【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0060】
〔OEG化セルロースオリゴマーからなる三次元構造体の酵素合成〕
1.実験方法
1−1.試薬
LB-BROTH LENNOX及びLB-AGAR LENNOXはフナコシより購入した。
グリセロール、カナマイシン硫酸塩、イソプロピル-β-D(-)-チオガラクトピラノシド (Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside: IPTG)、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン (N,N,N',N'-Tetramethyl ethylenediamine: TEMED)、ジチオトレイトール (Dithiothreitol: DTT)、1-ブタノール、αG1P二ナトリウム・n水和物、40%重水酸化ナトリウム重水溶液、モレキュラーシーブス4A、ダウエクス
TM50WX4 100-200メッシュ強酸性陽イオン交換樹脂は和光純薬より購入した。
【0061】
ジクロロメタン、酢酸エチル、シリカゲル60N (40-100 μm, 球状、中性) は関東化学より購入した。
【0062】
O-ペンタアセチル-β-D-グルコシド、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、ヘキサエチレングリコールモノメチルエーテル、オクタエチレングリコールモノメチルエーテル、三ふっ化ホウ素ジエチルエーテル、p-アニスアルデヒドは東京化成より購入した。
【0063】
ニッケル-ニトリロ三酢酸 (Ni-NTA) アガロースゲルはQIAGENより購入した。
Protein Molecular Weight Marker (Broad) はタカラバイオより購入した。
【0064】
アクリルアミド、N-N'-メチレンビスアクリルアミド、ドデシル硫酸ナトリウム (Sodium dodecyl sulfate: SDS)、過硫酸アンモニウム (Ammonium persulfate: APS)、重水、2,5-ジヒドロキシ安息香酸 (2,5-Dihydroxybenxonic acid: DHBA)、ProteoMass
TMBradykinin fragment 1-7 MALDI-MSスタンダード (Bradykinin)、ProteoMass
TM P
14R MALDI-MSスタンダード(P
14R)、ProteoMass
TMACTH Fragment 18-39 MALDI-MSスタンダード (ACTH)、トリフルオロ酢酸 (TFA)、アセトニトリルはSigma-Aldrichより購入した。
【0065】
カーボンテープ、ドータイトは日新EMより購入した。
その他の試薬は、特に表記しない限りナカライテスクより購入し、特級以上の試薬を使用した。
【0066】
超純水は、Milli-Qシステム (Milli-Q Advantage A-10, Merck Millipore) で精製された水を使用した。
【0067】
純水はTANK 60 Lite PE (Merck Millipore) で精製された水を使用した。
乾燥ジクロロメタンはGlass Contour有機溶剤精製装置 (Nikko Hansen) で精製されたジクロロメタンを使用した。
【0068】
1−2.CDPの調製及び酵素活性評価
CDPは、M. Krishnareddyら, J. Appl. Glycosci., 2002年, 49, 1-8に記載の方法と同様の方法により調製した。
【0069】
1−2−1.試薬の調製
(1) 滅菌精製水
500 mL広口メディウム瓶に超純水500 mLを採取してオートクレーブ (121 ℃、20 min、BS-245、TOMY) して室温で保存した。
(2) 50 mg/mLカナマイシンストック溶液
カナマイシン硫酸塩1.5 gを滅菌精製水に溶解させ、30 mLにメスアップした。調製した溶液をクリーンベンチ内でポリフッ化ビニリデン (Polyvinylidene difluoride: PVDF) 製0.22 μmフィルターで濾過滅菌し、1.7 mLチューブに1 mLずつ分注して-20 ℃で保存した。
(3) 10 mM IPTGストック溶液
IPTG 71.5 mgを滅菌精製水に溶解させ、30 mLにメスアップした。調製した溶液をクリーンベンチ内でPVDF製0.22 μmフィルターで濾過滅菌した。1.7 mLチューブに1 mLずつ分注して-20 ℃で保存した。
(4) LB-AGAR/カナマイシンプレート
250 mL広口メディウム瓶にLB-AGAR LENNOX 2.8 gを採取し、超純水80 mLを添加して溶解させてオートクレーブした。60 ℃以下まで室温で冷却した後、クリーンベンチ内で50 mg/mLカナマイシンストック溶液80 μLを加えて混合した。滅菌済みシャーレに分注して室温で固化させた後、4 ℃で保存した。調製後1ヶ月以内に使用した。
(5) 50%グリセロール溶液
250 mL広口メディウム瓶にグリセロール50 mL、超純水50 mLを加えて混合した後、オートクレーブして室温で保存した。
(6) LB培地
500 mL広口メディウム瓶にLB-BROTH LENNOX 10 gを純水500 mLに溶解させ、オートクレーブして室温で保存した。
(7) MOPS-Na緩衝液(20 mM、pH 7.5)
3-モルホリノプロパンスルホン酸 (MOPS) 4.18 gを約600 mLの超純水に溶解させた。4 N水酸化ナトリウム水溶液によりpH 7.5に調整後、1 Lにメスアップした。PVDF製0.10 μmフィルターで濾過滅菌して4 ℃で保存した。
(8) 70%エタノール (バイオテクノロジーグレード)
エタノール (バイオテクノロジーグレード) 140 mL及び超純水60 mLを250 mL広口メディウム瓶に採取して混合した後、室温で保存した。
(9) 洗浄バッファー (20 mM MOPS、300 mM NaCl、10 mMイミダゾール、pH 7.5)
MOPS 2.09 g、塩化ナトリウム8.77 g、イミダゾール340 mgを約350 mLの超純水に溶解させた。4 N水酸化ナトリウム水溶液によりpH 7.5に調整後、500 mLにメスアップした。PVDF製0.10 μmフィルターで濾過滅菌して4 ℃で保存した。
