【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、防衛装備庁、安全保障技術研究推進制度委託事業、「可搬式超小型バイオマスガス化発電システムの開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】有機物を加熱することによって可燃性ガスを生成するガス化炉と、可燃性ガスを吸収剤を用いて精製するスクラバーと、吸収剤を遠心分離、あるいは濾過によって精製する再生装置を有する熱分解あるいはガス化システムが提供される。熱分解あるいはガス化システムはさらに、スクラバーによって精製された可燃性ガスを用いて発電する発電装置を有してもよい。熱分解あるいはガス化システムはさらに、スクラバーと再生装置の間で吸収剤を循環させるポンプを有してもよい。吸収剤は、植物油でもよい。
前記スクラバーは、前記吸収剤を保持するタンクと、前記タンクと前記気泡発生装置の間で前記吸収剤を循環させるポンプをさらに有する、請求項5に記載の熱分解あるいはガス化システム。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0015】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0016】
以下本明細書および請求項では、有機性廃棄物とバイオマスを総じて有機物と記す。また、熱分解あるいはガス化を総じてガス化と記す。
【0017】
(第1実施形態)
本実施形態では、有機物をエネルギー源として利用するシステムの一つとして、ガス化システムに発電機を付加したシステムを例として説明する。
【0018】
[1.システムフロー]
図1にガス化システムのフローチャートを示す。ガス化システムは、有機物をガス化するステップ100を含む。具体的には、有機物を酸素の非存在下、あるいは低濃度の酸素存在下で400℃から1000℃程度の温度で加熱する。酸素供給量は、有機物を完全燃焼するための酸素供給量に対し、約5%以上50%以下の供給量とすればよい。この処理により、主に一酸化炭素と水素を含む可燃性ガス(以下、合成ガスとも記す)を得ることができる。
【0019】
用いられる有機物に限定はなく、例えば間伐材、剪定廃材、建築廃木材、農業廃棄物、あるいは食品加工時に発生する残渣、農業廃棄物、繊維廃棄物、プラスチック材などが挙げられる。あるいは、災害時に発生する、木材を含む瓦礫でもよい。
【0020】
合成ガスには、高温では気体であるが、常温では液体、あるいは固体となる有機物がタールとして含まれ、発電装置その他の下流機器の閉塞を引き起こす。そこで、合成ガスの精製(スクラビング)を行って、タールを除去する(ステップ102)。詳細は後述するが、合成ガスを吸収剤にバブリングさせる、あるいは合成ガスに対して吸収剤を散布するなどの手法によってタールを吸収剤に吸収させる。バブリングを行う場合には、合成ガスの微小な気泡(微小気泡、マイクロバブル)を吸収剤にバブリングさせてもよい。吸収剤としては、常温で液体であり、不飽和脂肪酸とグリコールのエステルを含むものが好ましい。不飽和脂肪酸としては、例えばエルシン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸などが挙げられる。このような吸収剤の一例として植物油が挙げられ、キャノーラ油、ひまし油、コーン油、大豆油、ごま油、ベニバナ油なども利用可能である。
【0021】
精製された合成ガスは発電装置へ供給され、燃焼され、得られる熱エネルギーが電力に変換される(ステップ104)。
【0022】
さらに本システムでは、合成ガスの精製(ステップ102)において使用される吸収剤の回収、再生を行ってもよい(ステップ106)。詳細は後述するが、吸収したタールと吸収剤の比重の差を利用し、遠心分離によってタールと吸収剤を分離し、吸収剤を再生、再利用する。あるいは、濾過によって吸収剤を再生、再利用する。これにより、低コストで合成ガスの精製が可能となる。
【0023】
[2.ガス化]
図2に本実施形態のガス化システムの構成を模式的に示す。ガス化システムは、有機物のガス化を行うガス化装置200、ガス化によって生成する合成ガスの精製装置(スクラバー)300、スクラバー300で用いる吸収剤の再生装置400、ならびに精製後の合成ガスを用いて発電を行う発電装置600を有している。
