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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-218680(P2017-218680A)
(43)【公開日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】昇華転写染色方法
(51)【国際特許分類】
   D06P 5/00 20060101AFI20171117BHJP
   D06B 11/00 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
   D06P5/00 115A
   D06B11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-111368(P2016-111368)
(22)【出願日】2016年6月2日
(71)【出願人】
【識別番号】516119542
【氏名又は名称】有限会社 BESTPLAY
(71)【出願人】
【識別番号】500412644
【氏名又は名称】有限会社サンショウ
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】粟野 肇
(72)【発明者】
【氏名】重田勝美
(72)【発明者】
【氏名】重田剛
(72)【発明者】
【氏名】重田順司
【テーマコード(参考)】
3B154
4H057
4H157
【Fターム(参考)】
3B154AA02
3B154AB31
3B154BA09
3B154BB02
3B154BB12
3B154BD01
3B154DA13
4H057AA02
4H057BA12
4H057DA01
4H057FA02
4H057FA16
4H057FA17
4H057GA05
4H057JA10
4H057JA14
4H057JB02
4H157AA02
4H157BA12
4H157DA01
4H157FA02
4H157FA16
4H157FA17
4H157GA05
4H157JA10
4H157JA14
4H157JB02
(57)【要約】
【課題】昇華染料で描画された原画を、被転写物の所望の位置に正確に転写し、或いは表裏両面を通して連続性のある絵柄等を転写する方法を提供すること。
【解決手段】(a)昇華可能な染料で文字、図形、記号、絵または模様を描いた原画マーキングシートを作成する工程、(b)前記昇華可能な染料で熱転写可能な被転写物の表面を、ホットメルト用接着剤層を積層した位置決め用シートで被覆して被転写物に対して加熱・加圧し、該シートに被転写物を簡易的に保持する工程、(c)前記位置決め用シートに保持された被転写物を、前記原画マーキングシートと重ね合わせて加熱・加圧し、被転写物の一方の側に原画を転写する工程、を有することを特徴とする昇華転写染色方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)昇華可能な染料で文字、図形、記号、絵または模様を描いた原画マーキングシートを作成する工程、
(b)前記昇華可能な染料で熱転写可能な被転写物の表面を、ホットメルト用接着剤層を積層した位置決め用シートで被覆して被転写物に対して加熱・加圧し、該シートに被転写物を簡易的に保持する工程、
(c)前記位置決め用シートに保持された被転写物を、前記原画マーキングシートと重ね合わせて加熱・加圧し、被転写物の一方の側に原画を転写する工程、
を有することを特徴とする昇華転写染色方法。
【請求項2】
前記(a)工程が、(a2)被転写物の表裏面のそれぞれに対応する複数枚の原画マーキングシートを作成する工程であり、
前記(c)工程の後、(d)前記被転写物を原画マーキングシートに保持したまま、前記位置決め用シートを剥離する工程、
(e)前記(a2)工程で作成し、前記(c)工程で使用していない残りの原画マーキングシートを、前記被転写物の他方の側と重ね合わせて加熱・加圧し、被転写物の他方の側に原画を転写する工程、
を有することを特徴とする請求項1に記載の昇華転写染色方法。
【請求項3】
