特開2017-222205(P2017-222205A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クボタの特許一覧

<>
  • 特開2017222205-作業車 図000003
  • 特開2017222205-作業車 図000004
  • 特開2017222205-作業車 図000005
  • 特開2017222205-作業車 図000006
  • 特開2017222205-作業車 図000007
  • 特開2017222205-作業車 図000008
  • 特開2017222205-作業車 図000009
  • 特開2017222205-作業車 図000010
  • 特開2017222205-作業車 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-222205(P2017-222205A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】作業車
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/04 20060101AFI20171124BHJP
   A01B 69/00 20060101ALI20171124BHJP
   B60W 30/182 20120101ALI20171124BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
   B60T7/04 D
   A01B69/00 302
   B60W30/182
   B60W30/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-117194(P2016-117194)
(22)【出願日】2016年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】黒下 佳彦
(72)【発明者】
【氏名】梅本 享
(72)【発明者】
【氏名】藤本 義知
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝
【テーマコード(参考)】
2B043
3D124
3D241
【Fターム(参考)】
2B043AA03
2B043BA02
2B043BB03
2B043DB06
2B043DC03
2B043EA03
2B043ED05
3D124AA03
3D124AA32
3D124BB01
3D124BB15
3D124CC28
3D124DD44
3D124DD46
3D124DD52
3D241BA01
3D241BA24
3D241BA26
3D241BC01
3D241CA03
3D241CA20
3D241CC02
3D241CC08
3D241CC09
3D241CC11
3D241CD05
3D241DA03Z
3D241DA13Z
3D241DA38Z
3D241DB02Z
3D241DD12Z
(57)【要約】
【課題】走行上の安全性の向上を図ることが望まれていた。
【解決手段】左右車輪を夫々制動する左右一対のブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態と連結を解除する解除状態とに切り換え自在な連結部材と、連結状態であるか解除状態であるかを検出する連結状態検出手段43と、人為操作式の指令手段Aの指令に基づいて車体の走行状態を制御する走行制御手段Hとを備え、走行制御手段Hは、指令手段Aにて指令された目標走行状態になるように制御する通常モードと、指令された車速よりも低速の走行状態になるように制御する車速抑制モードとに切り換え自在であり、車速抑制モードに設定されているときに、所定の解除用操作が行われなければ車速抑制モードを維持する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に備えられた左右車輪を夫々制動する左右一対のブレーキ操作具と、
左右一対の前記ブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態と連結を解除する解除状態とに切り換え自在な連結部材と、
前記連結部材が前記連結状態であるか前記解除状態であるかを検出する連結状態検出手段と、
車体の目標走行状態を指令する人為操作式の指令手段と、
前記指令手段の指令に基づいて車体の走行状態を制御する走行制御手段とを備え、
前記走行制御手段は、
前記指令手段にて指令された目標走行状態になるように車体の走行状態を制御する通常モードと、前記指令手段にて指令された目標走行状態に対応する車速よりも低速の走行状態になるように車体の走行状態を制御する車速抑制モードとに切り換え自在であり、且つ、
