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特開2017-222566酸素徐放剤及びその製造方法並びに酸素供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-222566(P2017-222566A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】酸素徐放剤及びその製造方法並びに酸素供給方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 13/02 20060101AFI20171124BHJP
   A01G 31/00 20060101ALI20171124BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20171124BHJP
   C01B 15/043 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
   C01B13/02 B
   A01G31/00 601A
   A01G31/00 602
   A01G7/00 602A
   C01B15/043
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-115317(P2017-115317)
(22)【出願日】2017年6月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-116540(P2016-116540)
(32)【優先日】2016年6月10日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100195877
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻木 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】坂口 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】奥津 龍紀
(72)【発明者】
【氏名】吉田 彰
【テーマコード(参考)】
2B314
4G042
【Fターム(参考)】
2B314MA26
2B314PA11
4G042BA04
4G042BA06
4G042BB05
4G042BC06
(57)【要約】
【課題】 酸素徐放性能を長期間維持することができ、河川、港湾等の水中に溶出した場合でも環境負荷の大きいリン由来の富栄養化を生じず、植物培地におけるリンのみの増加を回避することができ、かつ、土壌等に添加する工程を簡略にすることができる酸素徐放剤を提供すること。
【解決手段】 酸素徐放剤は過酸化マグネシウムと、有機酸塩とを含む。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化マグネシウムと、
有機酸塩とを含むことを特徴とする酸素徐放剤。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素徐放剤において、
前記有機酸塩がカルボン酸塩であることを特徴とする酸素徐放剤。
【請求項3】
請求項2に記載の酸素徐放剤において、
前記カルボン酸塩がギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする酸素徐放剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の酸素徐放剤により酸素を供給することを特徴とする酸素供給方法。
【請求項5】
有機酸又は有機酸塩と、過酸化水素水と、マグネシウム化合物とを混合する工程を有することを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の酸素徐放剤の製造方法において、
前記有機酸又は前記有機酸塩が、カルボン酸又はカルボン酸塩であることを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の酸素徐放剤の製造方法において、
前記カルボン酸又はカルボン酸塩が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸並びにギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の酸素徐放剤の製造方法において、
前記マグネシウム化合物が水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項9】
過酸化マグネシウムと、有機酸塩とを混合する工程を有することを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の酸素徐放剤の製造方法において、
前記有機酸塩がカルボン酸塩であることを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の酸素徐放剤の製造方法において、
前記カルボン酸塩が、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることを特徴とする酸素徐放剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素徐放剤及びその製造方法並びに酸素徐放剤による酸素供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚染土壌の浄化方法として、例えば、特許文献1、2には酸素徐放剤を汚染土壌に混合して汚染土壌中に酸素を供給する方法が記載されている。酸素徐放剤は過酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属過酸化物(RO)を含み、下記化学式1に従って酸素を数週間から数ヶ月の長期にわたって緩やかに放出する。
