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特開2017-220512トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-220512(P2017-220512A)
(43)【公開日】2017年12月14日
(54)【発明の名称】トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20171117BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20171117BHJP
【FI】
   H01L29/78 301B
   H01L29/78 301X
   H01L29/78 301W
   H01L29/78 301Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-112611(P2016-112611)
(22)【出願日】2016年6月6日
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】劉 江偉
(72)【発明者】
【氏名】小出 康夫
(72)【発明者】
【氏名】大里 啓孝
(72)【発明者】
【氏名】王 煕
(72)【発明者】
【氏名】リャオ メイヨン
【テーマコード(参考)】
5F140
【Fターム(参考)】
5F140AA40
5F140AB04
5F140BA04
5F140BA16
5F140BA20
5F140BB05
5F140BD11
5F140BE03
5F140BE09
5F140BF01
5F140BF05
5F140BG30
5F140BJ11
5F140CE02
(57)【要約】
【課題】ゲートにH−ダイヤモンドのフィン構造を使用したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETを実現する。
【解決手段】ダイヤモンド基板にタングステンマスクを介してフィン構造をエッチングし、その上にH−ダイヤモンド層を形成することで、H−ダイヤモンドのフィンを作製した。このフィンの上面並びに両側面にゲートを形成することで、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETを作製することができる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(A)〜(E)を設けた、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造方法。
(A)ダイヤモンド基板上にタングステン金属層を形成し、前記タングステン金属層をフォトレジストのマスクを介してエッチングすることにより、前記ダイヤモンド基板上にタングステン金属のマスクを形成する。
(B)前記タングステン金属のマスクを介して前記ダイヤモンド基板を選択的にエッチングし、次いで前記タングステン金属のマスクを除去することにより、ダイヤモンド基板上にフィンバターンを形成する。
(C)前記フィンパターンの上にH−ダイヤモンド層をエピタキシャル成長させる。
(D)前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの少なくとも一部が前記ダイヤモンド基板上に残ったメサ構造を形成するため、前記H−ダイヤモンド層を選択的にエッチングする。
(E)前記メサ構造を形成した前記ダイヤモンド基板表面にゲート絶縁体層及びゲート電極用導電体層を堆積させる。
(F)前記堆積したゲート絶縁体層及びゲート電極用導電体層を選択的にエッチングして前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの途中にゲートを形成するとともに、前記ゲートが形成される位置から見て前記フィンパターンの一方の側をソースとし、他方の側をドレインとする。
【請求項2】
前記ステップ(E)の前に、前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの前記一方の側及び他方の側に夫々電気的に接続するようにソース電極及びドレイン電極用の導電体を形成するステップを設けた、請求項1に記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造方法。
【請求項3】
前記フィンパターンは複数の互いに平行なフィンを有する、請求項1または2に記載のトリプルゲートMISFETの製造方法。
【請求項4】
少なくとも表面がH−ダイヤモンドであるフィンの側面及び上面にチャネルが形成されたトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項5】
ダイヤモンド基板と、
前記ダイヤモンド基板上にメサ状に形成されたダイヤモンドからなるとともに、少なくとも表面はH−ダイヤモンドである単数または複数のフィンを有するフィンパターンと、
前記フィンの上面及び側面に絶縁体層を介して接続されたゲート電極と、
前記フィンの前記ゲート電極を介した第1の側及びそれと反対側である第2の側に夫々設けられたソース電極及びドレイン電極
とを設けた、
トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項6】
前記H−ダイヤモンド層は前記ダイヤモンド基板の一体部分である一体構造物表面に形成されたエピタキシャル層である、請求項4または5に記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項7】
前記フィンの側壁は前記ダイヤモンド基板表面に対して傾斜した角度を有する、請求項4から6の何れかに記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項8】
前記フィンが複数本設けられ、
隣接する前記フィンの対向する側壁はV字状の溝を形成する、
請求項7に記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項9】
前記フィンの側壁は前記ダイヤモンド基板表面に対して垂直である、請求項4から6の何れかに記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【請求項10】
