アルミニウムキレートと、アリールシラン化合物と、多官能イソシアネート化合物とを混合して得られる液を乳化処理して乳化液を得た後、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させて、前記アルミニウムキレートと、前記アリールシラン化合物又はその加水分解物であるアリールシラノール化合物とを保持する多孔質粒子を得る多孔質粒子作製工程と、
前記多孔質粒子の表面を、脂環式エポキシ樹脂の硬化物で構成される被膜で被覆する被覆工程と、
を含むことを特徴する潜在性硬化剤の製造方法。
前記被覆工程が、前記脂環式エポキシ樹脂と有機溶剤とを含有する溶液に前記多孔質粒子を浸漬し、前記脂環式エポキシ樹脂を硬化させることにより行われる請求項4に記載の潜在性硬化剤の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(潜在性硬化剤)
本発明の潜在性硬化剤は、多孔質粒子と、被膜とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0010】
<多孔質粒子>
前記多孔質粒子は、少なくともポリウレア樹脂で構成され、更にビニル樹脂を構成成分に含んでいてもよい。
前記多孔質粒子は、アルミニウムキレートと、アリールシラノール化合物とを保持する。
前記多孔質粒子は、例えば、その細孔内に前記アルミニウムキレートと、前記アリールシラノール化合物とを保持する。言い換えれば、ポリウレア樹脂で構成された多孔質粒子マトリックス中に存在する微細な孔に、アルミニウムキレートとアリールシラノール化合物とが取り込まれて保持されている。
【0011】
<<ポリウレア樹脂>>
前記ポリウレア樹脂とは、その樹脂中にウレア結合を有する樹脂である。
前記多孔質粒子を構成する前記ポリウレア樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を乳化液中で重合させることにより得られる。その詳細は後述する。前記ポリウレア樹脂は、樹脂中に、イソシアネート基に由来する結合であって、ウレア結合以外の結合、例えば、ウレタン結合などを有していてもよい。
【0012】
<<ビニル樹脂>>
前記ビニル樹脂とは、ラジカル重合性ビニル化合物を重合して得られる樹脂である。
前記ビニル樹脂は、前記多孔性粒子の機械的性質を改善する。これにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の硬化時の熱応答性、特に低温領域でシャープな熱応答性を実現することができる。
【0013】
前記ビニル樹脂は、例えば、多官能イソシアネート化合物を含有する乳化液に、ラジカル重合性ビニル化合物も含有させておき、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させる際に、同時に前記ラジカル重合性ビニル化合物をラジカル重合させることにより得ることができる。
【0014】
<<アルミニウムキレート>>
前記アルミニウムキレートとしては、例えば、下記一般式(1)で表される、3つのβ−ケトエノラート陰イオンがアルミニウムに配位した錯体化合物が挙げられる。ここで、アルミニウムにはアルコキシ基は直接結合していない。直接結合していると加水分解し易く、乳化処理に適さないからである。
【0016】
前記一般式(1)中、R
1、R
2及びR
3は、それぞれ独立に、アルキル基又はアルコキシル基を表す。
前記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基などが挙げられる。
前記アルコキシル基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、オレイルオキシ基などが挙げられる。
【0017】
前記一般式(1)で表される錯体化合物としては、例えば、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(オレイルアセトアセテート)などが挙げられる。
【0018】
前記多孔質粒子における前記アルミニウムキレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0019】
<アリールシラノール化合物>
前記アリールシラノール化合物は、例えば、下記一般式(A)で表される。
【化3】
ただし、前記一般式(A)中、mは2又は3、好ましくは3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記一般式(A)で表されるアリールシラノール化合物は、モノオール体又はジオール体である。
【0020】
前記一般式(A)におけるArは、置換基を有していてもよいアリール基である。
前記アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基(例えば、1−ナフチル基、2−ナフチル基等)、アントラセニル基(例えば、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ベンズ[a]−9−アントラセニル基等)、フェナリル基(例えば、3−フェナリル基、9−フェナリル基等)、ピレニル基(例えば、1−ピレニル基等)、アズレニル基、フロオレニル基、ビフェニル基(例えば、2−ビフェニル基、3−ビフェニル基、4−ビフェニル基等)、チエニル基、フリル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピリジル基などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性、入手コストの観点からフェニル基が好ましい。m個のArは、いずれも同一でもよく異なっていてもよいが、入手容易性の点から同一であることが好ましい。
【0021】
これらのアリール基は、例えば、1〜3個の置換基を有することができる。
前記置換基としては、例えば、電子吸引基、電子供与基などが挙げられる。
前記電子吸引基としては、例えば、ハロゲン基(例えば、クロロ基、ブロモ基等)、トリフルオロメチル基、ニトロ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等)、ホルミル基などが挙げられる。
