【解決手段】等速ジョイント100が備える外側ジョイント部材10,110の外側ボール溝13は、等速ジョイント100の作動時にボール30を転動させる第一ボール溝51と、第一ボール溝51のボール溝半径Ra1に比べて大きいボール溝半径Ra2で形成される第二ボール溝52,152とを備える。第二ボール溝52,152は、第一ボール溝51の溝底の開口部11側の溝底端部51aに接続され、径方向外側に向かって凹状に湾曲する湾曲線61と、湾曲線61と開口部11とを接続する接続線62とを備える。湾曲線61は、第一ボール溝51の溝底端部51aの位置よりも開口部11側に位置し、且つ外側ジョイント部材10の径方向内側に位置する曲率中心O2を中心に湾曲して形成される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の特許文献1に示される未加工領域の溝底は、外側ジョイント部材の径方向外方に位置する点(文献では、「点P3」)を曲率中心として描かれる凸円弧状をなしている。つまり、未加工領域は、外側ジョイント部材の径方向の内側に向かって膨らんだ凸湾曲面状をなしている。このため、実際の削り加工では、未加工領域の一部に砥石や歯部等が当たり、等速ジョイントの作動時に用いられる転動範囲以外の部分を余分に削ってしまう可能性がある。その結果、加工リードタイムは、未加工領域の一部を削り加工する時間だけ長くなる虞がある。
【0006】
本発明は、加工リードタイムを短縮できる等速ジョイント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1.等速ジョイント)
本発明に係る等速ジョイントは、軸方向一方側に開口部を有する有底筒状に形成され、凹球面状の内周面を有し、複数の外側ボール溝が前記内周面に形成された外側ジョイント部材と、前記外側ジョイント部材の内側に配置され、凸球面状の外周面を有し、複数の内側ボール溝が前記外周面に形成された内側ジョイント部材と、前記複数の外側ボール溝及び前記複数の内側ボール溝を転動する複数のボールと、前記外側ジョイント部材の前記内周面及び前記内側ジョイント部材の前記外周面の間に配置され、前記ボールを収容可能な保持器とを備える。
【0008】
前記外側ジョイント部材の前記外側ボール溝は、前記等速ジョイントの作動時に前記ボールに転動させる第一ボール溝と、前記第一ボール溝の前記開口部側に位置し、前記第一ボール溝のボール溝半径に比べて大きいボール溝半径で形成される第二ボール溝と、を備える。前記第二ボール溝は、前記外側ボール溝の溝底を通る軸方向断面において、前記第一ボール溝の溝底の前記開口部側の溝底端部に接続され、径方向外側に向かって凹状に湾曲する湾曲線と、前記湾曲線と前記開口部とを接続する接続線とを備える。前記湾曲線は、前記第一ボール溝の溝底の前記溝底端部の位置よりも前記開口部側に位置し、且つ前記外側ジョイント部材の径方向内側に位置する曲率中心を中心に湾曲して形成される。
【0009】
第一ボール溝は、等速ジョイントの作動時に使用される部位である。つまり、第一ボール溝には、削り加工が施されている。また、第二ボール溝は、第一ボール溝より開口部側に位置するため、等速ジョイントの作動時に使用される部位ではなく、組み付けのために使用される部位である。つまり、第二ボール溝は、削り加工が施される必要はない。そこで、第二ボール溝は、第一ボール溝のボール溝半径に比べて大きいボール溝半径で形成される。「ボール溝半径」とは、ボール溝に内接する仮想円の半径である。このことにより、第二ボール溝は、第一ボール溝の削り加工時に、砥石等が接触しにくい形状となる。
【0010】
さらに、第二ボール溝の溝底は、湾曲線と、接続線とを備えている。湾曲線は、第一ボール溝との接続点である溝底端部の位置よりも開口部側に位置し、且つ外側ジョイント部材の径方向内側に位置する曲率中心を中心に湾曲している。特に、湾曲線は、溝底端部から外側ジョイント部材の径方向外側に向かって凹状に湾曲する。
【0011】
これにより、砥石等を、第二ボール溝における湾曲線が存在する範囲に接触させることなく、第一ボール溝に対する削り加工を行うことができる。従って、第一ボール溝を削り加工する際に、第二ボール溝を削り加工しなくて済むため、加工リードタイムを短縮できる。また、外側ボール溝に対して行う削り加工の加工範囲を縮小することで加工量の削減を図り、砥石等の削り加工に使用する部材の消耗を抑制できる。その結果、本発明の等速ジョイントでは、製造コストの削減を達成することができる。
