使用することによって、創傷を被覆できるとともに、被覆された創傷を積極的に改善することができる創傷被覆剤を提供する。また、簡易な操作で、創傷部位に創傷被覆剤を貼り付けることができる創傷被覆用シートを提供する。
弾性材料からなり、複数の貫通孔が形成されたベースシートと;前記ベースシートの一方側に剥離可能に形成された接着補助層と;前記ベースシートの他方側表面上に形成された粘着層と;前記粘着層の前記ベースシート側とは反対側の表面上に配置された複数の粒子粉末と;を備え、前記複数の粒子粉末は、生理活性物質を含有する構成を、創傷被覆剤に採用する。当該創傷被覆剤における粘着層に接着された非接着性シート状部材を備える構成を、創傷被覆用シートに採用する。
前記歯髄幹細胞は、(i)bmi−1、HPV−E6及びHPV−E7からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子と、(ii)hTERT又はpTERTのいずれかの遺伝子との組み合わせを導入した不死化細胞である、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の創傷被覆剤。
前記スポンジ状部材は、ウレタン、シリコン、パルプ紙、スチロール、ビニール、及び布からなる群から選ばれる素材で構成されている、ことを特徴とする請求項9に記載の創傷被覆剤。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明の一実施形態を、
図1〜
図11を参照して説明する。なお、以下の説明及び図面においては、同一又は同等の要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
[構成]
図1(A)には、一実施形態に係る創傷被覆用シート20の構成が模式的に斜視図にて示されている。また、
図1(B)には、創傷被覆用シート20の構成が模式的に断面図にて示されている。これらの
図1(A)及び(B)により総合的に示されるように、創傷被覆用シート20は、創傷被覆剤10と、非接着性シート状部材19とを備えている。
【0026】
創傷被覆剤10は、
図1(B)に示されるように、ベースシート11と、粘着層12とを備えている。また、創傷被覆剤10は、複数の粒子粉末13と、接着補助層14とを備えている。
【0027】
ベースシート11は、弾性材料からなる。そして、ベースシート11には、複数の貫通孔11Hが形成されている。本実施形態では、当該複数の貫通孔11Hは、格子状に配置されている(
図2(A)参照)。かかる複数の貫通孔11Hは、例えば、ベースシート11の母材である弾性材料からなるテープ状部材にパンチアウト加工することにより形成される。
【0028】
前記弾性材料は、透湿性を有し、厚みが0.1mm未満の、半透明の合成樹脂という3つの特徴を備えるものであることが好ましい。これは、以下の(a)〜(c)の3つの理由による。
(a)透湿性がないと皮膚に接着した場合には、後に汗に含まれる水分が蒸発せずに蒸れてしまい、不快であるばかりでなく、皮膚(特に、創傷部位近傍の皮膚)にも悪影響が出ることがある。
(b)厚みが0.1mm以上では、皮膚に自然に沿わせて接着することができず、創傷被覆剤10を皮膚に接着した後に接着補助層を除去したとしても、接着物を使用していることが視認できるような不自然さが残る。
(c)半透明の素材としておくと、創傷被覆剤10を皮膚に接着した後に接着補助層を除去した場合には、接着物を使用していることが目立たない。
【0029】
こうした弾性素材としては、例えば、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等を挙げることができ、シリコン素材のものを好適に使用することができる。透湿性を有する半透明合成樹脂の厚みは、約20〜約60μmであると、皮膚に対するフィット性がよく、さらに貼付していることが目立たないからである。
【0030】
上記のようにして製造した培養上清粉末を、例えば、ヒドロゲルと混合してハンドジェルを調製し、手指に貼付した弾性素材の上から上記ハンドジェルを塗ることによって、このジェルに含まれる生理活性物質を後述する粘着層に補充することができるからである。
【0031】
図1(B)に戻り、粘着層12は、ベースシート11の−Z方向側表面上に形成される。粘着層12は、シリコン系接着剤で形成されていることが好ましい。貼付した後にかぶれる、剥がした後に皮膚が赤くなるといった問題が生じないからである。
【0032】
複数の粒子粉末13が、粘着層12の−Z方向側表面上に配置される。本実施形態では、当該複数の粒子粉末13は、粘着層12の−Z方向側表面上に、散布状に配置されている。
【0033】
なお、粒子粉末13は、生理活性物質を含んでいる。本実施形態における生理活性物質については、後述する。
【0034】
図1(B)に戻り、接着補助層14は、ベースシート11の+Z方向側表面上に、接着剤を介して接続される。接着補助層14は、スポンジ状部材で構成されていることが好ましく、前記スポンジ状部材は、ウレタン、シリコン、パルプ紙、スチロール、ビニール、及び布からなる群から選ばれる素材で構成されていることが好ましい。
【0035】
接着補助層14とベースシート11とは、粘着層12を利用して創傷被覆材10を皮膚に貼り付けた場合における当該皮膚への接着力よりも弱い接着力で、接着剤により接着される。こうした接着力を実現できる接着材としては、シリコン系接着剤、アクリル系接着剤、ウレタン系接着剤、及びこれらのうちの少なくとも2種類の混合物等が挙げられる。このため、粘着層12を利用して創傷被覆材10を皮膚に貼り付けた後に、接着補助層14をベースシート11から引き剥がしても、粘着層12が皮膚から剥がれることがないようになっている。
【0036】
非接着性シート状部材19は、粘着層12の接着力により、粘着層12の−Z方向側に接着される。非接着性シート状部材19としては、剥離紙を好適に採用することができる。非接着性シート状部材19自体には接着力が無いので、非接着性シート状部材19を、創傷被覆材10から剥離しても、粒子粉末13は、粘着層12の−Z方向側表面に残留するようになっている。
【0037】
<粒子粉末13に含まれる生理活性物質>
ここで、粒子粉末13に含まれる生理活性物質について説明する。かかる生理活性物質は、以下のようにして得ることができる。
【0038】
