【課題】グラスライニング製容器の開口を密閉するためのガスケットであって、隙間の調整作業を不要とすることができ、更には開口の密閉性の向上に資するガスケットを提供する。
【解決手段】略樽型の垂直断面形状を有する環状のゴム弾性体と該ゴム弾性体のつぶし率を適切な値に制御するバックアップリングとを内包するガスケットを提供する。該ゴム弾性体の上下方向の最大厚みをH、該ゴム弾性体の水平方向の幅をW、該バックアップリングの上下方向の厚みをtとすると、W/H>1、25≦(H−t)÷H×100≦50が成立し、該バックアップリングの上面の高さ位置における該ゴム弾性体の水平方向の幅をW1、該バックアップリングの下面の高さ位置における該ゴム弾性体の水平方向の幅をW2とすると、W1≦10mm、W2≦10mmが成立する。
該バックアップリングは金属製の平板と、該金属板の上下方向にそれぞれ積層されたジョイントシートとを備えた積層構造を有する請求項1〜5の何れか一項に記載のガスケット。
ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面において、該ゴム弾性体の上側に配置された上に凸の曲線及び下側に配置された下に凸の曲線は、それぞれ曲率半径が4〜12mmの曲線である請求項1〜7の何れか一項に記載のガスケット。
第一のガスケットが請求項1〜8の何れか一項に記載のガスケットであり、第一のガスケットは該開口部及び該プロテクターリングからの圧力によって前記ゴム弾性体が前記バックアップリングの厚みまで圧縮された状態となっている請求項10に記載の密閉構造。
該蓋部へ圧力を印加することなく該開口部と該プロテクターリングの間の圧力を調整可能な複数の締付部材A、及び、該開口部と該蓋部の間の圧力を調整可能な複数の締付部材Bが設置されており、締付部材Bの数が締付部材Aの数よりも少ない請求項10又は11に記載の密閉構造。
【背景技術】
【0002】
高耐食性や高製品純度が求められる医薬、電材などの産業分野で用いられるグラスライニング製容器(例:反応槽、貯槽)には、内部に原料や薬品等の物質を投入する又は内部への出入りを行なうための開口部が設けられている。開口部は蓋部によって開閉可能な開口を有しており、蓋部によって開口を閉じたときには高い密閉性が求められる。従来、開口の密閉性を確保するため、開口部と蓋部の間にガスケットを介在させる方法が知られている。
【0003】
図7に、従来のガスケット50の典型的な垂直断面構造を示す。該ガスケット50は、ステンレス製の平板リング51の上下両面に、ジョイントシート52及びフェルト53を順次配置し、それらをテフロン(登録商標)フィルム54で被覆した構造を備えている。テフロン(登録商標)フィルム54は内周側のみ融着されている。
【0004】
最近ではガスケットにOリングを使用する技術も知られている。特開2003−222243号公報(特許文献1)で提案されている密閉構造を
図8に示す。
図8に示すガスケット90は、Oリング91と、このOリング91形状に沿うべくリング状に形成されたバックアップリング92と、Oリング91及びバックアップリング92を覆うべく設けられたカバーシート93とを用いて構成されている。バックアップリング92は、金属、非金属等の剛性部材を用いて形成されている。このバックアップリング92は、Oリング91に固着すべく設けられている。ガスケット90は開口部61と蓋部62との間に挟持される。
【0005】
Oリング91の円形断面の外径dは、ガスケット90が蓋本体部63と開口部61との間に挟持されて蓋本体部63にて所定圧で締め付けられた後において、バックアップリング92の厚さtよりも大きな寸法となるべく構成されている。特許文献1の説明によれば、当該構成を採用することにより、ガスケット90の締め付け時に、バックアップリング92と蓋本体部63との間には所定の隙間が生ずることとなるから、締め付け時の圧力が全てOリング91に作用することとなって、適切な密閉状態を維持することが可能となる。
【0006】
また、特開2014−169105号公報(特許文献2)で提案されている密閉構造を
図9に示す。蓋6と容器1との間に介装されるプロテクターリング5の上面5a及び下面5bに第1周縁段部20及び第2周縁段部20aが形成されている。第1周縁段部20と蓋6の間には、第1Oリング21と第1弾性介装体22が設置されている。第2周縁段部20aと容器1の間には、第2Oリング21aと第2弾性介装体22aが設置されている。なお、プロテクターリングとは開口部周縁のグラスライニング面を保護する目的で、蓋と開口部の間に設置されるリング状の部品のことである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、グラスライニング施工された面には特有の歪みがあり、開口部、蓋部、更にはプロテクターリングがグラスライニング施工されている場合、
