【解決手段】水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットであって、前記水系着色インクが、水、自己分散性顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂が第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを含み、該水系コーティング液のpHが7.1〜10.0の範囲内にあることを特徴とするインクセットである。
前記水系コーティング液において、前記樹脂中に占める第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの割合が50質量%以上である、請求項1に記載のインクセット。
前記水系着色インク及び前記コーティング液中に含まれる水溶性溶剤は、グリコールエーテル、三〜五員環のラクトン化合物、アミド化合物及びアルカンジオールよりなる群から選択される少なくとも1種類を含む、請求項1に記載のインクセット。
請求項1〜3のいずれか1項に記載のインクセットを用いたインクジェットプリンタによってコーティング層と着色インク層とを備える印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、
前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に付着させることによりコーティング層を形成させる工程と、前記水系着色インクをプリントヘッドから吐出させて、インク液滴を前記コーティング層上に付着させることにより着色インク層を形成させる工程とを含む、印刷方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されるようなインクジェットインクセットを利用すると、インク中における多価沈殿剤の存在により、プリンタ等の印刷機器の金属部分(特にプリントヘッド)を腐食させる恐れがある。また、特許文献2に記載されるような凝集促進剤を用いた場合であっても、同様に、腐食を発生させる恐れがある。
【0007】
また、耐水性等の塗膜性能を確保する観点から、水系インクのバインダーとしては、樹脂が広く利用されており、通常、エマルションの形態でインク中に分散している。しかしながら、この分散樹脂粒子が、2液反応型水系インクセットを構成する着色インクと処理液の両者に含まれていると、印刷層の基材への定着性が十分に得られないという問題がある。この問題を解決するため、水溶性ポリマーを処理液に配合させる手法が提案されているものの、水溶性ポリマーを含む処理液は一般的に酸性のものが多いため、腐食を発生させる恐れがある。また、腐食防止剤やその他中和剤等の添加により処理液を中性や塩基性にすることも考えられるが、この場合、処理液に期待される凝集効果が十分に発揮されず、滲みを発生させることになる。
【0008】
なお、2液反応型水系インクセットにおいては、凝集のタイミングを制御することも重要である。例えば、処理液の凝集作用が強く、凝集の発生が早すぎると、印刷層の表面に凹凸が形成され、印刷層の光沢が低下する原因となる。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、印刷層の滲みの発生及び印刷機器の腐食の発生を抑えると共に、光沢を低下させずに定着性が良好な印刷層を形成させることが可能なインクセットを提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるインクセットを用いた印刷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、水系着色インクの顔料として自己分散性顔料を用い、また、水系コーティング液の樹脂として第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを用いることで、水系コーティング液のpHが塩基性領域であっても、所望の凝集効果を発揮できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明のインクセットは、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットであって、
前記水系着色インクが、水、自己分散性顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂が第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを含み、該水系コーティング液のpHが7.1〜10.0の範囲内にあることを特徴とする。
【0012】
本発明のインクセットの好適例においては、前記水系コーティング液において、前記樹脂中に占める第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの割合が50質量%以上である。
【0013】
本発明のインクセットの他の好適例において、前記水系着色インク及び前記コーティング液中に含まれる水溶性溶剤は、グリコールエーテル、三〜五員環のラクトン化合物、アミド化合物及びアルカンジオールよりなる群から選択される少なくとも1種類を含む。
【0014】
