(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-221311(P2017-221311A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】水処理装置
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20171124BHJP
A61M 1/28 20060101ALI20171124BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20171124BHJP
B01D 61/12 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
A61M1/16 161
A61M1/28 100
C02F1/44 A
B01D61/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-117787(P2016-117787)
(22)【出願日】2016年6月14日
(71)【出願人】
【識別番号】593061891
【氏名又は名称】日本ウォーターシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100107537
【弁理士】
【氏名又は名称】磯貝 克臣
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 博
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077EE03
4C077HH02
4C077HH12
4C077HH20
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4D006KE16R
4D006KE30Q
4D006PA01
4D006PB06
4D006PC44
(57)【要約】
【課題】ROモジュールの回収率について効率が改善された水処理装置を提供すること。
【解決手段】本発明は、原水のシリカ濃度を測定するシリカ濃度センサと、前記原水を前処理する前処理ユニットと、前記前処理ユニットによって前処理された原水に対して逆浸透膜を用いて当該原水をRO水とRO排水とに分離するROモジュールと、前記RO排水のPHを測定するPHセンサと、前記シリカ濃度センサによって測定されたシリカ濃度、及び、前記PHセンサによって測定されたPHに基づいて、前記ROモジュールの回収率を制御するようになっている制御部と、を備えたことを特徴とする水処理装置である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水のシリカ濃度を測定するシリカ濃度センサと、
前記原水を前処理する前処理ユニットと、
前記前処理ユニットによって前処理された原水に対して逆浸透膜を用いて当該原水をRO水とRO排水とに分離するROモジュールと、
前記RO排水のPHを測定するPHセンサと、
前記シリカ濃度センサによって測定されたシリカ濃度、及び、前記PHセンサによって測定されたPHに基づいて、前記ROモジュールの回収率を制御するようになっている制御部と、
を備えたことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記回収率をQ2/Q1、前記シリカ濃度をSD、前記PHに対応するシリカの析出限界濃度をSL、とした時、Q2/Q1<1−SD/SLとなるように前記回収率を制御するようになっている
ことを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
前記シリカの析出限界濃度SLは、前記PHセンサによって測定されたPHに依存して異なる値が採用されるようになっている
ことを特徴とする請求項2に記載の水処理装置。
【請求項4】
前記PHが6.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、前記PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を6〜10%増大させた値が用いられ、
前記PHが8.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、前記PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を12〜20%増大させた値が用いられる
ことを特徴とする請求項3に記載の水処理装置。
【請求項5】
前記前処理ユニットによって前処理された原水を前記ROモジュールに供給するROポンプと、
