【解決手段】溶媒中で、原料炭素と界面活性剤とをソルボサーマル合成法により反応させて、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物を得る工程(X)を有する、炭素材料組成物の製造方法。好ましくは、工程(X)において、溶媒としてアルコールと水との混合溶媒を選択し、界面活性剤としてアニオン界面活性剤を選択し、かつ、界面活性剤の使用量を、原料炭素100質量部に対して50〜250質量部とする。
溶媒中で、原料炭素と界面活性剤とをソルボサーマル合成法により反応させて、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物を得る工程(X)を有する、炭素材料組成物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(炭素材料組成物の製造方法)
本実施形態の炭素材料組成物の製造方法は、溶媒中で、原料炭素と界面活性剤とをソルボサーマル合成法により反応させて、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物を得る工程(X)を有する。
【0013】
原料炭素としては、特に制限されず、例えばチャンネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラックが挙げられる。
原料炭素には、好ましくは粒径3〜500nmの炭素粒子が用いられる。
【0014】
界面活性剤としては、特に制限されず、例えばアニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン界面活性剤等が挙げられる。これらの中でも、反応生成物がより安定に得られやすいことから、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤が好ましく、アニオン界面活性剤がより好ましい。
【0015】
アニオン界面活性剤としては、例えば硫酸塩、スルホン酸塩等が挙げられる。これらの中でも、反応生成物がより安定に得られやすいことから、硫酸塩が好ましく、モノアルキル硫酸塩がより好ましく、ラウリル硫酸塩が特に好ましい。
塩の形態としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が好ましい。
【0016】
カチオン界面活性剤としては、例えば第四級アンモニウム塩等が挙げられる。この中でも、反応生成物がより安定に得られやすいことから、アルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましく、ステアリルトリメチルアンモニウム塩がより好ましい。
塩の形態としては、塩化物、臭化物等のハロゲン化物が好ましい。
【0017】
溶媒としては、例えば水、アルコール等が挙げられる。
ここでのアルコールは、炭素数1〜5(好ましくは炭素数1又は2)の炭化水素の少なくとも1つの水素原子をヒドロキシ基で置き換えた化合物が好ましい。アルコールとしては、1価アルコールでもよいし、多価アルコールでもよく、原料炭素の分散性がより高められることから、1価アルコールが好ましい。中でも、アルコールとしては、エタノールが特に好ましい。
また、溶媒には、超臨界流体を用いてもよい。
前記溶媒は、原料炭素の分散性の点から、アルコールを用いることが好ましい。反応液の濃度調整の点から、水を用いることが好ましい。中でも、前記溶媒には、アルコールと水との混合溶媒を用いることがより好ましい。
【0018】
<工程(X)>
工程(X)では、溶媒中で、原料炭素と界面活性剤とをソルボサーマル合成法により反応させる。この反応によって、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物が生成する。
「ソルボサーマル合成法」とは、高温もしくは高圧の溶媒又は超臨界流体を用いて固体を合成する方法をいう。
【0019】
図1は、本実施形態の炭素材料組成物の製造方法に用いられる反応装置の一例である。
図1において、反応装置100は、高温高圧型の反応装置(オートクレーブ)であり、有底筒状の撹拌槽10と、撹拌槽10上方の開口部を塞ぐ蓋体20と、撹拌機30と、を備える。
撹拌機30は、蓋体20を貫通するように設けられた回転軸34と、回転軸34の下方先端に取り付けられ、撹拌槽10の内部に配置された撹拌翼32と、を備える。撹拌機30は、水冷ジャケット構造を有する。蓋体20より上方の撹拌機30側面には、冷却水の供給口70が設けられている。
