、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(関東化学社製)1000質量部を丸底フラスコに加え、150℃で15分間加熱還流処理し、パルプ中のセルロース繊維にリン酸基を導入し、リン酸化セルロース含有物Cを得た。その後、前述の実施例A−1と同様にして解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0099】
(実施例B−2)
正リン酸167質量部の代わりに、85%リン酸196質量部を用いた以外は、実施例B−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0100】
(実施例B−3)
N,N−ジメチルホルムアミドの代わりに、ジメチルスルホキシド(DMSO)(関東化学社製)を用いた以外は、実施例B−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0101】
(実施例B−4)
N,N−ジメチルホルムアミドの代わりに、尿素を用いた以外は、実施例B−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0102】
(比較例B−1)
N,N−ジメチルホルムアミド1000質量部、尿素1000質量部の代わりに、N,N−ジメチルホルムアミド433質量部、尿素433質量部、イオン交換水1133質量部とした以外は実施例B−1と同様にして、解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0103】
(比較例B−2)
比較例A−1と同様にして解繊パルプスラリー(微細繊維状セルロース含有スラリー)を得た。
【0104】
(評価)
実施例B−1〜B−4、比較例B−1及びB−2で得られた、リン酸化反応工程で供試したフラッフ化パルプ(リン酸化前セルロース含有物)、洗浄アルカリ処理工程後に得られたリン酸化セルロース繊維(リン酸化セルロース含有物)を供試して、後述する方法で比粘度及び重合度を測定した。また、機械処理後の解繊パルプスラリーを供試して上述した<リン酸基の導入量(リン酸基量)の測定>に記載した方法と同様の方法でリン酸基導入量を測定した。さらに、機械処理後の解繊パルプスラリーを供試して後述する方法で粘度を測定した。
【0105】
<比粘度及び重合度の測定>
比粘度及び重合度は、Tappi T230に従い測定した。すなわち、測定対象のリン酸化前セルロース含有物もしくはリン酸化セルロース含有物を分散媒に分散させて測定した粘度(η1とする)、および分散媒体のみで測定したブランク粘度(η0とする)を測定したのち、比粘度(ηsp)、固有粘度([η])を下記式に従って測定した。
ηsp=(η1/η0)−1
[η]=ηsp/(c(1+0.28×ηsp))
ここで、式中のcは、粘度測定時のセルロース含有物またはリン酸化セルロース含有物の濃度を示す。
さらに、下記式から本発明における重合度(DP)を算出した。
DP=1.75×[η]
この重合度は粘度法によって測定された平均重合度であることから、「粘度平均重合度」と称されることもある。
【0106】
<微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度の測定>
微細繊維状セルロース含有スラリーの粘度は、微細繊維状セルロース含有スラリーの固形分濃度が0.4質量%となるように希釈した後に、ディスパーザーにて1500rpmで5分間攪拌した。得られたスラリーの粘度をB型粘度計(BLOOKFIELD社製、アナログ粘度計T−LVT)を用いて測定した。測定条件は、3rpm、液温25℃の条件とした。
【0107】
【表2】
【0108】
表2からわかるように、実施例においては、リン酸化反応後のリン酸化セルロース繊維含有スラリーの比粘度が高く、微細繊維状セルロースとした後においても高い溶液粘度を発現し得ることがわかった。
図1