図7に示したような積層構造をもつガスケットを開口部と蓋部の間やプロテクターリングと蓋部の間に介在させたとしても隙間が生じてしまい、密閉性を確保することが難しかった。そのため、従来は密閉性を得る為に、ガスケットを装着する際に隙間に合わせてガスケットに調整用部材を切張りする調整作業が必要であった。これらの作業は密閉性の低下により定期的に行われるガスケット交換の都度実施する必要があり、煩雑な作業である。また、蓋部にて容器の開口部を閉塞する場合、密閉性を確保するために、十数個のクランプを外周に配置し、かつ当該クランプを強い力で締付ける必要があった。蓋部の開閉時には都度、それらのクランプの着脱作業を実施する必要があり、当該作業には多大な労力が掛っていた。
【0009】
この点、特許文献1や特許文献2に開示されるようなOリングを使用したガスケットは、Oリングのゴム弾性によってグラスライニング面の歪みに沿って変形することができるので隙間が生じにくい。このため、上記のような隙間を埋めるための調整作業は軽減又は不要にすることができる。しかしながら、Oリングを使用したガスケットでは容器内が高い内圧のときにガス漏れが生じやすいという問題があり、密閉性に関しては改善の余地が残されている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、グラスライニング製容器の開口を密閉するためのガスケットであって、上述した隙間の調整作業を不要とすることができ、更には開口の密閉性の向上に資するガスケットを提供することを課題の一つとする。また、本発明はそのようなガスケットを備えたグラスライニング製容器の開口部における密閉構造を提供することを別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、略樽型の垂直断面形状を有する環状のゴム弾性体と該ゴム弾性体のつぶし率を適切な値に制御するバックアップリングとを内包するガスケットが課題解決に有効であることを見出した。本発明は斯かる知見に基づいて完成したものである。
【0012】
本発明は一側面において、
グラスライニング製容器の開口を密閉するための環状のガスケットであって、
該ガスケットは、内周側に配置されるゴム弾性体と、該ゴム弾性体に隣接した状態で外周側に配置されるバックアップリングと、該ゴム弾性体及び該バックアップリングを内包するカバーフィルムとを備え、
ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面において、
該ゴム弾性体は、上側に配置された上に凸の曲線及び下側に配置された下に凸の曲線を有する略樽型の垂直断面形状を有しており、
該ゴム弾性体は、該バックアップリングの上面よりも上方向に突出した部分、及び、該バックアップリングの下面よりも下方向に突出した部分を有しており、
該ゴム弾性体の上下方向の最大厚みをH、該ゴム弾性体の水平方向の幅をW、該バックアップリングの上下方向の厚みをtとすると、W/H>1、25≦(H−t)÷H×100≦50が成立し、
該バックアップリングの上面の高さ位置における該ゴム弾性体の水平方向の幅をW1、該バックアップリングの下面の高さ位置における該ゴム弾性体の水平方向の幅をW2とすると、W1≦10mm、W2≦10mmが成立する、
ガスケットである。
【0013】
本発明に係るガスケットは一実施形態において、35≦(H−t)÷H×100≦45が成立する。
【0014】
本発明に係るガスケットは別の一実施形態において、3mm≦W1≦10mm、3mm≦W2≦10mmが成立する。
【0015】
本発明に係るガスケットは更に別の一実施形態において、該バックアップリングの硬度は該ゴム弾性体の硬度よりも高い。
【0016】
本発明に係るガスケットは更に別の一実施形態において、該ゴム弾性体のショア硬さが60〜90である。
【0017】
本発明に係るガスケットは更に別の一実施形態において、該バックアップリングは金属製の平板と、該金属板の上下方向にそれぞれ積層されたジョイントシートとを備えた積層構造を有する。
【0018】
本発明に係るガスケットは更に別の一実施形態において、ガスケットの外周にカバーフィルムの融着部が形成されている。
【0019】
本発明に係るガスケットは更に別の一実施形態において、ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面において、該ゴム弾性体の上側に配置された上に凸の曲線及び下側に配置された下に凸の曲線は、それぞれ曲率半径が4〜12mmの曲線である。
【0020】
本発明は別の一側面において、
グラスライニング製容器の開口部と、
該開口部の開口を覆うグラスライニング製の蓋部と、
該開口の周縁に沿って該開口部及び該蓋部の間に配置された本発明に係るガスケットとを備え、
該ガスケットは該開口部及び該蓋部からの圧力によって前記ゴム弾性体が前記バックアップリングの厚みまで圧縮された状態となっている密閉構造である。
【0021】
本発明は更に別の一側面において、
グラスライニング製容器の開口部と、
