【解決手段】実施形態の一態様に係るレーダ装置は抽出部と予測部と第1、第2設定部と再抽出部とを備える。抽出部は、所定周期で周波数が変化する送信信号と、送信信号に基づく送信波が物標で反射した反射波を受信した受信信号との差分周波数から、第1範囲で、送信信号の周波数が上昇する第1期間および周波数が下降する第2期間それぞれでピーク信号を抽出する。予測部は抽出部が抽出した前回のピーク信号に基づき今回のピーク信号を予測する。第1設定部は予測部の予測結果に基づき第1範囲を設定する。第2設定部は、第2期間の第1範囲でピーク信号を抽出した場合であって、第1期間の第1範囲でピーク信号が抽出できなかった場合に、第1範囲と異なる第2範囲を設定する。再抽出部は第2設定部が設定した第2範囲において第1期間のピーク信号を抽出する。
所定周期で周波数が変化する送信信号と、当該送信信号に基づく送信波が物標で反射した反射波を受信した受信信号との差分周波数から、第1範囲において、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間および前記周波数が下降する第2期間のそれぞれでピーク信号を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前回のピーク信号に基づいて今回のピーク信号を予測する予測部と、
前記予測部の予測結果に基づき前記第1範囲を設定する第1設定部と、
前記第2期間の前記第1範囲で前記ピーク信号を抽出した場合であって、前記第1期間の前記第1範囲で前記ピーク信号が抽出できなかった場合に、前記第1範囲と異なる第2範囲を設定する第2設定部と、
前記第2設定部が設定した前記第2範囲において前記第1期間の前記ピーク信号を抽出する再抽出部と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
所定周期で周波数が変化する送信信号と、当該送信信号に基づく送信波が物標で反射した反射波を受信した受信信号との差分周波数から、第1範囲において、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間および前記周波数が下降する第2期間のそれぞれでピーク信号を抽出する抽出工程と、
前記抽出工程で抽出した前回のピーク信号に基づいて今回のピーク信号を予測する予測工程と、
前記予測工程の予測結果に基づき前記第1範囲を設定する第1設定工程と、
前記第2期間の前記第1範囲で前記ピーク信号を抽出した場合であって、前記第1期間の前記第1範囲で前記ピーク信号が抽出できなかった場合に、前記第1範囲と異なる第2範囲を設定する第2設定工程と、
前記第2設定工程で設定した前記第2範囲において前記第1期間の前記ピーク信号を抽出する再抽出工程と、
を含むことを特徴とする信号処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および信号処理方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0012】
まず、
図1Aおよび
図1Bを用いて実施形態に係る信号処理方法について説明する。
図1Aおよび
図1Bは、実施形態に係る信号処理方法の概要を説明する図である。なお、かかる信号処理方法は、図示しない車両Cに搭載されるレーダ装置によって実行されるものとする。
【0013】
また、かかるレーダ装置は、いわゆるFM−CW(Frequency Modulated−Continuous Wave)方式をとっており、反射波に基づいて物標Tの情報を生成する。ここでは、物標Tが車両Cの前方を走行する先行車両である場合について説明するが、これに限定されるものではない。たとえば、物標Tは、自車Cの後方を走行する後方車両や自転車、歩行者などの移動体であってもよく、また、たとえば路側帯や信号機やポール、ガードレールなどの静止物であってもよい。
【0014】
ここで、従来のピーク信号の抽出方法について説明する。従来の抽出方法では、レーダ装置は、所定周期で周波数が変化する送信波を送信アンテナから送信し、物標Tによって当該送信波が反射した反射波を受信アンテナで受信する。
【0015】
次に、レーダ装置は、送信波に対応する送信信号と、反射波に対応する受信信号とをミキシングしてビート信号を生成する。具体的には、レーダ装置は、所定周期で周波数が上昇する第1期間(以下、UP区間と記載する)と、周波数が下降する第2期間(以下、DOWN区間と記載する)とのそれぞれの区間における送信信号と受信信号との差分周波数(ビート周波数)に基づくビート信号を生成する。