【0024】
ガス化装置200は、ガス化炉206を有しており、ホッパー202から投入された有機物がフィーダー204によってガス化炉206に送られる。また、空気が導入口208からガス化炉に供給される。
図2に示したガス化炉206はダウンドラフト型のガス化炉であるが、アップドラフト型のガス化炉を用いてもよい。ガス化炉206の上部から投入された有機物は、低濃度の酸素存在下で加熱され、可燃性の合成ガスと灰または炭化物を与える。ガス取出し口218から取り出された合成ガスは、バルブ214、ガス管216を介してスクラバー300へ導入される。一方、灰または炭化物は排出コンベア210によってガス化炉206から取り出され、搬出ボックス212へ排出される。
【0025】
図3にガス化炉206の模式図を示す。ガス化炉206の上部の開口部から有機物が投入され、有機物が約400℃から1000℃の温度で加熱される。加熱には、バイオマスの燃焼によって得られるエネルギーを用いてもよい。導入口208から空気をガス化炉206へ導入することができる。供給する空気に含まれる酸素の量は、有機物の完全燃焼に必要な酸素量に対し、約5%以上50%以下とすればよい。
【0026】
投入された有機物は、ガス化炉206の上部で原料層220を形成する。その後自重により、有機物は徐々に下へ移動し、ガス化炉206内の高温度により水分が除去される。この現象が主に生じるのが乾燥層222である。その後有機物は熱分解され、可燃性ガスやタールなどの揮発成分が発生する。そしてタールの一部は800℃前後の温度で燃焼、分解される。この現象が主に生じるのが熱分解/燃焼層224である。最下層の還元層226では還元反応が生じ、合成ガスである一酸化炭素、水素、あるいはメタンなどが生成するとともに、有機物は灰または炭化物となる。ガス化炉206はV字型の底部228を有しており、その開口部230から灰または炭化物が取り出される。一方合成ガスはガス化炉206の側面などに設けられるガス取出し口218から取り出される。
【0027】
[3.スクラビング]
合成ガスには、微量のタールが含まれる。タールは主に、高温では気体として存在するが、常温では液体、あるいは固体として存在する有機化合物を含む。合成ガスはバルブ214、ガス管216などを介してスクラバー300へ導入され、スクラバー300においてタールが除去される(
図2)。
図4(A)にスクラバー300の模式図を示す。
図4(A)に示すように、スクラバー300は、タンク304、ノズル306、気泡発生装置308、ポンプ310、フローメーター312、圧力ゲージ314などを備えている。
【0028】
タンク304は吸収剤302を保持する機能を有する。タンク304はアクリル樹脂、ポリプロピレン、ポリスチレンなどの材料を含むことができる。これらの高分子材料とガラス繊維を混合した複合材料を用いてもよい。上述したように、吸収剤302としては、常温で液体であり、不飽和脂肪酸とグリコールのエステルを含むものが好ましく、一例として植物油が挙げられる。
【0029】
ポンプ310はタンク304から吸収剤302を吸引して気泡発生装置308へ輸送し、さらにノズル306を通してタンク304へ吸収剤302を循環させる機能を有する。吸収剤302の流速はフローメーター312で測定し、ポンプ310への負荷は圧力ゲージ314で見積もることができる。
【0030】
気泡発生装置308は、ガス化炉206で生成した合成ガスの微小気泡を吸収剤302中に発生させる機能を有する。発生した微小気泡は吸収剤302とともにノズル306へ輸送され、吸収剤302中へ拡散される。図示していないが、スクラバー300はさらに、吸収剤302を攪拌するための攪拌装置や、吸収剤302の温度を一定に保つための温度制御装置などを備えていてもよい。なお、気泡発生装置308やポンプ310を設置せず、合成ガスをタンク304内の吸収剤302中にバブリングしてもよい。
【0031】
気泡発生装置308の構造を