前記通常モードに設定されているときに、前記連結状態検出手段が前記解除状態を検出すると、前記車速抑制モードに切り換わり、
前記車速抑制モードに設定されているときに、前記連結状態検出手段が前記連結状態を検出するとともに、前記指令手段にて所定の解除用操作が行われると、前記通常モードに切り換わり、前記所定の解除用操作が行われなければ前記車速抑制モードを維持する作業車。
【請求項2】
前記指令手段が、前記目標走行状態として車体に搭載されたエンジンの調速位置を指令するアクセル操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに設定されているときに、前記所定の解除用操作として、前記アクセル操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、前記通常モードに切り換わる請求項1に記載の作業車。
【請求項3】
前記指令手段が、前記目標走行状態として車体に搭載された変速装置の変速比を指令する変速操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに設定されているときに、前記所定の解除用操作として、前記変速操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、前記通常モードに切り換わる請求項1又は2に記載の作業車。
【請求項4】
前記所定の低速用操作位置がアイドリング位置である請求項2又は3に記載の作業車。
【請求項5】
前記連結状態検出手段がスイッチにて構成され、
前記連結部材が、左右一対の前記ブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態であるとき前記スイッチがオン状態である請求項1から4のいずれか1項に記載の作業車。
【請求項6】
前記指令手段が、目標走行状態として設定車速で定速走行する定速走行状態を指令するオン状態と、定速走行状態を解除するオフ状態とに切り換え自在なクルーズ操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに切り換えられているときに、前記所定の解除用操作として、前記クルーズ操作具が前記オフ状態に操作されると、前記通常モードに切り換わる請求項1に記載の作業車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左右車輪を夫々制動する左右一対のブレーキ操作具を備えた作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、作業車の一例であるトラクタにおいて、人為操作式の指令手段の一例である変速操作手段(主変速レバー及び副変速レバー)にて指令された変速状態になるように車体の走行状態を制御するコントローラと、左右一対のブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態と連結を解除する解除状態とに切り換え自在な連結部材と、連結部材が連結状態であるか解除状態であるかを検出する連結状態検出手段とが備えられ、コントローラは、連結状態検出手段が連結状態を検出しているときは、車速を制限することなく、変速操作手段にて指令された変速状態になるように車体の走行状態を制御するが、連結状態検出手段が解除状態を検出すると、車速を所定車速以下に制限するように構成したものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−244961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来構成は、路上走行中において作業車が高速で走行しているときに、左右のいずれか一方のブレーキ操作具だけを操作することが無いように走行上の安全性を確保するようにしたものである。
【0005】
上記従来構成では、コントローラは、連結状態検出手段が解除状態を検出すると車速を所定車速以下に制限する状態となり、連結状態検出手段が連結状態を検出すると車速を制限しない状態になる。この構成においては、例えば、連結状態検出手段が解除状態を検出して車速を制限する状態で走行しているときは、アクセル操作具等の人為操作式の指令手段にて目標車速として高速が指令されていても、車速が所定車速を越えることはない。
【0006】