前記原画マーキングシートまたは位置決め用シートの少なくとも一つに、該シートの裏面側から視認することが可能な位置決め用のマークが付与されていることを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の昇華転写染色方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華可能な染料を用いた昇華転写染色方法に係わるものであり、特に、被転写物の表裏両面に正確にデザインパターンを転写する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Tシャツ、スポーツウエア、ユニフォーム等の衣類に種々のデザインパターンを描画する方法として、昇華転写染色方法が知られている。昇華転写染色方法とは、昇華転写用シートに昇華可能な染料で反転画像を印刷して原画マーキングシートを作成し、次いで該原画マーキングシートと被転写物を重ね合わせて加熱・加圧処理することで、シートに形成された原画が染料の昇華性によって被転写物に転写され、顧客の好みに合わせた色・柄などのデザインが付与されるというものである。
【0003】
昇華転写染色方法に用いる転写用シートへの原画形成方法としては、スクリーン印刷やグラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷などのいわゆる版を用いた方法や、多品種の小生産に適したインクジェット記録方式によりデジカメ写真やパソコンで作成した画像をプリンタに送信して形成する方法がある。
【0004】
インクジェット記録方式による例としては、原画信号からミラーイメージ画像を作成する工程と、熱昇華性染料を含有させた微粒子を分散させたインクをインクジェットプリントヘッドによりインク受容性シート面に噴射させて画像を形成することで昇華転写捺染原版を作成する工程と、任意のプリント媒体と前記原版を重ね合わせて加熱し、昇華染料をプリント媒体に熱昇華転写させる工程とを具備する方法(特許文献1)がある。この方法によれば、小部数のプリント部材(被転写物)に簡易な方法で高精細な画像を形成することができる。
【0005】
また、低融点バインダー繊維を含有させて目付重量が50g/m〜600g/mのポリエステル繊維の上面に昇華染料を熱転写する方法(特許文献2)や、昇華可能な染料の浸透性および通過性を有する素材(例えば和紙など)の表面に絵・模様を描き、裏面側に被転写物を置いて原画の上から圧着加熱して転写する方法(特許文献3)がある。これらの方法は、発色が良く、耐摩耗性に優れた熱転写不織布を提供したり(前者)、手工芸工法により布等の被転写物に模様等を容易に形成することができ、同一の原画を用いて複数回の使用が可能である等(後者)の効果を有している。
【0006】
ところで、被転写物に対して昇華染料により絵柄等を転写する際に、被転写物の目的とする正確な位置に転写したり、表裏両面に連続する絵柄を転写したいという要望がある。
【0007】
例えば、一般捺染で行われる防染抜染などの手法を取り入れ、昇華染料が透過しにくい防染層を設け、絵柄ずれを防止する方法に関する提案(特許文献4)や、複数本の細い紐で構成された紐生地の表面をプリントする方法であって、紐生地の各紐に一定の張力を付勢してタルミや捩れを無くして整え、昇華染料を転写してずれのない正確な絵柄の再現が可能な提案(特許文献5)、一定の方向性をもたせて平面状に且つ均一に引き揃えた多数の繊維単糸を、それらの長さ方向の一端に形成した固定領域において繊維単糸相互の位置ずれが生じないように固定し、相互に対称形状をなすデザインパターンを被転写物の表裏の互いに重なる位置に印刷する提案(特許文献6)などがある。
【0008】
前記各提案は、ズレを防止したり、正確な転写が可能であるという点で効果を有しているが、昇華染料により作図された原画を被転写物に被覆する際に両者の位置関係に注目したり、被転写物の表裏両面が接続された関係を有する絵柄等に係わるものではなかった。そもそも被転写物の表裏両面に転写するにしても、それらは各個別の分断された絵柄等であり、例えばTシャツの表側と裏側が切れ目無く接続されている絵柄を転写する技術は従来知られていなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−58638号公報
【特許文献2】特開2006−322077号公報
【特許文献3】特開2000−248477号公報
【特許文献4】特開昭54−6980号公報
【特許文献5】特開2010−7207号公報
【特許文献6】特開2007−146359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであって、昇華染料で描画された原画を、被転写物の所望の位置に正確に転写し、或いは表裏両面を通して連続性のある絵柄等を転写するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の昇華転写方法は、(a)昇華可能な染料で文字、図形、記号、絵または模様を描いた原画マーキングシートを作成する工程、(b)前記昇華可能な染料で熱転写可能な被転写物の表面を、ホットメルト用接着剤層を積層した位置決め用シートで被覆して被転写物に対して加熱・加圧し、該シートに被転写物を簡易的に保持する工程、(c)前記位置決め用シートに保持された被転写物を、前記原画マーキングシートと重ね合わせて加熱・加圧し、被転写物の一方の側に原画を転写する工程、を有することを特徴とする。
