【解決手段】本発明の乗員保護装置1は、シートベルト装置3とエアバッグ装置4とが組み合わされて構成され、エアバッグ装置4のエアバッグケース11が乗員Pの車両センター側の肩部上方に配置されている。そして、エアバッグケース11はシートベルト装置3のベルト部5にクランプされ、斜め衝突または狭小ラップ衝突後に乗員Pの頭部に追従して移動する。この構造により、乗員Pの頭部が、フロントエアバッグ袋32とエアバッグ袋10によりほぼ正面の状態にて受け止められ、支えられることで、乗員Pの頭部傷害の増加が防止される。
  前記エアバッグケースに収納されたエアバッグ袋は、少なくとも前記乗員の後頭部の側方を拘束するように膨張展開することを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
  前記ベルト部は、前記シートのシートバックの前記車両の車幅方向の内側上方から引き出されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
  先ず、斜め衝突または狭小ラップ衝突に対応するエアバッグ装置の一般的な対策としては、エアバッグ袋を拡大させることが考えられる。しかしながら、エアバッグ袋の基布が大きくなることで、インフレータ出力を増大させる必要がありインフレータ装置の大型化を招き、車室内空間の小容量化に繋がる。また、エアバッグ袋の基布が大きくなり、インフレータ装置が大型化することで、コストアップに繋がる。
【0006】
  特に、運転席シート側では、運転手の前方にはステアリングホイールが存在し、ステアリングホイールからフロントエアバッグ袋を膨張展開させるが、ステアリングホイールの収納スペースが小さく、フロントエアバッグ袋を拡大させることが難しい。また、運転席シート側では、ステアリングホイールが配置される他、インストルメントパネルには表示部や操作ボタン等が配置されているため、エアバッグ袋を配置し、膨張展開させるスペースに限りがある。
【0007】
  そして、助手席シート側からの斜め衝突または狭小ラップ衝突時には、運転手は、その衝撃により車両センター側に向かって斜め前方へと移動する。運転手の頭部は、ステアリングホイールから膨張展開したフロントエアバッグ袋により保護されるが、上述したように、フロントエアバッグ袋は小さく、運転手が斜め前方へと移動することで、運転手の頭部が、フロントエアバッグ袋で拘束されながら回転し、頭部傷害が増加する恐れがある。また、運転手の首も捻じれ損傷する恐れがある。
【0008】
  本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、シートベルト装置とエアバッグ装置とを組み合わせ、少なくとも乗員の後頭部の側方をエアバッグ袋にて拘束することで、乗員の頭部を保護する乗員保護装置を提供することにある。
 
【課題を解決するための手段】
【0009】
  本発明の乗員保護装置は、車両に配設されるシートに着座する乗員を拘束するシートベルト装置と、前記乗員の肩部上方に配設されるエアバッグ装置のエアバッグケースと、
前記エアバッグケースを前記シートに固定する取り付け機構と、を有し、前記シートベルト装置のベルト部は、前記エアバッグケースに設けられた挿通孔に挿通され、前記挿通孔には前記車両の衝突時に前記ベルト部が引き出されたときに前記ベルト部を前記エアバッグケースに係止させる係止部材が設けられ
、前記エアバッグケースは、前記衝突時に前記取り付け機構から離脱すると共に、前記係止部材により前記ベルト部に係止された状態にて前記ベルト部と共に移動することを特徴とする。
【0010】
  また、本発明の乗員保護装置は、前記エアバッグケースに収納されたエアバッグ袋は、少なくとも前記乗員の後頭部の側方を拘束するように膨張展開することを特徴とする。
【0011】
  また、本発明の乗員保護装置は、  
前記取り付け機構は、前記衝突時に前記係止部材が前記ベルト部を前記エアバッグケースに係止させることで破断することを特徴とする。
【0012】
  また、本発明の乗員保護装置は、前記ベルト部は、前記シートのシートバックの前記車両の車幅方向の内側上方から引き出されることを特徴とする。
 