ゲートとドレイン及びソースの少なくとも一方とが前記フィン上で間隔なしで隣接する、請求項4から9の何れかに記載のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ダイヤモンドは広いバンドギャップエネルギー(5.45eV)、低い比誘電率(5.7)、高い絶縁破壊電界強度(10MV cm−1)、高いキャリア飽和速度(電子及び正孔についてそれぞれ1.5〜2.7×10cm s−1及び0.85〜1.2×10cm s−1)(非特許文献1,2)、高い熱伝導率(22W cm−1−1)及び高いキャリア移動度(電子及び正孔についてそれぞれ4500cm−1−1及び3800cm−1−1)(非特許文献3)といった、いくつかの際立った物理的特性を有している。ダイヤモンド及び他の半導体の性能指数(非特許文献4)から、ダイヤモンドに基づいた電子デバイスは最も大きな電力−周波数積、最も高い熱限界、及び高周波における最小の電力損失を示す。従って、ダイヤモンドは次世代の大電力、高周波、高温低電力損失及び省エネルギーの電子デバイスを作成するのに最適な材料であると考えられる(非特許文献5)。
【0003】
ダイヤモンドドーパントの活性化エネルギーは室温の熱エネルギーよりも大幅に高いので、多くのダイヤモンド電子デバイスは水素化ダイヤモンド(H−ダイヤモンド)チャネル層上に作製されてきた(非特許文献6〜11)。H−ダイヤモンドはその表面上にホールを1012〜1013cm−2のシートホール密度(psheet)で蓄積することができる。注目すべきことに、H−ダイヤモンドをNO雰囲気に曝したり(非特許文献12)、あるいは酸素終端ダイヤモンドをNHとHとの混合雰囲気中でアニールする(非特許文献13)ことによって、H−ダイヤモンドのpsheetは1014cm−2にまで到達することができる。
【0004】
最近、H−ダイヤモンドを使った金属−絶縁体−半導体電界効果トランジスタ(MISFET)が大いに開発されるようになってきた。NO処理H−ダイヤモンド上で作製されたMISFET(非特許文献14)のドレイン−ソース最大電流(IDS,max)は−1.35A mm−1もの大きな値となった。そのカットオフ周波数はほぼ10.0Vの広いゲート−ソース電圧(VGS)範囲で10GHzを上回った。これに加えて、H−ダイヤモンドに基づいたMISFETの動作は、高温(400℃)及び高電圧(500V)において、SiCあるいはGaNに基づいたMISFETのそれに匹敵するものであった(非特許文献15)。
【0005】
H−ダイヤモンドに基づいたMISFETは優れた電気的特性を示すが、価格が高いこと及び大面積の単結晶ダイヤモンドウエハーがないことが、その広範な実用的応用の妨げとなっている。高圧高温(HPHT)技術によって成長させたダイヤモンド基板よりも高成長速度かつ低価格のマイクロ波プラズマ化学気相成長(MPCVD)技術によって成長させたダイヤモンド基板が商業的に入手可能になった(非特許文献16〜18)。従って、MPCVD基板を使用すれば、おそらくは、ダイヤモンド電子デバイスを比較的低コストで作製できるであろう。
【0006】
その一方で、大面積の単結晶ダイヤモンドウエハーが存在しないことで、ダイヤモンド電子デバイスの小型化が促される。本願発明者の以前の研究(非特許文献19,20)では、ソース/ドレインとゲートコンタクトとの間の隙間(IS/D−G)をなくすことによって小型化されたH−ダイヤモンドMISFETを作製した。IS/D−GのないH−ダイヤモンドMISFETのオン抵抗(RON)はIS/D−GのあるMISFETよりも非常に低いものであった。その電流出力及び外因(extrinsic)相互コンダクタンス(g)も大きく改善された。他に、H−ダイヤモンドMISFET(以下、特に混同を生じない限り、単に「MISFET」と略称することがある)についてゲート長(L)の小型化に注力した研究も報告されている。今までに、H−ダイヤモンドMISFETのLはほぼ100nmまで小型化されている(非特許文献21)。H−ダイヤモンド金属−半導体FETについての最短Lはわずか50nmであった(非特許文献22)。
【0007】
H−ダイヤモンドMISFETの小型化の進展に伴って、そのようなMISFETでの短チャネル効果(SCE)を抑制することが主要な問題の一つとなる。プレーナ型のSi、InGaAs、及びGaNに基づくMISFETについてのSCEを抑えるために、トリプルゲート(triple-gate)MISFETアーキテクチャが開発された(非特許文献23〜31)。ここで、「トリプルゲートFET」とは、チャネルが形成される半導体を立体構造にして、その2つの側壁及び上面にチャネルを形成した構造のFETである。同じ領域(基板専有面積)で比べると、絶縁体と半導体との間の接触面の大きさは、トリプルゲートMISFETの方がプレーナ型の場合よりも大きいので、電流出力はトリプルゲートMISFETの方がはるかに大きくなると考えられる。従って、H−ダイヤモンド上でトリプルゲートMISFETを作成することができれば、H−ダイヤモンドデバイスの小型化に当たって、SCEをなくしまたより大きな電流出力を与えるための重要なステップとなるであろう。
【0008】
しかしながら、従来技術においてはSi、GaAs及びGaN上でのトリプルゲートMISFETを作製することはできたが、ダイヤモンド上でこの構造を実現することはできなかった。それは、Si、GaAs、GaN上でのトリプルゲートを形成するために利用されているプロセスはダイヤモンド上にトリプルゲートを形成するために利用することができなかったためである。換言すれば、ダイヤモンドのフィンパターンの作製プロセスは特別なものであり、そのためダイヤモンド上でトリプルゲートMISFETを実現するための鍵となるゲート構造を作製できなかったためである。実際、これまでにプレーナ型及びT型H−ダイヤモンドMISFETは作製されたが、ダイヤモンドによるトリプルゲートMISFETについては作製に成功したという報告はこれまでなされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は上述した従来技術の問題を解消し、動作可能なトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETを与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一側面によれば、以下のステップ(A)〜(E)を設けた、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造方法が与えられる。
