【実施例】
【0015】
<実施例1:フィンパターンH−ダイヤモンド上で作製したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET>
図1Aはフィンパターンを形成したH−ダイヤモンドの製造プロセスを概念的に示す図、
図1BはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの製造プロセスを概念的に示す図、
図1Cは完成したトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの概念図、また
図1Dは作製された試料全体及びその中の2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの上面写真である。ダイヤモンド(001)基板上にフィンパターンを形成するため、先ず、原子スパッタシステムを使用してタングステン(W)金属をスパッタする(
図1Aのステップ1)。フォトレジスト(実施例ではポジ型フォトレジストFEP−171を使用)を基板上にコーティングし、電子ビーム(EB)リソグラフィーシステムを使用してフィンの型を生成する(
図1Aのステップ2)。誘導結合プラズマ反応性イオンエッチング(inductively coupled plasma reactive ion etching、ICP−RIE)システムを使用して、フォトレジストが存在していない領域のW金属及びダイヤモンド基板を夫々ドライエッチングする(
図1Aのステップ3、4;実施例では夫々SF
6及びO
2雰囲気を使用)。残されたW金属は再度SF
6雰囲気中で除去して、ダイヤモンド基板上にフィンパターンを形成する(
図1Aのステップ5)。次に、MPCVD技術を使用してH−ダイヤモンドエピタキシャル層を基板上に成長させて、フィンパターンH−ダイヤモンドを形成する(
図1Aのステップ6)。
【0016】
フィンパターンH−ダイヤモンドを形成した後、トリプルゲートMISFETを作成する。このプロセスを
図1Bに示す。先ず、フィンパターンH−ダイヤモンドをO
2雰囲気中で容量結合性プラズマRIE(CCP−RIE)システムを使用してエッチングし、メサ構造を形成する(
図1Bのステップ1)。電子銃(E銃)蒸着システムを使用してパラジウム/チタン/金(Pd/Ti/Au)オーミックコンタクトをフィンパターンH−ダイヤモンド上に蒸着して、ソース/ドレイン電極を形成する(
図1Bのステップ2)。なお、ここではH−ダイヤモンドへのオーミックコンタクトを形成するためにPd/Ti/Auという層構成を使用したが、もちろん他の通常使用される層構成(例えばAu)とすることもできる。原子層堆積(ALD)及び超高真空(UHV)スパッタ技術を使用して、酸化アルミニウム(Al
2O
3)ゲート絶縁体及びアルミニウム(Al)ゲート電極を夫々デポジットする(
図1Bのステップ3)。次に、これをPMGI−SF6S/FEP−171二層フォトレジスト等のフォトレジストで覆ってEBリソグラフィーシステムで露光し、ゲートの型を形成する。フォトレジストが存在していない領域のAl及びAl
2O
3を夫々混酸及び水酸化テトラメチルアンモニウム(tetramethylammonium hidroxide、TMAH)溶液によってウエットエッチングする。フォトレジストをN−メチルピロリドン(N-methylpyrrolidone、NMP)溶液中でリフトオフすると、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETが得られる(
図1Bのステップ4)。
【0017】
同じダイヤモンド基板上に、トリプルゲートMISFETと同時にプレーナ型MISFETも同時に作製した。
図1Dの上側の写真は、このようにして作製された試料全体の上面写真である。設計上のMISFETの総数は128であった。しかし、図中に示すように、作製プロセス中に3個のオーミックコンタクトが脱落した。
図1Dの下側の写真は試料全体のうちの2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの拡大写真である。これらのMISFETのL
G(
図1Cを参照)、I
S/D−G及びゲート幅(W
G)(
図1Cを参照)は夫々500nm、500nm及び100.5μmであった。なお、
図1Dの下側の写真は、正確に表現すれば、ドレイン電極を共通接続した2つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの対を示しているが、表現の簡略化のため、このように接続されたMISFETの対を本願明細書では単に2つのMISFETと呼んでいることに注意されたい。
【0018】
<表面及び界面の形態>
図2A及び