しかし、上記従来構成では、例えば、人為操作式の指令手段にて目標車速として高速が指令されている状態で、ブレーキ連結手段が解除状態から連結状態に切り換わると、すぐに車速の制限が解除され、車速が指令手段にて指令されている高速の目標車速になるように急加速されることがあり、走行上の安全性の面で好ましくない。そこで、このような不利を回避して走行上の安全性の向上を図ることが望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る作業車の特徴構成は、車体に備えられた左右車輪を夫々制動する左右一対のブレーキ操作具と、
左右一対の前記ブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態と連結を解除する解除状態とに切り換え自在な連結部材と、
前記連結部材が前記連結状態であるか前記解除状態であるかを検出する連結状態検出手段と、
車体の目標走行状態を指令する人為操作式の指令手段と、
前記指令手段の指令に基づいて車体の走行状態を制御する走行制御手段とを備え、
前記走行制御手段は、
前記指令手段にて指令された目標走行状態になるように車体の走行状態を制御する通常モードと、前記指令手段にて指令された目標走行状態に対応する車速よりも低速の走行状態になるように車体の走行状態を制御する車速抑制モードとに切り換え自在であり、且つ、
前記通常モードに設定されているときに、前記連結状態検出手段が前記解除状態を検出すると、前記車速抑制モードに切り換わり、
前記車速抑制モードに設定されているときに、前記連結状態検出手段が前記連結状態を検出するとともに、前記指令手段にて所定の解除用操作が行われると、前記通常モードに切り換わり、前記所定の解除用操作が行われなければ前記車速抑制モードを維持する点にある。
【0008】
本発明によれば、走行制御手段は、通常モードに設定されていると、指令手段にて指令された目標走行状態になるように車体の走行状態を制御する。通常モードに設定されているときに、連結状態検出手段が解除状態を検出すると、車速抑制モードに切り換わる。この車速抑制モードでは、指令手段にて指令された目標走行状態に対応する車速よりも低速の走行状態になるように車体の走行状態を制御する。
【0009】
そして、走行制御手段は、車速抑制モードに設定されているときに、連結状態検出手段が連結状態を検出するとともに、指令手段にて所定の解除用操作が行われると、通常モードに切り換わる。すなわち、車速抑制モードから通常モードに切り換わるための条件として、連結状態検出手段が連結状態を検出するという条件に加えて、指令手段にて所定の解除用操作が行われることが条件となる。
【0010】
その結果、連結部材が解除状態から連結状態に切り換わり、そのことが連結状態検出手段にて検出されても、直ちに、通常モードに切り換わることはなく、指令手段にて所定の解除用操作が行われることが条件となるのであり、所定の解除用操作が行われなければ、走行制御手段は車速抑制モードを維持する。所定の解除用操作としては、例えば、アクセル操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されること、定速走行状態が指令されているときに、その定速走行状態を解除すること等、運転者に車速抑制モードを解除する意思があるか否かを確認するための操作である。
【0011】
従って、本発明によれば、連結部材の解除状態から連結状態への切り換わりに伴って、直ちに車速が急激に高速になるような不利を回避して、走行上の安全性の向上を図ることが可能となった。
【0012】
本発明においては、前記指令手段が、前記目標走行状態として車体に搭載されたエンジンの調速位置を指令するアクセル操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに設定されているときに、前記所定の解除用操作として、前記アクセル操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、前記通常モードに切り換わると好適である。
【0013】
本構成によれば、走行制御手段が、車速抑制モードに設定されているときに、アクセル操作具により高速を指令する状態が指令されている状態であっても、連結状態検出手段が連結状態を検出するという条件に加えて、アクセル操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されるという条件が共に成立すると、通常モードに切り換わる。
【0014】
車体が走行している間は、アクセル操作具の操作に従って車速が調整されるが、車速抑制モードが設定されていれば、アクセル操作具を高速側に操作していても車速が所定車速を越えることはない。そして、このようにアクセル操作具が高速側に操作されている状態で、連結状態検出手段が連結状態を検出したときには、アクセル操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、走行制御手段が通常モードに切り換わる。
