【課題】厚みの均一性に優れるとともに、0度方向、45度方向、90度方向及び135度方向からなる4方向における物性のバラツキが比較的小さなポリアミド系フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリアミド系フィルムであって、(1)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において測定した弾性率がいずれも1.3〜3.5GPaであり、かつ、これらの弾性率の最大値と最小値との差が0.5GPa以下であり、(2)前記0度及び90度の2方向において測定した成形仕事エネルギーの差[(前記0度方向の成形仕事エネルギー)−(前記90度方向の成形仕事エネルギー)]の絶対値が0.02N・m以下である、ことを特徴とするポリアミド系フィルムに係る。
前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度、135度、180度、225度、270度及び315度の8方向の平均厚みに対する標準偏差が0.200μm以下である、請求項1に記載のポリアミド系フィルム。
さらに(3)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において、一軸引張試験による5%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が35MPa以下であり、かつ、(4)前記4方向において、一軸引張試験による15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差が40MPa以下である、請求項1に記載のポリアミド系フィルム。
【発明を実施するための形態】
【0024】
1.ポリアミド系フィルム
本発明のポリアミド系フィルム(本発明フィルム)は、ポリアミド系フィルムであって、
(1)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において測定した弾性率がいずれも1.3〜3.5GPaであり、かつ、これらの弾性率の最大値と最小値との差が0.5GPa以下であり、
(2)前記0度及び90度の2方向において測定した成形仕事エネルギーの差[(前記0度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)−(前記90度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)]の絶対値が0.02N・m以下である、
ことを特徴とする。
【0025】
(A)本発明フィルムの材質・組成
(A−1)ポリアミド樹脂
本発明フィルムは、ポリアミド樹脂を主成分とするフィルムである。ポリアミド樹脂は、複数のモノマーがアミド結合して形成されたポリマーである。その代表的なものとしては、例えば6−ナイロン、6,6−ナイロン、6,10−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン、ポリ(メタキシレンアジパミド)等が挙げられる。また、例えば6−ナイロン/6,6−ナイロン、6−ナイロン/6,10−ナイロン、6−ナイロン/11−ナイロン、6−ナイロン/12−ナイロン等の2元以上の共重合体も使用することができる。また、これらが混合されたものであっても良い。上記の中でも、冷間成型性、強度、コスト等の観点から、a)6−ナイロンのホモポリマー、b)6−ナイロンを含むコポリマー又はc)これらの混合物が好ましい。
【0026】
ポリアミド樹脂の数平均分子量は、特に限定されず、用いるポリアミド樹脂の種類等に応じて変更できるが、通常10000〜40000程度、特に15000〜25000とすることが望ましい。このような範囲内のポリアミド樹脂を用いることにより、比較的低温下でも延伸しやすくなる結果、比較的高い温度下で延伸する場合に生じ得る結晶化及びそれによる冷間成型性の低下等をより確実に回避することができる。
【0027】
本発明フィルム中におけるポリアミド樹脂の含有量は、通常は90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%であり、より好ましくは98〜100質量%である。なお、本発明の効果を妨げない範囲内で、以下に示すように、必要に応じてポリアミド樹脂以外の成分が含まれていても良い。
【0028】
(A−2)有機滑剤及び無機滑剤(両者を総称して「滑剤」ともいう。)
本発明フィルム中には有機滑剤及び無機滑剤の少なくとも1種(特に有機滑剤及び無機滑剤の両者)を含有することが好ましい。これらの滑剤をフィルム中に含有させることによって、より効果的に滑り性を高めることが可能となる。特に、動摩擦係数及び算術平均高さを最適範囲に制御することが可能となる。また、本発明において、フィルムの滑り性をより向上させるには、ポリアミド系フィルム中に有機滑剤及び無機滑剤の両者を含有させることが好ましい。両者を併用する場合もそれぞれの含有量は、下記に示す各含有量の範囲とすることが好ましい。
【0029】
滑剤を本発明フィルム中に含有させる方法としては、特に限定的ではなく、例えば原料とするポリアミド樹脂中に予め含有させる方法、混練時等において押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれかの一方の方法を採用しても良く、あるいは2つ以上の方法を併用しても良い。
【0030】
有機滑剤
有機滑剤としては、特に限定されず、例えば炭化水素系、脂肪酸系、脂肪族ビスアミド系、金属石鹸系等の各種の有機滑剤のほか、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の樹脂系の有機滑剤が挙げられる。本発明では、特にポリアミド樹脂成分との溶融混練時に自らも溶融し得る有機滑剤(例えば融点150℃以下)が好ましく、このような有機滑剤として脂肪族ビスアミド系滑剤等を好適に用いることができる。
【0031】
脂肪族ビスアミド系滑剤における当該脂肪酸からなるビスアミドの炭素数は、通常8〜20の範囲内であることが好ましく、特に12〜18であることがより好ましく、さらには16〜18であることが最も好ましい。炭素数が20を超える場合は、高湿度領域に至るまで滑り性改良効果は十分であるものの、易接着層との接着性が低下したり、ラミネート時における接着剤との接着性が低下するおそれがある。また、炭素数が8未満の場合は、十分な滑り性が得られないことがある。
【0032】
このような炭素数を有する脂肪族ビスアミドを構成し得るカルボン酸としては、例えばステアリン酸、ベヘン酸等の飽和脂肪酸のほか、オレイン酸、エルカ酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0033】
これらのカルボン酸による脂肪族アミドとしては、公知のもの又は市販品を用いることができる。例えば、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、エルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスベヘン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等のエチレンビスアミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミドヘキサメチレンビスベヘン酸アミド、ヘキサメチレンビスエルカ酸アミド等のヘキサメチレンビスアミド等を挙げることができる。この中でも、特にポリアミド系樹脂との相溶性に優れるという点で、エチレンビスステアリン酸アミド及びエチレンビスベヘン酸アミドの少なくとも1種を含む滑剤が好ましい。
【0034】
有機滑剤は、常温常圧下では粉末状のものを使用することができるが、本発明では溶融混練時に有機滑剤は溶解させるので、その粒径は特に限定されない。
【0035】
ポリアミド系フィルム中の有機滑剤の含有量は、通常は0.02〜0.25質量%であることが好ましく、中でも0.03〜0.15質量%であることがより好ましい。有機滑剤の含有量が0.02質量%未満の場合は、滑り性を向上させる効果が十分に得られないおそれがある。一方、有機滑剤の含有量が0.25質量%を超える場合は、過剰な有機滑剤がフィルム表面にブリードアウトすることにより、接着剤及び印刷インキの密着性が低下し、ラミネート時における接着剤との接着力低下又は印刷不良を引き起こし、特に接着力が低下した場合は冷間成型性の低下を招くことがある。本発明では、特に上記の有機滑剤の含有量は、脂肪族ビスアミド系滑剤の少なくとも1種の合計含有量とすることが望ましい。
【0036】
無機滑剤
本発明における無機滑剤としては、限定的ではなく、例えば二酸化ケイ素、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイロ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、カオリナイト、ハイドロタルサイト、酸化物系ガラス等が挙げられる。この中でも、特に二酸化ケイ素(特に非晶質二酸化ケイ素)が好ましい。
【0037】
無機滑剤は、通常は粉末の形態であるが、その平均粒子径は一般的に0.5〜4.0μmのものが好ましい。平均粒子径が0.5μm未満の場合はフィルム表面を粗くする効果が小さく、滑り性改良の効果が十分に得られない。一方、平均粒子径が4.0μmを超える場合は、透明性が悪化するおそれがある。
【0038】
無機滑剤の粒子形状は特に限定されず、例えば球状、フレーク状、不定形状、バルーン状(中空状)等のいずれであっても良い。従って、本発明では、例えばガラスビーズ、ガラスバルーン等も使用することができる。
【0039】