前記電子供与基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等)、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基等)、ヒドロキシ基、アミノ基、モノアルキルアミノ基(例えば、モノメチルアミノ基等)、ジアルキルアミノ基(例えば、ジメチルアミノ基等)などが挙げられる。
【0022】
置換基を有するフェニル基の具体例としては、例えば、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基などが挙げられる。
【0023】
なお、置換基として電子吸引基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を上げることができる。置換基として電子供与基を使用することにより、シラノール基の水酸基の酸度を下げることができる。そのため、置換基により、硬化活性のコントロールが可能となる。
ここで、m個のAr毎に、置換基が異なっていてもよいが、m個のArについて入手容易性の点から置換基は同一であることが好ましい。また、一部のArだけに置換基があり、他のArに置換基が無くてもよい。
【0024】
これらのなかでも、トリフェニルシラノール、ジフェニルシランジオールが好ましく、トリフェニルシラノールが特に好ましい。
【0025】
前記多孔質粒子における前記アリールシラノール化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
前記多孔質粒子の細孔の平均細孔直径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜300nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましい。
ここで、本明細書において「〜」を用いて規定される数値範囲は、下限値及び上限値を含む範囲である。即ち、「1nm〜300nm」は「1nm以上300nm以下」と同義である。
【0027】
<被膜>
前記被膜は、脂環式エポキシ樹脂の硬化物で構成される。
前記被膜は、前記多孔質粒子の表面に形成される。
前記被膜は、前記脂環式エポキシ樹脂を含有することが好ましい。即ち、前記被膜は、脂環式エポキシ樹脂を硬化して得られる硬化物で構成されることに加え、前記硬化の際の未反応物である前記脂環式エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0028】
前記多孔質粒子は、それ自身として低温硬化性の潜在性硬化剤として機能する。しかし、前記多孔質粒子を潜在性硬化剤として熱硬化型エポキシ樹脂組成物に用いた場合、前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の保存時に粘度上昇が生じやすい。特に、前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物のエポキシ樹脂として、カチオン重合性に優れる脂環式エポキシ樹脂を用いた場合には粘度上昇が顕著である。
一方、本発明の潜在性硬化剤は、脂環式エポキシ樹脂の硬化物で構成される前記被膜を、前記多孔質粒子の表面に有することにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物に用いた場合の前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物の保存時の粘度上昇を抑制することができる。なお、その場合でも、本発明の潜在性硬化剤は、低温硬化性に優れる。
【0029】
<<脂環式エポキシ樹脂>>
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、エポキシ−[エポキシ−オキサスピロC
8−15アルキル]−シクロC
5−12アルカン(例えば、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサン等)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボレート、エポキシC
5−12シクロアルキルC
1−3アルキル−エポキシC
5−12シクロアルカンカルボキシレート(例えば、4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4’,5’−エポキシシクロオクタンカルボキシレート等)、ビス(C
1−3アルキルエポキシ
C5−12シクロアルキル
C1−3アルキル)ジカルボキシレート(例えば、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等)などが挙げられる。
【0030】
なお、脂環式エポキシ樹脂としては、市販品として入手容易である点で、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔(株)ダイセル製、商品名:セロキサイド♯2021P;エポキシ当量 128〜140〕が好ましく用いられる。
【0031】
なお、上記例示中において、C
8−15、C
5−12、C
1−3との記載は、それぞれ、炭素数が8〜15、炭素数が5〜12、炭素数が1〜3、であることを意味し、化合物の構造の幅があることを示している。
【0032】
前記脂環式エポキシ樹脂の一例の構造式を、以下に示す。
【化4】
【0033】
前記脂環式エポキシ樹脂は、加水分解性基を有さないことが好ましい。前記加水分解性基としては、例えば、アルコキシシリル基などが挙げられる。
【0034】
前記潜在性硬化剤は、粒子状であることが好ましい。
前記潜在性硬化剤の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm〜20μmが好ましく、1μm〜10μmがより好ましく、1μm〜5μmが特に好ましい。
【0035】
(潜在性硬化剤の製造方法)
前記潜在性硬化剤の製造方法は、多孔質粒子作製工程と、被覆工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0036】
<多孔質粒子作製工程>
前記多孔質粒子作製工程は、乳化液作製処理と、重合処理とを少なくとも含み、好ましくは、追加充填処理を含み、更に必要に応じて、その他の処理を含む。
【0037】
<<乳化液作製処理>>