まず、上記生理活性物質を含む培養上清の産生に使用する上記歯髄幹細胞を準備する。こうした幹細胞は、(f1)bmi-1、HPV-E6及びHPV-E7からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子と、(f2)hTERT又はpTERTのいずれかの遺伝子との組み合わせを導入したものである。これらの遺伝子の組み合わせを導入すると、歯髄幹細胞を100代以上、継代することができるからである。
【0039】
上記歯髄幹細胞の作製に当たっては、まず、哺乳類の歯髄細胞を以下のようにして単離する。ここで、「歯髄幹細胞」とは、再生能を有する歯の神経に含まれる幹細胞の一種をいう。歯という硬質の材料に保護されているため紫外線や放射線を通さず、遺伝子も傷つきにくいという特性を有する。
【0040】
上記遺伝子のうち、hTERTはヒトテロメア修復酵素を、また、pTERTはブタのテロメア修復酵素をそれぞれコードする遺伝子である。bmi-1はBmi-1(ポリコーム複合体を構成するたんぱく質の1つ)を産生する遺伝子である。Bmi-1は造血幹細胞の維持に必要であり、活性増強により造血幹細胞を増やすことができる。また、HPV-E6及びE7はHPV-16又はHPV-18の初期遺伝子であり、これらのヒトパピローマウイルスが自己複製のために使用する初期遺伝子をコードするオープンリーディングフレーム中に存在する遺伝子である。
【0041】
以下に、ヒトの脱落乳歯から歯髄細胞を用いた不死化幹細胞を作製する場合を例に挙げて説明する。
まず、上記脱落乳歯を、例えば、クロロヘキシジンで消毒し、歯冠部を分割し、歯科用リーマーにて歯髄組織を回収する。次いで、採取した歯髄組織を、基本培地、例えば、5〜15%のウシ血清(calf serum、以下、「CS」ということがある。)及び50〜150ユニット/mLの抗生物質を含有するダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco's Modified Eagle's Medium、以下、「DMEM」という。)に懸濁する。
【0042】
ついで、1〜5mg/mLのコラゲナーゼ及び1〜5mg/mLのディスパーゼを用いて、37℃で、0.5〜2時間処理する。酵素処理の後、3〜10分間の遠心操作(3,000〜7,000回転/分)を行い、歯髄細胞を回収する。必要に応じて、セルストレーナーを用いて細胞の選別を行う。選別された細胞を、例えば、3〜6mLの上記基本培地で再懸濁し、直径4〜8cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。
【0043】
引き続き、培養液、例えば、10%FCSを含有するDMEMを添加した後、5%CO
2インキュベータにて、37℃で2週間程度培養する。上記培養液を除去した後、PBS等で細胞を1〜数回洗浄する。培養液の除去及び細胞の洗浄に代えて、コロニーを形成した接着性の歯髄幹細胞を回収することもできる。接着性の歯髄幹細胞は、例えば、0.025〜0.1%のトリプシンと0.3〜1mMのEDTAにて、数分間、37℃で処理してディッシュから剥離させ、次いで細胞を回収する。
【0044】
酵素処理の後、3〜10分間の遠心操作(3,000〜7,000回転/分)を行い、歯髄細胞を回収する。必要に応じて、セルストレーナーを用いて細胞の選別を行う。選別された細胞を、例えば、3〜6mLの上記基本培地で再懸濁し、直径4〜8cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種する。
【0045】
次いで、培養液、例えば、10%FCSを含有するDMEMを添加した後、5%CO
2インキュベータにて、37℃で2週間程度培養する。上記培養液を除去した後、PBS等で細胞を1〜数回洗浄する。培養液の除去及び細胞の洗浄に代えて、コロニーを形成した接着性の歯髄幹細胞を回収することもできる。接着性の歯髄幹細胞は、例えば、0.025〜0.1%のトリプシンと0.3〜1mMのEDTAにて、数分間、37℃で処理してディッシュから剥離させ、次いで細胞を回収する。
【0046】
次に、上記のように選別された接着性細胞を培養する。例えば、上記のようにして得た歯髄幹細胞を付着性細胞培養用ディッシュに播種し、5%CO
2、37℃の条件でインキュベータにて培養する。以上のようにして、ヒト脱落乳歯幹細胞の初代培養細胞(SHED-P)を得ることができる。
【0047】
継代培養は、例えば、肉眼で観察してサブコンフレント又はコンフレントに達したときに、上述のように、トリプシンとEDTAとを用いて細胞を培養容器から剥離させて回収し、再度、培養液を入れた培養容器に播種する。
【0048】
ここで、サブコンフレントとは、培養容器中の細胞付着面の約70%に細胞が付着した状態をいう。例えば、継代培養を1〜8回行い、選別された細胞を、必要な細胞数、例えば約1×10
7個/mLまで増殖させる。以上のように培養した後に、細胞を回収して液体窒素中にて保存する。様々なドナーから回収した細胞を歯髄幹細胞バンクの形態で保存することにしてもよい。
【0049】
(i)bmi−1、HPV−E6及びHPV−E7からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の遺伝子と、(ii)hTERT又はpTERTのいずれかの遺伝子との組み合わせは、以下のようにして導入することができる。まず、上記の遺伝子の組み合わせを組み込むためのプラスミドを調製し、これをシャトルベクター、例えば、pShuttle 2に組み込んで、クローニングを行う。その後、pShuttle 2で大腸菌を形質転換し、カナマイシンをマーカーとして、カナマイシン耐性形質転換体(以下、「Kn+」という。)を選択する。このKn+のDNAを精製し、制限酵素部位を解析して、生成された組換え体を同定する。
【0050】
次に、例えば、PI-Sce I及びI-Cue Iを使用して発現カセットを上記のシャトルベクターから切り出し、この発現カセットを、例えば、アデノウイルスベクターのDNAにライゲーションし、Adeno-X viral DNAを得る。得られたライゲーション産物(Adeno-X viral DNA)を、例えば、Swa Iで切断し、切断産物を用いて大腸菌をトランスフォーメーションして形質転換体を得る。
【0051】
得られた形質転換体の中から、例えば、アンピシリンを用いて、アンピシリン耐性異質転換体(以下、「Amp+」という。)を選択して精製し、制限酵素部位を解析して組換え体を同定する。次いで、例えば、Pac Iで組換えアデノウイルスを消化し、得られた断片をHEK293細胞にトランスフェクトして増殖させ、これを集めて上記ウイルスの力価を測定する。常法に従って上記ウイルスを精製し、標的細胞であるSHED-Pに感染させる。