前記ROモジュールから延び、前記RO排水を排出するための排出路と、
前記排出路から分岐されて前記ROポンプの上流側に合流し、前記RO排水の一部を循環水として前記前処理ユニットによって前処理された原水に合流させることが可能な循環路と、
前記循環路の途中に設けられた循環水量調整バルブと、
前記排出路の途中であって、前記循環路の分岐部よりも下流側に設けられた排水量調整バルブと、
を更に備え、
前記制御部は、前記ROポンプ、前記循環水量調整バルブ、及び、排水量調整バルブを制御することによって、前記ROモジュールの回収率を制御するようになっている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項6】
前記RO排水の温度を測定する温度センサが更に設けられ、
前記シリカの析出限界濃度SLは、前記温度センサによって測定された温度にも依存して異なる値が採用されるようになっている
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の水処理装置。
【請求項7】
原水が貯留されると共に、当該原水を加温する加温ヒータが設けられた原水タンク
を更に備え、
前記加温ヒータは、原水を20℃以上に加温するようになっている
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析治療に用いられる人工透析用水等を製造するための水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の人工透析用水製造装置について、
図8を用いて説明する。
図8に示すように、人工透析用水は、典型的には水道水や井戸水である原水から製造される。
【0003】
原水は、まず、原水タンク51に貯留される。原水タンク51の内部には、加温用ヒータ51hが設けられていて、原水の温度を25℃にまで加温する。原水の温度が25℃よりも低いままでは、後続の装置内において、原水中のシリカ成分等が析出して不具合を発生させるおそれがあるからである。
【0004】
25℃に加温された原水は、次に、原水ポンプ52によって前処理ユニット53に送られる。前処理ユニット53は、プレフィルタ53aと、軟水装置53bと、カーボンフィルタ53cと、を当該順序で有している。プレフィルタ53aは、主として原水中の不純物(ゴミ)を濾過し、軟水装置53bは、主として原水中のカルシウムイオン(Ca
2+ )及びマグネシウムイオン(Mg
2+ )を除去し、カーボンフィルタ53cは、主として原水中の塩素イオン(Cl
- )を除去する。
【0005】
前処理ユニット53での前処理が終わった原水は、ROユニット54(逆浸透膜処理装置)に送られる。ROユニット54は、ROポンプ54pを用いて、前処理が終わった原水をROモジュール54m内に供給する。ROモジュール54mは、原水内に含まれる無機イオン全般を除去する。ROモジュール54mでの処理を終えたRO水(原水の15〜48%程度)は、RO水供給ユニット55に送られ、ROモジュール54mでの処理によって生成されたRO排水は、一部(原水の5〜80%程度、「循環水」とも呼ばれる)がROポンプ54pを介してROモジュール54m内に再投入され、他の一部(原水の5〜48%程度、「濃縮水」とも呼ばれる)が排水処理される。
【0006】
RO水供給ユニット55は、RO水が貯留されるRO水タンク55tを有している。RO水タンク55t内には、UV照射装置55uが設けられていて、RO水にUV照射処理を行なえるようになっている。また、RO水タンク55tには、当該RO水タンク55t内のRO水の水位変化に依存して流入する外部空気中の浮遊菌やゴミを除去するために、エアーフィルタ55fが設けられている。
【0007】
RO水タンク55tに貯留されたRO水は、送水ポンプ56を介して、UF57(ウルトラフィルタ、「限界濾過膜」とも呼ばれる)に送られる。UF57は、RO水から生物学的不純物を除去する。UF57によって生物学的不純物を除去されたRO水は、透析用水として、透析治療用の各種の医療機器に送られる。通常、それらの医療機器において、透析用水は36℃前後にまで加温されて、各種の透析治療に利用される。そして、透析用水は、医療機器循環後、UF58(ウルトラフィルタ、「限界濾過膜」とも呼ばれる)に戻ってきて、更にRO水タンク55tに戻される。
【0008】
図8に示す以上のような人工透析用水製造装置は、すでに実用化されていて、透析治療のための人工透析用水を安定的に製造している。
【0009】
その他、特許文献1は、人工透析用水中の細菌由来のDNA断片を簡単な設備、操作で効率よく除去できる方法及び浄化装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−279461
