【解決手段】タンパク質を含む有機物含有材料を有する第1処理床と、硫酸還元菌及び穀物殻を含む生物処理材料を有する第2処理床とを備え、金属イオン及び硫酸イオンを含有する被処理水を、前記第1処理床と前記第2処理床とにこの順で通流させて、前記被処理水から前記金属イオンを除去する被処理水の浄化装置において、水質調整材料を有する水質調整槽をさらに備え、前記水質調整槽、前記第1処理床、前記第2処理床の順に前記被処理水を通流させる通流手段をさらに備えてなる、被処理水の浄化装置及びそれを用いた被処理水の浄化方法である。
前記水質調整槽に前記被処理水を通流させる際には、前記被処理水を前記水質調整槽に収納し、3時間以上滞留させてから放出させる、請求項4に記載の被処理水の浄化方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の被処理水の浄化装置は、第1処理床と、第2処理床とを備える。本発明の被処理水の浄化装置は、被処理水を、第1処理床と第2処理床とにこの順で通流させて、被処理水から前記金属イオンを除去する。
以下、実施態様に係る被処理水の浄化装置及び被処理水の浄化方法について、実施形態を示して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0015】
[実施形態]
図1に示すように、本実施形態の被処理水の浄化装置100は、被処理水槽40と、水質調整槽60と、反応槽30とを備える。反応槽30は、第1処理床10と、第2処理床20とを備える。
被処理水槽40と水質調整槽60の間は、配管51で接続されている。水質調整槽60と反応槽30の間は、配管52で接続されている。反応槽30には配管53の一端が接続され、配管53の他端は排出口56となっている。配管52にはポンプ55が設けられている。配管51及び配管52には、開閉可能なバルブ51a及び52aがそれぞれ設けられている。本実施形態では、配管51、52及び53、バルブ51a及び52a、並びにポンプ55が、流通手段50を構成している。
【0016】
反応槽30は、第1処理床10及び前記第2処理床20を備える。本実施形態では、反応槽30は、反応槽本体31を備え、反応槽本体31内に第1処理床10及び前記第2処理床20を備える。反応槽本体31の形状及び大きさは適宜選択できる。本実施形態では、反応槽本体31は両端が閉じた円筒状のものである。この反応槽本体31の底部寄りには、生物処理材料21が収納されて、第2処理床20が形成されている。反応槽本体31には、第2処理床20の表面を覆うように、有機物供給体13が載置されて、第1処理床10が形成されている。本実施形態では、反応槽本体31に収納された第1処理床10の上に、上述した2以上の有機物供給体13が互いに隙間なく並べられ、及び/又は隙間を塞ぐように重ねられている。
【0017】
反応槽本体31の底部には、メンテナンスに用いることができる排水用の配管54が設けられている。
本実施形態では、配管53の排出口56の高さを、反応槽30内の水位と同じ高さに調節することで、反応槽30の端部に供給された被処理水41が配管53から排水され、反応槽30内を通流するよう形成されている。
【0018】
第1処理床10を形成する有機物供給体13は、収納体12にタンパク質を含む有機物含有材料11が封入されたものである。
収納体12は通水性を有する。通水性を有するとは、本実施形態においては通水性を有する材料を構成素材としていることを指す。通水性を有する材料とは、液体を素通りさせることができる材料である。特に、一定の径や粘度以上の固体は通さないか、又は通過に時間を要するが、液体はほぼ素通りできる材料を指す。こうした材料としては、例えば、多孔、格子、ネット(網)又はメッシュ等に形成されたシート等が挙げられる。このような材料を用いた場合、収納体12は、前記シートにより仕切、箱体、又は袋体等に形成されている。
【0019】
前記シートを構成する素材としては、例えば、各種の天然素材や、ポリマー等による繊維などが適宜使用できる。シートを構成する素材は、生分解性プラスチック又は天然素材等の生分解性の材料であることが好ましく、綿又は麻等の天然素材であることが特に好ましい。前記素材をこれら天然素材とすることで、有機物供給体13の交換などにおいて収納体12を廃棄する際に、環境に影響が少ない。前記シートの構造は、繊維やそれを拠って編まれた糸によってネットやメッシュに構成されたもの、又は繊維による不織布などを適宜選択できる。
【0020】