【0016】
レーダ装置は、ビート信号をFFT(Fast Fourier Transform)処理して周波数領域の信号(以下、周波数ビート信号と記載する)を生成し、当該周波数ビート信号からピーク信号を抽出する。レーダ装置は、所定条件に基づきUP区間のピーク信号とDOWN区間のピーク信号とをペアリングし、ペアデータを導出する。
【0017】
ここで、レーダ装置は、過去に導出したペアデータに基づいて今回のピーク信号を予測ピーク信号として予測し、当該予測ピーク信号を含む幅W1の第1範囲R1に含まれるピーク信号を抽出する。なお、以下では
図1Aに示すピーク信号S1を1つの物標のUP区間の履歴ピーク信号とし、ピーク信号S2を同一物標のDOWN区間の履歴ピーク信号として説明する。また、UP区間の第1範囲R1を第1範囲R1u、DOWN区間の第1範囲R1を第1範囲R1dとも記載する。
【0018】
このとき、たとえば先行車両が急ブレーキをかけて急減速すると、後述するFM−CW方式で物標を検出する原理により、
図1Aに示すように、DOWN区間のピーク信号S2は所定の周波数範囲R1d内となり抽出され、UP区間のピーク信号S1が第1範囲R1uから外れてしまい抽出されない。このように、従来の抽出方法ではUP区間のピーク信号S1が抽出できず、ペアデータを導出できない。
【0019】
そこで、本実施形態に係る信号処理方法では、
図1Aに示すように、DOWN区間の第1範囲R1d内でピーク信号S2が抽出されている場合で、UP区間の第1範囲R1u内でピーク信号S1が抽出されていないときに、UP区間の第1範囲R1uの範囲を第2範囲R2に広げてピーク信号S1を抽出する。このため、UP区間の第2範囲R2の幅W2は、第1範囲R1uの幅W1よりも広い幅となる(W1<W2)。
【0020】
レーダ装置は、抽出したUP区間のピーク信号S1とDOWN区間のピーク信号S2とをペアリングしてペアデータを導出する。また、レーダ装置は、導出したペアデータに基づき物標Tの情報を生成する。
【0021】
このように、本実施形態に係るレーダ装置は、第1範囲R1uでUP区間のピーク信号S1を抽出できなかった場合に、第1範囲R1uより広い第2範囲R2でUP区間のピーク信号S1を抽出する。これにより、たとえば物標Tである先行車両が急減速等を行った場合など、ピーク信号S1が第1範囲R1uから外れる場合であっても高精度にピーク信号S1を抽出することができる。以下、かかる信号処理方法を実行するレーダ装置についてさらに説明する。
【0022】
図2は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1を示す図である。レーダ装置1は、信号処理装置10と、送信部20と、受信部30とを備える。
【0023】
送信部20は、信号生成部21と、発振器22と、送信アンテナTxとを備える。信号生成部21は、三角波状に波形が変化する変調信号を生成し、発振器22へ供給する。
【0024】
発振器22は、信号生成部21で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調した送信信号を生成し、送信アンテナTxに出力する。送信アンテナTxは、発振器22から入力された送信信号を送信波として、たとえば自車Cの進行方向に向けて送信する。
【0025】
受信部30は、例えば4本の受信アンテナRx1〜Rx4(以下、まとめて受信アンテナRxとも記載する)と、各受信アンテナRxに接続された個別受信部31〜34とを備える。受信アンテナRxは、送信波が物標Tに反射した反射波を受信信号として受信する。
【0026】
個別受信部31〜34は、それぞれミキサ41〜44と、A/D変換部51〜54とを備え、受信アンテナRxを介して受信した受信信号に対して各種処理を行う。ミキサ41〜44は、受信信号と発振器22から入力される送信信号とをミキシングすることで、両信号の差分周波数を示すビート信号を生成する。A/D変換部51〜54は、ミキサ41〜44が生成したビート信号をデジタル信号に変換し、信号処理装置10に出力する。
【0027】
なお、ここでは個別受信部31〜34がミキサ41〜44と、A/D変換部51〜54とを備える場合について説明したがこれに限定されない。たとえば個別受信部31〜34が図示しない増幅器やフィルタを備えていてもよい。
【0028】