【0015】
アクセル操作具を所定の低速用操作位置以下に操作すると、車体は、所定車速以下の低速で走行する状態、あるいは、走行を停止する状態になる。その結果、通常モードに切り換わったときに急加速することを確実に回避できる。
【0016】
本発明においては、前記指令手段が、前記目標走行状態として車体に搭載された変速装置の変速比を指令する変速操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに設定されているときに、前記所定の解除用操作として、前記変速操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、前記通常モードに切り換わると好適である。
【0017】
本構成によれば、走行制御手段が、車速抑制モードに設定されているときに、変速操作具により高速を指令する状態が指令されている状態であっても、連結状態検出手段が連結状態を検出するという条件に加えて、変速操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されるという条件が共に成立すると、通常モードに切り換わる。
【0018】
車体が走行している間は、変速操作具の操作に従って車速が調整されるが、車速抑制モードが設定されていれば、変速操作具を高速側に操作していても車速が所定車速を越えることはない。そして、このように変速操作具が高速側に操作されている状態で、連結状態検出手段が連結状態を検出したときには、変速操作具が所定の低速用操作位置以下にまで戻し操作されると、走行制御手段が通常モードに切り換わる。
【0019】
変速操作具を所定の低速用操作位置以下に操作すると、車体は、所定車速以下の低速で走行する状態、あるいは、走行を停止する状態になる。その結果、通常モードに切り換わったときに急加速することを確実に回避できる。
【0020】
本発明においては、前記所定の低速用操作位置がアイドリング位置であると好適である。
【0021】
本構成によれば、アクセル操作具あるいは変速操作具がアイドリング位置にまで戻し操作されることが、走行制御手段が通常モードに切り換わる条件となる。その結果、車体を走行停止状態にするための操作位置に戻すことになるので、運転者に車速抑制モードを解除する意思があることが明らかであり、適切なタイミングで、走行制御手段を車速抑制モードから通常モードに切り換えることができる。
【0022】
本発明においては、前記連結状態検出手段がスイッチにて構成され、
前記連結部材が、左右一対の前記ブレーキ操作具を一体的に連結する連結状態であるとき前記スイッチがオン状態であると好適である。
【0023】
本構成によれば、連結状態検出手段を構成するスイッチがオン状態であれば、走行制御手段は連結状態であると判断する。その結果、例えば、スイッチがオフ状態を検出して走行制御手段が車速抑制モードに設定されているときに、作業走行に伴って断線故障が発生したような場合であっても、スイッチがオフ状態を維持することになり、走行制御手段は非連結状態であると判断するので、走行制御手段が誤判別によって車速抑制モードから通常モードに切り換わることを回避できる。
【0024】
本発明においては、前記指令手段が、目標走行状態として設定車速で定速走行する定速走行状態を指令するオン状態と、定速走行状態を解除するオフ状態とに切り換え自在なクルーズ操作具を備え、
前記走行制御手段が、前記車速抑制モードに切り換えられているときに、前記所定の解除用操作として、前記クルーズ操作具が前記オフ状態に操作されると、前記通常モードに切り換わると好適である。
【0025】
本構成によれば、クルーズ操作具がオン状態に切り換えられていると、走行制御手段は、設定車速で定速走行するように制御を実行する。そして、車速抑制モードに切り換えられているときに、連結状態検出手段が連結状態を検出するとともに、クルーズ操作具がオフ状態に操作されると、通常モードに切り換わる。通常モードに切り換わると、車速の制限が解除されて、車速が設定車速を越えることを許容して高速で走行させることができる。
【0026】
運転者の操作によってクルーズ操作具がオフ状態に操作されることにより、運転者が車速抑制モードを解除する意思があることが明らかであり、適切なタイミングで、走行制御手段を車速抑制モードから通常モードに切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】トラクタの全体側面図である。
図2】運転空間を示す平面図である。
図3】伝動系統図である。
図4】制御ブロック図である。