【0012】
(2.等速ジョイントの製造方法)
本発明に係る等速ジョイントの製造方法は、上述した等速ジョイントの製造方法であって、前記第一ボール溝は、削り加工が施された面により形成され、前記第二ボール溝は、塑性加工が施された面により形成される。これにより、上述した等速ジョイントによる効果と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<1.第一実施形態>
(1−1.等速ジョイント100の概略構成)
本発明の第一実施形態における等速ジョイント100について、
図1を参照して説明する。等速ジョイント100は、ジョイント中心固定式ボール型等速ジョイントであって、例えば、自動車のフロント用ドライブシャフトのアウトボードジョイントとして好適に使用される。
図1に示すように、等速ジョイント100は、外側ジョイント部材10と、内側ジョイント部材20と、6つのボール30と、保持器40とを備えている。
【0015】
外側ジョイント部材10は、回転軸線L1方向における一方側(
図1における左側)に開口部11を有する有底筒状に形成されている。外側ジョイント部材10は、凹球面状の内周面12と、その内周面12に形成される6つの外側ボール溝13とを備えている。なお、以下の説明では、
図1における左側を開口側、右側を底側と称して説明する。
【0016】
外側ジョイント部材10の内周面12は、外側ジョイント部材10の回転軸線L1と内側ジョイント部材20の回転軸線L2との交点Oを中心とする球面形状に倣って形成されている。6つの外側ボール溝13の各々は、回転軸線L1方向に延びる溝状に形成されている。外側ボール溝13の各々は、回転軸線L1まわりに周方向等間隔(本実施形態では60度間隔)に配置されている。
【0017】
また、図示しないが、外側ジョイント部材10の内周面12と外側ボール溝13との接続部位には面取り加工が施されている。なお、外側ジョイント部材10の底部には、回転軸線L1方向へ延びる連結軸10aが一体的に形成されている。この連結軸10aは、図示しない他の動力伝達軸に連結されている。
【0018】
内側ジョイント部材20は、環状に形成されている。内側ジョイント部材20は、凸球面状の外周面21と、その内側ジョイント部材20の外周面21に形成される6つの内側ボール溝22と、を備えている。
【0019】
内側ジョイント部材20の外周面21は、交点Oを中心とする球面形状に倣って形成されている。6つの内側ボール溝22の各々は、回転軸線L2方向に延びる溝状に形成されている。内側ボール溝22の各々は、回転軸線L2まわりに周方向等間隔に配置されている。また、図示しないが、内側ジョイント部材20の外周面21と内側ボール溝22との接続部位には面取り加工が施されている。なお、内側ジョイント部材20の内周面には、シャフト20aに形成された雄スプライン(図示せず)に噛合する雌スプライン(図示せず)が形成されている。
【0020】
保持器40は、環状の部材であり、外側ジョイント部材10の内周面12と内側ジョイント部材20の外周面21との間に配置されている。保持器40は、凸球面状の外周面41と、凹球面状の内周面42と、6つの窓部43とを備えている。保持器40の外周面41は、外側ジョイント部材10の内周面12に倣った形状を有している。また、保持器40の内周面42は、内側ジョイント部材20の外周面21に倣った形状を有している。窓部43は、保持器40を径方向に貫通して形成された矩形状の孔である。6つの窓部43の各々は、保持器40の回転軸線L3まわりに周方向等間隔に配置され、各々の窓部43にボール30が1つずつ収容されている。
【0021】
保持器40の外周面41の少なくとも一部は、外側ジョイント部材10の内周面12に接触する。保持器40の内周面42の少なくとも一部は、内側ジョイント部材20の外周面21に接触する。対向配置された各々の外側ボール溝13と各々の内側ボール溝22との間には、ボール30が1つずつ配置されている。ボール30の各々は、保持器40によって外側ボール溝13及び内側ボール溝22を転動可能に保持されている。