【0052】
ウイルス感染後のHEK293の細胞群を常法に従ってFITCで染色し、フローサイトメーターを用いて、STRO-1陽性細胞を検出する。ここで、STRO-1は、骨髄における多分化能を有する間葉系幹細胞のマーカーの1つとして考えられており、細胞の不死化の指標となる。以上の手順によって、歯髄由来の不死化幹細胞を得ることができる。
【0053】
次に、得られた不死化幹細胞を、上述した基本培地、例えば、10%FBSを加えたDMEMを用いて、5%CO
2、37℃の条件下に、24〜48時間培養し、培養上清を得る。培養上清の回収は、例えば、コマゴメピペット等を使用することができる。
【0054】
また、上記不死化幹細胞は、インスリン様成長因子(IGF-1)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、トランスフォーミング増殖因子-β(TGF-β)、及び肝細胞増殖因子であるHGFからなる群から選ばれる、少なくとも2以上の成長因子を培養上清中に分泌する。ここで、「成長因子」とは、細胞分裂を促進させたり、形態の変化や肥大をもたらしたりするポリペプチドの総称である。成長因子を産生する細胞の種類によって因子は異なり、上皮成長因子(EGF)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、神経成長因子(NGF)、腫瘍増殖因子(TGF)などに大別される。
【0055】
さらに、各細胞の細胞膜にある受容体はチロシンキナーゼ活性をもち、成長因子が結合すると、たんぱく質のチロシン残基がリン酸化され、細胞の増殖や分化を引き起こす。成長因子が個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。また、免疫系を調節するリンホカイン個体発生において中胚葉誘導物質となっている例がいくつか知られている。こうした成長因子は、公知のELISA法、マイクロアレイ法等で定量することができる。
【0056】
上記IGF-1は、インスリンと配列が高度に類似したポリペプチドであり、細胞培養でインスリンと同様に有糸分裂誘発等の反応を引き起こす。神経細胞の成長にも影響することが知られている。また、上記VEGFは、胚の形成期に、血管がないところに新たな血管を形成する脈管形成及び既存の血管から分枝伸長して血管を形成する血管新生に関与する一群の糖タンパクである。
【0057】
上記TGF-βはまた、多くの細胞に対する強力な増殖抑制因子となり、細胞の分化・遊走・接着にも密接に関与し、個体発生や組織再構築、創傷治癒、炎症・免疫、癌の浸潤・転移などの幅広い領域に重要な役割を担っている。さらに、HGFは、肝細胞のみならず様々な細胞に対して、細胞増殖促進、細胞運動促進、抗アポトーシス(細胞死)、形態形成誘導、血管新生その他の組織・臓器の再生と保護を担う多才な生理活性を有している。
【0058】
上述した各種幹細胞を、例えば、15%FCSを添加したDMEM中で、37℃にて所定の期間、培養することにより、上記の成長因子を含む培養上清を得ることができる。なお、上記幹細胞の培養上清には、IGF-1、VEGF、TGF-β、及びHGF以外にも、約70種類のタンパクが含まれる。
【0059】
得られた培養上清のうち15mLを、Amicon Ultra Centrifugal Filter Units-10K(ミリポア社製)に入れ、4,000xgで約60分間遠心し、約200μlまで濃縮する。次いで、このチューブに培養上清と同量の滅菌PBSを投入し、再度、4,000xgで約60分間遠心し、溶媒をPBSに置換する。得られた200μLの溶液をマイクロテストチューブへ回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0060】
上記のAmiconを使用する方法に代えて、エタノール沈殿法で濃縮することもできる。例えば、5mLの培養上清に対して45mLの100%エタノールを加えて混和し、-20℃で60分間放置する。その後、15,000xgで15分間、4℃にて遠心して、上澄みを除去する。
次いで、例えば、10mLの90%エタノールを加えてよく攪拌し、再び、15,000xgで5分間、4℃にて遠心する。上澄みを除去し、得られたペレットを、例えば、500μLの滅菌水に溶解することができる。溶解後、全量をマイクロテストチューブに回収し、濃縮幹細胞培養上清とする。
【0061】
以上のようにして得られた培養上清を常法に従って凍結乾燥することにより、用時調整の組成物である粒子粉末13を得ることができる。
【0062】
[作製方法]
次に、上記のように構成される創傷被覆用シートの作成方法について説明する。
【0063】
まず、ベースシート11の母材である弾性材料にパンチアウト加工を施して、ベースシート11を作製する(
図3(A)参照)。引き続き、ベースシート11の−Z方向側表面上に粘着層12を形成して、積層体10Aを作製する(
図3(B)参照)。ここで、粘着層12の形成に際しては、シリコン系接着剤等の接着剤を噴霧器により噴霧するようにすることができる。また、当該接着剤をハケ等によりベースシート11の−Z方向側表面に塗布するようにしてもよい。
【0064】
次に、積層体10Aにおける粘着層12の−Z方向側表面上に、上述のようにして作製された複数の粒子粉末13を配置して、積層体10Bを作製する(
図3(C)参照)。ここで、粘着層12の−Z方向側表面上への配置に際しては、スタンプ器の平面状表面に弱い接着力で接着された複数の粒子粉末13を粘着層12の−Z方向側表面に押し付けるようにすることができる。また、転写ローラ器の回転部材の表面に弱い接着力で接着された複数の粒子粉末13を、当該回転部材を粘着層12の−Z方向側表面に押し付けつつ回転させるようにすることができる。
【0065】
次いで、積層体10Bにおけるベースシート11の+Z方向側表面に接着補助層14を接着して、創傷被覆剤10を作製する(
図4(A)参照)。なお、ベースシート11の+Z方向側表面への接着補助層14の接着に際しては、上述したように、粘着層12を利用して創傷被覆剤10を皮膚に貼り付けた場合における当該皮膚への接着力よりも弱い接着力の接着剤を用いる。
【0066】
そして、創傷被覆剤10の−Z方向側表面に、粘着層12の接着力を利用して非接着性シート状部材19を接着した後、所望の大きさにカットして創傷被覆用シート20を作製する(
図4(B)参照)。ここで、創傷被覆剤10の−Z方向側表面への非接着性シート状部材19の接着は、非接着性シート状部材19を創傷被覆剤10の−Z方向側表面に押し付けることにより行われる。