図5】通常モードにおけるアクセル操作位置と車速との関係を示す図である。
図6】車速抑制モードにおけるアクセル操作位置と車速との関係を示す図である。
図7】制御フローチャートである。
図8】ブレーキ操作具の平面図である。
図9】ブレーキ操作具の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る作業車の実施形態をトラクタに適用した場合について図面に基づいて説明する。
【0029】
図1に本発明に係るトラクタが示されている。トラクタは、前輪1と後輪2とによって支持される車体3の前部にエンジン4が搭載され、エンジン4の後方にトランスミッション5が搭載されている。車体3の後方にはロータリ耕耘装置6がリンク機構7を介して昇降自在に装備されている。このトラクタは四輪駆動型であり、エンジン4の動力は、トランスミッション5に内装された変速機構を介して前輪1及び後輪2に伝達される。さらに、エンジン4の動力は、トランスミッション5から後方に突き出しているPTO軸8を介してロータリ耕耘装置6にも伝達される。エンジン4はボンネット9によって覆われている。ボンネット9の後方箇所であってかつトランスミッション5の上方箇所に位置する状態でキャビン10が車体3に支持されている。
【0030】
図2に示すように、キャビン10の内部は運転空間として機能する(図2では、キャビンは省略している)。運転空間の前部には、前輪1の操向操作を行うステアリングハンドル11が備えられ、その後部で、左右一対の後輪フェンダ12の間には、運転座席13が配置されている。ステアリングハンドル11を備えるハンドルポスト14の右側の運転部フロア15には、一対のブレーキペダル16R,16Lとアクセルペダル17とが備えられている。ハンドルポスト14の左側の運転部フロア15には、主クラッチペダル18が備えられている。
【0031】
一対のブレーキペダル16R,16L、アクセルペダル17及び主クラッチペダル18は、夫々、踏み込み操作により所定の操作範囲内で上下に移動操作可能であり、図示しないバネにより上方側の非操作位置に向けて復帰付勢されている。復帰付勢力に抗して踏み込み操作することによって操作位置を変更することができる。
【0032】
図3に示すように、主クラッチ19を介して伝達されるエンジン4からの動力を変速する変速装置Fとして、動力伝達の遮断を伴わずに複数の変速段に切り替え可能な主変速装置20と、動力伝達の遮断を伴って複数の変速段に切り替え可能なギア式の副変速装置21とが備えられている。
【0033】
主変速装置20としては、例えば、エンジン4の出力軸23からの動力を受ける斜板式可変吐出型油圧ポンプと当該油圧ポンプからの油圧によって回転して動力を出力する油圧モータとからなる周知構造の静油圧式無段変速装置〔HST(Hydraulic Static Transmission)〕、あるいは、静油圧式無段変速装置と遊星歯車機構とを組み合わせた周知構造の油圧機械式の無段変速装置〔HMT(Hydraulic Mechanical Transmission)〕等を用いて構成することができる。
【0034】
副変速装置21の前輪用出力軸24から取り出した変速後の動力を、前輪駆動用の動力として前輪用変速装置25や前輪用差動装置26等を介して左右の前輪1に伝達している。副変速装置21の後輪用出力軸27から取り出した変速後の動力を、後輪駆動用の動力として後輪用差動装置28や左右の後車軸29等を介して左右の後輪2に伝達している。これにより、このトラクタは、左右の前輪1及び後輪2を駆動する4輪駆動型に構成されている。
【0035】
詳述はしないが、主変速装置20及び副変速装置21には、夫々、例えば、油圧シリンダや電動シリンダ等の変速操作用のアクチュエータが備えられ、このアクチュエータの作動を制御することで、変速操作を行えるように構成されている。
【0036】
運転部フロア15に備えられた左右一対のブレーキペダル16R,16Lは、一対の後車軸29に備えられた左右の制動装置30を各別に制動操作可能に設けられている。又、この左右一対のブレーキペダル16R,16Lは、各別に踏み込み操作可能なように揺動操作自在に車体に支持されている。図8,9に示すように、左右一対のブレーキペダル16R,16Lを一体的に連結する連結状態と連結を解除する解除状態とに切り換え自在な連結部材31が備えられている。
【0037】
連結部材31は、棒材を略L字状に折り曲げた形状となっており、この連結部材31は、右側のブレーキペダル16Rに設けられたボス部32に内嵌された状態で左右方向へ摺動自在に支持されている。そして、連結部材31を左方向に摺動操作して左側のブレーキペダル16Lに形成された挿通孔33に差し込み挿入することで、左右のブレーキペダル16R,16Lの単独操作が阻止された連結状態となり、差し込みを解除すると、左右のブレーキペダル16R,16Lの単独操作が許容された解除状態となる。