【0022】
ボール30が転動する外側ボール溝13の転動面は、例えば、回転軸線L1の軸方向断面において、回転軸線L1と回転軸線L2との交点Oよりも開口側に位置する点を中心とする円弧状に形成されている。また、ボール30が転動する内側ボール溝22の転動面は、同様に、交点Oよりも底側に位置する点を中心とする円弧状に形成されている。6つのボール30は、回転軸線L1を中心とする周方向において外側ボール溝13に、回転軸線L2を中心とする周方向において内側ボール溝22に、それぞれ係合し、外側ジョイント部材10と内側ジョイント部材20との間でトルクを伝達する。
【0023】
(1−2.外側ボール溝13の構成)
次に、外側ジョイント部材10の内周面12に設けられた外側ボール溝13について、
図2及び
図3を参照して説明する。
図2及び
図3に示すように、外側ボール溝13は、第一ボール溝51と、第二ボール溝52と、第三ボール溝53とを備えている。
【0024】
第一ボール溝51は、外側ボール溝13における回転軸線L1の略中央部に位置する。第一ボール溝51は、塑性加工(鍛造及びしごき加工を含む)が施された後に、削り加工が施された面により形成される。第一ボール溝51をボール30が転動する場合のボール中心軌跡T1が、交点Oから開口側へオフセットした点O1を曲率中心として、曲率半径R1で描かれる円弧状の曲線に沿うように、第一ボール溝51が形成されている。
【0025】
第一ボール溝51は、等速ジョイント100の作動時においてボール30の転動範囲を含むように設定されている。具体的には、例えば、
図3に示すように、ジョイント作動角θが最大となった時にボール30が外側ボール溝13に接触する二つの接点を、接点P1,P2とする。この場合、ボール30の転動範囲の軸方向長さは、接点P1から接点P2までの範囲となる。
第一ボール溝51の開口側の端部は、接点P1の位置と一致するようにしてもよいし、接点P1の位置より僅かに開口側に位置してもよい。また、第一ボール溝51の底側の端部は、接点P2の位置と一致するようにしてもよいし、接点P2の位置よりも底側に位置してもよい。従って、等速ジョイント100の作動時におけるボール30の転動範囲は、削り加工を施した第一ボール溝51内に収まっている。
【0026】
第二ボール溝52は、第一ボール溝51の開口側の端部から外側ジョイント部材10の開口部11に至る範囲に位置し、第一ボール溝51の開口側の端部に連続して形成されている。第二ボール溝52は、等速ジョイント100の作動時にはボール30が転動しない範囲に位置し、外側ジョイント部材10へボール30を組み付ける際に使用される。
【0027】
第二ボール溝52は、第一ボール溝51の開口側から延長した面よりも径方向外側に形成される。つまり、第二ボール溝52は、第一ボール溝51に対して逃げた形状に形成されている。また、第二ボール溝52は、塑性加工が施された面により形成される。つまり、第二ボール溝52には、削り加工が施されていない。
【0028】
第三ボール溝53は、第一ボール溝51の底側に位置し、第一ボール溝51の底側の端部に連続して形成されている。第三ボール溝53は、第二ボール溝52と共に、等速ジョイント100の作動時にはボール30が転動しない範囲に位置し、外側ジョイント部材10へボール30を組み付ける際に使用される。
【0029】
第三ボール溝53は、第一ボール溝51の底側から延長した面よりも径方向外側に形成される。つまり、第三ボール溝53は、第一ボール溝51に対して逃げた形状に形成されている。具体的には、第三ボール溝53をボール30が転動する場合のボール中心軌跡T3が、点O1よりも第三ボール溝53から離間した位置の点O3を曲率中心として描かれる円弧状の曲線に沿うように、第三ボール溝53が形成されている。また、第三ボール溝53は、第二ボール溝52と同様に、塑性加工が施された面により形成されており、削り加工が施されていない。
【0030】
(1−3.第二ボール溝52の詳細構成)
次に、第二ボール溝52の詳細構成について、
図4及び
図5を参照して説明する。