前記乳化液作製処理は、アルミニウムキレートと、アリールシラン化合物と、多官能イソシアネート化合物と、好ましくは有機溶剤とを混合して得られる液を乳化処理して乳化液を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホモジナイザーを用いて行うことができる。
前記多孔質粒子を構成する樹脂が、ポリウレア樹脂のみではなく、更にビニル樹脂を含む場合、前記液は、更に、ラジカル重合性ビニル化合物と、ラジカル重合開始剤とを含有する。
【0038】
前記アルミニウムキレートとしては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明における前記アルミニウムキレートが挙げられる。
【0039】
前記乳化液における油滴の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5μm〜100μmが好ましい。
【0040】
−アリールシラン化合物−
前記アリールシラン化合物は、例えば、下記一般式(B)で表される。
【化5】
ただし、前記一般式(B)中、mは2又は3、好ましくは3であり、但しmとnとの和は4である。Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、Rは、水素原子、メチル基又はエチル基であり、nが2の場合の二つのRは同一でも異なっていてもよい。
ここで、Rが水素原子である場合、前記一般式(B)のアリールシラン化合物は、前記アリールシラノール化合物であり、Rがメチル基又はエチル基である場合、前記一般式(B)のアリールシラン化合物は、乳化処理もしくは重合の際にOR基が加水分解を受けてOH基となり、結果的にアリールシラノール化合物となる。
【0041】
前記Arである置換されてもよいアリール基の具体例としては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明における前記Arである置換基を有していてもよいアリール基などが挙げられる。好ましい態様も同じである。
【0042】
前記アリールシラン化合物の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記アルミニウムキレート100質量部に対して、1質量部〜500質量部が好ましく、1質量部〜300質量部がより好ましい。
【0043】
−多官能イソシアネート化合物−
前記多官能イソシアネート化合物は、一分子中に2個以上のイソシアネート基、好ましくは3個のイソシアネート基を有する化合物である。このような3官能イソシアネート化合物の更に好ましい例としては、トリメチロールプロパン1モルにジイソシアネート化合物3モルを反応させた下記一般式(2)のTMPアダクト体、ジイソシアネート化合物3モルを自己縮合させた下記一般式(3)のイソシアヌレート体、ジイソシアネート化合物3モルのうちの2モルから得られるジイソシアネートウレアに残りの1モルのジイソシアネートが縮合した下記一般式(4)のビュウレット体が挙げられる。
【0045】
前記一般式(2)〜(4)中、置換基Rは、ジイソシアネート化合物のイソシアネート基を除いた部分である。このようなジイソシアネート化合物の具体例としては、トルエン2,4−ジイソシアネート、トルエン2,6−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサヒドロ−m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネートなどが挙げられる。
【0046】
前記アルミニウムキレートと前記多官能イソシアネート化合物との配合割合としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アルミニウムキレートの配合量が、少なすぎると、硬化させるべきエポキシ樹脂の硬化性が低下し、多すぎると、得られる潜在性硬化剤の潜在性が低下する。その点において、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、前記アルミニウムキレート10質量部〜500質量部が好ましく、10質量部〜300質量部がより好ましい。
【0047】
−有機溶剤−
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、揮発性有機溶剤が好ましい。
前記有機溶剤は、前記アルミニウムキレート、前記アリールシラン化合物、前記多官能イソシアネート化合物、前記多官能ラジカル重合性ビニル化合物、及び前記ラジカル重合開始剤のそれぞれの良溶媒(それぞれの溶解度が好ましくは0.1g/ml(有機溶剤)以上)であって、水に対しては実質的に溶解せず(水の溶解度が0.5g/ml(有機溶剤)以下)、大気圧下での沸点が100℃以下のものが好ましい。このような揮発性有機溶剤の具体例としては、アルコール類、酢酸エステル類、ケトン類などが挙げられる。中でも、高極性、低沸点、貧水溶性の点で酢酸エチルが好ましい。
【0048】
前記有機溶剤の使用量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0049】
−ラジカル重合性ビニル化合物−
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、分子内にラジカル重合性の炭素−炭素不飽和結合を有する化合物である。
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、いわゆる単官能ラジカル重合性化合物、多官能ラジカル重合性化合物を包含する。
前記ラジカル重合性ビニル化合物は、多官能ラジカル重合性化合物を含有することが好ましい。これは、多官能ラジカル重合性化合物を使用することにより、低温領域でシャープな熱応答性を実現することがより容易になるからである。この意味からも、前記ラジカル重合性ビニル化合物は、多官能ラジカル重合性化合物を30質量%以上含有することが好ましく、50質量%以上含有することがより好ましい。
【0050】
前記単官能ラジカル重合性化合物としては、例えば、単官能ビニル系化合物(例えば、スチレン、メチルスチレン等)、単官能(メタ)アクリレート系化合物(例えば、ブチルアクリレートなど)など挙げられる。