また、本発明の印刷方法は、上記のインクセットを用いたインクジェットプリンタによってコーティング層と着色インク層とを備える印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、前記水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に付着させることによりコーティング層を形成させる工程と、前記水系着色インクをプリントヘッドから吐出させて、インク液滴を前記コーティング層上に付着させることにより着色インク層を形成させる工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のインクセットによれば、印刷層の滲みの発生及び印刷機器の腐食の発生を抑えると共に、光沢を低下させずに定着性が良好な印刷層を形成させることが可能なインクセットを提供することができる。また、本発明の印刷方法によれば、かかるインクセットを用いた印刷方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明のインクセットを詳細に説明する。本発明のインクセットは、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットであって、前記水系着色インクが、水、自己分散性顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含み、前記水系コーティング液が、水、水溶性溶剤及び樹脂を含み、該水系コーティング液中に含まれる樹脂が第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを含み、該水系コーティング液のpHが7.1〜10.0の範囲内にあることを特徴とする。
【0017】
本発明のインクセットは、水系着色インクと水系コーティング液とを含むインクセットである。水系着色インクは、単独で使用されてもよいが、二色以上の水系着色インクを組み合わせることもできる。ここで、「二色以上の水系着色インク」とは、異なる色を発する2種類以上の水系着色インクを意味する。
【0018】
本発明のインクセットにおいて、水系着色インクは、水、自己分散性顔料、水溶性溶剤及び樹脂を含むインクであり、インクジェットインクであることが好ましい。なお、インクジェットインクとは、インクジェットプリンタ用のインク組成物である。また、本発明のインクセットにおいて、水系コーティング液は、基材を被覆し、着色インクを凝集させるための液であり、水、水溶性溶剤及び樹脂を含むものであり、インクジェットプリンタに使用可能なコーティング液であることが好ましい。なお、本発明においては、着色剤を0.1質量%を超える量で含む組成物を「インク」とし、着色剤を含まない又は着色剤を0.1質量%以下含む組成物を単に「液」として表現している。
【0019】
本発明のインクセットにおいて、水系コーティング液は、pHが7.1〜10.0の範囲内にある。このような塩基性領域に水系コーティング液のpHを設定することで、プリンタ等の印刷機器の金属部分(特にプリントヘッド)における腐食の発生を抑えることができる。一方、水系着色インクは、選択される顔料の種類等に応じてpHが変わるものの、同様の理由から、塩基性であることが好ましく、pHが7.1〜10.0の範囲内にあることが好ましい。なお、pHの調整には、pH調整剤を使用できるが、アミン化合物の使用が好ましく、沸点が70〜270℃であるアミン化合物の使用が更に好ましい。アミン化合物は、水系コーティング液や水系着色インク中のpHを適切に調整し、更には樹脂の凝集を防ぐ効果もある。またアミン化合物をインク又はコーティング液に配合することで、より一層腐食を起こり難くすることが可能である。更に、アミン化合物の沸点が70〜270℃の範囲であれば、蒸発し難く、アミン化合物が水系着色インク又は水系コーティング液中に長期にわたって留まることになり、水系着色インク又は水系コーティング液の吐出安定性が長期に亘って優れ、更に印刷層の光沢が高くなる傾向もある。沸点70〜270℃のアミン化合物の具体例としては、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン等が挙げられる。これらアミン化合物は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、上記水系着色インク及び水系コーティング液中において、アミン化合物の含有量は、それぞれ独立して、0.1〜2.0質量%が好ましい。
【0020】
上記水系コーティング液に用いる樹脂は、第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーを含む。上記水溶性ポリマーは、第四級アンモニウムカチオン(カチオン化された窒素原子)を有するため、pHが塩基性領域にある水系コーティング液中に存在していても、顔料を凝集する能力を発揮することができる。但し、上記水溶性ポリマーは、顔料を凝集させる能力が高いため、顔料の凝集の発生が著しく早く起こり、印刷層の光沢が低下する問題があるため、後述する自己分散性顔料との組み合わせが重要になる。これにより、印刷機器の腐食の発生を抑えつつ、印刷層の滲みの発生も抑えて、基材への定着性が良好な印刷層を形成できると共に、該印刷層の光沢の低下も防ぐことができる。