図4(B)に模式的に示す。気泡発生装置308は、吸収剤302の注入口320、排出口322、注入口320と排出口322の間のスロート324を有するチューブを有している。スロート324の内径D2は排出口322の内径D1や注入口320の内径D3よりも小さい。スロート324の断面積は排出口322や注入口320の断面積よりも小さい。スロート324にはガス注入口326が連結されている。ポンプ310によって輸送される吸収剤302は注入口320に供給される。注入口320とスロート324の間には、第1の部分328と第2の部分330が設けられる。第1の部分328は注入口320を含み、第2の部分330はスロート324と接する。第1の部分328の内径D1あるいは断面積は、注入口320から第2の部分330へ向かう方向において一定にすることができる。一方第2の部分330の内壁は、注入口320から第2の部分330へ向かう方向に対して傾いている。また、その傾きは一定でもよい。
【0032】
気泡発生装置308のこのような構造に起因し、第2の部分330やその周辺において、微小な対流340が発生する。この対流340は吸収剤302とともにスロート324へ輸送される。
【0033】
同時に、スロート324では負圧が発生するため、合成ガスがガス注入口326から吸引され、スロート324内で吸収剤302と混合される。供給された合成ガスは対流340、ならびに吸収剤302のせん断流によって破壊され、大量の微小気泡342を与える。微小気泡342は排出口322へと輸送される。
【0034】
排出口322とスロート324の間には、第3の部分332と第4の部分334が設けられる。第3の部分332は排出口322を含み、第4の部分334はスロート324と接する。第3の部分332の内径D3あるいは断面積は、排出口322から第4の部分334へ向かう方向において一定にすることができる。一方、第4の部分334の内壁は、排出口322から第4の部分334へ向かう方向に対して傾いている。また、その傾きは一定でもよい。
【0035】
実施例でも述べるように、吸収剤302として植物油を用い、気泡発生装置308を用いて微小気泡342をタンク304内で吸収剤302中にバブリングさせることで、吸収剤302と合成ガスの接触面積が飛躍的に増大し、その結果、効率良くタールを除去することができる。特に、微小気泡の平均直径が150μm以上350μm以下となるように微小気泡を発生させることで、高効率でタールを除去することができる。
【0036】
合成ガスに含まれるタールは、吸収剤302によって選択的に吸収、除去される。その後、タンク304内で拡散した合成ガスは、ガス取出し口316から取り出される。合成ガスを燃焼し、得られるエネルギーを利用して発電装置600で発電することで、本実施形態であるガス化システムが構成される。合成ガスは発電以外の用途で使用することも可能であり、車両用の燃料、燃料電池、暖房などで使用してもよい。この場合、本実施形態は、燃料生成システム、燃料電池システム、あるいは暖房システムとして応用することができる。
【0037】
[4.再生]
スクラバー300で使用される吸収剤302は、合成ガス中のタールを吸収する。したがって、使用時間や使用頻度が増大するにしたがって、タールの吸収能力が低下する。本実施形態のガス化システムでは、タールと吸収剤302を再生装置400によって分離して吸収剤302の吸収能力を回復させることで、吸収剤302を再生、再利用することができる。
【0038】
より具体的には、タールを吸収した吸収剤302は、タンク304に設けられる取出し口338から、任意の構成であるポンプ402、バルブ404などを介して再生装置400へ輸送される(
図2、4参照)。再生装置400では、遠心分離、あるいは濾過を利用してタールが吸収剤302から除去される。
【0039】
[4−1.遠心分離]
吸収剤302の再生のための遠心分離機の構成は任意に選択することができるが、その一例を
図5に示す。
図5に模式的に示した遠心分離機406は、回転体410、回転軸412、供給部414、スクレーパー418、シャッター420などを含むことができる。回転軸412は図示しないモーターと接続され、モーターの回転力を回転体410に伝える。回転体410はモーターによって駆動され、回転軸412を中心として回転する。回転体410の中心付近に供給部414が設けられ、タールを吸収した吸収剤302は、供給部414に設けられる吐出口416から回転体410の内壁に向かって供給される。回転体410は上面と底面にそれぞれ開口部422、424を有しており、回転体410の底面に位置する開口部424には、その開閉を制御するシャッター420が設けられる。図示していないが、開口部422の開閉を制御するシャッターを設けてもよい。
【0040】