【0067】
以上のようにして、本発明の一実施形態の創傷被覆用シート20を製造することができる。なお、ベースシート11の+Z方向側表面への接着補助層14の接着は、粘着層12の形成前であってもよく、非接着性シート状部材19の接着後であってもよい。
【0068】
なお、上記のようにして製造した培養上清粉末を、例えば、ヒドロゲルと適当量で混合してハンドジェルとすることができる。そして、上記創傷被覆剤の上からこうしたハンドジェルを塗ることによって、ハンドジェル中に含まれる生理活性物質を上記損傷被覆剤の粘着層に浸透・拡散させ、本発明の損傷被覆材の治癒効果を延長することができる。
【実施例1】
【0069】
(不死化SHEDの作出及び培養方法)
(1)ウイルス導入用ベクターの作製
(1−1)プラスミド抽出用試薬
カナマイシン(Kan)、アンピシリン(Amp)、LB液体培地及びLB寒天培地、グリコーゲン、アガロース、滅菌水、酢酸アンモニウム、酢酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム及びRNase Aを使用した。50mg/mLのカナマイシン(Kan)及びアンピシリン(Amp)を調製し、ストック溶液として−20℃で保存した。グリコーゲンは20mg/mLに調製した。10mg/mLのRNase Aを調製し−20℃で保存した。10M(飽和)酢酸アンモニウム(NH
4OAc)、3Mの酢酸ナトリウム(NaOAc;pH5.2)を調製した。
【0070】
(1−2)制限酵素等
大腸菌コンピテントセル(Supercharge EZ10 Electrocompetent Cells、製品コード 636756)、Swa I(製品コード 1111A、Smi Iが同等品)、Xho I(製品コード 1094A)、T4 DNA Ligase(製品コード 2011A)、NucleoBond Xtra Midi(製品コード 740410.10/.50/.100)、NucleoSpin Plasmid(製品コード 740588 10/50/250)は、いずれもタカラバイオ(株)より購入した。Pac IはNew England Biolabsより購入した。
【0071】
(1−3)バッファー等
1×TE Buffer(1mMのEDTAを含む10mM Tris-HCl [pH8.0])、100mM Tris-HCl(pH8.0)で飽和したフェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール(25:24:1、以下、「PCI混液」という。)を調製した。エタノールは、100%及び70%で使用した。ミニスケールでの組換えで使用するpAdeno-X プラスミドDNAの精製用に、以下のバッファー1〜4を調製した。
【0072】
バッファー1:10mM EDTA及び50mM グルコースを含む25mM Tris-HCl(pH8.0)
(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー2:1%SDSを含む0.2M NaOH(使用直前に用時調製、密封し、室温保存)
バッファー3:5M KOAc(オートクレーブ後、4℃で保存)
バッファー4:1mM EDTA、20μg/mL RNaseを含む10mM Tris-HCl(pH8.0)
(使用直前にRNaseを添加する。−20℃で保存)
【0073】
(2)アデノウイルス精製及びβ-galアッセイ用試薬
ヒト5型アデノウイルスで形質転換したヒトHEK293細胞(ATCC #CRL1573)を使用した。HEK293細胞は完全培地で培養した。完全培地の組成は、100unit/mLのペニシリンGナトリウムと100μg/mLのストレプトマイシン、4mMのグルタミン及び10%FBSを添加したDMEM(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium、基本培地)とした。ペニシリンGナトリウム溶液は10,000units/mL、硫酸ストレプトマイシン溶液は10,000μg/mLで調製し、ストック溶液として保存した。培養には、60mmプレート、100mmプレート、6−ウェルプレート、T75及びT175フラスコを使用した。
【0074】
トリプシン-EDTA(製品コード CC-5012)はタカラバイオ(株)より購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS、Ca
2+及びMg
2+不含)及びDulbecco’s リン酸緩衝生理食塩水(DPBS、Ca
2+及びMg
2+含有)を調製した。また、0.33%のニュートラルレッド染色液、0.4%トリパンブルー染色液を使用した。β-galアッセイには、X-Gal (5-bromo-4-chloro-3-indolyl-β-D-galactopyranoside (25mg/mL))ジメチルホルムアミド(DMF)溶液は−20℃で遮光保存した。Luminescent β-gal Detection Kit II(製品コード 631712、タカラバイオ(株)製)を使用した。
【0075】
(3)予備試験
(3−1)lacZ を含む組換えアデノウイルス(pAdeno-X-lacZ)の構築
10mLの上述した完全培地に、解凍後、DMSOを除去したHEK293細胞を再懸濁し、全量を直径100mmの培養プレートに移した。HEK293細胞が付着した後に培養液を除去し、細胞を滅菌PBSで一度洗浄し、1mLのトリプシン-EDTA溶液を加えて約2分間処理した。次に、10mLの完全培地を加えてトリプシンの反応を止め、穏やかに懸濁した。バイアブルカウントを行って、培養液10mLを入れた直径100mmのプレートに10
5個の細胞を移し、均一に拡げた。
【0076】
pShuttle2-lacZ(Adeno-X Expression System 1に含まれている陽性対照ベクター)とキットに含まれているAdeno-X Viral DNA(PI-Sce I及びI-Ceu I digested)とを使用し、キットに添付されているプロトコルに従って、lacZを含む組換えアデノウイルスを構築した。標的細胞であるSHEDに感染させ、β-ガラクトシダーゼの発現をアッセイし、ベクターが構築されていることを確認した。
【0077】
(3−2)組換えpShuttle 2プラスミドの構築
組換えpShuttle 2 Vector(以下、「rpShuttle 2 Vector」という。)の構築前に、キットに含まれているpShuttle 2 Vector及びpShuttle 2-lacZ VectorでDH5α大腸菌を形質転換した。50μg/mLのカナマイシンを含有するLB寒天プレート(以下、「LB/Kan」という。)上で形質転換体を選択し、単一コロニーからとった菌体を新しいLB/Kanに画線し、37℃で一晩インキュベートした。
