【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0033】
製造例1 繊維状水酸アパタイト(f-HAp)の合成
(1) 試薬
使用した試薬を以下に示す。
・硝酸カルシウム四水和物 Ca(NO
3)
2・4H
2O (和光純薬工業株式会社 特級)
・リン酸水素二アンモニウム (NH
4)
2HPO
4 (和光純薬工業株式会社 特級)
・尿素 (NH
2)
2CO (和光純薬工業株式会社 特級)
・硝酸 HNO
3(和光純薬工業株式会社 特級)
※上記の試薬は精製せず、そのまま用いた。
・エタノール C
2H
5OH (日本アルコール販売株式会社)
※上記の試薬は常圧蒸留により精製して使用した(b.p.:78℃)。
【0034】
(2) 合成
合成は、既報(Aizawa, M.; Howell, F, S.; Itatani, K.; Yokogawa, Y.; Nishizawa, K.; Toriyama, M.; Kameyama, T. J. Ceram. Soc. Jpn. 2000, 108, 249;Aizawa, M.; Poter, A, E.; Best, S, M.; Bonfield, W. Biomaterials 2000, 26, 3427)を参考に行った。硝酸カルシウム四水和物39.44 g(0.1670 mol/L)、尿素30.02 g(0.4998 mol/L)をそれぞれ量り取り、ビーカーで精製水に溶解した(溶液1)。リン酸水素二アンモニウム13.20 g(0.09995 mol/L)をビーカーで精製水に溶解したものに、硝酸9 mLを加えて攪拌した(溶液2)。溶液1及び2を1Lの精製水で希釈した。中央に還流冷却管、片側に温度計を取り付けた三つ口セパラブルフラスコ内に試料溶液を入れ、セパラブルフラスコをテフロン(商標)テープで固定し、アルミブロック中で合成を行った。80℃で24時間加熱し、続いて90℃で72時間加熱することによりリン酸オクタカルシウム(OCP)含有f-HApを合成した。合成終了後、セパラブルフラスコ内の側面に付着した硬い粒子を除去して繊維状の柔らかいf-HApをビーカーに移し、精製水400cm
3で2回、エタノール400 mLで2回穏やかに攪拌して洗浄し、吸引ろ過により回収した。
【0035】
製造例2 水酸アパタイト多孔体(p-HAp)の作製
前記製造例1で得たf-HApを細かく裂いて、その1.2 gを量りとり、成形器に入れた。これを15-20MPaで一軸加圧成形し、円板状成形体(直径約20 mm、厚さ約2.0 mm)を作製した。作製した成形体を、光洋サーモシステム社製1700℃ボックス炉KBF314Nを用いて1200℃で5時間焼成し、p-HApを得た。焼成したp-HApは放冷し、室温まで冷却した。焼成条件を以下に示した。
[焼成条件]
焼成温度:1200℃
焼成時間:5時間
昇温、降温速度:10 ℃/min
【0036】
製造例3 ジオール型オリゴ乳酸の合成
(1) 試薬
使用した試薬を以下に示す。
・ジ(2-エチルヘキサン酸)スズ(II) (Stannous octoate, Sn(Oct)
2;Alfa Aesar technical grade)
※市販品をそのまま用いた。
・トルエン (和光純薬工業株式会社 特級)
※溶媒精製装置 (ミツワ理化学工業株式会社、Glass Contour)で精製したものをアルゴン置換したのちに使用した。
【0037】
(2) 合成
【0038】
【化2】
(上記式中、nはそれぞれ独立に約2〜約150である)
【0039】
合成は既報(Wang, L.; Jing, X.; Cheng, H.; Hu, X.; Yang, L.; Huang, Y. Ind. Eng. Chem. Res. 2012, 51, 10731-10741.;Nakayama, Y.; Yamaguchi, R.; Tsutsumi, C.; Shiono, T. Polym. Degrad. Stabil. 2008, 93, 117-124;Lee, J.; Bae, Y. H.; Sohn, Y. S.; Jeong, B. Biomacromolecules 2006, 7, 1729-1734)を参考に行った(スキーム1)。両末端が水酸基である1,6-ヘキサンジオール−オリゴ乳酸(HD-OLLA)の合成を表1の仕込み比により行った。L−ラクチド(LLA)、1,6-ヘキサンジオール、オクチル酸スズ(Sn(Oct)