なお、無機滑剤は、互い平均粒子径が同じ無機滑剤を用いても良いし、平均粒子径の互いに異なる2種以上の無機滑剤を用いても良い。
【0040】
本発明のポリアミド系フィルム中の無機滑剤の含有量は、通常0.05〜0.25質量%であることが好ましく、特に0.09〜0.20質量%であることがより好ましい。無機滑剤の含有量が0.05質量%未満の場合は、無機滑剤を添加することによる滑り性の向上効果が十分に得られない。一方、無機滑剤の含有量が0.25質量%を超える場合は、フィルム表面が粗れすぎるため、後述する算術平均高さが大きくなりすぎ、インキ密着性が低下したり、フィルムの透明性が失われるため、印刷加工による意匠性付与が困難となることがある。また、フィルム製造時に巻ズレが生じやすいものとなるおそれもある。本発明では、上記の無機滑剤の含有量は、二酸化ケイ素、クレー、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイロ、アルミナ、酸化マグネシウム、珪酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、カオリナイト及びハイドロタルサイトの少なくとも1種の合計含有量であることが望ましい。
【0041】
有機滑剤と無機滑剤との比率
有機滑剤と無機滑剤との比率は、特に制限されず、用いる滑剤の種類等に応じて適宜設定することができるが、通常は重量比で有機滑剤:無機滑剤=1:0.1〜1:10程度、好ましく1:0.2〜1:5とすれば良い。このような範囲内に設定することによって、滑り性をより効果的に付与することができる。
【0042】
(A−3)その他の成分
本発明フィルムでは、本発明の効果を妨げない範囲内で、ポリアミド樹脂及び滑剤以外の成分が含まれていても良い。例えば、ポリオレフィン類、ポリアミドエラストマー類、ポリエステルエラストマー類等の耐屈曲ピンホール性改良剤のほか、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、帯電防止剤、無機微粒子等の各種の添加剤を1種あるいは2種以上を添加しても良い。
【0043】
また、各種添加剤を添加する方法としては、原料とするポリアミド樹脂中に予め含有させる方法、押出機に直接添加する方法等を挙げることができ、このうちいずれかの一方の方法を採用しても良く、2つ以上の方法を併用しても良い
【0044】
(B)本発明フィルムの物性
本発明フィルムは、好ましくは分子配向が二軸配向したものである。このようなフィルムは、基本的には二軸延伸によって得ることができる。特に、ロール及びテンターを用いて二軸延伸されたフィルムが好適である。そして、このような本発明フィルムは、次に示すような物性となるように制御されている。
【0045】
(B−1)弾性率と仕事量の特性
本発明フィルムは、特に二次加工における伸長時の応力バランスの良否を示す指標として、下記のようにA値〜C値がいずれも特定の範囲内に制御されていることを必須とする。
(1)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において測定した弾性率(A値)がいずれも1.3〜3.5GPaであり、かつ、これらの弾性率の最大値と最小値との差(B値)が0.5GPa以下であること、
(2)前記0度及び90度の2方向において測定した成形仕事エネルギーの差[(前記0度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)−(前記90度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)]の絶対値(C値)が0.02N・m以下であること
【0046】
A値及びB値は、弾性率が所定の範囲内でフィルム全体にわたって均一に制御されていることを示す指標である。特に、A値は、冷間成型等に適した弾性率を有することを示すものである。また、B値は、その値が小さいほど弾性率の均一性が高いことを示している。
【0047】
また、C値は、前記0度及び90度の2方向において、伸度20%までの成形仕事エネルギーを測定した際における両者の差である。これは、冷間成型時にポリアミドフィルムが伸長する際の仕事エネルギー量が一般的にフィルムを伸度20%まで延伸した際のそれぞれの成形仕事エネルギーに等しいことに基づくものである。この場合、0度方向と90度方向における成形仕事エネルギーの差が小さいほど均一な成型性を有するものとなり、金属箔に十分な延展性を得ることができる。
【0048】
本発明において、A値〜C値の少なくとも1つが上記範囲外となる場合、ポリアミド系フィルムの全方向での応力バランスが悪く、均一な成型性を得ることが困難となる。そして、均一な成型性が得られない場合は、例えば本発明フィルムと金属箔とを積層した積層体を冷間成型する場合において、金属箔に十分な延展性が付与されない(すなわち、ポリアミド系フィルムが金属箔に追従しにくくなる)ため、金属箔の破断、デラミネーション、ピンホール等の不具合が発生しやすくなる。
【0049】
A値及びB値
A値は、通常1.3GPa〜3.5GPaであり、中でも1.5GPa〜3.2GPaであることがより好ましく、さらには1.7GPa〜3.0GPaであることが最も好ましい。前記A値が1.3GPa未満であると、柔軟性が高くなりすぎるため、金属箔に十分な延展性が付与できなくなることで成型性が低下する。一方、前記A値が3.5GPaを超えると、柔軟性に乏しくなるため、冷間成型時に破断、デラミネーション等が発生するおそれがある。
【0050】
B値は、通常0.5MPa以下であり、特に0.4MPa以下であることがより好ましい。B値が0.5MPaを超えると、フィルムの4方向における弾性率のバラツキが大きくなることから、ポリアミド系フィルムの全方向での応力バランスが悪くなり、均一な成型性を得ることが困難となる。
【0051】
A値及びB値に関する弾性率の測定方法は、次のようにして実施すれば良い。まず、ポリアミド系フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、
図5に示すように、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、フィルムの基準方向(0度方向)を任意で特定し、その基準方向(a)から時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)及び135度方向(d)の各方向を測定方向とし、中心点Aから各測定方向に100mm、かつ、測定方向に対して垂直方向に15mmの短冊状に裁断したものを試料とする。例えば、
図5に示すように、0度方向では中心点Aから30mm〜130mmの範囲で試料41(縦100mm×横15mm)のように切り取る。他の方向についても同様に試料を切り取る。これらの試料について、1kN測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製AG−1S)を用い、引張速度25mm/minにて測定を実施し、荷重−伸び曲線の勾配から各弾性率を算出する。なお、上記の基準方向は、フィルム製造時の延伸工程におけるMDが判明している場合は、MDを基準方向(0度方向)とすることができる。
【0052】
C値
C値は、通常0.02N・m以下であり、中でも0.01N・m以下であることが好ましく、さらには0.008N・m以下であることがより好ましい。C値が0.02N・mを超えると、例えばフィルムの各方向において冷間成型時における成形仕事エネルギー量の差が大きくなるため、均一な成型が困難となる。そのため、本発明のポリアミドフィルムと金属箔とを積層した積層体を冷間成型した場合、金属箔に均等な延展性が付与されず、金属箔の破断、デラミネーション、ピンホール等が発生しやすくなる。
【0053】
C値に関し、伸度20%までの成形仕事エネルギーの測定は、一軸引張試験において0.05秒ごとにストロークと応力を測定し、伸度0%から伸度20%までに得られる0.05秒ごとのストロークと応力の積の和とした。より具体的には、伸度0%を0秒とし、伸度20%に到達するまで0.05秒経過ごとに応力値と0.05秒間のストロークを測定し、各々の積(面積)を求め、さらに得られた各々の積(面積)を全て足し合わせた値をC値とした。
【0054】
(B−2)動摩擦係数(滑り性)
本発明フィルムの動摩擦係数は限定的ではないが、特に0.60以下であることが好ましく、さらには0.50以下であることがより好ましい。動摩擦係数を0.60以下に制御することにより、冷間成型を高湿度(例えば90%以上の湿度)の環境下で行う際においても、滑り性が良好となり、例えばシワ、デラミネーション、ピンホール等を効果的に抑制又は防止することができる。動摩擦係数が0.60を超える場合は、冷間成型時の滑り性が不十分となり、特に高湿度の環境下で冷間成型を行うとシワが生じたり、デラミネーションを引き起こすおそれがある。また、積層体全体を均一に成型もすることが難しくなり、ピンホールも発生しやすくなる。なお、動摩擦係数の下限値は限定的ではないが、例えば0.05程度とすれば良い。
【0055】
本発明における動摩擦係数の測定は、JIS K7125に従って行った。より具体的には、ポリアミド系フィルムのサンプルを23℃×50%RHで2時間調湿した後、同温湿度条件下で測定を実施した。本発明フィルムを最外層として含む積層体の場合は、その最外層となる面を測定面とした。動摩擦係数の算出においては、(B−1)応力特性の測定の際に特定した4方向のそれぞれについて各2点ずつサンプルを採取し、計8点測定し、その平均値とする。
【0056】
(B−3)算術平均高さ(表面粗さ)