【0012】
前記(a)工程は、通常一般に行われている原画シートの作図と同じ工程であり、被転写物に転写した状態で観察されたとき、文字、図形などが認識できるように鏡像体の画像が作成されている。この工程においては、転写用シート上に昇華染料を含有するインクを使用して、インクジェット式プリンタ等により原画マーキングシートが作成される。
【0013】
前記(b)工程では、被転写物を簡易的に保持して位置決め用シートに保持する。この工程では、被転写物を後工程で扱い易いようにシートに保持するという効果の他に、転写工程中(加熱・加圧時)に被転写物が収縮或いは膨張する場合に予めそのサイズ変化を吸収し、正確な転写が行えるようにする効果が期待される。
【0014】
そして、前記(c)工程では、位置決め用シートに保持された被転写物を、(a)工程で作図された原画マーキングシートと重ね合わせて、転写するのであるが、このとき被転写物は位置決め用シートに保持されているので、両者の位置合わせが容易になる。例えば、Tシャツ等である場合、互いに重ね合わせたときに袖部分や胴体部分に生地のタルミや捩れが発生することがある。しかし、本発明においては一方の面が位置決め用シートに固定されているので、そのような事態が生じ難いのである。
【0015】
本発明では、被転写物の表裏両面に絵柄を転写する際に好適である。その場合には前記(a)工程において作図する原画は、当然ながら表面側と裏面側に2枚以上の原画マーキングシートが作成される。すなわち(a)工程の代わりに、(a2)工程として、被転写物の表裏面のそれぞれに対応する複数枚の原画マーキングシートが作成されるのである。被転写物が、例えばTシャツ等である場合、表面側と裏面側とで連続性のある絵柄等が形成可能である。従来、表面側と裏面側とでそれぞれ個別の絵柄を施して、例えば腹側に動物の顔や頭部分を描画し、背中側に該動物の尻尾やお尻の絵柄を表すということは行われている。しかし、本発明はTシャツの全面・全周に渡って連続性のある絵柄が形成できることに特徴がある。
【0016】
表裏両面に転写するには、前記(c)工程の後、(d)工程として、前記被転写物を原画マーキングシートに保持したまま、位置決め用シートを剥離する。その後、(e)工程として、作図した原画マーキングシートのうち未使用の方を、被転写物の転写済みではない方の面側と重ね合わせて、加熱・加圧し原画を転写する。このとき(c)工程で昇華転写している側は2度目の加熱・加圧を受けることになるので、原画マーキングシートの染料の量を適宜調整して、表裏の着色に差異が表れないようにすることが好ましい。
【0017】
また、前記原画マーキングシートまたは位置決め用シートの少なくとも一つに、該シートの裏面側から視認することが可能な位置決め用のマークが付与されていることが望ましい。被転写物の目標とする位置に正確に転写することができること、および熟練した加工者でなくても、位置決めが容易になるからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の昇華転写染色方法は、被転写物が加熱・加圧工程によって形状の伸縮がある場合であっても、転写工程前の段階で該伸縮を吸収するので、原画を所望の大きさ・位置に正確に転写することができる。
【0019】
また、被転写物の表裏両面に転写する絵柄に連続性をもたせることができるので、被服を着用したときの立体感がよりリアルに表現することが可能である。
【0020】
さらに、原画マーキングシートや位置決め用シートに該シートの位置決め用のマークを施すことで、熟練工でなくても正確に転写が行えるのである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、熱転写プレス機の全体像を示す図である。
図2図2は、本発明の(b)工程を示す概略図である。
図3図3は、(b)工程後の被転写物の状態を示す概略図である。
図4図4は、原画マーキングシートの表面側の一例を示す図である。
図5図5は、Tシャツの正面側の転写状態を示す図である。
図6図6は、原画マーキングシートの裏面側の一例を示す図である。
図7図7は、Tシャツの背面側の転写状態を示す図である。
図8図8は、本発明例により転写したTシャツの部分を示す図である。
図9図9は、従来法により転写したTシャツの部分を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係わる昇華転写方法は、被転写物が受ける加熱・加圧処理を考慮して、原画をそのままの構成で転写しても正確に描くことができるものである。