前記材料がネットやメッシュである場合、その網の目又はメッシュの開口径は0.1〜50mmであることが好ましい。上記網の目の大きさ又はメッシュの開口径の最適な値は、有機物含有材料11の種類により最適な値が決まってくる。しかし、目安として、網の目の大きさ又はメッシュの開口径は有機物含有材料11の粒子の径よりも大きくてもよく、網の目の大きさ又はメッシュの開口径が前記粒子の径の5〜100倍、好ましくは10〜50倍程度であってもよい。本実施形態の被処理水の浄化装置100を用いた被処理水41の浄化においては、有機物含有材料11は、水を含んで膨張し、また相互に付着すると考えられる。そのため、網の目の大きさ又はメッシュの開口径が有機物含有材料11の粒子の径よりも充分に大きい範囲であっても、有機物含有材料11が通水性を有する材料を通過しにくく、かつ、収納体12の表面を被処理水が通流しやすいと考えられる。
【0021】
例えば、有機物含有材料11が米ぬかである場合、網の目又はメッシュの開口径は1〜10mmとすることができる。
【0022】
収納体12は、本実施形態では袋体である。袋体とは、筒状の少なくとも一方の端(底部)が閉じている形状である。袋体は両端が閉じて有機物含有材料11を封入した状態であることが好ましいが、有機物含有材料11が収納された状態であればよい。例えば、袋体に有機物含有材料11を収納し、開いている側の端を上にして反応槽30に収納することもできる。袋体の形状及び寸法は、第1処理床10の設計に応じて適宜扱いやすいものを選択できるが、図に示した例では、一辺100〜500mmの長方形の袋体を用いている。
【0023】
収納体12としては、前記網の目又はメッシュの径を有する袋体として、市販の家庭用の各種ネットなどを適宜使用できる。
【0024】
有機物含有材料11は、タンパク質を含む材料である。有機物含有材料11中のタンパク質は、種々の細菌によって分解され、硫酸還元菌が呼吸基質として利用可能な有機物成分を生じることで、硫酸還元菌を活性化することができる。有機物含有材料11は、タンパク質を有機物含有材料の全体質量あたり5質量%以上、25質量%以下程度含むことが好ましい。
【0025】
有機物含有材料11は、タンパク質以外の栄養素を含んでいてもよい。例えば、脂肪を有機物含有材料の全体質量あたり2質量%以上含んでいてもよい。一方、硫酸還元菌の栄養になりにくい成分は限定されていてもよく、例えば微生物に分解されにくい繊維質は有機物含有材料の全体質量あたり50質量%以下であってもよい。
【0026】
有機物含有材料11は、主に粉体からなっている。粉体とは、複数の微細な固体の集合体である。粉体は、目安として10〜10,000μmの径を有する。粉体は、破砕や造粒などによって前記粉体の大きさの径を持つよう成形された成形物であってもよい。粉体の形状は問わず、適宜選択できる。有機物含有材料11がこの範囲の径であることで、ある程度の表面積が確保され、液体を吸収しやすく、また被処理水41に対して有機物含有材料11が溶け込みやすい。
【0027】
本実施形態において好適な有機物含有材料11としては、酒粕、おから、米ぬか、茶葉、ミヤコグサ、チモシー、又はクローバー等を挙げることができる。
本実施形態では、有機物含有材料11には米ぬかを用いている。米ぬかは供給しやすく、特に加工する必要なく、上述の適切な範囲の径を有する粉体の状態で得られ、また必要であれば成形物等への加工も容易である。そのため、有機物含有材料11として米ぬかを使用することで、被処理水41の通流と、硫酸還元菌の活性化を好適に両立することができる利点がある。
【0028】
第2処理床20は、硫酸還元菌及び穀物殻を含む生物処理材料21を有する。
ここで硫酸還元菌は、主に中性(pH5〜8)の条件において、有機物を呼吸基質として、嫌気的な条件で硫酸を還元する菌である。このような菌としては、例えばDesulfovibrio vulgaris, Desulfovibrio magneticus,Desulfarrculus baariss,Desulfotomaculum acetoxidans,及びDesulfobulbus propionicus等が挙げられる。硫酸還元菌は、穀物殻に付着しており、被処理水の浄化装置100内で繁殖して、被処理水41の金属イオンの浄化に用いることができる。
【0029】
穀物殻は、主に穀物の原料となる植物から食品を製造した際に、可食部を得た後の殻であり、広くは植物のその他の部位や、未処理で残った植物などの植物性の残滓も含まれる。穀物としてはコメ、ムギ若しくはトウモロコシ等のイネ科、マメ又はソバ等の植物を用いることができる。穀物殻としては、これらの穀物を処理した際の残滓、特にコメのモミガラ、又はソバ殻等を好適に用いることができる。穀物殻は、いずれも硫酸還元菌を含み、硫酸イオン還元活性に関わる細菌群を担持するのに適した形状を有する。さらに、本来は廃棄されるバイオマス資源であり大量入手が容易で、入手コストもほとんどかからないという利点がある。加えて、形も粒状で切断・破砕等加工する必要がなく取り扱いが簡易で、材質のバラツキも比較的少ない等の利点がある。
