【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「触原色に立脚した身体性メディア技術の基盤構築と応用展開」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】コイルが取り付けられたシャフト130と、コイルの周囲に配置されたS極及びN極の磁石と、磁石を固定した状態で保持する第1筐体110と、第1筐体110の外側に配置されシャフト130に固定された第2筐体120とを備える。駆動信号として交流信号を供給して、その交流信号の周波数及び強度に応じて、第1筐体110側を交互回転させる。このとき、シャフト130及び第2筐体120は固定側となり、第1筐体110に取り付けられた磁石などが第1筐体110と共に交互回転して、効率的に振動触覚をユーザーに提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
回転式の振動アクチュエーターは、一般的なモーターに錘を取り付ける構成であるため、構成が簡単であり、小型で低コスト化が図れるという利点がある。しかしながら、回転式の振動アクチュエーターによる振動は、回転している錘の遠心力によって生じるため、モーターの回転数から決まる振動の周波数と振動の強さを独立して制御することができず、常に一定の振動触覚しか発生できない。したがって、従来の回転式の振動アクチュエーターでは、高品位な振動触覚をユーザーに提示することができないという問題があった。
【0006】
また、直動式の振動アクチュエーターについても、錘を固定するためにバネやゴムなどの部材を用いる必要があり、それらの部材に起因する共振が生じて、振動状態の制御が難しいという問題がある。特に低周波領域で一定の加速度を生じさせようとすると、振動体が壁にぶつかるため、低周波での振動発生が得意でないという問題があった。
【0007】
本発明は、高品位な振動触覚をユーザーに提示でき、かつ構成や駆動回路が簡単な振動アクチュエーター及びその振動アクチュエーターを内蔵した機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の振動アクチュエーターは、コイルが取り付けられたシャフトと、コイルの周囲に配置されたS極及びN極の磁石と、磁石を固定した状態で保持する第1筐体と、コイルと電気的に接続されシャフトに取り付けられた整流子と、シャフトの整流子と接触し第1筐体に取り付けられた導電ラインに接続された第1ブラシと、第1筐体の外側に配置されシャフトに固定された第2筐体と、第1筐体に取り付けられ導電ラインに電気的に接続された導電端子と、第2筐体に取り付けられ導電端子と接触した第2ブラシと、第2ブラシと電気的に接続された給電部とを備える。
そして、給電部に交流信号を供給することで、第1筐体及び磁石が、交流信号の周波数及び強度に対応した周期及び強度で往復回転を行い、振動触覚を発生するようにした。
【0009】
また本発明の振動アクチュエーター内蔵機器は、上述した構成の振動アクチュエーターを内蔵した機器である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、小型な構成で強度の強い振動を発生させることができる。また、給電部に供給する交流信号の周波数及び強度を調整することで、発生する振動触覚の周波数及び強度を効率的に調整することができ、高品位な振動触覚をユーザーに提示できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.振動アクチュエーターの構成]
以下、本発明の一実施の形態例(以下、「本例」と称する。)を、添付図面を参照して説明する。
図1は、本例の振動アクチュエーター100の全体構成を示す図である。
図2は、振動アクチュエーター100の第1筐体110の内部を示す断面図である。
図3は、振動アクチュエーター100の第1筐体110を示す斜視図である。
【0013】