(A)ダイヤモンド基板上にタングステン金属層を形成し、前記タングステン金属層をフォトレジストのマスクを介してエッチングすることにより、前記ダイヤモンド基板上にタングステン金属のマスクを形成する。
(B)前記タングステン金属のマスクを介して前記ダイヤモンド基板を選択的にエッチングし、次いで前記タングステン金属のマスクを除去することにより、ダイヤモンド基板上にフィンバターンを形成する。
(C)前記フィンパターンの上にH−ダイヤモンド層をエピタキシャル成長させる。
(D)前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの少なくとも一部が前記ダイヤモンド基板上に残ったメサ構造を形成するため、前記H−ダイヤモンド層を選択的にエッチングする。
(E)前記メサ構造を形成した前記ダイヤモンド基板表面にゲート絶縁体層及びゲート電極用導電体層を堆積させる。
(F)前記堆積したゲート絶縁体層及びゲート電極用導電体層を選択的にエッチングして前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの途中にゲートを形成するとともに、前記ゲートが形成される位置から見て前記フィンパターンの一方の側をソースとし、他方の側をドレインとする。
ここで、前記ステップ(E)の前に、前記H−ダイヤモンド層を表面に有するフィンパターンの前記一方の側及び他方の側に夫々電気的に接続するようにソース電極及びドレイン電極用の導電体を形成するステップを設けてよい。
また、前記フィンパターンは複数の互いに平行なフィンを有してよい。
本発明の他の側面によれば、少なくとも表面がH−ダイヤモンドであるフィンの側面及び上面にチャネルが形成されたトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETが与えられる。
本発明の更に他の側面によれば、ダイヤモンド基板と、前記ダイヤモンド基板上にメサ状に形成されたダイヤモンドからなるとともに、少なくとも表面はH−ダイヤモンドである単数または複数のフィンを有するフィンパターンと、前記フィンの上面及び側面に絶縁体層を介して接続されたゲート電極と、前記フィンの前記ゲート電極を介した第1の側及びそれと反対側である第2の側に夫々設けられたソース電極及びドレイン電極
とを設けた、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETが与えられる。
ここで、前記H−ダイヤモンド層は前記ダイヤモンド基板の一体部分である一体構造物表面に形成されたエピタキシャル層であってよい。
また、前記フィンの側壁は前記ダイヤモンド基板表面に対して傾斜した角度を有してよい。
また、前記フィンが複数本設けられ、隣接する前記フィンの対向する側壁はV字状の溝を形成してよい。
あるいは、前記フィンの側壁は前記ダイヤモンド基板表面に対して垂直であってよい。
また、ゲートとドレイン及びソースの少なくとも一方とが前記フィン上で間隔なしで隣接してよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好に動作するトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETを与えることができる。このトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETは同じサイズでH−ダイヤモンド上に作製したプレーナ型MISFETに比べて高性能であり、かつ短チャネル効果を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】H−ダイヤモンドのフィンパターンの製造プロセスを概念的に示す図。
図1B】H−ダイヤモンドのフィンパターン上でのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造プロセスを概念的に示す図。
図1C図1Bに示す製造プロセスで完成したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの概念図。
図1D】本発明の実施例1において作製された試料全体及びその中の2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの上面写真。
図2A】本発明の実施例1の製造過程におけるフィンパターンを形成したダイヤモンド基板のSEM像。
図2B】本発明の実施例1の製造過程におけるフィンパターンを形成したダイヤモンド基板のSEM像。
図2C】本発明の実施例1のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのTEM像。
図2D】本発明の実施例1のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのTEM像。
図2E】本発明の実施例1のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのTEM像。
図2F】本発明の実施例1のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのTEM像。差し込み図はダイヤモンド基板のエッチング領域上に成長したH−ダイヤモンドエピタキシャル層のSADパターンである。
図2G】本発明の実施例1のトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのTEM像。
図3A】本発明の実施例1のトリプルゲートMISFETの構造を示す概念図。
図3B】比較例のプレーナ型MISFETの構造を示す概念図。
図3C】本発明の実施例1のMISFETのリーク電流Ileakのグラフ。ここで丸(○)はトリプルゲートMISFETのIleakを、四角(□)はプレーナ型MISFETのIleakを示す。
図3D】本発明の実施例1のトリプルゲートMISFETのIDS−VDS特性のグラフ。ここで、VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0Vステップで変化させた。