【0030】
生物処理材料21は、穀物殻や硫酸還元菌の維持又は担持に適した他の材料をさらに含んでいてもよい。また、本実施形態では第2処理床20は反応槽30に直接収納された生物処理材料21からなるが、硫酸還元菌の維持又は担持に適した他の材料をさらに含んでいてもよい。例えば、第2処理床20は被処理水41のpHなどの調整を行うための材料を含んでいてもよい。本実施形態では、第2処理床20は水質調整材料61と同じ石灰石を含んでいる。石灰石の量は装置の規模や被処理水41のpHなどに合わせて適宜選択できるが、目安として生物処理材料21と石灰石との全体質量に対して石灰石が50〜80質量%程度である。
【0031】
被処理水槽40は、被処理水41を収納している。被処理水槽40は、外部から被処理水41を供給され、被処理水の浄化装置100に一時的に被処理水41を貯水するためのものである。被処理水槽40は、被処理水41を外部から供給されるための配管等の供給手段(図示せず)を有し、継続的に被処理水41が供給されるようになっていてもよい。又は、これらの供給手段を有さず、搬送された被処理水41が適宜注水され、貯水されていてもよい。
【0032】
水質調整槽60は、水質調整材料61を含有する。水質調整材料61は、被処理水41に接触させ、被処理水のpH等の性質(水質)を硫酸還元菌が活動しやすいように調整する材料である。
本実施形態では、水質調整材料61としては石灰石を用いている。水質調整材料61は、粒状などの表面積の大きい材料を用いることが好ましい。粒状などの表面積の大きい水質調整材料61を用いると被処理水41と接触する面積が大きく、水質の改善をより好適に行うことができる。例えば石灰石ならば粉砕する等によって粒状としたものを用いることができる。前記粒状の形状や径は適宜選択できる。なお、水質調整材料61には石灰石の他にもpHを上昇させる材料等を用いることができる。pHを上昇させる材料としては、ドロマイト、セメント骨材、またはコンクリート廃材等を用いることもできる。
【0033】
(被処理水の浄化方法)
次に、本実施形態の被処理水の浄化装置100を用いた被処理水の浄化方法の一例を説明する。
【0034】
まず、処理水槽40に被処理水41を準備する。被処理水41は、金属イオンおよび硫酸イオンを含有する水である。被処理水41は、金属イオンを含有している場合がある。金属イオンは、主にFe,Zn,Cu,Pb,Cd等の重金属又はAs等の半金属を含む。前記金属イオン及び硫酸イオンを含有する水としては、金属鉱山の坑廃水のような鉱山由来の廃水や、工業用廃水などが挙げられる。特に、これらの金属イオン及び硫酸イオンを多く含有する水は、酸性条件(pHが3〜6)である。
【0035】
この被処理水41を水質調整材料61に接触させる。本実施形態では、被処理水槽40と水質調整槽60とを接続する部位に設けられたバルブ51aを解放して、被処理水41を被処理水槽40から水質調整槽60に導入する。
【0036】
水質調整槽60内に導入された被処理水41は水質調整材料61と接触し、水質が調整される。具体的には、水質調整材料61が石灰石であるとき、被処理水41が石灰石と接触してpHが中性近くに調整されるなど、硫酸還元菌の活動に適した水質が形成される。被処理水41を水質調整槽60内に通流させるのみでも水質が調整される効果が得られる。さらに、一定時間被処理水41を水質調整槽60内に滞留させることでより好適に水質を調整できる。被処理水41を滞留させる時間は、被処理水41の水質により適宜選択できるが、石灰石の反応速度上、30分以上滞留させることが望ましい。さらに好ましい例として鉱山廃水や工場廃水等を被処理水41として用いる場合であっても、水質調整槽60内に3〜5時間滞留させることで充分に効果が得られる。
【0037】
ついで、前記水質調整材料61と接触して水質が調整された被処理水41を、第1処理床に通流させ、有機物含有材料11に浸透させる。これにより、有機物含有材料11は水分を含み、ついで有機物含有材料11の一部が水中に溶出することで、有機物供給体13から被処理水41に有機物が供給される。
【0038】
図に示した例では、水質調整槽60と反応槽30との間に設けられた配管52が有するバルブ52aを解放する。ついで、ポンプ55により水質調整槽60から反応槽30へと被処理水41を通流させる。反応槽30に供給された被処理水41は、反応槽30の第1処理床10側(図における上方)から供給され、被処理水41の重量によって第2処理床20側(図に示した下方)に向かって通流していくことで、有機物供給体13と接触する。
【0039】
本実施形態では、前述したように、有機物供給体13において、有機物含有材料11が収納体12に収納されていることで、被処理水41が第1処理床10内を滞りなく通流する。