RO+HO→(1/2)O+R(OH) (化学式1)
(R:アルカリ土類金属)
【0003】
この酸素によって土壌中の好気性微生物が活性化し、汚染物質を分解することによって汚染土壌が浄化される。また、酸素徐放剤が土壌等の植物を育成する培地に酸素を供給することによって植物の育成を促進することも知られている。
【0004】
しかし、酸素徐放剤は酸素を放出すると同時に、化学式1に従ってアルカリ土類金属水酸化物(R(OH))を生成する。このアルカリ土類金属水酸化物は酸素徐放剤の表面に被膜を形成する。この被膜が酸素徐放剤と水との接触及び酸素の放出を阻害するため、酸素徐放剤は酸素徐放性能を次第に失う。そこで、特許文献1には、金属酸化物、金属過酸化物又は金属炭酸化物をリン酸イオン源(リン酸塩)の存在下で過酸化水素の水溶液と反応させてリン酸イオン源を金属過酸化物にインターカレートすることによって、酸素徐放剤が酸素を放出する期間が実質的に長くなることが記載されている。また、特許文献2には、酸素放出剤(酸素徐放剤)として過酸化カルシウム及び/または過酸化マグネシウムと、中和剤としてコハク酸、クエン酸、ピルビン酸、マレイン酸、フマル酸、乳酸、酢酸、蟻酸(ギ酸)、シュウ酸、リンゴ酸、グルコン酸、酒石酸から選ばれる少なくとも1種の有機酸又はそれらの有機酸と有機酸塩の混合物とを汚染土壌に添加する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3304087号
【特許文献2】特許第4964844号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているリン酸イオン源は、極少量でも河川、港湾等の水中に溶出した場合、環境負荷の大きいリン由来の富栄養化の課題があった。また、特許文献2に記載されている汚染土壌の浄化方法は、汚染土壌に中和剤を添加する工程が必要であった。さらに、特許文献2に記載されている実施例は、中和剤にクエン酸とコハク酸のみが用いられ、他の有機酸、または有機酸と有機酸塩の混合物の効果は不明であった。
【0007】
本発明の幾つかの態様は、酸素徐放性能を長期間維持することができ、河川、港湾等の水中に溶出した場合でも環境負荷の大きいリン由来の富栄養化を生じず、植物培地におけるリンのみの増加を回避することができ、かつ、土壌に添加する工程を簡略にすることができる酸素徐放剤及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の幾つかの態様は、酸素を必要とする環境下において酸素の供給を長期間維持することができる、又は、酸素徐放性能を調整することができる酸素供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の第1の態様は、アルカリ土類金属過酸化物の中でも特に好ましい過酸化マグネシウムと、有機酸塩とを含むことを特徴とする酸素徐放剤に関する。
【0009】
酸素徐放剤は有機酸塩を含むため、水酸化マグネシウムからなる被膜の形成が抑制され、土壌に添加する際に中和剤を添加しなくても酸素徐放性能を長期間維持することができる。また、有機酸塩の添加量によって酸素徐放性能を調整することができる。さらに、過酸化マグネシウムは他のアルカリ土類金属過酸化物よりも低コスト、製造が容易かつ安全性が高い。
【0010】
(2)本発明の第1の態様では、有機酸塩がカルボン酸塩であることが好ましい。カルボン酸は水と二酸化炭素に分解されるため、酸素徐放剤の環境負荷を小さくすることができる。
【0011】
(3)本発明の第1態様では、カルボン酸塩がギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。これらのカルボン酸塩は水と二酸化炭素に分解されやすいため、酸素徐放剤の環境負荷をより小さくすることができる。
【0012】
(4)本発明の第2の態様は、第1の態様の酸素徐放剤により酸素を供給することを特徴とする酸素供給方法に関する。酸素を必要とする環境下に酸素徐放剤を添加することにより、酸素の供給を長期間維持することができる。
【0013】
(5)本発明の第2の態様では、第1の態様の酸素徐放剤を汚染土壌に添加してもよい。酸素徐放剤は有機酸塩を含むため、酸素を長期にわたって緩やかに放出し、酸素徐放性能を長期間維持することができる。この酸素が好気性微生物を活性化し、好気性微生物が汚染物質を分解することによって、汚染土壌が浄化される。したがって、本実施形態の汚染土壌の浄化方法は、浄化性能を長期間維持することができる。また、酸素徐放剤はリンを含まないため、河川、港湾等の水中に溶出した場合でも環境負荷の大きいリン由来の富栄養化を生じることなく汚染土壌を浄化することができる。さらに、酸素徐放剤を汚染土壌に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、汚染土壌の浄化方法を簡略にすることができる。
【0014】
(6)本発明の第2の態様では、第1の態様の酸素徐放剤を土壌等の植物培地に添加してもよい。酸素徐放剤はリンを含まないため、植物培地におけるリンのみの増加を回避することができ、窒素、リン及びカリウムの3大栄養素のバランスを崩さない。また、酸素徐放剤は肥料としても作用する。さらに、酸素徐放剤を土壌等の植物培地に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、植物の育成方法を簡略にすることができる。
【0015】
(7)本発明の第2の態様では、第1の態様の酸素徐放剤を海底・湖底等(水系)の底質に添加してもよい。リンを含まない酸素徐放剤を用いるため、水中のリン増加を生じることなく、底質への酸素供給と、過酸化マグネシウムから生成するマグネシウム塩による底質のpH調整とを行うことができる。このため、好気性細菌が活性化し、底質改善、例えば、硫化水素の発生を抑制することができる。さらに、酸素徐放剤を底質に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、底質の改善方法を簡略にすることができる。