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本件出願人は、
図8に示す人工透析用水製造装置を製造する製造メーカーである。そして、本件発明者は、
図8の人工透析用水製造装置を更に改良することについて、鋭意検討を重ねてきた。そして、ROモジュールの回収率について効率改善の余地があることを見出した。
【0012】
詳細には、
図8のROモジュール54mに投入された原水の量(循環水の量は含まない)をQ1(m
3 /h)とし、当該ROモジュール54mによって処理されたRO水の量をQ2(m
3 /h)とした時、それらの割合であるQ2/Q1がROモジュール54mの「(装置)回収率」と呼ばれていて、従来はシリカの析出が生じないような固定値に設定されている。
【0013】
具体的には、原水のシリカ濃度には変動が見られるため、もっとも高濃度の時のシリカ濃度を有する原水であってもシリカの析出が生じないよう、十分な安全率をもってROモジュール54mの「回収率」が設定されている。
【0014】
そこで、本件発明者は、RO排水におけるシリカ濃度を測定し、当該測定値をフィードバックすることによって、過剰な安全率を排して最適な「回収率」を採用することができるのではないか、と検討を重ねてきた。しかしながら、RO排水におけるシリカ濃度は濃縮されていて高濃度であるため、対応可能な廉価なシリカ濃度センサを市場に見出すことができず、また、そのようなセンサを独自に開発することにも困難があった。
【0015】
その後、本件発明者は、原水のシリカ濃度を測定して、当該測定値に対して最適な「回収率」を採用することで、RO排水の排水量を抑制し、ひいては原水に関するコストを低減できることを知見した。
【0016】
更に、本件発明者は、RO排水におけるPHを測定し、当該測定値をフィードバックして最適な「回収率」を補正することで、より一層、RO排水の排水量を抑制し、ひいては原水に関するコストを低減できることを知見した。
【0017】
本発明は、以上の知見に基づいて創案されたものである。本発明の目的は、ROモジュールの回収率について効率が改善された人工透析用水製造装置を提供することである。なお、本発明によって製造されるRO水は、人工透析用水に限定されず、器具洗浄用水、検査用水、手洗い用水、調剤用水、等としても利用できる。すなわち、本発明は、広くは、ROモジュールの回収率について効率が改善された水処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、原水のシリカ濃度を測定するシリカ濃度センサと、前記原水を前処理する前処理ユニットと、前記前処理ユニットによって前処理された原水に対して逆浸透膜を用いて当該原水をRO水とRO排水とに分離するROモジュールと、前記RO排水のPHを測定するPHセンサと、前記シリカ濃度センサによって測定されたシリカ濃度、及び、前記PHセンサによって測定されたPHに基づいて、前記ROモジュールの回収率を制御するようになっている制御部と、を備えたことを特徴とする水処理装置である。
【0019】
本発明によれば、制御部が、原水のシリカ濃度と、RO排水のPHと、に基づいてROモジュールの回収率を制御するため、より最適な回収率を採用することができ、RO排水の排水量を抑制することができ、ひいては原水に関するコストを低減できる。
【0020】
より具体的には、本発明の制御部は、前記回収率をQ2/Q1、前記シリカ濃度をSD、前記PHに対応するシリカの析出限界濃度をSL、とした時、Q2/Q1<1−SD/SLとなるように回収率を制御するようになっている。
【0021】
ここで、本件発明者の知見によれば、シリカの析出限界濃度SLは、当該シリカ溶液のPHに依存して異なる。従って、前記不等式におけるシリカの析出限界濃度SLは、PHセンサによって測定されたPHに依存して異なる値が採用されるようになっている。
【0022】
具体的には、例えばPHが6.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を6〜10%増大させた値が用いられ、例えばPHが8.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を12〜20%増大させた値が用いられることが好ましい。
【0023】