ここで、第1処理床10に収納体12が設けられていないと、タンパク質を含有する有機物含有材料11が水を含むことによって膨張し、被処理水41の通路を塞いで、以後の被処理水41の通流を遅くする可能性がある。
それに対して、本実施形態のように有機物含有材料11が収納体12に収納されていると、収納体12の通水性を有する素材の表面に、被処理水41が通流可能な、いわゆる水みちが形成されると考えられる。そのため、収納体12が収納した有機物含有材料11に被処理水41が接触しつつ、被処理水41が第1処理床10内を通流することが可能となる。
【0040】
ついで、前記有機物含有材料11と接触した被処理水41を、生物処理材料21と接触させる。本実施形態では、被処理水41が重力によって、すなわち被処理水41の自重によって第2処理床20側(図に示した下方)に向かって通流していくことで、生物処理材料21と接触する。
【0041】
このとき、第2処理床20の表面を覆うように第1処理床10が設けられていることで、被処理水41は、有機物含有材料11と生物処理材料21とに順次接触するので、被処理水41が有機物を含有して生物処理材料21に接触し、生物処理材料21の硫酸還元菌の活性化をより有効に行うことができる。さらに、上述したように第2処理床20は第1処理床10に覆われているので、第2処理床20の表面が被処理水41の水面又は水面近傍に表れることがない。そのため、第2処理床20が被処理水41の水面下に保ちつつ被処理水41が通流される。したがって、第2処理床20内は嫌気的条件を保ちやすくなり、硫酸還元菌による嫌気的な金属イオンの除去が起こりやすくなっている。
【0042】
被処理水41の通流速度は、第2処理床20内において、例えば直径10〜25cm、高さ40〜100cm程度の円筒形の反応槽30を用いた場合は、被処理水40の時間あたりの通流量での通流速度値が、0.06〜9L/hrとなるような通流速度とする。
また、第2処理床20内において、前記被処理水の流量Qw(L/hr)と前記反応槽の断面積S(m
2)とで表される値が、0.122〜18.4L/hr/m
2となるような通流速度とする。
前記通流速度をこえて通流すると、生物処理材料21に含まれる硫酸還元菌と被処理水41との接触時間が少なくなり、被処理水41から充分に金属が除去されない場合がある。
反応槽30内への被処理水41の供給速度は、ポンプ55によって調整することができる。
【0043】
被処理水41を第2処理床20に通流する温度は、硫酸還元菌が活動可能な温度、例えば0〜60℃から適宜選択することができる。硫酸還元菌の繁殖及び活動に特に適した温度、25〜35℃が好ましいが、本実施形態においては、この範囲を10〜25℃外れても、すなわち、例えばより低温の0〜15℃としても、硫酸還元菌による金属の除去は行うことができる。なお、被処理水41を第2処理床20に通流する温度は、被処理水41の水温を調節してもよく、反応槽30等にヒータを設ける等で装置の温度を直接調節してもよい。
【0044】
第2処理床20において、硫酸還元菌は、被処理水41に含まれる有機物と硫酸イオンを取り込み、有機物を栄養分として活動し、硫化水素イオンを放出する。この硫化水素イオンは、被処理水41内に含まれる金属イオンと反応して、金属イオンの硫化物が析出する。この反応によって、被処理水41から金属イオンが除去される。第2処理床20を通流し、生物処理材料21と接触した被処理水41は、反応槽30の底部から延出している配管53の排出口56から処理済水42として排出される。本実施形態の被処理水の浄化方法ではこのようにして、金属イオンを除去された処理済水42が得られる。
【0045】
被処理水の浄化装置100を最初に設置し、使い始めるにあたっては、以下の操作を行ってもよい。
被処理水の浄化装置100を設置後、装置本体30内に前記浄化方法に適した微生物を繁殖させる増殖工程を行う。被処理水41の通流等の条件を前記浄化方法と同様にし、一定期間維持することで、硫酸還元菌を増殖させると共に、硫酸還元菌やその他の細菌等の微生物をこの条件における金属イオンの除去に適した状態とする。なお、増殖工程の前に、被処理水41や生物処理材料21についてあらかじめ整置して培養する等の操作は要さない。
増殖工程は、第1処理床10、ついで第2処理床20に被処理水41を連続的に通流させることで行う。増殖工程における被処理水41の通流の条件は、前述した被処理水41の浄化方法と同様の条件で行うことができる。
【0046】
第2処理床20において、被処理水41の通流を一定期間維持することで、硫酸還元菌を増殖させると共に、硫酸還元菌やその他の細菌等の微生物をこの条件における金属イオンの除去に適した状態とする。
【0047】