吸収剤302が供給された後、回転体410を回転させる。回転速度は任意であるが、例えば1000rpmから30000rpm、あるいは5000rpmから10000rpmとすればよい。回転体410の回転によって発生する遠心力が吸収剤302に加えられ、比重の違いによってタールと吸収剤302が分離する。吸収剤302と比較してタールの比重は大きいため、タールは回転体410の内壁に堆積する。一方、タールが除去された吸収剤302は開口部422から排出、回収され、ポンプ430、バルブ432などを介してスクラバー300のタンク304へ輸送され(
図2)、合成ガスの精製に再度用いられる。これにより、吸収剤302を繰り返し使用することができ、低コストで合成ガスからタールを除去することが可能となる。
【0041】
一方、回転体410の内壁に堆積したタールは、スクレーパー418によって除去される。具体的には、スクレーパー418を回転体410の内壁に接するように移動させ、同時に回転体410を低速で回転させる。これにより、タールが回転体410の内壁から剥がれ、回転体410の底面へ集められる。その後シャッター420を開き、開口部424からタールを排出する。ポンプ402、あるいはポンプ430により、スクラバー300と再生装置400間で吸収剤302が循環される。
【0042】
このように、吸収剤302を保持する回転体410を回転させることによって遠心力を吸収剤302に与え、分離したタールを回転体410の底面から排出し、精製された吸収剤302を回転体410の上面から回収することで、連続的に吸収剤302の再生を行うことができる。なお、タールの粘性が高く、回転体410の回転を停止しても、内壁に堆積されたタールが短時間で回転体410の底面に落下しない場合には、回転体410の底面に別途開口部を設け、精製された吸収剤302をそこから回収してもよい。
【0043】
[4−2.濾過]
吸収剤302を再生する濾過は、種々の方法で行うことができるが、その一例を
図6に示す。
図6に示す濾過装置450はカラム452を有しており、タールを含む吸収剤302はカラム452の上部から投入される。カラム452の下には濾過後の吸収剤302を受けるコンテナ458が設けられる。コンテナ458はバルブ460を介して真空ポンプあるいはアスピレータ462と接続してもよい。これにより、コンテナ458内を減圧にすることができ、吸収剤302を高速で濾過することができる。図示していないが、カラム452の上から吸収剤302に対して圧力を加えて濾過を加速してもよい。
【0044】
カラム452には交互する複数の第1の層454と第2の層456を設けることができる。
図6では二つの第1の層454_1、454_2と二つの第2の層456_1と456_2が設けられた例を示しているが、第1の層454と第2の層456の数に制限はなく、また互いに異なってもよい。
【0045】
第1の層454は砂状の材料を含むことができ、材料は活性炭、珪藻土、シリカゲル、アルミナ、ケイ酸マグネシウム、ゼオライトなどから選択することができる。材料の平均粒径は0.2mm以上2.0mm以下、0.5mm以上1.5mm以下、あるいは0.7mmから0.9mm以下とすることができる。第1の層454の厚さはカラム452の大きさにも依存するが、1cm以上5cm以下、典型的には3cm程度とすることができる。第1の層454は、第2の層456の詰まりを防ぎ、濾過速度を維持するための機能を有する。
【0046】
第2の層456は繊維状の材料を含むことができ、材料はポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレンなどの高分子材料から選択することができる。第2の層456の厚さはカラム452の大きさにも依存するが、4cm以上10cm以下、典型的には7cm程度とすることができる。第2の層456は、吸収剤302に混入する不溶性微粒子を取り除く機能を有しており、特に30μm以上の粒径を有する微粒子の除去に対して高い効果を有している。
【0047】
以上述べたように、本実施形態のガス化システムでは、例えば瓦礫中に含まれるような、多種多様な材料を含み、様々な形状を有する有機物をガス化することによって可燃性の合成ガスを取り出すことができる。さらに、吸収剤として植物油を用い、合成ガスを微小気泡として吸収剤へ導入することで、効率よく合成ガス中のタールを除去することができる。このため、合成ガスを使用する発電装置などの設備へのダメージを大幅に低下させることができる。さらに、タールを吸収した吸収剤に対して遠心分離、あるいは濾過を行うことによって容易にタールを除去することができる。したがって、吸収剤を容易に再生、再利用することができ、低コストで合成ガスの精製を行うことができる。