【0023】
昇華転写染色方法によって転写される被転写物は、典型的には繊維製品であるがこれに限定されるものではない。繊維製品には、織物、編物、不織布、カーペットなどが含まれるが、単繊維、糸または中間繊維製品であっても良い。繊維の素材としては、天然繊維(例えば、綿、絹、羊毛など)、化学繊維(例えば、ナイロン、ポリプロピレンなど)、合成繊維(例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルなど)であり、前記繊維を所望の重量比で混繊した物であっても良い。
【0024】
繊維製品としては前記の繊維素材を用いてなる、アウター用衣料、スポーツ用衣料、インナー用衣料、作業服、レインコート、カーテン、幟、寝装寝具、椅子やソファーのカバー、テント、カーペット、カーシート地、およびインテリア用品等として例示される繊維製品である。
【0025】
そして前記各種の繊維製品は、素材、織り方、編み方等により熱に対する形状変化の程度に差異が生じる。特に昇華転写染色方法においては染料を昇華させるために加熱するので、転写したい原画と、転写後の描画とにズレが生じたり、配置や位置関係が顧客の要望と合致しないことがあり得る。そこで、本発明では、被転写物に対して転写する前に予め加熱・加圧することで前記のような問題を回避し、同時に被転写物を平坦化して転写時の安定性を担保することとした。
【0026】
本発明の昇華転写染色方法としては、まず原画マーキングシートを作成する(a)工程がある。この工程は、通常行われる工程がそのまま利用することができる。すなわち、顧客の要望する文字、図形、記号、絵、写真等を含む模様を画像信号としてパソコンに取り込み、転写時のミラー画像に反転処理する。昇華可能な染料を含むインクを、インクジェットプリンタ等によって前記ミラー画像に基づいてマーキングシート面に噴射させ、原画を形成することにより原画マーキングシートが完成する。
【0027】
マーキングシートの基材としては、染料受容層及び必要に応じて設けられたその他の層を有し、熱転写時の加熱に耐えられるものであれば特に限定されない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等の耐熱性の高いポリオレフィン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド等のプラスチックの延伸または未延伸フィルムや、これらの合成樹脂に白色顔料や充填剤を加えて成膜した白色不透明フィルムも使用できる。これ以外にも、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、板紙等の材料も使用することができる。また、これらの材料を2種以上積層した複合フィルムであっても良い。本発明においては、市販の基材を用いることができ、例えば、(商品名:Transjet HT9400、Transjet CL−100FS、チャーム社製)等が好ましい。
【0028】
マーキングシートの厚みは、強度、耐熱性を考慮して基材に応じて適宜選択すれば良く、一般的には1μm〜300μm、好ましくは60μm〜200μm程度である。なお、後述するように被転写物の表裏面に転写する際には、初めに重ね合わせたマーキングシートに被転写物が保持されたままで、次の工程に入るので、被転写物の重さ等に耐えうる強度を有することも必要である。
【0029】
原画マーキングシートは必要最小限の枚数を作成する。たとえば、被転写物の表面側だけに転写するとしても、部分的に装飾した絵柄を複数枚組み合わせてシートを交換しながら転写を行う場合には、その組み合わせる枚数分の原画マーキングシートを準備する必要がある。特に本発明では、被転写物の表裏面のそれぞれを連続する絵柄で構成する場合に適しているので、そのような場合には少なくとも2枚(表面側用と裏面側用)の原画マーキングシートが準備される。この工程を本発明では(a2)工程という。
【0030】
次に(b)工程で、前記被転写物の表面を、ホットメルト用接着剤層を積層した位置決め用シートで被覆して被転写物に対して加熱・加圧し、該シートに被転写物を簡易的に保持する。ホットメルト用接着剤層とは加熱することによってシート表面に被覆された樹脂が粘性を有し、被転写物を保持できる程度の接着力を有していれば良く、特別に準備する必要はない。例えば、昇華転写用インクで原画を作成する際に使用するシートには、粘接着剤層を有する昇華用転写紙(例えば商品名:Transjet Sportsline 931、Transjet HT9400、Transjet CL−100FS、いずれもチャーム社製)等が市販されており、このような転写紙を位置決め用シートとして使用すれば、表面の粘接着剤層を前記ホットメルト用接着剤層として利用できるのである。また、原画マーキングシートと位置決め用シートを同じシート材として共用することでコスト低減を図ることもできるのである。