この増殖工程を4〜8時間継続することで、生物処理材料21が含む硫酸還元菌をはじめ、反応槽30内に微生物が増殖するが、液体が通流する状態で、硫酸還元菌による金属イオンの除去を行うのに適した環境とするには、増殖工程を3〜10日行うことがより好ましい。
なお、この増殖工程においても、排出口56から排出される処理済水42からは、金属イオンが除去されている。これは被処理水の浄化装置100内において被処理水41に接触する有機物含有材料11等の構成要素は、それ自体が金属イオンを吸着等により除去する能力を有しているためと考えられる。
【0048】
前記増殖工程に次いで、反応槽30内の被処理水の浄化に適した微生物の環境を維持しつつ、被処理水の浄化を行う維持工程を行ってもよい。維持工程では、被処理水41の通流を増殖工程と同じ条件で行うことができる。
被処理水の浄化に適した微生物の環境を維持するには、例えば菌数をモニタする、その結果に応じて温度、流速等の条件を調整する、外部から菌を追加する等の手段を適宜用いることができる。
【0049】
被処理水41の浄化に適した微生物の環境を維持し続けることで、連続的かつ継続的に被処理水41を通流させ続け、被処理水41から金属イオンを除去する浄化をほぼ恒久的に継続することができる。
【0050】
(本実施形態の効果)
本実施形態によれば、前述したように、有機物供給体13において、有機物含有材料11が収納体12に収納されていることで、被処理水41が第1処理床10内を滞りなく通流する。そのため、被処理水41を通流させる流速を大きくしても通流が滞ることがなく、処理を長時間継続して行うことができる。それと共に、単位時間あたり多くの被処理水41を処理することができ、前記処理の効率が向上する。
【0051】
本実施形態によれば、被処理水41が第1処理床10内を滞りなく通流するので、第1処理床10の容積を大きくしても被処理水41が第1処理床10内を通流することができる。そのため、第1処理床10の容積を大きくして処理を行うことができる。例えば第1処理床10を第2処理床20に載置する厚みを増やす、有機物供給体13を多数設置することができる。第1処理床10の容積を大きくすると、被処理水41が多くの有機物材料12と接触できるので、被処理水41により多くのタンパク質等の有機物を供給することができる。そのため、被処理水41を第2処理床20に通流する際に硫酸還元菌をより活性化することができ、硫酸還元菌による被処理水41から金属イオンを除去する効果が向上する。これにより、本実施形態では被処理水41からの金属イオンをより効果的に行うことができる。
【0052】
また、本実施形態では第1処理床10は第2処理床を覆っているので、第1処理床10の容積を大きくすると、第2処理床20の液密性が向上し、外部の空気により触れにくくなる。したがって、第2処理床20はより嫌気的な条件を維持しやすくなり、硫酸還元菌による嫌気的反応である、被処理水41から金属イオンを除去する効果がさらに向上する。これにより、本実施形態では被処理水41からの金属イオンをより効果的に行うことができる。
【0053】
本実施形態によれば、前述したように、被処理水の浄化装置100は増殖工程と維持工程のいずれにおいても被処理水41から金属イオンを除去することができる。そのため、被処理水の浄化装置100の設置時から継続的に被処理水41を浄化することが可能である。したがって、未処理の被処理水41を貯蓄する貯水手段のスペース及びコスト等を低減することができる。
【0054】
本実施形態によれば、被処理水の浄化装置100を最初に設置した後に、被処理水41の通流を行うことができ、あらかじめ硫酸還元菌を静置培養する等を行う必要が無い。そのため、被処理水41の浄化に要する工程を少なくすることができ、時間、手間及びコストを少なくすることができる。
【0055】
本実施形態によれば、増殖工程と維持工程のいずれにおいても被処理水41の通流を継続しつつ処理を行うので、硫酸還元菌の嫌気的な反応を行いつつも、被処理水の浄化装置100内に低分子有機物が過剰に貯留することがない。そのため、処理済水42のCODやBODの上昇を抑えることができる。
【0056】
本実施形態によれば、増殖工程において反応槽30内の硫酸還元菌その他の微生物が増殖するので、被処理水41の水温が硫酸還元菌の増殖に適さない温度、例えば15℃等の低温であっても、あらかじめ硫酸還元菌の増殖のための培養等を要さずに、被処理水41の浄化を連続的に行うことができる。
【0057】
本実施形態によれば、水質調整槽60を用いて被処理水41の水質を調整しているので、被処理水41の水質が調整された状態で、被処理水41が第1処理床10及び第2処理床20を通流する。その結果、被処理水41から金属イオンを除去する効果がより向上する。具体的には、第1処理床10又は第2処理床20のみに水質調整のための材料(石灰石等)を加えた場合よりも、被処理水41から金属イオンを除去する効果が向上する。この理由は定かではないが、水質調整のための材料が第1処理床10又は第2処理床20のみに含まれている場合、被処理水41が第1処理床10又は第2処理床20を通流するに伴って水質が調整されていくので、第1処理床10及び第2処理床20内の部位によって被処理水41の水質が異なると考えられる。