【0078】
次いで、hTERT、bmi-1、HPV-E6、HPV-E7を、pShuttle 2へ以下の手順でクローニングした。これらの遺伝子に適した制限酵素でpShuttle 2 Vectorを切断した。次いで、上記のキットに添付されているpShuttle 2 Vector Information Packet(PT3416-5)を参照し、挿入するDNAに合致するマルチクローニングサイトを決定した。制限酵素処理済みの上記プラスミドをアルカリホスファターゼで処理して精製した。
【0079】
常法に従って、標的DNA断片を調製し精製した。上記の制限酵素で消化したベクターと上記の遺伝子断片とをライゲーションし、DH5α細胞(コンピテント細胞)を、ライゲーション産物で形質転換した。上記コンピテント細胞の一部をとり、キットに含まれている対照ベクターpShuttle2-lacZ Vectorで形質転換して陽性対照とした。
【0080】
形質転換した大腸菌を含む混合液を、LB/Kan寒天プレートに接種し、カナマイシン耐性(Kanr)の形質転換体(コロニー)を選択した。5〜10個のKan耐性クローンを選択し、少量の液体培地に接種して増幅した。これらのクローンがrpShuttle 2 Vectorを有していることを確認した後に、一晩インキュベートした。その後、市販のシリカ吸着カラムを用いて、常法に従い、構築されたプラスミドDNAを精製した。
【0081】
このプラスミドDNAを制限酵素で処理して、1%アガロースゲル電気泳動を行い、目的の組換えプラスミドを同定した。シーケンシングによって、挿入した断片の方向と挿入部位を確認し、ポジティブクローンを同定した。組換えpShuttle 2プラスミドDNA(以下、「rpShuttle2プラスミドDNA」という。)をターゲット細胞に直接にトランスフェクトし、ウエスタンブロットを行って目的タンパク質の発現を予備的にチェックした。
【0082】
(3−3)rpShuttle 2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化
上記のようにして作製したrpShuttle2 プラスミドDNAから、導入した遺伝子の発現カセットをPI-Sce I及びI-Ceu Iで切り出した。キットに添付されたプロトコルに記載されたin vitroライゲーション法に従って、切り出した発現カセットをAdeno-X Viral DNAに組み込んだ。rpShuttle 2プラスミドDNAのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化液を30μl調製し、下記の表1に記載した試薬を1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れて混合した。
【0083】
【表1】
【0084】
次いで、十分に混和した後にマイクロ遠心チューブに入れて軽く遠心し、その後、37℃にて3時間インキュベートした。1kbラダー(DNAサイズマーカー)と共に上記二重消化後の反応液(5μL)を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
【0085】
(3−4)フェノール:クロロホルム:イソアミルアルコール抽出
遠心チューブに、上述した二重消化液の残り(25μl)に、70μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。次いで、微量遠心機を用いて、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。ここに、400μLの95%エタノール、25μLの10M 酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を添加し、ボルテックスで十分に撹拌した。
【0086】
次いで、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、上清を吸引して除去し、ペレットを得た。このペレットに300μLの70%エタノールを加え、室温にて14,000rpmで2分間遠心した。上清を注意深く吸引して除去し、ペレットを室温にておよそ15分間風乾した。
ペレットが乾燥した後に、これを10μLの滅菌した1×TE Buffer(pH8.0)に溶解し、使用するまで−20℃にて保存した。
【0087】
(4)組換えAdeno-X プラスミドDNAの構築
(4−1)Adeno-X ウイルスゲノムへの発現カセットのサブクローニング
下記の表2に示す試薬を、順番通りに1.5mLの滅菌済マイクロ遠心チューブに入れ、穏やかに混和し、軽く遠心した後に、16℃にて一晩インキュベートした。
【0088】
【表2】
【0089】
各サンプルに、90μLの1×TE Buffer(pH8.0)と100μLのPCI混液とを加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。4℃にて14,000 rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移し、ここに400μLの95%エタノール、25μLの10M酢酸アンモニウム、及び1μLのグリコーゲン(20mg/mL)を加えて、ボルテックスで穏やかに撹拌した。
【0090】
4℃にて5分間、14,000rpmで遠心し、上清を吸引により除去してペレットを得た。以下のエタノール沈殿操作は、上記(3−4)と同様に行った。ペレットが乾燥した後に、これを15μLの滅菌脱イオン水に溶解した。
【0091】
(4−2)組換えAdeno-X プラスミドDNAのSwa I消化
下記表3に示す消化液を調製し、遠心チューブに入れた各サンプルに加えて、2時間、25℃にて、インキュベートした。
【0092】
【表3】
【0093】
各サンプルに、80μLの1×TE Buffer(pH 8.0)と100μLのPCI混液とを加え、ボルテックスで穏やかに撹拌した。マイクロ遠心チューブ、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に行い、ペレットの溶解液は使用まで−20℃にて保存した。
【0094】
(4−3)組換えAdeno-XプラスミドDNAによる大腸菌の形質転換の確認