【0048】
本実施形態では、有機物からのエネルギーを発電に利用する形態を記述したが、有機物のエネルギーは発電以外の用途に利用してもよい。例えばガスに含まれる水素を利用する燃料電池システム、ガスを燃焼して得られる熱を直接熱源として利用する暖房システムなども本発明の実施形態の一つである。
【実施例1】
【0049】
本実施例では、遠心分離による吸収剤302の再生を評価した結果を述べる。評価方法を
図7、8を用いて説明する。
図7は本実施例で用いた装置の概略図である。有機物としてあらかじめ105℃で2時間乾燥させた日本杉のチップ(サイズ:0.5mmから1mm)をホッパー500、スクリューフィーダー502を用いて0.6g/分の速度で加熱炉504へ投入した。加熱炉504はステンレス製であり、直径は30mm、高さは280mmである。使用したチップの燃料特性を表1、2に示す。表1には元素分析結果が、表2にはJIS M 8814の規格に基づく工業分析結果が示されている。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
バルブ508を介して窒素ボンベ506から窒素をキャリアガスとして0.8L/minの流量で供給し、加熱炉504において800℃でチップを加熱し、合成ガスを生成した。加熱炉504の温度は熱電対510でモニターした。
【0053】
キャリアガスを用い、吸収剤302であるキャノーラ油500mLが満たされた三口ウルフ瓶522に合成ガスを導入した。合成ガスの導入は、吸収剤302をマグネティックスタラー524を用いて攪拌(1000rpm)しながらバブリングすることによって行った。三口ウルフ瓶522は、温度計530、温度調整機528を用いて一定温度(30℃)に保たれた恒温槽520内に設置した。バルブ532は合成ガスのスイッチングを行うものであり、これにより、スクラビング前の合成ガス、およびスクラビング後の合成ガスをサンプリングユニット540へそれぞれ導入した。吸収剤302に吸収されたタールの量は、これらのガスに含まれるタール量の差から見積もった。重質タール、軽質タールはそれぞれ、湿式法、乾式法の測定方法によって測定した。測定方法の詳細は、非特許文献1とそこで引用された文献に記載されているため、割愛する。
【0054】
合成ガスのスクラビングを行った後、遠心分離機526を用いて吸収剤302とタールの分離を行った。具体的には
図8(A)に示すように、遠沈管に80mLの吸収剤を加え、10000rpmの回転速度で30分間遠心分離を行った。その結果、
図8(B)に模式的に示すように、タールが遠沈管底部に堆積し、上澄みの吸収剤302と分離されることが確認された。この時の遠沈管の写真を
図8(C)に示す。
図8(C)の点線で示すように、遠沈管の底部にタールが堆積されていることが分かる。
【0055】
遠心分離機526を用いる吸収剤302の再生効果は、以下の方法で評価した。まず、スクラビングされた合成ガスのタール濃度を135分モニターした。その後、吸収剤302に対して遠心分離を行ってタールを除去し、吸収剤302を再生した。引き続き、再生した吸収剤302を用いてスクラビングされた合成ガスのタール濃度を135分モニターした。以下、同様に吸収剤302の再生、スクラビングされた合成ガスのタール濃度の測定を繰り返した。比較のため、再生操作を行わず、10時間連続でスクラビングを行った場合の、合成ガス中のタール濃度も測定した。結果を
図9、10に示す。
【0056】
図9は、吸収剤302の再生操作を行わない場合の実験結果である。
図9の曲線550はスクラビングを行っていない合成ガスのタール濃度測定結果であり、ここから、合成ガスには約30g/m
3の濃度でタールが含まれていることが分かる。曲線552はスクラビング後の合成ガス中に含まれるタール濃度であり、棒グラフはタール除去率、すなわち、合成ガスに含まれるタールのうち、スクラビングによって除去されたタールの割合を示す。曲線552と棒グラフから、スクラビング開始直後にはタールがほぼ全量除去されていることが分かる。しかしながらタール除去率は時間の経過とともに低下し、7時間後には約30%で飽和し、吸収剤302のタール除去能力はその後は大きく変化しないことが分かった。吸収剤302を再生しない場合、本条件下では、1Lの吸収剤302によって吸収可能なタールの量は16.6gに留まることが確認された。