蓋体20には、その側面に連結するように圧力計22と安全弁24とが接続されている。蓋体20は、ステンレス製であり、電力源(不図示)に接続されている。
撹拌槽10は、ステンレス鋼製であり、その外周面にヒータ50が配置されている。
反応装置100においては、温度制御部40に接続された温度センサ42が撹拌槽10の内部に達するように配置されている。撹拌槽10の内部に達する温度センサ42の先端側は、サーモウェル44で保護されている。
反応装置100においては、サンプリング管60も撹拌槽10の内部に達するように配置されている。
尚、
図1では、撹拌槽10の内部に、溶媒と原料炭素と界面活性剤とが混合した分散液Wが収容されている。
反応装置100としては、例えば、高圧マイクロリアクターMMJ型(オーエムラボテック株式会社製)等を用いることができる。
【0020】
[ソルボサーマル合成法による原料炭素と界面活性剤との反応]
ソルボサーマル合成法による原料炭素と界面活性剤との反応は、例えば以下のようにして行われる。
まず、原料炭素と界面活性剤と溶媒とを混合して分散液(α)(反応液)を調製する。これら原料の混合順序は、特に制限されず、例えば、界面活性剤の水溶液を予め調製してもよいし、原料炭素の分散液を予め調製してもよいし、原料炭素及び界面活性剤を同時に溶媒に溶解又は分散させてもよい。
その際、原料炭素の分散液の分散媒には、原料炭素の分散性の点から、溶媒としてアルコールを用いることが好ましい。
また、分散液(α)中の原料炭素又は界面活性剤の濃度調整が容易なことから、溶媒として水を用いることが好ましい。
【0021】
界面活性剤の使用量は、原料炭素100質量部に対して、好ましくは50〜250質量部、より好ましくは150〜250質量部である。
界面活性剤の使用量が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、原料炭素と界面活性剤との反応が充分に進行し、一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、炭素材料中の親水基の割合がより高められる。
【0022】
次いで、前記分散液(α)を撹拌槽10に収容し、撹拌槽10内を所定の温度及び圧力に調整して、所定時間の反応を行う。
【0023】
反応温度の条件は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは150〜200℃、さらに好ましくは150〜180℃、特に好ましくは160〜170℃とされる。反応温度が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、原料炭素と界面活性剤との反応が充分に進行する。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、反応生成物の過熱を抑制しやすい。
【0024】
反応圧力の条件は、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは1〜2MPa、さらに好ましくは1.5〜2MPaとされる。反応圧力が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、原料炭素と界面活性剤との反応が充分に進行する。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、所望とする表面改質を図りやすい。
【0025】
反応時間の条件は、好ましくは1時間以上であり、より好ましくは1〜5時間、さらに好ましくは1.5〜3時間、特に好ましくは1.5〜2時間とされる。反応時間が、前記の好ましい範囲の下限値以上であれば、原料炭素と界面活性剤との反応が充分に進行する。一方、前記の好ましい範囲の上限値以下であれば、反応生成物の分解が抑制され、構造の安定化が図られやすくなる。
【0026】
反応装置100において、反応液の冷却は、水を、供給口70に接続された配管(不図示)に供給しつつ、撹拌機30内を循環させることにより行うことができる。
【0027】
上述した本実施形態の製造方法によれば、新規なナノ炭素材料、すなわち、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物を製造できる。
加えて、本実施形態の製造方法によれば、高温高圧型の反応装置内にて、溶媒中で原料炭素と界面活性剤とを混合するだけの簡便な方法により、新規なナノ炭素材料を製造できる。
【0028】