図2Bはフィンパターンを形成したダイヤモンド基板の走査電子顕微鏡(SEM)像を示し、
図2Bの方が高倍率である。また、
図2C〜
図2GはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETの透過電子顕微鏡(TEM)像である。
図2Fの差し込み図はダイヤモンド基板のエッチング領域状に成長したH−ダイヤモンドエピタキシャル層の制限視野解説(SAD)パターンである。
図2A及び
図2Bに示すSEM像から、ダイヤモンドフィンパターンの全幅は100.5μmであり、これはMISFETのW
Gと同じである。フィン長は7μmである。各フィンの幅と2つのフィンの間隔は何れも500nmである。フィンの高さは3D測定レーザー顕微鏡により500nmであることを確認した。なお、
図2Aに示された一つのフィンパターン全体は
図1Bのステップ1に概念的に図示されている単一のメサ構造で覆われ、最終的には一つのフィンパターン全体が一つのトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETに収容されてそのゲート構造を実現するために使用される。
【0019】
図2C中には、H−ダイヤモンドトリプルゲートMISFETのゲート、ソース及びドレインコンタクトが明確に示されている。MPCVD技術を使用してH−ダイヤモンドエピタキシャル層を成長させた後では、フィンの長さ及び幅は夫々7.8μm及び600nmに増大した。また、
図2Dから、2つのフィンの間隔及びフィンの高さは夫々400nm及び340nmに減少したことがわかる。
図2EからH−ダイヤモンドエピタキシャル層の厚さが約50nmであることがわかり、
図2Fからは2つのフィンの間の角度が60°であることがわかる。このトリプルゲートMISFETの各フィンの2つの傾斜した活性面(チャネルとして機能するH−ダイヤモンド表面;フィンの上面に加えて、両側面もチャネルとして機能する)は
【0020】
【数1】
【0021】
側面である。トリプルゲートMISFETの等価W
Gは139.6μmと計算できる。ALD−Al
2O
3の厚さはほぼ27.9nmであって、エリプソメーターシステムを使用した測定の結果と良く一致する。
図2Fの差し込み図であるSADパターンは、エッチング領域上に成長したH−ダイヤモンドも(001)方向の単結晶性が維持されることを示している。
図2Gからわかるように、ほぼ0.6nm厚の界面層がH−ダイヤモンドとAl
2O
3との間に存在しているが、この層はAlN/H−ダイヤモンド界面にも観察される(非特許文献32)。この層が何によるものであるかは今のところ不明である。しかし、これはおそらくは酸化物あるいは窒化物とH−ダイヤモンドエピタキシャル層上の吸着質との反応によってもたらされるものであろう。
【0022】
<トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETの電気的特性>
図3A及び
図3Bは夫々トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETの構造を示す概念図である。
図3CはトリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETのゲートリーク電流(I
leak)を表す。
図3D及び
図3Eは夫々トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFET及びプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETのドレイン−ソース電流対電圧関係(V
DS−V
DS)を表す。ここで、トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETとプレーナ型H−ダイヤモンドMISFETとは、同じL
G、W
G及びI
S/D−Gを有している。両MISFETの違いは、トリプルゲートMISFETではダイヤモンド基板上にフィンパターンが存在している点である。これらのMISFETのI
leakカーブは、V
GSを30.0Vから−10Vまで変化させながら、ゲートコンタクトとソースコンタクトとの間での電流−電圧関係を測定することによって得られた。V
GSが−10Vでは、ホールがAl
2O
3/ダイヤモンド界面に集積し、MISFETはオン状態になる。トリプルゲートMISFETのI
leakは1.4×10
−10Aであったが、これはプレーナ型MISFETの2.3×10
−12Aよりも大きい。これはおそらくはトリプルゲートMISFETの等価W
G及びエッチング表面が、プレーナ型のそれらに比べて夫々長くまた荒れが大きいことによると考えられる。プレーナ型MISFETのI