前記多官能ラジカル重合性化合物としては、例えば、多官能ビニル系化合物(例えば、ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニル等)、多官能(メタ)アクリレート系化合物(例えば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等)などが挙げられる。
これらの中でも、潜在性及び熱応答性の点から、多官能ビニル系化合物、特にジビニルベンゼンを好ましく使用することができる。
【0051】
なお、多官能ラジカル重合性化合物は、多官能ビニル系化合物と多官能(メタ)アクリレート系化合物とから構成されていてもよい。このように併用することにより、熱応答性を変化させたり、反応性官能基を導入できたりといった効果が得られる。
【0052】
前記ラジカル重合性ビニル化合物の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記多官能イソシアネート化合物100質量部に対して、1質量部〜80質量部が好ましく、10質量部〜60質量部がより好ましい。
【0053】
−ラジカル重合開始剤−
前記ラジカル重合開始剤としては、例えば、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤などが挙げられる。
【0054】
前記ラジカル重合開始剤の配合量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ラジカル重合性ビニル化合物100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.5質量部〜5質量部がより好ましい。
【0055】
<<重合処理>>
前記重合処理としては、前記乳化液中で前記多官能イソシアネート化合物を重合させて多孔質粒子を得る処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0056】
前記多孔質粒子は、前記アルミニウムキレートと、前記アリールシラン化合物又はその加水分解物であるアリールシラノール化合物とを保持する。
【0057】
前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基の一部が加水分解を受けてアミノ基となり、そのアミノ基と前記多官能イソシアネート化合物のイソシアネート基とが反応してウレア結合を生成して、ポリウレア樹脂が得られる。ここで、前記多官能イソシアネート化合物が、ウレタン結合を有する場合には、得られるポリウレア樹脂は、ウレタン結合も有しており、その点において生成されるポリウレア樹脂は、ポリウレアウレタン樹脂と称することもできる。
【0058】
また、前記乳化液が、前記ラジカル重合性ビニル化合物と、前記ラジカル重合開始剤とを含有する場合、前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物を重合させると同時に、前記ラジカル重合開始剤の存在下で前記ラジカル重合性ビニル化合物がラジカル重合を生じる。
そのため、得られる前記多孔性粒子は、構成する樹脂として、ポリウレア樹脂とビニル樹脂とを含有する。
【0059】
前記重合処理における重合時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1時間〜30時間が好ましく、2時間〜10時間がより好ましい。
前記重合処理における重合温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、30℃〜90℃が好ましく、50℃〜80℃がより好ましい。
【0060】
<<追加充填処理>>
前記追加充填処理としては、前記重合処理により得られた前記多孔質粒子にアルミニウムキレートを追加で充填する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウムキレートを有機溶剤に溶解して得られる溶液に、前記多孔質粒子を浸漬させた後に、前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0061】
前記追加充填処理を行うことにより、前記多孔質粒子に保持されるアルミニウムキレートの量が増加する。なお、アルミニウムキレートが追加充填された前記多孔質粒子は、必要に応じてろ別し洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0062】
前記追加充填処理において追加で充填されるアルミニウムキレートは、前記乳化液となる前記液に配合される前記アルミニウムキレートと同じであってもよいし、異なっていてもよい。例えば、前記追加充填処理においては水を使用しないため、前記追加充填処理に使用するアルミニウムキレートは、アルミニウムにアルコキシ基が結合したアルミニウムキレートであってもよい。そのようなアルミニウムキレートとしては、例えば、ジイソプロポキシアルミニウムモノオレイルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムビス(オレイルアセトアセテート)、モノイソプロポキシアルミニウムモノオレエートモノエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノラウリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノステアリルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムモノイソステアリルアセトアセテート、モノイソプロポキシアルミニウムモノ−N−ラウロイル−β−アラネートモノラウリルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0063】
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記乳化液作製処理の説明において例示した前記有機溶剤などが挙げられる。好ましい態様も同じである。
【0064】
前記溶液から前記有機溶剤を除去する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記溶液を前記有機溶剤の沸点以上に加熱する方法、前記溶液を減圧させる方法などが挙げられる。
【0065】