本発明フィルムは、冷間成型時の成形性(滑り性)に優れていることを示す一つの指標である算術平均高さSa(以下において単に「Sa」と表記する。)が0.01〜0.15であることが好ましく、特に0.02〜0.10であることがより好ましく、さらには0.03〜0.07であることが最も好ましい。Saが0.01未満である場合は、冷間成型時に十分な滑り性が得られないため、冷間成型時に金型が押し込まれる際に、シワ、デラミネーション等が生じやすくなる。一方、Saが0.15を超える場合は、滑り性が良好となるものの、無機粒子の添加量が多い場合には表面が粗くなり、透明性が失われることがある。
【0057】
本発明におけるSa測定は、TayLorHobson社製 超精密非接触三次元表面性情測定機「タリサーフCCI6000」を用いて行った。より具体的には、ポリアミド系フィルムのサンプルを20℃×65%RHで2時間調湿した後、同温湿度条件下で測定を実施した。本発明フィルムを最外層として含む積層体の場合は、その最外層となる面を測定面とした。サンプルは、100mm×100mmサイズに切り出したものとし、ランダムに10点測定を行い(n=10)、その平均値とする。
【0058】
(B−4)平均厚み及び厚み精度
本発明フィルムは、厚み精度(厚みの均一性)が非常に高いものであることを示す指標として、後記に示す8方向の平均厚みに対する標準偏差が通常0.200μm以下であり、特に0.180μm以下であることが好ましく、さらには0.160μm以下であることがより好ましい。上記の厚み精度を示す標準偏差が0.200μm以下である場合、フィルム表面の厚みのバラツキが非常に小さいものとなり、例えばフィルムの厚みが約15μm以下の場合であっても、金属箔と貼り合わせた積層体とし、深絞り冷間成型を行った際にデラミネーション、ピンホール等の不具合が発生せず、良好な成型性を得ることができる。標準偏差が0.200μmを超える場合、厚み精度が低くなる結果、特にフィルムの厚みが小さい場合、金属箔と貼り合わせた際に、金属箔に十分な延展性を付与することができず、デラミネーション又はピンホールの発生が顕著となり、良好な成型性が得られないことがある。
【0059】
上記厚み精度の評価方法は、次のようにして行う。ポリアミド系フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、
図6に示すように、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、基準方向(0度方向)を特定した後、中心点Aから基準方向(a)、基準方向に対して時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)、135度方向(d)、180度方向(e)、225度方向(f)、270度方向(g)及び315度方向(h)の8方向へそれぞれ100mmの直線L1〜L8の合計8本引く。それぞれの直線上において、中心点から10mm間隔で厚みを、長さゲージ 「HEIDENHAIN‐METRO MT1287」(ハイデンハイン社製)により測定する(10点測定する)。
図6では、一例として、45度方向のL2を測定する場合の測定点(10点)をとった状態を示す。そして、全部の直線において測定して得られたデータ合計80点の測定値の平均値を算出し、これを平均厚みとし、平均厚みに対する標準偏差を算出するものである。なお、上記の基準方向は、フィルム製造時の延伸工程におけるMDが判明しているときは、MDを基準方向とすることができる。
【0060】
本発明において、平均厚み及び標準偏差の測定は、ポリアミド系フィルムのいずれかの一箇所の点(点A)を基準とすれば良いが、特に得られたフィルムロールに巻き取られたポリアミド系フィルムにおいて、下記の3点のいずれにおいても上記範囲内の平均厚み及び標準偏差であることがより望ましい。この3点としては、a)巻幅の中心付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置、b)巻幅の右端付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置、及びc)巻幅の左端付近であって、かつ、巻終わり付近の位置である。
【0061】
また、本発明フィルムの平均厚みは、一般的には30μm以下の範囲内で設定すれば良いが、特に25μm以下の範囲内で設定することが好ましい。より具体的には、16μm以下とすることが好ましく、特に15.2μm以下とすることがより好ましく、さらには12.2μm以下とすることが最も好ましい。
【0062】
本発明フィルムは、金属箔と貼り合せる積層体とすることが好適であり、冷間成型用途に用いることが好適なものであるが、後述するようなテンターを用いる二軸延伸を特定の条件を満足する延伸条件で行うことにより、厚みの小さいフィルムであっても、厚み精度(厚みの均一性)に優れ、かつ、前記4方向における伸長時の応力バランスに優れた二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0063】
フィルムの平均厚みが30μmを超える場合は、ポリアミド系フィルム自身の成型性が低下し、小型の電池外装材に用いることが困難な場合があり、またコスト面でも不利となるおそれがある。一方、フィルムの厚みの下限は特に限定するものではないが、平均厚みが2μm未満では、金属箔と貼り合わせた際における金属箔への延展性付与が不十分となりやすく、成型性に劣るものとなるおそれがあるため、通常は2μm程度とすれば良い。
【0064】
本発明のポリアミド系フィルムは、金属箔と貼り合わせた積層体とし、冷間成型用途に用いることが好適なものであるが、上記特性を満足する本発明のポリアミド系フィルムを用いると、金属箔に十分な延展性を付与することができる。この効果により、冷間成型時(この中でも絞り成型(特に深絞り成型)時)等における成型性が向上し、金属箔の破断を防止することができ、デラミネーション、ピンホール等の不具合の発生も抑制ないしは防止することができる。
【0065】
ポリアミド系フィルムの厚みは、小さくなるほど金属箔に十分な延展性を付与することが困難となる。特に、20μm以下の極めて薄いフィルムでは、伸長時の応力にバラツキがあったり、厚み精度が低いので、冷間成型時の押し込み力によってポリアミド系フィルム又は金属箔の破断が顕著となる。つまり、薄いフィルムほど伸長時の応力のバラツキが大きくなり、厚みのバラツキも大きくなる傾向にあることから、より高度な制御が要求される。
【0066】
この場合において、ポリアミド系フィルムを製造する一般的な方法であるチューブラー法あるいはテンター法を用いる従来の製造方法では、15μm以下の厚みであって、なおかつ、伸長時の応力のバラツキが小さく、厚み精度が高いものを製造することは困難である。このことは、例えば特許文献1〜10のいずれにおいても、具体的な実施例として記載されているポリアミド系フィルムは、最少で15μmの厚みのものしか開示されていないことからも明らかである。
【0067】
これに対し、本発明では、後記に示すような特定の製造方法を採用することにより、特に厚みが約15μm以下(特に約12μm以下)のものであっても、上記4方向における伸長時の応力バランスに優れ、かつ、厚みの均一性が高いポリアミド系フィルムを提供することに成功したものである。このような特殊なポリアミド系フィルムが提供できる結果、金属箔と積層した積層体を例えば電池(例えばリチウムイオン電池)の外装体等に用いる場合には例えば電極数、電解液等の容量を増やせるほか、電池自体の小型化、低コスト化等にも寄与することができる。
【0068】
(B−5)応力特性
本発明フィルムは、(3)前記フィルムにおける任意の点から特定の方向を0度とし、その方向に対して時計回りに45度、90度及び135度の4方向において、一軸引張試験による5%伸長時の各応力の最大値と最小値の差(D値)が35MPa以下であり、かつ、(4)前記4方向において、一軸引張試験による15%伸長時の各応力の最大値と最小値の差(E値)が40MPa以下であることが好ましい。すなわち、二次加工における伸長時の応力バランスが優れていることを示す指標として、前記D値及びE値も満足することが好ましい。
【0069】
前記D値及びE値が上記範囲を超えるものとなると、ポリアミド系フィルムの全方向での応力バランスが悪く、均一な成型性を得ることが困難となるおそれがある。均一な成型性が得られない場合、例えば本発明フィルムと金属箔とを積層した積層体を冷間成型する場合において、金属箔に十分な延展性が付与されない(すなわち、ポリアミド系フィルムが金属箔に追従しにくくなる)ため、金属箔の破断が発生したり、あるいはデラミネーション、ピンホール等の不具合が発生しやすくなる。
【0070】
前記D値は、通常は35MPa以下であるが、特に30MPa以下、さらには25MPa以下であることが好ましく、20MPa以下であることが最も好ましい。なお、前記D値の下限値は限定的ではないが、通常は15MPa程度である。
【0071】
前記E値は、通常は40MPa以下であるが、特に38MPa以下、さらには34MPa以下であることが好ましく、30MPa以下であることが最も好ましい。なお、前記E値の下限値は限定的ではないが、通常は20MPa程度である。
【0072】
また、5%伸長時における前記4方向の応力は、特に限定されないが、積層体の冷間成型性という点において、いずれも35〜130MPaの範囲内であることが好ましく、40〜90MPaの範囲内であることがより好ましく、中でも45〜75MPaの範囲内であることが最も好ましい。
【0073】
15%伸長時における前記4方向の応力は、特に限定されないが、積層体の冷間成型性という点において、いずれも55〜145MPaの範囲内であることが好ましく、60〜130MPaの範囲内であることがより好ましく、中でも65〜115MPaの範囲内であることが最も好ましい。
