(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-222444(P2017-222444A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】エレベータシステムおよびその保全装置および保全方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/12 20060101AFI20171124BHJP
B66B 7/04 20060101ALI20171124BHJP
B66B 5/00 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
B66B7/12 A
B66B7/04 B
B66B5/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-117507(P2016-117507)
(22)【出願日】2016年6月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】深町 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】藤森 司
(72)【発明者】
【氏名】栗山 哲
【テーマコード(参考)】
3F304
3F305
【Fターム(参考)】
3F304CA11
3F304EA22
3F304ED01
3F305BD19
(57)【要約】
【課題】エレベータの保守業務において安全とコストのトレードオフ関係の解消。
【解決手段】
ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、ガイドレールとかごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、かごの移動の際には絶縁体部とガイドレールが摺動するエレベータシステムにおいて、ガイドレールと絶縁体部の間のインピーダンスの変化から絶縁体部の摩耗具合を検知するエレベータシステムである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、前記ガイドレールと前記かごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、前記かごの移動の際には前記絶縁体部と前記ガイドレールが摺動するエレベータシステムにおいて、
前記ガイドレールと前記絶縁体部の間のインピーダンスの変化から前記絶縁体部の摩耗具合を検知するエレベータシステム。
【請求項2】
前記導電体部に接続される交流電源と、
前記交流電源と前記導電体部の間に配置される電流計と、
前記交流電源に接続される第1の電位と、
前記ガイドレールに接続される第2の電位と、
前記導電体部と前記ガイドレールの間の電位差を測定する電圧計と、
を備える請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記導電体部は少なくとも第1の導電体と第2の導電体からなり、前記第1の導電体と第2の導電体は電気的に絶縁されており、
前記第1の導電体と前記第2の導電体の間に接続される交流電源と、
前記交流電源と直列に配置される電流計と、
前記ガイドレールに接続される基準電位と、
前記第1の導電体および第2の導電体の少なくとも一つと前記ガイドレールの間の電位差を測定する電圧計と、
を備える請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記導電体部、前記絶縁体部、および前記ガイドレールからなる電流経路に交流電流を供給する交流電源を備える請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項5】
前記インピーダンスの変化の内、静電容量の変化を検知する請求項4記載のエレベータシステム。
【請求項6】
前記インピーダンスの変化の内、共振周波数よりも低周波側の変化で検知する請求項4記載のエレベータシステム。
【請求項7】
前記かごの上下移動により発電を行う発電機と、
前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する蓄電池と、を備え、
前記蓄電池から前記交流電源に電気エネルギーを供給する請求項4記載のエレベータシステム。
【請求項8】
前記インピーダンスの変化と相関を有する物理量を測定する測定装置と、
前記測定装置の測定データを記憶するデータロガーと、
前記データロガーに記憶された前記測定データあるいは当該測定データに基づくデータを無線送信する無線モジュールと、を備え、
