【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、上層用塗料の流動停止時間t
cU、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の各塗料の収縮率、及び各塗料の収縮率差の絶対値の算出は以下の方法により行なった。
【0065】
<上層用塗料の流動停止時間t
cUの算出>
ステンレス鋼板(40mm×50mm×0.5mm)上に焼付け後の膜厚が100μmとなるように上層用塗料をバーコータを用いて塗布し、室温で10分間放置した後、試料を電場ピックアップ粘度計(京都電子工業(株)製、型番RM−01T)にセットした。針−試料表面間距離:100μm、電圧:5V、電圧オン時間:1.0秒間、電圧オフ時間:1.0秒間の測定条件で直流電圧のオンとオフを切替えながら、試料を室温から上層用塗料の標準焼付け温度(140℃)まで上層用塗料の標準昇温速度(20℃/min)で加熱した。この間の試料表面の変形を、レーザー光を照射して試料表面で反射されるレーザー光の強度を検出電圧として0.01秒間の測定ピッチで測定した。
図1は、このとき得られる時間−電圧波形の一例である。
【0066】
図1に示すように、得られた時間−電圧波形においては、m+1秒間にm個の検出電圧の振れが観察される。これらm個の検出電圧の振れの中で、振れ幅が最大(a
max)となる時間をt
maxとし、t
max以降の時間範囲において、振れ幅がa
maxの5%まで小さくなった時間を上層用塗料の流動停止時間t
cU(t
cU>t
max)とした。
【0067】
<各塗料の収縮率、収縮率差及びその和の算出>
秤量したステンレス箔(150mm×30mm×0.5mm)に、上層用塗料及び下層用塗料(積層塗膜が2層の場合には最下層用塗料、3層以上の場合には最下層用塗料と各中間層用塗料の2種以上の塗料)をそれぞれ熱処理後の膜厚が積層塗膜での目標膜厚となるようにエアスプレー塗装し、標準焼付け温度(140℃)で塗膜の焼付けを開始した。その後、前記上層用塗料の流動停止時間t
cUまで塗膜を焼付け(焼付け時間:t
cU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量した。さらに、焼付け開始からの総焼付け時間が塗料の標準焼付け時間t
b(30分)となるように、塗料の標準焼付け温度(140℃)で塗膜を焼付け(後段の焼付け時間:t
b−t
cU)、試料(ステンレス箔+塗膜)を秤量した。
【0068】
上層用塗料、中間層用塗料及び最下層用塗料の収縮率ω
U、ω
I及びω
Lは、下記式(1):
ω
i=100(Y
i−Z
i)/(Z
i−X) (1)
(式中、ω
iは硬化反応の揮発性生成物と高沸点溶媒等の残存溶媒の揮発に起因する塗料の収縮率、Xはステンレス箔の質量(g)を表し、Y
iは塗料の標準焼付け温度で前記流動停止時間t
cUまで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、Z
iは塗料の標準焼付け温度で塗料の標準焼付け時間t
bまで焼付けた後の試料(ステンレス箔+塗膜)の質量(g)を表し、iはU(上層用塗料)、I(中間層用塗料)又はL(最下層用塗料)である。)
により算出した。
【0069】
また、上層に隣接する第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1と上層用塗料の収縮率ω
Uとの差の絶対値(|Δω
1|)、及び前記第一隣接層に隣接する第二隣接層用塗料の収縮率ω
A2と前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1との差の絶対値(|Δω
2|)は、下記式(2−1)及び(2−2):
|Δω
1|=|ω
A1−ω
U| (2−1)
|Δω
2|=|ω
A2−ω
A2| (2−2)
により算出した(3層の場合には|Δω
1|及び|Δω
2|を算出。2層の場合には|Δω
1|のみを算出。)。
【0070】
(合成例1)溶剤型クリア用アクリル樹脂R−1の調製
まず、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂製造用反応容器に、ソルベッソ100を260質量部仕込み、撹拌しながら130℃に昇温した。
【0071】
次に、この反応容器に、メタクリル酸ブチル162.5質量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル149.5質量部、スチレン78質量部、アクリル酸イソボルニル260質量部、重合開始剤(日油社製、「パーキュアO」)52質量部の混合物を3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、130℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、パーキュアOを13質量部添加し、さらに、130℃で2時間撹拌を継続して反応させた後、酢酸ブチル75質量部を添加し、室温まで冷却し、水酸基価90、不揮発分65質量%のアクリル樹脂R−1を得た。