2)をグローブボックス内で重合管に仕込んだ後、重合管を真空ラインにつなぎ、真空脱気を4回繰り返して十分反応溶液中の空気を除いたのちに、シェイカーを用いて80℃で24時間加熱撹拌した。重合管内のトルエン溶液中に含まれる白色の副生成物を除去するために孔径0.1μmの疎水性メンブランフィルター(T010A047A)を用いて吸引ろ過を行った。その後、合成したHD-OLLAを含むろ液をメタノールに2回再沈殿を行った。生成した白色沈殿を孔径0.1μmの疎水性メンブランフィルター(T010A047A)を用いて吸引ろ過してサンプル瓶に回収し、40℃で一晩減圧乾燥することで、表1に示すとおりHD-OLLA-1〜5を得た。
【0040】
【表1】
【0041】
(3) 同定・評価
上で得られたHD-OLLAの同定・評価を以下のとおり行った。
(ア)
1H NMR測定
HD-OLLA-1の
1H NMR測定の結果を
図1及び2に示した。HD-OLLAの(a)-(e)に起因するピークを観察した。積分比の実測値は理論値と一致した。
図1より、4.35 ppmに末端OH基に隣接するメチン基に起因するピークを観察した。
図2においてピーク(c)は1,6-ヘキサンジオールで観察された3.75 ppm付近(データは示さない)から4.13 ppm付近にシフトしたことから、1,6-ヘキサンジオールはオリゴ乳酸と結合していることがわかった。
【0042】
HD-OLLA-1〜5は、いずれも以下の構造式で表され、nが異なる、すなわち分子量が異なるだけである。
【化3】
(式中の(a)-(e)はそれぞれ
1H NMRスペクトル中のピークに対応し;nはそれぞれ独立に約2〜約150である)
【0043】
(イ) FT-IR測定
HD-OLLA-1のFT-IR測定の結果を
図3に示した。帰属は表2に示した。3,020-2,920 cm
-1にC-H伸縮振動、1,740 cm
-1にC=O伸縮振動、1,450及び1,360 cm
-1にC-H変角振動、1,180-1,050 cm
-1にC-O伸縮振動に起因するピークを観察した。これより、HD-OLLAの合成を確認した。
【0044】
【表2】
【0045】
(ウ) ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
HD-OLLA-1〜5のGPC測定の結果を表3に示す。重量平均モル質量(Mw)が5,000 gmol
-1程度、分散度(Mw / Mn)が1.12-1.17となり、分子量の制御が可能であった。なお、Mnは数平均分子量を表す。
【0046】
【表3】
【0047】
(エ) 示差熱熱重量同時測定(TG-DTA測定)
図4にHD-OLLA-1のTG-DTA測定の結果を示す。HD-OLLA-1の熱分解温度は222℃であった。
【0048】
(オ) 示差走査熱量(DSC)測定
HD-OLLA-1のDSC測定の結果を
図5に示した。HD-OLLA-1の結晶化エンタルピーは-35.5mJmg
-1、融解エンタルピーは14.2 mJmg
-1であり、結晶化度は20.9%であった。
【0049】
なお、本発明において、結晶化度は、既報(辻秀人、筏義人, ポリ乳酸 -医療・製剤・環境のために-, 株式会社高分子刊行会, 1997, 37, 64, 65)に従い、DSC測定より以下の式で求めた。
【数1】
Xc:結晶化度(%)
ΔHc:結晶化エンタルピー (J g
-1)
ΔHm:融解エンタルピー (J g
-1)
ΔHm
(100%):完全結晶融解エンタルピー
C
PLLA: 複合体中のPLLA導入率 (%)
これより、ΔHmの理論値であるポリ(L−乳酸)(PLLA)のΔHm(100%)は、既報(Kobayashi, A.; Uyama, H.; Ohmae, M. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2001, 74, 613)により93 mJ mg
-1 である。これを用いて結晶化度を算出した。
【0050】
製造例4 イソシアネート−ポリ(L乳酸)複合体
(1) 試薬
使用した試薬を以下に示す。
・1,4-フェニレンジイソシアネート (東京化成工業株式会社)
※市販品をそのまま用いた。
・ポリメリックメチレン ジフェニルジイソシアネート (Ardrich)
※市販品をそのまま用いた(Mw=1,000、Mw/Mn=1.55)。
【0051】
(2) 合成
【0052】
【化4】
(上記式中、nはそれぞれ独立に約2〜約150であり、mはそれぞれ独立に約5〜約15であり、合成条件によっては、100程度まで可能である)
【0053】
【化5】
(上記式中、nはそれぞれ独立に約2〜約150であり、mはそれぞれ独立に約5〜約15であり、合成条件によっては、100程度まで可能である)
