【実施例】
【0050】
以下にγ−オリザノールについての試験結果を示す。
【0051】
〔試験1〕
前駆脂肪細胞3T3-L1細胞を用いてインビトロ試験を行った。3T3-L1細胞は、マウスの繊維芽細胞から脂肪を蓄積する株として分離された細胞であり、細胞自体が不死化されているため、分化誘導前は、繊維芽細胞として大量増殖することができる。また、3T3-L1細胞は、インスリン、デキタメタゾンおよび3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX)により、脂肪細胞に95%以上分化誘導することができる。
【0052】
(培地調製)
継代用培地として、継代用培地A(DMEM(4.5g.mL Glu) (Sigma, glucose, D5769)、10%BS(Gibco,16170, lot#990250)および1%抗生物質(Gibco, Antibiotic-Antimycotic, 15240-062))、並びに継代用培地B(DMEM(4.5g.mL Glu)、10%FBS(Biowest, S1560, lot#SO5094S1560)および1%抗生物質)を用いた。BSおよびFBSは、非働化処理(56℃、30分)したものを用いた。
【0053】
分化誘導培地としては、継代用培地Bに、10μg/mLインスリン溶液(Wako,093-06351, lot#DOG7017)、0.25μM Dexamethasone (DEX) (Sigma, D4902) および0.11mg/mL IBMX (3-イソブチル-1-メチルキサンチン) (Sigma, 15879)を加えたものを用いた。分化促進培地としては、継代用培地Bに5μg/mLインスリン溶液を加えたものを用いた。分化誘導培地および分化促進培地は用時調製した。
【0054】
(サンプルの調製方法)
[ピオグリタゾン]
アディポネクチンの分泌を促進して脂肪細胞の分化を促進すると考えられているチアゾリジン誘導体のピオグリタゾンをコントロールとして用いた。ピオグリタゾン塩酸塩(Wako,1ot#LAN0167、WEL4297)をDMSOにて溶解後、培地にて最終濃度が10μMになるように調製した。
【0055】
[γ−オリザノール]
γ−オリザノール(TCI, O0172)をDMSOに溶解し、5mM濃度に調整したγ−オリザノール溶液を用いた。実験には、最終濃度が5μMとなるように、培地で希釈して用いた。
【0056】
(細胞培養とサンプル添加方法)
3T3-L1細胞(大日本住友製薬, Embryo mouse)は、継代用培地Aにて必要量を増殖させ、12ウェルコラーゲンコート培養プレート(住友ベークライト,スミロンセルタイトC-1)に、1.5×10
4ce1l/ウェル(6ウェルプレートの場合は、3.75×10
4ce11/ウェル)の濃度となるように、細胞懸濁液1mL(6ウェルプレートの場合は、2mL)を播種し、37℃、5%CO
2下で2日間培養した。その後、継代用培地Bに培地交換し、コンフルエント後、1-2日間、継代用培地Bにて培養を続け、分化誘導培地に交換した(day 0)。分化誘導培地により分化誘導して48時間以内に、分化促進培地に交換した(day 2)。各々のサンプルは、分化誘導培地交換時(day 0)から、day7-8まで、継続的に添加し続けた。
【0057】
(脂肪細胞のOil Red染色方法)
[試薬調製]
冷10%ホルマリン/PBS(pH7.4)は、PBSに10%(v/v)量ホルマリンを添加し、pH7.4に調整して調製し、4℃で保管した。本試験では、10%中性緩衝ホルマリン液(Wake, 060-03845)を使用した。
【0058】
染色液には0.5% Oil Red O/イソプロパノール溶液を用いた。Oil Red O(Wake, 154-02072)をイソプロパノール(Sigma)中にスターラーでよく振盪溶解し、飽和溶液として調製した。調製後少なくとも5日放置した。使用直前に、0.5% Oil Red O/イソプロパノール溶液と蒸留水とを3:2の割合で混合し、10分間、室温にて放置した(用時調製)。
【0059】
[染色方法]
上記の培養方法にて、day7-8まで培養した、6ウェルプレートの3T3-L1細胞を用いた。培地が入った状態で、冷10%ホルマリン/PBSを、1ml/ウェル添加し、20分間、室温にて放置した。培地をデカントで除き、新たに冷10%ホルマリン/PBSを1.5ml/ウェル添加し、1時間、室温にて放置した。ホルマリン溶液をデカントで除き、蒸留水(1ml/ウェル)で2-3回洗浄し、残った蒸留水をピペットマンで完璧に除いた。60%イソプロパノール(1ml/ウェル)で1回洗浄後、渡過した染色液を1ml/ウェル添加し、1時間、室温にて放置した。染色後、60%イソプロパノール(1ml/ウェル)で1回洗浄し、蒸溜水(1ml/ウェル)で2-3回洗浄した。水を張った状態で顕微鏡観察を行い、写真を撮影した。また、良く風乾させた後、スキャナで全体写真を撮影した。
