【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づき、より詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
1.測定機器
試料の結晶構造に関する知見を得るための粉末X線回折(PXRD)にはBruker AXS社製のD8 ADVANCEを用いた。用いたX線はCu Kα1線(λ = 1.5406 Å)であり、動作電圧・電流はそれぞれ35 kV、40 mAであった。また、試料の粒径や形状の観測にはHITACHI社製透過型電子顕微鏡(TEM)HT7700を用い、試料を分散させたエタノール溶液を応研商事社製の銅製支持膜ELS-C10STEMCu100P上に滴下した上で乾燥させた測定試料に加速電圧100 kVで電子線を照射し観測を行った。より精密な測定のため、試料の電子線エネルギー損失分光法(EELS)による元素マッピングを行った。この際に使用したのはシリコン製支持膜と日本電子(JEOL)社製の電子顕微鏡JEM-ARM200Fで、加速電圧は120 kVであった。試料の電子状態分析のため、島津製作所製のESCA-3400を用いたX線光電子分光を測定した。測定にはプローブとしてMg Kα1線(E = 1253.6 eV)を使用した。
【0026】
参考例1:Pdナノキューブの合成と測定
Byungkwon Limらが報告した手法[8]をもとにPdナノキューブを合成した。前駆体としてテトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウム (Na
2PdCl
4) を用い、56.4 mg (0.191 mmol) をイオン交換水3 mLに溶解した(溶液A)。またポリ-N-ビニル2-ピロリドン (PVP)21.2 mg (単量体換算で0.191 mmol) 、L-アスコルビン酸60.1 mg (0.341 mmol) 、及び臭化カリウム301 mg (2.53 mmol) をイオン交換水8 mLに溶解させた水溶液を調製した(溶液B)。
【0027】
オイルバス中で80 ℃に加熱した溶液Bに溶液Aをゆっくりと滴下し、マグネティックスターラーで撹拌しながら3時間反応させた。反応後の溶液は褐色から黒色に変化していた。生成物を固体として得るため水溶液を約5 mLずつ2本の50 mL遠沈管に分取し、それぞれにジエチルエーテル7.5 mLとアセトン17.5 mLを加えて振盪し遠心分離 (7000 rpm, 2分間) を行った。上澄みを除き、黒色の沈殿物に脱イオン水5 mLを加え、ジエチルエーテル、アセトンを同量加えて再び遠心分離を行った。沈殿物にアセトン15 mLを加えて遠心分離を行い真空乾燥させたのち、瑪瑙乳鉢と乳棒で粉末状に粉砕した。
【0028】
得られた黒色の固体の同定のため粉末X線回折(PXRD)とTEMによる観測を行った。Rietveld解析の結果を併せて
図2に示す。
【0029】
図2(a)の結果から、平均粒径9.2nmのPdナノキューブが得られたことが確認された。
【0030】
実施例1:ホウ素ドープ型Pdナノ粒子の合成
100 mL三口フラスコに参考例1で合成したPdナノキューブ33 mg (Pd含有量は約0.16 mmol)を撹拌子とともに入れ、3本の口をシリコンオイルバブラーに接続したグリースレスバルブ、セプタム、三方コックで封じた。三方コックの残る2本の管を真空ラインと窒素ラインにそれぞれ繋いだ。
【0031】
フラスコ内やナノ粒子内に残存した空気や水分がボラン(BH
3)-THF錯体を損なうことを防ぐため、グリースレスバルブを開放して、系内に窒素ガスを数分間流した。フラスコ内を窒素ガスで満たしたのち、グリースレスバルブを閉じ、オイルバスの温度を80 ℃に設定して撹拌しつつ真空に引いた。
【0032】
20時間の真空引きののち、フラスコに窒素ラインを接続し、グリースレスバルブを開放してフラスコ内部に窒素ガスを流した。バスの温度を45℃に設定し、系内が45℃に戻るまで窒素ガスフロー下で撹拌を続けながら数時間放置し、三方コックとグリースレスバルブを閉じてフラスコを孤立系にし、セプタムからシリンジを通して超脱水THF 2 mLを滴下した。その後、ボラン-THF錯体約4 mL (3.9 mmol, 25当量)を加え、45℃で3週間撹拌した。得られた生成物に対する粉末X線回折(PXRD)パターン、TEM画像、STEM-EELSマッチングの結果を