【0074】
本発明フィルムにおいて、5%及び15%伸長時における前記4方向の応力が上記範囲を満たさない場合、十分な冷間成型性が得られないことがある。
【0075】
本発明フィルムにおける前記4方向の応力は、次のように測定する。まず、ポリアミド系フィルムを23℃×50%RHで2時間調湿した後、
図5に示すように、フィルム上の任意の点Aを中心点とし、フィルムの基準方向(0度方向)を任意で特定し、その基準方向(a)から時計回りに45度方向(b)、90度方向(c)及び135度方向(d)の各方向を測定方向とし、中心点Aから各測定方向に100mm、かつ、測定方向に対して垂直方向に15mmの短冊状に裁断したものを試料とする。例えば、
図5に示すように、0度方向では中心点Aから30mm〜130mmの範囲で試料41(縦100mm×横15mm)のように切り取る。他の方向についても同様に試料を切り取る。これらの試料について、50N測定用のロードセルとサンプルチャックとを取り付けた引張試験機(島津製作所社製AG−1S)を用い、引張速度100mm/minにて、5%及び15%伸長時の応力をそれぞれ測定する。なお、上記の基準方向は、フィルム製造時の延伸工程におけるMDが判明しているときには、MDを基準方向とする。
【0076】
上記のような特性値を満足する本発明のポリアミド系フィルムは、縦方向及び横方向の少なくとも一方向がテンターにより延伸する工程を含む二軸延伸方法より得られるものであることが好ましい。
【0077】
一般に、二軸延伸方法としては、縦方向と横方向の延伸工程を同時に実施する同時二軸延伸方法と、縦方向の延伸工程を実施した後、横方向の延伸工程を実施する逐次二軸延伸方法がある。なお、前記の説明では、縦方向が先の工程として例示されているが、本発明では縦方向及び横方向のいずれが先であっても良い。
【0078】
本発明フィルムは、延伸条件設定の自由度等の見地より、逐次二軸延伸方法により得られるものであることが好ましい。従って、本発明フィルムは、縦方向及び横方向の少なくとも一方向がテンターにより延伸される工程を含む逐次二軸延伸により得られるものであることが好ましい。特に、本発明フィルムは、後記に示す本発明の製造方法によって製造されることが望ましい。
【0079】
(B−6)ヘーズ(透明性)
本発明フィルムは、透明性に優れていることを示す指標として、ヘーズが12%以下であることが好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下がさらに好ましく、6%以下であることが最も好ましい。ヘーズが12%を超える場合は、フィルムの透明性が失われるため印刷加工による意匠性付与が困難となるおそれがある。なお、ヘーズの下限値は特に制限されないが、通常は1.0%程度である。
【0080】
本発明におけるヘーズの測定は、日本電色工業(株)製ヘーズメーター「NDH4000」を用いて測定を実施した。より具体的には、ポリアミド系フィルムのサンプルを23℃×50%RHで2時間調湿した後、同温湿度条件下で測定を実施した。本発明フィルムを最外層として含む積層体の場合は、その最外層となる面を測定面とした。測定したサンプル数はn=10であり、その平均値とする。
【0081】
(C)本発明フィルムを含む積層体
本発明フィルムは、公知又は市販のポリアミド系フィルムと同様にして各種の用途に用いることができる。この場合、本発明フィルムをそのままの状態又は表面処理した状態で使用できるほか、他の層を積層してなる積層体の形態で使用することもできる。
【0082】
積層体の形態をとる場合、その代表例として本発明フィルム及びそのフィルム上に積層された金属箔を含む積層体(本発明の積層体)が挙げられる。この場合、本発明フィルムと金属箔とは直接に接するように積層されていても良いし、他の層を介在させた状態で積層されていても良い。特に、本発明では、本発明フィルム/金属箔/シーラントフィルムの順に積層した積層体であることが好ましい。この場合、各層間には接着剤層を介在させても良いし、介在させなくても良い。
【0083】
本発明フィルムは、そのまま使用することができるが、特にフィルム表面の少なくとも片面の全面又は一部にプライマー層(アンカーコート層:AC層)を有することが好ましい。このようなプライマー層を形成する場合には、プライマー層を有するフィルム表面に接着剤を塗布して金属箔を貼り合わせると、ポリアミド系フィルムと金属箔との接着性をより高めることができる。これにより、金属箔により十分な延展性を付与することができる。このため、ポリアミド系フィルム又は金属箔が破断しにくくなることに加えて、デラミネーション、ピンホール等の発生をより効果的に防止することができる。このようなプライマー層を含むフィルムも、本発明のポリアミド系フィルムに包含される。プライマー層の詳細については、下記<プライマー層の実施形態>で説明する。
【0084】
金属箔としては、各種の金属元素(アルミニウム、鉄、銅、ニッケル等)を含む金属箔(合金箔を含む。)が挙げられるが、特に純アルミニウム箔又はアルミニウム合金箔が好適に用いられる。アルミニウム合金箔については、鉄を含有していること(アルミニウム−鉄系合金等)が好ましく、他の成分については前記積層体の成型性を損なわない範囲で、JIS等に規定されている公知の含有量の範囲であればいずれの成分を含んでいても良い。
【0085】
金属箔の厚みは、特に限定されないが、成型性等の観点より15〜80μmであることが好ましく、特に20〜60μmとすることがより好ましい。
【0086】
本発明の積層体を構成するシーラントフィルムは、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、オレフィン系共重合体、ポリ塩化ビニル等のヒートシール性を有する熱可塑性樹脂を採用することが好ましい。シーラントフィルムの厚みは、限定的ではないが、通常20〜80μmであることが好ましく、特に30〜60μmであることがより好ましい。
【0087】
また、本発明の積層体は、積層体を構成する本発明フィルムの外装側(金属箔と貼り合わせる面とは異なる面)に、使用目的等に応じて他の層が1層以上積層されていても良い。他の層としては、特に制限されないが、例えばポリエステルフィルムが好ましい。ポリエステルフィルムを積層することにより、耐熱性、耐電圧、耐薬品性等が高められるほか、剥離強力も高めることができる。
【0088】
ポリエステルとしては、特に限定されず、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン−2、6−ナフタレート等が好ましい。これらの中でも、コストと効果の観点からPETを用いることが好ましい。
【0089】
本発明の積層体は、各層の層間に接着剤層を介在させることができる。例えば、ポリアミド系フィルム/金属箔の間、金属箔/シーラントフィルムの層間等にはウレタン系接着剤層、アクリル系接着剤層等の接着剤層を用いて各層が積層されることが望ましい。
【0090】
この場合、本発明のポリアミド系フィルムがフィルム表面の少なくとも片面にプライマー層を有する場合、プライマー層面上に金属箔が積層されることが好ましい。より具体的には、プライマー層面上にウレタン系接着剤層、アクリル系接着剤層等の接着剤層を介して金属箔が積層されていることが好ましい。
【0091】
本発明の積層体は、特に本発明フィルムを含むものであることから、冷間成型である絞り成型(特に深絞り成型又は張り出し成型)に好適に用いることができる。ここに、絞り成型は、基本的には1枚の積層体から円筒、角筒、円錐等の形状を有する底付き容器を成型する方法である。このような容器は、一般に継ぎ目がないという特徴を有する。
【0092】
(D)本発明の積層体を含む容器
本発明は、本発明の積層体を含む容器も包含する。例えば、本発明の積層体を用いて成型された容器も、本発明に包含される。この中でも冷間成型することにより得られる容器であることが好ましい。特に、冷間成型として絞り成型(絞り加工)又は張り出し成型(張り出し加工)により製造される容器であることが好ましく、特に絞り成型により製造される容器が好ましい。
【0093】
すなわち、本発明に係る容器は、本発明の積層体から容器を製造する方法であって、前記積層体を冷間成型する工程を含むことを特徴とする容器の製造方法により好適に製造することができる。従って、例えば本発明の積層体から継ぎ目のない容器等を製造することができる。
【0094】
この場合の冷間成型方法自体は、限定的でなく、公知の方法に従って実施することができる。例えば、積層体に含まれる樹脂を溶融させることなく、固体のまま成型する方法を採用すれば良い。成型時の温度は、常温でも良いが、好ましくは50℃以下、特に20〜30℃とすれば良い。
【0095】
より具体的な成型方法(加工方法)としては、例えば円筒絞り加工、角筒絞り加工、異形絞り加工、円錐絞り加工、角錐絞り加工、球頭絞り加工等の絞り加工を好ましく採用することができる。また、絞り加工としては、浅絞り加工と深絞り加工に分類されるが、本発明の積層体は、特に深絞り加工にも適用することができる。
【0096】
これらの絞り加工は、通常の金型を用いて実施することができる。例えば、パンチ、ダイス及びブランクホルダーを含むプレス機械を用い、a)前記ダイスとブランクホルダー間に本発明の積層体を配置する工程及びb)前記パンチを前記積層体に押し込むことにより容器状に変形させる工程を含む方法により絞り加工を実施することができる。
【0097】
このようにして得られる容器は、金属箔の破断、デラミネーション、ピンホール等の不具合が効果的に抑制されているので、高い信頼性を得ることができる。このため、本発明に係る容器は、各種の工業製品の包装材料をはじめとして、様々な用途に使用できる。特に、深絞り成型による成型体はリチウムイオン電池の外装体、張り出し成型による成型体はプレススルーパック等に好適に用いられる。