前記蓄電池から前記データロガー及び前記無線モジュールに電気エネルギーを供給する請求項7記載のエレベータシステム。
【請求項9】
ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、前記ガイドレールと前記かごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、前記かごの移動の際には前記絶縁体部と前記ガイドレールが摺動するエレベータシステムの保全装置であって、
前記保全装置は、
前記ガイドレールと前記絶縁体部の間のインピーダンスと相関を有する物理量を測定する測定器と、
前記測定器で測定した物理量を記憶するメモリと、
前記メモリに記憶した物理量あるいは当該物理量に基づくデータを無線送信する無線モジュールと、
を有するエレベータシステムの保全装置。
【請求項10】
前記導電体部に接続された交流電源を備え、
前記測定器として電流計および電圧計を備える、
請求項9記載のエレベータシステムの保全装置。
【請求項11】
前記かごの上下移動により発電を行う発電機と、
前記発電機で発電された電気エネルギーを蓄積する蓄電池と、を備え、
前記蓄電池から前記交流電源に電気エネルギーを供給する請求項10記載のエレベータシステムの保全装置。
【請求項12】
前記ガイドレールと同電位をとる機能を備えている請求項10記載のエレベータシステムの保全装置。
【請求項13】
ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、前記ガイドレールと前記かごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、前記かごの移動の際には前記絶縁体部と前記ガイドレールが摺動するエレベータシステムの保全方法であって、
前記かごの上下移動の運動を利用して、発電機により電気エネルギーを生成する第1のステップと、
前記電気エネルギーを蓄電池に蓄積する第2のステップと、
蓄積された前記電気エネルギーを用いて、交流電源によって前記導電体部に交流電流を供給する第3のステップと、
前記交流電流を供給した際の前記絶縁体部と前記ガイドレールの間のインピーダンスを反映した物理量を、測定器で測定する第4のステップと、
前記物理量をメモリに記憶する第5のステップと、
前記物理量または前記物理量に基づくデータを、蓄積された前記電気エネルギーを用いて、無線モジュールで無線送信する第6のステップと、
前記無線送信された前記物理量または前記物理量に基づくデータを受信する第7のステップと、
前記受信した前記物理量または前記物理量に基づくデータから前記絶縁体部と前記ガイドレールの間のキャパシタンスを測定する第8のステップと、
前記キャパシタンスから前記絶縁体部の状態を判断する第9のステップと、
を有するエレベータシステムの保全方法。
【請求項14】
前記発電機、前記蓄電池、前記交流電源、前記測定器、前記メモリ、および前記無線モジュールは筐体に格納されて検知器を構成し、
前記検知器が固定具により前記かごに取り付けられている、
請求項13記載のエレベータシステムの保全方法。
【請求項15】
前記第9のステップは、
あらかじめ求められた前記キャパシタンスと前記絶縁体部の厚さの関係データを用いて、前記絶縁体部の厚さを求め、前記厚さが所定の条件を満たすかどうかを判断する、
請求項13記載のエレベータシステムの保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エレベータの保全にかかるシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータは現代の都市生活や高齢・福祉社会では欠かせない設備である。エレベータの利用者の安全を保障するため、定期的な保守点検や定期検査が義務付けられている。この定期保守ではエレベータ動作時のかごの振動や駆動部の異音といった項目について、保守技術者による音や目視、体感などの五感を頼りに異常の有無の判断が行われている部分が多い。そのため、保守業務の品質を維持するには、異常の判断基準に個々人の保守技術者依存性が可能な限りないようにする(異常判断を非属人化する)仕組みの構築が求められる。
【0003】
一方で熟練の保守技術者は、長年の経験により些細な異常とその箇所を敏感に察知することができるので、保守業務において高い品質を維持するには必要な人材となる。しかし昨今の生産年齢人口の減少や保守業務コストの低減圧力とが相俟って、保守技術者の人手不足による人件費上昇や、サービス品質の低下が懸念されつつある。中でも重要な保守を担う熟練保守技術者の育成には時間を要し、またそのためのコストを考慮すると、容易に増員が難しいのが実情である。