信号処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)および記憶部190などを備えたマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。信号処理装置10は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部110と、FFT処理部120と、ピーク抽出部130と、静止物判定部140と、方位角算出部150と、ペアリング部160と、再ペア処理部170と、予測部180と、第1設定部200とを備える。
【0029】
送信制御部110は、送信部20の信号生成部21が変調信号を生成するタイミング等を制御する。FFT処理部120は、個別受信部31〜34から出力されるビート信号に対してFFT処理を施すことで、ビート信号を周波数領域の周波数ビート信号に変換する。第1設定部200は、予測部180が予測した予測ピーク信号に応じて所定の周波数範囲である第1範囲R1u、R1dを設定する。
【0030】
ピーク抽出部130は、第1設定部200が設定した第1範囲R1u、R1dにおいて、UP区間のピーク信号およびDOWN区間のピーク信号を抽出する。具体的には、ピーク抽出部130は、たとえば周波数ビート信号のうち信号レベルの値が所定の閾値を超えるビート信号をピーク信号として抽出する。なお、以下、UP区間のピーク信号をUPピーク信号、DOWN区間のピーク信号をDNピーク信号と記載する。
【0031】
また、履歴ピーク信号は上述のように所定の周波数範囲である第1範囲R1u、R1d、および第2範囲R2の少なくともいずれかの範囲内で抽出されたピーク信号であり、前回処理のピーク信号と同一物標に属するピーク信号である。履歴ピーク信号のうち、UP区間の履歴ピーク信号を履歴UPピーク信号、DOWN区間の履歴ピーク信号を履歴DNピーク信号と記載する。
【0032】
ピーク抽出部130は、抽出したピーク信号のうち、UP区間の第1範囲R1uに含まれるUPピーク信号およびDOWN区間の第1範囲R1dに含まれるDNピーク信号をペアリング部160に出力する。また、ピーク抽出部130は、抽出した全てのピーク信号を静止物判定部140および方位角算出部150に出力する。
【0033】
静止物判定部140は、ピーク抽出部130が抽出したUPピーク信号とDNピーク信号との周波数差に応じて物標Tの相対速度を算出する。静止物判定部140は、自車両Cの車速の情報から、当該UPピーク信号およびDNピーク信号が静止物に対応するピーク信号(以下、静止物ピーク信号と記載する)であるか否かを判定する。静止物判定部140は、判定結果を再ペア処理部170に出力する。なお、静止物判定部140は、自車両Cの車速に関する情報を、自車両Cの図示しない車速センサから取得するものとする。
【0034】
方位角算出部150は、UP区間およびDOWN区間それぞれにおいて、ピーク信号に基づいて方位角を算出する。方位角算出部150は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)法を用いた演算を行うことで方位角を算出する。方位角算出部150は、算出した方位角を再ペア処理部170に出力する。
【0035】
ペアリング部160は、UPピーク信号とDNピーク信号とをペアリングするペアリング処理を行う。ペアリング部160は、ピーク抽出部130が抽出した履歴UPピーク信号と履歴DNピーク信号とに対してペアリング処理を行う。ペアリング部160は、ペアリングを行った履歴UPピーク信号および履歴DNピーク信号のペア(以下、ペアデータと記載する)を予測部180に出力する。また、ペアリング処理部160は、履歴DNピーク信号のうち、ペアリングが成立しなかった信号を再ペア処理部170に出力する。
【0036】
再ペア処理部170は、ペアリング処理部160でペアリングが成立しなかった履歴DNピーク信号が存在する場合に、再度UP区間のピーク信号を抽出し、ペアリング処理を行う。再ペア処理部170は、再抽出部171と第2設定部172と再ペアリング部173とを備える。
【0037】
まず、ここで再ペア処理部170がUP区間のピーク信号を再抽出する理由について説明する。まず、個別受信部31〜34で生成した周波数ビート信号fBは、物標Tとの距離に比例する距離周波数fRおよび物標Tとの間の相対速度に比例する速度周波数fVを用いて、fB=fR±fVで表される。
【0038】
したがって、UP区間のビート信号fupおよびDOWN区間のビート信号fdnは、それぞれfup=fR−fV、fdn=fR+fVで表される。
【0039】