【0054】
イソシアネートとして1,4-フェニレンジイソシアネート(PDI)及びポリメリックメチレン ジフェニルジイソシアネート(PMDI)をそれぞれ用いたHD-OLLAの鎖長伸長による1,4-フェニレンジイソシアネート−ポリ(L−乳酸)複合体(PDI-PLLA)及びポリメリックメチレン ジフェニルジイソシアネート−ポリ(L−乳酸)複合体(PMDI-PLLA)の製造を行った(スキーム2及び3)。グローブボックス内で10mLナスフラスコに製造例3の方法に従って得た、Mnが4100〜4700、Mwが4800〜5300の範囲のHD-OLLAを加え、アルミブロック180℃でHD-OLLAが完全に融解するまで攪拌した。その後、PDI又はPMDIを加え、10分間加熱撹拌を行うことで鎖長伸長を行った。仕込み比を表4に示した。得られた複合体をクロロホルムに溶解させた後にメタノールに再沈殿した。生成した白色沈殿を孔径0.1μmの疎水性メンブランフィルター(T010A047A)を用いて吸引ろ過してサンプル瓶に回収し、40℃で一晩減圧乾燥することで、表4に示すとおりPDI-PLLA-1〜2及びPMDI-PLLA-1〜2を得た。
【0055】
【表4】
【0056】
(3) 同定・評価
上で得られたPDI-PLLA又はPDI-PLLAの同定・評価を以下のとおり行った。
(ア)
1H NMR測定
PDI-PLLA-2の
1H NMRの結果を
図6及び7に示す。HD-OLLA由来の(a)-(c)のピークが観察された。既報(Balaji, S.; Sharad, P. Adv. Mat. Lett. 2012, 3, 161-171)より、芳香環と結合したウレタン結合のN-Hに起因するピークは6.7-6.8 ppm付近に観察されることが報告されている。
図7においてPDI-PLLA-2のウレタン結合に起因するピーク(d)が観察されたことからPDI-PLLAの合成を確認した。
【0057】
PDI-PLLA-1及び2は、いずれも以下の構造式で表され、n又はmが異なる、すなわち分子量が異なるだけである。
【化6】
(式中の(a)〜(d)はそれぞれ
1H NMRのスペクトル中のピークに対応し、nはそれぞれ独立に約2〜約150であり、mはそれぞれ独立に約5〜約15であり、合成条件によっては、100程度まで可能である)
【0058】
PMDI-PLLA-2の
1H NMRの結果を
図8及び9に示す。HD-OLLA由来の(a)-(c)のピークに加え、6.8 ppm付近にPMDI-PLLA-2のウレタン結合に起因するピーク(e)が観察されたことからPMDI-PLLAの合成を確認した。
【0059】
PMDI-PLLA-1及び2は、以下の構造式で表され、n又はmが異なる、すなわち分子量が異なるだけである。
【化7】
(式中の(a)〜(e)はそれぞれ
1H NMRのスペクトル中のピークに対応し、nはそれぞれ独立に約2〜約150であり、mはそれぞれ独立に約5〜約15であり、合成条件によっては、100程度まで可能である)
【0060】
(イ) FT-IR測定
PDI-PLLA-2及び比較としたその合成に使用したHD-OLLAのFT-IR測定の結果を
図10に、帰属は表5に示した。帰属は既報(Irusta, L.; Iruin, J. Vib. Spectroc. 2005, 39, 144-150)を参考に行った。PDI-PLLA-2のウレタン結合に起因するN-H伸縮振動のピークを3,400-3,300 cm
-1に、N-H変角振動のピークを1,530 cm
-1付近に観察した。HD-OLLAに起因するC-H伸縮振動のピークを3,000-2,960 cm
-1に、C=O伸縮振動のピークを1,750 cm
-1に、C-H変角振動のピークを1,450及び1,360 cm
-1に、C-O伸縮振動のピークを1,180-1,080 cm
-1に観察した。これより、PDIによるHD-OLLAの鎖長伸長を確認した。
【0061】
【表5】
【0062】
PMDI-PLLA-2及び比較としたその合成に使用したHD-OLLAのFT-IR測定の結果を
図11に、帰属は表6に示した。PMDI-PLLA-2のウレタン結合に起因するN-H伸縮振動のピークを3,400-3,300 cm
-1に、N-H変角振動のピークを1,530 cm
-1 付近に観察した。HD-OLLAに起因するC-H伸縮振動のピークを3,000-2,960 cm
-1に、C=O伸縮振動のピークを1,750 cm
-1に、C-H変角振動のピークを1,450及び1,360 cm
-1に、C-O伸縮振動のピークを1,180-1,080 cm