(10) 溶出バッファー (20 mM MOPS、300 mM NaCl、250 mMイミダゾール、pH 7.5)
MOPS 2.09 g、塩化ナトリウム8.77 g、イミダゾール8.51 gを約350 mLの超純水に溶解させた。4 N水酸化ナトリウム水溶液によりpH 7.5に調整後、500 mLにメスアップした。PVDF製0.10 μmフィルターで濾過滅菌して4 ℃で保存した。
(11) 5% (w/v) アジ化ナトリウムストック溶液
アジ化ナトリウム500 mgをプラスチック製スパチュラにより秤量してMOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) を添加して全量が10 mLとなるよう溶解させて4 ℃で遮光保存した。
(12) 30%アクリルアミド/ビス混合溶液
アクリルアミドは劇物であるため、調製には細心の注意を払った。アクリルアミド29.2 g、N-N'-メチレンビスアクリルアミド0.8 gを約70 mLの超純水に撹拌しながら溶解させた。全量が100 mLになるようにメスアップして4 ℃で遮光保存した。
(13) Tris-HCl緩衝液 (1.5 M、pH 8.8)
トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris) 18.17 gを約80 mLの超純水に撹拌しながら溶解させた。6 N塩酸によりpH 8.8に調整後、全量が100 mLになるようにメスアップして4℃で保存した。
(14) Tris-HCl緩衝液 (0.5 M、pH 6.8)
Tris 6.06 gを約80 mLの超純水に撹拌しながら溶解させた。6 N塩酸によりpH 6.8に調整後、全量が100 mLになるようにメスアップして4 ℃で保存した。
(15) 10% SDS水溶液
ドデシル硫酸ナトリウム (SDS) 10 gを約90 mLの超純水に撹拌しながら溶解させた。全量が100 mLになるようにメスアップして室温で保存した。
(16) 10% APS水溶液
過硫酸アンモニウム (APS) 0.1 gを約1 mLの超純水に溶解させて4℃で保存した。
(17) 飽和1-ブタノール
1-ブタノールと超純水を2:1の割合で混合して室温で保存した。
(18) 5×泳動バッファー(125 mM Tris、960 mM グリシン、0.5% SDS)
Tris 15.1 g、グリシン72.1 g、SDS 5.0 gを全量が1 Lとなるように超純水に溶解させて4 ℃で保存した。使用の際は超純水で5倍に希釈した。一度使用した泳動バッファーは回収して再度使用し、使用回数は最大で2回とした。
(19) 5×Loadingバッファー (200 mM Tris、0.05%ブロモフェノールブルー、10%SDS、50%グリセロール)
Tris 2.42 g、SDS 10.0 g、ブロモフェノールブルー50 mgを50 mLのグリセロールと約40 mLの超純水を添加して溶解させた。6 N塩酸を用いてpH 6.8に調整後、100 mLにメスアップした。1.7 mLチューブに1 mLずつ分注して4 ℃で保存した。
(20) 1 M DTT溶液
ジチオトレイトール (DTT) 約150 mgを1 Mとなるように約1 mLの超純水を添加して溶解させ、-20 ℃で保存した。
(21) 固定液
酢酸50 mL、エタノール200 mLを混合した後、超純水で500 mLにメスアップして室温で保存した。
(22) 脱色液
酢酸40 mL、エタノール125 mLを混合した後、超純水で500 mLにメスアップして室温で保存した。
(23) 染色液
クマシーブリリアントブルー R-250 0.25 gを脱色液100 mLに加え、撹拌して溶解させて室温で遮光保存した。
【0070】
1−2−2.大腸菌の培養及びCDPの発現
(1) E. coli BL21-CDPグリセロールストックの調製
ガスバーナーで加熱滅菌し、放冷した白金耳を用いて、CDPの遺伝子を含むプラスミドをもつEscherichia coli BL21-Gold(DE3)株 (E. coli BL21-CDP) のグリセロールストックからLB-AGAR/カナマイシンプレートに植菌し、37 ℃で8-12 h培養した。加熱した白金耳を用いてシングルコロニーから、予め乾熱滅菌した試験管に加えた50 mg/mLカナマイシンストック溶液5 μLとLB培地5 mLの混合溶液に植菌した。OD
660が0.6-0.8に達するまで振盪培養機(BR-23FP、TAITEC)で37 ℃で振盪培養(往復、200 rpm)した。その後、培養液800 μLを1.7 mLチューブに採取し、50 %グリセロール溶液100 μLを添加して混合した。液体窒素で凍結して-80℃で保存した。
【0071】
(2) E. coli BL21-CDPマスタープレートの調製
ガスバーナーで加熱滅菌し、放冷した白金耳を用いて、E. coli BL21-CDPのグリセロールストックもしくは作製後1ヶ月以内のマスタープレートからLB-AGAR/カナマイシンプレートに植菌して37 ℃で8-12 h培養した。マスタープレートから植菌した場合はそのまま4 ℃で保存した。グリセロールストックから植菌した場合は、さらにLB-AGAR/カナマイシンプレートに植菌して37 ℃で8-12 h培養して4 ℃で保存した。
【0072】
(3) E. coli BL21-CDP前培養液の調製
乾熱滅菌した試験管にLB培地3 mLを採取して50 mg/mLカナマイシンストック溶液3 μLを加えた。加熱滅菌し、放冷した白金耳を用いて、E. coli BL21-CDPマスタープレートのシングルコロニーから植菌した。振盪培養機を用いて37℃で10-12 h振盪培養 (往復、200 rpm) した。
【0073】
(4) E. coli BL21-CDPの培養とCDPの発現
2本の1 Lバッフル付きフラスコにLB-BROTH LENNOX 6 gをそれぞれ秤量して純水300 mLを加えてオートクレーブして放冷した。50 mg/mLカナマイシンストック溶液300 μLをそれぞれに添加して混合した後、E. coli BL21-CDP前培養液300 μLを加えた。振盪培養機を用いて30 ℃で振盪培養 (回転、600 rpm) してOD
660が0.55-0.60に達したことを確認後、10 mM IPTGストック溶液3 mLをそれぞれ加えて25 ℃で20 h振盪培養 (回転、200 rpm) してCDPを発現させた。