これに対して、本実施形態では水質が調整された状態の被処理水41が第1処理床10及び第2処理床20に供給されるので、第1処理床10及び第2処理床20内の部位によって被処理水41の水質がほぼ一定である。この作用が、第2処理床20内での微生物の生息環境及び硫酸還元菌による金属イオンの除去に良好な影響を及ぼしている可能性がある。
【0058】
また、本実施形態によれば、水質調整槽60を設けて被処理水41の水質を調整しているので、水質調整材料61の作用の維持が容易である。具体的には、水質調整材料61の追加や交換が容易である。
例えば、水質調整材料61が石灰石である場合、本実施形態の被処理水の浄化方法を実施するにしたがって、石灰石が消費される。ここで、従来の処理装置において、水質調整のための石灰石が処理装置本体内のみに含まれている場合、石灰石の追加又は交換には、処理装置本体内の有機物含有材料及び生物処理材料とあわせて交換する必要があった。
これに対して、本実施形態では水質調整材料61は水質調整槽60に収納されているので、容易に水質調整材料61を追加又は交換することができる。水質調整槽60への水質調整材料61の追加は、被処理水41の通流を継続したままでも行うことができ、被処理水の連続的な処理が可能である。したがって、メンテナンスの時間及び費用面で有利であると共に、水質調整槽60による水質の調整の効果を維持でき、被処理水41からの金属イオンをより効果的に処理することができる。以上より、水質調整槽60を設けることにより、長期間安定した操業が可能となる。
【0059】
(他の実施形態)
本実施形態の変更態様として、被処理槽40、水質調整槽60、又は反応槽30が別の形態でもよい。例えば、被処理槽40がプール又は溜池等であってもよい。被処理槽40をプール又は溜池とすることで、多量の被処理水41を収納することができる。水質調整槽60がプール又は溜池等であってもよい。被処理槽40をプール又は溜池とすることで、多量の被処理水41の水質を短い滞留時間で調整することができる。反応槽30がプール又は溜池等であってもよい。反応槽30をプール又は溜池等とすることで、多量の被処理水41を処理することができる。さらに、被処理槽40、水質調整槽60、及び反応槽30のうち複数又は全てをプール又は溜池としてもよい。これにより、特に多量の被処理水41を処理できる大規模な被処理水の浄化装置とすることができる。
【0060】
第1処理床及び第2処理床が別々の装置本体に収納されて通流手段により接続されていてもよい。例えば、大規模な被処理水の浄化装置として、第1処理床及び第2処理床がそれぞれ1以上の溜池に設けられていてもよく、これらの溜池を接続し、被処理水が第1処理床、ついで第2処理床に通流するようにしてもよい。反応槽30を複数備え、これらが通流手段50により直列又は並列に接続されていてもよい。また、この他にも本実施形態の各構成要素は適宜1以上組み合わせて使用できる。
【0061】
本実施形態の被処理水の浄化装置は、被処理水槽40を備えていなくてもよい。すなわち、被処理水41を水質調整槽60に直接供給してもよい。例えば、被処理水41を貯留する必要がなく、外部から水質調整槽60に対して一定量を連続的に供給できるのであれば、被処理水41を水質調整槽60に直接供給してもよい。鉱山由来の廃水や、工業用排廃水を水質調整槽60に直接供給するようになっていてもよい。この場合、被処理水の浄化装置の設置スペースやコストを節約できる。
【0062】
本実施形態の被処理水の浄化装置は、被処理水槽60を備えていなくてもよい。被処理水41の水質を調整する必要が少ない場合、例えば、被処理水41のpHが中性に近い場合は、水質調整槽60が無くてもよい。また、特にこの場合、反応槽30内に水質調整のための材料を添加してもよい。例えば、第2処理床20が生物処理材料21の他に、pH調整のための材料、例えば石灰石をさらに含有していてもよい。
【0063】
本実施形態の被処理水の浄化装置は、被処理水槽40及び被処理水槽60のいずれも備えていなくてもよい。この場合、外部から反応槽30に直接被処理水41を供給するように構成されていてもよい。このように構成することで、被処理水の浄化装置の設置スペースやコストを節約でき、多数の反応槽30を設けることで、設置スペースあたりの被処理水からの金属イオンの除去の性能を高くすることができる。
【0064】