【0031】
前記(b)工程では、被転写物と位置決め用シートとを貼り合わせるだけでなく、原画を正確に描画するために被転写物に捩れやタルミがない状態にセットする必要がある。この工程後の被転写物に仮にシワ等が有ることが確認された場合には、次の工程に入る前に別途アイロン等を利用してシワ取り作業等を行うことができる。昇華転写は一旦染色すると、染着状態の修正が(濃淡調整程度を除き)殆ど不可能である。本発明では、(b)工程により被転写物を平坦化するだけでなく、染色する直前の状態確認ができるという意味で、染色不良による廃棄処分品を削減してコスト低減可能という非常に大きな効果が有る。
【0032】
前記(b)工程での加熱・加圧時間は、被転写物と用いる位置決め用シートの組み合わせによって適宜選択すれば良いが、170〜230℃で、30秒〜90秒程度、圧力は100〜300g/cmである。例えば、被転写物として綿100%のTシャツを使用し、位置決め用シートとしてTransjet HT9400を使用した場合には、温度200℃で、1分、圧力250g/cmが適当である。
【0033】
次いで、(c)工程において、位置決め用シートに保持された被転写物に原画マーキングシートを重ね合わせ、昇華染料が昇華する温度で圧力をかけながら所定の位置に原画を転写する。この工程は従来から行われている昇華転写工程と大きな差異はない。前記の通り、被転写物が平坦化されて適用されるので、転写の失敗により廃棄処分となる確率が格段に低くなる。
【0034】
前記転写工程の条件としては、温度170〜230℃で、30秒〜90秒程度、圧力は100〜300g/cmである。
【0035】
被転写物の一方の面にのみ転写をする場合には以上で転写工程が終了するが、他方の面にも転写する場合には、以下の工程が必要となる。まず(d)工程として、被転写物を原画マーキングシートに保持したまま、位置決め用シートを剥離する。一般的には、原画マーキングシートも被転写物から剥離するが、本発明では、敢えて原画マーキングシートに保持された状態を維持する。これにより、被転写物の平坦化された状態が保存され、未だ転写されていない側の面に原画を転写するに際して、正確な染色が可能になる。
【0036】
原画マーキングシートと位置決め用シートを同一のシート材料とした場合には、昇華染料が介在する分だけ、被転写物との接着力に相違が生じる。通常、原画に用いる昇華染料を含むインクには染着力を高めるための樹脂成分が含まれており、これによって被転写物との接着力が高くなり位置決め用シートの方が剥離し易くなる。
【0037】
位置決め用シートを剥離した後の露出面は被転写物の未転写側の面となる。そこで、(e)工程では、(a2)工程で作図した複数の原画マーキングシートのうちの使用していないシートを被転写物の他方の側の面(露出面)と重ね合わせて、加熱・加圧して転写する。このときの転写条件は、前記(c)工程と同等である。但し、被転写物に対しては先に転写された側の原画を構成する昇華染料が、2度の加熱・加圧履歴を有することになるので、一度の転写で昇華が完了する染料濃度に設定しないと、(c)工程で転写される絵柄の方が(e)工程で転写される絵柄よりも相対的に濃く染められる可能性があることに留意する。
【0038】
以上の各工程において、例えば、各シートの大きさが統一された同一のものを使用することにより、(b)工程での位置決めの際に被転写物を所定の位置に配置すれば、原画の転写を正確に行うことができる。すなわち各シートの端部を揃えるだけで配置が定まるからである。
【0039】
さらに必要とあれば、前記原画マーキングシートまたは位置決め用シートの少なくとも一つに、該シートの裏面側から視認することが可能な位置決め用のマークが付与されていても良い。位置決め用のマークを一方のシートの端部に合わせたり、或いは被覆する側のシートを透してマークを確認しつつ位置合わせをすることができる。また各シートに位置決め用のマークが付与されている場合には、両者のマークが合致するように重ね合わせれば良い。
【0040】
本発明においては、被転写物の平坦化、配置の固定、原画との位置合わせの正確化によって、従来の方法に比して正確な昇華転写が可能となっている。以下では、実施例を示しつつ本発明の昇華転写方法をより具体的に示す。
【0041】
(実施例1)