【0074】
1−2−3.Hisタグ精製及び緩衝液置換
(1) E. coli BL21-CDPの破砕によるCDPの抽出
1−2−2項(2)で調製したCDPを発現させたE. coli BL21-CDP懸濁液を50 mLチューブ12本に約50 mLずつ均等に分注し、遠心機 (遠心機:EX-126、TOMY、ローター:3850-04P、TOMY) を用いて遠心 (3500 rpm、20 min、4 ℃) した。上清をデカンテーションにより除去し、沈澱したE. coli BL21-CDPペレットにMOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) を加えてそれぞれ約15 mLにメスアップし、手で激しく振盪して懸濁させた。E. coli BL21-CDP懸濁液を4本の100 mL自立式チューブに約45 mLずつ分注し、氷浴しながらプローブ式超音波照射器 (Sonifier 250、BRANSON) を用いて超音波照射してE. coli BL21-CDPを破砕した。超音波照射は、power: 200 W (ダイヤル10)、duty cycle: 30%の条件で2サイクル (5 s超音波照射と25 sインターバルの4回繰り返しを1サイクル) 行った。E. coli BL21-CDP破砕液にはCDPの他にプロテアーゼ等が含まれていることから、それらによるCDPの分解を防ぐために、以降はE. coli破砕液は常に氷浴した。4本の100 mLチューブ中のE. coli BL21-CDP破砕液をそれぞれ50 mLチューブに移して遠心 (3500 rpm、>20 min、4℃)した。沈澱したE. coliペレットが舞わないよう注意を払いながら、デカンテーションにより上清を50 mLチューブに回収した。
【0075】
(2) Ni-NTAアフィニティーカラムによるCDPの精製
コンタミネーションを避けるため、以後の精製操作で用いるマイクロピペットのチップ及び1.7 mLチューブはオートクレーブ後乾燥して用いた。
【0076】
予め70%エタノールで滅菌し、超純水で置換した直径1.8 cm、長さ10 cmのプラスチック製カラムに、Ni-NTAアガロースゲル (GE Healthcare) 分散液9.8 mLを充填した。カラム内を1−2−1項(8)で調製した70%エタノールで満たして流すことでNI-NTAアガロースゲルを殺菌・洗浄した。この操作を2回繰り返した。MOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) 3 mLをアプライして流し、さらに3 mLアプライした。スパチュラで撹拌もしくはマイクロピペットでピペッティングしてNi-NTAアガロースゲルを再分散させて気泡を取り除いた。その後、MOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) 5 mLで4回置換した。
【0077】
E. coli BL21-CDP破砕液の上清をカラムにアプライし、カラムより流出した溶液を回収してフロースルー溶液とした。洗浄バッファー3-5 mLをアプライして置換し、さらに3-5 mLアプライした。ピペッティングによりNi-NTAアガロースゲルを再分散させてゲル層の表面を均一にした後アプライした洗浄バッファーを流した。さらに洗浄バッファー5 mLをアプライして置換する操作を繰り返し、合計で30 mL以上をアプライした。洗浄バッファーをアプライした際に通過した溶液は全て回収し、洗浄液とした。その後、溶出バッファー3-5 mLをアプライし、1.7 mLチューブに1 mLずつフラクションに分けて回収し、溶出液とした。この操作を繰り返し、合計で溶出バッファー25 mLをアプライした。それぞれのフラクションの吸光度を微量紫外可視分光光度計(NanoDrop 2000c、Thermo Scientific) で測定し、280 nmの吸光度を指標にタンパク質の溶出を確認した。この際、バックグラウンド測定には超純水を用いた。タンパク質の溶出が完了していない場合は、280 nmの吸収が無くなるまでカラムに溶出バッファーをアプライした。回収した溶出液のうち、吸光度が高いフラクションを回収し、CDP溶液とした。
【0078】
(3) CDP溶液の緩衝液置換
CDP溶液の緩衝液置換はPD10カラム (Sephadex G-25、GE Healthcare) を用いて、付属の説明書に従って行った。CDP溶液の容量に応じて、必要な数のPD10カラムを用いた。付属のアダプターを用いてPD10カラムを50 mLチューブに固定した。70%エタノール (バイオテクノロジーグレード) で満たし、遠心機 (MX-305、TOMY) を用いて遠心(1000 g、2 min、4℃) した。この操作を2回繰り返すことでカラムを殺菌及び洗浄した。5% (w/v) アジ化ナトリウムストック溶液をMOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) で250倍希釈して調製した0.02%アジ化ナトリウム/20 mM MOPS-Na緩衝液で満たし、静置して溶液を流す操作を4回繰り返すことでPD10カラムを緩衝液で置換した。さらに0.02%アジ化ナトリウム/20 mM MOPS-Na緩衝液を加え、遠心した。
【0079】
PD10カラムを新たな50 mLチューブに移し、遠心によるSephadexの斜面を崩さないようにCDP溶液をPD10カラム1本につき1.75-2.5 mLアプライした。前述の遠心時と同じ角度で遠心機に固定し、遠心した。溶出した溶液を回収してCDPストック溶液とし、CDPストック溶液の280 nmの吸光度をNanoDrop 2000cにより測定し、1.7 mLチューブに1 mLずつ分注して4℃で保存した。なおCDPストック溶液を使用する際は、必要量を適宜クリーンベンチ内で分注した。
【0080】
カラム1本につき30 mLのMOPS-Na緩衝液 (20 mM、pH 7.5) を加えて静置してカラムを洗浄した。次いで超純水で満たし、遠心する操作を2回繰り返した。同様に50%エタノール水溶液で2回洗浄した。PD-10カラムを50%エタノール水溶液で満たして4℃で保存した。
【0081】
1−2−4.ポリアクリルアミドゲル電気泳動法 (SDS-PAGE) によるCDPの精製の確認