該開口部の開口を覆うグラスライニング製の蓋部と、
該開口の周縁に沿って該開口部及び該蓋部の間に配置されたグラスライニング製のプロテクターリングと、
該開口の周縁に沿って該開口部及び該プロテクターリングの間に配置された第一のガスケットと、
該開口の周縁に沿って該プロテクターリング及び該蓋部の間に配置された第二のガスケットとを備え、
第二のガスケットが本発明に係るガスケットであり、第二のガスケットは該プロテクターリング及び該蓋部からの圧力によって前記ゴム弾性体が前記バックアップリングの厚みまで圧縮された状態となっている密閉構造である。
【0022】
本発明に係る密閉構造は一実施形態において、第一のガスケットが本発明に係るガスケットであり、第一のガスケットは該開口部及び該プロテクターリングからの圧力によって前記ゴム弾性体が前記バックアップリングの厚みまで圧縮された状態となっている。
【0023】
本発明に係る密閉構造は別の一実施形態において、該蓋部へ圧力を印加することなく該開口部と該プロテクターリングの間の圧力を調整可能な複数の締付部材A、及び、該開口部と該蓋部の間の圧力を調整可能な複数の締付部材Bが設置されており、締付部材Bの数が締付部材Aの数よりも少ない。
【0024】
本発明に係る密閉構造は更に別の一実施形態において、締付部材Aの数が10以上であり、締付部材Bの数が5以下である。
【0025】
本発明は更に別の側面において、本発明に係る密閉構造を有するグラスライニング製容器である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るガスケットを使用することで、グラスライニング製容器の開口部にガスケットを装着する際に、調整用部材を切張りして隙間を埋める調整作業を省くことが可能となる。また、本発明に係るガスケットは開口の密閉性を向上可能であるために、例えば、従来に比べて少ないクランプ数で開口の密閉性を確保することも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<1.ガスケット>
図1には本発明に係るガスケットの垂直断面構造の一例が示されている。また、
図2には
図1に示したガスケットの垂直断面構造について、ゴム弾性体及びバックアップリングの各種寸法の測定箇所が記載されている。本発明に係るガスケット100は一実施形態において、グラスライニング製容器の開口を密閉するために使用することができ、内周側に配置されるゴム弾性体101と、該ゴム弾性体に隣接した状態で外周側に配置されるバックアップリング102と、該ゴム弾性体及び該バックアップリングを内包するカバーフィルム103とを備える。バックアップリング102がゴム弾性体101に隣接している状態というのは、バックアップリング102がゴム弾性体101に接触している状態及び接触していない状態の両者を含む概念である。しかしながら、両者はガスケットの形状安定性の観点からは接触していることが好ましく、バックアップリング102はゴム弾性体101と接着剤などによって接着されていることがより好ましい。
【0029】
ガスケットはグラスライニング製容器の開口の周縁に沿って配置するため環状であるのが一般的である。ガスケットの具体的な形状は開口形状に応じて適宜設定することができ、例えば、平面視で真円環状や楕円環状等とすることができる。
【0030】
グラスライニング製容器の開口の大きさについては特に制限はないが、マンホールとしての機能をもたせる場合、人が出入りするための過不足のない大きさであることが好ましい。マンホールにおける開口の周長は1100〜1250mmであることが典型的である。
【0031】
(1−1 ゴム弾性体)
ゴム弾性体101を内包するガスケット構造とすることで、ゴム弾性体の弾性力によりグラスライニング面の歪みにガスケットの形状が追従することができるので隙間が生じにくくなり、
図7に示すような従来技術が必要としていた隙間を埋める調整作業を不要とすることが可能である。また、
図7に示すような従来のガスケットでは密閉性を確保する為にグラスライニング面との密着面全面に高い面圧を付与しなければならないが、ゴム弾性体101を内包するガスケット構造としてゴム弾性体をつぶす力を付与すれば、低い面圧であってもその弾性力によってグラスライニング面の歪みにガスケットの形状が追従して高い密着性を得られる。このため、固定作業に必要なクランプの数及びその締付け力が低減でき、クランプの着脱作業を簡便、迅速に実施することができる。
【0032】
更に、ゴム弾性体の垂直断面形状(ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面における形状を指す。)が真円よりも水平幅方向に延びた略樽型であることにより、密閉性及び耐久性を高めることができる。具体的には、ゴム弾性体101は一実施形態において、上側に配置された上に凸の曲線101a及び下側に配置された下に凸の曲線101bを有する略樽型の垂直断面形状を有する(