図5に示すように、第二ボール溝52のボール溝半径Ra2は、第二ボール溝52の全長に亘って、第一ボール溝51のボール溝半径Ra1に比べて大きい。ここで、「ボール溝半径」とは、ボール溝に内接する仮想円の半径である。第一ボール溝51のボール溝半径Ra1は、ボール30の半径よりわずかに大きい。そして、第二ボール溝52のボール溝半径Ra2は、ボール30の半径より大きく、且つ第一ボール溝51のボール溝半径Ra1より大きい。従って、第二ボール溝52の開口側の端形状は、第一ボール溝51の開口側の端形状に沿った円弧状をなしている。
【0031】
図4に示すように、第二ボール溝52は、外側ボール溝50の溝底を通る軸方向断面において、湾曲線61と、接続線62とを備えている。湾曲線61は、第一ボール溝51の溝底の端部である溝底端部51aから外側ジョイント部材10の径方向外側に向かって凹状に湾曲している。
【0032】
湾曲線61は、1点の曲率中心O2を中心として、曲率半径Rb2で描かれる円弧状の曲線に沿うように形成される。曲率中心O2は、第一ボール溝51の溝底端部51aの位置よりも開口側(開口部11側)に位置し、且つ、外側ジョイント部材10の径方向内側に位置する。従って、本実施形態の湾曲線61は、曲率中心O2を中心とした単一円弧に沿って形成されている。なお、湾曲線61は、曲率中心O2が変化するような形状、すなわち単一円弧とは異なる形状としてもよい。例えば、湾曲線61は、楕円形状に沿って形成されるようにしてもよい。この場合の曲率中心O2は、上記の要件を満たすものとする。
【0033】
さらに、曲率中心O2から湾曲線61までの距離である曲率半径Rb2は、外側ジョイント部材10の回転軸線L1から第一ボール溝51の溝底端部51aまでの距離Rc1(
図3に示す)に比べて短い。従って、第二ボール溝52は、第一ボール溝51の開口側から急激に径方向外側に凹んだ形状となる。
【0034】
接続線62は、湾曲線61の開口側の端部と開口部11とを接続している。接続線62は、外側ジョイント部材10の底側から開口側に向かって、外側ジョイント部材10の回転軸線L1からの距離Rc2(
図3に示す)が長くなるように形成されている。そして、第二ボール溝52における接続線62が存在する範囲は、外側ジョイント部材10の底側から開口側に向かって、ボール溝半径Ra2を徐々に大きくして形成されている。
【0035】
(1−4.外側ジョイント部材10の製造方法)
次に、外側ジョイント部材10の製造方法について、
図4を参照して説明する。外側ジョイント部材10は、塑性加工の後に、第一ボール溝51に対する削り加工を行うことにより、形成される。塑性加工には、鍛造と、その後に行うしごき加工とが含まれる。つまり、第一ボール溝51は、塑性加工により大凡の形状を形成した後に、削り加工が施された面により形成される。一方、第二ボール溝52及び第三ボール溝53は、削り加工を施されず、塑性加工が施された面となる。
【0036】
ここで、
図4には、第一ボール溝51の削り加工が施される前の面、すなわち塑性加工により形成された面は、二点鎖線で示す。つまり、取代部分63が、削り加工により削り取られた部分となる。
【0037】
第一ボール溝51の開口側には、第二ボール溝52が存在する。
図4に示すように、本実施形態の第二ボール溝52の湾曲線61は、溝底端部51aよりも開口側で、外側ジョイント部材10の径方向内側に位置する曲率中心O2を中心として湾曲している。特に、湾曲線61は、溝底端部51aから外側ジョイント部材10の径方向外側に向かって凹状に湾曲する。
【0038】
このため、本実施形態の第一ボール溝51に対して削り加工を行う際に、削り加工のための砥石を、第二ボール溝52における湾曲線61が存在する範囲に接触させないようにできる。さらに、接続線62は、湾曲線61からさらに径方向外側に広がっている。つまり、取代部分63は、実質的に第一ボール溝51に対応する範囲となる。従って、第二ボール溝52の一部を削り加工する時間をなくし、加工リードタイムを短縮することが可能となる。
【0039】
<2.第二実施形態>
第二実施形態の外側ジョイント部材110について
図6を参照して説明する。外側ジョイント部材110において、第一実施形態の外側ジョイント部材10と同様の構成ついては同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0040】