-1に観察した。これより、PMDIによるHD-OLLAの鎖長伸長を確認した。
【0063】
【表6】
【0064】
(ウ) ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
PDI-PLLA-1及び-2ならびにPMDI-PLLA-1及び2のGPC測定の結果を表7に示す。いずれのサンプルにおいても、合成に用いたHD-OLLAの分子量よりも大きい分子量となっていたため、HD-OLLAの鎖長伸長が確認された。PDIを用いて合成したサンプルはPMDIを用いたサンプルと比較して分子量が大きい傾向にあった。
【0065】
【表7】
【0066】
(エ) 示差熱熱重量同時測定(TG-DTA測定)
図12にPDI-PLLA-2のTG-DTA測定の結果を示す。PDI-PLLA-2の熱分解温度は241℃であり、HD-OLLAと比較して上昇した。
また、
図13にPMDI-PLLA-2のTG-DTA測定の結果を示す。PMDI-PLLA-2の熱分解温度は251℃であり、HD-OLLAと比較して上昇した。
【0067】
(オ) 示差走査熱量(DSC)測定
PDI-PLLA-2のDSC測定を行い、測定結果を
図14に示した。この測定結果より、製造例3の項目(3)(オ)の場合と同様に、PDI-PLLA-2の結晶化度(Xc)を式(1)より求めた。結晶化度と合わせて融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)をまとめたものを表8に示した。
【0068】
【表8】
【0069】
PMDI-PLLA-2のDSC測定を行い、測定結果を
図15に示した。この測定結果より、製造例3の項目(3)(オ)の場合と同様に、PMDI-PLLA-2の結晶化度(Xc)を式(1)より求めた。結晶化度と合わせて融点(Tm)及びガラス転移温度(Tg)をまとめたものを表9に示した。
【0070】
【表9】
【0071】
製造例5 イソシアネート−水酸アパタイト複合体の作製
(1) 試薬
使用した試薬を以下に示す。
・Tetrahydrofran Super dehydrated (THF 超脱水) (和光純薬工業株式会社、有機合成用)
※市販品をそのまま使用した。
【0072】
(2) 作製
製造例2で得たp-HAp内にイソシアネートを導入した。イソシアネートは吸湿性が高いため、グローブボックス内で50mLのナス形フラスコ内にイソシアネートを超脱水THFに溶解させたものを入れ、得られたイソシアネート溶液中にp-HApを浸漬した。そのナス型フラスコを真空ライン内で液体窒素を用いて凍結し、10
-2 Torrまで真空引きを行った。その後、フラスコ内のイソシアネート溶液を融解した。この操作を3回繰り返すことにより、p-HAp内にイソシアネート溶液を導入した。その後、減圧乾燥することで、表10に示すとおりのPDI-HAp-1〜3及びPMDI-HAp-1〜3を作製した。仕込み比は表10に示した。
【0073】
【表10】
【0074】
製造例6 イソシアネート−ポリ(L−乳酸)/水酸アパタイト複合体の作製
(1) 作製
製造例3の方法に従って得た、Mwが4900〜5400で、Mw/Mnが1.10〜1.19の範囲のHD-OLLAを、製造例5で得たPDI-HAp-1〜3及びPMDI-HAp-1〜3内に導入し、加熱処理を行うことで、1,4-フェニレンジイソシアネート−ポリ(L−乳酸)/水酸アパタイト(PDI-PLLA/HAp)複合体及びポリメリックメチレン ジフェニルジイソシアネート−ポリ(L−乳酸)/水酸アパタイト(PMDI-PLLA/HAp)複合体を作製した。すなわち、真空ラインを用いて50mLナスフラスコ内で上記HD-OLLAを上記イソシアネート−水酸アパタイト複合体内に導入した。ナスフラスコを真空ライン内で液体窒素を用いて凍結させた後、10
-4 Torrまで真空引きを行った。その後、ナスフラスコ内のHD-OLLAを溶融させた。この操作を3回繰り返すことにより、各イソシアネート−水酸アパタイト複合体内にHD-OLLAを導入し、窒素雰囲気下、180℃で10分間塊状重合することにより表11に示すとおりPDI-PLLA/HAp-1〜3及びPMDI-PLLA/HAp-1〜3の複合体を作製した。仕込み比及び反応条件は表11に示した。
【0075】
【表11】
【0076】
(2) 同定・評価
上で得られたPMDI-PLLA/HAp複合体の同定・評価を以下のとおり行った。
(ア)
1H NMR測定
図16にはPMDI-PLLA/HAp-2中のPMDI-PLLAの
1H NMRの測定結果、