図3E】比較例のプレーナ型MISFETのIDS−VDS特性のグラフ。ここで、VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0Vステップで変化させた。
図4A】本発明の実施例1のトリプルゲートMISFET(上)及び比較例のプレーナ型MISFET(下)のlog|IDS|−VGS特性を示すグラフ。
図4B】本発明の実施例1のトリプルゲートMISFET(上)及び比較例のプレーナ型MISFET(下)の−√(|IDS|)−VGS特性を示すグラフ。
図4C】本発明の実施例1のトリプルゲートMISFET(上)及び比較例のプレーナ型MISFET(下)のg−VGS特性を示すグラフ。
図5A】本発明の実施例2である、ソース/ドレインとゲートとの間隔(IS/D−G)が2.0μmのトリプルゲートMISFETの断面構造を示す概念図。ここでゲート長(L)は500nmである。
図5B】本発明の実施例2のトリプルゲートMISFETの上面写真。
図5C】本発明の実施例2のトリプルゲートMISFETのIDS−VDS特性を示すグラフ。ここで、VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0Vステップで変化させた。
図6A】本発明の実施例3のトリプルゲートMISFETを作成するために第2のフィンパターンが形成されたダイヤモンド基板のSEM像。フィンの長さは7μmであり、また各フィンの幅及びフィンの間隔はともに500nmである。
図6B】第2のフィンパターンが形成されたダイヤモンド基板上に形成された本発明の実施例3のトリプルゲートMISFETのTEM像。L及びIS/D−Gは何れも500nmである。
図6C】本発明の実施例3のトリプルゲートMISFETのIDS−VDS特性を示すグラフ。VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0Vステップで変化させた。
図7A】本発明の実施例4のIS/D−GなしトリプルゲートMISFETの断面構造を示す概念図。このMISFETは頂部長及び底部長が夫々2.5μm及び500nmのT字型ゲートを有している。
図7B】本発明の実施例4の2つのIS/D−GなしトリプルゲートMISFETの上面写真。
図7C】本発明の実施例4のIS/D−GなしトリプルゲートMISFETのIDS−VDS特性を示すグラフ。VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0Vステップで変化させた。
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、本願発明者はダイヤモンド基板上にフィンパターンを使用したトリプルゲートMISFETを作製する新規な方法を見出し、それに基づいてMPCVD単結晶ダイヤモンド基板上のH−ダイヤモンドトリプルゲートMISFETを作製した。このMISFETの電気的な特性をプレーナ型のMISFETと比較した。トリプルゲートMISFETのIDS,maxは−242.0mA mm−1であったが、この値はプレーナ型の−45.2mA mm−1よりもはるかに高いものであった。これに加えて、このトリプルゲートMISFETのオン/オフ比及びサブスレッショルドスイングは夫々10よりも大きくまた110mV dec−1もの低い値であった。
【0014】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0015】
<実施例1:フィンパターンH−ダイヤモンド上で作製したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET>
図1Aはフィンパターンを形成したH−ダイヤモンドの製造プロセスを概念的に示す図、図1BはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造プロセスを概念的に示す図、図1Cは完成したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの概念図、また図1Dは作製された試料全体及びその中の2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの上面写真である。ダイヤモンド(001)基板上にフィンパターンを形成するため、先ず、原子スパッタシステムを使用してタングステン(W)金属をスパッタする(図1Aのステップ1)。フォトレジスト(実施例ではポジ型フォトレジストFEP−171を使用)を基板上にコーティングし、電子ビーム(EB)リソグラフィーシステムを使用してフィンの型を生成する(図1Aのステップ2)。誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(inductively coupled plasma reactive ion etching、ICP−RIE)システムを使用して、フォトレジストが存在していない領域のW金属及びダイヤモンド基板を夫々ドライエッチングする(図1Aのステップ3、4;実施例では夫々SF及びO雰囲気を使用)。残されたW金属は再度SF雰囲気中で除去して、ダイヤモンド基板上にフィンパターンを形成する(図1Aのステップ5)。次に、MPCVD技術を使用してH−ダイヤモンドエピタキシャル層を基板上に成長させて、フィンパターンH−ダイヤモンドを形成する(図1Aのステップ6)。
【0016】
フィンパターンH−ダイヤモンドを形成した後、トリプルゲートMISFETを作成する。このプロセスを図1Bに示す。先ず、フィンパターンH−ダイヤモンドをO雰囲気中で容量結合性プラズマRIE(CCP−RIE)システムを使用してエッチングし、メサ構造を形成する(図1Bのステップ1)。電子銃(E銃)蒸着システムを使用してパラジウム/チタン/金(Pd/Ti/Au)オーミックコンタクトをフィンパターンH−ダイヤモンド上に蒸着して、ソース/ドレイン電極を形成する(図1Bのステップ2)。なお、ここではH−ダイヤモンドへのオーミックコンタクトを形成するためにPd/Ti/Auという層構成を使用したが、もちろん他の通常使用される層構成(例えばAu)とすることもできる。原子層堆積(ALD)及び超高真空(UHV)スパッタ技術を使用して、酸化アルミニウム(Al)ゲート絶縁体及びアルミニウム(Al)ゲート電極を夫々デポジットする(図1Bのステップ3)。次に、これをPMGI−SF6S/FEP−171二層フォトレジスト等のフォトレジストで覆ってEBリソグラフィーシステムで露光し、ゲートの型を形成する。フォトレジストが存在していない領域のAl及びAlを夫々混酸及び水酸化テトラメチルアンモニウム(tetramethylammonium hidroxide、TMAH)溶液によってウエットエッチングする。フォトレジストをN−メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone、NMP)溶液中でリフトオフすると、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETが得られる(図1Bのステップ4)。