本例の振動アクチュエーター100は、いわゆる直流モーターに改良を加えたものである。すなわち、振動アクチュエーター100は、円筒形状の第1筐体110を備え、第1筐体110のシャフト支持部111,112に、シャフト130の一端部131及び他端部132が回転可能に支持される。なお、本例の振動アクチュエーター100による振動発生時には、第1筐体110側が回転し、シャフト130は回転しない。つまり、本例の振動アクチュエーター100は、一般的な直流モーターとは回転側と固定側が逆になる。なお、以下の説明で回転側と述べた場合には第1筐体110側を示し、固定側と述べた場合にはシャフト130側を示す。
【0014】
図2に示すように、シャフト130にはコイル141が取り付けられる。このコイル141の周囲の第1筐体110内には、コイル141側にN極が配置された磁石143Nとコイル141側にS極が配置された磁石143Sとが対向して配置される。コイル141の巻線の一端及び他端は、シャフト130の一端部131側に取り付けられた整流子142a,142bに接続される。2つの整流子142a,142bは、シャフト130に対向して取り付けられる。
【0015】
2つの整流子142a,142bは、
図2に示すように、第1筐体110の内部で、2つの第1ブラシ144a,144bに接触する。例えば、一方の整流子142aが一方の第1ブラシ144aと接触した状態のとき、他方の整流子142bが他方の第1ブラシ144bと接触する。また、第1筐体110が180°回転して、一方の整流子142aが他方の第1ブラシ144bと接触した状態のとき、他方の整流子142bが一方の第1ブラシ144aと接触する。なお、本明細書で述べるブラシ(第1ブラシ144a,144b及び後述する第2ブラシ151a,151b)は、直流モーターの構成部品として一般的な部品の1つとしてのブラシであり、相手側と常時接触する導電部材であれば、様々な形状のものが適用可能である。
【0016】
第1筐体110内の2つの第1ブラシ144a,144bは、導電ライン145a,145bに接続される。それぞれの導電ライン145a,145bは、孔113a,113bから第1筐体110の外側に引き出される。一方の導電ライン145aは、シャフト支持部112の周囲に取り付けられた第1筒状導電端子146に接続される。他方の導電ライン145bは、第1筒状導電端子146の外側に絶縁材147を介して配置された第2筒状導電端子148に接続される。
【0017】
第1筐体110の外周部には、第2筐体120が配置される。第2筐体120は、第1筐体110の約半分(
図1での左半分)を覆う円筒形状である。この第2筐体120は、
図2に示すように、シャフト連結部121を備え、シャフト連結部121にシャフト130の他端部132が固定される。したがって、第2筐体120も固定側である。振動アクチュエーター100を機器(後述する振動触覚提示装置200など)に取り付ける際には、この第2筐体120が機器に固定される。
【0018】
第2筐体120の内部には、2つの第2ブラシ151a,151bが固定される。
図2及び
図3に示すように、2つの第2ブラシ151a,151bの内で、一方の第2ブラシ151aは、第1筒状導電端子146と接触し、他方の第2ブラシ151bは、第2筒状導電端子148と接触する。
【0019】
また、
図1及び
図2に示すように、第2筐体120の表面の対向した箇所(
図1での上側及び下側)に、給電部153a及び153bが配置される。そして、2つの第2ブラシ151a,151bは、導電ライン152a,152bを介して第2筐体120の表面側の給電部153a,153bに接続される。導電ライン152a,152bは、
図2に示すように、第2筐体120に設けた孔122a,122bを介して第2筐体120の内部から表面に引き出される。
一方の給電部153aは、外部の信号線と接続する端子154aを備え、端子154aが、導電ライン152aを介して一方の第2ブラシ151aに接続される。
他方の給電部153bは、外部の信号線と接続する端子154bを備え、端子154bが、導電ライン152bを介して他方の第2ブラシ151bに接続される。
給電部153a,153bの端子154a,154bには、駆動回路部160から交流信号が供給される。
【0020】
[2.駆動回路の構成例]
次に、
図1に示す駆動回路部160の構成について説明する。駆動回路部160は、電池161,電源部162,スイッチ163、交流信号生成部164,制御部165及び受信部166から構成される。
【0021】