図1参照)。また、ゴム弾性体は一実施形態において、ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面を観察したときに、バックアップリングの上面よりも上方向に突出した部分、及び、バックアップリングの下面よりも下方向に突出した部分を有する。また、一実施形態において、ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面を観察したときに、ゴム弾性体の上下方向の最大厚みをH、ゴム弾性体の水平方向の幅をW、バックアップリングの上下方向の厚みをtとすると、W/H>1、25≦(H−t)÷H×100≦50が成立する(
図2参照)。
【0033】
本発明において、ガスケットの上下方向はガスケットが形成する開口面に垂直な方向(
図1参照)を指すこととする。ガスケットは上下対称に作製されることが多く、上下の区別は不要な場合が多いが、区別する場合は、ガスケットがグラスライニング製容器に装着されたときに開口部に近い側を下側、蓋部に近い側を上側とする。また、本発明において、ガスケットの水平方向は、ガスケットが形成する開口面に水平な方向であって、ガスケットの内周線に対する接線に垂直な方向(
図1参照)を指すこととする。
【0034】
ゴム弾性体が当該構成を有することにより、以下のような効果が得られる。ゴム弾性体は、真円よりも水平幅方向に延びた略樽型であるために、Oリング(垂直断面形状が真円)の場合に比べて、同一のつぶし率としたときのガスケット上下のグラスライニング面との密着面積(又は水平方向の密着幅)が大きくなり、グラスライニング面の歪みに追従しやすいことから、高い密閉性が得られやすい。換言すれば、上下のグラスライニング面の密着面積が同一になるようにゴム弾性体をつぶしたときには、Oリング(垂直断面形状が真円)の場合に比べて、ゴム弾性体のつぶし率を小さくすることができるので、圧縮永久歪みが小さくなってゴム弾性体の弾性力が維持されやすくなり、ガスケットを長寿命化することが可能となる。更に見方を変えれば、ガスケットの水平方向の幅は、ガスケットを開口周縁に設置する関係で一定の制約があるところ、同一のゴム弾性体の水平方向の幅としたときには、Oリング(垂直断面形状が真円)の場合に比べて、ゴム弾性体の上下方向の厚みを小さく、すなわちガスケットを薄くコンパクトにすることができる。
【0035】
ゴム弾性体の上下方向の最大厚みHと水平方向の幅Wの関係については、W/Hが1より大きいことによってゴム弾性体が真円よりも水平幅方向に延びた略樽型形状を形成することができる。低い圧力で密閉性を高めやすいという観点で、W/Hは1.2以上であることが好ましく、1.4以上であることがより好ましい。また、W/Hは、あまり大きいとガスケットの水平方向の幅が大きくなって取り扱い性が低下するため、W/Hは5以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、3以下であることが更により好ましい。
【0036】
(H−t)÷H×100は、ゴム弾性体がバックアップリングの厚みになるまで圧縮されたときのつぶし率(%)を指す。密閉性を高めるという観点からは、(H−t)÷H×100は25以上が好ましく、35以上がより好ましい。つぶし率が大きいほど面圧が高くなり、より確実にシールできるためである。但し、(H−t)÷H×100が大きくなりすぎると、ゴム弾性体をバックアップリングの厚みになるまで完全につぶすのに必要な力が過大となり、クランプの数を多くしなければならなくなったり、クランプの締め付けトルクを上げなければならなくなったりするとともに、逆に通常のクランプ数及び締め付けトルクではゴム弾性体をバックアップリングの厚みになるまで完全につぶすことができず、グラスライニング面との密着面積が小さくなってしまいシール性が低下してしまうためである。更にはつぶし率が高いと圧縮永久歪みが大きくなってしまい、耐久性も低下する。そこで、(H−t)÷H×100は50以下であることが好ましく、45以下であることがより好ましい。
【0037】
ゴム弾性体の上下方向の最大厚みHは例えば3〜10mmの範囲で設定することができ、典型的には6〜9mmの範囲で設定することができる。
【0038】
ゴム弾性体がバックアップリングの厚みになるまで圧縮されたときのガスケットのグラスライニング面との密着面積は密閉性に影響を与えるところ、当該密着面積を大きくするという観点では、バックアップリングの上面の高さ位置におけるゴム弾性体の水平方向の幅をW1、バックアップリングの下面の高さ位置における該ゴム弾性体の水平方向の幅をW2とすると(
