【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0045】
(1)酸素徐放剤の製造
(1−1)湿式
まず、湿式による酸素徐放剤の製造方法について説明する。過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムを用いた。有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、酢酸マグネシウム及びギ酸アンモニウムを用いた。
【0046】
(1−1−1)マグネシウム化合物:水酸化マグネシウム
(1−1−1−1)有機酸又は有機酸塩:酢酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ0.3g、1.5g、3.3g、5.1g、7.3g及び10gの酢酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。酢酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ1質量%、5質量%、10質量%、15質量%、20質量%及び25質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後、20分間攪拌を行い、酸素徐放剤を製造した。反応液をブフナー漏斗で吸引濾過(吸引脱水工程)して酸素徐放剤を分離し、箱型乾燥器内に110℃で3時間保持して乾燥(乾燥工程)し、未反応の過酸化水素を除去した後、酸素徐放剤を回収した。
【0047】
(1−1−1−2)有機酸又は有機酸塩:乳酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に用意した。過酸化水素水に18gの40%乳酸アンモニウム水溶液(有機酸塩)を混合して過酸化水素水を調整した。乳酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。乳酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する乳酸アンモニウムの割合は20質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0048】
(1−1−1−3)有機酸又は有機酸塩:酢酸マグネシウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ4.6g、7.1g、10g及び14gの酢酸マグネシウム四水和物(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸マグネシウムが溶解されたそれぞれの過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)28g、27g、26g及び25gを徐々に添加した。酢酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸マグネシウムの割合はそれぞれ14質量%、21質量%、28質量%及び35質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0049】
(1−1−1−4)有機酸又は有機酸塩:ギ酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ3.3g、5.1g、7.3g及び10gのギ酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。ギ酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。ギ酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対するギ酸アンモニウムの割合はそれぞれ10質量%、15質量%、20質量%及び25質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0050】
(1−1−2)マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物として酸化マグネシウムを用いた場合について説明する。
【0051】
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ3.4g及び7.3gの酢酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度99%、平均粒子径5.4μmの酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)20gを徐々に添加した。酢酸アンモニウムと酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ14質量%及び27質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1)の水酸化マグネシウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0052】
(1−2)乾式
次に、乾式による酸素徐放剤の製造方法について説明する。
【0053】
過酸化物濃度25.2%の過酸化マグネシウム18g及び16gにそれぞれ2g及び4gの酢酸アンモニウムを添加し、小型のサンプルミルを用いて1分間粉砕混合を行い、酸素徐放剤を製造した。酢酸アンモニウムと過酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ10質量%、20質量%となる。なお、乾式に用いた過酸化マグネシウムは、湿式の製造方法において、有機酸又は有機酸塩を0g(不添加)として製造した。
【0054】
(2)評価方法
(2−1)赤外吸収スペクトルの測定
酢酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合が20質量%の酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを、赤外分光器(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−6000)を用いて、全反射法により測定した。比較例として、有機酸塩無添加の酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを測定した。
【0055】
(2−2)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化
酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化を以下のようにして評価した。
【0056】
(2−2−1)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度
40℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿槽内に酸素徐放剤を静置し、酸素徐放性能の加速試験を行った。恒温恒湿槽内に静置する前(測定開始時)、及び、所定日数経過した後、酸素徐放剤を分取し、酸素徐放剤及びそれに含まれる過酸化マグネシウム(MgO
2)を定量した。過酸化マグネシウムの定量には過マンガン酸カリウム適定を用いた。下記化学式6から、酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度を求め、酸素徐放剤の酸素の放出性能に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果を評価した。
酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度=MgO
2/酸素徐放剤 (化学式6)
【0057】
(2−2−2)過酸化マグネシウムの経時変化
測定開始時の過酸化マグネシウムの濃度に対する所定日数経過後の過酸化マグネシウムの濃度の比、即ち、過酸化マグネシウムの残存割合を求めることにより、過酸化マグネシウムの経時変化に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果、即ち、酸素徐放剤の酸素の放出性能に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果を評価した。
【0058】
(3)評価結果
(3−1)赤外吸収スペクトルの測定
図1に、酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを示す。比較例の酸素徐放剤は1420cm
−1付近と1570cm
−1付近に吸収ピークが認められないのに対して、実施例の酸素徐放剤は1420cm
−1付近と1570cm
−1付近に吸収ピークが認められた。1420cm
−1付近と1570cm
−1付近の吸収ピークはCOO
−の吸収ピークと一致しており、本発明の酸素徐放剤は有機酸塩を含むことがわかる。
【0059】
(3−2)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化
測定開始時及び所定日数経過後の酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度並びに測定開始時(0日)の過酸化マグネシウムの濃度に対する所定日数経過後の過酸化マグネシウムの濃度の比(過酸化マグネシウムの残存割合)を以下の表1〜表6に示す。
【0060】
(3−2−1)湿式
(3−2−1−1)マグネシウム化合物:水酸化マグネシウム
(3−2−1−1−1)有機酸又は有機酸塩:酢酸アンモニウム
表1の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表1】
【0061】
酢酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、酢酸アンモニウムを添加した場合、20〜22日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.5質量%以上(残存割合:75.2%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。また、酢酸アンモニウムの添加量が多いほど過酸化マグネシウムの残存割合が減少しており、酢酸アンモニウムの添加量によって酸素の放出性能を制御できることがわかる。
【0062】
(3−2−1−1−2)有機酸又は有機酸塩:乳酸アンモニウム
表2の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては乳酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表2】
【0063】
乳酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、乳酸アンモニウムを20質量%添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は5.4質量%(残存割合:81.0%)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0064】
(3−2−1−1−3)有機酸又は有機酸塩:酢酸マグネシウム
表3の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸マグネシウムを用いて湿式で製造した。
【表3】
【0065】
酢酸マグネシウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、酢酸マグネシウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.6質量%以上(残存割合:76.3%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0066】
(3−2−1−1−4)有機酸又は有機酸塩:ギ酸アンモニウム
表4の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としてはギ酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表4】
【0067】
ギ酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、ギ酸アンモニウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.0質量%以上(残存割合:81.8%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0068】
(3−2−1−2)マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
表5の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表5】
【0069】
酢酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は8.7質量%(残存割合:74.1%)であるのに対して、酢酸アンモニウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は8.4質量%以上(残存割合:69.2%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0070】
(3−2−2)乾式
表6の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムと酢酸アンモニウムを用いて乾式で製造した。
【表6】
【0071】
酢酸アンモニウムを添加せずに湿式で製造した場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)(表1)であるのに対して、乾式で酢酸アンモニウムを添加した場合、20日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.5質量%以上(残存割合:81.3%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0072】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、酸素徐放剤及びその製造方法並びに酸素供給方法等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能であり、浄化方法の対象物についても汚染土壌に限定されず、酸素徐放剤の添加によって酸素濃度が上昇し、その特性が改善する物であれば、浄化方法の対象物に含まれる。植物の育成方法や水系の底質改善方法についても同様である。