【0038】
図9に示すように、連結部材31には、右側のブレーキペダル16Rに固定した案内板34に形成した略U字状の案内溝35に係合案内される係合ピン36が固定されている。連結部材31で左右のブレーキペダル16R,16Lを連結した後、この連結で案内溝35の左前端部まで移動した係合ピン36を案内溝35の左後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル16R,16Lを連結状態に維持することができる。連結部材31による左右のブレーキペダル16R,16Lの連結を解除した後、この連結解除で案内溝35の右前端部まで移動した係合ピン36を案内溝35の右後端部まで移動させることで、左右のブレーキペダル16R,16Lを連結解除状態に維持することができる。
【0039】
路上走行時には、連結部材31を連結状態に切り換えて、左右のブレーキペダル16R,16Lを一体的に連結した状態に維持しておくことで、車体3を制動減速又は制動停止させる際に、左右のブレーキペダル16R,16Lのいずれか一方だけを踏み操作する片ブレーキ状態の発生を防止することができる。又、圃場での作業走行時には、連結部材31を解除状態に切り換えて、左右のブレーキペダル16R,16Lを単独で踏み込み操作可能な状態に維持しておくことで、旋回内側のブレーキペダル(16R,16Lのいずれか)だけを操作して、旋回内側の後輪2を制動した小回り旋回が可能になる。
【0040】
図4に示すように、アクセルペダル17の操作位置に応じてエンジン4の目標回転速度を設定したり、主変速装置20及び副変速装置21の変速状態を制御するメイン制御部37と、そのメイン制御部37にて設定された設定情報に基づいてエンジン4の作動を制御するエンジン制御部38とが備えられている。メイン制御部37とエンジン制御部38とにより、車体の走行状態を制御する走行制御手段Hが構成される。
【0041】
図3,4に示すように、エンジン4の出力軸23の回転速度を検出してエンジン回転速度を検出する回転速度センサ40と、副変速装置21における後輪用出力軸27の回転速度を検出して車体3の車速を検出する車速センサ41と、アクセルペダル17の操作位置を検出するポテンショメータ式のアクセルセンサ42と、連結部材31が連結状態であるか解除状態であるかを検出する連結状態検出手段としての連結状態検出センサ43とが備えられている。
【0042】
連結状態検出センサ43は、例えばリミットスイッチ等からなるスイッチにて構成され、連結部材31が連結状態であるときにはスイッチがオン状態(導通状態)となり、連結部材31が解除状態であるときにはスイッチがオフ状態(遮断状態)となるように構成されている。この構成であれば、例えば、連結部材31が解除状態であり、連結状態検出センサ43がスイッチオフ状態であるときに、作業走行に伴って配線の途中が断線したような場合であっても、スイッチがオフ状態を維持することになる。その結果、走行制御手段Hは連結状態であると判断するので、走行制御手段Hが誤判別によって車速抑制モードから通常モードに切り換わることを回避できる。
【0043】
運転座席13の近傍に、主変速装置20及び副変速装置21の変速状態を指令する変速操作具としての変速操作ユニット44が備えられている(図4参照)。変速操作ユニット44には、図示はしていないが、押しボタン式、スライド式、ダイヤル式、レバー式などの各種の型式で形成される複数の操作スイッチが設けられている。この変速操作ユニット44には、制御モードとして、圃場での作業時に使用する作業走行モードと、路上を走行するときに使用する路上走行モードのいずれかを指令するモード設定スイッチ45が備えられている。
【0044】
図4に示すように、アクセルセンサ42、車速センサ41、変速操作ユニット44、連結状態検出センサ43夫々の検出情報がメイン制御部37に入力されている。そして、メイン制御部37は、アクセルセンサ42の検出情報に基づいて目標回転速度を求め、エンジン制御部38は、メイン制御部37にて設定された目標回転速度の指令を受けると、回転速度センサ40の検出情報に基づいて、燃料の噴射量や噴射タイミングを制御することで、エンジン4の回転速度を制御するように構成されている。
【0045】
メイン制御部37は、走行モードとして、アクセルペダル17にて指令された目標走行状態になるように車体の走行状態を制御する通常モードと、アクセルペダル17にて指令された目標走行状態に対応する車速よりも低速の走行状態になるように車体の走行状態を制御する車速抑制モードとに切り換え自在に構成されている。