【0017】
同じダイヤモンド基板上に、トリプルゲートMISFETと同時にプレーナ型MISFETも同時に作製した。図1Dの上側の写真は、このようにして作製された試料全体の上面写真である。設計上のMISFETの総数は128であった。しかし、図中に示すように、作製プロセス中に3個のオーミックコンタクトが脱落した。図1Dの下側の写真は試料全体のうちの2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの拡大写真である。これらのMISFETのL図1Cを参照)、IS/D−G及びゲート幅(W)(図1Cを参照)は夫々500nm、500nm及び100.5μmであった。なお、図1Dの下側の写真は、正確に表現すれば、ドレイン電極を共通接続した2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの対を示しているが、表現の簡略化のため、このように接続されたMISFETの対を本願明細書では単に2つのMISFETと呼んでいることに注意されたい。
【0018】
<表面及び界面の形態>
図2A及び図2Bはフィンパターンを形成したダイヤモンド基板の走査電子顕微鏡(SEM)像を示し、図2Bの方が高倍率である。また、図2C図2GはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの透過電子顕微鏡(TEM)像である。図2Fの差し込み図はダイヤモンド基板のエッチング領域状に成長したH−ダイヤモンドエピタキシャル層の制限視野解説(SAD)パターンである。図2A及び図2Bに示すSEM像から、ダイヤモンドフィンパターンの全幅は100.5μmであり、これはMISFETのWと同じである。フィン長は7μmである。各フィンの幅と2つのフィンの間隔は何れも500nmである。フィンの高さは3D測定レーザー顕微鏡により500nmであることを確認した。なお、図2Aに示された一つのフィンパターン全体は図1Bのステップ1に概念的に図示されている単一のメサ構造で覆われ、最終的には一つのフィンパターン全体が一つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETに収容されてそのゲート構造を実現するために使用される。
【0019】
図2C中には、H−ダイヤモンドトリプルゲートMISFETのゲート、ソース及びドレインコンタクトが明確に示されている。MPCVD技術を使用してH−ダイヤモンドエピタキシャル層を成長させた後では、フィンの長さ及び幅は夫々7.8μm及び600nmに増大した。また、図2Dから、2つのフィンの間隔及びフィンの高さは夫々400nm及び340nmに減少したことがわかる。図2EからH−ダイヤモンドエピタキシャル層の厚さが約50nmであることがわかり、図2Fからは2つのフィンの間の角度が60°であることがわかる。このトリプルゲートMISFETの各フィンの2つの傾斜した活性面(チャネルとして機能するH−ダイヤモンド表面;フィンの上面に加えて、両側面もチャネルとして機能する)は
【0020】
【数1】
【0021】
側面である。トリプルゲートMISFETの等価Wは139.6μmと計算できる。ALD−Alの厚さはほぼ27.9nmであって、エリプソメーターシステムを使用した測定の結果と良く一致する。図2Fの差し込み図であるSADパターンは、エッチング領域上に成長したH−ダイヤモンドも(001)方向の単結晶性が維持されることを示している。図2Gからわかるように、ほぼ0.6nm厚の界面層がH−ダイヤモンドとAlとの間に存在しているが、この層はAlN/H−ダイヤモンド界面にも観察される(非特許文献32)。この層が何によるものであるかは今のところ不明である。しかし、これはおそらくは酸化物あるいは窒化物とH−ダイヤモンドエピタキシャル層上の吸着質との反応によってもたらされるものであろう。
【0022】
<トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETの電気的特性>
図3A及び図3Bは夫々トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETの構造を示す概念図である。図3CはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETのゲートリーク電流(Ileak)を表す。図3D及び図3Eは夫々トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETのドレイン−ソース電流対電圧関係(VDS−VDS)を表す。ここで、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETとプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETとは、同じL、W及びIS/D−Gを有している。両MISFETの違いは、トリプルゲートMISFETではダイヤモンド基板上にフィンパターンが存在している点である。これらのMISFETのIleakカーブは、VGSを30.0Vから−10Vまで変化させながら、ゲートコンタクトとソースコンタクトとの間での電流−電圧関係を測定することによって得られた。VGSが−10Vでは、ホールがAl/ダイヤモンド界面に集積し、MISFETはオン状態になる。トリプルゲートMISFETのIleakは1.4×10−10Aであったが、これはプレーナ型MISFETの2.3×10−12Aよりも大きい。これはおそらくはトリプルゲートMISFETの等価W及びエッチング表面が、プレーナ型のそれらに比べて夫々長くまた荒れが大きいことによると考えられる。