【0016】
(8)本発明の第3の態様は、有機酸又は有機酸塩と、過酸化水素水と、アルカリ土類金属化合物の中でも特に好ましいマグネシウム化合物とを混合する工程を有することを特徴とする酸素徐放剤の製造方法に関する。有機酸を混合した場合、少なくとも一部がアルカリ土類金属化合物の中でも特に好ましいマグネシウム化合物と反応して有機酸塩を生成する。また、アルカリ土類金属化合物の中でも特に好ましいマグネシウム化合物は過酸化水素水と反応してアルカリ合土類金属過酸化物の中でも特に好ましい過酸化マグネシウムを生成する。したがって、有機酸又は有機酸塩のいずれを混合しても、アルカリ合土類金属過酸化物の中でも特に好ましい過酸化マグネシウムと、有機酸塩とを含む第1の態様の酸素徐放剤を製造することができる。また、製造段階で有機酸又は有機酸塩とマグネシウム化合物とを湿式で反応させるため、過酸化マグネシウムと、有機酸塩とが均一な酸素徐放剤を製造することができる。
【0017】
(9)本発明の第3の態様では、未反応の過酸化水素水を除去する工程をさらに含むことが好ましい。未反応の過酸化水素水を除去することにより、酸素徐放剤を使用する際の残留未反応過酸化水素水による悪影響を除くことができる。
【0018】
(10)本発明の第3の態様では、有機酸又は有機酸塩はカルボン酸又はカルボン酸塩であることが好ましい。カルボン酸又はカルボン酸塩はギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸並びにギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。これらの第3の態様が好ましい理由は、第1の態様の好ましい理由と同様である。
【0019】
(11)本発明の第3の態様では、マグネシウム化合物は水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムは、酸素徐放剤を構成する過酸化マグネシウムを低コストで効率的に製造することができる。
【0020】
(12)本発明の第4の態様は、有機酸塩と、アルカリ土類金属過酸化物の中でも特に好ましい過酸化マグネシウムとを混合する工程を有することを特徴とする酸素徐放剤の製造方法に関する。酸素徐放剤を構成する有機酸塩と、アルカリ土類金属過酸化物の中でも特に好ましい過酸化マグネシウムとを直接乾式で混合するため、過酸化水素水を用いる湿式の第3の態様の製造方法よりも製造工程及び製造設備をより簡単に第1の態様の酸素徐放剤を製造することができる。
【0021】
(13)本発明の第4の態様では、アルカリ土類金属過酸化物は未反応の過酸化水素が予め除去されていることが好ましい。この第4の態様が好ましい理由は第3の態様の好ましい理由と同様である。
【0022】
(14)本発明の第4の態様では、有機酸塩がカルボン酸塩であることが好ましい。また、カルボン酸塩がギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。これらの第4の態様が好ましい理由は第1の態様の好ましい理由と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態(本実施形態)について詳細に説明するが、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0025】
(1)酸素徐放剤の製造方法
本実施形態の酸素徐放剤の製造方法は湿式と乾式を含む。以下、それぞれについて詳細に説明する。
【0026】
(1−1)湿式
本実施形態の酸素徐放剤の湿式の製造方法は、有機酸又は有機酸塩と、過酸化水素水と、マグネシウム化合物とを混合する工程を有する。なお、「湿式」は過酸化水素水を用いることに由来する。有機酸を混合した場合、少なくとも一部がマグネシウム化合物と反応して有機酸塩を生成する。また、マグネシウム化合物は過酸化水素水と反応して過酸化マグネシウムを生成する。したがって、有機酸又は有機酸塩のいずれを混合しても、過酸化マグネシウムと、有機酸塩とを含む酸素徐放剤を製造することができる。有機酸塩によって水酸化マグネシウムからなる被膜の形成が抑制されるため、酸素徐放性能を長期間維持できる酸素徐放剤を製造することができる。また、製造段階で有機酸又は有機酸塩とマグネシウム化合物とを湿式で反応させるため、過酸化マグネシウムと、有機酸塩とが均一な酸素徐放剤を製造することができる。
【0027】
酸素徐放剤は有機酸塩を含むため、水酸化マグネシウムからなる被膜の形成が抑制され、土壌に添加する際に中和剤を添加しなくても酸素徐放性能を長期間維持することができる。また、有機酸塩の添加量によって酸素徐放性能を調整することができる。さらに、過酸化マグネシウムは他のアルカリ土類金属過酸化物よりも低コスト、製造が容易かつ安全性が高い。
【0028】
(1−1−1)過酸化水素水の調製
湿式の製造方法は、まず、有機酸又は有機酸塩と、過酸化水素水と、を混合し、有機酸又は有機酸塩が溶解された過酸化水素水を調整する。過酸化水素水の濃度は20〜60質量%が好ましく、25〜45質量%がより好ましく、30〜40質量%がさらに好ましい。また、過酸化水素水の温度は、10〜30℃が好ましい。
【0029】
有機酸又は有機酸塩から有機酸が選択される場合、有機酸はマグネシウム化合物と反応して有機酸塩を生成する。したがって、有機酸又は有機酸塩のいずれを混合しても酸素徐放剤は有機酸塩を含む。有機酸塩によって水酸化マグネシウムからなる被膜の形成が抑制されるため、酸素徐放剤は酸素徐放性能を長期間維持することができる。
【0030】