ここで、自車両Cが先行車両と同程度の速度で走行していたときに先行車両がたとえば急ブレーキをかけるなどして急減速した場合についてFM−CW方式で物標を検出する処理の原理に基づいて考える。この場合、物標Tとの距離が大幅に減少し、相対速度が大幅に増加する。このとき、距離周波数fRがAだけ減少し、速度周波数fVがBだけ増加したものとする。
【0040】
この場合、急減速後のUP区間のビート信号fup2は、fup2=fR−A−(fV+B)=fR−fV−A−Bとなり、急減速前のビート信号fupより−A−Bだけ変化する。一方、急減速後のDOWN区間のビート信号fdn2は、fdn2=fR−A+(fV+B)=fR−fV−A+Bとなり、急減速前のビート信号fdnより−A+Bだけ変化する。このことから、たとえば先行車両が急減速した場合、UP区間のビート信号がより大きく変化することがわかる。同様に、たとえば自車両Cが急ブレーキをかけて急減速した場合や先行車両が急加速した場合なども、UP区間のビート信号がより大きく変化する。
【0041】
このように、先行車両が急加減速した場合、DOWN区間に比べてUP区間の方が、ビート信号が大きく変化する。このため、UPピーク信号はDNピーク信号に比べて変動しやすいが、第1範囲R1uから外れた場合でも第1範囲R1u外の第1範囲R1u近傍の周波数に存在する可能性が大きくなる。すなわち、ピーク抽出部130で履歴DNピーク信号が抽出できたとしても、履歴UPピーク信号が抽出されず、ペアリング部160でペアリングが成立しない履歴DNピーク信号が発生しやすくなる。そこで、実施形態に係るレーダ装置1は、履歴DOWNピーク信号が抽出されている場合で、履歴UPピーク信号が抽出されていないときに、UP区間の第1範囲R1uの範囲を広げて第2範囲R2とする。
【0042】
すなわち、先行車両が急加減速することで、DOWN区間では履歴DOWNピーク信号が抽出され、UP区間では履歴UPピーク信号が抽出されない状況が発生する。その場合、第1範囲R1u外で第1範囲R1u近傍の周波数に履歴UPピーク信号が存在する。そのため、第1範囲R1uの範囲を広げて第2範囲R2とすることで、履歴UPピーク信号を精度よく抽出できる。言い換えると、本来の履歴UPピーク信号とは異なるピーク信号を誤って抽出することを防止できる。このように、本実施形態に係る再ペア処理部170では、UP区間のピーク信号を再抽出することで、ペアリングが成立しなかった履歴DNピーク信号のペアリングを再度行うようにする。
【0043】
なお、UPピーク信号が第1範囲R1uから外れる場合は、上述した先行車両が急加減速する場合に限られない。たとえば、ビート信号の信号レベルが低下することで、第1範囲R1uからUPピーク信号が外れる場合もある。かかる場合について、
図3A〜
図3Cを用いて説明する。
図3A〜
図3Cは、ピーク抽出部130が行うUPピーク信号の抽出処理を説明する図である。
【0044】
図3Aに示すように、ピーク抽出部130は、周波数ビート信号の信号レベルと所定の閾値Th1とを比較し、予測ピーク信号Pb1を含む第1範囲R1uにおいて履歴UPピーク信号を抽出する。また、予測部180は、ピーク抽出部130が抽出した履歴UPピーク信号に基づいて次回の予測ピーク信号Pb2を予測する。
【0045】
しかしながら、
図3Bに示すように、たとえば雑音の影響等でUPピーク信号の信号レベルが所定の閾値Th1以下となった場合、ピーク抽出部130は履歴UPピーク信号を抽出できなくなる。かかる場合、レーダ装置1は、予測ピーク信号Pb2を用いて物標Tの情報を導出することで、物標Tの導出結果の連続性を確保する処理、いわゆる外挿処理を行う。この場合、予測部180は、予測ピーク信号Pb2を用いて次回の予測ピーク信号Pb3の予測を行う。
【0046】
このように、予測部180が予測ピーク信号Pb2に基づいて次回の予測ピーク信号Pb3の予測を行うと、実際の履歴UPピーク信号を用いた予測より精度が低下する。そのため、
図3Cに示すように、履歴UPピーク信号P1が予測ピーク信号Pb3を含む第1範囲R1uから外れてしまうことがある。
【0047】
このように、先行車両の急加減速によってピーク位置がずれるだけでなく、たとえばピークレベルが低いためにピーク抽出が行えず外挿処理を行うことで、履歴UPピーク信号が第1範囲R1uから外れる場合がる。この場合も再ペア処理部170は、UP区間のピーク信号を再抽出することで、ペアリングが成立しなかった履歴DNピーク信号のペアリングを再度行う。
【0048】