ROモジュールの回収率を制御するための具体的な構成例としては、例えば、水処理装置は、前処理ユニットによって前処理された原水をROモジュールに供給するROポンプと、ROモジュールから延びてRO排水を排出するための排出路と、当該排出路から分岐されてROポンプの上流側に合流しRO排水の一部を循環水として前処理ユニットによって前処理された原水に合流させることが可能な循環路と、当該循環路の途中に設けられた循環水量調整バルブと、前記排出路の途中であって前記循環路の分岐部よりも下流側に設けられた排水量調整バルブと、を更に備え得る。この場合、制御部は、ROポンプ、循環水量調整バルブ、及び、量調整バルブを制御することによって、ROモジュールの回収率を制御できる。
【0024】
また、好ましくは、RO排水の温度を測定する温度センサが更に設けられ、前記シリカの析出限界濃度SLは、前記温度センサによって測定された温度にも依存して異なる値が採用されるようになっている。
【0025】
また、好ましくは、原水が貯留されると共に当該原水を加温する加温ヒータが設けられた原水タンクを更に備え、前記加温ヒータは、原水を20℃以上に加温するようになっている。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、制御部が、原水のシリカ濃度と、RO排水のPHと、に基づいてROモジュールの回収率を制御するため、より最適な回収率を採用することができ、RO排水の排水量を抑制することができ、ひいては原水に関するコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る水処理装置の概略図である。
【
図2】ROモジュールの回収率とシリカ濃度の濃縮倍率との関係を示すグラフである。
【
図3】シリカ溶液のPHとシリカ析出限界濃度との対応関係を示す表である。
【
図4】シリカ溶液のPHとシリカ析出限界濃度との対応関係を示すグラフである。
【
図5】目標とする回収率に対する、ROポンプの供給水量、循環水量調整バルブの通過水量、及び、排水量調整バルブの通過水量の各設定値を示す表である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る水処理装置の概略図である。
【
図7】PHが7.0である場合の、25℃を基準とした時のRO排水の温度に基づくシリカ析出限界濃度の補正係数を示すグラフである。
【
図8】従来の人工透析用水製造装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る水処理装置の概略説明図である。
図1に示すように、本実施形態の水処理装置10は、原水が貯留されると共に、当該原水を加温する加温ヒータ11hが設けられた原水タンク11と、原水タンク11において加温された原水を前処理する前処理ユニット13と、前処理ユニット13によって前処理された原水に対して逆浸透膜(ROM)を用いて当該原水をRO水とRO排水とに分離するROモジュール15mと、を備えている。
【0030】
本実施形態では、原水として水道水が用いられるようになっている。水道水である原水は、原水タンク11において貯留されるようになっている。加温ヒータ11hは、原水タンク11の内部に設けられていて、本実施形態では原水の温度を25℃にまで加温するようになっている。原水の温度が25℃よりも低いままでは、後続の装置内において、原水中のシリカ成分等が析出して不具合を発生させるおそれがあるからである。
【0031】
図1に示すように、25℃に加温された原水は、原水ポンプ12によって前処理ユニット13に送られるようになっている。前処理ユニット13は、プレフィルタ13aと、軟水装置13bと、カーボンフィルタ13cと、を当該順序で有している。プレフィルタ13aは、主として原水中の不純物(ゴミ)を濾過するようになっており、軟水装置13bは、主として原水中のカルシウムイオン(Ca
2+ )及びマグネシウムイオン(Mg
2+ )を除去するようになっており、カーボンフィルタ13cは、主として原水中の塩素イオン(Cl
- )を除去するようになっている。
【0032】
また、本実施形態の水処理装置10では、原水ポンプ12の下流側に、原水のシリカ濃度を測定するシリカ濃度センサ41が設けられている。もっとも、シリカ濃度センサ41は、原水タンク11と原水ポンプ12との間に設けられていてもよいし、原水タンク11内に設けられていてもよい。
【0033】
前処理ユニット13での前処理が終わった原水は、ROユニット14(逆浸透膜処理装置)に送られるようになっている。ROユニット14は、ROポンプ14pを用いて、前処理が終わった原水をROモジュール14m内に供給するようになっている。ROモジュール14mは、原水内に含まれる無機イオン全般を除去するようになっている。ROモジュール14mでの処理を終えたRO水は、RO水供給ユニット15に送られるようになっており、ROモジュール14mでの処理によって生成されたRO排水は、一部(原水の5〜80%程度、「循環水」とも呼ばれる)がROポンプ14pを介してROモジュール14m内に再投入されるようになっており、他の一部(原水の5〜48%程度、「濃縮水」とも呼ばれる)が排水処理されるようになっている。