【0098】
<プライマー層の実施形態>
本発明のポリアミド系フィルムにおけるプライマー層としては、以下のような実施形態をとることが好ましい。
【0099】
プライマー層の厚みは限定的ではないが、通常は0.01〜0.10μmであることが好ましく、特に0.02〜0.09μmであることがより好ましい。プライマー層の厚みが0.01μm未満であると、フィルム上に均一な膜厚のプライマー層を形成することが困難となる。その結果、上記したようなポリアミド系フィルムと金属箔の接着性の向上効果が乏しいものとなる。一方、プライマー層の厚みが0.10μmを超えると、ポリアミド系フィルムと金属箔の接着性が良好となる効果は飽和し、コスト的に不利になる。
【0100】
プライマー層は、例えばポリウレタン樹脂、アクリル樹脂等の各種の合成樹脂を含む層を採用することができる。特に、ポリウレタン樹脂を含むプライマー層が好ましい。このようなポリウレタン樹脂としては、例えばアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂を含有することが好ましい。この樹脂を含有するプライマー層は、ポリアミド系フィルムの表面に前記樹脂を含む水性塗剤を塗布することにより形成することができる。
【0101】
ポリウレタン樹脂は、例えば多官能イソシアネートと水酸基含有化合物との反応により得られるポリマーである。より詳細には、トリレンジイソイアネート、ジフェニルメタンイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、又はヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート等の多官能イソシアネートと、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリレートポリオール、ポリカーボネートポリオール等の水酸基含有化合物との反応により得られるウレタン樹脂を例示することができる。
【0102】
本発明において用いられるアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂中にアニオン性官能基が導入されたものである。ポリウレタン樹脂中にアニオン性官能基を導入する方法としては、例えばa)ポリオール成分としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法、b)鎖伸張剤としてアニオン性官能基を有するジオール等を用いる方法等が挙げられる。
【0103】
アニオン性官能基を有するジオールとしては、例えばグリセリン酸、ジオキシマレイン酸、ジオキシフマル酸、酒石酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール吉草酸、2,2−ジメチロールペンタン酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)吉草酸、4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)酪酸等の脂肪族カルボン酸のほか、2,6−ジオキシ安息香酸等の芳香族カルボン酸等が挙げられる。
【0104】
アニオン型のポリウレタン樹脂を水中に分散させる際には、一般的に揮発性塩基が用いることが好ましい。揮発性塩基は、特に限定的でなく、公知のものを使用することができる。より具体的には、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、エタノールアミン等が例示される。この中でも、トリエチルアミンは、水分散性ポリウレタン樹脂の液安定性が良好であり、さらに沸点が比較的低温であることからプライマー層への残留量が少ないという点でより好ましい。
【0105】
本発明においては、プライマー層の形成のために、市販のアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂を好ましく使用することができる。そのような市販のアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂としては、例えばDIC社製の「ハイドランADS−110」、「ハイドランADS−120」、「ハイドランKU−400SF」、「ハイドランHW−311」、「ハイドランHW−312B」、「ハイドランHW−333」、「ハイドランAP−20」、「ハイドランAP−201」、「ハイドランAPX−101H」、「ハイドランAP−60LM」、第一工業製薬社製の「スーパーフレックス107M」、「スーパーフレックス150」、「スーパーフレックス150HS」、「スーパーフレックス410」、「スーパーフレックス420NS」、「スーパーフレックス460」、「スーパーフレックス460S」、「スーパーフレックス700」、「スーパーフレックス750」、「スーパーフレックス840」、三井化学ポリウレタン社製の「タケラックW−6010」、「タケラックW−6020」、「タケラックW−511」、「タケラックWS−6021」、「タケラックWS−5000」、DSM社製の「NeoRez R9679」、「NeoRez R9637」、「NeoRez R966」、「NeoRez R972」等が挙げられる。
【0106】
本発明のポリアミド系フィルムにおいて、プライマー層の耐水性、耐熱性等の向上を目的として、プライマー層にメラミン樹脂等の硬化剤を含有させることが好ましい。メラミン樹脂等の硬化剤の含有量は、アニオン型水分散性ポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜10質量部とすることが好ましい。
【0107】
メラミン樹脂の代表的なものとして、トリ(アルコキシメチル)メラミンが挙げられる。そのアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。各種のメラミン樹脂は、それぞれ単独で、又は二種類以上を同時に、使用することができる。
【0108】
水性塗剤におけるアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂の固形分濃度は、塗工装置、乾燥・加熱装置等の仕様によって適宜変更され得るものであるが、希薄すぎる溶液では、乾燥工程において長時間を要するという問題を生じやすい。他方、固形分濃度が高すぎると、均一な塗剤を得にくく、このため塗工性に問題を生じ易い。このような観点から、水性塗剤におけるアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂の固形分濃度は3〜30質量%の範囲であることが好ましい。
【0109】
水性塗剤には、主成分であるアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂のほかに、水性塗剤をフィルムに塗布する際の塗工性を向上させるために、例えば消泡剤、界面活性剤等の添加剤を添加しても良い。
【0110】
特に、界面活性剤を添加することにより、特に基材フィルムへの水性塗剤の濡れを促進することができる。界面活性剤は、特に限定されないが、例えばポリエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン型界面活性剤のほか、アセチレングリコール等のノニオン型界面活性剤を挙げることができる。界面活性剤は、水性塗剤中に0.01〜1質量%含まれていることが好ましい。また、ポリアミド系フィルムの製造工程における熱処理で揮発するものであることが好ましい。
【0111】
さらには、水性塗剤には、必要に応じて、接着性に影響を与えない範囲で、帯電防止剤、スリップ剤等の各種の添加剤を加えることができる。
【0112】
2.本発明フィルムの製造方法
本発明の製造方法は、二軸配向したポリアミド系フィルムを製造する方法であって、
(1)ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得るシート成形工程、
(2)前記未延伸シートをMD及びTDに逐次又は同時に二軸延伸することによって延伸フィルムを得る延伸工程
を含み、かつ、
(3)下記式a)及びb);
a)0.85≦X/Y≦0.95
b)8.5≦X×Y≦9.5
(但し、Xは前記MDの延伸倍率を示し、Yは前記TDの延伸倍率を示す。)
の両方を満たす、
ことを特徴とする。
【0113】
シート成形工程
シート成形工程では、ポリアミド樹脂を含む溶融混練物をシート状に成形することにより未延伸シートを得る。
【0114】
ポリアミド樹脂としては、前記で述べたような各種の材料を用いることができる。また、各種の添加剤も溶融混練物中に含有させることができる。本発明の製造方法では、動摩擦係数等を効果的に制御できるという見地より、特に有機滑剤及び無機滑剤の少なくとも1種、特に有機滑剤及び無機滑剤の両者を含むことが望ましい。これらの滑剤は、前述したものを採用することができる。
【0115】
溶融混練物の調製自体は、公知の方法に従って実施すれば良い。例えば、加熱装置を備えた押出機にポリアミド樹脂を含む原料を投入し、所定温度に加熱することによって溶融させた後、その溶融混練物をTダイにより押し出し、キャスティングドラム等により冷却固化させることによってシート状の成形体である未延伸シートを得ることができる。
【0116】
この場合の未延伸シートの平均厚みは特に限定されないが、一般的には15〜250μm程度とし、特に50〜235μmとすることが好ましい。このような範囲内に設定することによって、より効率的に延伸工程を実施することができる。
【0117】
延伸工程
延伸工程では、前記未延伸シートをMD及びTDに逐次又は同時に二軸延伸することによって延伸フィルムを得る。