【発明の効果】
【0013】
  本発明の乗員保護装置では、エアバッグ装置のエアバッグケースが乗員の肩部上方に配置され、シートベルト装置のベルト部が、エアバッグケースに設けられた挿通孔に挿通されている。そして、車両の衝突時には、その挿通孔に設けられた係止部材がベルト部を係止することで、エアバッグケースが乗員の頭部近傍の所望の箇所に固定される。この構造により、乗員の頭部近傍にエアバッグ袋を膨張展開することができ、乗員の頭部を適切に保護することができる。
【0014】
  また、本発明の乗員保護装置では、エアバッグケースに収納されたエアバッグ袋は、少なくとも乗員の後頭部の側方を拘束するように膨張展開することで、斜め衝突または狭小ラップ衝突時に乗員の頭部が回転することが防止され、乗員の頭部傷害の増加が防止される。
【0015】
  また、本発明の乗員保護装置では、エアバッグケースは、係止ピンを介してシート上方に固定されている。そして、車両の衝突時の衝撃により係止ピンが破断することで、エアバッグケースはシート上方から離脱し、乗員の頭部に追従することができる。
【0016】
  また、本発明の乗員保護装置では、エアバッグケースはシート上方から離脱し、シートベルト装置のベルト部と共に乗員の頭部に追従する。この構造により、乗員の頭部近傍にエアバッグ袋を膨張展開することができ、乗員の頭部を適切に保護することができる。
【0017】
  また、本発明の乗員保護装置では、エアバッグケースが、シートバック上端面の車両のセンター側に配置されている。この構造により、斜め衝突または狭小ラップ衝突に車両のセンター側へ移動する乗員の頭部を適切に保護することができる。
 
 
【発明を実施するための形態】
【0019】
  以下、本発明の一実施形態に係る乗員保護装置を図面に基づき詳細に説明する。尚、一実施形態の説明の際には、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。
 
【0020】
  図1(A)は、本実施形態の乗員保護装置1が配設された車両用シートを説明するための斜視図であり、
図1(B)は、
図1(A)に示す車両用シー
トを説明するための側面図である。
 
【0021】
  図1(A)に示す如く、本実施形態の乗員保護装置1は、主に、運転席シート2に配設されたシートベルト装置3と、運転席シート2に配設されたエアバッグ装置4と、を有している。尚、以下の説明では、乗員保護装置1が、運転席シート2に配設される場合について説明するが、この場合に限定されるものではなく、助手席シートや後列シートに配設される場合でも良い。
 
【0022】
  運転席シート2は、乗員Pが着座するシートクッション2Aと、シートクッション2Aの後方から上方に延び乗員Pの背面を支持するシートバック2Bと、シートバック2Bの上端部に配設されるヘッドレスト2Cとを有している。そして、シートベルト装置3は、例えば、3点式のシートベルト装置である。
 
【0023】
  シートベルト装置3は、主に、ベルト部5と、タングプレート部6と、バックル部7と、リトラクタ部8と、を有している。ベルト部5の一端はリトラクタ部8に取り付けられ、ベルト部5の他端はシートクッション2Aのシートフレーム(図示せず)や車体に固定されている。リトラクタ部8は、例えば、シートバック2B内に配設され、シートバック2Bのシートフレーム(図示せず)に固定されている。
 
【0024】
  ベルト部5には、その長手方向に移動可能なタングプレート部6が取り付けられ、乗員P(
図3(A)参照)がタングプレート部6を引っ張ることでベルト部5はリトラクタ部8から引き出される。一方、乗員Pがタングプレート部6を離すことでベルト部5はリトラクタ部8により巻き取られる。そして、シートバック2Bの上端面には、ヘッドレスト2Cよりも車両30(
図3(A)参照)のセンター側に開口部9が形成され、開口部9にはベルト部5及びエアバッグ装置4のチューブ13が挿通されている。尚、ベルト部5の他端は、アンカーレッジ(図示せず)を介して車両30のセンター側のシートフレーム(図示せず)等に固定されている。
 