図2参照)、W1及びW2は共に3mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましく、7mm以上であることが更により好ましい。但し、W1及びW2が大きすぎると、密着面積が大きくなりすぎて、面圧を確保するのに必要なクランプの数を多くしなければならなくなったり、クランプの締め付けトルクを上げなければならなくなったりすることから、W1及びW2は共に10mm以下であることが好ましく、9mm以下であることがより好ましく、8mm以下であることが更により好ましい。なお、ガスケットは取付け間違いを避けるという理由により上下対称に作製することが好ましく、その場合はW1及びW2は同一の値となる。
【0039】
ゴム弾性体はクランプ等の締付部材を使った適度な圧力によって圧縮可能であることが作業性やグラスライニング面の歪みに対する追従性の観点から好ましい。具体的には、ゴム弾性体はショア硬さが60〜90であることが好ましく、70〜80であることがより好ましい。
【0040】
ゴム弾性体の種類としてはクロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴム等が例示できる。特に、耐熱性、汎用性及び耐久性の面でエチレンプロピレンジエンゴムが有利である。
【0041】
ゴム弾性体の内周側の側面及び外周側の側面は開口面に垂直な面であることでゴム弾性体がカバーフィルム内で動きにくくなり、位置安定性が向上する。内周側の側面の上下方向の厚み(H1)及び外周側の側面の上下方向の厚み(H2)はそれぞれ、ゴム弾性体の位置安定性を高めるという理由により0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましい。また、内周側の側面の上下方向の厚み(H1)及び外周側の側面の上下方向の厚み(H2)はそれぞれ、樽型形状を維持するという理由により5mm以下であることが好ましく、3mm以下であることがより好ましい。
【0042】
図1を参照すると、ガスケットの水平方向及び上下方向の両方に平行な断面において、ゴム弾性体の上側に配置された上に凸の曲線101a及び下側に配置された下に凸の曲線101bは、それぞれ曲率半径Rが12mm以下であることが好ましく、10mm以下であることがより好ましい。Rが小さいほど高い面圧を得やすく、これにより密閉性を向上することができるためである。また、Rは4mm以上であることが好ましく、5mm以上であることがより好ましい。Rが小さくなり過ぎると、ガスケットのグラスライニング面との密着面積が小さくなりかえって密閉性が低下しやすくなるためである。
【0043】
(1−2 バックアップリング)
バックアップリング102はゴム弾性体に接触した状態で外周側に配置されており、これによりゴム弾性体の位置ずれを防止することができる。また、ゴム弾性体のみでは、ガスケットを開口部と蓋部の間に装着して締付部材によって圧力を加えたときにつぶし率に制限がなくなり、過度な変形によってゴム弾性体は短期間で圧縮永久歪みが生じて弾性力の劣化が進んでしまうおそれがあるところ、バックアップリングが存在することによってゴム弾性体のつぶし率の限度をバックアップリングの厚みによって制御することができる。例えば、バックアップリングの上下方向厚みをゴム弾性体のそれより数mm薄くし、その差をゴム弾性体のつぶし代とすることができる。バックアップリングの厚みによってゴム弾性体のつぶし率を制限することでつぶれすぎによる弾性体の性能の劣化を防止し、長期にわたり良好な密閉性を維持できる効果も得られる。
【0044】
バックアップリングの上下方向の厚みtは、例えば1〜11mmの範囲で設定することができ、典型的には4〜6mmの範囲で設定することができる。
【0045】
ゴム弾性体の位置ずれを防止するという観点からは、ゴム弾性体の外周側の側面と、バックアップリングの内周側の側面は固着していることが好ましい。また、ゴム弾性体のつぶし率を適切に制限するという観点からは、バックアップリングの硬度(例えばショア硬さ)はゴム弾性体の硬度よりも高いことが好ましい。
【0046】
バックアップリングとしては、例えば、ガスケット用として公知の各種ジョイントシートなどの剛性部材を好適に使用することができる。ジョイントシートには繊維材料、充填材及びゴムバインダー等が配合されている。ジョイントシートに使用する繊維材料としては非石綿の無機繊維やアラミド繊維が好ましく使用される。また、バックアップリングの機械的強度を向上するため、金属製の平板をジョイントシートと貼り合わせて使用することが好ましい。例えば、
図1に示すように、バックアップリング102は金属板102bと、金属板102bの上下方向にそれぞれ積層されたジョイントシート102a、102cとを備えた積層構造を有することができる。金属板の材質としては耐食性に優れていることが好ましく、例えばステンレス製の金属板を好適に使用することができる。
【0047】
(1−3 カバーフィルム)
カバーフィルム103はゴム弾性体101及びバックアップリング102を内包する。これにより、ガスケットが一体化され、取り外し作業時などにおいてガスケットの取り扱いが容易になるという利点が得られる。また、カバーフィルムでゴム弾性体及びバックアップリングを被覆したことで、ガスケットの表面は凹凸の少ない構造となるため、洗浄が行いやすく、コンタミ防止にも効果的である。