(1) 10%アクリルアミドゲルの調製
50 mLチューブに30%アクリルアミド/ビス混合溶液3.33 mL、Tris-HCl緩衝液 (1.5 M、pH 8.8) 2.5 mL、超純水4.01 mLを加え、超音波照射しながらアスピレーターで吸引して脱気した。10% SDS水溶液100 μL、10% APS水溶液50 μL、TEMED 10 μLを加え、泡立たないようピペッティングして混合した。混合した溶液3.5 mLを2枚のガラスプレートの間隙 (0.75 mm) に加え、飽和1-ブタノール900 μLを静かに重層し、室温で1 h静置して重合した。マイクロピペットを用いて飽和1-ブタノールを除去し、次いで超純水で洗浄し、分離ゲルとした。
【0082】
50 mLチューブに30%アクリルアミド/ビス混合溶液0.44 mL、Tris-HCl緩衝液(0.5 M、pH 6.8) 0.44 mL、超純水2.03 mLを加え、超音波照射しながらアスピレーターで吸引して脱気した。10% SDS水溶液33 μL、10% APS水溶液16.7 μL、TEMED 1.65 μLを加え、泡立たないようピペッティングして混合した。溶液を分離ゲルの上に十分に加え、10ウェルのコームを空気が入らないように注意しながらセットし、室温で1 h静置して重合した。生成したゲルはガラスプレートごと十分に湿らせたキムワイプで挟み、さらにラップで包み4℃で保存した。ゲルは調製後1ヶ月以内に使用した。
【0083】
(2) 電気泳動による評価
1.7 mLチューブにProtein Molecular Weight Marker (Broad) 5 μL、1 M DTT溶液2 μL、5×Loading バッファー 20 μL、滅菌精製水173 μLを加えて混合し、これをマーカーとし、-20℃で保存した。CDPストック溶液及びCDPの精製において回収したフロースルー液、洗浄液それぞれ1 μLを5×Loadingバッファー2 μL、1 M DTT 1 μL、超純水6 μLと混合した。これらと室温で解凍したマーカー10 μLを105 ℃で熱処理し、卓上小型遠心機(R5-AQBD02、Recenttec) によりスピンダウンした。本項(1)で調製したポリアクリルアミドゲルを電気泳動用容器 (ミニプロティアン Tetraセル、BIO RAD) にセットし、超純水で5倍希釈した5×泳動バッファーを500 mL注ぎ、コームを外した。1ウェルずつに電気泳動サンプルをロードし、電気泳動装置 (ミニプロティアンTetraシステム、BIO RAD) を用いて電圧150 Vで約40 min泳動した。バンドがゲルの下端より約1 cm上に達したところで泳動を止め、ゲルをガラスプレートから取り出して固定液に浸漬させ、遮光してシェイカー (Wave-PR、TAITECH) で30 min振盪した。固定液を除去し、染色液を加えてゲルを浸漬させ、遮光して60 min振盪した。染色液を回収し、脱色液を加えてゲルを浸漬させ、遮光して30 min振盪した。脱色液を除去して新たに脱色液を加えて振盪する操作を、マーカーに含まれるタンパク質のバンドが明確に見えるまで繰り返した。超純水でゲルを洗浄し、Gel Doc EZ Imager (BIO RAD) により撮影して付属のソフトウェアで解析した。
【0084】
1−2−5.CDPの酵素活性測定
CDPの活性は以下のように測定した。αG1P 50mMとD-(+)-セロビオース50 mM、及び所定倍率希釈されたCDPを含む3-モルホリノプロパンスルホン酸緩衝液 (50 mM、pH7.5)を37 ℃でインキュベーションした。CDPにより生成されるリン酸を定量し、1分間あたり1 μmolのリン酸を遊離する酵素量を1Uと定義した際のU/mLを求め、酵素活性とした。CDPの希釈率は、反応時間が100分の際におけるαG1Pの転化率が10%以下になるように決定した。
【0085】
1−3.OEG-bearing β-D-グルコース (Glc-EG
n; n = 2, 4, 6, 8) プライマーの合成
Glc-EG
nプライマーは、B. Raoら, Chem. Commun., 2013年, 49, 10808-10810に記載の方法を参考にして合成した。
【0086】
以下の全ての反応は、p-アニスアルデヒドTLC呈色試薬、又は
1H NMR測定 (JEOL Model-ECP 400 (JEOL、磁場強度:400 MHz)) により反応の進行を確認しながら進めた。p-アニスアルデヒドTLC呈色試薬は、p-アニスアルデヒド13 mL、酢酸 5 mL、エタノール 478 mLを氷冷しながら混合し、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら濃硫酸 18 mLを滴下し、使用するまで4 ℃で保存した。
【0087】
1−3−1.O-テトラアセチルGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) の合成
O-ペンタアセチル-β-D-グルコシド(1.0等量) とオリゴエチレングリコールモノメチルエーテル(1.2等量) を乾燥ジクロロメタンに溶解させた。脱水剤として350 ℃のヒーターで予め活性化させた粉状モレキュラーシーブ4Aを加え、アルゴン雰囲気下にてマグネチックスターラーを用いて室温で1 h撹拌した。氷冷した反応溶液に三ふっ化ホウ素ジエチルエーテル (5.0等量) を滴下し、反応溶液を室温に戻して一晩撹拌し、O-グリコシル化反応させた。原料であるO-ペンタアセチル-β-D-グルコシドの消失をp-アニスアルデヒド呈色試薬を用いてTLCにより確認した後、氷冷した飽和炭酸水素ナトリウム水溶液/酢酸エチル (50% (v/v)) に反応溶液を滴下し、反応を停止させた。反応溶液を分液漏斗に移し、激しく振盪した後、溶液が二層に分離するまで静置し、上層の油層を回収した。下層の水層を新たな分液漏斗に移し、酢酸エチルによって抽出し、油層を回収する操作を2回繰り返した。回収した油層を再度分液漏斗に移し、飽和食塩水を加え、激しく振盪し、油層に溶解した水を除去した。水層を流去し、乾燥剤として無水硫酸マグネシウムを油層に加えた。ガラスフィルターを用いて硫酸マグネシウムを除去し、ロータリーエバポレーターにより有機溶媒を留去した。展開溶媒をアセトン/ヘキサン(20-50% (v/v))とし、得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにアプライし、35-60%の収率でオイル状のO-テトラアセチル Glc-EG