なお、本発明において、水溶性ポリマーとは、水、又は水溶性の有機溶剤を50質量%未満含む水溶液に対して溶解するポリマーを意味する。
【0021】
上記水系コーティング液中に含まれる樹脂に占める第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの割合は、凝集作用を適切に制御する点から、50質量%以上であることが好ましい。
【0022】
なお、上記水系コーティング液に使用できる他の樹脂としては、インク業界において通常使用されている、第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマー以外の水溶性樹脂を用いることができる。例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーは、市販品を使用することができ、塩基性でも安定に存在できる観点から、例えばカチオマスターPD-7、PD-30(以上四日市合成製)、ハーサイズCP-230、CP-910(以上ハリマ化成製)、DK6810、DK6851、DK6853(以上星光PMC製)という名で市販されているエピクロロヒドリンとアルキルアミンの反応物が挙げられる。
【0024】
上記水系着色インクに用いる樹脂は、特に限定されるものではなく、インク業界において通常使用されている樹脂を用いることができ、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、スチレンアクリル共重合樹脂、ポリエステル樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂等が挙げられる。これら樹脂は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記水系着色インク中において、樹脂の含有量は、1〜10質量%であることが好ましい。また、上記水系コーティング液中において、樹脂の含有量は、0.5〜15質量%であることが好ましい。
【0026】
上記水系着色インクは、自己分散性顔料を含む。自己分散性顔料とは、顔料分散剤を使用しなくても、インク中で分散状態を保つことができる顔料であり、通常、親水性に優れた官能基を表面に付与することで得られる。本発明者は、上述の第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーと自己分散性顔料の組み合わせであれば、凝集の発生が早すぎることで印刷層の表面に凹凸が形成されることを防ぐことができ、それにより印刷層の光沢の低下を防ぐことができることを見出した。
【0027】
本発明において、上記自己分散性顔料としては、カルボキシルイオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、水酸化物イオン等のアニオンが表面に直接結合している顔料が好ましい。このようなアニオン型の自己分散性顔料を用いることにより分散剤を添加せずに顔料をインク中で安定に分散させることができ、より鮮明な画像を印刷することができる。これらアニオン型の自己分散性顔料は市販品を好適に使用できる。
【0028】
上記自己分散性顔料に使用できる顔料は、特に限定されず、インク業界において着色剤として通常使用されている有機顔料、無機顔料等の顔料を用いることができる。顔料としては、例えば、ピグメントイエロー12、13、14、17、20、24、31、42、53、55、74、83、86、93、109、110、117、120、122、125、128、129、137、138、139、147、148、150、151、152、153、154、155、166、168、180、181、184、185、213;ピグメントオレンジ16、36、38、43、51、55、59、61、64、65、71;ピグメントレッド9、48、49、52、53、57、97、101、122、123、149、168、177、180、192、202、206、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、244、254;ピグメントバイオレット19、23、29、30、32、37、40、50;ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、22、27、28、29、30、60、64、80;ピグメントグリーン7、36;ピグメントブラウン23、25、26;及びピグメントブラック1、7、26、27、28、ピグメントホワイト6等が挙げられる。なお、これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
上記水系着色インク中において、自己分散性顔料の含有量は、使用する顔料の種類等により任意に決定できるが、水系着色インク中0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0030】
上記水系着色インク及び水系コーティング液に用いる水溶性溶剤は、特に限定されるものではなく、インク業界において通常使用されている水溶性溶剤を用いることができる。なお、上記水系着色インク及び水系コーティング液中において、上記水溶性溶剤の含有量は、それぞれ独立して、60質量%以下であることが好ましい。上記水溶性溶剤の含有量の下限は特に制限されないものの、通常、5質量%以上であることが好ましい。