【0048】
カバーフィルムの端部は融着して隙間のないようにすることが形状保持やコンタミ防止の観点で好ましい。
図1を参照すると、カバーフィルム103の融着部103aがガスケットの外周に設けられている。これにより容器内の液やガスにゴム弾性体やバックアップリングが暴露することによる劣化を防止できるという利点が得られる。融着部103aはカバーフィルムの外周全体にわたって形成することがより好ましい。また、バックアップリング102の金属板102bは、ガスケットを後述するフランジ部208へ位置決めし、固定するため、融着部103aから部分的に(例えば所定の間隔で)外周側にはみ出させて耳部(図示せず)を形成することがあるが、その場合、カバーフィルム103は当該耳部を除いて外周全体にわたって融着部103aを形成することができる。
【0049】
カバーフィルムの材質としては耐食性に優れていることが好ましく、例えばフッ素樹脂製のカバーフィルムを好適に使用することができる。
【0050】
<2.グラスライニング製容器>
図3には、グラスライニング製容器200の一実施形態についての全体構造が示されている。グラスライニング製容器200の上部には容器外面から突出したマンホール部201が形成されており、マンホール部201は蓋部202によって開口部203の開口が密閉された状態となっている。
図4にはマンホール部201の密閉構造を説明する部分断面図が示されている。
図5にはマンホール部201の密閉構造を説明する別の部分断面図が示されている。
図6は
図5の概略上面図である。
【0051】
本実施形態においては、
図4〜
図6に示すように、マンホール部201は楕円形の開口を有する開口部203と蓋部202との間に、ガスケット204、プロテクターリング205、及び本発明に係るガスケット206が介装された密閉構造を有する。プロテクターリングは必須の構成部品ではないが、開口部周縁のグラスライニング面を保護する目的で、蓋部202と開口部203の間に設置されるのが好ましい。開口部203は容器上部の外表面から突出した首部207と、首部207の上端に設けられて開口周縁を形成するフランジ部208を有する。フランジ部208の上面にガスケット204が載置され、ガスケット204の上面にプロテクターリング205が載置される。本発明に係るガスケット206はプロテクターリング205と蓋部202間に挟持されて固定されている。ガスケット204、プロテクターリング205、及び本発明に係るガスケット206は何れもフランジ部208の上面形状に沿った楕円形枠状である。
【0052】
本実施形態においては、グラスライニング製容器200は開口部203に限らず、投入される物質等と接触の可能性がある部位(例:プロテクターリング、蓋部、容器内面)についてもグラスライニング加工が施されている。
【0053】
図4を参照すると、フランジ部208とプロテクターリング205に挟持されたガスケット204のつぶし率をフランジ部208とプロテクターリング205の間の圧力を調整するための締付部材Aによって制御することで、フランジ部208とプロテクターリング205との間の密閉性を維持しながらプロテクターリング205を固定することができる。締付部材Aは蓋部202へ圧力を印加することなく開口部203とプロテクターリング205の間の圧力を調整可能である。締付部材Aの構造は当該圧力調整機能を有する限り任意であり、例えばクランプの他、ボルトと金具の組み合わせからなる構造を採用することができる。
【0054】
本実施形態においては、締付部材Aは、フランジ部208の下面から下方に突出する係合突起部209と、プロテクターリング205の外周側面から突設され、取付ボルトを挿入可能な孔214を有する複数のラグ部210と、止め金具本体211a及び取付ボルト211bで構成される止め金具211とを備える。止め金具本体211aは、フランジ部208の係合突起部209に係合可能な係合突起部212と、取付ボルト211bを螺合可能なめねじ部213を有する。
【0055】
フランジ部208の係合突起209に止め金具本体211aに形成された係合突起部212を係合させた状態で、取付ボルト211bをプロテクターリング205のラグ部210の孔214に挿通し、止め金具本体211aのめねじ部213に螺合することによって、止め金具211が開口部203の外周側に取り付けられ、ガスケット204のつぶし率はその締付力で制御されることとなる。止め金具211の取付箇所は多い方が高い密閉性が得られる。例えば止め金具211の取付箇所は8以上とすることができ、10以上とすることもできる。本実施形態においては止め金具211は線対称に合計12箇所に取り付けられている(
図6参照)。
【0056】
一方、プロテクターリング205と蓋部202に挟持された本発明に係るガスケット206のつぶし率はプロテクターリング205と蓋部202の間の圧力を調整することが可能な締付部材B(