nを得た。
【0088】
1−3−2.Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) の合成
O-テトラアセチル Glc-EG
n (1.0等量) をメタノールに溶解させ、反応溶液を氷冷し、触媒量のナトリウムメトキシド (0.1等量) を添加した。反応溶液を室温に戻して5-8 hマグネチックスターラーを用いて撹拌した後、Dowex陽イオン交換樹脂を加え、反応を停止させた。セライトを載せた濾紙を用いて反応溶液を濾過し、ロータリーエバポレーターにより有機溶媒を留去した。室温で1 d真空乾燥し、90-95%の収率でオイル状のGlc-EG
nを得た。Glc-EG
nを超純水に溶解させてGlc-EG
nストック溶液とし、PVDF製 0.22 μmフィルターで濾過滅菌し、更なる精製操作なしでCDPによる酵素合成反応に用いた。Glc-EG
nストック溶液の濃度は、メチル-β-D-グルコシド水溶液 (500 mM) を基準溶液として、
1H NMR測定により算出した。Glc-EG
nストック溶液およびメチル-β-D-グルコシド水溶液からそれぞれ50 μLずつ分取した混合溶液を凍結乾燥し、重水500 μLに溶解させて
1H NMR測定し、それぞれのアノマー位の水素の積分比 (Glc-EG
n: δ = 4.51, メチル-β-D-グルコシド: δ = 4.39) からGlc-EG
nストック溶液の濃度を算出した。
【0089】
1−4.OEG化セルロースオリゴマーからなる三次元構造体の酵素合成
1−4−1.CDPによるOEG化セルロースの酵素合成
2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸(HEPES) 23.8 gを約60 mLの超純水に溶解させた。4 N 水酸化ナトリウム水溶液によりpH 7.5に調整後、100 mLにメスアップしてPVDF製0.22 μmフィルターで濾過滅菌した。これをHEPES緩衝液 (1 M、pH 7.5) とし、4℃で保存した。
αG1P二ナトリウム n水和物を所定量秤量し、1 Mとなるよう超純水に溶解させた。
【0090】
HEPES緩衝液、1 M αG1P水溶液、1−3−2項で合成した所濃度のGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) ストック溶液を反応時の濃度がそれぞれ500 mM、200 mM、50 mMとなるよう4 mLチューブに加え、使用するCDPストック溶液の量を考慮し、超純水でメスアップした。超音波照射しながらアスピレーターで吸引して脱気した。終濃度が0.2 U/mLになるようCDPストック溶液を適量加え、気泡が発生しないようピペッティングにより混合した。1.7 mLチューブあるいは1 mLマイティーバイアルあるいは24穴プレートに所定量分取し、60 ℃で3 dインキュベーションした。
【0091】
1−4−2.酵素合成されたOEG化セルロースの精製
1−4−1項において調製された生成物を各種分析に用いるために超純水で精製した。走査型電子顕微鏡観察に用いる場合は、生成物を超純水に浸漬させ、4 ℃で1 w精製した。その他の測定に用いる場合は、超純水を加えてピペッティングによる水流により生成物を機械的に破壊して分散させ、遠心 (15000 rpm、>10 min、4℃) し、上清を除去した。超純水を加えて沈澱物を再分散させ、遠心する操作を5回以上繰り返し、溶液の置換率が99.999%以上となるまで精製した。精製した分散液を100℃のヒートブロックにより10 min加熱することで、残存するCDPを失活させた。
【0092】
生成物の収量は、精製後の水分散液を絶乾し、乾燥前後の重量変化から算出した。予め105℃で24 h乾燥させ、デシケーター内で放冷したサンプル管を秤量し、精製後の水分散液を加えて105℃で24 h乾燥させ、その後デシケーター内で放冷して秤量した。乾燥前後の重量の差から生成物の濃度を算出した。この操作は同時に3回行い、それらの平均値より生成物の収量を算出した。
【0093】
プロトン核磁気共鳴 (
1H NMR) 法、全反射型赤外分光 (ATR/ FTIR) 法、広角X線回折 (WAXD) 法による測定に用いる場合は、精製後の水分散液を1.7 mLチューブに分注し、24 h凍結乾燥した。マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析 (MALDI-TOF-MS) 法による測定、原子間力顕微鏡 (AFM) 観察に用いる場合は凍結乾燥することなく、精製後の分散液を超純水により希釈して用いた。
【0094】
1−5.生成されたOEG化セルロースの特性評価
1−5−1.生成物の反転倒立試験
1 mLマイティーバイアルを用いて調製したサンプルを用いて、反転倒立試験によりスポンジ化を評価した。バイアルを上下反転して静置し、生成物が流動しなかった場合にスポンジ状セルロース構造体が形成したと判断した。
【0095】
1−5−2.生成物の化学構造及び結晶構造の評価
(1) 生成物の収量測定
1−4−1項で示した手法で、絶乾により収量を算出した。
【0096】
(2) 生成物の
1H NMRスペクトル測定
40%重水酸化ナトリウム重水溶液50 μL及び重水450 μLを混合して4%重水酸化ナトリウム重水溶液を調製した。凍結乾燥した生成物15 mg以上を4%重水酸化ナトリウム重水溶液500 μLに溶解させた。溶液をNMRチューブに移し、JEOL Model-ECP 400 (JEOL、磁場強度:400 MHz)により測定した。積算回数は128回とした。水のケミカルシフトをリファレンス(4.79 ppm)として校正した。
【0097】
(3) 生成物のMALDI-TOF-MS測定
質量電荷比の校正に用いる標準サンプルはBradykin fragment 1-7水溶液 (10 nmol/mL Bradykinin fragment 1-7、0.05%トリフルオロ酢酸(TFA)、50%アセトニトリル)、P
14R水溶液 (10 nmol/mL P