【0004】
また、定期検査は通常、例えばエレベータの所有者や管理者(以後「所有者」という)からの要望を基に、事前に作成した予定表に合わせ保守技術者を現場に派遣することで行われる。しかし、所有者からの突発的な呼び出しで緊急に保守業務が発生することがある。そのような場合、定期検査の予定変更が余儀なくされる。更に状況によっては熟練保守技術者を現場に派遣する必要が生じるため、日程調整や残業などに伴う人件費の上昇の要因となっている。そのため、可能な限り上記のような突発的な呼び出しを削減するよう異常発生前に異常を検知する仕組みの構築が望まれている。
【0005】
このようにエレベータの利用者の安全確保にはそれなりのコストを要するが、一方で昨今の経済事情により容易にコスト上昇を受け入れ難い状況もある。このような安全とコストのトレードオフの関係の打破に向け、非属人化と自動化により保守業務の品質維持・向上に加え、保守作業の効率化と安全性の向上が求められる。
【0006】
そのような例として、これまでガイドレールとガイドシュー又はカウンタウェイトに取り付けられた電極部との間の静電容量の変化を検知することで、カウンタウェイトのガイドレールからの脱レールを検出する脱レール検出装置などがある(特許文献1)。また、絶縁体であるガイドシューのシューの中に導電体を埋め込み、シューと伴に摩耗した導電体の電気的な直流特性からシューの摩耗具合を検出する摩耗検出装置がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−91135号公報
【特許文献2】特開2001−199654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように安全とコストはトレードオフの関係にあり、この解消が課題となっている。これまで特許文献1の方法では、適用はカウンタウェイトとガイドレール間に限られている上、故障の発生を知らせるだけのものであり、故障発生前の故障予兆の検知には使用できなかった。また、特許文献1の方法では、取り付けには別途、脱レール検出部や、交流電源部が必要であり、特に既設のエレベータシステムへの設置が容易でなかった。
【0009】
特許文献2の方法では、ガイドシューのシューの中に導電体を埋め込む必要があり、既設のエレベータシステムへの設置が容易でない上、シューと伴に摩耗した導電体の電気的な直流特性の評価に必要な直流電源の確保の方法が必ずしも明確でなかった。
【0010】
以上のように安全性を向上させつつ保守コストを低減するには、新設・既設問わず、電源を含め取り付けが容易な故障予兆検出装置であり、かつエレベータの保守技術者による保守作業を非属人化・効率化し、サービス品質の維持・向上させるものである必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本願発明の一側面は、ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、ガイドレールとかごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、かごの移動の際には絶縁体部とガイドレールが摺動するエレベータシステムにおいて、ガイドレールと絶縁体部の間のインピーダンスの変化から絶縁体部の摩耗具合を検知するエレベータシステムである。
【0012】
本発明の他の一側面は、ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、ガイドレールとかごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、かごの移動の際には絶縁体部とガイドレールが摺動するエレベータシステムの保全装置である。この保全装置は、ガイドレールと絶縁体部の間のインピーダンスと相関を有する物理量を測定する測定器と、測定器で測定した物理量を記憶するメモリと、メモリに記憶した物理量あるいは当該物理量に基づくデータを無線送信する無線モジュールとを有する。
【0013】