【0034】
より具体的には、本実施形態の水処理装置10では、RO排水を排出するための排出路21がROモジュール14mから延びており、当該排出路21から分岐部22において循環路23が分岐されて、ROポンプ14pの上流側に合流している。当該循環路23により、RO排水の一部を「循環水」として前処理ユニットによって前処理された原水に合流させることが可能となっている。当該循環路23の途中には、循環水量調整バルブ24が設けられており、排出路21の途中であって分岐部22よりも下流側には、排水量調整バルブ25が設けられている。
【0035】
また、本実施形態の水処理装置10では、排出路21の途中であって分岐部22と排水量調整バルブ25との間に、RO排水のPHを測定するPHセンサ42が設けられている。もっとも、PHセンサ42は、排出路21の排水量調整バルブ25の下流側に設けられていてもよいし、循環路23の途中に設けられていてもよい。
【0036】
そして、シリカ濃度センサ41によって測定されたシリカ濃度と、PHセンサ42によって測定されたPHと、に基づいて、ROポンプ14p、循環水量調整バルブ24、及び、排水量調整バルブ25を協調制御することによって、ROモジュール14mの回収率を制御できるようになっている制御部30(例えば制御盤)が設けられている。
【0037】
より具体的には、ROモジュール14mに投入された原水の量(循環水の量は含まない)をQ1(m
3 /h)とし、ROモジュール14mによって処理されたRO水の量をQ2(m
3 /h)とした時、RO排水の排水量(循環水の量は含まない)は(Q1−Q2)(m
3 /h)と表すことができ、回収率はQ2/Q1と表すことができる。そして更に、シリカ濃度センサ41によって測定されたシリカ濃度をSD、シリカの析出限界濃度をSL、とすると、RO排水においてシリカが析出してしまうことを回避するためには、RO排水におけるシリカ濃度の濃縮倍率がQ1/(Q1−Q2)であるから(循環水の量(の増減)は、シリカ濃度の濃縮倍率にほとんど影響しないことが分かっている)、
SL > SD×Q1/(Q1−Q2)
が成り立っている必要がある。
【0038】
当該式を変形すれば、
Q2/Q1 < 1−SD/SL
という式が得られる。すなわち、本実施形態の制御部30は、回収率Q2/Q1が、1−SD/SLを下回るように、ROポンプ14p、循環水量調整バルブ24、及び、排水量調整バルブ25を協調制御するようになっている。
【0039】
ここで、ROモジュール14mの回収率Q2/Q1と、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)と、の関係を示すグラフを、
図2に示しておく。例えば、回収率Q2/Q1が20%であれば、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)は1.25倍であり、回収率Q2/Q1が40%であれば、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)は1.67倍であり、回収率Q2/Q1が50%であれば、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)は2倍であり、回収率Q2/Q1が60%であれば、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)は2.5倍であり、回収率Q2/Q1が80%であれば、シリカ濃度の濃縮倍率Q1/(Q1−Q2)は5倍である。
【0040】
ここで更に、本件発明者の知見によれば、シリカの析出限界濃度SLは、当該シリカ溶液のPHに依存して異なる。従って、前記不等式におけるシリカの析出限界濃度SLは、PHセンサ42によって測定されたPHに依存して異なる値が採用される。
【0041】
具体的には、PHが6.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を6〜10%増大させた値が用いられ、PHが8.0である場合のシリカの析出限界濃度SLは、PHが6.8〜7.0である場合のシリカの析出限界濃度を12〜20%増大させた値が用いられる。
【0042】
シリカ溶液のPHとシリカ析出限界濃度との対応関係を示す表及びグラフを、それぞれ
図3及び
図4に示す。
図3の表及び