過酸化水素水に溶解する有機酸又は有機酸塩は、カルボン酸又はカルボン酸塩であることが好ましい。カルボン酸は水と二酸化炭素に分解されるため、環境負荷が小さい酸素徐放剤を製造することができる。カルボン酸又はカルボン酸塩は、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸並びにギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることがより好ましい。ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、酪酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸並びにそれらの塩は、水と二酸化炭素に分解されやすいため、環境負荷がより小さい酸素徐放剤を製造することができる。本実施形態では、有機酸塩として酢酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、酢酸マグネシウム及びギ酸アンモニウムを用いた。
【0031】
過酸化水素水に溶解する有機酸又は有機酸塩の量は、有機酸又は有機酸塩と、この後に添加するマグネシウム化合物との合計質量に対して1〜40質量%が好ましく、5〜35質量%がより好ましい。
【0032】
(1−1−2)マグネシウム化合物の添加
次に、調製された過酸化水素水に、過酸化マグネシウムの原料としてマグネシウム化合物を添加する。添加するマグネシウム化合物は、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムからなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム及び炭酸マグネシウムは過酸化水素水と反応しやすいため、酸素徐放剤を構成する過酸化マグネシウムをより効率的に製造することができる。マグネシウム化合物を用いると過酸化マグネシウムを生成するが、これらは他のアルカリ土類金属よりも低コスト、製造が容易かつ安全性が高く、土壌等の植物培地に用いた場合は、肥料としても作用する。本実施形態ではマグネシウム化合物として水酸化マグネシウム(Mg(OH))及び酸化マグネシウム(MgO)を用いた。
【0033】
35質量%、49gの過酸化水素水(0.5モル)に対するマグネシウム化合物の添加量は、0.1〜5.0モルが好ましく、0.2〜2.0モルがさらに好ましく、0.3〜1.5モルが最も好ましい。過酸化水素に対するマグネシウム化合物の添加量が多すぎる場合は非常に低い過酸化物濃度の過酸化マグネシウムが生成し、酸素徐放性の観点から望ましくなく、マグネシウム化合物の添加量が少なすぎる場合には高濃度の過酸化マグネシウムが生成し、危険物の観点から望ましくない。
【0034】
(1−1−3)酸素徐放剤の生成反応
調製された過酸化水素水にマグネシウム化合物を添加、混合するとマグネシウム化合物の一部は下記化学式2乃至化学式4に従って過酸化マグネシウムを生成し、残部は未反応のままマグネシウム化合物として残留する。
(a+b)Mg(OH)+aH
→aMgO+bMg(OH)+2aHO (化学式2)
(a+b)MgO+aH
→aMgO+bMgO+aHO (化学式3)
(a+b)MgCO+aH
→aMgO+bMgCO+aHO+aCO (化学式4)
【0035】
本実施形態では、マグネシウム化合物として水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムを用いたので、それぞれ上記化学式2及び化学式3に従って過酸化マグネシウムと未反応の水酸化マグネシウム及び酸化マグネシウムを生成する。
【0036】
上記化学式2乃至化学式4は発熱反応のため、反応系が過熱しないよう、マグネシウム化合物の添加は徐々に行う。また、本実施形態では、上記反応を促進するため、水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを全量添加後、所定時間攪拌を行う。こうして、過酸化マグネシウムと、有機酸塩と、を含む酸素徐放剤を製造することができる。
【0037】
(1−1−4)酸素徐放剤の回収
酸素徐放剤の製造方法は、マグネシウム化合物を添加する工程の後に、酸素徐放剤を回収する工程をさらに有してもよい。酸素徐放剤を回収する方法は、特に制限はないが、例えば、反応液をブフナー漏斗で吸引濾過(吸引脱水工程)して酸素徐放剤を分離し、分離した箱型乾燥器にて所定温度に所定時間加熱、保持して乾燥し(乾燥工程)、酸素徐放剤を回収する。乾燥温度は140℃以下が好ましく、50〜120℃がより好ましく、過酸化水素の沸点(35wt%過酸化水素で108℃)以上115℃以下が特に好ましい。乾燥工程での加熱によって未反応の過酸化水素が揮発し、酸素徐放剤から除去することができる。また、吸引脱水工程の実施前又は実施中に酸素徐放剤を水洗(水洗工程)し、未反応の過酸化水素を洗い流してもよい。未反応の過酸化水素を除去することにより、酸素徐放剤を使用する際の残留未反応過酸化水素水による予期せぬ反応等の悪影響を除くことができる。
【0038】
(1−2)乾式
本実施形態の酸素徐放剤の乾式の製造方法は、有機酸塩と、過酸化マグネシウムとを混合する工程を有する。酸素徐放剤を構成する有機酸塩と、過酸化マグネシウムとを直接乾式で混合するため、湿式の製造方法よりも製造工程及び製造設備を簡単にすることができる。なお、「乾式」は過酸化水素水等の水溶液を用いないことに由来する。有機酸塩、その添加量、リンを含まないこと及び用途についての効果は湿式の場合と同様である。有機酸塩と過酸化マグネシウムとの混合方法は、サンプルミル、乾式ボールミル等、公知の混合法を用いることができる。また、過酸化マグネシウムは、通常化学式2乃至化学式4に従って生成されるため、予め、加熱、水洗等により未反応の過酸化水素を除去しておくことが好ましい。
【0039】