【0072】
(合成例2)水性中塗り用アクリルエマルションR−2の調製
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル31.5質量部、メタクリル酸ブチル78.8質量部、スチレン52.9質量部、アクリル酸4−ヒドロキシブチル72.5質量部、アクリル酸16.4質量部、メタクリル酸メチル63.0質量部、n−ドデシルメルカプタン3.2質量部、イオン交換水119質量部及びラテムル(PD−104)17.5質量部を混合し、ミキサーを用いて攪拌して乳化させ、モノマープレエマルションを調製した。
【0073】
次に、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用反応容器に、イオン交換水280質量部、ラテムルPD−104(花王ケミカル製)3.5質量部及びAPS水溶液(重合開始剤:過硫酸アンモニウム、APS(Aldrich製)0.7質量部と水7質量部を撹拌混合したもの)を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、この反応容器に、前記モノマープレエマルションのうちの5質量%を添加し、80℃で10分保持した。その後、残りのモノマープレエマルションを上記反応容器中に3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、さらに、80℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、イオン交換水322質量部を添加し、室温まで冷却した。冷却後、50質量%ジメチルエタノールアミン水溶液40.5質量部を添加し、10分撹拌して、水酸基価86、不揮発分29質量%のアクリルエマルションR−2を得た。
【0074】
(合成例3)水性ベース用アクリルエマルションR−3の調製
まず、アクリル酸2−エチルヘキシル31.5質量部、メタクリル酸ブチル78.8質量部、アクリル酸ブチル37.8質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル63.0質量部、アクリル酸16.4質量部、スチレン87.6質量部、n−ドデシルメルカプタン3.2質量部、イオン交換水119質量部及びラテムル(PD−104)17.5質量部を混合し、ミキサーを用いて攪拌して乳化させ、モノマープレエマルションを調製した。
【0075】
次に、攪拌機、温度計、滴下ロート、還流冷却器及び窒素導入管等を備えた通常のアクリル系樹脂エマルション製造用反応容器に、イオン交換水280質量部、ラテムルPD−104(花王ケミカル製)3.5質量部及びAPS水溶液(重合開始剤:過硫酸アンモニウム、APS(Aldrich製)0.7質量部と水7質量部を撹拌混合したもの)を仕込み、撹拌しながら80℃に昇温した。次いで、この反応容器に、前記モノマープレエマルションのうちの5質量%を添加し、80℃で10分保持した。その後、残りのモノマープレエマルションを上記反応容器中に3時間かけて撹拌しながら滴下した。滴下終了後、さらに、80℃で1時間撹拌を継続して反応させた。その後、イオン交換水322質量部を添加し、室温まで冷却した。冷却後、50質量%ジメチルエタノールアミン水溶液40.5質量部を添加し、10分撹拌して、水酸基価86、不揮発分29質量%のアクリルエマルションR−3を得た。
【0076】
(調製例1)溶剤型クリア塗料C−1の調製
容器に、熱硬化性樹脂として合成例1で得た溶剤型クリア用アクリル樹脂R−1を759.3質量部、流動停止遅延剤として3,5−ジメチルピラゾールを46質量部、酢酸ブチル197.4質量部、チヌビン123(BASF社製)9.9質量部、チヌビン384−2(BASF社製)9.9質量部を仕込んで撹拌した後、得られた混合物に撹拌しながらBYK−370(BYK−Chmie製)2.8質量部、BYK−306(BYK−Chmie製)5.1質量部、BYK−392(BYK−Chmie製)9.5質量部、ディスパロンNSH8430(楠本化成)4.9質量部、ディスパロンOX883(楠本化成製)1.2質量部、イソシアネート系硬化剤としてポリイソシアネート(旭化成ケミカル社製、「デュラネートTPA−100」)175質量部を添加して撹拌し、イソシアネート硬化型の溶剤型クリア塗料C−1を得た。この溶剤型クリア塗料C−1の流動停止時間t
cUは370秒であり、流動停止時間t
cU後から標準焼付け時間t
bU終了時までの間の収縮率ω
Uは4.0%であった。
【0077】
(調製例2)溶剤型クリア塗料C−2の調製
流動停止遅延剤として2−ブタノンオキシム41質量部を用いた以外は調製例1と同様にして、イソシアネート硬化型の溶剤型クリア塗料C−2を得た。この溶剤型クリア塗料C−2の流動停止時間t
cUは420秒であり、流動停止時間t