leak密度は、ゲート電極の面積(5.025×10
−7cm
2)で除算したI
leakを用いて、4.6×10
−6A cm
−2と計算できる。この値は、Al
2O
3/H−ダイヤモンドMISキャパシタについての1.1×10
−7A cm
−2よりも一桁大きい。MISFETの製造プロセスはMISキャパシタよりも複雑であるため、MISFETのゲートあるいはソース/ドレイン領域の損傷や欠陥はMISキャパシタのそれらよりも甚だしく、おそらくはこれによってMISFETのI
leakの方がより大きくなると考えられる。V
GSが30.0Vである場合には、ホールがAl
2O
3/H−ダイヤモンド界面に集積するのは困難であり、MISFETはオフ状態になる。トリプルゲートMISFETのI
leakは1.8×10
−12Aであるが、この値はプレーナ型の場合の1.2×10
−10Aよりも小さい。従って、オフ状態において、ゲート電力損失はトリプルゲートMISFETの方が小さくなる。
【0023】
図3D及び
図3EのトリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのI
DS−V
DS特性の測定に当たって、V
GSは−10.0Vから20.0Vまで+1.0V刻みで変化させた。両タイプのMISFETについて同じ面積でそれらの電気的特性を比較するため、トリプルゲートMISFETについてのI
DSもW
Gで正規化した(等価W
Gではない)。両タイプのMISFETは明確にp型チャネル特性及びピンチオフ特性を示している。両タイプのMISFETとも、I
DSとV
DSの低電圧領域との間には良好な線形関係が成り立っている。これは、Pd/Ti/AuとH−ダイヤモンドチャネル層との間で良好なオーミックコンタクトができていることを示している。トリプルゲートMISFETのI
DS,maxは−242.0mA mm
−1であったが、この値はプレーナ型の場合の−45.2mA mm
−1よりもはるかに大きい。
【0024】
W
Gで正規化したR
ONはI
DS−V
DS特性の線形領域から抽出することができる。このようにして求められたW
G正規化R
ONは、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETについて夫々23.0Ω mm及び98.0Ω mmである。トリプルゲートH−ダイヤモンドMISFETのR
ONはAl
2O
3絶縁体下のフィンパターンチャネル抵抗(R
CH)、I
S/D−Gが500nmの場合のフィンパターンH−ダイヤモンド表面抵抗(2R
SD)、及びPd/Ti/Auオーミック接続抵抗(2R
C)で構成される。2R
CはR
CH及び2R
SDよりもはるかに小さいので、2R
Cは無視できる。I
S/D−Gが2.0μmの実施例2のトリプルゲートMISFET(後述)のR
ON値と組み合わせることによって、R
CH及び2R
SDは夫々16.6Ω mm及び6.4Ω mmであると推定できる。
【0025】
I
DS−V
DSカーブに対応する伝達特性を
図4A〜
図4Cに示す。
図4Aの上側のグラフに示すように、トリプルゲートMISFETのオン/オフ比は10
8よりも大きいが、この値は
図4Aの下側のグラフに示されるプレーナ型MISFETのオン/オフ比と同じレベルである。これは実用的な応用に充分なほど大きい。
【0026】
サブスレッショルドスイング(SS)はMISFETの電力消費を評価するための重要なパラメータである。SSはlog|I
DS|対V
DSの逆勾配(勾配の逆数)と定義される。SSの値は、トリプルゲートMISFETの場合、
図4Aの上に示すようにV
DSが−10.0Vにおいて110mV dec
−1であった。この値は
図4Aの下に示すプレーナ型MISFETの場合の460mV dec
−1よりもはるかに小さい。SSとAl
2O
3/H−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷キャパシタンス(C
it)との間には以下の関係が成立する。
【0027】
【数2】
【0028】
ここで、k、T、q、C
H−diamond及び
【0029】
【数3】
【0030】
は夫々ボルツマン定数(8.62×10
−5eV K
−1)、室温(298.15K)、電子1個の電荷(1.6×10
−19C)、H−ダイヤモンドのキャパシタンス、及びAl
2O
3層のキャパシタンスである。
【0031】
【数4】
【0032】
は下式
【0033】
【数5】
【0034】
から、0.171μF cm
−2と計算される。ここで、ε
0、
【0035】
【数6】
【0036】
、及び
【0037】
【数7】
【0038】
は夫々真空の誘電率(8.85×10
−12F m
−1)、Al
2O