本実施形態の被処理水の浄化装置は、反応槽30内に水質調整のための材料を添加してもよい。例えば、第2処理床20が生物処理材料21の他に、pH調整のための材料、例えば石灰石をさらに含有していてもよい。
【0065】
本実施形態の被処理水の浄化方法の変更態様としては、硫酸還元菌を含む細菌群をあらかじめ静置培養し、被処理水の浄化装置100に添加するようにしてもよい。すなわち、増殖工程にかえて、又は併せて、被処理水41と生物処理材料21とを共に嫌気状態で静置して培養してもよい。この工程により、硫酸還元菌を含む硫酸イオン還元活性に関わる細菌群が培養され、被処理水41又は第2処理床の硫酸還元菌がより活性化する。
例えば、被処理水41に対して、添加後の全体質量に対して生物処理材料21が5〜20質量%となるように生物処理材料21を添加し、嫌気状態かつ水温20〜30℃で7〜14日間培養してもよい。この培養により、被処理水41及び生物処理材料21に細菌群が増殖し、かつ活性化する。さらに、この被処理水41及び生物処理材料21を5〜20倍量の被処理水41及び生物処理材料21に添加し、水温10〜40℃で7〜14日間培養してもよい。この培養により、さらに多くの被処理水41及び生物処理材料21に細菌群が増殖し、かつ活性化する。このとき、温度は硫酸還元菌の増殖や活動に最適な温度に最適でなくとも細菌群の増殖及び活性化は行われる。これらの操作で得られた生物処理材料21を反応槽30に設けて第2処理床としてもよいし、これらの操作で得られた被処理水41を被処理水の浄化装置100で浄化してもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を詳細に説明する。
本実施例には
図10に示す被処理水の浄化装置100Bを用いた。被処理水の浄化装置100Bは、装置本体30Bの側面に、装置本体30B内まで連通し被処理水41を採取可能な採取管70b1、70b2・・・70bnを備えている。本実施例では、採取管は9本(n=9まで)を備えたものを用いた。被処理水の浄化装置100Bその他の構成は被処理水の浄化装置100と同様である。
【0067】
(実施例1)
被処理水の浄化装置100Bを、水質調整剤61を5000g設けた水質調整槽60、装置本体30Bとして直径10cm、長さ40cmのカラムを用い、第2処理床20としてもみがら600g、石灰石5000gを収納し、第2処理床20を覆うように第1処理床10として土壌150g、米ぬか600gを充填して設置した。この被処理水の浄化装置100Bに対して、鉱山坑廃水(pH:3.3〜3.8,SO
42−:300mg/L,Zn:15〜18mg/L,Cu:3〜10mg/L)の被処理水41を、水質調整槽60に3時間滞留させた後に、15℃で6.5mL/min(被処理水41の装置本体30Bへの滞留時間は12時間)を保ちつつ流通させた(実施例1)。
【0068】
(比較例1)
水質調整槽60を設けない他は実施例1と同様とした(比較例1)。
【0069】
(水質調整による水質比較)
実施例1の被処理水について、被処理水槽40における処理前の被処理水41と、水質調整槽60を通過した後の被処理水41について、それぞれpH、硫酸イオン濃度、Zn濃度、Cd濃度、Fe濃度及びCu濃度を測定した。結果を表1に示す。水質調整槽60を通過した後は、通過前と比べてpHが上昇し、中性に近づいている。また、鉄の濃度は減少している。これに対して、硫酸イオン濃度や他の金属濃度はほぼ変化しない。したがって、水質調整槽60は硫酸イオンと重金属の反応には影響を及ぼさないと考えられる。
【0070】
【表1】
【0071】
(硫酸イオン濃度の測定)
実施例1、比較例1それぞれの処理済水42に対して、2〜3日置きに硫酸イオン濃度を測定した。結果を
図2に示す。いずれも試験開始後14日(2週間)を過ぎた頃から、硫酸イオン濃度が減少する。硫酸イオンの減少は、硫酸還元による硫化水素イオンの形成を示し、硫酸還元菌の活性化を示す。図に示したように、実施例1の方が比較例1よりも硫酸イオン濃度の低下の度合いが大きい。この結果は、水質調整槽60が設けられることで硫酸還元菌がより活性化したことを示す。
【0072】
(pH値、ORP値の測定)
実施例1、比較例1について、2〜3日置きに採取管70b1〜70b9からそれぞれ被処理水41を採取し、装置本体30B内の各部位における被処理水41を得た。これらの被処理水41に対してpH及びORP値を測定した。ORP値はORP計(TOA−DKK製,RM−20P)を用いて測定した。
【0073】
実施例1のpHを
図3、実施例1のORP値を
図4、比較例1のpHを
図5、比較例1のORP値を
図6に示す。図中の1段目は採取管70b1から採取した被処理水、2段目は採取管70b2から採取した被処理水、・・・9段目は採取管70b9から採取した被処理水をそれぞれ示す。
【0074】
pHを比較すると、実施例1では