【0060】
(Oil Red O染色の結果)
各サンプル存在下で上記培養方法にて分化を促進させた7〜8日目における3T3-L1細胞の油滴を、Oil Red O染色にて赤色で染めた。
図1は、Oil Red O染色後の細胞を肉眼で観察した結果を示す図である。
図2は、Oil Red O染色後の細胞を光学顕微鏡で観察した結果を示す図である。
図1の(a)および(b)、並びに
図2の(a)および(b)は、サンプルを添加していないコントロールの結果を示す。
図1の(c)および
図2の(c)は、ピオグリタゾン存在下、
図1の(d)および
図2の(d)はγ−オリザノール存在下での結果を示す。
【0061】
図1および
図2に示すように、コントロールおよびピオグリタゾンでは、細胞内にトリグリセライドの蓄積が観察され、脂肪細胞への分化が強く促進されていることが確認できた。一方、γ−オリザノール存在下では、赤色で染色されている部分が明らかに少なく、細胞内にトリグリセライドが蓄積されていないことが確認できた。すなわち、γ−オリザノールは、脂肪細胞への分化を抑制していることが示唆された。
【0062】
〔試験2および3〕
次に、マウスを用いてin vivo試験を行った。
【0063】
(試験食)
試験食には、以下の組成の高脂肪食(HFD)およびγ−オリザノール含有飼料(γ-oryzanol)を用いた(オリエンタル酵母工業作製)。γ−オリザノールには、γ−オリザノール(Wako, 152-01272)を用いた。各飼料は固形であり、通常乾燥(90℃、90分)させ、γ線照射(30kGy)させたものである。また、普通食(CTL)としてはAIN-93M調整食(オリエンタル酵母工業社製)を用いた。
【0064】
【表1】
【0065】
(飼育条件)
床敷(ALPHA-driTM(エルエスジー))で飼育し、飲水としてはフィルターろ過水(自由摂取)を与えた。飼育条件は、温度20〜25℃、湿度45〜70%および一日の照明時間12時間とした。通常食(CE-2固形)にて予備飼育後、体重を測定し、各群の体重の平均値の有意差がなくなるように、群分けを行った後、試験食を開始した。
【0066】
(ipGTT方法)
1晩(15時間)絶食後、動物の尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した(空腹時血糖値)。空腹時血糖値を測定した後、試験2では1.5g/kg B.W(40% w/v溶液)、試験3では2g/kg B.Wのグルコースを腹腔内投与した。グルコース腹腔内投与後の所定時間毎に、空腹時血糖値測定と同様に尾を穿刺し、簡易血糖値測定装置を用いて血糖値を測定した。
【0067】
(解剖方法)
絶食後、それぞれ動物をイソフルラン(フラン、1−クロロ−2,2,2−トリフルオロエチルジフルオロメチルエーテル)麻酔下にて開腹し、下大静脈から採血後、失血死させた。なお、へパリンナトリウムを通した注射針を用いた。採取した血液は、遠心分離により血漿状態にした後に保管した。失血死をさせた後、肝臓および白色脂肪組織をそれぞれ摘出し、解析に用いた。摘出した各組織は、PBS(-)にて洗浄し余分な水分を取り除いた後、液体窒素にて凍結し、解析に用いるまで−80℃にて保管した。
【0068】
(肝中脂質の測定方法)
液体窒素にて組織破壊器具(マイクロテックニチオン)一式を十分に冷やしておき、それらを用いて肝臓を粉々にした。0.5M酢酸(Sigma)、メタノール(Sigma)およびクロロホルム(Sigma)(1: 2.5:1.25)が入ったガラス円沈管に、粉砕した肝臓を入れ、2分間ホモジネートし、20秒間ボルテックスした後、10分間室温にて放置した。その後、クロロホルムを加え20秒間ボルテックスし、0.5M酢酸を加え1分間ボルテックスした。1,500×gで10分(4℃)遠心分離を行い、下層をパスツールピペットにて別容器に移した。残った上層に再度クロロホルムを加え、1分間ボルテックスした後、1,500×gで10分(4℃)遠心分離を行い、再抽出した。集めた下層をドラフト内で乾燥させ、イソプロピルアルコール(Sigma):TritonX100(Sigma)=9:1の混合液にて激しく損拌して溶解した。得られたサンプル溶液について、コレステロールE−テストワコー(Wake, 439-17501)およびトリグリセライドE−テストワコー(Wake,432-40201)を用いて肝中脂質を測定した。
【0069】
(試験2)
糖尿病発症マウスであるKK-Ay/TaJcld(日本クレア社より入手)を用いて、高脂肪食(HFD)を給餌させた群およびγ−オリザノール含有飼料を給餌させた群において、体重、グルコース投与後の血糖値変化、組織重量および血中指標を測定した。マウスは個飼いにより飼育した。水および餌は自由摂取とした。
【0070】
給餌方法は、各日分の摂餌量を測定し、1日の平均摂餌量を算出した。