3の比誘電率(5.4)(非特許文献34)、及びAl
2O
3の厚さ(27.9nm)である。深いサブスレッショルド領域でC
H−diamondを無視できるのであれば、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのC
it値は夫々0.143μF cm
−2及び1.143μF cm
−2と計算される。従って、これら両MISFETの界面トラップ電荷密度は夫々8.95×10
11eV
−1cm
−2及び7.14×10
12eV
−1 cm
−2と推定される。両MISFETの閾値電圧(V
TH)はV
GSの関数としての−√(I
DS)により決定できる。
図4B及び
図4Cに示すように、これらの値はトリプルゲートMIS及びプレーナ型MISFETについて夫々10.2±0.1eV及び7.6±0.1eVである。従って、両MISFETはデプリーションモードで動作する。
【0039】
R
ONとV
THと実効移動度(μ
eff)との間には以下の関係がある。
【0040】
【数8】
【0041】
トリプルゲートMISFETについてのR
ON、L
G、W
G、
【0042】
【数9】
【0043】
、V
GS、V
TH及びR
SDは夫々23.0Ω mm、500nm、100.5μm、0.171μF cm
−2、−10.0V、10.2±0.1V、及び6.4Ω mmであった。フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のμ
effは8.7±0.5cm
2V
−1 s
−1と計算できる。この値は以前報告されたプレーナ型MISFETの38.7±0.5cm
2V
−1 s
−1(非特許文献35)よりも低い。これは恐らくはフィンパターンH−ダイヤモンドの場合のエッチング領域での表面粗さが増大することが原因であろう。外因相互コンダクタンス(g
m)はI
DS−V
GSカーブの勾配によって定められる。
図4Cに示すように、トリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETのgmの最大値(g
m,max)は21.3±0.1mS mm
−1及び3.8±0.1mS mm
−1であった。
【0044】
<実施例2:ソース/ドレインとゲートとの間隔(I
S/D−G)が2.0μmのトリプルゲートMISFET>
図05Aに示す断面構造を有し、I
S/D−Gが2.0μmである点以外は実施例1と同様にして、実施例2のトリプルゲートMISFETを作製した。
【0045】
実施例2のI
S/D−Gが2.0μmのトリプルゲートMISFETのI
DSの最大値(I
DS,max)は−207.9mA mm
−1であった。この値はI
S/D−Gが500nmである実施例1のトリプルゲートMISFETのI
DS,maxの値である−242.0mA mm
−1よりもわずかに小さい。実施例2ではW
Gで正規化したオン抵抗(R
ON)は42.2Ω mmであった。I
S/D−Gが500nmである実施例1のトリプルゲートMISFETのフィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層の表面抵抗が2R
SDであれば、I
S/D−Gが2μmである実施例2の方の表面抵抗は8R
SDであると考えられる。第1の実施例のトリプルゲートMISFETのR
ON(23.0Ω mm)はAl
2O
3絶縁体下のフィン型チャネル抵抗(R
CH)と2R
SDとの合計である。実施例2であるI
S/D−Gが2μmであるトリプルゲートMISFETのR
ON(42.2Ω mm)はR
CHと8R
SDとの合計である。従って、R
CH及び2R
SDは夫々16.6Ω mm及び6.4Ω mmと推定できる。
【0046】
<実施例3:他のフィンパターンを使用してダイヤモンド基板上に作製したトリプルゲートMISFET>
図2A及び
図2Bに示すSEM像とは異なるところの、
図6Aに示すSEM像のフィンパターンを有する点以外は実施例1と同様にして、実施例3のトリプルゲートMISFETを作製した。
【0047】
実施例1と実施例3とで、エッチングプロセスの変更によって2種類のフィンパターンを作製した。
図2Bに示された実施例1のフィンパターンでは、ダイヤモンド基板の縁をエッチングしたのに対して、
図6Aに示された実施例3のフィンパターンではダイヤモンド基板の縁はエッチングしなかった。
図6Aに示されたフィンパターンを有する実施例3のトリプルゲートMISFETのI
DS,maxは、
図6Cに示すように、−202.3mA mm
−1であった。この値は実施例1での値−242.0mA mm
−1よりもわずかに小さい。しかしながら、何れの値も比較例のプレーナ型MISFETのI
DS,max(−45.2mA mm
−1)よりもかなり大きい。