【0025】
  バックル部7は、車両30の窓側のシートクッション2Aのシートフレーム(図示せず)や車両30に固定され、乗員Pがシートベルト装置3の装着時にはタングプレート部6がバックル部7に係止される。このとき、タングプレート部6より上方のベルト部5は、ショルダベルトとして用いられシートバック2Bの前面に斜めに架け渡され、乗員Pの胸部等を拘束する。一方、タングプレート部6から下方のベルト部5は、ラップベルトとして用いられシートバック2Bの前面に横断して架け渡され、乗員Pの腰部等を拘束する。
 
【0026】
  シートベルト装置3は、例えば、ロードリミッタ付きプリテンショナ機構を備えている。車両30の制御部(図示せず)が、斜め衝突または狭小ラップ衝突が発生した際に、ベルト部5の引張力を検出し、所定値以上の引張力を検出した場合には、ベルト部5の緩みを瞬時に巻き取り、乗員Pを運転席シート2へ拘束する。その後、ベルト部5の引張力を検出し、所定値以上の引張力を検出した場合には、乗員Pに加わる荷重を緩和するためベルト部5による拘束を緩和し、ベルト部5は、再び、リトラクタ部8から徐々に引き出される。
 
【0027】
  詳細は後述するが、上記ロードリミッタ機構の起動により、ベルト部5が緩み乗員Pが前方へと移動する際に、エアバッグ装置4のエアバッグ袋10(
図5(A)参照)もベルト部5と共に乗員Pの動きに追従する。そして、エアバッグ袋10が、少なくとも乗員Pの後頭部の側方を拘束した状態を維持することで、乗員Pの頭部の回転が防止され、頭部傷害の増加が防止される。
 
【0028】
  図1(B)に示す如く、エアバッグ装置4は、主に、エアバッグ袋10(
図5(A)参照)と、エアバッグ袋10を収納するエアバッグケース11と、エアバッグ袋10にガスを供給するインフレータ12と、エアバッグ袋10とインフレータ12とを連結するチューブ13と、を有している。
 
【0029】
  エアバッグ袋10は、高圧ガスが注入されることで膨張展開する布製の袋であり、例えば、蛇腹状に折り畳まれてエアバッグケース11に収納されている。エアバッグケース11は、例えば、金属により作製され、その底面にはベルト部を挿通する挿通孔14A、14Bが設けられている。そして、インフレータ12及びチューブ13は、シートバック2B内に配設され、インフレータ12はシートバック2Bのシートフレーム(図示せず)に固定されている。
 
【0030】
  詳細は後述するが、車両30の衝突時にエアバッグ袋10が収納されたエアバッグケース11は取り付け機構15から離脱し、ベルト部5と共に乗員Pの動きに追従する。そして、膨張展開したエアバッグ袋10等の追従動作を可能とするため、チューブ13はその追従分も考慮して準備され、シートバック2B内に収納されている。
 
【0031】
  図示したように、シートバック2Bのシートフレームの一部が、シートバック2Bの上端面から車両30の上方側へ突出し、エアバッグケース11の固定用ポール16として用いられる。固定用ポール16はシートバック2Bの上端面に車両30の車幅方向に延在し、取り付け機構15が固定用ポール16に対して回動自在に取り付けられている。そして、エアバッグケース11は、取り付け機構15に対して複数の樹脂ピン17(
図2(A)参照)を介して固定されることで、固定用ポール16に対して回動自在となる。
 
【0032】
  例えば、シートベルト装置3の非装着時には、エアバッグケース11をシートバック2Bの上方へ挙げておくことで、エアバッグケース11が乗員Pに引っ掛かることなく、乗員Pの車両30への乗降がスムーズに行われる。一方、乗員Pがシートベルト装置3を装着する時には、エアバッグケース11は、ベルト部5と共に乗員Pの左肩部上面に配置される。尚、エアバッグケース11が固定用ポール16に対して回動することで、乗員Pの体格に合わせてエアバッグケース11の位置が調整可能となる。
 
【0033】
  図2(A)は、本実施形態の乗員保護装置1に用いられるエアバッグ装置4を説明するための側面図であり、
図2(B)は、
図2(A)に示すエアバッグ装置4のエアバッグケース11が固定用ポール16に固定された状態を説明するための上面図であり、
図2(C)は、
図2(A)に示すエアバッグ装置4のエアバッグケース11が取り付け機構15から離脱した状態を説明するための上面図である。尚、
図2(A)では、説明の都合上、ヘッドレスト2Cは省略して図示している。
 