エレクトロポレーション用コンピテントセル(大腸菌)を、Supercharge EZ10Electrocompetent Cell(製品コード 636756)を使用して、上記(4−2)で得たSwa I消化産物で形質転換した。形質転換混合液を、LB培地にアンピシリン(終濃度100μg/mL)を加えた寒天プレート(以下、「LB/Amp寒天プレート」という。)に接種し、37℃で一晩インキュベートした。アンピシリン耐性(Ampr)形質転換体として、約10
6個のコロニーを得た。得られたコロニーを、製品に付属のAdeno-X System PCR Screening Primer Setでチェックした。
【0095】
5mLの新鮮なLB/Amp液体培地に単一のコロニーからの菌体を接種し、一晩培養した。翌日、後述するミニスケール法に従って、Adeno-X プラスミドDNAを精製した。
【0096】
(4−4)組換えAdeno-XプラスミドDNAのミニスケール調製
対数増殖にある培養液5mLを、14,000rpmで30秒間遠心し、上清を除去した。ペレットを再度10,000rpmで1分間遠心し、マイクロピペットを用いて、上清を除去した。ここに、150μLの上記バッファー1を加えて穏やかにピペッティングし、再懸濁した。この細胞懸濁液に、150μLのバッファー2を添加し、穏やかに転倒混和し、氷上に5分間放置した。冷却した細胞懸濁液に、150μLのバッファー3を加えて、再度転倒混和し、氷上に5分間放置した。
【0097】
この細胞懸濁液を、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、透明な上清を清浄な1.5mLの遠心チューブに移した。この上清に、450μLのPCI混液を添加し、転倒混和して撹拌した。その後、4℃にて14,000rpmで5分間遠心し、水層を清浄な1.5mLのマイクロ遠心チューブに移した。
【0098】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(4−1)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。目的のrDNAは、後述する制限酵素による解析及びPCRにより同定した。
【0099】
(5)得られたrAdeno-XプラスミドDNAの制限酵素部位解析
PI-Sce I及びI-Ceu Iを用いて解析を行った。下記の表4に示す試薬を、1.5mLの滅菌済みマイクロ遠心チューブに入れ、30μLのPI-Sce I/I-Ceu I二重消化反応液を加えて、十分に撹拌し、軽く回転させて内容物を集めた。
【0100】
【表4】
【0101】
37℃にて3時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。この処理後の反応液を1%アガロース/EtBrゲルで泳動した。
【0102】
(6)組換えアデノウイルスの産生
(6−1)HEK293細胞トランスフェクト用rAdeno-XプラスミドDNAの調製
下記表5に示す試薬等を、1.5mLの滅菌済み遠心チューブに入れて混合し、微量遠心機で軽く遠心した。その後、37℃にて2時間、インキュベートし、rAdeno-XプラスミドDNAのPac I制限酵素処理を行った。
【0103】
【表5】
【0104】
60μLの1×TE Buffer(pH 8.0)と、100μLのPCI混液とを添加し、ボルテックスで穏やかに撹拌し、微量遠心機で、4℃にて5分間、14,000rpmで遠心した。水層を、清浄な1.5mLの滅菌済み遠心チューブに注意深く移した。
【0105】
以下のエタノール沈殿の操作は、上記(3−4)と同様に操作を行い、ペレットの溶解液は、使用まで−20℃にて保存した。
(6−2)Pac I消化Adeno-XプラスミドDNAのHEK293細胞へのトランスフェクション
上記プラスミドDNAのトランスフェクションの24時間前に、直径60mmの培養プレートあたりの細胞数が1〜2×10
6(およそ100cells/mm
2)になるよう、HEK293細胞を接種し、37℃、5%CO
2存在下でインキュベートした。
【0106】
各培養プレートに、Pac I消化した10μLのAdeno-XプラスミドDNAをトランスフェクトし、標準的なトランスフェクション法(CalPhos Mammalian Transfection Kit 製品コード 631312、タカラバイオ(株)製)に従って、HEK293細胞にAdeno-X DNAを導入した。トランスフェクションの翌日から、CPE(細胞変性効果)が起きているかどうかを確認した。1週間後に、培養プレートの底面や側面に付着している細胞を穏やかに撹拌して遊離させた。得られた細胞懸濁液を15mLの滅菌済みの円錐遠心チューブに移し、室温にて5分間、1,500×gで遠心した。
【0107】
得られた沈殿を、500μLの滅菌PBSに懸濁した。ドライアイス/エタノール中で凍結させ、37℃の恒温槽で融解させるという凍結融解操作を3回繰り返して、細胞を十分に融解させたライセートを得た。次いで、軽く遠心して浮遊物を除き、上清を滅菌した別のチューブに移して、直ちに使用した。直ちに使用しない分は、−20℃で保存した。60mmプレートの培養細胞に250μLの上記ライセートを加えて、培養を続けた。なお、Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028、タカラバイオ(株)製)に含まれる抗Hexon 抗体を用いて、このキットの取扱説明書(PT3651-1)に従い、アデノウイルスの力価を測定した。
【0108】
(6−3)高力価ウイルス調製のためのウイルスの増幅
この力価測定を始める約24時間前に、HEK293細胞をT75フラスコに接種し、37℃、5%CO
2存在下で一夜培養し、50〜70%コンフルエントになっていることを確認した。
翌日、ウイルスを含む新しい培地と交換し、MOI=10で感染させた。37℃、5%CO
2存在下で90分間培養した後にフラスコを取り出し、10mLの培地を加えた。
【0109】
37℃、5%CO
2存在下で3〜4日間培養し、CPEを確認した。50%の細胞が剥がれたところで、上記と同様にして遊離細胞懸濁液とし、15mLの滅菌済円錐遠心チューブに移した。上記と同様の凍結融解操作を行い、細胞を融解させた。Adeno-X Rapid Titer Kit(製品コード 631028)を使用し、10
7PFU/mLの力価を得た。ウェスタンブロッティングを行い、パッケージングされたアデノウイルスゲノムが、目的遺伝子に特異的な転写単位のコピーを、機能する形で持っているかを確認した。
【0110】
(7)標的細胞へのアデノウイルス感染