図6に示すように、外側ジョイント部材110の第二ボール溝152は、外側ボール溝13の溝底を通る軸方向断面において、第一実施形態の第二ボール溝52の湾曲線61と同様の湾曲線61と、湾曲線61と開口部11とを接続する接続線162とを備える。接続線162は、外側ジョイント部材110の底側から開口部11側に向かって、外側ジョイント部材110の回転軸線L1(
図1及び
図3に示す)に平行に形成される。第二ボール溝152における接続線162が存在する範囲は、ボール溝半径Ra2を同一に形成される。この場合も、第一実施形態と同様に、取代部分63は、実質的に第一ボール溝51に対応する範囲となる。従って、第二ボール溝152の一部を削り加工する時間をなくし、加工リードタイムを短縮することが可能となる。
【0041】
<3.比較例の等速ジョイント200の説明>
比較のため、従来の構成の等速ジョイント200について
図7を参照して説明する。
図7は、従来の第一ボール溝51及び第二ボール溝210の構成を示しており、上記した第一実施形態の
図4に対応した図である。なお、以下の説明では、上記実施形態と同様の構成については同一符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0042】
図7に示すように、従来の構成における削り加工を施していない第二ボール溝210の溝底は、外側ジョイント部材10の径方向外側に位置する点O4を曲率中心として描かれる凸円弧状の曲線に沿って形成されており、外側ジョイント部材10の径方向の内側に向かって膨らんでいる。この場合、第一ボール溝51の溝底を削る加工において、砥石は、開口側の第一ボール溝51(転動範囲)に近い第二ボール溝210の一部(
図7中に示す領域211)に当たってしまい、第二ボール溝210を削ってしまう可能性がある。
【0043】
このため、
図7に斜線で示すように、削り加工に必要な取代212は、第一ボール溝51の溝底端部51aよりも開口側の第二ボール溝210の一部を含む範囲となる。その結果、削り加工のリードタイムは、削る必要のない第二ボール溝210の一部を削り加工する時間だけ長くなる虞がある。
【0044】
<4.効果>
上述した説明から明らかなように、第一実施形態及び第二実施形態において、等速ジョイント100は、回転軸線L1方向一方側に開口部11を有する有底筒状に形成され、凹球面状の内周面12を有し、複数の外側ボール溝13が内周面12に形成された外側ジョイント部材10,110と、外側ジョイント部材10,110の内側に配置され、凸球面状の外周面21を有し、複数の内側ボール溝22が外周面21に形成された内側ジョイント部材20と、複数の外側ボール溝13及び複数の内側ボール溝22を転動する複数のボール30と、外側ジョイント部材10,110の内周面12及び内側ジョイント部材20の外周面21の間に配置され、ボール30を収容可能な保持器40とを備える。
【0045】
外側ジョイント部材10,110の外側ボール溝13は、等速ジョイント100の作動時にボール30を転動させる第一ボール溝51と、第一ボール溝51の開口部11側に位置し、第一ボール溝51のボール溝半径Ra1に比べて大きいボール溝半径Ra2で形成される第二ボール溝52,152とを備える。第二ボール溝52,152は、外側ボール溝13の溝底を通る軸方向断面において、第一ボール溝51の溝底の開口部11側の溝底端部51aに接続され、径方向外側に向かって凹状に湾曲する湾曲線61と、湾曲線61と開口部11とを接続する接続線62,162とを備える。そして、湾曲線61は、第一ボール溝51の溝底の溝底端部51aの位置よりも開口部11側に位置し、且つ外側ジョイント部材10,110の径方向内側に位置する曲率中心O2を中心に湾曲して形成される。
【0046】
第一ボール溝51は、等速ジョイント100の作動時に使用される部位である。つまり、第一ボール溝51には、削り加工が施されている。また、第二ボール溝52,152は、第一ボール溝51より開口部11側に位置するため、等速ジョイント100の作動時に使用される部位ではなく、組み付けのために使用される部位である。つまり、第二ボール溝52,152は、削り加工が施される必要はない。