図17にはその拡大した結果を示す。製造例4の結果から、PMDIとHD-OLLAが反応し、ウレタン結合を形成すると6.8ppm付近にウレタン結合のプロトンに起因するピークが観察される。
図17より、PMDI-PLLA/HAp-2中のPMDI-PLLAにおいても、ウレタン結合のプロトンに起因するピークが観察されたため、複合体におけるPMDI-PLLAの合成が確認された。
【0077】
(イ) FT-IR測定
PMDI-PLLA/HAp-2のFT-IR測定(ATR法)の結果を
図18に、帰属は表12に示した。PMDI-PLLA/HAp-2及び比較としたHD-OLLA-1のFT-IR測定の結果を
図19に、その拡大図を
図20に示した。PMDI-PLLAのウレタン結合に起因するN-H伸縮振動のピークを3,400-3,300 cm
-1に、N-H変角振動のピークを1,530 cm
-1付近に観察した。HD-OLLAに起因するC-H伸縮振動のピークを3,000-2,960 cm
-1に、C=O伸縮振動のピークを1,750 cm
-1に、C-H変角振動のピークを1,450及び1,360 cm
-1に、C-O伸縮振動のピークを1,180-1,080 cm
-1に観察した。これより、PMDIによるHD-OLLAの鎖長伸長を確認した。
なお、ATR法では、サンプルを乳鉢ですり潰したものを測定試料として用いた。
【0078】
【表12】
【0079】
(ウ) 走査型電子顕微鏡(SEM)観察
SEM台にカーボン両面テープを貼り、サンプルを貼り付け固定した。JEOL JEC-3000FC AUTO FINE COATERを用いてPt蒸着を行い観察試料とした。装置には走査型電子顕微鏡(SEM) (日立製作所 S-4500)を用いた。
[測定条件]
加速電圧 : 1.0-2.0 kV
測定倍率 : 200, 400, 1000倍
W.D. : 5 cm
プローブ電流 : high
コンデンサレンズ : 1
【0080】
図21に、PMDI-PLLA/HAp-2の断面のSEM観察の結果を示した。これよりHAp多孔体中にPMDI-PLLAが充填されていることを確認した。
【0081】
(エ) ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
PMDI-PLLA/HAp-1〜3のPMDI-PLLAのGPC測定の結果を表13に示した。PMDI-PLLA/HAp-1〜3では、いずれの複合体でもHD-OLLAの鎖長伸長が進行しており、PMDI-PLLA/HAp-2において最大の分子量となった。
なお、複合体内のポリマーのPMDI-PLLAの分子量に関しては、複合体の断片をTHFに一晩浸漬しポリマーを溶出させた後に、溶液をサンプレップ (MILLIPORE MillexFH 13, 0.20 μm)をつけたシリンジを用いて濾過し、測定試料として用いた。
【0082】
【表13】
【0083】
(オ) 示差熱熱重量同時測定(TG-DTA測定)
表14、
図22にPMDI-PLLA/HAp-1〜3のTG-DTA測定の結果を示した。なお、
図22にはPMDI-PLLA/HAp-2の結果のみを示した。複合体中のPLLAは500℃以下で全て熱分解するが、HApは残存する。これを利用して、500℃における重量減少率からPMDI-PLLA導入率を算出した。
PMDI-PLLA/HAp-1〜3の熱分解温度(Td)は220℃前後であった。PMDI-PLLAの導入率は10-15%であり、ややばらつきが生じた。これはHD-OLLAの分子量が数千程度であり、溶融しても粘性を有するため、気孔内への導入が難しくなったためである。前述のSEM観察の結果から、p-HAp内がPLLAで充填されている様子を確認できたことから、充填率の減少が複合体に与える影響は小さいと判断した。
【0084】
【表14】
【0085】
(カ) 示差走査熱量(DSC)測定
図23にPMDI-PLLA/HAp-2のDSC測定の結果を示した。これより、製造例3の場合と同様に、各複合体の結晶化度(Xc)を式(1)より算出した。また、PMDI-PLLA/HAp-1〜3中のPLLAの結晶化度とガラス転移温度(Tg)をまとめたものを表15に示した。
【0086】
【表15】
【0087】
試験例1 機械的特性評価
(1) 三点曲げ強度測定
BUEHLER社製 ISOMET(商標)低速切断機を用いて、サンプルを幅2.5 mmに切断し、#600、#1200、#2000の耐水研磨紙(三共理化学株式会社製)で研磨した。その後、エタノールで3分間超音波洗浄を行い、40℃で一晩減圧乾燥した。このサンプルを、A&Dテンシロン万能試験機(RTG-1210)を用いて三点曲げ強度試験を行った。