【0034】
  図2(A)に示す如く、取り付け機構15は、主に、固定用ポール16に配設される一対の回動部材18A、18Bと、エアバッグケース11に固定される一対の支持プレート19A、19Bと、回動部材18A、18Bと支持プレート19A、19Bとを固定する複数の樹脂ピン17と、を有している。
 
【0035】
  回動部材18A、18Bは、樹脂や金属等により作製され、例えば、略L字形状に形成されている。そして、円柱形状の固定用ポール16に対して回動自在に取り付けられ、乗員Pの車両30への乗降動作に合わせて車両30の上下方向にエアバッグケース11を移動させることができる。
 
【0036】
  また、
図2(B)及び(C)に示すように、回動部材18A、18Bは、その間にエアバッグケース11を挟持するため、車両30の車幅方向に離間して配置されている。そして、シートベルト装置3のベルト部5及びエアバッグ装置4のチューブ13は、回動部材18A、18B間のスペース内に配置されている。図示したように、ベルト部5は、固定用ポール16の上面を通り、エアバッグケース11の挿通孔14A、14B内に挿通されている。
 
【0037】
  図2(B)に示す如く、エアバッグケース11には、車両30の車幅方向の両側面に支持プレート19A、19Bが固定されている。支持プレート19A、19Bは、車両30の前後方向に延在し、回動部材18A、18Bの間に樹脂ピン17を介して固定されている。そして、回動部材18A、18Bと支持プレート19A、19Bとは、それぞれ2本の樹脂ピン17を介して固定されている。この構造により、エアバッグケース11も回動部材18A、18Bを介して固定用ポール16に対して回動することができる。
 
【0038】
  また、エアバッグケース11内に収納されたエアバッグ袋10(
図5(A)参照)は、チューブ13を介してインフレータ12と連結している。そして、エアバッグ装置4では、車両30の斜め衝突または狭小ラップ衝突時に、インフレータ12からエアバッグ袋10内へ高圧ガスが噴出される。少なくともエアバッグ袋10が乗員Pの後頭部の側方を拘束するように膨張展開することで乗員の頭部が保護される。尚、エアバッグケース11は、常時、ベルト部5の上面に位置することで、ベルト部5により阻害されることなくエアバッグ袋10が膨張展開することができる。
 
【0039】
  図2(C)に示す如く、回動部材18A、18Bと支持プレート19A、19Bとを連結する樹脂ピン17が破断することで、エアバッグケース11は取り付け機構15から離脱される。
 
【0040】
  ここで、挿通孔14Aには、ロック機構付きのタング(図示せず)が設けられ、車両30の衝突時にベルト部5が急に引き出された際にロック機構付きのタングが起動し、ベルト部5をクランプする。そして、ベルト部5は、一度、上記ロック機構付きのタングにてクランプされると、その後、クランプされた状態を維持する。
 
【0041】
  そして、車両30の衝突時には、ベルト部5には通常使用時には無い高い荷重が加わる。上記ロック機構付きのタングによりベルト部5がクランプされることで、4本の樹脂ピン17に対して上記荷重が加わり、樹脂ピン17が破断する構造となっている。その結果、エアバッグケース11は取り付け機構15から離脱し、クランプされた位置にてベルト部5と共に移動することとなる。図示したように、チューブ13はその追従分も考慮して準備されているため、チューブ13もシートバック2B内から引き出され、上記離脱したエアバッグ袋10は膨張展開される。
 
【0042】
  次に、
図3から
図6を用いて通常の運転時から斜め衝突または狭小ラップ衝突時における乗員保護装置1の動作について説明する。
図3は通常の運転時における乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図であり、
図4は斜め衝突または狭小ラップ衝突直後における乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図であり、
図5は斜め衝突または狭小ラップ衝突後シートベルト装置3のロードリミッタ機構が動作した状態の乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図であり、
図6は斜め衝突または狭小ラップ衝突後複数のエアバッグ袋により乗員を保護した状態の乗員保護装置1を説明する(A)側面図、(B)上面図である。
 