図3〜5に示す。六方最密充填(hcp)構造のPd-Bナノ粒子が得られたことが明らかになった。
【0033】
実施例2:ホウ素ドープ型Pdナノ粒子の合成(反応温度、時間の検討)
三方コックと三口フラスコの間にジムロート冷却器を取り付け、還流条件下での反応を目指した。実施例1に記載した20時間の真空引きまでの前処理後、窒素ラインを接続し、グリースレスバルブを開放してフラスコ内部に窒素ガスを流した。オイルバスを64℃に設定し、系内が64℃になるまで窒素ガスフロー下で撹拌を続けながら数時間放置し、グリースレスバルブを閉じ、三方コック側は先端に逆流を防ぐための逆止弁を取り付けて開放端とした。セプタムからシリンジを通して超脱水THF 2 mLを滴下した。その後、ボラン-THF錯体約4 mL (3.9 mmol, 25当量)を加え、64℃で2週間撹拌した。
【0034】
得られた生成物に対するPXRDパターンとTEM画像の結果を
図6に示す。PXRDパターンの結果、hcpモデルにより良い精度で再現されることがわかった。
【0035】
実施例3:ホウ素ドープ型Pdナノ粒子の合成(反応温度、時間の検討)
実施例1に記載した20時間の真空引きまでの前処理後、フラスコに窒素ラインを接続し、グリースレスバルブを開放してフラスコ内部に窒素ガスを流した。オイルバスを35℃に設定し、系内が35℃になるまで窒素ガスフロー下で撹拌を続けながら数時間放置し、三方コックとグリースレスバルブを閉じてフラスコを孤立系にし、セプタムからシリンジを通して超脱水THF 2 mLを滴下した。その後、ボラン-THF錯体約4 mL (3.9 mmol, 25当量)を加え、35℃で1週間撹拌した。
【0036】
得られた生成物に対するPXRDパターンとTEM画像の結果を
図7に示す。PXRDパターンの結果、生成物には未反応のPdが残存しているものの、fcc相とhcp相の共存状態にあることが明らかとなった。
【0037】
比較例1:ホウ素ドープ型Pdナノ粒子の合成(反応温度、時間の検討)
実施例1で80℃で20時間の真空引きの後、オイルバスの温度を100℃として1時間放置する操作を加え、これらを前処理とした。一連の前処理ののちフラスコに窒素ラインを接続し、グリースレスバルブを開放してフラスコ内部に窒素ガスを流した。このままオイルバスから出し、系内が室温に戻るまで窒素ガスフロー下で撹拌を続けながら数時間放置し、三方コックとグリースレスバルブを閉じてフラスコを孤立系にし、セプタムからシリンジを通して超脱水THF 2 mLを滴下した。その後、ボラン-THF錯体約4 mL (3.9 mmol, 25当量)を加え、室温で46時間撹拌した。
【0038】
得られた生成物に対するPXRDパターンとTEM画像の結果を
図8に示す。PXRDパターンの結果、未反応のPd相に加えてfcc相に酷似したPd
5B相が出現していることが明らかとなった。
【0039】
実施例4:ホウ素ドープ型Pdナノ粒子の合成(反応温度、時間の検討)
三方コックと三口フラスコの間にジムロート冷却器を取り付け、還流条件下での反応を目指した。
実施例1に記載した20時間の真空引きまでの前処理後、窒素ラインを接続し、グリースレスバルブを開放してフラスコ内部に窒素ガスを流した。オイルバスを80℃に設定し、系内が80℃になるまで窒素ガスフロー下で撹拌を続けながら数時間放置し、グリースレスバルブを閉じ、三方コック側は先端に逆流を防ぐための逆止弁を取り付けて開放端とした。セプタムからシリンジを通してボラン-THF錯体約4 mL (3.9 mmol, 25当量)を加え、80℃で1週間撹拌した。
【0040】
得られた生成物に対するPXRDパターンとTEM画像の結果を
図9に示す。PXRDパターンの結果、hcpモデルにより再現されることがわかった。
【0041】
上記の実施例の結果から、六方最密充填(hcp)構造を含むPd-Bナノ粒子を得るには、反応温度は45℃〜80℃、時間は1〜3週間が好ましいことが判った。より好ましくは、反応温度は45℃〜65℃、時間は2〜3週間が適することも判った。