14R、0.1% TFA)、ACTH fragment 18-39水溶液 (10 nmol/mL ACTH fragment 18-39、0.1% TFA) それぞれ5 μL、10 mg/mL DHBA水溶液 5 μL、1.0% TFA水溶液 1 μL、アセトニトリル 4 μLを1.7 mLチューブ中で混合して調製した。
【0098】
生成物の測定サンプルは、0.05% (w/v)とした生成物の水分散液 1 μL、10 mg/mL DHBA水溶液 1 μL、トリフルオロ酢酸/アセトニトリル溶液 (0.2% (v/v)) 3 μLをKOH/メタノール (3.3% (w/v)) により洗浄したマイティーバイアル中で混合して調製した。
【0099】
標準サンプル及び生成物の測定サンプルそれぞれ1 μLをサンプルプレートにマウントし、風乾させる操作を5回繰り返した。1 h以上真空乾燥し、MALDI-TOF-MS(AXIMA-performance、島津製作所)で測定した。測定条件はMode: Liner (positive)、Mass Range: 1.0-3000.0、Max Leaser Rap Rate: 10、power: 100 - 115、profiles: 100、shots: 2、Ion Gate (Da) : Blank 500、Pulsed Extraction optimized at (Da) : 1500.0とした。
【0100】
測定により得られたMSスペクトルは、Smoothing method: Gaussian, Smoothing filter width: 19, Baseline filter width: 1000の条件で処理した。
平均重合度は、生成物のナトリウムイオン、又はカリウムイオン付加体のピーク強度が強い方のピーク面積を用いて算出した。
【0101】
(4) 生成物のATR/FTIRスペクトル測定
凍結乾燥した生成物を全反射赤外分光光度計 (FT/IR-4100typeA、日本分光) のステージのダイヤモンドセルにスパチュラを用いて乗せ、押しこみユニットを下げてサンプルをダイヤモンドセルに押し付けて測定した。測定条件は、測定波長:350-7800 cm
-1、分解能:2 cm
-1、積算回数:100とした。
【0102】
(5) 生成物のWAXD測定
凍結乾燥した生成物をシリコン無反射試料板の凹部にマウントし、表面を均して卓上粉末X線回折計 (MiniFlex 600、リガク) に設置して測定した。測定条件は、検出器:D/teX Ultra、X線出力:40 kV及び15 mA、フィルター:Kβ、スキャンスピード:2.0000 deg/min、ステップ幅:0.0200 deg、スキャン軸:2 θ/θ、スキャン範囲:5.0000-70.0000 deg、入射スリット:1.250 degとした。
【0103】
1−5−3.生成物の顕微鏡観察
(1) 生成物のSEM観察
超純水に浸漬させて精製した生成物の一部を薬さじを用いて採取し、24穴プレート中で10%エタノール水溶液2 mLに浸漬させ、15 min静置した。その後、溶液を除去し、20%エタノール水溶液を加えて15 min静置した。同様に30、40、50、60、70、80、90、99.5%エタノール水溶液の順に浸漬させた。次いで溶液を除去し、99.5%エタノール水溶液を加えて15 min静置した。溶液を除去し、99% エタノール/tert-ブチルアルコール (50% (v/v)) 溶液に15 min浸漬させた。溶液を除去して99% tert-ブチルアルコールに15 min浸漬させ、溶液を除去する操作を2回繰り返した。
【0104】
溶媒が99% tert-ブチルアルコールに置換された生成物をパラフィルムで作製したカプセルに移し、99% tert-ブチルアルコールで満たしてカプセルの封をした。tert-ブチルアルコールの結晶が成長しないように速やかに液体窒素にカプセルごと沈めて10 min以上凍結した。液体窒素中でカプセルごと生成物をカミソリにより割断した。液体窒素中から生成物を取り出し、速やかに凍結乾燥した。
【0105】
SEMのステージ (直径26 mm) 上に小さく切ったカーボンテープを貼り、その上に凍結乾燥した生成物を割断面が上になるようにマウントし、側面にドータイトを塗布することでステージに固定した。3 h以上真空乾燥し、デシケーター内で8 h以上乾燥した。オスミウムコータ (Neoc-Pro、メイワフォーシス) を用いて、SEMのステージにマウントしたサンプルを10 mAで30 sコーティングし、走査型電子顕微鏡 (JSM-7500F、日本電子) により観察した。観察条件は、加速電圧は5 kV、エミッション電流:10 μA、照射電流:No.8、カラムモード:通常、r-フィルタ:SB[0] 、ワーキングディスタンス:8 mm前後とした。
【0106】
(2) 生成物のAFM観察
生成物の濃度が0.001% (w/v)となるよう希釈し、セロハンテープで表面を5回剥がしたマイカ基板に15 μLマウントして600 rpmで30 minスピンコートした。デシケーター内で12 h以上乾燥し、走査型プローブ顕微鏡 (SPM-9600、島津製作所) を用いてAFMにより観察した。測定条件はタッピングモード、操作速度:0.5-1 Hz、画素数:512×512、Zレンジ:×1、操作モード:力一定とした。それぞれの試料から10個の構造体を観察し、観察された構造体ひとつにつき9点の高さを算出し、それら全てを平均して構造体の高さを算出した。
【0107】
2.結果及び考察
2−1.OEG化セルロースの酵素合成
2−1−1.酵素合成した生成物の反転倒立試験
異なる鎖長のEG基をもつGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) をCDPによる酵素合成系に適応した。モノマーとしてαG1P、プライマーとしてGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) を用い、CDPを混合して60 ℃で3 dインキュベーションした結果、いずれのプライマーを用いた場合も反応後の溶液全体が白濁し、新たに適応したプライマーがCDPにより認識されることでセルロース誘導体が酵素合成されることが示唆された。さらに、いずれのプライマーを用いた場合も容器を反転させても溶液が流れ落ちず、スポンジ状セルロース構造体が形成することが明らかになった (
図1)。
【0108】
2−1−2.酵素合成されたセルロース誘導体の化学構造の評価
(1)
1H NMRスペクトル