[測定条件]
クロスヘッドスピード:0.5 mm・min
-1
支点間距離:10 mm
ロードセル容量:1 kN
【0088】
得られた最大荷重より、既報(Aizawa, M.; Howell, F, S.; Itatani, K.; Yokogawa, Y.; Nishizawa K.; Toriyama, M.; Kameyama, Y. J. Ceram. Soc. Japan 2000, 108, 249)に従い、以下の式(2)を用いて三点曲げ強度(σ
f)を求めた。
【数2】
σ
f:三点曲げ強度(Pa)
P:試験片が破壊するまでの最大荷重(N)
S:三点曲げ支点間距離(m)
B:試験片の厚さ(m)
W:試験片の幅(m)
【0089】
上記で得られた最大荷重と変位から、既報(Aoki, H. Ishiyaku Euro America 1994, 2, 176)に従い、以下の式(3)を用いて曲げ弾性率(E)を算出した。
【数3】
E:曲げ弾性率(GPa)
ε:歪み
【0090】
式(2)と式(3)から算出した複合体の三点曲げ強度試験と曲げ弾性率の結果を表16、
図24に示した。比較としてp-HApの三点曲げ試験と曲げ弾性率の結果も記載した。生体骨に類似した曲げ強度と曲げ弾性率はそれぞれ30-190 Mpa、10-18 GPaである(Sa´nchez, V. B. F.; Mathot, G. V.; Poel, J. L. Macromolecules 2007, 40, 7989-7997)。
PMDI-PLLA/HAp-2において最大の曲げ強度、曲げ弾性率となり、それぞれ54±0.26 MPa、8.9±0.17 GPaであった。曲げ弾性率をp-HApと同程度に保ちながら、曲げ強度を向上させることが可能であった。
【0091】
【表16】
【0092】
試験例2 加水分解性試験(接着性試験)
12wellプレートにサンプルを入れ、エチレンオキシドガス(EOG)で滅菌した。測定装置は、全自動酸化エチレンガス滅菌器イオジェルクSA-160 (エルクコーポレーション)を用いた。
[滅菌条件]
コース: B
温度: 40℃
標準トータル時間: 22時間
【0093】
p-HApを用いて作製した各複合体に関して加水分解性試験を行った。複合体を切断して試験片とし、試験片1つ当たりを12wellのマルチプレート上に置き、PBS 2mLに浸漬させ、7日間37℃、5%CO
2を含むインキュベーター内で保管した。1-28日間の浸漬後、試験片をPBSから回収し、室温で一晩減圧乾燥した。PBSは1日置きに交換した。
【0094】
(1) 三点曲げ強度試験
PBS浸漬後の従来のPLLA/HAp複合体、架橋剤を導入したPMDI-PLLA/HAp-2の三点曲げ強度測定の結果をそれぞれ表17及び18ならびに
図25に示す。
図25において従来のPLLA/HAp複合体は、浸漬1日後にp-HApと同程度まで曲げ強度が低下した。一方で、イソシアネートを架橋剤として導入したPMDI-PLLA/HAp-2においてはPBS浸漬後も曲げ強度を維持することが可能であった。
初期強度の差を除くため、
図26には初期強度を100%として算出した曲げ強度の保持率を示す。
【0095】
【表17】
【0096】
【表18】
【0097】
(2) 重量減少測定(電子天秤、TG-DTA測定)
電子天秤により測定したPBS浸漬前後の各浸漬時間における従来のPLLA/HAp複合体、架橋剤を導入したPMDI-PLLA/HAp-2の重量の測定結果を表19及び20ならびに
図27に示す。
従来のPLLA/HAp複合体では、前記の三点曲げ強度試験において観察された機械的強度の低下と同様に、複合体内からのPLLAの流出に伴う重量減少が観察された。一方で、イソシアネートを導入したPMDI-PLLA/HAp-2においては重量減少は観察されなかった。したがって、イソシアネートのPMDIはHApとPLLA界面における架橋剤として機能することが明らかとなった。
【0098】
【表19】
【0099】
【表20】
【0100】
(3) ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定
複合体中のPLLAがHAp気孔内で分解しているか否かを調べるため、GPC測定による複合体中のPLLAの分子量測定を行った。PMDI-PLLA/HAp-2のPBS各浸漬時間に対するMwを表21、
図28に示す。その結果、PMDI-PLLA/HAp-2においては、分子量の低下がほとんど生じておらず、これが機械的強度を保持した要因であると考えられる。