【0047】
つまり、第一実施形態及び第二実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材10,110において、第一ボール溝51は、削り加工が施された面により形成され、第二ボール溝52,152は、塑性加工が施された面により形成されている。
【0048】
そこで、第二ボール溝52,152は、第一ボール溝51のボール溝半径Ra1に比べて大きいボール溝半径Ra2で形成されている。さらに、第二ボール溝52,152の溝底は、湾曲線61と、接続線62,162とを備えている。湾曲線61は、第一ボール溝51との接続点である溝底端部51aの位置よりも開口部11側に位置し、且つ外側ジョイント部材10,110の径方向内側に位置する曲率中心O2を中心に湾曲している。特に、湾曲線61は、溝底端部51aから外側ジョイント部材10,110の径方向外側に向かって凹状に湾曲する。
【0049】
これにより、砥石等を、第二ボール溝52,152における湾曲線61が存在する範囲に接触させることなく、第一ボール溝51に対する削り加工を行うことができる。従って、第一ボール溝51を削り加工する際に、第二ボール溝52,152を削り加工しなくて済むため、加工リードタイムを短縮できる。また、外側ボール溝13に対して行う削り加工の加工範囲を縮小することで加工量の削減を図り、砥石等の削り加工に使用する部材の消耗を抑制できる。その結果、本実施形態の等速ジョイント100では、製造コストの削減を達成することができる。
【0050】
また、第一実施形態及び第二実施形態の等速ジョイント100において、外側ボール溝13の溝底を通る軸方向断面において、曲率中心O2から湾曲線61までの距離である曲率半径Rb2(
図4及び
図6に示す)が、外側ジョイント部材10,110の回転軸線L1から溝底端部51aまでの距離Rc1(
図3に示す)に比べて短くなっている。これによれば、第二ボール溝52,152は、第一ボール溝51の開口部11側から急激に径方向外側に凹んだ形状にできる。従って、外側ボール溝13に対する削り加工において、砥石等と湾曲線61との接触をより確実に回避でき、加工リードタイムの短縮及び製造コストの削減を達成することができる。
【0051】
また、第一実施形態及び第二実施形態の等速ジョイント100において、湾曲線61は、曲率中心O2を中心とした単一円弧に沿って形成される曲線である。これによれば、湾曲線61を単一円弧に沿った曲線とすることで、外側ジョイント部材10,110に湾曲線61を形成するために行う鍛造など加工作業が容易となり、製造コストの低減をより確実に図ることが可能となる。また、鍛造のための金型の設計が容易となる。なお、湾曲線61は、単一円弧の他に、楕円などの複合円弧に沿って形成される曲線とすることもできる。
【0052】
また、第一実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材10において、接続線62は、外側ジョイント部材10の底側から開口部11側に向かって、外側ジョイント部材10の回転軸線L1からの距離Rc2(
図3に示す)が長くなるように形成されている。そして、第二ボール溝52における接続線62が存在する範囲は、外側ジョイント部材10の底側から開口部11側に向かって、ボール溝半径Ra2(
図4に示す)を徐々に大きくして形成されている。これによれば、外側ボール溝13に対する削り加工において、砥石等が接続線62の範囲に接触するのをより確実に回避でき、加工リードタイムの短縮及び製造コストの削減を達成することができる。
【0053】
また、第二実施形態の等速ジョイント100の外側ジョイント部材110において、接続線162は、外側ジョイント部材110の底側から開口部11側に向かって、外側ジョイント部材110の回転軸線L1(
図1及び
図3に示す)に平行に形成されている。そして、第二ボール溝152における接続線162が存在する範囲は、ボール溝半径Ra2(
図6に示す)を同一に形成されている。この場合も、外側ボール溝13に対する削り加工において、砥石等が接続線162に接触するのをより確実に回避でき、加工リードタイムの短縮及び製造コストの削減を達成することができる。