電池161は、電源部162が接続され、電源部162によって、電池161から得た直流電源が一定の電圧として安定化される。電源部162で得た直流電源は、スイッチ163を介して交流電源生成部164に供給される。交流電源生成部164では、所定の周波数の交流信号が生成され、生成された交流信号が給電部153a,153bの端子154a,154bに供給される。
【0022】
受信部166は、有線又は無線で外部から振動を発生させる指令を受信し、受信した指令を制御部165に伝送する。
そして、制御部165は、受信部166を通して外部から受信した指令に応じて、スイッチ163の開閉を制御するとともに、交流電源生成部164が生成する交流信号の周波数及び強度を制御する。ここでの強度の制御とは、交流信号の電圧又は電流、あるいは電圧と電流の双方を制御することである。なお、交流電源生成部164が生成する交流信号の周波数及び強度を可変に設定するのは一例であり、交流電源生成部164が生成する交流信号の周波数及び強度は一定の値に固定してもよく、また、周波数及び強度のいずれか一方を一定の値に固定し他方を可変としてもよい。また、制御部165からの指令で、交流電源生成部164が生成する交流信号の電力を可変させるようにしてもよい。
【0023】
このように構成した振動アクチュエーター100に、駆動回路部160から駆動信号が供給されると、回転側である第1筐体110が回転する。すなわち、第1筐体110の内部の構成は、いわゆる直流モーターの内部構成と同様の構成になっており、
図2に示すように、シャフト130がシャフト連結部121で第2筐体120と一体に接続されている。このため、本例の振動アクチュエーター100では、駆動回路部160から駆動信号の供給によって第1筐体が回転する際に、シャフト130や第2筐体120が固定側となり、第1筐体110と内部の磁石143N,143Sが回転側になる。
したがって、例えば振動アクチュエーター100に直流信号に供給される場合には、回転側である第1筐体110側が一方向に連続して回転することになる。
【0024】
しかし、本例においては、駆動回路部160から給電部153a,153bに供給される駆動信号が交流信号であるため、第1筐体110は、その交流信号の極性の反転により、一方向の回転と他方向の回転を繰り返す。つまり、
図1に示すように、θ1方向への回転と、θ2方向への回転とを、交流信号の周波数及び強度に対応した周期で繰り返すようになる。このとき、第1筐体110内に配置された磁石143N,143Sも第1筐体110と連動して回転するため、比較的重量を持つ回転体が駆動信号に応じて交互の回転を繰り返すようになり、力の強い振動が発生する。
【0025】
また、本例においては、駆動回路部160内の交流電源生成部164で生成される交流信号の周波数及び強度が、制御部165によって調整されるため、振動発生時の力を調整することができる。したがって、本例の振動アクチュエーター100によると、ユーザーに提示する振動触覚の周波数及び強度を簡単かつ効率的に調整することが可能になる。
【0026】
[3.振動アクチュエーターの特性例]
図4は、本例の振動アクチュエーター100により発生する加速度g1と、通常の直流モーターにより発生する加速度g2とを比較した特性図である。
加速度g2は、本例の振動アクチュエーター100と回転側と固定側の重量が逆になるように構成した直流モーターによって測定した値である。すなわち、加速度g2は、第1筐体110と第2筐体120を備えた構成において、第1筐体110が固定側、第2筐体120が回転側となるようにして測定した値を示している。
【0027】
図4の横軸は、印加する駆動信号の周波数を示す。ここで供給した交流信号はサイン波形であり、電力が0.3Wとなるようにして、10Hzから200Hzまで周波数を変化させて測定した。つまり、上述の本例の振動アクチュエーター100と、本例の振動アクチュエーター100と回転側と固定側の重量が逆になるように構成した通常の直流モーターのそれぞれに供給した交流信号の周波数および強度は同一である。加速度g1,g2は、それぞれ加速度センサーを機器の固定側に取り付けて測定したものである。
【0028】