図2に戻る。再ペア処理部170の再抽出部171は、第2設定部172が設定した第2範囲R2においてUP区間のピーク信号を抽出する。再抽出部171は、たとえば第2範囲R2において所定の閾値を超えるビート信号をUPピーク信号(以下、再抽出UPピーク信号と記載する)として抽出する。あるいは、ピーク抽出部130が抽出したUPピーク信号のうち第2範囲R2に含まれる信号を再抽出UPピーク信号としてもよい。再抽出部171は、再抽出UPピーク信号を再ペアリング部173に出力する。
【0049】
第2設定部172は、履歴DNピーク信号は抽出できたものの履歴UPピーク信号が抽出できず、履歴DNピーク信号のペアリングが成立しなかった場合に、第1範囲R1uより広い第2範囲R2を設定する。第2設定部172は、設定した第2範囲R2を再抽出部171に出力する。
【0050】
たとえば第1範囲R1uが予測ピーク信号の周波数を中心にした6BIN(低周波側および高周波側にそれぞれ3BINずつ)の範囲であるものとする。この場合、第2設定部172は、たとえば予測ピーク信号の周波数を中心にした12BIN(低周波側および高周波側にそれぞれ6BINずつ)の範囲に拡張した第2範囲R2を設定する。なお、1BINは、約468Hzである。
【0051】
これにより、ピーク抽出部130で抽出できなかったUPピーク信号を再抽出部171で抽出できるようになり、ピーク抽出の精度を向上させることができる。
【0052】
なお、第2設定部172が設定する第2範囲R2は、これに限定されない。たとえば、第2設定部172が、自車両Cと物標Tとの相対速度の変化に応じて第2範囲R2を設定するようにしてもよい。たとえば物標Tが急減速し、自車両Cとの相対速度が増加した場合、自車両Cと物標Tとの距離が短くなり履歴UPピーク信号が低周波側に移動する。そこで、第2設定部172は、相対速度が増加した場合に低周波側の幅が高周波側の幅より大きい第2範囲R2を設定する。具体的には、第2設定部172は、たとえば予測ピーク信号の周波数に対して低周波側の幅が5BIN、高周波側の幅が1BINの範囲の第2範囲R2を設定する。
【0053】
すなわち、第2範囲R2の幅は、第1範囲R1uの範囲の幅W1と同じ幅(6BINの幅)であるが、第1範囲R1uでは予測ピーク信号の周波数を中心として低周波側および高周波側にそれぞれ均等(3BINずつ)に広がるのに対して、第2範囲R2では上述のように予測ピーク信号の周波数を中心として、高周波側の広がりよりも低周波側の広がりを大きくすることとした。
【0054】
これにより、UP区間の第1範囲R1uの範囲内でピーク信号が抽出されない場合であっても、第1範囲R1u外で第1範囲R1u近傍の周波数に存在する履歴UPピーク信号を精度よく抽出できる。また、範囲全体の幅は変えることなく、物標の動作状況(距離・相対速度の状況)に応じて、変更前の第1範囲R1uの範囲と比べて、低周波側および高周波側のいずれか一方を広い範囲として他方を狭くすることで、本来履歴UPピーク信号とは異なるピーク信号を誤って抽出することを確実に防止できる。
【0055】
あるいは、第2設定部172は、相対速度が減少した場合に低周波側の幅が高周波側の幅より小さい第2範囲R2を設定する。具体的には、第2設定部172は、たとえば予測ピーク信号の周波数に対して低周波側の幅が1BIN、高周波側の幅が5BINの範囲の第2範囲R2を設定する。
【0056】
なお、ここでは、第2設定部172が、相対速度に応じて第2範囲R2を設定する場合に、第1範囲R1の幅と同じ第2範囲R2を設定するとしたが、これに限定されない。たとえば、相対速度が所定値よりも大きい場合に、第2設定部172が、第1範囲R1uより広い第2範囲R2を設定するようにしてもよい。
【0057】
再ペアリング部173は、再抽出部171で抽出した再抽出UPピーク信号と、ピーク抽出部130で抽出した履歴DNピーク信号とをペアリングする。再ペアリング部173は、たとえば再抽出UPピーク信号がペアリング部160ですでにペアリングされているか否かを第1条件としてペアリングを行う。再ペアリング部173は、たとえば再抽出UPピーク信号がペアリング部160ですでにペアリングされており、対応する履歴DNピーク信号が存在する場合、再ペアリングを行わない。
【0058】
また、再ペアリング部173は、たとえば第2範囲R2におけるUPピーク信号が静止物に対応するか否かを第2条件としてペアリングを行う。再ペアリング部173は、第2範囲R2におけるUPピーク信号が静止物に対応する場合、すなわち再抽出部171で抽出した再抽出UPピーク信号が静止物に対応する場合に、当該再抽出UPピーク信号と履歴DNピーク信号との再ペアリングを行わない。