図5参照)によって制御することができる。締付力により、ガスケットに内包されたゴム弾性体がバックアップリングの厚みを限度としてつぶされ、カバーフィルムが適度な面圧と面積でグラスライニング面に密着することにより、蓋部202とプロテクターリング205との間の適切な密閉状態を維持することができる。
【0057】
締付部材Bの構造についても当該圧力調整機能を有する限り任意であり、例えばクランプの他、ボルトと金具の組み合わせからなる構造を採用することができる。本実施形態においては、締付部材Bはフランジ部208の下面から下方に突出する係合突起部209と、蓋部202の周縁上に突出した係合突起部216と、両係合突起部209、216に係合して蓋部202及びフランジ部208を挟持するクランプ218とを備える。クランプ218による締付力はクランプ218内に挿通して螺合されるボルト219の締付けトルクによって調整可能である。各クランプによる締付トルクは例えば70〜90N・mとすることができる。
【0058】
本発明に係るガスケット206によれば、比較的小さな締付力であってもグラスライニング面との高い密着性が得られるため、ガスケットの固定作業に必要なクランプの数及び締付力が低減でき、クランプの着脱作業を簡便、迅速に実施することができる。このため、クランプ218の取付箇所は止め金具211の取付箇所よりも少なくすることができ、例えば5以下とすることが可能である。本実施形態においてはクランプ218は線対称に合計3箇所に取り付けられている(
図6参照)。
【0059】
ガスケット206が受けるプロテクターリング205及び蓋部202からの面圧は6MPa以下とすることができ、4MPa以下とすることもできる。但し、面圧が極端に低いと密閉性が低下することから、面圧は2MPa以上であることが好ましく、3MPa以上とすることがより好ましい。ガスケットが受ける面圧は感圧紙を用いる方法等によって測定することが可能である。
【0060】
プロテクターリング205と蓋部202の間に挟持された本発明に係るガスケット206は、蓋部202の開閉に伴って比較的高い頻度で脱着作業が要求されるのに対して、開口部203とプロテクターリング205の間に載置されるガスケット204は頻繁に着脱することがないため、公知の任意のガスケットを使用しても弊害は少ない。しかしながら、ガスケット204として本発明に係るガスケットを使用してもよく、その場合は、止め金具211の個数を減らすことが可能である。
【0061】
蓋部202は開口部203の開口を開閉可能に構成することができる。本実施形態においては、蓋部202にはヒンジ部220が設けられており、蓋部202をヒンジ部220を支点にして回動させることで開口が開閉可能となっている(
図6参照)。
【0062】
本実施形態によれば、クランプ218を取り外して蓋部202の開閉作業を行ったとしても、プロテクターリング205は依然として止め金具211による締付力によって固定された状態を保持することができる。これにより、蓋部202を開閉する度にプロテクターリング205の取付作業を実施する必要がなくなるので、作業効率が向上する。
【0063】
なお、本実施形態においては楕円形状のマンホールに適用される密閉構造について説明したが、本発明は当該構造に限定されるものではない。すなわち、本発明に係るガスケットは、容器開口部とプロテクターリング間も含め、締付部材にて挟持され、従来のガスケットによれば隙間の調整作業の実施が必要であった部位のすべてのガスケットに代替されることができる。また、本実施形態においては、クランプの取付箇所を3箇所としたが、当該容器開口部の形状及び大きさにより、クランプの数は適宜変更することができる。
【実施例】
【0064】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0065】
<1.ガスケットの作製>
以下に示す市販のゴムを加工して、表1に記載の試験番号に応じた種々の仕様(形状、寸法及び材質)をもつ平面視が楕円環状のゴム弾性体を準備した。表1に示す各種寸法パラメータのうち、
図2と同じパラメータは既に定義した通りである。
CR:クロロプレンゴム(ショア硬さ:70)
VITON(登録商標):フッ素ゴム(デュポンエラストマー株式会社製、ショア硬さ:70)
H0970:EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)(日本バルカー工業株式会社製、ショア硬さ:70)
H0880:EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)(日本バルカー工業株式会社製、ショア硬さ:80)
【0066】
ショア硬さはJIS Z2246:2000に準拠して測定した。
【0067】