図4に示すように、加速度g1及び加速度g2のいずれも、最も高いピークとなる位置が約50Hzであり、そのピーク位置から周波数が変化することで、徐々に加速度が低下することが分かる。そして、全周波数領域において、本例の振動アクチュエーター100による加速度g1の方が、通常の直流モーターによる加速度g2よりも高いことが判明した。
【0029】
図4では、回転側と固定側の重量バランスが完全に逆になるようにして、2つの加速度g1,g2の差を示しているため、加速度g1の方が強いが、2つの加速度g1,g2にそれほど大きな差がないように見える。しかしながら、実際の従来の直流モーターの場合には、第2筐体120に相当する部材がないため、加速度g2として示した例よりも回転側の重量が軽く、発生する加速度は特性g2よりも大幅に小さくなる。したがって、供給する交流信号の周波数及び強度を同一とした場合、本例の振動アクチュエーター100による振動触覚の強度と、従来の直流モーターに単純に交流信号を印加した場合の振動触覚の強度とには、
図4に示す特性差以上に大きな強度差があると考えられる。
【0030】
また、本例の振動アクチュエーター100の場合には、1Hzのような低周波数領域でも、適正な振動提示が可能である。つまり、従来の直流モーターによる加速度g2については、約15Hz以下の低周波数領域では誤差が大きく測定が不能であったのに対して、本例の振動アクチュエーター100の場合には、1Hzのような低周波数の交流信号を供給した場合でも、その周波数及び強度に応じた振動触覚を効率的に与えることができる。
実際に実験した例では、本例の振動アクチュエーター100に、例えば1Wの電力で1Hzの交流信号を与えた場合、ユーザーが装着した箇所(
図5の例では指先)が前後に押されるような感覚をユーザーに対して与えることができ、従来の振動アクチュエーターでは不可能であった高品位の触覚をユーザーに提供することができることが判明した。
【0031】
[4.振動アクチュエーター内蔵機器の例]
図5は、本例の振動アクチュエーター100を振動触覚提示装置200に取り付けた例を示す。
振動触覚提示装置200は、ユーザーの指Fの先端に装着されるクリップ部210を備え、そのクリップ部210の表面部211に、振動アクチュエーター100が固定される。また、
図5に示すように、クリップ部210には、駆動回路部160が取り付けられ、駆動回路部160から振動アクチュエーター100の内部に交流信号が供給される。
【0032】
この
図5に示す構成とすることで、振動アクチュエーター100に交流信号が供給される間、振動アクチュエーター100の第1筐体110側が交互に回転することによる振動触覚を指Fに提示することができる。本例の振動アクチュエーター100の場合には、上述したように通常の直流モーターと比較して振動触覚の強度が強いため、振動アクチュエーター100を小型に構成した場合でも、十分な強度の振動触覚をユーザーに提示することができる。また、その振動触覚を交流信号の周波数や強度により効率的に調整できるため、高品位の振動触覚をユーザーに提示できるようになる。
【0033】
[5.変形例]
なお、
図1及び
図2に示す第2筐体120は、第1筐体110の約半分のみを覆う形状としたが、これは一例であり、例えば第2筐体120として、第1筐体110の全体を覆う形状としてもよい。
【0034】
また、第2筐体120に2つの給電部153a,153bが配置される位置についても、
図1の例は一例であり、2つの給電部153a,153bとして近接した位置に配置してもよい。また、給電部153a,153bとして端子154a,154bを備える構成とした点についても一例を示したものであり、例えば給電部153a,153bとして、端子を介さずに、第2筐体120の内部の導電ライン152a,152bを直接外部に引き出す信号線を備える構成としてもよい。
【0035】
また、振動アクチュエーター100が装着される装置として、
図5に示す振動触覚提示装置200は一例であり、その他の各種装置(電子機器)にこの振動アクチュエーター100を内蔵するようにしてもよい。例えば、スマートフォンなどの携帯通信端末や、ビデオゲーム機器のコントローラーに、振動アクチュエーター100を内蔵するようにしてもよい。
駆動回路部160の構成についても、
図1に示す構成はあくまでも一例であり、その他の回路構成とすることも可能である。