【0046】
説明を加えると、メイン制御部37は、アクセルペダル17の操作位置と目標回転速度との関係がマップ等により予め設定されている。そして、通常モードにおいては、図5に示すように、アクセルペダル17の操作領域の全範囲において、マップを用いて、アクセルペダル17の操作位置に応じてエンジン4の目標回転速度を求める。車速抑制モードにおいては、図6に示すように、アクセルペダル17の低速側操作領域においては、アクセルペダル17の操作位置に応じてエンジン4の目標回転速度を求めるようになっているが、目標車速が設定車速Vsを越える高速操作領域では、アクセルペダル17の操作位置が変化しても目標車速は常に設定車速Vsに維持される。
【0047】
メイン制御部37は、通常モードに設定されているときに、連結状態検出センサ43が解除状態を検出すると、車速抑制モードに切り換わり、車速抑制モードに設定されているときに、連結状態検出センサ43が連結状態を検出するとともに、アクセルペダル17にて所定の解除用操作が行われると、通常モードに切り換わり、所定の解除用操作が行われなければ車速抑制モードを維持するように構成されている。
【0048】
以下、メイン制御部37の走行モードの切り換え処理について具体的に説明する。
図7に示すように、電源が投入され、且つ、モード設定スイッチ45にて路上走行モードが設定されていれば、以下に説明するような走行モードの切り換え処理を実行する。(ステップ1)
【0049】
先ず、走行モードとして通常モードを設定する(ステップ2)。通常モードが設定されているときは、アクセルペダル17の操作領域の全範囲において、図5に示すようなマップを用いて、アクセルペダル17の操作位置に対応した目標車速からエンジン4の目標回転速度を求める。そして、エンジン制御部38にてエンジン4の回転速度が目標回転速度になるようにエンジン4の作動を制御する。路上走行モードでは、主変速装置20及び副変速装置21は路上走行用の変速段に設定され、車速はアクセルペダル17の踏み込み操作によってエンジン4の回転速度を変更することにより変更調整される。
【0050】
通常モードが設定されている状態で、連結部材31が移動操作されて左右一対のブレーキペダル16R,16Lが連結されている状態から連結が解除された状態になり、連結状態検出センサ43にて解除状態が検出されると、メイン制御部37は、通常モードから車速抑制モードに切り換えて、走行モードとして車速抑制モードを設定する(ステップ3,4)。車速抑制モードが設定されているときは、図6に示すように、高速操作領域では、アクセルペダル17の操作位置が変化しても目標車速は常に設定車速Vsに維持される。その結果、高速操作領域では、アクセルペダル17がどの位置に操作されても目標車速が設定車速Vs以下に維持されるので、エンジン4の目標回転速度も設定車速Vsから求められる一定の値に維持され、エンジン制御部38にてエンジン4の回転速度が目標回転速度になるようにエンジン4の作動を制御する。
【0051】
車速抑制モードが設定されている状態で、連結状態検出センサ43にて解除状態が検出され、且つ、その後において、アクセルペダル17が一旦、踏み込み操作が解除されて復帰付勢力によりアイドリング位置(所定の低速用操作位置の一例)にまで戻ったことが、アクセルセンサ42の検出情報に基づいて検出されると(ステップ5,6)、通常モードに切り換えて、走行モードとして通常モードを設定する(ステップ7)。その後、電源がオフされるまで、ステップ3〜ステップ7を繰り返し実行する(ステップ8)。
【0052】
すなわち、車速抑制モードが設定されている状態で、連結状態検出センサ43にて解除状態が検出された場合であっても、直ちに、通常モードに切り換えるのではなく、アクセルペダル17にて所定の解除用操作が行われなければ、車速抑制モードを維持するのである。従って、この実施形態では、アクセルペダル17が、車体の目標走行状態を指令する人為操作式の指令手段Aに対応しており、踏み込み操作が解除されて復帰付勢力によりアイドリング位置にまで戻ることが所定の解除用操作に対応する。
【0053】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、人為操作式の指令手段Aとして、アクセルペダル17が備えられる構成としたが、アクセルペダル17に代えて、手動操作式のアクセルレバーを備える構成、又は、アクセルペダル17とアクセルレバーとを併用する構成であってもよい。アクセルペダル17とアクセルレバーとを併用する構成においては、所定の解除用操作として、アクセルペダル17及びアクセルレバーの夫々を、所定の低速用操作位置としてのアイドリング位置に戻し操作する必要がある。又、所定の低速用操作位置としては、予め定められた低速側の設定値に対応する操作位置でもよく、アイドリング位置に限るものではない。