前記アルミニウムキレートを前記有機溶剤に溶解して得られる前記溶液における前記アルミニウムキレートの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10質量%〜80質量%が好ましく、10質量%〜50質量%がより好ましい。
【0066】
<被覆工程>
前記被覆工程としては、前記多孔質粒子の表面を、脂環式エポキシ樹脂の硬化物で構成される被膜で被覆する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記脂環式エポキシ樹脂と有機溶剤とを含有する溶液に前記多孔質粒子を浸漬し、前記脂環式エポキシ樹脂を硬化させることにより行われることが好ましい。
【0067】
前記被覆工程において、前記脂環式エポキシ樹脂の硬化においては、前記多孔質粒子が保持する前記アルミニウムキレート、及び前記アリールシラノール化合物が硬化助剤として働くと考えられる。
【0068】
なお、前記被覆工程においては、カチオン重合性に優れる脂環式エポキシ樹脂を用いることにより、緩やかな条件で被膜を形成できる。一方、前記脂環式エポキシ樹脂に代えて、非脂環式エポキシ樹脂(所謂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂など)を用いた場合には、被膜の作製に高温を要する。その場合、前記多孔質粒子の凝集、並びに前記多孔質粒子からの前記アルミニウムキレート、及び前記アリールシラノール化合物の流出などの弊害を生じやすい。
【0069】
<<脂環式エポキシ樹脂>>
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、本発明の前記潜在性硬化剤の説明において例示した前記脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0070】
<<有機溶剤>>
前記有機溶剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、非極性溶剤が好ましい。前記非極性溶剤としては、例えば、炭化水素系溶剤が挙げられる。前記炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサンなどが挙げられる。
【0071】
前記溶液における前記脂環式エポキシ樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、得られる潜在性硬化剤において、低温硬化性、及び熱硬化型エポキシ樹脂組成物の粘度上昇の抑制がより優れる点で、40質量%〜80質量%が好ましく、50質量%〜70質量%がより好ましく、55質量%〜65質量%が特に好ましい。
【0072】
前記被覆工程における前記溶液の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記多孔質粒子の凝集、並びに、前記多孔質粒子からの前記アルミニウムキレート及び前記アリールシラノール化合物の流出を防止する点で、20℃〜60℃が好ましく、20℃〜40℃がより好ましい。
前記被覆工程における浸漬の時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2時間〜48時間が好ましく、5時間〜30時間がより好ましい。
【0073】
前記被覆工程においては、前記溶液を撹拌することが好ましい。
【0074】
前記被覆工程を経て得られた前記潜在性硬化剤は、必要に応じてろ別し洗浄し乾燥した後、公知の解砕装置で一次粒子に解砕することができる。
【0075】
(熱硬化型エポキシ樹脂組成物)
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、本発明の前記潜在性硬化剤と、エポキシ樹脂とを少なくとも含有し、好ましくはアリールシラノール化合物を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0076】
<潜在性硬化剤>
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物が含有する潜在性硬化剤は、本発明の前記潜在性硬化剤である。
【0077】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記潜在性硬化剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、1質量部〜70質量部が好ましく、1質量部〜50質量部がより好ましい。前記含有量が、1質量部未満であると、硬化性が低下することがあり、70質量部を超えると、硬化物の樹脂特性(例えば、可とう性)が低下することがある。
【0078】
<エポキシ樹脂>
前記エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0079】
前記グリシジルエーテル型エポキシ樹脂としては、例えば、液状でも固体状でもよく、エポキシ当量が通常100〜4000程度であって、分子中に2以上のエポキシ基を有するものが好ましい。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、エステル型エポキシ樹脂等を挙げることができる。中でも、樹脂特性の点からビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。また、これらのエポキシ樹脂にはモノマーやオリゴマーも含まれる。
【0080】
前記脂環式エポキシ樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニルシクロペンタジエンジオキシド、ビニルシクロヘキセンモノ乃至ジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、エポキシ−[エポキシ−オキサスピロC
8−15アルキル]−シクロC
5−12アルカン(例えば、3,4−エポキシ−1−[8,9−エポキシ−2,4−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン−3−イル]−シクロヘキサン等)、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボレート、エポキシC