なお、複合体内のポリマーのPLLAの分子量に関しては、複合体の断片をTHFに一晩浸漬しポリマーを溶出させた後に、溶液をサンプレップ (MILLIPORE MillexFH 13, 0.20 μm)をつけたシリンジを用いて濾過し、測定試料として用いた。
【0101】
【表21】
【0102】
試験例3 in vitroにおける複合体の生体適合性評価
(1) 試薬
以下の試薬は精製せず、そのまま用いた。
・新生児C57BL/6 (細胞) マウス頭蓋冠由来の骨芽細胞様樹立株 MC3T3-E1
・Minimum Essential Medium Alpha Medium (α-MEM) (GIBCO)
・牛胎児血清(Fetal Bovine Serum, FBS) (GIBCO)
※市販のものを56℃で30分間加熱し、非働化したものを使用した。
・アクチナーゼ(タンパク質分解酵素) (科研製薬株式会社)
・炭酸水素ナトリウム NaHCO
3 (和光純薬工業株式会社 和光特級)
・0.25%トリプシン (GIBCO)
【0103】
(2) 調製試薬の作製
・α-MEM(+)
正確に超純水1 Lを計りとり、撹拌しながら、Minimum Essential Medium Alpha Medium (α-MEM)粉末を少しずつ添加し、完全に溶解した。そこに炭酸水素ナトリウムを2.2 g加え、完全に溶解した。その後、クリーンベンチ内において、37 ℃に加温した非動化FBSをα-MEM 500 mLに対して55 mL添加し、その溶液をフィルター滅菌することによってα-MEM(+)を調製した。これを培地として用いた。Lot checkは、得られたα-MEM(+)を、6wellマルチウェルプレートに3箇所、各3 mLずつ添加し、37℃、CO
2濃度5%のインキュベーター内で24時間静置した後、OLIMPUS製倒立顕微鏡IX70を用いて細菌の感染がないことを確認した。保存は4℃の冷蔵庫で行った。
・PBS(-)
透析膜(Biotech CE tube 20KD, Spectra/Por)の内側、外側の両面を精製水でよく洗浄し、精製水を加えた1 Lビーカーに浸けてスターラーで2時間攪拌した。
塩化ナトリウム(8.00 g)、塩化カリウム(0.20 g)、リン酸水素二ナトリウム(1.15 g)、リン酸二水素カリウム(0.20 g)をそれぞれ測りとり、精製水1 Lに溶解し、リン酸緩衝溶液(PBS)を作製した。
・アクチナーゼ溶液
クリーンベンチ内で、PBS(-)を50 mL量り取り、それをクリーンベンチの外に出した。攪拌しながら、アクチナーゼを0.05 g添加し、完全に溶解した。得られた溶液はテルモ製シリンジとMILIPORE製滅菌済み0.22 μLサンプレップを用いてフィルター滅菌し、50 mL遠沈管に入れて、4℃で保存した。
【0104】
(3) MC3T3-E1細胞の培養方法
[細胞起こし]
50 mLの遠沈管2本に、それぞれα-MEM(+)を10 mL加えた。凍結保存された1.0×10
6cell mL
-1のMC3T3-E1細胞懸濁液を37℃で解凍し、先の遠沈管のうちの1本に1滴ずつ振り混ぜながら加えた。得られた細胞懸濁液を、1000 rpmで5分間遠心分離した。上澄みを除去した後、1 mLのα-MEM(+)を添加し、細胞を懸濁した。これをもう片方の遠沈管に添加し、十分に懸濁させた後、10 mLシャーレに播種し、37℃、CO
2濃度5%のインキュベーター内で細胞培養を行った。
[培地交換]
インキュベーターからMC3T3-E1細胞の入ったシャーレを取り出し、クリーンベンチ内において、チップのついたアスピレーターでα-MEM(+)を吸引した。その後、37 ℃に予備加温したα-MEM(+) 10 mLをシャーレ内に添加した。培地交換は1日置きに行い、培地交換の前後には、顕微鏡で細胞の形態を確認した。
[継代]
シャーレ中の細胞が70〜90%コンフルエントの状態となったとき、継代を行った。
まず、α-MEM(+)を吸引し、PBS(-) 10 mLを加えて洗浄した。その後、アクチナーゼ溶液を5 mL添加し、インキュベーター内で5 分間静置した。インキュベーターからシャーレを取り出し、α-MEM(+)を5 mL添加して良く懸濁した後、遠沈管に移して1000 rpmで5 分間遠心分離した。上澄みを除去した後、α-MEM(+)を1 mL加えて、細胞を懸濁させた。血球計数板を用いて細胞数を計測し、細胞溶液を2.0×10
4 個/mLになるようにα-MEM(+)で希釈して、10 mLシャーレに播種した。
[凍結保存]
継代と同様の操作により、1.0×10