【0043】
  図3(A)では、乗員Pが運転席シート2に着座し、シートベルト装置3を装着し、車両30を運転している状況を示している。乗員Pは、運手席シート2に深く腰掛け、乗員Pの体格に応じた個々のドラインビングポジションを決め、シートベルト装置3を装着する。そして、乗員Pの背面はシートバック2Bに当接し、両手でステアリングホイール31を握り、乗員Pは車両30の操作を行う。乗員Pの胸部や腰部は、ベルト部5により拘束されている。
 
【0044】
  上述したように、エアバッグ装置4のエアバッグケース11は、シートバック2Bの上端面の車両30のセンター側に配置され、ベルト部5はエアバッグケース11底面の挿通
孔14A、14B(
図2(A)参照)に挿通している。そして、通常の運転状態では、エアバッグケース11は固定用ポール16に対して固定され、乗員Pの体の動きに応じてベルト部5はエアバッグケース11に対して摺動自在に動くことができる。
 
【0045】
  図3(B)に示す如く、エアバッグケース11は、シートバック2Bの上端面から乗員Pの左肩部上面に掛けて配置されている。乗員Pの体格により異なるが、例えば、エアバッグケース11の車両30の前方側の先端が、乗員Pの耳部の横に位置している。尚、エアバッグ装置4の目的は乗員Pの頭部が回転することを防止することであり、エアバッグ袋10が、少なくとも乗員Pの後頭部の側方に膨張展開するように配置されている。
 
【0046】
  図4(A)では、車両30の助手席シート(図示せず)の前方側にて斜め衝突または狭小ラップ衝突が発生した直後の状況を示している。斜め衝突または狭小ラップ衝突直後の乗員Pの初期動作では、車両30が急減速するため運転席シート2に着座する乗員Pは車両30の前方へと移動する。この乗員Pの移動によりベルト部5に掛かる引張力が検出される。そして、乗員Pがステアリングホイール31やフロントガラス(図示せず)に勢いよく衝突することを防止するため、シートベルト装置3のプリテンション機構が起動する。シートベルト装置3のプリテンション機構により、ベルト部5の緩みを瞬時に巻き取り、乗員Pを運転席シート2へ拘束する。
 
【0047】
  このとき、斜め衝突または狭小ラップ衝突直後には、乗員Pの動きに連動してベルト部5が急に車両30の前方へ引き出される。上述したように、このベルト部5の動きに連動してエアバッグケース11の挿通孔14Aに設けられたロック機構付きのタング(図示せず)が起動し、ベルト部5がエアバッグケース11にクランプされる。斜め衝突または狭小ラップ衝突時の衝撃によりベルト部5には通常使用時には無い高い荷重が加わるが、この荷重が回動部材18A、18B(
図2(A)参照)と支持プレート19A、19B(
図2(A)参照)との連結部にも加わる。そして、樹脂ピン17(
図2(A)参照)はこの荷重を支持出来ない強度にて成形されているので、樹脂ピン17が破断し、エアバッグケース11は取り付け機構15から離脱する。
 
【0048】
  図4(B)に示す如く、乗員Pの頭部は、直接、ベルト部5により拘束されていないため、ヘッドレスト2Cよりも、若干、前方へ移動するが、上述したように斜め衝突または狭小ラップ衝突直後に、乗員Pの頭部近傍のベルト部5はエアバッグケース11にクランプされる。その結果、エアバッグケース11は、
図3(A)に示した通常の運転時における乗員Pの頭部との位置関係を、実質、維持した状態にて、ベルト部5と共に乗員Pの前方への移動を追従する。つまり、エアバッグケース11は、少なくとも乗員Pの後頭部の側方をエアバッグ袋10にて拘束出来る位置を維持するように、取り付け機構15から離脱する。
 