【0059】
また、再ペアリング部173は、たとえば再抽出UPピーク信号に対応する物標T1と履歴DNピーク信号に対応する物標T2との車両Cの左右方向における差が所定値以下であるか否かを第3条件としてペアリングを行う。再ペアリング部173は、再抽出UPピーク信号に対応する物標T1と履歴DNピーク信号に対応する物標T2との車両Cの左右方向における差が所定値以下の場合にペアリングを行う。
【0060】
たとえば所定値は、たとえば車両の幅に相当する1.8mであるものとする。物標T1と物標T2とが車両の幅以上に離れている場合、物標T1と物標T2は、たとえば先行車両とその隣車線を走行する車両のように異なる物標である可能性が高い。そこで、再ペアリング部173は、車両Cの左右方向における差が所定値より大きい場合は再ペアリングを行わないことで、隣接車両と先行車両とを誤ってペアリングしないようにする。
【0061】
図4に示すように、物標T1と物標T2の左右方向における差は、再抽出UPピーク信号の方位角および履歴DNピーク信号の方位角によって算出できる。したがって、再ペアリング部173は、かかる方位角に応じて再抽出UPピーク信号と履歴DNピーク信号とのペアリングを行う。具体的に、たとえば再抽出UPピーク信号の方位角がθ1、履歴DNピーク信号の方位角が−θ2であり、自車両Cから物標T1までの距離がL1、物標T2までの距離がL2であった場合を考える。この場合、再ペアリング部173は、差L=L1sinθ1+L2sinθ2を算出し、算出した差Lが所定値以下の場合にペアリングを行う。
【0062】
このように、再ペアリング部173が上述した第1〜第3条件を満たす場合に再ペアリングを行うことで、異なる物標に対応するピーク信号同士を誤ってペアリングするミスペアを抑制することができる。再抽出部171では、たとえば第1範囲R1uより広い第2範囲R2を用いて再抽出UPピーク信号を抽出しているため、たとえば異なる物標に対応するピーク信号等を誤検出しやすくなる。そこで、再ペアリング部173では、条件を設けて再ペアリングを行うことで、ミスペアを抑制する。これにより、レーダ装置1のペアリング精度を向上させることができ、物標Tの検出精度を向上させることができる。なお、
図4は、物標T1、T2と方位角θ1、θ2との対応関係を説明する図である。
【0063】
図2に戻る。予測部180は、前回の履歴ピーク信号に基づいて今回の履歴ピーク信号を予測する。具体的には、予測部180は、ペアリング部160がペアリングした履歴UPピーク信号および履歴DNピーク信号に基づいて予測ピーク信号を生成する。また、予測部180は、再ペアリング部173が再ペアリングした再抽出UPピーク信号および履歴DNピーク信号に基づいて予測ピーク信号を生成する。予測部180は、予測ピーク信号を第1設定部200に出力する。
【0064】
記憶部190は、たとえば第1、第2範囲R1u、R1d、R2など、信号処理装置10の各部の処理で用いる情報を記憶するとともに、各部の処理結果を記憶する。記憶部190は、たとえばEPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)やフラッシュメモリ等である。
【0065】
次に、
図5を用いて第2範囲R2を用いて再ペアリングを行った場合と行わなかった場合の物標Tの検出結果について説明する。
図5は、本実施形態に係るレーダ装置1の効果を説明する図である。なお、ここでは自車両Cが走行車両と同じ速度で当該先行車両を追従している場合について説明する。
【0066】
図5に示すグラフの左縦軸は自車両Cから先行車両である物標までの距離を示しており、右縦軸は先行車両の車速の変化を示している。すなわち、先行車両と自車両Cとが速度Vで走行している場合に、先行車両の速度がV+ΔVに変化した場合の速度変化ΔVを縦軸に示している。したがって、ΔVが大きくなるほど相対速度は小さくなる。また横軸は時間を示している。
【0067】
図5の白色の菱形は、再ペアリングを行わなかった場合にレーダ装置1が検出する先行車両との距離を示している。また、白色の四角は、再ペアリングを行わなかった場合にレーダ装置1が検出する速度変化ΔVを示している。黒色の菱形は、再ペアリングを行った場合にレーダ装置1が検出する先行車両との距離を示している。また、黒色の四角は、再ペアリングを行った場合にレーダ装置1が検出する速度変化ΔVを示している。
【0068】