【0031】
上記水溶性溶剤は、インク及びコーティング液の吐出安定性、濡れ性及び保存安定性をより良好にする観点から、グリコールエーテル、三〜五員環のラクトン化合物、アミド化合物及びアルカンジオールよりなる群から選択される少なくとも1種類を含むことが好ましい。
【0032】
グリコールエーテルの具体例としては、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールペンチルエーテル、エチレングリコールヘキシルエーテル、エチレングリコールシクロヘキシルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールペンチルエーテル、ジエチレングリコールヘキシルエーテル、ジエチレングリコールシクロヘキシルエーテル、ジエチレングリコールフェニルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールエチルエーテル、トリエチレングリコールプロピルエーテル、トリエチレングリコールブチルエーテル、トリエチレングリコールペンチルエーテル、トリエチレングリコールヘキシルエーテル、トリエチレングリコールシクロヘキシルエーテル、トリエチレングリコールフェニルエーテル、トリエチレングリコールベンジルエーテル及びトリエチレングリコールモノブチルエーテル等のエチレングリコールエーテル類、並びにプロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールペンチルエーテル、プロピレングリコールヘキシルエーテル、プロピレングリコールシクロヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルエーテル、ジプロピレングリコールプロピルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、ジプロピレングリコールペンチルエーテル、ジプロピレングリコールヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールシクロヘキシルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールエチルエーテル、トリプロピレングリコールプロピルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールペンチルエーテル、トリプロピレングリコールヘキシルエーテル及びトリプロピレングリコールシクロヘキシルエーテル等のプロピレングリコールエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールイソブチルエーテル、エチレングリコールターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールイソブチルエーテル及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0033】
三〜五員環のラクトン化合物は、−C(=O)−O−を一部に含むラクトン環を有する化合物のうち、環を構成する原子数が3である三員環、原子数が4である四員環又は原子数が5である五員環の化合物である。具体例としては、α−アセトラクトン、β−プロピオンラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、γ−ブチロラクトンが好ましい。
【0034】
アミド化合物は、非環状のアミド化合物が好ましく、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、スルファニルアミド、トルエンスルホンアミド、ベンゼンスルホンアミド、N−ジメチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−2−エチルヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−オクトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ペントキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘキソキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ヘプトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−オクトキシプロピオンアミド等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジメチル−β−ブトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−メトキシプロピオンアミド、N,N−ジエチル−β−ブトキシプロピオンアミドが好ましい。
【0035】