(7−1)標的細胞への感染
感染の24時間前に6−ウェルプレートに1×10
6個のSHEDを接種した。接種の翌日に培地を取り除き、ウイルスを含む1.0mLの培地を各プレートの中心に添加した。この溶液をSHEDが形成した単層全体に均一に広げた。
【0111】
37℃、5% CO
2存在下で4時間培養し、ウイルスをSHEDに感染させた。次いで、新鮮な培地を添加し、さらに、37℃、5%CO
2存在下で培養した。感染24時間後〜48時間後にかけて導入遺伝子の発現を経時的に解析した。
【0112】
(7−2)感染細胞のβ--ガラクトシダーゼ発現の解析
Adeno-X-lacZを感染させた接着性細胞におけるβ--ガラクトシダーゼの発現は、Luminescent β-galDetection Kit II(製品コード 631712、クロンテック社製)を使用してアッセイした。
【実施例2】
【0113】
(1)SHEDの作製
10歳の健常男児から得られた脱落乳歯を使用した。この脱落乳歯をイソジン溶液で消毒した後、歯科用ダイヤモンドポイントを用いて、歯冠を水平方向に切断し、歯科用リーマーを用いて歯髄組織を回収した。得られた歯髄組織を、3mg/mLのI型コラゲナーゼ及び4mg/mLのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。ついで、この溶液を70mmの細胞ストレーナ(Falcon社製)を用いて濾過した。
【0114】
濾別した細胞を、4mLの上記培地に再懸濁し、直径60mmの付着性細胞培養用ディッシュに播種した。10%FCSを含有するDMEM(Dulbecco's Modified Eagle's Medium)をこのディッシュに添加し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータにて2週間程度培養した。コロニーを形成した接着性細胞(歯髄幹細胞)を、0.05%トリプシン・0.2mM EDTAにて5分間、37℃で処理し、ディッシュから剥離した細胞を回収した。
【0115】
次に、上記のようにして選抜した接着性細胞を、付着性細胞培養用ディッシュ(コラーゲンコートディッシュ)に播種し、5%CO
2、37℃に調整したインキュベータ中にて、一次培養し初代培養細胞とした。肉眼観察でサブコンフルエント(培養容器の表面の約70%を細胞が占める状態)又はコンフルエントになったときに、0.05%トリプシン・0.2mM EDTAにて5分間、37℃で処理して細胞を培養容器から剥離して回収した。こうして得られた細胞を、再度、上記の培地を入れたディッシュに播種し、継代培養を数回行って、約1×10
7個/mLまで増殖させた。得られた細胞を、液体窒素中で保存した。
【0116】
その後、一次培養細胞を上記の培地を用いて約1×10
4細胞/cm
2濃度で継代培養した。1〜3回継代した細胞を実験に用いた。ヒトBMMSC(骨髄間葉系幹細胞、Bone Marrow Mesenchymal stem cells)はロンザ社から購入し、メーカーの取扱説明書に従って培養した。以上のようにして、ヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(SHED)を得た。得られたSHEDを、FACSTARPLUS (ベクトン・ディキンソン社製)を用いて、各試料について、約1×10
6個のSTRO-1陽性細胞を以下のようにしてソートした。
【0117】
ブロモデオキシウリジンBrdU染色キットのメーカー(Invitrogen社製)の取扱説明書に従いBrdUを12時間取り込ませ、SHEDの増殖速度を評価した(各群についてn=3)。実験は5回繰り返した。1元配置分散分析後に、Tukey-Kramer検定を行い、統計的有意差を評価した。
【0118】
STRO-1を免疫蛍光で検出するために、SHEDを3%パラホルムアルデヒドで固定し、その後PBSで2回リンスし、100 mMのグリシンで20分間処理した。次いで、これらの細胞を0.2%のTriton-X(Sigma-Aldrich社製)で30分間透過処理し、その後、5%のロバ血清及び0.5%のウシ血清アルブミンの混合物中で20分間インキュベートした。
【0119】
次に、細胞を一次抗体のマウス抗ヒトSTRO-1抗体(1:100、R&D社製)と一緒に1時間インキュベートし、二次抗体のヤギ抗マウス免疫グロブリンM-FITC抗体(1:500、Southern Biotech社製)と一緒に30分間インキュベートし、ベクタシールドDAPI(Vector Laboratories Inc.)を用いてマウントした。その後、15%FBSを添加したα-MEMを6ウェルプレートに入れ、ソートした細胞をクローン作製用に播種した。増殖した細胞の中から約300コロニーを試験用にプールした。
【0120】
(2)遺伝子の導入
上述したように、bmi-1, E6, E7及びhTERTの4つの遺伝子をアデノウイルスベクターに組み込み、これらの遺伝子産物を発現するウイルスベクターを作製した。対照として、これらの遺伝子を組み込んでいない対照ベクターを作製した。
【0121】
SHEDを直径100mmのコラーゲンコートディッシュに1×10
6個を播種し、10%FBSを添加したDMEMを加えてサブコンフレントまで培養した。この培地を吸引除去して上記培地で希釈したウイルス溶液500μLを加え(MOI=10)、37℃にて、5%CO
2インキュベータ中で1時間培養し、上記ウイルスベクターを感染させた。感染48時間後、ピューロマイシン(1pg/mL)を加えた上記の培地中に感染細胞を移して10日間培養して選択し、500〜600個の耐性クローンをプールした。3〜4日ごとに約0.5×10
5個のSHEDを直径100mmの培養シャーレに播種し、継代した。遺伝子が導入されたSHEDをSHED-T、遺伝子が導入されないSHEDをSHED-Cとした。
【実施例3】
【0122】
(1)SHED-C及びSHED-Tの成長速度の測定
SHED-T(遺伝子導入をしたSHED)の個体数の倍加状態を、
図5に示した。図中、縦軸は個体数倍化回数(細胞分裂回数)、横軸は時間(培養日数)である。また、培養中のSHEDが1ヶ月間分裂しない状態を、細胞の老化の判断基準とした。SHED-Cは30回程で増殖が停止し、老化又は増殖停止段階に入った。これに対し、SHED-Tは250PDを超え、800日経過後も増殖した。
【0123】
(2)フローサイトメトリー分析
単一細胞の懸濁液を得るため、接着性の単層細胞をトリプシン/EDTAで消化した。2x10