5−12シクロアルキルC
1−3アルキル−エポキシC
5−12シクロアルカンカルボキシレート(例えば、4,5−エポキシシクロオクチルメチル−4’,5’−エポキシシクロオクタンカルボキシレート等)、ビス(C
1−3アルキルエポキシ
C5−12シクロアルキル
C1−3アルキル)ジカルボキシレート(例えば、ビス(2−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート等)などが挙げられる。
【0081】
なお、脂環式エポキシ樹脂としては、市販品として入手容易である点で、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔(株)ダイセル製、商品名:セロキサイド♯2021P;エポキシ当量 128〜140〕が好ましく用いられる。
【0082】
なお、上記例示中において、C
8−15、C
5−12、C
1−3との記載は、それぞれ、炭素数が8〜15、炭素数が5〜12、炭素数が1〜3、であることを意味し、化合物の構造の幅があることを示している。
【0083】
前記脂環式エポキシ樹脂の一例の構造式を、以下に示す。
【化7】
【0084】
<アリールシラノール化合物>
前記アリールシラノール化合物としては、本発明の前記潜在性硬化剤の説明において例示した前記アリールシラノール化合物が挙げられる。好ましい態様も同様である。
【0085】
<その他の成分>
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アリールシラン化合物、オキセタン化合物、シランカップリング剤、充填剤、顔料、帯電防止剤などが挙げられる。
【0086】
<<オキセタン化合物>>
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物において、前記エポキシ樹脂に前記オキセタン化合物を併用することで、発熱ピークをシャープにすることができる。
前記オキセタン化合物としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、4,4’−ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシメチル]ビフェニル、1,4−ベンゼンジカルボン酸 ビス[(3−エチル−3−オキセタニル)]メチルエステル、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン、フェノールノボラックオキセタンなどが挙げられる。
【0087】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記オキセタン化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、10質量部〜100質量部が好ましく、20質量部〜70質量部がより好ましい。
【0088】
<<シランカップリング剤>>
前記シランカップリング剤は、特開2002−212537号公報の段落0007〜0010に記載されているように、アルミニウムキレート剤と共働して熱硬化性樹脂(例えば、熱硬化性エポキシ樹脂)のカチオン重合を開始させる機能を有する。従って、このような、シランカップリング剤を少量併用することにより、エポキシ樹脂の硬化を促進するという効果が得られる。このようなシランカップリング剤としては、分子中に1〜3の低級アルコキシ基を有するものであり、分子中に熱硬化性樹脂の官能基に対して反応性を有する基、例えば、ビニル基、スチリル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基等を有していてもよい。なお、アミノ基やメルカプト基を有するカップリング剤は、本発明の潜在性硬化剤がカチオン型硬化剤であるため、アミノ基やメルカプト基が発生カチオン種を実質的に捕捉しない場合に使用することができる。
【0089】
前記シランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−スチリルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0090】
前記熱硬化型エポキシ樹脂組成物における前記シランカップリング剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記潜在性硬化剤100質量部に対して、1質量部〜300質量部が好ましく、1質量部〜100質量部がより好ましい。
【0091】
本発明の熱硬化型エポキシ樹脂は、低温硬化性に優れることに加えて、保存時の粘度上昇を抑制できる。保存時の粘度上昇が抑制できるため、配合後の可使時間(ポットライフ)を長くできるとともに、使用時の粘度調整の負担を軽減できる。
【実施例】
【0092】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0093】
(実施例1)
<潜在性硬化剤の製造>
<<多孔質粒子作製工程>>
−水相の調製−
蒸留水800質量部と、界面活性剤(ニューレックスR−T、日本油脂(株))0.05質量部と、分散剤としてポリビニルアルコール(PVA−205、(株)クラレ)4質量部とを、温度計を備えた3リットルの界面重合容器に入れ、均一に混合し水相を調製した。
【0094】
−油相の調製−
次に、アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)の24質量%イソプロパノール溶液(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株))80質量部と、メチレンジフェニル−4,4’−ジイソシアネート(3モル)のトリメチロールプロパン(1モル)付加物(多官能イソシアネート化合物、D−109、三井化学(株))80質量部と、トリフェニルシラノール(TPS、東京化成工業(株))80質量部とを、酢酸エチル120質量部に溶解し、油相を調製した。
【0095】
−乳化−
調製した前記油相を、先に調製した前記水相に投入し、ホモジナイザー(10000rpm/5分:T−50、IKAジャパン(株))で混合、乳化し、乳化液を得た。
【0096】
−重合−