図5の白色の四角で示すように、再ペアリングを行わない場合、時刻t1で先行車両が減速し速度変化ΔVが低下しているが、時刻t2以降は速度変化ΔVがほぼ一定のまま変化せず、時刻t3で速度変化ΔVが検出できなくなっている。また、白色の菱形で示すように、先行車両との距離は、わずかに短くなっているがほぼ一定のまま時刻t3以降検出できなくなっている。このようにレーダ装置1が再ペアリングを行わないと、先行車両が急加減速した場合の変化に対応できず、先行車両を見失ってしまう。
【0069】
一方、再ペアリングを行う場合、黒色の四角で示すように、時刻t1で先行車速が低下しても、レーダ装置1は時刻t2以降に低下する速度変化ΔVを検出することができ、時刻t3以降も連続して速度変化ΔVを検出することができる。また、先行車両との距離も時刻t3以降連続して検出することができる。
【0070】
このように、本実施形態に係るレーダ装置1によれば、再ペアリングを行うことで、たとえば先行車両が減速する等して履歴UPピーク信号を抽出できない場合であっても、区間Sに示すように、先行車両を見失うことなく距離および速度を検出することができる。また、履歴UPピーク信号を抽出できない場合に外挿処理を行うため、
図5に示すように、再ペアリングを行わないと先行車両を見失っていない時刻t2から時刻t3の間であっても、先行車両の距離および速度を正確に検出することができない。一方、レーダ装置1は、再ペアリングを行うことで、時刻t2から時刻t3の間も先行車両の距離および速度をより正確に検出することができる。
【0071】
次に、
図6を用いて、実施形態に係るレーダ装置1が実行する信号処理の処理手順について説明する。
図6は、実施形態に係るレーダ装置1が実行する信号処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0072】
図6に示すように、レーダ装置1は、送信信号と受信アンテナRxを介して受信した受信信号との差信号であるビート信号に対してFFT処理を行う(ステップS101)。次に、レーダ装置1は、FFT処理後のビート信号からピーク信号を抽出する(ステップS102)。
【0073】
レーダ装置1は、抽出したピーク信号のうち履歴UPピーク信号と履歴DNピーク信号とのペアリングを行う(ステップS103)。レーダ装置1は、ステップS103でペアリングが成立したか否かを判定する(ステップS104)。ペアリングが成立している場合(ステップS104;Yes)、ステップS108に進む。
【0074】
一方、履歴DNピーク信号は抽出したが履歴UPピーク信号が抽出できず、ペアリングが成立しなかった場合(ステップS104;No)、レーダ装置1は、ピーク信号を再抽出する範囲として第2範囲R2を設定する(ステップS105)。レーダ装置1は、設定した第2範囲R2においてUPピーク信号を再抽出する(ステップS106)。
【0075】
レーダ装置1は、ステップS106で再抽出した再抽出UPピーク信号と履歴DNピーク信号との再ペアリングを行う(ステップS107)。レーダ装置1は、ペアリング結果に応じて次回の予測ピーク信号を生成し(ステップS108)、処理を終了する。
【0076】
上述してきたように、実施形態に係るレーダ装置1は、第1範囲R1uで履歴UPピーク信号が抽出できなかった場合に、第1範囲R1uとは異なる第2範囲R2で再抽出UPピーク信号を抽出する。レーダ装置1は、再抽出UPピーク信号と履歴DNピーク信号との再ペアリングを行う。これにより、レーダ装置1は、ピーク信号を高精度に抽出することができる。
【0077】
以上のように、本実施形態に係るレーダ装置1は、ピーク抽出部(抽出部)130と、予測部180と、第1設定部200と、第2設定部172と、再抽出部171と、を備える。ピーク抽出部(抽出部)130は、所定周期で周波数が変化する送信信号と、当該送信信号に基づく送信波が物標Tで反射した反射波を受信した受信信号との差分周波数から、第1範囲R1u、R1dにおいて、送信信号の周波数が上昇する第1期間(UP区間)および周波数が下降する第2期間(DOWN区間)のそれぞれでピーク信号を抽出する。予測部180は、ピーク抽出部130が抽出した前回のピーク信号に基づいて今回のピーク信号を予測する。第1設定部200は、予測部180の予測結果に基づき第1範囲R1u、R1dを設定する。第2設定部172は、第2期間の第1範囲R1dでピーク信号を抽出した場合であって、第1期間の第1範囲R1uでピーク信号が抽出できなかった場合に、第1範囲R1uと異なる第2範囲R2を設定する。再抽出部171は、第2設定部172が設定した第2範囲R2において第1期間のピーク信号を抽出する。
【0078】