アルカンジオールは、2つの水素原子が2つの水酸基で置換されているアルカン化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘプタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール等が挙げられる。これらの中でも、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ヘキサンジオールが好ましい。
【0036】
上記水系着色インク及び水系コーティング液は、当然ながら水が含まれており、使用される水としては、イオン交換水や蒸留水等の純水、超純水等が挙げられる。また、インクやコーティング液を長期保存する場合には、カビやバクテリアの発生を防止するため、紫外線照射等により滅菌処理した水を用いてもよい。更に、インクジェットプリンタによる印刷条件に合わせてインクやコーティング液を水で希釈することも可能である。上記水系着色インク及び水系コーティング液中において、水の含有量は、例えば20〜80質量%の範囲であることが好ましい。
【0037】
上記水系着色インク及び水系コーティング液には、更に必要に応じて、表面調整剤、消泡剤、保湿剤、湿潤分散剤、防腐剤・防かび剤、溶解助剤、酸化防止剤、金属トラップ剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合してもよい。
【0038】
本発明のインクセットにおいて、上記水系着色インク及び水系コーティング液は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することにより調製できる。
【0039】
本発明のインクセットは、種々のインクジェットプリンタに使用できる。このようなインクジェットプリンタは、プリントヘッドを備えており、該プリントヘッドのノズルから、インクセットを構成するインク及びコーティング液を液滴状で吐出させる。
【0040】
次に、本発明のインクセットを用いた印刷方法を詳細に説明する。例えば、上述した本発明のインクセットを用いたインクジェットプリンタによってコーティング層と着色インク層とを備える印刷層を基材上に形成する印刷方法であって、水系コーティング液をプリントヘッドから吐出させて、コーティング液滴を基材上に定着させることによりコーティング層を形成させる工程と、水系着色インクをプリントヘッドから吐出させて、インク液滴をコーティング層上に定着させることにより着色インク層を形成させる工程とを含むことを特徴とするような印刷方法が挙げられる。かかる印刷方法によれば、上記水系コーティング液から得られるコーティング層上に、上記水系着色インクの液滴を着弾させるため、水系着色インクがコーティング層に接触する部分で該インク中の顔料の凝集が起こり、着色インク層での滲みの発生を抑えて、基材への定着性が良好な印刷層を、光沢を低下させることなく、形成させることができる。
【0041】
上記印刷方法において、基材は、特に限定されるものではなく、基材の用途に応じて、様々な形状の基材を選択することができるが、本発明のインクセットを用いれば、サインディスプレイ等の屋外用物品も好適に使用できる。なお、基材は、印刷層との付着性を向上させるため、プライマー等により一般的な表面処理がされていてもよい。
【0042】
上記印刷方法においては、コーティング層の乾燥を待たずに(即ち、コーティング層の乾燥を行わずに)水系着色インクのインク液滴を該コーティング層上に付着させることができる。このため、上記印刷方法においては、各層の乾燥工程を行わなくてもよい。なお、上記印刷方法において、印刷直後(即ち、水や水溶性溶剤が蒸発する前)のコーティング層及び着色インク層の厚みは、合計して、1〜20μmの範囲内にあることが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
<水系コーティング液>
表1に示す配合処方に従い、樹脂、アミン化合物、水溶性溶剤及びイオン交換水を公知の方法により混合し、水系コーティング液を調製した。なお、各水系コーティング液のpHについては、表4に示す。
【0045】
下記表1に記載される配合剤は、下記の通りである。
*1 第四級アンモニウムカチオンを有する水溶性ポリマーの水溶液Aとしては以下を用いた
DK6851(星光PMC製、樹脂固形分70質量%)
*2 第四級アンモニウムカチオンを有するポリマーの水分散液Bとしては以下を用いた
スーパーフレックス650(第一工業製薬製、樹脂固形分28質量%)
*3 スチレンアクリル共重合体の樹脂水溶液Cとしては以下を用いた
ジョンクリル63(BASF製、樹脂固形分30質量%)
【0046】
【表1】
【0047】
<ポリカーボネート基含有ウレタン樹脂の分散液Dの調製>
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素導入管を付した四つ口フラスコに、1,6−ヘキサンジオールポリカーボネートポリオール(平均分子量2000)100.0質量部、ネオペンチルグリコール4.0質量部、トリメチロールプロパン1.0質量部、1,4−シクロヘキサンジメタノール10.0質量部、ジメチロールプロピオン酸8.0質量部、ジブチル錫ジラウレート0.001質量部及びメチルエチルケトン110.0質量部を仕込み、均一に混合した。その後、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)80.0質量部を加え、70℃で6時間反応させて、ポリカーボネート基含有イソシアネート基末端ウレタン樹脂のメチルエチルケトン溶液を得た。前記溶液を40℃以下に冷却した後、トリエチルアミン6.0質量部を加え、40℃で30分間中和反応を行った。