cU後から標準焼付け時間t
bU終了時までの間の収縮率ω
Uは3.5%であった。
【0078】
(調製例3)溶剤型クリア塗料C−3の調製
流動停止遅延剤を用いなかった以外は調製例1と同様にして、イソシアネート硬化型の溶剤型クリア塗料C−3を得た。この溶剤型クリア塗料C−3の流動停止時間t
cUは310秒であり、流動停止時間t
cU後から標準焼付け時間t
bU終了時までの間の収縮率ω
Uは0.9%であった。
【0079】
(調製例4)着色顔料ペーストの調製
容器に、イオン交換水450質量部、湿潤分散剤(Byk−Chemie社製、「Disperbyk−180」)50質量部、ルチル型酸化チタン(石原産業社製、「CR−90」)495質量部、カーボンブラック(三菱化学社製、「MA−100」)5質量部を仕込み、10分間予備混合した後、仕込み体積量と同じ体積量のガラスビーズ(粒径1.6mm)を投入し、卓上サンドミルで1時間分散した。グラインドゲージによる分散終了時の粒度は5μm以下であった。
【0080】
(調製例5)水性中塗り塗料P−1の調製
容器に、合成例2で得た水性中塗り用アクリルエマルションR−2を185.7質量部仕込み、これに、撹拌しながらメチル化メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、「サイメル325」)30.0質量部、イオン交換水32質量部を加えて5分間攪拌した。さらに、アルカリ増粘剤(BASF社製、「Viscalex HV30」)3.2質量部、ジメチルエタノールアミン0.8質量部、BYK−346(BYK−Chmie製)2.5質量部、調製例4で得た着色顔料ペースト123.1質量部を加えて、不揮発分39.3質量%の水性中塗り塗料P−1を得た。この水性中塗り塗料P−1の収縮率ω
Lは、流動停止時間t
cUが310秒の場合には6.0%であり、t
cUが370秒の場合には5.4%であり、t
cUが420秒の場合には4.8%であった。
【0081】
(調製例6)水性ベース塗料B−1の調製
容器に、合成例3で得たアクリルエマルションR−3を69.6質量部仕込み、これに、撹拌しながらメチル化メラミン樹脂(オルネクスジャパン社製、「サイメル325」)11.3質量部、イオン交換水54質量部を加えて5分間攪拌した。さらに、Viscalex HV30を4.0質量部、ジメチルエタノールアミン1.2質量部を加えて、水性樹脂液を得た。
【0082】
別の容器に、ブチルグリコール9.9質量部及びアルミペースト(Eckart社製、「Hydrolan2156」)9.9質量部を仕込み、さらに、1時間攪拌してアルミペースト溶液を得た。
【0083】
次に、前記水性樹脂溶液148.3質量部に、このアルミペースト溶液19.8質量部を撹拌しながら添加し、さらに、1時間攪拌して、水性ベース塗料B−1を得た。この水性ベース塗料B−1の収縮率ω
Iは、流動停止時間t
cUが310秒の場合には9.1%であり、t
cUが370秒の場合には8.2%であり、t
cUが420秒の場合には7.2%であった。
【0084】
(実施例1)
電着塗装を施した鋼板(日本ルートサービス(株)製)の表面に、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(t
cU=370秒の場合、ω
L=5.4%)を、焼付け後の膜厚が20μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次に、調製例6で得た水性ベース塗料B−1(t
cU=370秒の場合、ω
I=8.2%)を、焼付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次いで、この水性ベース塗料B−1の層の上に、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(t
cU=370秒、ω
U=4.0%)を焼付け後の膜厚が35μmになるように塗装し、水性中塗り塗料P−1と水性ベース塗料B−1と溶剤型クリア塗料C−1とをウェットオンウェットで積層した未硬化積層塗膜を得た。
【0085】
この未硬化積層塗膜を室温で10分間静置(セッティング)した後、硬化反応をさせるために140℃で30分間の加熱処理(焼付け処理)を施して各層を硬化させ、積層塗膜を得た。
【0086】
得られた積層塗膜について、ウェーブスキャン(BYK−Gardner社製「Wave−Scan Dual」)を用いてウェーブスキャン値〔Wa(波長0.1〜0.3mm)、Wb(波長0.3〜1mm)、Wc(波長1〜3mm)、Wd(波長3〜10mm)、We(波長10〜30mm)〕を測定した。その結果を表1に示す。これらのウェーブスキャン値は、値が小さいほど上層表面における当該波長の凹凸が少ないことを示し、外観品質が優れることを意味する。ちなみに、Waが小さいほど光沢が優れ、WdやWeが小さいほど肌がよいことを意味する。