【0118】
前記のとおり、MD及びTDの少なくとも一方向がテンターにより延伸される工程を含む逐次二軸延伸により得られるものであることが好ましい。これにより、より均一なフィルム厚みを得ることが可能となる。
【0119】
テンター自体は、従来よりフィルムの延伸のために使用されている装置であり、未延伸シートの両端を把持しながら縦方向及び/又は横方向に拡幅させる装置である。テンターを用いる場合においても、同時二軸延伸及び逐次二軸延伸の2つの方法がある。テンターを用いる同時二軸延伸は、未延伸フィルムの両端を把持しながらMDへ延伸すると同時にTDへも延伸することにより、MD及びTDの二軸延伸をテンターにより同時に行う方法である。一方、テンターを用いる逐次二軸延伸は、1)回転速度が異なる複数のロールに未延伸シートを通過させることによりMDを延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDへ延伸する方法、2)未延伸シートをテンターによりMDを延伸した後、その延伸されたフィルムをテンターによりTDへ延伸する方法等があるが、得られるフィルムの物性、生産性等の点で前記1)の方法が特に好ましい。前記1)の方法については、
図2に示すような工程により未延伸フィルムの逐次二軸延伸が行われる。
【0120】
まず、
図2に示すように、未延伸シート13が複数のロール21を通過することによりMD(縦方向)に延伸される。これら複数のロールは回転速度が異なるため、その速度差により未延伸シート13がMDに延伸される。すなわち、未延伸シートを低速ロール群から高速ロール群へ通過させることで延伸するものである。
【0121】
なお、
図2では、ロール数は5個であるが、実際はそれ以外の個数であっても良い。また、ロールは、例えば順に予熱用ロール、延伸用ロール及び冷却用ロールというかたちで互いに機能が異なるロールを設置することもできる。これらの各機能を有するロールの個数も適宜設定することができる。また、延伸用ロールを複数設ける場合、多段階で延伸できるような設定としても良い。例えば、1段目を延伸倍率E1とし、2段目を延伸倍率E2という2段階の延伸によりMDの延伸倍率を(E1×E2)の範囲内で適宜設定することが可能となる。このようにして第1延伸フィルム13’が得られる。
【0122】
次に、ロール21を通過した第1延伸フィルム13’は、テンター22に導入されることによりTDに延伸される。より具体的には、
図3に示すように、テンター22に導入された第1延伸フィルム13’は、入口付近においてその両端をガイドレールに固定されたリンク装置34に接続されたクリップに把持され、流れ方向の順に予熱ゾーン31、延伸ゾーン32及び弛緩熱処理ゾーン33を通過する。予熱ゾーン31で第1延伸フィルム13’は一定の温度に加熱された後、延伸ゾーン32でTDに延伸される。その後、弛緩熱処理ゾーン33において、一定の温度で弛緩処理が行われる。このようにして第2延伸フィルム14(本発明フィルム)が得られる。その後、ガイドレールに固定されたリンク装置34は、テンター22の出口付近で第2延伸フィルム14から外され、テンター22の入口付近に戻される。
【0123】
このように、テンターを用いる逐次二軸延伸は、MDをロールによって延伸することから生産性、設備面等において有利であり、TDをテンターによって延伸することからフィルム厚みの制御等において有利となる。
【0124】
本発明の製造方法では、延伸工程において、下記式a)及びb);
a)0.85≦X/Y≦0.95(好ましくは0.89≦X/Y≦0.93)
b)8.5≦X×Y≦9.5(好ましくは8.7≦X×Y≦9.1)
(但し、Xは前記MDの延伸倍率を示し、Yは前記TDの延伸倍率を示す。)
の両方を満たすことが必須である。
【0125】
上記a)及びb)の条件のいずれか一方でも満足しない場合は、得られるポリアミド系フィルムは4方向の応力のバランスが悪いものとなり、本発明フィルムを得ることが困難となる。
【0126】
延伸工程における温度条件は、例えば、前記の同時二軸延伸を行う際には180℃〜220℃の温度範囲で延伸することが好ましい。また例えば、前記の逐次二軸延伸を行う際には、MDの延伸を50〜120℃(特に50〜80℃、さらに50〜70℃、またさらに50〜65℃)の温度範囲で行うことが好ましく、TDの延伸を70〜150℃(特に70〜130℃、さらに70〜120℃、またさらに70〜110℃)の温度範囲で行うことが好ましい。このような温度範囲に制御することによって、より確実に本発明フィルムを製造することが可能となる。これらの温度は、例えば
図2に示すロール21(予熱用ロール)、
図3に示すテンターの予熱ゾーン31等にて予熱しながら設定・制御することができる。
【0127】
また、テンターを用いる同時二軸延伸及び逐次二軸延伸ともに、延伸後は弛緩熱処理を行うことが好ましい。弛緩熱処理は、温度180〜230℃の範囲で弛緩率2〜5%とすることが好ましい。これらの温度は、
図3に示すテンターの弛緩熱処理ゾーン33にて設定・制御することができる。
【0128】
延伸時の温度範囲を上記のようなものとするための手段としては、例えば1)フィルム表面に熱風を吹き付ける方法、2)遠赤外線又は近赤外線ヒーターを用いる方法、3)それらを組み合わせる方法等があるが、本発明の加熱方法としては、熱風を吹き付ける方法を含むことが好ましい。
【0129】
<延伸工程における実施の形態>
本発明における延伸工程としては、MDをロールによって延伸し、TDをテンターによって延伸する逐次二軸延伸工程を好適に採用することができる。この方法を採用し、かつ下記に示す温度条件を満足することにより、厚みの均一性に優れるとともに、前記4方向の伸長時の応力バランスをより優れたものとすることが可能となるため、特に平均厚み16μm以下の本発明フィルムをより確実かつ効率的に得ることができる。
【0130】
MDの延伸
まず、MDの延伸における温度は、ロールを用いて50〜70℃の温度範囲で延伸することが好ましく、中でも50〜65℃とすることがより好ましい。
【0131】
MDの延伸は、2段階以上の多段延伸を行うことが好ましい。この場合、延伸倍率を段階的に上げていくことが好ましい。すなわち、n段目の延伸橋率よりも(n+1)段目の延伸倍率の方が高くなるように制御することが好ましい。これによって全体をよりいっそう均一に延伸することができる。例えば、2段階で延伸する場合、1段目を延伸倍率1.1〜1.2とし、2段目を延伸倍率2.3〜2.6という2段階の延伸により縦方向の延伸倍率を2.53〜3.12の範囲内で適宜設定することができる。
【0132】
さらには、MDの延伸において、温度勾配を設けることが好ましい。特に、フィルムの引き取り方向に沿って、順次温度を上げていくことが好ましく、MDの延伸部全体において、その温度勾配(フィルムの走行方向のはじめ(入口)の温度T1とおわり(出口)の温度T2との温度差)は、通常2℃以上であることが好ましく、3℃以上であることがより好ましい。このとき、フィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は、通常1〜5秒間であることが好ましく、特に2〜4秒間であることがより好ましい。
【0133】
TDの延伸
TDの延伸は、
図3に示すような各ゾーンが形成されるテンターにより延伸を行う。このとき、予熱ゾーン31の温度は60〜70℃とすることが好ましい。そして、延伸ゾーン32の温度を70〜130℃の温度範囲とすることが好ましく、特に75〜120℃の温度範囲とすることがより好ましく、さらには80〜110℃の温度範囲とすることが最も好ましい。
【0134】
また、延伸ゾーン32においてもフィルムの引き取り方向に沿って、順次温度を上げていくことが好ましく、延伸ゾーン全体において、その温度勾配(フィルムの走行方向のはじめ(入口)の温度T1とおわり(出口)の温度T2との温度差)は、通常5℃以上であることが好ましく、8℃以上であることがより好ましい。このとき、延伸ゾーン32におけるフィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は、1〜5秒間であることが好ましく、特に2〜4秒間であることがより好ましい。
【0135】
弛緩熱処理ゾーン33においては、弛緩熱処理を行うことが望ましい。その熱処理温度は180〜230℃の範囲とすることが好ましく、中でも180〜220℃の範囲とすることがより好ましく、さらには180〜210℃とすることが最も好ましい。また、弛緩率は、通常2〜5%程度とすることが好ましい。
【0136】
また、フィルム表面の少なくとも片面にプライマー層を有する本発明のポリアミド系フィルムを得る際にも、上記と同様の延伸方法及び延伸条件で行うことが好ましい。なお、フィルム表面にプライマー層を形成するためには、上記のような製造方法において、MDに延伸した後のポリアミド系フィルムに水性塗剤を塗布することが好ましい。そして、続いてそのフィルムを、水性塗剤とともに、上記と同様の延伸条件でTDに延伸すること(インラインコーティング)が好ましい。水性塗剤の塗布量は、延伸後のフィルム表面に形成されるプライマー層の厚みが0.01〜0.10μmとなるように調整することが好ましい。
【0137】
なお、本発明の製造方法では、延伸工程として、厚みの均一性の保持等の観点より、上記以外の延伸方法は採用されないことが望ましい。例えば、チューブラー法(インフレーション法)による延伸工程を含まないことが望ましい。
【実施例】
【0138】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0139】
実施例1
(1)ポリアミド系フィルムの製造
まず原料として、表1に示す成分をそれぞれ用いた。