有機酸塩はカルボン酸塩であることが好ましい。また、カルボン酸塩はギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、酪酸塩、コハク酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される1又は2以上であることが好ましい。これらの好ましい理由は湿式の場合と同様である。
【0040】
(2)酸素徐放剤の応用
本実施形態の酸素徐放剤は下記化学式5に従って酸素を長期にわたって緩やかに放出し、酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムは徐々に減少する。
MgO+HO→(1/2)O+Mg(OH) (化学式5)
【0041】
(2−1)汚染土壌の浄化方法
本実施形態の酸素徐放剤を汚染土壌の浄化方法に用いることができる。本実施形態の酸素徐放剤を汚染土壌に添加すると、酸素徐放剤は有機酸塩を含むため、酸素を長期にわたって緩やかに放出し、酸素徐放性能を長期間維持することができる。この酸素が土壌中の好気性微生物を活性化し、好気性微生物が汚染物質を分解することによって、汚染土壌が浄化される。したがって、本実施形態の汚染土壌の浄化方法は、浄化性能を長期間維持することができる。また、酸素徐放剤はリンを含まないため、河川、港湾等の水中に溶出した場合でも環境負荷の大きいリン由来の富栄養化を生じることなく汚染土壌を浄化することができる。さらに、酸素徐放剤を汚染土壌に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、汚染土壌の浄化方法を簡略にすることができる。
【0042】
(2−2)植物の育成方法
本実施形態の酸素徐放剤を植物の育成方法に用いることができる。本実施形態の酸素徐放剤を土壌等の植物培地に添加すると、酸素徐放剤はリンを含まないため、植物培地におけるリンのみの増加を回避することができ、窒素、リン及びカリウムの3大栄養素のバランスを崩さない。また、酸素徐放剤は肥料としても作用する。さらに、酸素徐放剤を土壌等の植物培地に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、植物の育成方法を簡略にすることができる。
【0043】
(2−3)水系の底質改善
本実施形態の酸素徐放剤を海底・湖底等(水系)の底質改善に用いることができる。本実施形態の酸素徐放剤を水系の底質に添加すると、リンを含まない酸素徐放剤を用いるため、水中のリン増加を生じることなく、底質への酸素供給と、過酸化マグネシウムから生成するマグネシウム塩による底質のpH調整とを行うことができる。このため、好気性細菌を活性化し、底質改善、例えば、硫化水素の発生を抑制することができる。さらに、酸素徐放剤を底質に添加する際に中和剤を添加する工程が不要になるため、底質の改善方法を簡略にすることができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0045】
(1)酸素徐放剤の製造
(1−1)湿式
まず、湿式による酸素徐放剤の製造方法について説明する。過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムと酸化マグネシウムを用いた。有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウム、乳酸アンモニウム、酢酸マグネシウム及びギ酸アンモニウムを用いた。
【0046】
(1−1−1)マグネシウム化合物:水酸化マグネシウム
(1−1−1−1)有機酸又は有機酸塩:酢酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ0.3g、1.5g、3.3g、5.1g、7.3g及び10gの酢酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。酢酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ1質量%、5質量%、10質量%、15質量%、20質量%及び25質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後、20分間攪拌を行い、酸素徐放剤を製造した。反応液をブフナー漏斗で吸引濾過(吸引脱水工程)して酸素徐放剤を分離し、箱型乾燥器内に110℃で3時間保持して乾燥(乾燥工程)し、未反応の過酸化水素を除去した後、酸素徐放剤を回収した。
【0047】
(1−1−1−2)有機酸又は有機酸塩:乳酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に用意した。過酸化水素水に18gの40%乳酸アンモニウム水溶液(有機酸塩)を混合して過酸化水素水を調整した。乳酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。乳酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する乳酸アンモニウムの割合は20質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0048】
(1−1−1−3)有機酸又は有機酸塩:酢酸マグネシウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ4.6g、7.1g、10g及び14gの酢酸マグネシウム四水和物(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸マグネシウムが溶解されたそれぞれの過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)28g、27g、26g及び25gを徐々に添加した。酢酸マグネシウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸マグネシウムの割合はそれぞれ14質量%、21質量%、28質量%及び35質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0049】