【0048】
<実施例4:I
S/D−GのないトリプルゲートMISFET>
図7Aに示す断面構造を有し、I
S/D−Gのない点以外は実施例1と同様にして、実施例4のトリプルゲートMISFETを作製した。I
S/D−GなしのトリプルゲートMISFETのI
DS,maxは−349.2mA mm
−1であったが、この値はI
S/D−Gが500nmである実施例1のI
DS,max(−242.0mA mm
−1)よりも大きい。また、このトリプルゲートMISFETのR
ONは9.8Ω mmしかなかったが、この値は実施例1のトリプルゲートMISFETのR
ON(23.0Ω mm)よりも低い。しかしながら、本実施例のI
S/D−GなしのトリプルゲートMISFETは、V
GSを変化させたときの電流出力を充分に制御できなかった。
【0049】
<実施例の共通事項>
− フィンパターンH−ダイヤモンドの作成 −
寸法が5.0mm×5.0mm×0.3mmの単結晶ダイヤモンド(001)基板はEDP Corpより購入した。この基板を混酸溶液(H
2SO
4とHNO
3、体積比1:1)中で300℃、30分浄化した。このダイヤモンド基板上に、自動スパッタリングシステム(ULVAC,JSP−8000)を使用して、W金属をArガス雰囲気中で300Wでスパッタした。スパッタしたW金属の厚さ及びスパッタ時間は夫々200nm及び30分であった。W/ダイヤモンド試料を、回転速度及び回転時間を夫々5000rpm及び1秒として、ポジ型フォトレジストFEP−171で被覆した。FEP−171フォトレジストのベーキング温度及び時間はそれぞれ120℃及び2分であった。このフォトレジストをEBリソグラフィーシステム(Elionix ELS−7000)で露光後、試料をTMAH溶液中で1.5分現像した。W金属はICP−RIEドライエッチングシステム(住友精密工業株式会社のMUC−21)を使用して、BoschプロセスでSF
6及びC
4F
8ガスによってエッチングした。SF
6及びC
4F
8の流量は夫々75sccm及び60sccmであった。これらのプラズマ出力はそれぞれ175W及び150Wであった。フォトレジストのない領域のダイヤモンドは、同じ機器を使用してO
2ガス雰囲気の下でエッチングした。エッチング出力、流量、チャンバー内圧力及びエッチング時間はそれぞれ400W、10sccm、0.5Pa及び25分であった。残存したWを取り除いて、フィンパターン付きダイヤモンド基板が形成された。次に、MPCVDシステム(Seki TechnotronのAX5200S)を使用して、H−ダイヤモンドエピタキシャル層を成長させた。成長前に、フィンパターン付きダイヤモンド基板をMPCVDチャンバー内において1000℃で20分、浄化した。H−ダイヤモンドエピタキシャル層の成長温度、時間及びチャンバー内圧力は夫々900〜940℃、20分及び80Torrであった。ここで、H
2及びCH
4の流量は夫々500sccm及び0.5sccmであった。
【0050】
− トリプルゲートMISFETの作製 −
トリプルゲートAl
2O
3/H−ダイヤモンドMISFETの作製は、基本的にはEBリソグラフィー、CCP−RIEドライエッチング、E銃蒸着、ALD、UHVスパッタリング、ウエットエッチング及びリフトオフ技術の組み合わせに基づいて行った。フィンパターン付きダイヤモンド基板上に、PMGI−SF6SとFEP−171二層フォトレジストを順番にコーティングした。FEP−171のベーキング条件は上述した。PMGI−SF6Sについてのベーキング温度及び時間は夫々180℃及び5分であった。H−ダイヤモンドエピタキシャルチャネル層を、CCP−RIEシステム(サムコ株式会社、RIE−200NL)を使用してO
2雰囲気中において圧力10Paでエッチングして、メサ構造を形成した。プラズマ出力及びエッチング時間はそれぞれ50W及び1.5分であった。Pd/Ti/Auオーミックコンタクトを、E銃蒸着システム(R−DEC Co. Ltd.、RDEB−1206K)を使用して形成した。ここでフィンパターンH−ダイヤモンド表面にPd金属を先ずコンタクトさせた。Pd、Ti及びAuの厚さは夫々10nm、20nm及び100nmであった。これらの金属の蒸着速度は夫々0.05nm s
−1、0.05nm s
−1及び0.2nm s
−1であった。チャンバー内圧力は1.0〜2.5×10
−5Paの範囲であった。Al
2O
3ゲート絶縁物及びAlゲート電極を、ALDシステム(Picosun、SUNALE R−100B)及びUHVスパッタリングシステム(Biemtron、LS−420R)によって、フィンパターン付きH−ダイヤモンドチャネル層上に順次堆積させた。ALD−Al
2O
3の前駆物質はAl(CH
3)