【0087】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一隣接層に隣接する第二隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された最下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ω
Uと水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|は4.2%であり、水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1と水性中塗り塗料P−1(第二隣接層用塗料)の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|は2.8%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ω
Uと前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|と、前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1と前記第二隣接層用塗料の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|との和(Δω
1+Δω
2)は7.0%であった。
【0088】
(実施例2)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(t
cU=420秒の場合、ω
L=4.8%)を用い、ベース塗料として、調製例6で得た水性ベース塗料B−1(t
cU=420秒の場合、ω
I=7.2%)を用い、クリア塗料として、調製例2で得た溶剤型クリア塗料C−2(t
cU=420秒、ω
U=3.5%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一隣接層に隣接する第二隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された最下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−2(上層用塗料)の収縮率ω
Uと水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|は3.7%であり、水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1と水性中塗り塗料P−1(第二隣接層用塗料)の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|は2.4%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ω
Uと前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|と、前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1と前記第二隣接層用塗料の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|との和(Δω
1+Δω
2)は6.1%であった。
【0090】
(比較例1)
中塗り塗料として、調製例5で得た水性中塗り塗料P−1(t
cU=310秒の場合、ω
L=6.0%)を用い、ベース塗料として、調製例6で得た水性ベース塗料B−1(t
cU=310秒の場合、ω
I=9.1%)を用い、クリア塗料として、調製例3で得た溶剤型クリア塗料C−3(t
cU=310秒、ω
U=0.9%)を用いた以外は実施例1と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された中間層であり、前記第一隣接層に隣接する第二隣接層は前記水性中塗り塗料P−1により形成された最下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−3(上層用塗料)の収縮率ω
Uと水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|は8.2%であり、水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1と水性中塗り塗料P−1(第二隣接層用塗料)の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|は3.1%であった。また、前記上層用塗料の収縮率ω
Uと前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|と、前記第一隣接層用塗料の収縮率ω
A1と前記第二隣接層用塗料の収縮率ω
A2との差の絶対値|Δω
2|との和(Δω
1+Δω