また、本実施形態の製造方法は、溶媒として、クロロホルム等の有機溶剤を用いる必要が無く、水及びアルコールの少なくとも一方を用いればよいことから、環境負荷を低く抑えることができる。さらに、本実施形態の製造方法によれば、操作等が簡便であり、低コスト化も図れる。
【0029】
上述した本実施形態の製造方法では、分散液(α)を調製し、撹拌槽10内を所定の温度及び圧力に調整して所定時間の反応を行っていたが、これに限定されず、溶媒が超臨界流体となる条件下の撹拌槽10内で、原料炭素と界面活性剤との反応を行ってもよい。
【0030】
また、上述した本実施形態の製造方法では、不活性ガスを使用せずに、ソルボサーマル合成法による原料炭素と界面活性剤との反応を行っていたが、これに限定されず、不活性雰囲気下で行ってもよい。
【0031】
(炭素材料組成物)
上述した本実施形態の製造方法により、親水基を持つグラフェン、及び親水基を持つグラファイトを含有する炭素材料組成物が製造される。
グラフェン及びグラファイトが持つ親水基は、製造の際に用いられる界面活性剤が持つ親水基に依存し、例えばアニオン界面活性剤が用いられた場合であればそのアニオン性基に由来し、カチオン界面活性剤が用いられた場合であればそのカチオン性基に由来する。
グラフェン中の親水基の割合、グラファイト中の親水基の割合は、用途又は要求特性に応じて、原料炭素と界面活性剤との配合比率を適宜変更することにより制御できる。
【0032】
上記のようにして得られた炭素材料組成物の構造は、例えば、ATR−FTIR法(減衰全反射−フーリエ変換型赤外分光法)、HR−TEM(高分解能透過電子顕微鏡)法、AFM(原子間力顕微鏡)法、SEM(走査電子顕微鏡)法、X線回折法、ラマン分光分析法、X線光電子分光法、核磁気共鳴分光法等により同定できる。
【0033】
本実施形態の製造方法により製造された炭素材料組成物は、特性の向上が図られた新規なナノ炭素材料である。例えば、前記炭素材料組成物は、抗菌活性が高められている。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0035】
<炭素材料組成物の製造>
(実施例1)
図1に示す反応装置100を用い、溶媒中で、原料炭素と界面活性剤とをソルボサーマル合成法により反応させて、炭素材料組成物を得た。
原料炭素として、99.99%純度の炭素粉末を用いた。
界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)を用いた。
溶媒として、99.98%純度のエタノール及び蒸留水を用いた。
反応装置100として、高圧マイクロリアクターMMJ型(オーエムラボテック株式会社製、MMJ−100)を用いた。
【0036】
具体的には、以下のようにして炭素材料組成物の製造を行った。
予め調製したSLS濃度5質量%の水溶液1mLと、炭素粉末0.1gと、エタノール10mLと、蒸留水30mLと、を混合して分散液(α1)を調製した(SLSの使用量:炭素粉末100質量部に対して50質量部)。
次いで、前記分散液(α1)を撹拌槽10に収容し、撹拌槽10内を、170℃及び1.5MPaに設定して反応(ソルボサーマル合成法)を行った。反応の際、水を、供給口70に接続された配管に供給しつつ、撹拌機30内を循環させることにより、反応液の冷却を行った。
前記反応(ソルボサーマル合成法)を2時間行うことにより、目的の炭素材料組成物を得た。
【0037】
(実施例2)
予め調製したSLS濃度5質量%の水溶液5mLと、炭素粉末0.1gと、エタノール10mLと、蒸留水30mLと、を混合して分散液(α2)を調製した(SLSの使用量:炭素粉末100質量部に対して250質量部)。
次いで、分散液(α1)に代えて分散液(α2)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、目的の炭素材料組成物を得た。
【0038】
[反応後の反応液の外観評価]
図2は、実施例1の製造方法における反応後の反応液の外観を示す写真である。反応液から分離した粉末の色は黒色であった。
【0039】
[ATR−FTIR法による評価]
原料炭素単独、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物、実施例2の製造方法により得た炭素材料組成物について、それぞれATR−FTIR法(減衰全反射−フーリエ変換型赤外分光法)による測定を行い、赤外線吸収スペクトル(ATRスペクトル)を得た。
図3は、原料炭素単独についてのATRスペクトルを示す図である。
図4は、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物についてのATRスペクトルを示す図である(SLS濃度5質量%の水溶液1mL使用の場合)。