(1−1−1−4)有機酸又は有機酸塩:ギ酸アンモニウム
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ3.3g、5.1g、7.3g及び10gのギ酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。ギ酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度66%(MgO換算)、平均粒子径3.0μmの水酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)29gを徐々に添加した。ギ酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対するギ酸アンモニウムの割合はそれぞれ10質量%、15質量%、20質量%及び25質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1−1)の酢酸アンモニウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0050】
(1−1−2)マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物として酸化マグネシウムを用いた場合について説明する。
【0051】
35質量%、49gの過酸化水素水を20℃に設定した恒温槽内に複数用意した。過酸化水素水にそれぞれ3.4g及び7.3gの酢酸アンモニウム(有機酸塩)を混合、溶解して過酸化水素水を調整した。酢酸アンモニウムが溶解された過酸化水素水に、純度99%、平均粒子径5.4μmの酸化マグネシウム(マグネシウム化合物)20gを徐々に添加した。酢酸アンモニウムと酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ14質量%及び27質量%となる。水酸化マグネシウムを全量添加後は(1−1−1)の水酸化マグネシウムの場合と同様にして酸素徐放剤を回収した。
【0052】
(1−2)乾式
次に、乾式による酸素徐放剤の製造方法について説明する。
【0053】
過酸化物濃度25.2%の過酸化マグネシウム18g及び16gにそれぞれ2g及び4gの酢酸アンモニウムを添加し、小型のサンプルミルを用いて1分間粉砕混合を行い、酸素徐放剤を製造した。酢酸アンモニウムと過酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合はそれぞれ10質量%、20質量%となる。なお、乾式に用いた過酸化マグネシウムは、湿式の製造方法において、有機酸又は有機酸塩を0g(不添加)として製造した。
【0054】
(2)評価方法
(2−1)赤外吸収スペクトルの測定
酢酸アンモニウムと水酸化マグネシウムとの合計質量に対する酢酸アンモニウムの割合が20質量%の酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを、赤外分光器(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計FT/IR−6000)を用いて、全反射法により測定した。比較例として、有機酸塩無添加の酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを測定した。
【0055】
(2−2)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化
酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化を以下のようにして評価した。
【0056】
(2−2−1)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度
40℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿槽内に酸素徐放剤を静置し、酸素徐放性能の加速試験を行った。恒温恒湿槽内に静置する前(測定開始時)、及び、所定日数経過した後、酸素徐放剤を分取し、酸素徐放剤及びそれに含まれる過酸化マグネシウム(MgO)を定量した。過酸化マグネシウムの定量には過マンガン酸カリウム適定を用いた。下記化学式6から、酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度を求め、酸素徐放剤の酸素の放出性能に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果を評価した。
酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度=MgO/酸素徐放剤 (化学式6)
【0057】
(2−2−2)過酸化マグネシウムの経時変化
測定開始時の過酸化マグネシウムの濃度に対する所定日数経過後の過酸化マグネシウムの濃度の比、即ち、過酸化マグネシウムの残存割合を求めることにより、過酸化マグネシウムの経時変化に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果、即ち、酸素徐放剤の酸素の放出性能に対する酢酸アンモニウム等の有機酸又は有機酸塩の添加量の効果を評価した。
【0058】
(3)評価結果
(3−1)赤外吸収スペクトルの測定
図1に、酸素徐放剤の赤外吸収スペクトルを示す。比較例の酸素徐放剤は1420cm−1付近と1570cm−1付近に吸収ピークが認められないのに対して、実施例の酸素徐放剤は1420cm−1付近と1570cm−1付近に吸収ピークが認められた。1420cm−1付近と1570cm−1付近の吸収ピークはCOOの吸収ピークと一致しており、本発明の酸素徐放剤は有機酸塩を含むことがわかる。
【0059】