本発明の他の一側面は、ガイドレールに沿ってかごが上下移動可能であり、ガイドレールとかごの間には絶縁体部と導電体部を備えるガイドシューが介在しており、かごの移動の際には絶縁体部と前記ガイドレールが摺動するエレベータシステムの保全方法である。この保全方法では、かごの上下移動の運動を利用して、発電機により電気エネルギーを生成する第1のステップと、電気エネルギーを蓄電池に蓄積する第2のステップと、蓄積された電気エネルギーを用いて、交流電源によって導電体部に交流電流を供給する第3のステップと、交流電流を供給した際の絶縁体部とガイドレールの間のインピーダンスを反映した物理量を、測定器で測定する第4のステップと、物理量をメモリに記憶する第5のステップと、物理量または物理量に基づくデータを、蓄積された電気エネルギーを用いて、無線モジュールで無線送信する第6のステップと、無線送信された物理量または物理量に基づくデータを受信する第7のステップと、受信した物理量または物理量に基づくデータから絶縁体部とガイドレールの間のキャパシタンスを測定する第8のステップと、キャパシタンスから絶縁体部の状態を判断する第9のステップとを有する。
【発明の効果】
【0014】
保守業務の効率化と非属人化によるサービス品質の維持・向上が図られ、安全性も向上することで、安全とコストのトレードオフを解消できることになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図6】インピーダンスの変化を検知する方法を説明するグラフ図
【
図7】静電容量の変化を検知する方法を説明するグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【0017】
以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、重複する説明は省略することがある。
【0018】
図面等において示す各構成の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面等に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0019】
以下の実施例の概要は、エレベータシステムにおいて、ガイドレールとガイドシューの間のインピーダンスの変化を定期的に自動測定し、そこから得られたデータを、無線技術などを利用することで外部からガイドシューの摩耗具合をモニターできるようにし、摩耗劣化による故障が発生する前に保守技術者などに知らせるようにする故障予兆検出装置とするものである。また、そのための電源はエレベータの上下動などを利用し発電した電力を活用することで新設・既設のエレベータを問わず取り付けを容易にした検出方法と故障予兆検出装置を提供する。
【実施例1】
【0020】
図1により、本発明にかかるエレベータシステムの第1の実施例について説明する。
図1は本実施例のエレベータシステムであり、少なくともガイドレール1、かご2、ガイドシュー3、錘4、ロープ5、滑車6からなる。ガイドレール1は通常エレベータピットの壁面に固定されている。ガイドシュー3はかご2の1または複数個所に固定配置されている。ガイドレール1は電気的に接地されているものとする。かご2はロープ5を介して錘4と繋がっており、かご2と錘4は逆方向に動くように滑車6が備え付けてある。ガイドレール1とかご2はガイドシュー3を介して繋がっており、かご2はガイドレール1に沿って上下動を行い、ガイドシュー3が上下動に伴う摩擦を軽減するのに役立つ。エレベータ自体の基本的な構成要素については、例えば特許文献1にも記載があるので詳細は省略する。
【0021】
図2にガイドシュー3とガイドレール1の構成を説明する断面図を示す。この断面は
図1のA−A’部分の切断面を上から見た模式断面図である。ガイドシュー3は導電性の取付金具7と絶縁部8からなり、取付金具7によって図示しないかご2に固定されている。また、ガイドレール1は図示しない壁面に固定されている。
【0022】
ガイドシュー3とガイドレール1は絶縁部8により電気的に絶縁されている。取付金具7には、一方を接地された交流電源9と、交流電源9の電流値を測定する電流計10とが直列に接続されている。また、取付金具7は、直列に繋がれた電圧計11と負荷14に対し並列に接続されており、取付金具7とガイドレール1との間の電圧値を測定できるようにしている。
【0023】
ガイドレール1は通常鉄製で強度を確保している。また、ガイドシュー3のガイドレール1と接触する絶縁部8は、例えば絶縁性の樹脂で構成される。絶縁部8はガイドレール1より弱い素材を使用している為、絶縁部8は徐々に摩耗していく。摩耗したガイドシュー3を使用していると、エレベータの走行時に異常音や着床段差ずれ、昇降路内の各機器との干渉にも繋がる。
【0024】
絶縁部8が摩耗することにより、ガイドレール1とガイドシュー3により形成されるキャパシタンスが変化していく。現象としては、磨耗により絶縁部8とガイドレール1の間隔が変化することにより、絶縁部8とガイドレール1間のキャパシタンスが変化する。これは、取付金具7のインピーダンスを無視すれば、取付金具7とガイドレール1の間のキャパシタンスに近似することができる。