【0057】
これに対し、吸収剤302を135分ごとに遠心分離によって精製、再生した場合の結果を
図10に示す。曲線562はスクラビング後の合成ガス中に含まれるタール濃度であり、棒グラフはタール除去率を示す。
図9と同様、曲線560に示すように、合成ガスには約30g/m
3の一定濃度でタールが含まれていることが分かる。スクラビング開始から100分後、タール除去率は76%まで低下した(棒グラフ参照)。しかしながら吸収剤302の再生を行うと、棒グラフと曲線562に示すように、タール除去率が96%まで回復することが分かった(図中矢印参照)。その後3回の再生を行ったが、いずれも再生後には初期のタール除去率(98%から93%)に匹敵するタール除去率を示すことが分かった。この一連の実験において、1Lの吸収剤302によって28.8gのタールが吸収されることが確認された。
【実施例2】
【0058】
本実施例では、濾過による吸収剤302の再生を評価した結果を述べる。評価方法は実施例1と同様であり、スクラビングされた合成ガスのタール濃度を135分モニターし、その後、吸収剤302を濾過してタールを除去し、吸収剤302を再生した。濾過は
図6に示した濾過装置450を用いた。ここで、カラム452(直径6.5cm)内には、上から順に、ポリエステルを含む第2の層456(厚さ7cm)とシリカゲルを含む第1の層454(厚さ3cm)をそれぞれ2層交互に積層した。引き続き、再生した吸収剤302を用いてスクラビングされた合成ガスのタール濃度を135分モニターした。以下、同様に吸収剤302の再生、スクラビングされた合成ガスのタール濃度の測定を繰り返した。結果を
図11に示す。
【0059】
曲線570に示すように、合成ガスには約30g/m
3の一定濃度でタールが含まれていることが分かる。また、
図9で示した結果と同様に、スクラビング開始100分後には、タール除去率は73%まで低下した(棒グラフ参照)。しかしながら吸収剤302の再生を行うと、棒グラフと曲線572に示すように、タール除去率が96%まで回復することが分かった(図中矢印参照)。その後3回の再生を行ったが、いずれも再生後には初期のタール除去率(96%から91%)に匹敵するタール除去率を示すことが分かった。この一連の実験において、1Lの吸収剤302によって26.8gのタールが吸収されることが確認された。
【0060】
実施例1、2のの結果から、吸収剤302に吸収されたタールが遠心分離、あるいは濾過によって除去可能なこと、タールを除去して再生された吸収剤302がほぼ完全に初期の吸収能力を回復することが確認された。したがって本発明の実施形態で開示するガス化システムでは、効率よく、かつ低コストで合成ガスからのタール除去が可能であると言える。
【実施例3】
【0061】
本実施例では、吸収剤として植物油を用い、合成ガスの吸収と再生に対する、軽質タール成分の除去性能を述べる。実験は、実施例1で示したシステムを用い、スクラビング前後の合成ガス中のベンゼン、トルエン、フェノール、インデン、ナフタレンの濃度をそれぞれモニターすることによって行った。これらの化合物の構造式を以下に示す。植物油としては実施例1、2と同様、キャノーラ油を用いた。再生処理は実施例1、2と同様、135分ごとに濾過、あるいは遠心分離をすることによって行った。
【0062】
【化1】
【0063】
再生方法として濾過を行った場合の結果を
図12、13に示す。これらの図では、精製する前の合成ガス、およびスクラビング後の合成ガス中の軽質タールの各成分の濃度の経時変化を示している。
【0064】
例えばベンゼンやトルエンのような、ベンゼン環を一つのみ有する芳香族炭化水素、あるいはフェノールのような極性基(水酸基)有する化合物の場合、
図12(A)乃至(C)に示すように、スクラビング初期には高いタール除去率を示すが、135分ごとの再生操作によっても除去率はほとんど回復せず、スクラビングを行う時間に伴って除去率が徐々に低下することが分かった。
【0065】