図3に示すように採取管70b1〜70b9から採取した被処理水のそれぞれでpHに大きな差がなく、いずれも中性付近であり、すなわち装置本体30B内のpHの条件がほぼ均一であることがわかる。また、試験開始後から終了付近まで、pHはほぼ中性付近に維持されている。
これに対して、比較例1では
図5に示すように9段目、すなわち装置本体30Bの最も下部の採取管70b9から採取した被処理水では中性が維持されているが、より上段、装置本体30Bの上部となるにしたがって酸性となっている。特に1段目、すなわち装置本体30Bの最も上部の採取管70b1から採取した被処理水では、試験開始10日目以降からはほぼpH4〜5の酸性となっている。この結果は、装置本体30Bの上部、すなわち被処理水41の装置本体30B内の通流の初期にあたる部分では、装置本体30B内の石灰石が水質調整により消費されて減少し、試験開始10日目以降はほぼ水質調整ができなくなっていることを示す。また、装置本体30B内でpHの条件が大きく異なることも示す。
【0075】
ORP値を比較すると、実施例1では
図4に示すように試験開始20日目以降は、採取管70b1〜70b9から採取した被処理水のそれぞれでORPに大きな差がなく、すなわち装置本体30B内のpHの条件がほぼ均一であることがわかる。また、ORPはいずれも次第に減少し続け、いずれも−200mV未満となっている。
これに対して、比較例1では
図6に示すように9段目、すなわち装置本体30Bの最も下部の採取管70b9から採取した被処理水ではORPが減少し続け、―200mV未満が維持されているが、より上段、装置本体30Bの上部となるにしたがってORPの値は高く、また推移も不安定となっている。特に1段目、すなわち装置本体30Bの最も上部の採取管70b1から採取した被処理水では、0〜−150mV前後の高めの値にとどまり、不安定に推移している。
ORP値は減少するほど被処理水が嫌気状態となっており、硫酸還元菌が活動しやすくなっていることを示す。上記の結果は、実施例1が装置本体30B内の嫌気状態を均一に安定して維持でき、硫酸還元菌が活動しやすいことを示す。
【0076】
(低分子有機物濃度)
上記実施例1及び比較例1の処理済水42を採取し、それぞれについて酢酸イオン、乳酸イオン、ギ酸イオンを測定し、その合計を低分子有機物の濃度とした。実施例1及び比較例1の測定結果を
図7に示す。
図7に示すように実施例1では80〜250mg/Lの低分子有機物が処理済水42に存在し続けているが、比較例1では0〜70mg/Lにとどまり、さらに50日後にはほぼ低分子有機物が存在しなくなっている。
この結果は、以下のような理由による可能性がある。すなわち、実施例1の処理済水42は、装置本体30Bに供給される前にpHが中性等に水質が調整されることで、装置本体30B内の有機物含有材料に被処理水が接触する際により多くの有機物が被処理水に溶け込む。これに対して、比較例1では石灰石が生物処理材料と混合されているので、被処理水は有機物含有材料に接触する時点では水質が調整されておらず、その結果、多くの有機物が被処理水に溶け込むことができない。
低分子有機物は硫酸還元菌の栄養となり、硫酸還元菌が金属イオンを除去する能力を活性化する。この結果は、
図6に示すように実施例1の硫酸イオンの還元性が高い理由である可能性がある。
【0077】
(通流の量の測定)
より大規模なカラムを調整し、本実施形態の被処理水の浄化装置100Bにより被処理水の処理が可能な通流の量(流速)について検討した。装置本体30Bに直径25cmのカラムを用い、第1処理床として土壌17.5kgと米ぬか4.5kg、第2処理床としてもみがら4.5kgと石灰石18kg、水質調整槽60に石灰石を60kg充填した以外は、実施例1と同様の装置を設置した(実施例2)。また、水質調整槽60を備えない他は実施例2と同様の装置を設置した(比較例2)。
【0078】
実施例2及び比較例2の装置に対して、被処理水41の通流の量(流速)を徐々に増加させて、硫酸イオン濃度の減少が起こる、すなわち、どこまで通流の量を多くしても被処理水の浄化の効果が得られるかを検討した。実施例2及び比較例2の通流の量と処理済水の硫酸イオン濃度の推移を、それぞれ
図8及び
図9に示す。
【0079】
実施例2では、通水量が100mL/min程度(装置本体30B内への被処理水の滞留時間6時間)でも、カラム内で硫酸イオン濃度の減少が確認されているのに対し、比較例2では通水量が50mL/min程度(滞留時間12時間)で明らかに硫酸イオン濃度の減少量が少なくなり、以降ほとんど硫酸イオン濃度は減少しなかった。この比較により、明らかに実施例2では装置本体30B内での被処理水の滞留時間を短縮することが可能であり、pH調整槽内での滞留時間3時間を加味しても、比較例2よりも短い滞留時間で処理が可能となる。