【0140】
【表1】
【0141】
上記の原料を用い、ポリアミド樹脂(ポリアミド6樹脂)/シリカ含有ポリアミド樹脂/脂肪酸含有ポリアミド樹脂=91.5質量部/2.5質量部/6.0質量部の組成比率にて押出機内で溶融混練し、Tダイへ供給してシート状に吐出し、20℃に温度調整した金属ドラムに巻き付け、冷却して巻き取ることにより未延伸シートを製造した。このとき、延伸後に得られるポリアミド系フィルムの厚みが12μmとなるように、ポリアミド樹脂の供給量等を調整した。
【0142】
次いで、得られた未延伸シートを逐次二軸延伸により延伸工程を実施した。より具体的には、
図2に示すような装置にて、MDについてはロールを用いて延伸した後、TDについてはテンターを用いて延伸する方法により実施した。
【0143】
まず、MDの延伸は、前記シートを複数個のロールに通過させることにより、MDへ全延伸倍率2.85倍となるように延伸した。このとき、2段階で延伸を行い、1段目の延伸倍率を1.1とし、2段目の延伸倍率を2.59とし、全延伸倍率(MD1×MD2)1.1×2.59=2.85倍とした。加熱条件は、フィルムの引き取り方向に沿って、走行方向のはじめ(T1)が54℃、おわり(T2)が57℃となるように温度勾配を設けて延伸を行った。このとき、フィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は約3秒間であった。
【0144】
次に、TDの延伸は、
図3に示すようなテンターを用いて実施した。まず予熱ゾーン31(予熱部)の温度を65℃として予熱を行いながら、延伸ゾーン32においてTDへ3.2倍延伸した。このとき、延伸ゾーン32(延伸部)では、フィルムの引き取り方向に沿って、走行方向のはじめ(T1)が74℃、おわり(T2)が96℃となるように温度勾配を設けた。このとき、延伸ゾーン32におけるフィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は約3秒間であった。
【0145】
延伸ゾーンを通過したフィルムは、弛緩熱処理ゾーン33(熱処理部)において、温度202℃及び弛緩率3%の条件で弛緩熱処理された。このようにして1000m以上連続製造して二軸延伸ポリアミド系フィルム(巻量2000m)を得た。得られたフィルムはロール状に巻き取られた。
【0146】
(2)積層体の作製
前記(1)で得られた二軸延伸ポリアミド系フィルムに、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製「TM‐K55/CAT−10L」)を塗布量が5g/m
2となるように塗布した後、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面に金属箔(厚み50μmのアルミニウム箔)を貼り合せた。次に、ポリアミド系フィルムとアルミニウム箔の積層体のアルミニウム箔側に上記接着剤を同様の条件で塗布した後、その塗布面にシーラントフィルム(未延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ株式会社製 GHC 厚み50μm))を貼り合わせ、40℃の雰囲気下で72時間エージング処理を施し、積層体(ポリアミド系フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルム)を作製した。
【0147】
実施例2〜35、比較例1〜16
製造条件と延伸後のポリアミド系フィルムの目標厚みを表2〜4に示したものに変更し、有機滑剤又は無機滑剤の含有量が表8〜10に示したものになるように、原料の組成比率を変更したほかは、実施例1と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて、実施例1と同様にして積層体を作製した。但し、実施例7及び実施例17については、より具体的には以下のように変更した。
【0148】
(1)実施例7について
実施例1で得られた積層体において、ポリアミド系フィルムのアルミニウム箔を積層していない面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製TM‐K55/CAT−10L)を塗布量が5g/m
2となるように塗布した後、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面にPETフィルム(ユニチカ社製「エンブレットPET−12」厚み12μm)を貼り合せて、積層体(PETフィルム/ポリアミド系フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルム)を作製した。
【0149】
(2)実施例17について
表1に示した原料を用い、ポリアミド樹脂(ポリアミド6樹脂)/ポリアミド樹脂(ポリアミド66樹脂)/シリカ含有ポリアミド樹脂/脂肪酸含有ポリアミド樹脂=81.8/9.7/2.5/6.0質量部の組成比率となるように変更し、製造条件を表2に示すものに変更した以外は、実施例1と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて実施例1と同様にして積層体を作製した。
【0150】
【表2】
【0151】
【表3】
【0152】
【表4】
【0153】
試験例1
実施例1〜35及び比較例1〜16で得られたポリアミド系フィルム及び積層体の物性について評価した。その評価結果を表5〜10に示す。なお、各種の物性の測定方法及び評価方法は、以下のとおりに行った。
【0154】
(1)ポリアミド系フィルムの弾性率(GPa)
ポリアミド系フィルムの弾性率は、各方向について前記の方法でそれぞれ測定し、算出した。
【0155】
(2)ポリアミド系フィルムの伸度20%までの成形仕事エネルギー(N・m)
ポリアミド系フィルムの伸度20%までの成形仕事エネルギーは、MD方向及びTD方向について前記の方法でそれぞれ測定し、算出した。
【0156】
(3)ポリアミド系フィルムの平均厚み(μm)と標準偏差(μm)
ポリアミド系フィルムの平均厚みと標準偏差は、前記の方法でそれぞれ測定し、算出した。なお、測定に用いたサンプルフィルムは、次の3種類であった。
得られたフィルムロールに巻き取られたポリアミド系フィルムにおいて、a)巻幅の中心付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置で採取したものを「A」と表記し、b)巻幅の右端付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置で採取したものを「B」と表記し、c)巻幅の左端付近であって、かつ、巻終わり付近の位置で採取したものを「C」と表記した。
【0157】
(4)ポリアミド系フィルム動摩擦係数、ヘーズ(%)、算術平均高さSa(μm)
ポリアミド系フィルムの動摩擦係数、ヘーズ、算術平均高さSaは、前記で示した方法により測定した。なお、測定に用いたサンプルフィルムとしては、得られたフィルムロールに巻き取られたポリアミド系フィルムにおいて、巻幅の中心付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置で採取したものを用いた。
【0158】
(5)プライマー層(アンカーコート層:AC層)の厚み(μm)
得られたポリアミド系フィルムをエポキシ樹脂中に包埋し、凍結ウルトラミクロトームで厚み100nmの切片を採取した。切削温度は−120℃、切削速度は0.4mm/分とした。採取した切片をRuO
4溶液で1時間気相染色し、JEM−1230 TEM(日本電子社製)を用いて、透過測定にて加速電圧100kVでプライマー層厚みを測定した。このとき、プライマー層の厚みを測定する箇所を任意の5点選択し、5点の測定値の平均値を厚みとした。
なお、測定に用いたサンプルフィルムとしては、得られたフィルムロールに巻き取られたポリアミド系フィルムにおいて、巻幅の中心付近であって、かつ、巻量の半分にあたる位置で採取したものを用いた。
【0159】
(5)積層体の成型性及び耐湿熱性
1)成形性(絞り深さ;エリクセン試験)(mm)
JISZ2247に基づいて、エリクセン試験機(安田精機製作所社製No.5755)を用い、得られた積層体に鋼球ポンチを所定の押し込み深さで押し付け、エリクセン値を求めた。エリクセン値は0.5mmごとに測定した。エリクセン値が5mm以上である場合が好適であり、特に8mm以上である場合を深絞り成型により好適であると判断した。なお、鋼球ポンチの押し込み速度は0.20mm/sとし、測定環境は20℃×90%RHとした。
【0160】
2)耐湿熱性
高温高湿条件での成型安定性を評価するため、得られた積層体を、高温高圧調理殺菌装置RCS−60SPXTG、日阪製作所社製)を使用し、120℃、30分、1.8kg/cm
2で処理した後、前記1)と同様のエリクセン試験を行った。このとき、エリクセン値が7mm以上である場合を「◎」、エリクセン値が6mm以上、7mm未満である場合を「○」、エリクセン値が5mm以上、6mm未満である場合を「△」、エリクセン値が5mm未満である場合を「×」と表記した。
【0161】
【表5】
【0162】
【表6】
【0163】
【表7】
【0164】
【表8】
【0165】
【表9】
【0166】
【表10】
【0167】
なお、表5〜10において、平均厚みの単位は「μm」、プライマー層の厚みの単位は「μm」、応力の単位は「MPa」、弾性率の単位は「GPa」、成形仕事エネルギーの単位は「N・m」、ヘーズ値の単位は「%」、算術平均粗さの単位は「μm」、絞り深さの単位は「mm」をそれぞれ示す。
【0168】