セルロースは重合度15以下の低分子量であれば水酸化ナトリウム水溶液に溶解するため、重水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させることで
1H NMR測定できることが知られている (A. Isogai, Cellulose, 1997年, 4, 99-107)。Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成した生成物をピペッティングによる水流で機械的に破壊して遠心-再分散により精製した後、凍結乾燥したサンプルを
1H NMR測定することで、生成物の化学構造を解析した。その結果、全てのピークは既報のセルロースオリゴマー (M. Hiraishiら, Carbohydr. Res., 2009年, 344, 2468-2473、L. A. Fluggeら, J. Am. Chem. Soc., 1999年, 121, 7228-7238、H. Sugiyamaら, J. Mol. Struct., 2000年, 556, 173-177、B. Xiongら, Cellulose, 2013年, 20, 613-621、M. U. Roslundら, Carbohydr. Res., 2008年, 343, 101-112) と導入されたOEG鎖 (δ 〜3.5) に帰属でき、OEG化セルロースオリゴマーが酵素合成されていることが明らかになった (
図2)。次いでOEG化セルロースオリゴマーの分子内に位置するアノマー位(δ = 4.3)、およびOEG鎖が結合したセルロース分子鎖末端に位置するアノマー位 (δ = 4.2) の水素の積分値を次式に適用して、平均重合度を算出した。
【0109】
【数1】
【0110】
その結果、プライマーとしてGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) を用いた場合、平均重合度はそれぞれ9、10、10、11と算出され、同条件でD-グルコースをプライマーとして酵素合成した場合のセルロースオリゴマーの平均重合度 (Average DP 〜10) とよく一致した (T. Serizawaら, Polym. J., 2016年, 48, 539-544)。より長鎖のEG基をもつGlc-EG
nをプライマーとして用いた場合、セルロース誘導体の平均重合度がわずかながら増大することが明らかとなった。これは、セルロース分子鎖に導入されたEG基がより長鎖である程、合成されたセルロース誘導体の溶解性が増大するため、又はEG基の立体障害の寄与が大きくなることでセルロース誘導体の結晶化もしくは沈殿が抑制されるため、セルロース誘導体がより高重合度まで伸長したと推察される。
【0111】
(2) MALDI-TOF-MSスペクトル
Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成した生成物をピペッティングによる水流で機械的に破壊して遠心-再分散により精製した後、凍結乾燥したサンプルをMALDI-TOF-MSにより測定した。得られたMSスペクトルは、いずれもm/zの間隔がグルコシルユニット (162 Da) に対応する複数のピークを示し、さらに検出されたピークは重合度が 6-12 量体のOEG化セルロースオリゴマーのナトリウム又はカリウムイオン付加体にそれぞれ一致した (
図3)。従って、MALDI-TOF-MS測定からもOEG化セルロースオリゴマーが正しく酵素合成されていることが明らかになった。さらに、合成されたOEG化セルロースオリゴマーは、D-グルコースをプライマーとして酵素合成した場合と同様に、分子量分布をもつことが明らかになった。MSスペクトルのピークの積分比から平均重合度を算出した結果、プライマーとしてGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) を用いた場合、それぞれ7.8、8.0、8.2、8.4と算出され、
1H NMRから算出した平均重合度と比較して、1-3程度低い値を示した。MALDI-TOF-MS測定ではイオン化された分子のみが検出されるため、測定した条件では高重合度のOEG化セルロースオリゴマーが十分にイオン化していないことが示唆された。本発明者は酵素合成により調製されるセルロースオリゴマーの平均重合度の算出にはこれまで
1H NMR測定を用いてきたことから、本実施例でも
1H NMR測定により算出した平均重合度を用いることとした。
【0112】
(3) αG1Pの転化率
絶乾により算出した生成物の収量と
1H NMR測定から算出した平均重合度を用いて、モノマーであるαG1Pの転化率を算出した。プライマーとしてGlc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) を用いた場合、αG1Pの転化率はそれぞれ60, 30, 40, 40%と算出された。Glc-EG
2をプライマーとした場合、同条件でD-グルコースをプライマーとした場合のαG1Pの転化率 (約35%) よりも明らかに高く (T. Serizawaら, Polym. J., 2016年, 48, 539-544)、Glc-EG
n (n = 4, 6, 8) をプライマーとした場合はD-グルコースをプライマーとした場合と同程度であった。従って、プライマーに導入されたEG基の鎖長はCDPによる酵素合成反応に影響を与え、Glc-EG
2はその他のプライマーよりもCDPにより認識されやすいことが示唆された。
【0113】
2−1−3.OEG化セルロースの結晶構造
(1) ATR/FTIRスペクトル
セルロースは複数の結晶形を形成し得ることが知られているため、ATR/FTIR測定により、生成されたOEG化セルロースオリゴマーが形成する結晶構造を解析した。Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成した生成物をピペッティングによる水流で機械的に破壊して遠心-再分散により精製した後、凍結乾燥したサンプルをATR/FTIR測定した結果、いずれもセルロースのII型結晶に特徴的なOH伸縮振動に由来する2本の鋭いピーク (Q. Wuら, Carbohydr. Polym., 2015年, 133, 438-447) を3441ならびに3490 cm