4及び水蒸気であった。両者でのパルス時間及びパージ時間は夫々0.1秒及び4.0秒であった。堆積温度は120℃であった。Al金属についてのプラズマ出力、チャンバー内圧力、Arガス流量及び堆積時間は夫々50W、0.3Pa、10sccm及び7分であった。Al金属は混酸溶液(H
3PO
4:HNO
3:CH
3COOH:H
2Oの体積比は16:2:2:1)を使用して1分間ウエットエッチングした。Al
2O
3絶縁体はTMAH溶液を使用して10分間ウエットエッチングした。フォトレジストはNMP溶液により室温で3時間処理して除去した。
【0051】
− 測定システム −
フィンパターン付きダイヤモンド基板の表面モルフォロジーはSEMシステム(株式会社日立ハイテクノロジーズ、S−4800)を使用して調べた。TEM測定用の試料は、集束イオンビームSEMシステム(セイコーインスツル株式会社、Xvision−200DB)を使用して作製した。TEMによる観察は、JEM−2100Fシステムを使用して加速電圧200kVで行った。フィンパターンの高さは3D測定レーザー顕微鏡システム(オリンパス株式会社、OLS−4000)で測定した。Al
2O
3膜の厚さはエリプソメーターシステム(Five Lab,MARY−102FM)によって測定した。MISFETの電気特性はMX−200/Bプローバー(Vector Semiconductor Corp.)及びB1500Aパラメーターアナライザー(Agilent Technologies Inc.)を使用して調べた。
【0052】
<考察>
H−ダイヤモンドMISFETのサイズ縮小を行うに当たって、SCE問題を抑制するとともにより大きなI
DS,maxを得るために、H−ダイヤモンドのトリプルゲートMISFETを作製した。表1に実施例1のトリプルゲートMISFET及びプレーナ型MISFETの電気特性のまとめを示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1において、トリプルゲートMISFETのオフ状態でのI
leak(I
leak,off)はプレーナ型の場合に比べてほとんど2桁低い。トリプルゲートMISFETの等価W
Gはプレーナ型MISFETのW
Gに比べて1.4倍しか長くないにも関わらず、トリプルゲートMISFETのI
DS,maxはプレーナ型MISFETのI
DS,maxの5倍も大きい。これは、実施例3に示す他のトリプルゲートMISFETでも確認された。トリプルゲートMISFETのI
DS,maxが理論値よりも大きくなることを説明するに当たって、2つの理由が考えられる。傾斜したH−ダイヤモンド(111)面は平らなH−ダイヤモンド(001)面よりも高いp
sheetを有することが報告されている(非特許文献36)。実施例1のトリプルゲートMISFETでは、各フィンは2つの傾斜した
【0055】
【数10】
【0056】
面を有しているので、フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のp
sheetが平らなH−ダイヤモンド(001)チャネル層よりも高いと考える根拠がある。一方、フィンパターンH−ダイヤモンドチャネル層のエッチングプロセスにより引き起こされるところの表面粗さの増大により、その等価W
Gは恐らく理論値よりも長くなる。
【0057】
実施例4に示すように、I
S/D−GなしのトリプルゲートMISFETも作製して、その電気特性を測定した。第4の実施例ではI
DS,maxは−349.2mA mm
−1もの大きさとなったが、その電流出力はV
GSの変化では十分に制御できなかった。I
S/D−GなしのトリプルゲートMISFETではAl
2O
3/Alゲート層もソース/ドレインオーミックコンタクトで覆われている。Al
2O
3/Alエッチングプロセス(
図1Bのステップ4)の間に、縁の領域に幾分かの損傷が起こるかもしれない。トリプルゲートMISFETのサブスレッショルド電流はフィンの中程を流れると考えられるので(非特許文献31、37s)、Al
2O
3/フィンパターンH−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷密度はAl
2O
3/プレーナ型H−ダイヤモンド界面でのトラップ電荷密度よりも小さくなる。おそらくはこれがトリプルゲートMISFETのSSがプレーナ型の場合よりも大幅に低くなる理由であろう。何れのタイプのMISFETについてもV
THの値はゼロよりも大きい。このことは、これらのMISFETがノーマリーオン特性で動作していることを示している。ノーマリーオフのH−ダイヤモンドMISFETは二層ゲートを堆積させて180℃〜300℃でアニールすることによって作製することができるので、将来ノーマリーオフトリプルゲートMISFETを作製することができると期待できる。