図5は、実施例2の製造方法により得た炭素材料組成物についてのATRスペクトルを示す図である(SLS濃度5質量%の水溶液5mL使用の場合)。
【0040】
図3〜5から、ATRスペクトルの挙動(ピーク強度、ピークの数)がSLSの使用量によって異なることが確認できる。
図3と
図4、5との対比から、
図4、5においては、波数700〜1500cm
−1の領域でピークが認められた。具体的には、例えば−S−OR(エーテル)(726cm
−1及び863cm
−1)、>C=S(チオカルボニル基)(1050cm
−1及び1176cm
−1)のピークが認められた。
図3と
図4、5との対比より、SLSの親水基が炭素材料に導入されていること、が示唆される。
【0041】
[HR−TEM法による評価]
図6は、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物について、HR−TEM(高分解能透過電子顕微鏡)により観察された像であり、
図6(a)はスケール50nmの像を示し、
図6(b)はスケール1nmの像を示している。
図6(a)においては、炭素材料が50nm程度の分解能で観察されている。
図6(b)においては、炭素材料が1nm程度の分解能で観察されている。1nmの高解像度では、炭素材料として、グラフェンとグラファイトとが混在したグラフェン−グラファイトナノコンポジットの六角形のハニカム格子構造が認められる。
【0042】
[AFM法による評価]
図7は、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物について、AFM(原子間力顕微鏡)により観察された像である。
図7(a)は、HOPG基板プレート上のAFMによる像を示している。
図7(b)は、
図7(a)の縦軸の各位置(μm)における厚さのラインプロファイルを示す図である。
得られた炭素材料組成物をナノシートと仮想した場合の、HOPG(Highly Oriented Pyrolytic Graphite)基板に対する該ナノシート全体の厚さは27nmを示した。
【0043】
図8は、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物について、AFMにより観察された像である。
図8(a)は、マイカ基板プレート上のAFMによる像を示している。
図8(b)は、
図8(a)の一部を拡大した像を示している。
図8(c)は、
図8(a)の縦軸の各位置(μm)における、所定の厚さ(4.8nm)のグラフェンナノシートを仮想した場合の層数(積み重なったシート数)のラインプロファイルを示す図である。
【0044】
図3〜8の評価結果から、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物は、−S−OR及び−C=Sを持つグラフェン(−S−OR及び−C=S修飾グラフェン)シートと、この−S−OR及び−C=S修飾グラフェンシートの複数が積み重なった−S−OR及び−C=S修飾グラファイトと、が混在したナノ炭素材料を含有していること、が確認できる。すなわち、本実施形態の製造方法により、親水基を持つグラフェン及びグラファイトを含有する炭素材料組成物が得られること、が確認された。
【0045】
[抗菌活性試験]
抗菌活性試験用の試料として、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物、実施例2の製造方法により得た炭素材料組成物、原料炭素単独をそれぞれ用いた。
抗菌活性試験は、JIS Z 2801(2010)に準拠した方法(大腸菌、普通ブイヨン培地を使用)で行った。
【0046】
かかる抗菌活性試験の結果、実施例1及び実施例2の製造方法により得た各炭素材料組成物は、いずれも、原料炭素単独に比べて抗菌活性が高いこと、が確認された。
また、試料の使用量が多いほど、抗菌活性が高くなること、が確認された。
また、実施例2の製造方法により得た炭素材料組成物を用いた場合の方が、実施例1の製造方法により得た炭素材料組成物を用いた場合よりも抗菌活性が高いこと、すなわち、SLS使用量の多いほど抗菌活性が高いこと、も確認された。
【0047】
前記の抗菌活性試験から、本実施形態を適用した実施例1、2の製造方法により得た炭素材料組成物は、抗菌活性がより高められていること、が確認できる。すなわち、本実施形態の製造方法により、特性の向上が図られた新規なナノ炭素材料が得られること、が確認された。