各ゴム弾性体の外周側にバックアップリングの内周側を上下方向の厚みの中心が一致するように接着して一体化した。バックアップリングはステンレス製の平板リングと、その上下両面にそれぞれノンアスベスト素材のジョイントシート(日本バルカー工業株式会社製、製品番号6500)を貼付した積層構造を有し、表1に記載の試験番号に応じた上下方向厚みを有する。また、バックアップリングはゴム弾性体よりも硬い剛性部材である。バックアップリングの水平方向幅はガスケットの水平方向幅が全体で20mmとなるように、ゴム弾性体の幅に応じて変化させた。次いで、ゴム弾性体とバックアップリングの一体化品を、一定間隔で複数箇所に設けたステンレス製の耳部を除きフッ素樹脂製のカバーフィルムによって外周全体にわたってカバーフィルムの融着部が形成されるように被覆し、平面視が略楕円環状のガスケットを作製した。
【0068】
<2.気密試験>
上記のようにして作製した各試験例に係るガスケットを用いてグラスライニング製容器の開口部の気密試験を行った。気密試験は加圧試験及び真空試験の二つとした。
図3に示す構造のグラスライニング製容器の上部に設けられた開口部の楕円形(短径300mm×長径400mm)の開口を、先述した
図4〜
図6に示す密閉構造になるように、締付部材Aを12箇所に取り付けた上で、各クランプの締付トルクを表1に示す条件として3個のクランプ(締付部材B)を用いて密閉した。クランプ締付トルクは、トルクレンチにて管理される値を示す。プロテクターリングと蓋部の間に挟持されるガスケットとして、各試験例に係るガスケットを使用した。フランジ部とプロテクターリングに挟持されるガスケットとしては、
図7に示す構造の公知のガスケットを使用した。フランジ部とプロテクターリングに挟持されるガスケットを装着する際には隙間に合わせてガスケットに調整用部材を切張りする調整作業を実施することで密閉性を確保した。一方、試験例に係るガスケットを装着する際には当該調整作業は行わなかった。
【0069】
比較例1及び比較例2を除く何れの試験例においてもゴム弾性体がバックアップリングと同じ厚みになるまで圧縮することができた。実施例1〜5において、このときにガスケットが受ける面圧を計算したところ2〜4MPa程度であった。
【0070】
加圧試験は、グラスライニング製容器の内圧を0.2MPaGとした後、常温で0.5時間保持し、ガス漏れの程度を評価した。真空試験は、グラスライニング製容器の内圧を0.7kPaとした後、常温で1時間保持し、内圧の上昇程度を評価した。密閉性評価は以下の基準で行った。
(加圧試験)
○:開口部と蓋部の間のシール箇所に石鹸水を掛けたときに、気泡が観察されない
△:開口部と蓋部の間のシール箇所に石鹸水を掛けたときに、気泡の溜まりが見られるが気泡の成長は見られない
×:開口部と蓋部の間のシール箇所に石鹸水を掛けたときに、気泡の成長が観察される
(真空試験)
○:真空度低下が0.16kPa未満
△:真空度低下が0.16kPa〜0.33kPa
×:真空度低下が0.33kPa超
【0071】
2000回の開閉動作を行い、その後、上述した気密試験を行うことで、シール性能が低下するか否かを評価した。
【0072】
<3.考察>
比較例1、2は、ゴム弾性体としてOリングを使用したケースであり、完全につぶすのに必要なつぶし量及びつぶし率が大きい。このため、密閉試験で使用した少ないクランプ数及び締付トルクではOリングが十分つぶし切れなかったため、気密試験は×となったと推定される。
比較例3、4は、ゴム弾性体としてOリングを使用したケースであり、Oリングが十分つぶせる条件としたが、バックアップリングの上面高さ及び下面高さにおけるゴム弾性体水平方向幅(W1、W2)が狭く、つぶし後のグラスライニング面との密着面積も小さくなったことで全周にわたり密着性が確保できず、気密試験が×となったと推定される。
比較例5〜7は樽型のゴム弾性体を使用したが、ゴム弾性体の上下方向最大厚みと水平方向幅のバランスが悪く、つぶし幅が大きくなったことで面圧が低下し、気密試験は×となったと推定される。
一方、実施例1〜5は、樽型のゴム弾性体の形状及び寸法が適切であったために少ない数のクランプによる締め付けによっても完全につぶれることができ、また、その時に適度なつぶし率、つぶし幅及び面圧が得られた。その結果、気密試験において優れた気密性を確保することができた。実施例2、3及び5については、ゴム弾性体の形状及び寸法が好適な条件であったことで、気密性の評価が特に高かった。
【0073】
実施例に係るガスケットはつぶし率が適切であるため、耐久性についても優れていることが予測されるところ、実施例2のガスケットについて確認のために寿命評価を行った。具体的には、実施例2のガスケットを用いて気密試験と同様の密閉構造とした後、常温、常圧で蓋の開閉動作を2000回行い、その後、上述した気密試験を行うことで、先述した気密試験結果に比べてシール性能が低下するか否かを評価した。その結果、2000回の開閉動作後もシール性能に有意な差は見られなかった。
【0074】
【表1】