2)は11.3%であった。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のように、2つの下層(中間層及び最下層)の各層に熱硬化型塗料を使用し、上層にイソシアネート硬化型塗料を使用し、ウェットオンウェットにより積層して未硬化積層塗膜を得た後、焼付け処理を施す塗装方法において、熱硬化性樹脂とイソシアネート基に着脱可能な状態で結合することが可能な流動停止遅延剤とを混合した後、イソシアネート系硬化剤を混合して調製したイソシアネート硬化型塗料を上層用塗料として使用することによって、上層用塗料の流動停止時間t
cUが長くなり、上層の流動が停止した後における上層とそれに隣接する中間層との間の収縮率差の絶対値、上層の流動が停止した後における中間層とそれに隣接する最下層との間の収縮率差の絶対値、並びに、上層の流動が停止した後における基材に隣接する最下層の収縮率をいずれも小さくすることができ、その結果、前記流動停止遅延剤を含有していないイソシアネート硬化型塗料を上層用塗料として使用して形成した従来の積層塗膜(比較例1)に比べて、Wa〜Weが小さい積層塗膜(実施例1〜2)が得られることがわかった。
【0094】
(実施例3)
電着塗装を施した鋼板(日本ルートサービス(株)製)の表面に、調製例6で得た水性ベース塗料B−1(t
cU=370秒の場合、ω
I=8.2%)を、焼付け後の膜厚が15μmになるように塗装し、80℃で3分間加熱して水及び有機溶剤などを揮発させた。次いで、この水性ベース塗料B−1の層の上に、調製例1で得た溶剤型クリア塗料C−1(t
cU=370秒、ω
U=4.0%)を焼付け後の膜厚が35μmになるように塗装し、水性ベース塗料B−1と溶剤型クリア塗料C−1とをウェットオンウェットで積層した未硬化積層塗膜を得た。
【0095】
この未硬化積層塗膜に、実施例1と同様にして、セッティング及び加熱処理(焼付け処理)を施し、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表2に示す。
【0096】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された最下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−1(上層用塗料)の収縮率ω
Uと水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|は4.2%であった。
【0097】
(比較例2)
ベース塗料として、調製例6で得た水性ベース塗料B−1(t
cU=310秒の場合、ω
I=9.1%)を用い、クリア塗料として、調製例3で得た溶剤型クリア塗料C−3(t
cU=310秒、ω
U=0.9%)を用いた以外は実施例3と同様にして、積層塗膜を得た。得られた積層塗膜について、実施例1と同様にしてWa〜Weを測定した。その結果を表2に示す。
【0098】
また、得られた積層塗膜において、上層に隣接する第一隣接層は前記水性ベース塗料B−1により形成された最下層である。したがって、上層用塗料の流動停止時間t
cU後から各塗料の標準焼付け時間t
b終了時までの間の溶剤型クリア塗料C−3(上層用塗料)の収縮率ω
Uと水性ベース塗料B−1(第一隣接層用塗料)の収縮率ω
A1との差の絶対値|Δω
1|は8.2%であった。
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示した結果から明らかなように、本発明のように、最下層に熱硬化型塗料を使用し、上層にイソシアネート硬化型塗料を使用し、ウェットオンウェットにより積層して未硬化積層塗膜を得た後、焼付け処理を施す塗装方法において、熱硬化性樹脂とイソシアネート基に着脱可能な状態で結合することが可能な流動停止遅延剤とを混合した後、イソシアネート系硬化剤を混合して調製したイソシアネート硬化型塗料を上層用塗料として使用することによって、上層用塗料の流動停止時間t
cUが長くなり、上層の流動が停止した後における上層とそれに隣接する最下層との間の収縮率差の絶対値、並びに、上層の流動が停止した後における基材に隣接する最下層の収縮率をいずれも小さくすることができ、その結果、前記流動停止遅延剤を含有していないイソシアネート硬化型塗料を上層用塗料として使用して形成した従来の積層塗膜(比較例2)に比べて、Wa〜Weが小さい積層塗膜(実施例3)が得られることがわかった。
【0101】
以上の結果から、少なくとも1層の下層(積層塗膜が2層の場合には最下層、3層以上の場合には最下層と少なくとも1層の中間層の2層以上)に熱硬化型塗料を使用し、上層にイソシアネート硬化型塗料を使用し、ウェットオンウェットにより積層して未硬化積層塗膜を得た後、焼付け処理を施す塗装方法において、熱硬化性樹脂と前記流動停止遅延剤とを混合した後、イソシアネート系硬化剤を混合して調製したイソシアネート硬化型塗料を上層用塗料として使用することによって、外観品質が高度に優れた積層塗膜が得られることが確認された。