プレーナ型MISFETのIleak密度は、ゲート電極の面積(5.025×10−7cm)で除算したIleakを用いて、4.6×10−6A cm−2と計算できる。この値は、Al/H−ダイヤモンドMISキャパシタについての1.1×10−7A cm−2よりも一桁大きい。MISFETの製造プロセスはMISキャパシタよりも複雑であるため、MISFETのゲートあるいはソース/ドレイン領域の損傷や欠陥はMISキャパシタのそれらよりも甚だしく、おそらくはこれによってMISFETのIleakの方がより大きくなると考えられる。VGSが30.0Vである場合には、ホールがAl/H−ダイヤモンド界面に集積するのは困難であり、MISFETはオフ状態になる。トリプルゲートMISFETのIleakは1.8×10−12Aであるが、この値はプレーナ型の場合の1.2×10−10Aよりも小さい。従って、オフ状態において、ゲート電力損失はトリプルゲートMISFETの方が小さくなる。
【0023】
図3D及び図3EのトリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのIDS−VDS特性の測定に当たって、VGSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0V刻みで変化させた。両タイプのMISFETについて同じ面積でそれらの電気的特性を比較するため、トリプルゲートMISFETについてのIDSもWで正規化した(等価Wではない)。両タイプのMISFETは明確にp型チャネル特性及びピンチオフ特性を示している。両タイプのMISFETとも、IDSとVDSの低電圧領域との間には良好な線形関係が成り立っている。これは、Pd/Ti/AuとH−ダイヤモンドチャネル層との間で良好なオーミックコンタクトができていることを示している。トリプルゲートMISFETのIDS,maxは−242.0mA mm−1であったが、この値はプレーナ型の場合の−45.2mA mm−1よりもはるかに大きい。
【0024】
で正規化したRONはIDS−VDS特性の線形領域から抽出することができる。このようにして求められたW正規化RONは、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETについて夫々23.0Ω mm及び98.0Ω mmである。トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのRONはAl絶縁体下のフィンパターンチャネル抵抗(RCH)、IS/D−Gが500nmの場合のフィンパターンH−ダイヤモンド表面抵抗(2RSD)、及びPd/Ti/Auオーミック接続抵抗(2R)で構成される。2RはRCH及び2RSDよりもはるかに小さいので、2Rは無視できる。IS/D−Gが2.0μmの実施例2のトリプルゲートMISFET(後述)のRON値と組み合わせることによって、RCH及び2RSDは夫々16.6Ω mm及び6.4Ω mmであると推定できる。
【0025】
DS−VDSカーブに対応する伝達特性を図4A図4Cに示す。図4Aの上側のグラフに示すように、トリプルゲートMISFETのオン/オフ比は10よりも大きいが、この値は図4Aの下側のグラフに示されるプレーナ型MISFETのオン/オフ比と同じレベルである。これは実用的な応用に充分なほど大きい。
【0026】
サブスレッショルドスイング(SS)はMISFETの電力消費を評価するための重要なパラメータである。SSはlog|IDS|対VDSの逆勾配(勾配の逆数)と定義される。SSの値は、トリプルゲートMISFETの場合、図4Aの上に示すようにVDSが−10.0Vにおいて110mV dec−1であった。この値は図4Aの下に示すプレーナ型MISFETの場合の460mV dec−1よりもはるかに小さい。SSとAl/H−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷キャパシタンス(Cit)との間には以下の関係が成立する。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、k、T、q、CH−diamond及び
【0029】
【数3】
【0030】
は夫々ボルツマン定数(8.62×10−5eV K−1)、室温(298.15K)、電子1個の電荷(1.6×10−19C)、H−ダイヤモンドのキャパシタンス、及びAl層のキャパシタンスである。
【0031】
【数4】
【0032】
は下式
【0033】
【数5】
【0034】
から、0.171μF cm−2と計算される。ここで、ε
【0035】
【数6】
【0036】
、及び
【0037】
【数7】
【0038】
は夫々真空の誘電率(8.85×10−12F m−1)、Alの比誘電率(5.4)(非特許文献34)、及びAlの厚さ(27.9nm)である。深いサブスレッショルド領域でCH−diamondを無視できるのであれば、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのCit値は夫々0.143μF cm−2及び1.143μF cm−2と計算される。従って、これら両MISFETの界面トラップ電荷密度は夫々8.95×1011eV−1cm−2及び7.14×1012eV−1 cm−2と推定される。両MISFETの閾値電圧(VTH)はVGSの関数としての−√(IDS)により決定できる。図4B及び図4Cに示すように、これらの値はトリプルゲートMIS及びプレーナ型MISFETについて夫々10.2±0.1eV及び7.6±0.1eVである。従って、両MISFETはデプリーションモードで動作する。
【0039】
ONとVTHと実効移動度(μeff)との間には以下の関係がある。
【0040】
【数8】
【0041】
トリプルゲートMISFETについてのRON、L、W
【0042】
【数9】
【0043】
、VGS、VTH及びRSDは夫々23.0Ω mm、500nm、100.5μm、0.171μF cm−2、−10.0V、10.2±0.1V、及び6.4Ω mmであった。フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のμeffは8.7±0.5cm−1−1と計算できる。この値は以前報告されたプレーナ型MISFETの38.7±0.5cm−1−1(非特許文献35)よりも低い。これは恐らくはフィンパターンH−ダイヤモンドの場合のエッチング領域での表面粗さが増大することが原因であろう。外因相互コンダクタンス(g)はIDS−VGSカーブの勾配によって定められる。図4Cに示すように、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのgmの最大値(gm,max)は21.3±0.1mS mm−1及び3.8±0.1mS mm−1であった。