被転写物として綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツの正面にデザインを施す例について説明する。初めに、本発明の(a)工程を行った。使用した昇華染料を含むインクは(商品名:ES2シリーズ、紀和化学社製)である。インクジェットプリンタは(商品名:XF−640、ローランド社製)を使用し、パソコンに取り込んだ画像をミラー画像に反転処理する。シートとして(商品名:Transjet HT9400、チャーム社製)を使用してインクジェットプリンタにより描画し、原画マーキングシートを作成した。
【0042】
次に、本発明の(b)工程として、Tシャツを平坦化するとともに位置決め用シートに保持した。該工程の概要を図に示す。図1は熱転写プレス機(商品名:S−78KW、サンショウ社製)の全体像の概要を示すものである。この熱転写プレス機(1)のトレー(2)上に位置決め用シート(5)を被せた後、Tシャツ(3)を載置する。その上に必要であれば、緩衝材兼汚れ防止のためのシート(4)を被せてトレーをプレス機のプレート間に挿入する。なお、本プレス機は上側プレートが加圧機構を、下側プレートには加熱機構を備えている。
【0043】
前記(b)工程の重ね合わせの状態を模式的に示したのが図2である。プレス機のプレート間からトレーを引き出して位置決め用シート(5)を確認すると、(b)工程により、Tシャツ(3)が平坦化され所定の位置に保持されていることが判った。その結果を図3に示す。
【0044】
位置決め用シートに保持されたTシャツをトレーの上から一旦取り除き、前記(a)工程で作成した原画マーキングシートを絵柄が上方を向くようにしてトレー上に敷いた。その上にTシャツの表面が、絵柄と重なり合うようにして位置決め用シートとともに被せ、再びプレス機のプレート間に挿入し、加熱・加圧して昇華染料を転写した(本発明の(c)工程)。図4に示す原画マーキングシート(6)には、重ね合わせられる位置決め用シート(5)の裏面側から視認できる位置決め用のマーク(7)が付与されていてもよい。このマークを目印にすることで、位置決め用シートに保持されたTシャツを正確に原画の上に重ね合わせることが容易となる。勿論、各シートの端を揃える等によって位置決め用のマークがなくても両者を適切な配置にすることは可能である。
【0045】
図5には、(c)工程後にTシャツを取り出した状態を示す。Tシャツの正面側に絵柄が均一に転写されていることが判る。
【0046】
(実施例2)
被転写物として綿100%で縫製されたTシャツを用いて、該Tシャツの正面および背面にデザインを施す例について説明する。初めに、本発明の(a2)工程を行い実施例1と同様の装置等を使用して原画マーキングシートA(図4)、B(図6)をそれぞれ作成した。
【0047】
実施例1と同様にして(b)工程、(c)工程を経て、位置決め用シートを剥離し原画マーキングシートAに保持された状態のTシャツを得た(本発明の(d)工程)。原画マーキングシートAに保持されたTシャツをトレーの上から一旦取り除き、前記(a2)工程で作成し未使用の原画マーキングシートBを絵柄が上方を向くようにしてトレー上に敷いた。その上にTシャツの背面側が、絵柄と重なり合うようにして原画マーキングシートAとともに被せ、再びプレス機のプレート間に挿入し、加熱・加圧して昇華染料を転写した。この(e)工程の後のTシャツへの転写状態を図7に示す。図7に示すように、Tシャツの背面側にも絵柄が転写されていることが判る。
【0048】
また、前記Tシャツの肩部分のみを拡大した模様を図8に示す。図8に示すように、正面側から背面側にかけて絵柄が連続的に転写されていることが判る。
【0049】
(比較例1)
前記実施例2において本発明の(b)工程を行わず、一般的な熱転写方法(位置決めシートを用いず、かつ転写を伴わない加熱工程を省いた方法)に従って原画マーキングシートA、BをTシャツの正面と背面に転写した。該転写後のTシャツの肩部分のみを拡大した模様を図9に示す。図9に示すように絵柄が転写されずに白地のままで残る部分(10)があること、従って絵柄の連続性が損なわれていることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上説明したように、本発明の昇華転写染色方法は、昇華染料で描画された原画を、被転写物の所望の位置に正確に転写し、或いは表裏両面を通して連続性のある絵柄等を転写することができるので、縫製後の繊維製品に多彩なデザインを付与し、商品価値を高めることができる。
【符号の説明】
【0051】
1 熱転写プレス機
2 トレー
3 Tシャツ
5 位置決め用シート
6 原画マーキングシート
7 位置決め用マーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9