図4のグラフは、シリカ溶液の温度が25℃の場合の表及びグラフである。これらの表及びグラフに基づいて、PHセンサ42によって測定されたPHに対応する適切なシリカの析出限界濃度SLが、制御部30の制御に利用されることになる。
【0043】
RO水供給ユニット15は、RO水が貯留されるRO水タンク15tを有している。RO水タンク15t内には、UV照射装置15uが設けられていて、RO水にUV照射処理を行なえるようになっている。また、RO水タンク15tには、当該RO水タンク15t内のRO水の水位変化に依存して流入する外部空気中の浮遊菌やゴミを除去するために、エアーフィルタ15fが設けられている。
【0044】
RO水タンク15tに貯留されたRO水は、送水ポンプ16を介して、UF17(ウルトラフィルタ、「限界濾過膜」とも呼ばれる)に送られるようになっている。UF17は、RO水から生物学的不純物を除去するようになっている。UF17によって生物学的不純物を除去されたRO水は、透析用水として、透析治療用の各種の医療機器(不図示)に送られるようになっている。通常、それらの医療機器において、透析用水は36℃にまで加温されて、各種の透析治療に利用される。そして、透析用水は、医療機器循環後、UF18(ウルトラフィルタ、「限界濾過膜」とも呼ばれる)に戻ってきて、更にRO水タンク15tに戻されるようになっている。
【0045】
次に、本実施の形態の作用について説明する。
【0046】
図1に示すように、例えば9℃の水道水である原水が、原水タンク11において貯留される。そして、原水タンク11の加温ヒータ11hが、原水の温度を更に25℃にまで加温する。
【0047】
25℃に加温された原水は、原水ポンプ12によって前処理ユニット13に送られる。その途中で、シリカ濃度センサ41によって、原水のシリカ濃度が測定される。前処理ユニット13においては、プレフィルタ13aが、主として原水中の不純物(ゴミ)を濾過して除去し、軟水装置13bが、主として原水中のカルシウムイオン(Ca
2+ )及びマグネシウムイオン(Mg
2+ )を除去し、カーボンフィルタ13cが、主として原水中の塩素イオン(Cl
- )を除去する。
【0048】
前処理ユニット13での前処理が終わった原水は、ROユニット14(逆浸透膜処理装置)に送られる。ROユニット14は、ROポンプ14pを用いて、前処理が終わった原水をROモジュール14m内に供給する。ROモジュール14mは、原水内に含まれる無機イオン全般を除去する処理を実施し、ROモジュール14mでの処理を終えたRO水は、RO水供給ユニット15に送られる。
【0049】
一方、ROモジュール14mでの処理によって生成されたRO排水は、一部(原水の5〜80%程度、「循環水」とも呼ばれる)がROポンプ14pを介してROモジュール14m内に再投入され、他の一部(原水の5〜48%程度、「濃縮水」とも呼ばれる)が排水処理される。
【0050】
ここで、原水のコストを考えれば、排水処理される「濃縮水」の量はできる限り少ない方がよい。排水処理される「濃縮水」の量は、前述の通り(Q1−Q2)(m
3 /h)で表せるから、回収率Q2/Q1が上がれば少なくなる。すなわち、回収率Q2/Q1が高い方がよい。
【0051】
本実施形態の制御部30は、シリカの析出が生じない範囲において、すなわち、1−SD/SLを下回る範囲において、ROモジュール14mの回収率Q2/Q1ができるだけ高くなるように、ROポンプ14p、循環水量調整バルブ24、及び、排水量調整バルブ25を協調制御する。ここで、前述の通り、シリカの析出限界濃度SLは、PHセンサによって測定されたPHに依存して異なる値が採用されるようになっている。
【0052】
例えば、PH=7.0(この時、シリカの析出限界濃度SL=124.0ppm(
図3及び
図4参照))で、測定されたシリカ濃度SD=31.0ppmであったとすると、ROモジュール14mの回収率Q2/Q1は、1−SD/SL=0.75(75%)を下回ることが必要である。そこで、安全率5%を加味して回収率を65%とする場合、処理されたRO水の量Q2を1(m
3 /h)に維持するためには、例えばROポンプ14pの供給水量を5.88(m
3 /h)に維持する時、循環水量調整バルブ24の通過水量を4.34m
3 /hとし(原水の量Q1は5.88−4.34=1.54(m
3 /h)となる)、排水量調整バルブ25の通過水量を0.54m
3 /hとすればよい(0.54=Q2−Q1=1.54−1.00)。
【0053】
目標とする回収率に対する、ROポンプ14pの供給水量(ROポンプ流量)、循環水量調整バルブ24の通過水量(循環水量)、及び、排水量調整バルブ25の通過水量(排水量)の各設定値(目標値)を、表として
図5に示す。なお、