-1付近に示したことから、酵素合成されたOEG化セルロースオリゴマーはセルロースII型結晶形を形成することが明らかとなった (
図4)。これは、D-グルコースをプライマーとして酵素合成した場合にセルロースオリゴマーが形成する結晶形と同様であり、セルロース分子鎖に導入されたOEG鎖は形成する結晶形に影響を与えないことがわかった。さらに、850 cm
-1付近に無秩序なコンフォメーションをもつOEG鎖の振動モードに由来するブロードなピーク (W. Parakら, Carbohydr. Chem.Mater., 2005年, 17, 4949-4957) を示したことから、OEG鎖はアモルファスであることが示唆された。
【0114】
(2) WAXDチャート
Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成した生成物をピペッティングによる水流で機械的に破壊して遠心-再分散により精製した後、凍結乾燥したサンプルをWAXD測定した結果、2θ = 12.3、19.9、 22.1°において鋭い回折ピークを示した (
図5)。これらの回折ピークは、それぞれセルロースII型結晶の1-10、110、020面 (M. Hiraishiら, Carbohydr. Res., 2009年, 344, 2468-2473) に帰属された。WAXD測定からもD-グルコースをプライマーとして酵素合成した場合にセルロースオリゴマーが形成する結晶形と同様に、セルロースII型の結晶形を形成することが支持された。さらに、2θ = 19.1、23.3°に結晶性のOEG鎖に由来する2本の回折ピーク (S. Kugaら, Langmuir, 2001年, 17, 21-27) を示さなかったことから、OEG鎖がアモルファスであることが支持された。OEG化セルロースオリゴマーが逆並行に配列することでセルロースII型結晶を形成することを考慮すると、ナノセルロース上のOEG鎖の密度はOEG鎖一分子あたり、約65 A
2であると概算される。螺旋状のコンフォメーションをもつ結晶性のPEG鎖の断面積はPEG鎖一分子あたり21.3 A
2であることが知られており (P. Labinisら, J. Phys. Chem. B, 1998年 102, 426-436)、概算されたOEG鎖の密度 (約65 A
2/OEG chain) は隣接したOEG鎖が密にパッキングして結晶性のコンフォメーションを形成するために十分ではないと推察される。従って、形成する結晶構造からもOEG鎖はアモルファスであることが示唆された。
【0115】
2−1−4.セルロースのネットワーク構造
(1) SEM像
Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成したセルロース構造体を超純水で1 w精製し、溶媒を超純水から徐々にtert-ブチルアルコールに置換し、凍結乾燥した生成物をSEMにより観察した。その結果、スポンジ状セルロース構造体は、長さが最大で数μmにも渡ってよく発達したリボン状の構造体 (ナノリボン) から構成されることが明らかとなった (
図6)。観察されたナノリボン状のナノセルロースの形態は、D-グルコースをプライマーとした場合のプレート状の形態 (M. Hiraishiら, Carbohydr. Res., 2009年, 344, 2468-2473) とは大きく異なっていた。これは、導入されたOEG鎖が形成するコロイド状のナノセルロース前駆体を水中で分散安定化させることで、ナノセルロース前駆体がナノリボンへと3次元的に結晶成長し、スポンジ状セルロース構造体の形成に至ったと推察される。更に、EG基の鎖長の増大に伴い、構成するナノリボンの幅が減少する傾向を示した。SEM像からは枝分かれ構造が観察されず、ナノリボン状のナノセルロースが物理架橋することでスポンジ状セルロース構造体を形成していることが示唆された。
【0116】
(2) AFM像
SEMによって観察されたスポンジ状セルロース構造体の構成要素であるナノリボンの形態を詳細に解析するために、Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) プライマーを用いて酵素合成したセルロース構造体をピペッティングにより機械的に破壊して遠心-再分散により精製した後、スピンキャストしてAFM観察した。その結果、いずれのサンプルもマイカ基板上でよく分散した短いリボン状の構造体が観察された (
図7a-d)。観察されたナノリボンの厚さは、Glc-EG
n (n = 2, 4, 6, 8) をプライマーとして用いた場合、それぞれ5.3 ± 0.3, 5.8 ± 0.4, 6.0 ± 0.3, and 6.1 ± 0.4 nmと算出された。厚さはEG基の鎖長の増大に伴い、わずかに上昇し、いずれも合成されたセルロース分子鎖の平均重合度を基に算出した分子鎖長よりもわずかながら大きな値であった (e.g. セルロースII型結晶を形成したセロデカオースの末端構造を除いた分子鎖長は5.2 nmと算出される (M. Hiraishiら, Carbohydr. Res., 2009年, 344, 2468-2473))。これは、ナノリボン表層にOEG鎖が存在していることを示唆しており、酵素合成されたセルロース誘導体はOEG鎖を表層に露出しながら、ナノリボンの底面に対して垂直に配列していることが推察された。ナノリボンの幅はGlc-EG
2、Glc-EG
4をプライマーとして用いた場合は数百nm、Glc-EG
6をプライマーとした場合は100-200 nm、Glc-EG
8をプライマーとした場合は100 nm以下であり、EG基の鎖長の増大に伴って減少する傾向を示し (
図7e-h)、2−1−4項(1)のSEMにおける観察結果とよく一致した。更に、Glc-EG
6、Glc-EG
8をプライマーとして用いた場合、フレキシブルに屈曲したナノリボンが観察されており、Glc-EG
2、Glc-EG
4をプライマーとした場合と明らかに異なっていた。Glc-EG
n (n = 4, 6, 8) をプライマーとした場合、2−1−2項(3)で示したαG1Pのコンバージョンは30〜40%であり、OEG化セルロースオリゴマーの生成量はそれぞれほぼ同程度である。従って、形成するナノリボンの形態の変化は、酵素合成されるOEG化セルロースオリゴマーの生成量ではなく、導入されたOEG鎖がセルロース誘導体の集合化に影響を与えていることに由来することが示唆された。