【0025】
図2のように構成し、電流計10と電圧計11から得られる値を定期的にモニターすることで、ガイドシュー3が新品などの状態の時のインピーダンスZなどを基準に、運用中のその変化量からエレベータシステムの駆動に伴う絶縁部8の摩耗程度を監視でき、異常な摺動音等が発生する前にその予兆を検知することができるようになる。
【実施例2】
【0026】
図3により、本発明にかかるエレベータシステムの第2の実施例について説明する。
図3にはガイドシュー3とガイドレール1を説明する、実施例1とは別の構成の断面図を示す。ガイドシュー3は導電性の第1の取付金具12と第2の取付金具13と絶縁部8からなり、第1の取付金具12と第2の取付金具13は電気的に絶縁されている。また、ガイドシュー3とガイドレール1も電気的に絶縁されている。
【0027】
第1の取付金具12と第2の取付金具13は、交流電源9と、交流電源9の電流値を測定する電流計10と直列に接続されている。また、第1の取付金具12は、直列に繋がれた第1の電圧計15と第1の負荷17に対し並列に接続されており、第1の取付金具12とガイドレール1との間の電圧値を測定できるようにしている。同様に、第2の取付金具13は、直列に繋がれた第2の電圧計16と第2の負荷18に対し並列に接続されており、第2の取付金具13とガイドレール1との間の電圧値を測定できるようにしている。
【0028】
以上のように配置し、電流計10と第1の電圧計15もしくは第2の電圧計16から得られる値を定期的にモニターすることで、エレベータシステムの駆動に伴う絶縁部8の摩耗具合を監視でき、異常な摺動音発生前にその予兆を検知することができるようになる。
【0029】
図3では第1の電圧計15と第2の電圧計16の2個を用いているが、一つのみの構成としてもよい。2個以上の電圧計を用いることにより、それらの平均値を取り精度を向上させることができる。また、ガイドシュー3の磨耗の偏りをモニタすることも可能となる。
【0030】
図3のような構成とすることでガイドレール1に付随する寄生インピーダンスを可能な限り小さくでき、第1の取付金具12、または第2の取付金具13と、ガイドレール1間の電圧を測定できる。すなわち、
図2のような構成では、2つの接地電位の間に、ガイドレール1とガイドシュー3により形成されるキャパシタンスと、ガイドレール1のインピーダンスが挿入されることになる。ガイドレール1は各階を貫通するため、建物の高さに相当する長さを持つため、寄生インピーダンスは無視できない。
図3の構成では、電流の主たる経路からガイドレール1部分を排除することが可能となる。
【実施例3】
【0031】
図4により、本発明にかかるエレベータシステムの第3の実施例について説明する。
図4に横側から見たときのガイドレール1とガイドシュー3、ガイドシュー3に固定具19で備え付けられた検知器27の配置関係を説明する図を示す。ガイドレール1は図示しない壁面に固定されている。検知器27は、図示しないかご2の天井上または床下に設置することができる。
【0032】
ここでガイドレール1は電気的に接地されており、ガイドレール1とガイドシュー3は電気的に絶縁されている。検知器27は少なくとも発電機部20と、蓄電池部21、接地部22、評価部23からなる。また、評価部23はガイドシュー3と電気的に接続されている。さらに接地部22は、ガイドレール1に電気的に常に接地するように配されており、これにより評価部23の接地が確保される。接地部22とガイドレール1の電気的な接触を確保するために、例えばばね構造により接地部22をガイドレール1に押し付けるように構成することが望ましい。
【0033】
発電機部20は少なくとも回転部28と発電部29からなる。回転部28はガイドレール1と常に接し、エレベータの上下運動に伴って回転するように備え付けてあり、発電部29は回転部28の回転エネルギーを電力エネルギーに変換する。このようにして発電機部20で発電された電気エネルギーは蓄電池部21に送電され、蓄電される。
【0034】
図4のように構成することにより、電源を確保するための配線や接地のための配線等をエレベータ本体に備え付ける必要がなく、既存のエレベータにも保守設備を容易に追加することが可能となる。
【0035】
図5に示す概略図のように評価部23は少なくとも高周波発生回路24とデータロガー25、無線モジュール26を有する。蓄電池部21に蓄電された電気エネルギーが一定値を満たすと、評価部23に送電され、高周波発生回路24で交流電流や交流電圧に変換され、ガイドレール1とガイドシュー3の間の交流電圧値と交流電流値の測定に利用される。測定から得られた交流電圧値や交流電流値の時間変化はデータロガー25に記録され、必要に応じてインピーダンスZの絶対値などに解析された取得データは無線モジュール26を介して送信される。