調製した前記乳化液を、70℃で6時間、200rpmで撹拌しながら重合を行った。反応終了後、重合反応液を室温まで放冷し、生成した重合樹脂粒子をろ過によりろ別し、蒸留水でろ過洗浄し、室温下で自然乾燥することにより、塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、解砕装置(A−Oジェットミル、(株)セイシン企業)を用いて一次粒子に解砕することにより、粒子状硬化剤を得た。
【0097】
−追加充填処理−
得られた粒子状硬化剤15質量部を、アルミニウムキレート系溶液〔アルミニウムキレート剤(アルミキレートD、川研ファインケミカル(株))12.5質量部と、別のアルミニウムキレート剤(ALCH−TR、川研ファインケミカル(秩))25質量部とを酢酸エチル62.5質量部に溶解させた溶液〕に投入し、80℃で9時間、酢酸エチルを揮散させながら200rpmの撹拌速度で撹拌した。撹拌終了後、ろ過処理し、シクロヘキサンで洗浄することにより塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、30℃で4時間真空乾燥した後、解砕装置(A−Oジェットミル、(株)セイシン企業)を用いて一次粒子に解砕することによりアルミニウムキレート剤が追加充填された粒子状硬化剤(多孔質粒子)11質量部を得た。なお、ろ液中の酢酸エチル量は、当初の90%が除去された量であった。
なお、本処理において、粒子状硬化剤の取得量が11質量部と投入量の15質量部より減少していた理由は、硬化剤中のトリフェニルシラノールが酢酸エチルに溶出してしまったためと考えられる。この結果、硬化剤中のトリフェニルシラノールが溶出してしまった部位(即ち、アルミニウムキレートを保持可能な部位)が増加し、そこへアルミニウムキレートが追加充填されるものと考えられる。
【0098】
<<被覆工程>>
前記多孔質粒子作製工程で得られた前記多孔質粒子25質量部を、溶液〔シクロヘキサン120質量部に、脂環式エポキシ樹脂(CEL2000、(株)ダイセル)180質量部が溶解した溶液〕300質量部中に投入し、30℃で20時間、200rpmで撹拌した。この撹拌中に、前記脂環式エポキシ樹脂は、前記多孔質粒子の表面で重合して硬化した。その結果、前記多孔質粒子の表面に前記脂環式エポキシ樹脂の硬化物で構成される被膜が形成された。
撹拌終了後、ろ過処理し、シクロヘキサンで洗浄することにより塊状の硬化剤を得た。この塊状の硬化剤を、30℃で4時間真空乾燥した後、解砕装置(A−Oジェットミル、(株)セイシン企業)を用いて一次粒子に解砕することにより、潜在性硬化剤を得た。
なお、実施例1で用いた前記溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、60質量%である。
【0099】
(実施例2)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例1の被覆工程において、脂環式エポキシ樹脂(CEL2000、(株)ダイセル)を、脂環式エポキシ樹脂(CEL3000、(株)ダイセル)に変更した以外は、実施例1と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
【0100】
(実施例3)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例1の被覆工程において、脂環式エポキシ樹脂(CEL2000、(株)ダイセル)を、脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル)に変更した以外は、実施例1と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
【0101】
(実施例4)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例3の被覆工程において、前記溶液を、シクロヘキサン180質量部に、脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル)120質量部が溶解した溶液に変えた以外は、実施例3と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
なお、実施例4で用いた前記溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、40質量%である。
【0102】
(実施例5)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例3の被覆工程において、前記溶液を、シクロヘキサン150質量部に、脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル)150質量部が溶解した溶液に変えた以外は、実施例3と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
なお、実施例5で用いた前記溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、50質量%である。
【0103】
(実施例6)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例3の被覆工程において、前記溶液を、シクロヘキサン90質量部に、脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル)210質量部が溶解した溶液に変えた以外は、実施例3と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
なお、実施例6で用いた前記溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、70質量%である。
【0104】
(実施例7)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例3の被覆工程において、前記溶液を、シクロヘキサン60質量部に、脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル)240質量部が溶解した溶液に変えた以外は、実施例3と同様にして、潜在性硬化剤を得た。
なお、実施例7で用いた前記溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、80質量%である。