(3−2)酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの経時変化
測定開始時及び所定日数経過後の酸素徐放剤中の過酸化マグネシウムの濃度並びに測定開始時(0日)の過酸化マグネシウムの濃度に対する所定日数経過後の過酸化マグネシウムの濃度の比(過酸化マグネシウムの残存割合)を以下の表1〜表6に示す。
【0060】
(3−2−1)湿式
(3−2−1−1)マグネシウム化合物:水酸化マグネシウム
(3−2−1−1−1)有機酸又は有機酸塩:酢酸アンモニウム
表1の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表1】
【0061】
酢酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、酢酸アンモニウムを添加した場合、20〜22日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.5質量%以上(残存割合:75.2%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。また、酢酸アンモニウムの添加量が多いほど過酸化マグネシウムの残存割合が減少しており、酢酸アンモニウムの添加量によって酸素の放出性能を制御できることがわかる。
【0062】
(3−2−1−1−2)有機酸又は有機酸塩:乳酸アンモニウム
表2の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては乳酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表2】
【0063】
乳酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、乳酸アンモニウムを20質量%添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は5.4質量%(残存割合:81.0%)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0064】
(3−2−1−1−3)有機酸又は有機酸塩:酢酸マグネシウム
表3の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸マグネシウムを用いて湿式で製造した。
【表3】
【0065】
酢酸マグネシウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、酢酸マグネシウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.6質量%以上(残存割合:76.3%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0066】
(3−2−1−1−4)有機酸又は有機酸塩:ギ酸アンモニウム
表4の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては水酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としてはギ酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表4】
【0067】
ギ酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)であるのに対して、ギ酸アンモニウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.0質量%以上(残存割合:81.8%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0068】
(3−2−1−2)マグネシウム化合物:酸化マグネシウム
表5の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムの原料となるマグネシウム化合物としては酸化マグネシウムを用い、有機酸又は有機酸塩としては酢酸アンモニウムを用いて湿式で製造した。
【表5】
【0069】
酢酸アンモニウムを添加しない場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は8.7質量%(残存割合:74.1%)であるのに対して、酢酸アンモニウムを添加した場合、21日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は8.4質量%以上(残存割合:69.2%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0070】
(3−2−2)乾式
表6の酸素徐放剤は、過酸化マグネシウムと酢酸アンモニウムを用いて乾式で製造した。
【表6】
【0071】
酢酸アンモニウムを添加せずに湿式で製造した場合、21日後の過酸化物濃度の減少量は3.2質量%(残存割合:85.8%)(表1)であるのに対して、乾式で酢酸アンモニウムを添加した場合、20日経過後の過酸化マグネシウムの減少量は4.5質量%以上(残存割合:81.3%以下)であり、酸素の放出性能が優れることがわかる。
【0072】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれる。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、酸素徐放剤及びその製造方法並びに酸素供給方法等の構成及び動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形が可能であり、浄化方法の対象物についても汚染土壌に限定されず、酸素徐放剤の添加によって酸素濃度が上昇し、その特性が改善する物であれば、浄化方法の対象物に含まれる。植物の育成方法や水系の底質改善方法についても同様である。
図1