6 cells/mLの細胞懸濁液を1 mL調製した後、ジメチルスルホキシド(サンプレップにより滅菌したもの)を、懸濁液に10 vol.%となる様に1滴ずつ添加し、分注した。-80℃の冷凍庫で24時間保存した後、液体窒素タンクにて保存した。
【0105】
(4) 初期付着試験
24 wellマルチウェルプレートを用いて、サンプル及びコントロールとしたマルチウェル上で、播種5時間における初期付着試験を行った。
24wellマルチウェルプレートに、EOG滅菌を施した各サンプルを置き、α-MEM(+)を1 mLずつ加え、37℃、CO
2濃度5%のインキュベーターで24時間置くことにより、各サンプルの表面を洗浄した。
3継代目以降のMC3T3-E1細胞を用いて、継代と同様の操作により、5.0×10
4 cells/mLの細胞懸濁液を調製した。細胞懸濁液を0.4 mL、α-MEM(+)を0.2 mLずつ各サンプルに播種した。このときコントロールとしたマルチウェルプレートには細胞懸濁液0.4 mLを播種した。インキュベーター内でこれらの培養を行った。
5時間経過後、インキュベーターからウェルプレートを取り出し、α-MEM(+)を除去し、PBS(-) 1 mLで洗浄した。その後、37 ℃に温めておいたトリプシン溶液をコントロールに0.4 mL、サンプルに0.6 mLを加え、インキュベーターで5分間静置し、細胞を浮遊させた。5分後、等量のα-MEM(+)を添加し、十分に懸濁した。その懸濁液をマイクロチューブに移し、さらに、完全に細胞を移すため、ウェル内をα-MEM(+) 0.2 mLで洗浄し、その懸濁液もマイクロチューブに移した。この溶液を、1000 rpm、5分間遠心分離した。上澄みを除去した後、500μL量のα-MEM(+)を加えて細胞懸濁液を調製し、血球計算盤を用いて細胞数を計測した。
【0106】
計数結果から、相対初期付着率を以下の式より算出した。
【数4】
N
5: 5時間後、基材上に付着している細胞数
N
0: 基材上に播種した細胞数
N
5control: 5時間後、対照試料上に付着している細胞数
N
0control: 対照試料上に播種した細胞数
【0107】
(5) 短期細胞増殖曲線の作成
初期付着試験と同様の方法により、5時間、1、3、5、7日目の細胞数を計測することによって、短期細胞増殖曲線を作成した。
【0108】
本発明における生体適合性評価として、MC3T3-E1細胞を用いた複合体上における初期付着試験と短期細胞増殖曲線の作成を行った。MC3T3-E1細胞は、新生児C57BL/6マウス頭蓋冠由来の細胞であり、ほかの細胞系への分化能をほとんどもたない骨芽細胞様細胞株である。この細胞は、物質代謝、DNA複製・修復、分裂機構、細胞運動など基本的な細胞機能を有し、培養が容易、かつ性質が安定で入手しやすい細胞であるため、既に多くの培養例が報告されている。
初期付着は細胞を播種してから5時間後に材料上に接着している細胞の個数を計数することによって決定した。PMDI-PLLA/HAp-2を用いて骨芽細胞様細胞MC3T3-E1の短期細胞培養試験を行った。実験結果から得られた増殖曲線を
図29に、相対初期接着率及び倍加時間の結果を表22に示した。
その結果、PMDI-PLLA/HAp-2に生体適合性が確認できた。また、データには示さなかったが、PMDI-PLLA/HAp-2はp-HApよりも初期接着率が優れていた。
【0109】
【表22】
【0110】
2種のイソシアネート化合物であるPDI及びPMDIを用いてHD-OLLAの鎖長伸長によるPLLA合成を行った。
1H NMRからウレタン結合の形成が観察され、HD-OLLAの鎖長伸長を確認した。
PDIとPMDIを導入したPLLA/HAp複合体の作製も行った。PMDI-PLLA/HAp複合体においてはHD-OLLAの鎖長伸長が認められた。PMDI-HApのFT-IR測定の結果、PMDIはHApとイソシアネート基を介して相互作用することが明らかとなった。PMDI-PLLA/HAp複合体はp-HApと比較し、同程度の弾性率を保ちながら、高い曲げ強度を獲得した。
PMDI-PLLA/HAp複合体のPBS浸漬による接着性試験を行った。架橋剤を導入していない従来のPLLA/HAp複合体と比較して、架橋剤を導入した本発明の複合体では複合体内からのPLLAの流出、それに伴う複合体の機械的強度の低下を抑制することが確認され、PMDIはHApとPLLA界面の架橋剤として機能した。
PMDI-PLLA/HAp複合体のマウス骨芽様細胞MC3T3-E1細胞を用いた生体適合性試験を行った。当該複合体において細胞の成長が観察された。
以上の試験により、PLLAとHAp界面の接着性に優れた複合体が得られたことが示された。