【0048】
次に、中和を行なった溶液を30℃以下に冷却し、ディスパー羽根を用いて水430.0質量部を徐々に加えてポリカーボネート基含有イソシアネート基末端ウレタン樹脂中和物を分散させて分散液を得た。そして、ジエチレントリアミン1.35質量部を水20.0質量部に溶解したアミン水溶液を上記分散液に滴下し、更に、50質量%ヒドラジン水溶液5.0質量部を加え、2時間反応させた。その後、30℃で減圧し脱溶剤処理を行い、ポリカーボネート基含有ウレタン樹脂の分散液D(固形分35質量%、平均分子量40,000)を得た。
【0049】
<自己分散性顔料を含む水系着色インクの調製>
表2に示す配合処方に従い、自己分散性顔料水分散液、調製した樹脂分散液D、水溶性溶剤、pH調整剤、表面調整剤及びイオン交換水を公知の方法により混合し、水系着色インクを調製した。
【0050】
【表2】
【0051】
<非自己分散型顔料水分散液の調製>
表3に示す配合処方に従い、非自己分散型顔料、水溶性溶剤、消泡剤、湿潤分散剤、pH調整剤及びイオン交換水の混合物をジルコニアビーズを用いて、ペイントシェイカーで15時間処理して「非自己分散型顔料を含む水系着色分散液」を得た。
【0052】
<非自己分散型顔料を含む水系着色インクの調製>
得られた非自己分散型顔料を含む水系着色分散液に、調製した樹脂分散液Dならびに表面調整剤を加え、非自己分散型顔料を含む水系着色インクを得た。
【0053】
【表3】
【0054】
上記表2に記載される配合剤は、下記の通りである。
*4 自己分散性顔料分散液としては、以下を用いた。
・CAB−O―JET 450C
(キャボット社製、シアンの自己分散性顔料水分散液、顔料固形分10質量%)
・CAB−O―JET―265M
(キャボット社製、マゼンタの自己分散性顔料水分散液、顔料固形分15質量%)
・CAB−O―JET 270Y
(キャボット社製、イエローの自己分散性顔料水分散液、顔料固形分10質量%)
・CAB−O―JET 352K
(キャボット社製、ブラックの自己分散性顔料水分散液、顔料固形分20質量%)
*5 TSF4446(モメンティブ社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)
上記表3に記載される配合剤は以下の通りである。
*5 TSF4446(モメンティブ社製、ポリエーテル変性シリコーンオイル)
*6 非自己分散型顔料としては、以下を用いた。
・フタロシアニンブルー(FASTOGEN Blue FA5380(DIC製)、シアン)
・ジクロロキナクリドン(シンカシャマゼンタRT(BASF製)、マゼンタ)
・キノキサリンジオン(Hostaperm Yellow H5G(クラリアント社製)、イエロー)
・カーボンブラック(Nerox−1000(オリオンエンジニアリドカーボン製)、ブラック)
*7 SNデフォーマー1312(サンノプコ(株)社製)
*8 湿潤分散剤(ノイゲンEA−157、第一工業製薬製)
【0055】
水系着色インクと水系コーティング液を組み合わせてなるインクセットを用意し、各種評価を行った。なお、水系着色インクと水系コーティング液の組み合わせを表4に示す。
【0056】
<印刷時の滲み>
武藤工業社製ラミレスPJ−1304NXを用いて、まず、塩化ビニルシート表面にコーティング液を吐出させ、ベタ印刷を行い、コーティング層を形成させた。次いで、コーティング層を乾燥させずに、該コーティング層上に水系着色インクによりJIS X9201 2001 N3Aで規定される画像を印刷し、滲みの程度を目視で評価した。
○:滲みがない
×:滲んでいる
【0057】
<付着性>
武藤工業社製ラミレスPJ−1304NXを用いて、まず、塩化ビニルシート表面にコーティング液を吐出させ、ベタ印刷を行い、コーティング層を形成させた。次いで、コーティング層を乾燥させずに、該コーティング層上に水系着色インクを吐出させ、ベタ印刷を行った。印刷部分に幅24mmのセロテープ(登録商標、NICHIBAN社製)を密着させ、その後、テープを剥がし、剥離部分の状態を目視により下記の評価基準で評価した。
○:剥離しなかった
×:一部が剥離した
【0058】
<光沢>
武藤工業社製ラミレスPJ−1304NXを用いて、まず、白色ビニルシート表面にコーティング液を吐出させ、ベタ印刷を行い、コーティング層を形成させた。次いで、コーティング層を乾燥させずに、該コーティング層上に水系着色インクを吐出させ、ベタ印刷を行った。印刷部分の光沢値をBYK社製光沢計 micro−TRI−grossを用いて20°光沢値を測定した。
○:20°光沢値が20以上である。
×:20°光沢値が20未満である。
【0059】
<腐食性>
武藤工業社製ラミレスPJ−1304NXに用いられるプリントヘッドをコーティング液と着色インクそれぞれに1週間浸漬させ、液滴が吐出されるノズル近傍の変化を顕微鏡で観察したところ、コーティング液4において腐食が確認された(評価結果:×)。残りのコーティング液や着色インクで、腐食は発生しなかった(評価結果:○)。
【0060】
【表4】