【0049】
  図5(A)では、斜め衝突または狭小ラップ衝突後、シートベルト装置3のロードリミッタ機構が起動し、エアバッグ袋10が膨張展開している状況を図示している。上述したように、斜め衝突または狭小ラップ衝突直後には、乗員Pの背面がシートバック2Bに当接するように乗員Pはベルト部5により運転席シート2のシートバック2Bに拘束される。その後、このベルト部5の拘束により乗員Pの胸部等を圧迫し過ぎることで乗員Pが損傷することを防止するため、ベルト部5の引張力が設定された値以上となると、シートベルト装置3のロードリミッタ機構が起動する。そして、ベルト部5は、再び、リトラクタ部8から徐々に引き出されることで、乗員Pの上半身は車両30の前方へと移動し始める。
 
【0050】
  一方、斜め衝突または狭小ラップ衝突後、上記斜め衝突または狭小ラップ衝突を検知することで、運転席シート2のエアバッグ装置4や車両30に配設されたエアバッグ装置も起動する。運転席シート2の周囲では、ステアリングホイール31に配設されたフロントエアバッグ袋32や車両30の窓際に配設されたカーテンエアバッグ袋(図示せず)が膨張展開される。そして、エアバッグ装置4においても、乗員Pの頭部がフロントエアバッグ袋32に衝突する前にエアバッグ袋10が膨張展開され、エアバッグ袋10により乗員Pの後頭部の側方を拘束する。尚、エアバッグ袋10は、その他のエアバッグ装置と同様に、上記斜め衝突または狭小ラップ衝突の検知した際に、膨張展開を開始する場合でも良い。
 
【0051】
  図5(B)に示す如く、エアバッグケース11はシートバック2Bの上端面に配設された取り付け機構15から離脱するが、ベルト部5をクランプすることで、ベルト部5と共に車両30の前方へ移動する。そして、エアバッグケース11内のエアバッグ袋10とインフレータ12とはチューブ13を介して連結している。その結果、インフレータ12からエアバッグ袋10内へ高圧ガスが噴出され、少なくともエアバッグ袋10が乗員Pの後頭部の側方を拘束するように膨張展開する。尚、図示していないが、エアバッグ袋10の動きを規制するストラップを有し、確実にエアバッグ袋10が乗員Pの後頭部の側方を拘束するようにしても良い。
 
【0052】
  図6(A)では、乗員Pの頭部がフロントエアバッグ袋32に衝突するが、エアバッグ袋10により乗員Pの頭部の回転が防止されている状況を図示している。助手席シートの前方にて斜め衝突または狭小ラップ衝突が起こることで、運転席シート2の乗員Pは、車両30のセンター側に向けて車両30の斜め前方へと移動する。
 
【0053】
  一方、
図6(B)に示す如く、ステアリングホイール31から膨張展開されるフロントエアバッグ袋32は、ステアリングホイール31内に収納できる大きさに限界があるため、乗員Pの頭部は、フロントエアバッグ袋32の中心よりも車両30のセンター側へと衝突し易くなる。そして、乗員Pの上半身は車両30の斜め前方へと移動し続け、乗員Pの頭部は、フロントエアバッグ袋32にて拘束されることで、乗員Pの頭部は、拘束された
部分を支点として時計回りに回転し易い状態となる。
 
【0054】
  この状態において、図示したように、乗員Pの後頭部の左側側方がエアバッグ袋10にて拘束されることで、上記乗員Pの頭部が、その頭部を支点として時計回りに回転することが防止される。エアバッグケース11がベルト部5にクランプしているので、エアバッグ袋10はしっかりと乗員Pの頭部を支えることができる。つまり、フロントエアバッグ袋32とエアバッグ袋10にて乗員Pの頭部をほぼ正面を向いた状態にて受け止め、支えることで、乗員Pの首が捩じれることが防止され、乗員Pの頭部傷害の増加が防止される。
 
【0055】
  尚、本実施の形態では、乗員保護装置1を構成するシートベルト装置3が、運転席シート2に内蔵され、車両30のセンター側から窓側に向けてベルト部5が配設される場合について説明したが、この場合に限定するものではない。例えば、シートベルト装置3のベルト部5が、車両30の窓側からセンター側に向けて配設される場合でも良く、この場合に、シートベルト装置3が、車両30のBピラー(図示せず)に内蔵される場合でも良い。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲にて種々の変更が可能である。