【0105】
(比較例1)
<潜在性硬化剤の製造>
実施例1において多孔質粒子作製工程の追加充填処理を経て得られたアルミニウムキレートが追加充填された粒子状硬化剤(多孔質粒子)を、比較例1の潜在性硬化剤とした。
【0106】
(DSC測定)
実施例1〜7、及び比較例1で得られた潜在性硬化剤について、DSC測定を行った。
【0107】
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
以下の材料を均一に混合することにより、DSC測定用の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
−材料−
・ビスフェノールA型エポキシ樹脂(EP828、三菱化学(株)) 80質量部
・トリフェニルシラノール(東京化成工業(株)) 8質量部
・潜在性硬化剤 4質量部
【0108】
<測定方法>
以下の測定条件で、DSC測定を行った。実施例1〜3及び比較例1の結果を表1及び
図1に示す。実施例3〜7の結果を表2に示す。
−測定条件−
・測定装置:示差熱分析装置(DSC6200、(株)日立ハイテクサイエンス)
・評価量:5mg
・昇温速度10℃/1min
【0109】
【表1】
【0110】
脂環式エポキシ樹脂の構造は以下のとおりである。
【化8】
【0111】
実施例1〜3は、比較例1と比較して、発熱開始温度、発熱ピーク温度に変化はあるものの、優れた低温硬化性を示した。
脂環式エポキシ構造を分子中一つ持つCEL2000(実施例1)及びCEL3000(実施例2)の場合、処理後、DSC発熱ピーク温度は大幅に高温シフトした。
一方、二官能脂環式エポキシ化合物であるCEL2021P(実施例3)を用いた場合、DSC発熱ピーク温度は処理前よりも逆に低温化していることがわかる。
【0112】
【表2】
【0113】
被覆工程に用いる溶液における脂環式エポキシ樹脂の濃度を変化させても、低温硬化性の観点から見て、DSC測定結果(チャート)には大きな変化はなかった。即ち、実施例4〜7も実施例3と同様に、優れた低温硬化性を示した。その中でも、低温硬化性の指標である発熱開始温度と、発熱ピーク温度とのバランスの点で、被覆工程に用いる溶液における脂環式エポキシ樹脂の含有量(濃度)は、50質量%〜70質量%が優れていた。
【0114】
(保存時の粘度変化)
実施例3、実施例5〜7、比較例1の潜在性硬化剤を用いて熱硬化型エポキシ樹脂組成物を作製した際の粘度変化を測定した。エポキシ樹脂としては、高反応性の脂環式エポキシ樹脂を使用した。
【0115】
<熱硬化型エポキシ樹脂組成物の調製>
以下の材料を均一に混合することにより、粘度測定用の熱硬化型エポキシ樹脂組成物を得た。
−材料−
・脂環式エポキシ樹脂(CEL2021P、(株)ダイセル) 100質量部
・トリフェニルシラノール(東京化成工業(株)) 7質量部
・KBM403 0.5質量部
・潜在性硬化剤 2質量部
KBM−403:信越化学工業(株)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
【0116】
<測定方法>
以下の測定条件で、粘度測定を行った。結果を表3に示す。
−測定条件−
・測定装置:SV−10(振動式粘度計(株)エーアンド・デイ)
・エージング温度:室温(25℃)
・粘度測定温度:20℃
【0117】
【表3】
表3中、「H」は時間を表す。即ち、1Hは1時間を表す。そのため、例えば、「1H粘度」とは、1時間後の粘度を意味する。
【0118】
比較例1の潜在性硬化剤を用いた熱硬化型エポキシ樹脂組成物と比較して、実施例3、実施例5〜7の潜在性硬化剤を用いた熱硬化型エポキシ樹脂組成物は、カチオン重合性に優れる脂環式エポキシ樹脂をエポキシ樹脂として用いた場合でも、良好な室温保管液ライフを示した。
なお、より良好な液ライフを示したのは、被覆工程に用いる溶液における脂環式エポキシ樹脂の濃度が50質量%〜70質量%の場合であり、最も良好な液ライフを示したのは、濃度が60質量%の場合であった。これは、被膜による多孔質粒子の被覆性、及び未反応の脂環式エポキシ樹脂の量が関与していると考えられる。
【0119】
なお、上記は、CEL2021Pで被膜を作製した潜在性硬化剤についての評価であるが、他の脂環式エポキシ樹脂で被膜を作製した潜在性硬化剤についても、同様に粘度上昇の抑制の効果が期待できる。
【0120】
(GC/MS測定)
GC/MS測定を行い、潜在性硬化剤の被膜を分析した。
潜在性硬化剤10質量部と、THF(テトラヒドロフラン)90質量部とを混合して測定液を作製した。得られた測定液を用いて、潜在性硬化剤の被膜を、以下の装置で分析した。結果を表4に示す。
【0121】
−分析装置−
・HP6890N/5975(アジレント・テクノロジー(株))
【0122】
【表4】
【0123】
実施例3の潜在性硬化剤では、被膜に未反応の脂環式エポキシ樹脂が存在していることがわかる。
【0124】
(粒度分布及びSEM観察)
実施例3の潜在性硬化剤の粒度分布を、以下の装置を用いて測定した。結果を
図2及び表5に示す。
また、実施例3の潜在性硬化剤のSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った。結果を
図3A及び
図3Bに示す。
【0125】
−粒度分布の測定装置−
・レーザー式粒度分布測定装置:MT3300EXII(日機装(株))
【0126】
−SEM観察−
・JSM−6510A(日本電子(株))
【0127】
【表5】
表5中、CV値とは、データのばらつき度合いの指標であり、以下の式で計算される。
CV=標準偏差/平均値
【0128】
実施例3の潜在性硬化剤は、凝集や異形化をしておらず、良好な粒子が得られていることが確認できた。
粒子の機械的性質を改善する。これにより、熱硬化型エポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂の硬化時の熱応答性、特に低温領域でシャープな熱応答性を実現することができる。
また、前記乳化液が、前記ラジカル重合性ビニル化合物と、前記ラジカル重合開始剤とを含有する場合、前記重合処理においては、前記多官能イソシアネート化合物を重合させると同時に、前記ラジカル重合開始剤の存在下で前記ラジカル重合性ビニル化合物がラジカル重合を生じる。