これにより、レーダ装置1は、たとえば物標Tである先行車両が急減速等を行った場合など、ピーク信号が第1範囲R1uから外れる場合であっても高精度に履歴ピーク信号を抽出することができる。
【0079】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の第2設定部172は、第1範囲R1uより広い第2範囲R2を設定する。
【0080】
これにより、レーダ装置1は、第1範囲R1uでは抽出できなかった履歴ピーク信号を抽出できるようになり、高精度に履歴ピーク信号を抽出することができる。
【0081】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の第2設定部172は、相対速度の変化に応じて第2範囲R2を設定する。
【0082】
これにより、レーダ装置1は、相対速度に応じて、第1範囲R1uでは抽出できなかった履歴ピーク信号を抽出できるようになり、高精度に履歴ピーク信号を抽出することができる。
【0083】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の第2設定部172は、相対速度が増加した場合に、予測部180が予測した今回のピーク信号に対して、低周波側の幅が高周波側の幅より大きい第2範囲R2を設定する。
【0084】
これにより、レーダ装置1は、相対速度に応じて、第1範囲R1uでは抽出できなかった履歴ピーク信号を抽出できるようになり、効率的に履歴ピーク信号を抽出することができる。
【0085】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の第2設定部172は、相対速度が減少した場合に、予測部180が予測した今回のピーク信号に対して、高周波側の幅が低周波側の幅より大きい第2範囲R2を設定する。
【0086】
これにより、レーダ装置1は、相対速度に応じて、第1範囲R1uでは抽出できなかった履歴ピーク信号を抽出できるようになり、効率的に履歴ピーク信号を抽出することができる。
【0087】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1は、第2期間のピーク信号とピーク抽出部130で抽出した第1期間のピーク信号とをペアリングするペアリング部160と、第2期間のピーク信号と再抽出部171で抽出した第1期間のピーク信号とをペアリングする再ペアリング部173と、をさらに備える。
【0088】
これにより、レーダ装置1は、再抽出したピーク信号のペアリングを行うことができ、ペアリング精度を向上させることができるとともに、物標Tの情報を生成する精度を向上させることができる。
【0089】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の再ペアリング部173は、ピーク抽出部130が第2期間の第1範囲R1においてピーク信号を抽出した場合に、当該ピーク信号と再抽出部171で抽出した第1期間のピーク信号とをペアリングする。
【0090】
これにより、レーダ装置1は、再ペアリング時のミスペアを抑制することができ、ペアリング精度を向上させることができる。
【0091】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の再ペアリング部173は、再抽出部171で抽出した第1期間のピーク信号が静止物でない場合、当該ピーク信号と第2期間のピーク信号とのペアリングを行う。
【0092】
これにより、レーダ装置1は、再ペアリング時のミスペアを抑制することができ、ペアリング精度を向上させることができる。
【0093】
また、上記実施形態に係るレーダ装置1の再ペアリング部173は、再抽出部171で抽出した第1期間のピーク信号に対応する方位角と、抽出部130が抽出した第2期間のピーク信号に対応する方位角とに応じて、ペアリングを行う。
【0094】
これにより、レーダ装置1は、再ペアリング時のミスペアを抑制することができ、ペアリング精度を向上させることができる。
【0095】
なお、上記実施の形態では、第1範囲R1u、R1d、および2範囲R2の少なくともいずれかの範囲内に存在するピーク信号は1つと仮定し、範囲内の1つのピークを抽出することについて説明した。これに対して、いずれかの範囲内に複数のピーク信号が存在する場合は、予測ピーク信号の周波数との差が最も小さいピーク信号を抽出する。
【0096】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。