【0044】
<実施例2:ソース/ドレインとゲートとの間隔(IS/D−G)が2.0μmのトリプルゲートMISFET>
図05Aに示す断面構造を有し、IS/D−Gが2.0μmである点以外は実施例1と同様にして、実施例2のトリプルゲートMISFETを作製した。
【0045】
実施例2のIS/D−Gが2.0μmのトリプルゲートMISFETのIDSの最大値(IDS,max)は−207.9mA mm−1であった。この値はIS/D−Gが500nmである実施例1のトリプルゲートMISFETのIDS,maxの値である−242.0mA mm−1よりもわずかに小さい。実施例2ではWで正規化したオン抵抗(RON)は42.2Ω mmであった。IS/D−Gが500nmである実施例1のトリプルゲートMISFETのフィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層の表面抵抗が2RSDであれば、IS/D−Gが2μmである実施例2の方の表面抵抗は8RSDであると考えられる。第1の実施例のトリプルゲートMISFETのRON(23.0Ω mm)はAl絶縁体下のフィン型チャネル抵抗(RCH)と2RSDとの合計である。実施例2であるIS/D−Gが2μmであるトリプルゲートMISFETのRON(42.2Ω mm)はRCHと8RSDとの合計である。従って、RCH及び2RSDは夫々16.6Ω mm及び6.4Ω mmと推定できる。
【0046】
<実施例3:他のフィンパターンを使用してダイヤモンド基板上に作製したトリプルゲートMISFET>
図2A及び図2Bに示すSEM像とは異なるところの、図6Aに示すSEM像のフィンパターンを有する点以外は実施例1と同様にして、実施例3のトリプルゲートMISFETを作製した。
【0047】
実施例1と実施例3とで、エッチングプロセスの変更によって2種類のフィンパターンを作製した。図2Bに示された実施例1のフィンパターンでは、ダイヤモンド基板の縁をエッチングしたのに対して、図6Aに示された実施例3のフィンパターンではダイヤモンド基板の縁はエッチングしなかった。図6Aに示されたフィンパターンを有する実施例3のトリプルゲートMISFETのIDS,maxは、図6Cに示すように、−202.3mA mm−1であった。この値は実施例1での値−242.0mA mm−1よりもわずかに小さい。しかしながら、何れの値も比較例のプレーナ型MISFETのIDS,max(−45.2mA mm−1)よりもかなり大きい。
【0048】
<実施例4:IS/D−GのないトリプルゲートMISFET>
図7Aに示す断面構造を有し、IS/D−Gのない点以外は実施例1と同様にして、実施例4のトリプルゲートMISFETを作製した。IS/D−GなしのトリプルゲートMISFETのIDS,maxは−349.2mA mm−1であったが、この値はIS/D−Gが500nmである実施例1のIDS,max(−242.0mA mm−1)よりも大きい。また、このトリプルゲートMISFETのRONは9.8Ω mmしかなかったが、この値は実施例1のトリプルゲートMISFETのRON(23.0Ω mm)よりも低い。しかしながら、本実施例のIS/D−GなしのトリプルゲートMISFETは、VGSを変化させたときの電流出力を充分に制御できなかった。
【0049】
<実施例の共通事項>
− フィンパターンH−ダイヤモンドの作成 −
寸法が5.0mm×5.0mm×0.3mmの単結晶ダイヤモンド(001)基板はEDP Corpより購入した。この基板を混酸溶液(HSOとHNO、体積比1:1)中で300℃、30分浄化した。このダイヤモンド基板上に、自動スパッタリングシステム(ULVAC,JSP−8000)を使用して、W金属をArガス雰囲気中で300Wでスパッタした。スパッタしたW金属の厚さ及びスパッタ時間は夫々200nm及び30分であった。W/ダイヤモンド試料を、回転速度及び回転時間を夫々5000rpm及び1秒として、ポジ型フォトレジストFEP−171で被覆した。FEP−171フォトレジストのベーキング温度及び時間はそれぞれ120℃及び2分であった。このフォトレジストをEBリソグラフィーシステム(Elionix ELS−7000)で露光後、試料をTMAH溶液中で1.5分現像した。W金属はICP−RIEドライエッチングシステム(住友精密工業株式会社のMUC−21)を使用して、BoschプロセスでSF及びCガスによってエッチングした。SF及びCの流量は夫々75sccm及び60sccmであった。これらのプラズマ出力はそれぞれ175W及び150Wであった。フォトレジストのない領域のダイヤモンドは、同じ機器を使用してOガス雰囲気の下でエッチングした。エッチング出力、流量、チャンバー内圧力及びエッチング時間はそれぞれ400W、10sccm、0.5Pa及び25分であった。残存したWを取り除いて、フィンパターン付きダイヤモンド基板が形成された。次に、MPCVDシステム(Seki TechnotronのAX5200S)を使用して、H−ダイヤモンドエピタキシャル層を成長させた。成長前に、フィンパターン付きダイヤモンド基板をMPCVDチャンバー内において1000℃で20分、浄化した。H−ダイヤモンドエピタキシャル層の成長温度、時間及びチャンバー内圧力は夫々900〜940℃、20分及び80Torrであった。ここで、H及びCHの流量は夫々500sccm及び0.5sccmであった。
【0050】
− トリプルゲートMISFETの作製 −