これらの結果からも明らかなように、実施例1〜35では、特にポリアミド系フィルムの延伸倍率が所定の範囲であったため、得られたポリアミド系フィルムは、前記4方向において測定した弾性率がいずれも1.3〜3.5GPaであり、かつ、これらの弾性率の最大値と最小値との差が0.5GPa以下であり、さらに前記0度及び90度の2方向において測定した成形仕事エネルギーの差[(前記0度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)−(前記90度方向の伸度20%までの成形仕事エネルギー)]の絶対値が0.02N・m以下であるという物性を満たしたものとなった。そして、これらのポリアミド系フィルムを用いて得られた積層体は、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するものであった。つまり、各実施例のポリアミド系フィルムは、アルミニウム箔が破断したり、デラミネーション、ピンホール等が発生することなく、優れた成型性を有していることがわかる。
【0169】
これに対し、比較例1〜16では、本発明フィルムに必要とされる物性の範囲を満足するものではなかったため、これら比較例のポリアミド系フィルムを用いて得られた積層体は、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するものとすることができず、成型性に劣るものであることが確認された。
【0170】
実施例36
(1)ポリアミド系フィルムの製造
表1に示す原料を用い、ポリアミド樹脂(ポリアミド6樹脂)/シリカ含有ポリアミド樹脂/脂肪酸含有ポリアミド樹脂=91.5質量部/2.5質量部/6.0質量部の組成比率にて押出機内で溶融混練し、Tダイへ供給してシート状に吐出した。20℃に温度調節した金属ドラムに前記シートを巻き付け、冷却して巻き取ることにより未延伸シートを製造した。このとき、延伸後に得られるポリアミド系フィルムの厚みが15μmとなるように、ポリアミド樹脂の供給量等を調整した。
【0171】
次いで、得られた未延伸シートを逐次二軸延伸により延伸工程を実施した。より具体的には、
図2に示すような装置を用い、前記シートのMDについてはロールを用いて延伸した後、TDについてはテンターを用いて延伸する方法により延伸を行った。
【0172】
まず、MDの延伸は、前記シートを複数個の延伸用ロールに通過させることにより、MDへ全延伸倍率2.85倍となるように延伸した。このとき、2段階で延伸を行い、1段目の延伸倍率を1.1とし、2段目の延伸倍率を2.59とし、全延伸倍率(MD1×MD2)1.1×2.59=2.85倍とした。加熱条件は、フィルムの引き取り方向に沿って、走行方向のはじめ(T1)が58℃、おわり(T2)が61℃となるように温度勾配を設けて延伸を行った。このとき、フィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は約3秒間であった。
【0173】
MDの延伸後、プライマー層の形成のため、グラビアコーターでポリウレタン水分散体を延伸後のコート厚みが0.03〜0.08μmになるように片面にコーティングした。その後、TDの延伸を行った。上記水分散体としては、アニオン型水分散性ポリウレタン樹脂(DIC社製「ハイドランKU400SF」,Tmf=約0℃、Tsf=80℃)100質量部に対して、メラミン樹脂(DIC社製「ベッカミンAPM」,Tts=150℃)7質量部を混合して得られる水性塗剤を用いた。
【0174】
次に、TDの延伸は、
図3に示すようなテンターを用いて実施した。まず予熱ゾーン31(予熱部)の温度を70℃として予熱を行いながら、延伸ゾーン32においてTDへ3.2倍延伸した。このとき、延伸ゾーン32(延伸部)では、フィルムの引き取り方向に沿って、走行方向のはじめ(T1)が78℃、おわり(T2)が100℃となるように温度勾配を設けた。このとき、延伸ゾーン32におけるフィルムの走行方向のはじめ(入口)とおわり(出口)までのフィルムの走行時間(加熱時間)は約3秒間であった。
【0175】
延伸ゾーンを通過したフィルムは、弛緩熱処理ゾーン33(熱処理部)において温度202℃及び弛緩率3%の条件で弛緩熱処理された。このようにして1000m以上連続製造することにより、片面にプライマー層が形成された二軸延伸ポリアミド系フィルム(巻量2000m)を得た。得られたフィルムはロール状に巻き取られた。
【0176】
(2)積層体の作製
上記(1)で得られた二軸延伸ポリアミド系フィルムを用い、プライマー層表面に二液型ポリウレタン系接着剤を用いてアルミニウム箔を積層したほかは、実施例1と同様にして積層体(ポリアミド系フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルム)を作製した。
【0177】
実施例37〜75、比較例17〜36
製造条件及び延伸後のポリアミド系フィルムの目標厚みを表11〜14に示したものに変更し、有機滑剤又は無機滑剤の含有量が表19〜22に示したものになるように、原料の組成比率を変更した以外は、実施例36と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて、実施例36と同様にして積層体を作製した。但し、実施例42、実施例50、実施例58、実施例74及び実施例75については、より具体的には以下のように変更した。
【0178】
(1)実施例42について
実施例36で得られた積層体において、ポリアミド系フィルムのアルミニウム箔を積層していない面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製TM‐K55/CAT−10L)を塗布量が5g/m
2となるように塗布した後、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面にPETフィルム(ユニチカ社製のエンブレットPET−12 厚み12μm)を貼り合せ、積層体(PETフィルム/ポリアミド系フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルム)を作製した。
【0179】
(2)実施例50について
実施例43で得られた積層体において、ポリアミド系フィルムのアルミニウム箔を積層していない面に、二液型ポリウレタン系接着剤(東洋モートン株式会社製TM‐K55/CAT−10L)を塗布量が5g/m
2となるように塗布した後、80℃で10秒間乾燥した。その接着剤塗布面にPETフィルム(ユニチカ社製のエンブレットPET−12 厚み12μm)を貼り合せ、積層体(PETフィルム/ポリアミド系フィルム/アルミニウム箔/シーラントフィルム)を作製した。
【0180】
(3)実施例58について
表1に示した原料を用い、ポリアミド樹脂(ポリアミド6樹脂)/ポリアミド樹脂(ポリアミド66樹脂9/シリカ含有ポリアミド樹脂/脂肪酸含有ポリアミド樹脂=81.8/9.7/2.5/6.0質量部の組成比率となるように変更し、製造条件を表12に示すものに変更した以外は、実施例44と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて実施例36と同様にして積層体を作製した。
【0181】
(4)実施例74について
プライマー層の形成のためのポリウレタン水分散体を、アニオン型水分散性ポリウレタン樹脂(DIC社製「ハイドランAP201」)を用いた以外は、実施例36と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて、実施例36と同様にして積層体を作製した。
【0182】
(5)実施例75について
プライマー層の形成のためのポリウレタン水分散体を、アニオン型水分散性ポリウレタン樹脂(DIC社製「ハイドランAP201」)を用いた以外は、実施例44と同様の方法でポリアミド系フィルムを得た。得られたポリアミド系フィルムを用いて、実施例44と同様にして積層体を作製した。
【0183】
【表11】
【0184】
【表12】
【0185】
【表13】
【0186】
【表14】
【0187】
試験例2
実施例36〜75及び比較例17〜36で得られたポリアミド系フィルム及び積層体の物性について評価した。その評価結果を表15〜22に示す。なお、各種の物性の測定方法及び評価方法は、試験例1と同様にして実施した。
【0188】
【表15】
【0189】
【表16】
【0190】
【表17】
【0191】
【表18】
【0192】
【表19】
【0193】
【表20】
【0194】
【表21】
【0195】
【表22】
【0196】
これらの結果からも明らかなように、実施例36〜75のポリアミド系フィルムは、特にA値〜C値が所定の範囲内に制御されていることがわかる。そして、これらのポリアミド系フィルムを用いて得られた積層体は、エリクセン値が高く、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するものであった。つまり、これらの実施例のポリアミド系フィルムは、アルミニウム箔が破断したり、デラミネーション、ピンホール等が発生することがなく、優れた成型性を発揮できることがわかる。
【0197】
特に、実施例36〜75で得られたポリアミド系フィルムは片面にアニオン型水分散性ポリウレタン樹脂を含有するプライマー層を有するものであることから、これらのポリアミド系フィルムを用いた積層体は、耐湿熱性にも優れていた。
【0198】
一方、比較例17〜36では、特にポリアミド系フィルムの延伸倍率が所定の範囲を満足するものではなかったため、得られたポリアミド系フィルムはA値〜C値の少なくともいずれかが所定の範囲から外れていた。その結果、これら比較例のポリアミド系フィルムを用いて得られた積層体は、冷間成型したときに全方向へ均一な延展性を有するものとすることができず、成型性に劣るものであることが確認された。