5個の細胞に抗STRO-1モノクローナル抗体(1:100)を加えて放置し、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson社製)を使用して分析した。対応するアイソタイプが同一の対照抗体と比較し、99%以上の割合で蛍光レベルが高い場合に発現が陽性とした。SHED-T及びSHED-Cともに、初期及び後期の継代細胞を固定し、FITC結合STRO-1抗体で染色した。その後、フローサイトメトリーで分析した。試験はそれぞれ二回行なった。SHED-CではSTRO-1陽性細胞の割合がPD20で27%であり、PD30では15%まで減少した(
図6(A)及び(B))。SHED-TではSTRO-1陽性細胞の割合が、それぞれPD20で46%、PD40で41%であった(
図6(C)及び(D))。
【0124】
(3)分化能の検討
PD0、PD10及びPD20におけるSHED-C及びSHED-Tの分化能を、新生骨量の形成能及び組織染色で調べた。まず、2.0 x 10
6個のSHED-C又はSHED-Tを、40mgのヒドロキシアパタイト/三カルシウムリン酸(HA/TCP)セラミック粉末(オリンパス工業(株)製)に混合し、10週齢の免疫無防備状態マウス(NIH-bgnu-xid, 雌、Harlan Sprague Dawley社製)の背側表面の皮下に移植した。
【0125】
移植8週間後に移植物を回収し、4%ホルマリンで固定して脱灰した後、パラフィン包埋するため10%EDTAを含むPBS溶液でバッファリングした。一部は、プラスチック包埋するために70%エタノール溶液中に保存した。
【0126】
パラフィン切片を脱パラフィン化し、これを水和した後、ヘマトキシリン及びエオシン(以下、「H&E」という。)で染色した。
図7(A)〜(C)は、SHED-T(不死化幹細胞)のPD0〜PD20の染色像を示し、同(D)〜(F)はSHED-C(正常細胞)のPD0〜PD20の染色像を示す。生体内での新しい骨の形成を定量するため、特定の領域を選び、SHED-T移植後に形成された移植物又はSHED-C移植後に形成された移植物それぞれについて、新生骨面積と視野面積とを算出し、これらの数値から新生骨量を求めた。
新生骨量=新生骨面積/視野面積×100
【0127】
図8に各個体数倍加回数(倍加時間)における、SHED-TとSHED-Cとの新生骨量の変化を示した。図中、**はp<0.05、***はp<0.01を表す。なお、新生骨量は、以下の算出式で求めた。
図8に示されるように、SHED-Cでは個体数倍加回数が増えるについて新生骨量が減少し、PD20ではPD0の約1/5まで低下した。これに対し、SHED-Tでは、PD20まで新生骨量はほとんど変動がなく、PD20では、SHED-TはSHED-Cの5倍以上の骨を形成したことが示された。
【0128】
(4)癌化活性の評価
SHED-C及びSHED-T細胞を、免疫無防備状態マウスの皮下組織に、1×10
6を個移植した。移植後、30日以上観察を行ったが、この期間中、上記の細胞を移植したいずれのマウスにおいても、腫瘍は形成されなかった。また、SHED-T細胞では、40〜200PDの培養細胞のすべてのクローンの形態に変化はなかった。以上より、SHED-Tには、癌化活性はないことが示された。
【0129】
(5)評価
SHED-Tは、260PDを超えても分化能力を保ったまま増殖する能力を有していることが示されたが、SHED-Cは、分化能力を有するものの30PD以下で老化した。
以上から、SHED-Tは不死化幹細胞となっており、活性の高いSHED培養上清の大量生産に適することが示された。
【実施例4】
【0130】
(1)創傷被覆用シートの作製
まず、厚さが約30μmの弾性材料から成るテープ状の母材にパンチ加工を施して、ベースシートを作製した。ここで、パンチ加工により形成される貫通孔の径を約0.2mmとし、貫通孔の配置の格子間隔を約2mmとした。
【0131】
次に、ベースシート11の一方の表面上に、厚さが約80μmの粘着層12を形成した後、ベースシート11側とは反対側の粘着層12の表面に、上述した培養上清の凍結乾燥粉末を配置した。引き続き、ベースシート11の他方の表面に接着補助層を接着して、創傷被覆剤を作製した。そして、作製された創傷被覆剤における粘着層の露出表面に、非接着性シート状部材を接着させた後、所望の大きさにカットして本発明の創傷被覆用シートを作製した。
【0132】
(2)創傷被覆剤の貼付
以上のようにして作製した創傷被覆用シートにおける非接着性シート状部材を剥がした後に、露出した粘着層表面を指部に密着させることにより、本実施例の創傷被覆剤を指部の皮膚に貼付した。そして、創傷被覆剤における接着補助層をベースシートから剥がした。かかる状態でのデジカメによる撮影を行なった結果を
図9(A)に示す。この
図9(A)では、白色点線円内が貼付部位となっている。
【0133】
なお、
図9(B)に、
図9(A)に示す貼付状態とされる前における当該貼付部位の外観を示している。
図9(A)と
図9(B)とを比べて分るように、本実施例の創傷被覆剤を指部の皮膚に貼付した後に接着補助層をベースシートから剥がした状態では、接着物(貼付物)を使用していることが目立たないことが確認された。
【0134】
また、
図10〜11に、本実施例の創傷被覆剤の貼付前の創傷部位の様子(
図10(A),
図11(A))と、貼付後約3日を経過した時点での当該創傷部位の様子(
図10(B),
図11(B))とを、デジタルカメラで撮影した結果を示す。
【0135】
ここで、
図10には、中指の第1関節周辺の創傷の様子が示されている。本実施例の総称被覆剤の貼付前である
図10(A)では、上記第1関節周辺から爪に渡る部分がかなり荒れてひびわれと小さなあかぎれができていることが観察された。これに対し、貼付後の同(B)では、第1関節に観察されたあかぎれは治癒しており、爪の周辺のひびわれも改善されていることがわかる。
【0136】
また、本実施例の総称被覆剤の貼付前である
図11(A)では、中指の付け根のひびわれ、あかぎれ等が形成されていること、及びこの創傷の周囲の皮膚がかなり荒れていることが観察された。これに対し、貼付後の同(B)では、かさぶたはなくなって、もっとも大きなあかぎれの跡が少し残っているが、ひびわれや創傷の周囲の皮膚が綺麗に修復されていることが観察された。
【0137】
図10(A),
図11(A)と、
図10(B),
図11(B)とを比べて分るように、本実施例の創傷被覆剤の貼付により、迅速に創傷が改善されていることが明らかになった。以上より、本発明の創傷被覆剤を貼付した部位では、創傷の治癒が促進されることが確認された。