【0071】
[体重変化]
体重は、毎週同じ時間に測定した。試験食開始後の体重変化は、高脂肪食(HFD)群と比べて、γ−オリザノール群に有意な差はなかった(図示せず)。
【0072】
[ipGTT]
各群について、ipGTTにより空腹時血糖値(FBG)を測定した結果を
図3に示す。また、ipGTTにより腹腔内にグルコース投与後の血糖値変化を測定した結果を
図4に示す。また、各群について、血糖値曲線下面積(AUC)を算出した結果を
図5に示す。
【0073】
γ−オリザノール群の空腹時血糖値(FBG)は、HFD群と比べて低かった(
図3)。また、腹腔内にグルコースを投与した後、特に60分後以降において、γ−オリザノール群の血糖値は、HFD群と比べて有意に低下していた(
図4)。γ−オリザノール群の血糖値曲線下面積(AUC)もまたHFD群と比べて有意に低かった(
図5)。
【0074】
[体重および組織重量]
各群について25日間または26日間各々の試験食で飼育した後、解割を実施し、組織を採取し、体重(Body weight)、白色脂肪組織(副串丸周囲脂肪)重量(WAT)、および肝臓重量(LIVER)を測定した。それらの結果をそれぞれ
図6〜8に示す。γ−オリザノール群は、HFD群と比較して、体重は同等であったが、白色脂肪組織重量および肝臓重量のいずれも低い値を示した。
【0075】
[血中指標]
解剖時に採取した血液サンプルは、遠心分離により血漿にした後、血中の中性脂肪値(TG)、遊離脂肪酸値(NEFA)、血糖値(GLU)およびインスリン値(INS)を測定した。その結果を
図9〜11に示す。
【0076】
その結果、γ−オリザノール群では、HDF群と比較して、中性脂肪値(TG)、遊離脂肪酸値(NEFA)および血糖値(GLU)が減少した。
【0077】
(試験3)
ノーマルマウスであるC57BL6J(日本チャールズ・リバー社より入手)を用いて、普通食(CTL)を与えた群、高脂肪食(HFD)を与えた群およびγ−オリザノールを与えた群において、体重変化、グルコース投与後の血糖値変化および組織重量を測定した。マウスは、4匹/ケージの群飼いにより飼育した。予備飼育期間および試験食開始後の餌は、自由摂取とした。
【0078】
[体重変化]
体重は、毎週同じ時間に測定した。試験食開始後の体重変化を
図12に示す。HFD群と比べて、CTL群の体重は有意に減少した。また、γ−オリザノール群の体重は、HFD群と比較して、常時低い値を示した。また、摂餌量については、どの群においても差はなかった(図示せず)。
【0079】
[ipGTT]
各群について、ipGTTにより腹腔内にグルコース投与後の血糖値変化を測定した結果を
図13に示す。また、各群について、血糖値曲線下面積(AUC)を算出した結果を
図15に示す。
図13および
図14に示すように、CTL群は、HFD群と比較して、腹腔内にグルコースを投与後、全ての時間において有意に血糖値が低下し、AUCも有意に低かった。γ−オリザノール群においては、HFD群と比較して、グルコース投与後30分後および60分後に血糖値が有意に低下しており、AUCも有意に低かった。
【0080】
[体重および組織重量]
各群について99日間または100日間、各々の試験食で飼育した後、解剖を実施し、組織を採取し、体重(Body weight)、および肝臓重量(LIVER)を測定した。それらの結果をそれぞれ
図15および16に示す。HFD群は、CTL群と比較して、どの項目においても有意に増加していた。一方、HFD群にγ−オリザノールを添加した食餌群であるγ−オリザノール群においては、HFD群と比較して体重および肝臓重量共に低かった。
【0081】
〔考察〕
試験1の結果から、γ−オリザノール存在下では、3T3-L1内へのトリグリセライドの蓄積が抑制されていたため、分化が抑制されていると考えられる。試験3において、γ−オリザノールを与えたC57BL6Jマウスは、高脂肪食群と比較して体重が常時低い値を示したことからも、γ−オリザノールが脂肪細胞分化を抑制することにより、脂肪細胞の肥大化を抑制したと推測できる。すなわち、γ−オリザノールは、脂肪細胞分化を抑制することにより肥大脂肪細胞の増加を抑制して体重増加を抑制するだけでなく、脂肪分解機能を有する小型脂肪細胞の存在比率を高めることにより脂肪分解効率を向上させ、体重を減少させる作用を有することが示唆された。
【0082】
また、試験2および3において、γ−オリザノール群では、HFD群と比較して腹腔内にグルコースを投与した後の血糖値が有意に低下したことから、γ−オリザノールが脂肪細胞分化を抑制することにより、小型脂肪細胞の減少によるアディポネクチンの分泌低下を抑制し、その結果インスリン抵抗性を改善させたことが示唆された。すなわち、γ−オリザノールは、脂肪細胞の分化を抑制することによりインスリン抵抗性を改善させる作用を有することが示唆された。