一方、インデンのような多環式炭化水素やナフタレンのような多環式芳香族化合物の場合、ベンゼン、トルエン、あるいはフェノールと比較して除去効率は高く、例えばナフタレンの場合、少なくとも二回目の再生前まではほぼ完全に除去可能であることが分かった。
【0066】
再生方法として遠心分離を行った場合の結果を
図14、15に示す。ベンゼン、トルエン、およびフェノールの場合、濾過による再生と同様、
図14(A)乃至(C)に示すように、スクラビング初期には高いタール除去率を示すが、135分ごとの再生操作によっても除去率はあまり回復せず、スクラビングを行う時間に伴って除去率が徐々に低下することが分かった。
【0067】
これに対し、インデンおよびナフタレンに対しては、遠心分離による再生効果が大きいことが分かった。例えば
図15(A)に示すように、スクラビング開始後から再生前の間、インデンの除去率の目立った低下は観測されず、また、各再生操作によってほぼ初期の除去率が回復した。ナフタレンの場合には、10時間の実験時間にわたり、ほぼ全量除去可能であることが分かった(
図15(B))。
【0068】
これらの結果は、軽質タール成分の中でも、比較的分子量の大きいタール成分に対しては、植物油によるタールの除去、および濾過や遠心分離による植物油の再生が効果的であることを示唆している。ベンゼンやトルエンなどの高揮発性物質は、発電装置などの設備に対して大きな負担を与えないが、ナフタレンやインデンのような常温で固体、あるいは高沸点の物質は、設備の閉塞を誘引しかねない。したがって、本発明の実施形態のガス化システムやガス化方法を適用することにより、合成ガスを燃焼させる各種設備に対する閉塞負荷を軽減することができ、設備寿命を延ばすことが可能となる。
【実施例4】
【0069】
本実施例では、スクラビングに対する微小気泡の効果に関して述べる。実験は、
図16に示す装置を用いて行った。具体的には、アクリル製のタンク304内にキャノーラ油を吸収剤302として充填した。ポンプ310を用いてタンク304内の吸収剤302を吸引して気泡発生装置308へ輸送し、再度タンク304へと循環させた。同時にバルブ318を介して空気を気泡発生装置308へ導入し、空気を微小気泡としてタンク304内のノズル306から吸収剤302中へ拡散させた。フローメーター312で吸収剤302の流速を測定し、圧力ゲージ314でポンプ310へかかる負荷を見積もった。実験では、注入口320の内径D1に対するスロート324の内径D2(R=D2/D1)が異なる三種類の気泡発生装置308を用いた(
図4(B)参照)。
【0070】
このような実験装置において発生させた微小気泡の写真を
図17に示す。
図17では、Rが0.17、0.47、0.67である気泡発生装置308を用いた場合の微小気泡の写真が示されている。スロート324における吸収剤302の流速、ならびに導入される空気の量にも依存するが、微小気泡は約200μmから300μmの平均直径(D
ave)を有することが確認された。
【0071】
ここで、
図16に示すように、タンク304の底面から10cmの高さに一つの辺が位置する8mm×11mmの領域を観察し、この面積(88mm
2)中に占められる微小気泡の面積から、微小気泡の平均直径を計算した。その結果、微小気泡の平均直径は、Rが0.17、0.47、0.67の時、それぞれ298μm、197μm、263μmとなることが分かった。
【0072】
本実施例での装置を用い、空気の代わりに合成ガスを導入し、タール除去率に対する、微小気泡の平均直径の依存性を評価した。結果を
図18に示す。
図18の比較例は、同一の条件下、気泡発生装置308を用いずに合成ガスを吸収剤302中でバブリングした場合の結果である。
図18から分かるように、気泡発生装置308を用い、合成ガスを微小気泡としてバブリングさせることでタール除去率が大きく向上することが確認された。また、微小気泡の平均直径が小さくなるほどタール除去率が増大し、平均直径が197μmの時にはタール除去率は97.7%まで達することが分かった。したがって本実施例で示すように、微小気泡の平均直径が小さくなるように各種条件を設定することで、高効率のタール除去を達成することが可能であると言える。
【0073】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0074】
上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。