トリプルゲートAl/H−ダイヤモンドMISFETの作製は、基本的にはEBリソグラフィー、CCP−RIEドライエッチング、E銃蒸着、ALD、UHVスパッタリング、ウエットエッチング及びリフトオフ技術の組み合わせに基づいて行った。フィンパターン付きダイヤモンド基板上に、PMGI−SF6SとFEP−171二層フォトレジストを順番にコーティングした。FEP−171のベーキング条件は上述した。PMGI−SF6Sについてのベーキング温度及び時間は夫々180℃及び5分であった。H−ダイヤモンドエピタキシャルチャネル層を、CCP−RIEシステム(サムコ株式会社、RIE−200NL)を使用してO雰囲気中において圧力10Paでエッチングして、メサ構造を形成した。プラズマ出力及びエッチング時間はそれぞれ50W及び1.5分であった。Pd/Ti/Auオーミックコンタクトを、E銃蒸着システム(R−DEC Co. Ltd.、RDEB−1206K)を使用して形成した。ここでフィンパターンH−ダイヤモンド表面にPd金属を先ずコンタクトさせた。Pd、Ti及びAuの厚さは夫々10nm、20nm及び100nmであった。これらの金属の蒸着速度は夫々0.05nm s−1、0.05nm s−1及び0.2nm s−1であった。チャンバー内圧力は1.0〜2.5×10−5Paの範囲であった。Alゲート絶縁物及びAlゲート電極を、ALDシステム(Picosun、SUNALE R−100B)及びUHVスパッタリングシステム(Biemtron、LS−420R)によって、フィンパターン付きH−ダイヤモンドチャネル層上に順次堆積させた。ALD−Alの前駆物質はAl(CH及び水蒸気であった。両者でのパルス時間及びパージ時間は夫々0.1秒及び4.0秒であった。堆積温度は120℃であった。Al金属についてのプラズマ出力、チャンバー内圧力、Arガス流量及び堆積時間は夫々50W、0.3Pa、10sccm及び7分であった。Al金属は混酸溶液(HPO:HNO:CHCOOH:HOの体積比は16:2:2:1)を使用して1分間ウエットエッチングした。Al絶縁体はTMAH溶液を使用して10分間ウエットエッチングした。フォトレジストはNMP溶液により室温で3時間処理して除去した。
【0051】
− 測定システム −
フィンパターン付きダイヤモンド基板の表面モルフォロジーはSEMシステム(株式会社日立ハイテクノロジーズ、S−4800)を使用して調べた。TEM測定用の試料は、集束イオンビームSEMシステム(セイコーインスツル株式会社、Xvision−200DB)を使用して作製した。TEMによる観察は、JEM−2100Fシステムを使用して加速電圧200kVで行った。フィンパターンの高さは3D測定レーザー顕微鏡システム(オリンパス株式会社、OLS−4000)で測定した。Al膜の厚さはエリプソメーターシステム(Five Lab,MARY−102FM)によって測定した。MISFETの電気特性はMX−200/Bプローバー(Vector Semiconductor Corp.)及びB1500Aパラメーターアナライザー(Agilent Technologies Inc.)を使用して調べた。
【0052】
<考察>
H−ダイヤモンドMISFETのサイズ縮小を行うに当たって、SCE問題を抑制するとともにより大きなIDS,maxを得るために、H−ダイヤモンドのトリプルゲートMISFETを作製した。表1に実施例1のトリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETの電気特性のまとめを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1において、トリプルゲートMISFETのオフ状態でのIleak(Ileak,off)はプレーナ型の場合に比べてほとんど2桁低い。トリプルゲートMISFETの等価Wはプレーナ型MISFETのWに比べて1.4倍しか長くないにも関わらず、トリプルゲートMISFETのIDS,maxはプレーナ型MISFETのIDS,maxの5倍も大きい。これは、実施例3に示す他のトリプルゲートMISFETでも確認された。トリプルゲートMISFETのIDS,maxが理論値よりも大きくなることを説明するに当たって、2つの理由が考えられる。傾斜したH−ダイヤモンド(111)面は平らなH−ダイヤモンド(001)面よりも高いpsheetを有することが報告されている(非特許文献36)。実施例1のトリプルゲートMISFETでは、各フィンは2つの傾斜した
【0055】
【数10】
【0056】
面を有しているので、フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のpsheetが平らなH−ダイヤモンド(001)チャネル層よりも高いと考える根拠がある。一方、フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のエッチングプロセスにより引き起こされるところの表面粗さの増大により、その等価Wは恐らく理論値よりも長くなる。
【0057】
実施例4に示すように、IS/D−GなしのトリプルゲートMISFETも作製して、その電気特性を測定した。第4の実施例ではIDS,maxは−349.2mA mm−1もの大きさとなったが、その電流出力はVGSの変化では十分に制御できなかった。IS/D−GなしのトリプルゲートMISFETではAl/Alゲート層もソース/ドレインオーミックコンタクトで覆われている。Al/Alエッチングプロセス(図1Bのステップ4)の間に、縁の領域に幾分かの損傷が起こるかもしれない。トリプルゲートMISFETのサブスレッショルド電流はフィンの中程を流れると考えられるので(非特許文献31、37s)、Al/フィンパターンH−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷密度はAl/プレーナ型H−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷密度よりも小さくなる。おそらくはこれがトリプルゲートMISFETのSSがプレーナ型の場合よりも大幅に低くなる理由であろう。何れのタイプのMISFETについてもVTHの値はゼロよりも大きい。このことは、これらのMISFETがノーマリーオン特性で動作していることを示している。ノーマリーオフのH−ダイヤモンドMISFETは二層ゲートを堆積させて180℃〜300℃でアニールすることによって作製することができるので、将来ノーマリーオフトリプルゲートMISFETを作製することができると期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0058】
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図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C