図5における「膜面回収率」とは、「RO水の量Q2/(原水の量Q1+循環水量)」というパラメータであって、通常は直列配置された複数のモジュールの各々について、17〜20%程度に設定される。
【0054】
このような制御部30による制御によって、原水のシリカ濃度と、RO排水のPHと、に基づいて、より最適なROモジュール14mの回収率を実現することができ、RO排水の排水量を抑制することができ、ひいては原水に関するコストを低減できる。
【0055】
一方、RO水供給ユニット15では、RO水タンク15tにRO水が貯留される。必要に応じて、UV照射装置15uによってUV照射処理が行なわれる。
【0056】
その後、RO水タンク15tに貯留されたRO水は、送水ポンプ16を介して、UF17(ウルトラフィルタ)に送られる。UF17は、RO水から生物学的不純物を除去する。UF17によって生物学的不純物を除去されたRO水は、例えば透析用水として、透析治療用の各種の医療機器(不図示)に送られる。当該透析用水は、医療機器循環後、UF18(ウルトラフィルタ)に戻ってきて、更にRO水タンク15tに戻される。
【0057】
以上の通り、本実施形態によれば、制御部30が、原水のシリカ濃度と、RO排水のPHと、に基づいてROモジュール14mの回収率を制御するため、より最適な回収率を実現することができ、RO排水の排水量を抑制することができ、ひいては原水に関するコストを低減できる。
【0058】
次に、
図6は、本発明の第2の実施形態に係る水処理装置の概略説明図である。
図6に示すように、本実施形態の水処理装置10’は、PHセンサ42に隣接して、RO排水の温度を測定する温度センサ43が設けられている。当該温度センサ43についても、PHセンサ42と同様、排出路21の排水量調整バルブ25の下流側に設けられていてもよいし、循環路23の途中に設けられていてもよい。
【0059】
そして、制御部30は、シリカ濃度センサ41によって測定されたシリカ濃度と、PHセンサ42によって測定されたPHと、温度センサ43によって測定された温度と、に基づいて、ROポンプ14p、循環水量調整バルブ24、及び、排水量調整バルブ25を協調制御することによって、ROモジュール14mの回収率を制御できるようになっている。
【0060】
その他の構成は、第1の実施形態の水処理装置10と略同様である。
図6において、第1の実施形態と同様の構成部分には同様の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0061】
本件発明者の知見によれば、シリカの析出限界濃度SLは、当該シリカ溶液のPHに加えて当該シリカ溶液の温度に依存しても異なり得る。これを踏まえて、本実施形態では、前記不等式におけるシリカの析出限界濃度SLとして、PHセンサ42によって測定されたPHのみならず温度センサ43によって測定された温度にも依存して異なる値が採用されるようになっている。
【0062】
具体的には、例えば
図7に示すような補正係数を用いて、RO排水の実際の温度に基づいてシリカの析出限界濃度SLが補正される。
図7は、PHが7.0である場合の、25℃を基準とした時のRO排水の温度に基づくシリカ析出限界濃度の補正係数を示すグラフである。
【0063】
本実施形態によれば、制御部30が、原水のシリカ濃度と、RO排水のPHと、RO排水の温度と、に基づいてROモジュール14mの回収率を制御するため、より最適な回収率を採用することができ、RO排水の排水量を抑制することができ、ひいては原水に関するコストを低減できる。
【符号の説明】
【0064】
10、10’ 水処理装置
11 原水タンク
11h 加温ヒータ
12 原水ポンプ
13 前処理ユニット
13a プレフィルタ
13b 軟水装置
13c カーボンフィルタ
14 ROユニット
14p ROポンプ
14m ROモジュール
15 RO水供給ユニット
15t RO水タンク
15u UV照射装置
15f エアーフィルタ
16 送水ポンプ
17 UF(ウルトラフィルタ)
18 UF(ウルトラフィルタ)
21 排出路
22 分岐部
23 循環路
24 循環水量調整バルブ
25 排水量調整バルブ
30 制御部
41 シリカ濃度センサ
42 PHセンサ
43 温度センサ
51 原水タンク
51h 加温ヒータ
52 原水ポンプ
53 前処理ユニット
53a プレフィルタ
53b 軟水装置
53c カーボンフィルタ
54 ROユニット
54p ROポンプ
54m ROモジュール
55 RO水供給ユニット
55t RO水タンク
55u UV照射装置
55f エアーフィルタ
56 送水ポンプ
57 UF(ウルトラフィルタ)
58 UF(ウルトラフィルタ)