【0054】
(2)上記実施形態では、変速装置F(主変速装置20及び副変速装置21)を所定の変速状態に設定している状態でアクセルペダル17を踏み込み操作することで車速を変更調整するようにしたが、この構成に代えて、次のように構成してもよい。
【0055】
手動操作式のアクセルレバーを任意の操作位置を位置保持可能な構成とし、アクセルレバーを例えば、高速側の所定操作位置に保持しておき、変速操作ユニット44を操作して車速を変更調整する構成とする。そして、メイン制御部37は、車速抑制モードに設定されているときに、連結状態検出センサ43が連結状態を検出するとともに、所定の解除用操作として、指令手段としての変速操作ユニット44を、車速が所定値以下の低速状態となる状態あるいは走行停止する状態に対応する操作位置まで操作すると、通常モードに切り換わる構成としてもよい。
【0056】
(3)所定の解除用操作としては、アクセルペダル17やアクセルレバーをアイドリング位置に戻し操作すること、車速が所定値以下の低速状態となる状態あるいは走行停止する状態にまで変速操作ユニット44を操作すること以外にも、次のような構成を採用することができる。
【0057】
メイン制御部37が、変速操作ユニット44やアクセルペダル17により車速変更する通常の運転モードとは別に、変速操作ユニット44やアクセルペダル17等を操作しなくても、車速を一定速度に維持するようにエンジン4の出力や変速装置Fの変速状態を自動調整する定速走行状態に設定可能に設けられる構成とし、目標走行状態として設定車速で走行する定速走行状態を指令するオン状態と、定速走行状態を解除して通常運転モードに設定するオフ状態とに切り換え自在なクルーズ操作具(図示せず)を備える構成としてもよい。
【0058】
そして、このような構成において、クルーズ操作具がオン状態に操作されて、定速走行状態が設定されており、且つ、メイン制御部37が車速抑制モードに切り換えられている状態で車体が走行しているときに、連結状態検出センサ43が連結状態を検出しても、直ちに通常モードに切り換わるのではなく、連結状態検出センサ43が連結状態を検出という条件と、所定の解除用操作として、クルーズ操作具がオフ状態に操作されるという条件が共に成立すると、通常モードに切り換わるように構成するものでもよい。
【0059】
(4)上記実施形態では、走行制御手段Hは、変速装置Fを路上走行用の変速段に設定し、車速をエンジン4の回転速度を変更することにより変更調整する構成とし、且つ、車速抑制モードでは、アクセルペダル17が、高速操作領域に操作されてもエンジン4の目標回転速度を設定車速Vsに相当する値に維持することで、車速を抑制する構成としたが、この構成に代えて、次の(4−1)(4−2)に記載するような構成としてもよく、又、この構成以外にも、要するに、指令手段による目標走行状態に対応する車速よりも低速の走行状態になるように制御するものであればよい。
(4−1)
エンジン4については、アクセルペダル17の操作領域の全範囲において、図5に示すようなマップを用いて、アクセルペダル17の操作位置に対応した目標車速からエンジン4の目標回転速度を求め、その情報に基づいてエンジンを制御する。そして、車速抑制モードでは、車速センサ41にて検出される車速が設定車速Vsに維持されるように、変速装置Fの変速段を減速側に切り換え操作する構成としてもよい。
(4−2)
エンジン4の制御については上記(4−1)と同じ制御を実行する構成とし、人為操作式の制動装置30とは別に、アクチュエータを用いて制動力を変更調整可能な電子制御式制動装置を設け、車速抑制モードでは、車速センサ41にて検出される実車速が設定車速Vsに維持されるように、電子制御式制動装置の作動を制御する構成としてもよい。
【0060】
(5)上記実施形態では、作業車としてトラクタに適用したものを示したが、本発明は、トラクタに限らず、例えば、荷台を備えた運搬車等の他の種類の作業車にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、左右車輪を夫々制動する左右一対のブレーキ操作具を備えた作業車に適用できる。
【符号の説明】
【0062】
2 車輪
4 エンジン
16R,16L ブレーキ操作具
17 アクセル操作具
31 連結部材
43 連結状態検出手段
44 変速操作具
A 指令手段
F 変速装置
H 走行制御手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9