【0036】
データロガー25としては、不揮発の半導体メモリ等を用いることができる。データの取得手法は種々考えられる。例えば、エレベータの特定の箇所のデータを定点観測することができる。また、エレベータがピット内を移動する間、常にデータを取得するように構成してもよい。
【0037】
ここで評価部23の構成は実施例1や実施例2のようなものが考えられる。また検知器27は固定具19によりガイドシュー3に容易に備え付けられる。発電機部20として、例えば自転車用発電機と同様の原理の構成などが考えられる。
【実施例4】
【0038】
図6で本発明にかかるエレベータシステムの第4の実施例について説明する。
図6は得られたデータの一例のインピーダンスZの周波数依存性を示す。当該特性は周知のように、インピーダンスZの式
V=Z・I
Z=R+jwL+1/(jwC)
(Rは抵抗、jは虚数単位、Lはインダクタンス、Cはキャパシタンス、w=2πfは周波数fの交流の角周波数、Vは電圧計で測定した電圧、Iは電流計で測定した電流)
から導出される。本実施例の検出原理は、基本的にRとLを固定として、インピーダンスZの式中のCの変化を検出するものである。
【0039】
点線601は絶縁部8の摩耗前の、実線602は摩耗後のインピーダンスである。
図6から明らかなように共振周波数よりも低周波側のインピーダンス変化が大きい。これは、高周波側ではインピーダンスZの式の第3項が小さくなるため、キャパシタンスCの影響が小さくなるからである。このことから共振周波数よりも低周波側で、1点以上の特定の周波数でのインピーダンスZを定期的にモニターすることで、その変化を知ることができる。これを利用することで、Cの変化を測定し、絶縁部8の厚さの変化を測定することができる。すなわち、エレベータシステムの故障予兆診断をできることを示す。なお、周波数の下限は容量性リアクタンスを考慮して定めればよい。
【0040】
図7は得られたデータの別の例である、ガイドレール1とガイドシュー3間の静電容量の絶縁部8の厚さ依存性を示す。絶縁部8の厚さが薄くなるに従って、静電容量の相対値は小さくなる。この性質を利用し、絶縁部8の摩耗の程度をモニターする。例えば、摩耗前よりも70%程度前記静電容量が小さくなったら、アラームなどで知らせるようにすることで、故障予兆診断できることになる。
【0041】
静電容量の絶縁部8の厚さ依存性は材料により異なるので、あらかじめ測定してデータとして保存しておき、評価部23で取得したデータからキャパシタンスの値を得て、絶縁部厚さを求めればよい。エレベータに設置されている評価部23は電源が限られているため、評価部23からは取得した原データをそのまま無線モジュール26で送信し、データの受信側でサーバなどにより必要な処理を行うことが望ましい。
【0042】
図6、
図7では縦軸と横軸に任意単位をとっている。具体的な数値は、エレベータシステムの構成により変化するが、原理的には同じである。数値例としては、例えば
図2において、交流電源9の電流値を数mA、周波数を数Hz〜数kHz、負荷14を数百kΩとする。
【0043】
以上で説明した実施例によれば、ガイドシューの摩耗劣化に伴う異常な摺動音発生前にその予兆を検知することで、緊急呼び出しの削減により保守コストを削減し、同時にモニターの自動化を実現し、かつ定期的にモニターすることで保守業務の効率化と非属人化によるサービス品質の維持・向上が図られ、安全性も向上することで、安全とコストのトレードオフを解消できることになる。
【0044】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることが可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の実施例の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1.ガイドレール
2.かご
3.ガイドシュー
4.錘
5.ロープ
6.滑車
7.取付金具
8.絶縁部
9.交流電源
10.電流計
11.電圧計
12.第1の取付金具
13.第2の取付金具
14.負荷
15.第1の電圧計
16.第2の電圧計
17.第1の負荷
18.第2の負荷
19.固定具
20.発電機部
21.蓄電池部
22.接地部
23.評価部
24.高周波発生回路
25.データロガー
26.無線モジュール
27.検知器
28.回転部
29.発電部