【解決手段】第1送信波および第2送信波を交互に送信する送信部20と、第1ビート信号と第2ビート信号を生成する受信部30と、第1ビート信号、第2ビート信号を高速フーリエ変換して、それらの周波数および位相を得るフーリエ変換部41と、外部の物体までの距離を、第1ビート信号の位相と第2ビート信号の位相との位相差と、第1送信波の周波数と、第2送信波の周波数とに基づいて計算する距離計算式を記憶する記憶部43と、距離計算式を用いて物体までの距離を計算する距離計算部42とを備える2周波CWレーダであって、距離計算式は、位相差が、高速フーリエ変換で用いる観測窓の開始時点よりも後であって観測窓の終了時点よりも前の時点である中間時点における第1ビート信号の位相と第2ビート信号の位相との位相差になっている式である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
2周波CWレーダは、車載レーダとして広く用いられている。車載レーダで採用されている2周波CWレーダは、ミリ波、たとえば、60〜61GHzまたは76〜77GHzの周波数の電波を用いている。
【0005】
電波は周波数により特性が変化し、周波数が低くなると、壁を通過するときの電波強度の減衰が少ない、電波が遠くまで届く等の特性の変化がある。そこで、周波数として、より低周波数の電波を用いることを検討した。しかし、周波数を単純に低くしただけでは、距離誤差が大きくなることが分かった。
【0006】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、低い周波数を用いても、距離誤差が大きくなりにくい2周波CWレーダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、発明の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、周波数の異なる2種類の連続波である第1送信波および第2送信波を交互に送信する送信部(20)と、
第1送信波および第2送信波が外部の物体で反射して生じた第1反射波および第2反射波を受信し、第1送信波と第1反射波を混合して第1ビート信号を生成するとともに、第2送信波と第2反射波を混合して第2ビート信号を生成する受信部(30)と、
受信部が生成した第1ビート信号を高速フーリエ変換して、第1ビート信号の周波数および位相を得るとともに、受信部が生成した第2ビート信号を高速フーリエ変換して、第2ビート信号の周波数および位相を得るフーリエ変換部(41)と、
外部の物体までの距離を、第1ビート信号の位相と第2ビート信号の位相との位相差と、第1送信波の周波数と、第2送信波の周波数とに基づいて計算する距離計算式を記憶する記憶部(43)と、
記憶部に記憶された距離計算式と、フーリエ変換部が得た第1ビート信号の位相と、第2ビート信号の位相と、第1送信波の周波数と、第2送信波の周波数とに基づいて、外部の物体までの距離を計算する距離計算部(42)とを備える2周波CWレーダであって、
距離計算式は、位相差が、高速フーリエ変換で用いる観測窓の開始時点よりも後であって観測窓の終了時点よりも前の時点である中間時点における第1ビート信号の位相と第2ビート信号の位相との位相差であり、かつ、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数との差を表す要素であるビート周波数差要素を含んでいる式である。
【0009】
本発明者は、周波数を単純に低くしただけでは、距離誤差が大きくなることが分かったので、距離誤差が大きくなる理由を検討した。物体までの距離をL、2つのビート信号の初期位相の位相差をΔθ
S、光速をC、第1送信波の周波数をf
1、第2送信波の周波数をf
2とすると、従来、2周波CW方式では、物体までの距離Lを式1から計算する。なお、式1の位相差Δθ
Sは、θ
S2−θ
S1である。θ
S1は、第1ビート信号の初期位相を意味し、θ
S2は、第2ビート信号の初期位相を意味する。
【数1】
【0010】
距離誤差が大きい原因は、位相差Δθ
Sの誤差が大きいからであることが分かった。そこで、位相差Δθ
Sの誤差が大きい理由を検討した。
【0011】
高速フーリエ変換(以下、FFT)では、観測波形と推測波形とのマッチングを行って、残差が最も小さくなる推測波形の持つ周波数を、観測波形の周波数であるとする。推測波形は周波数分解能の整数倍の周波数であることから、観測波形の周波数が周波数分解能の整数倍の周波数でない場合、観測波形に完全に一致する推測波形を決定することはできない。そこで、上記マッチングでは、観測波形と推測波形の残差が最も小さくなるようにする。
【0012】
推測波形と観測波形の残差が最も小さくなるようにするためには、観測窓の中心の時点で両波形の位相を一致させることになる。観測窓の中心で位相を一致させれば、時間変化に応じて推測波形の位相誤差が大きくなっていくとしても、位相誤差は、最大でも、観測窓の半分の時間に対応する位相誤差で済むからである。
【0013】
このことは、換言すれば、FFT解析では、観測窓の開始時点における位相である初期位相は、観測窓内で最も位相誤差が大きいことを意味する。したがって、従来の2周波CWレーダでは、最も位相誤差が大きい位相を用いて距離Lを算出していたことになる。
【0014】
ところで、FFT解析では、周波数分解能は観測時間の逆数になる。また、検出するビート信号のSN比をある程度確保するために、観測時間はビート信号の3〜4周期分以上の時間が必要である。
【0015】
ビート信号の持つ周波数(以下、ビート周波数)の高低は送信周波数の高低に比例するため、送信周波数が低くなると、ビート周波数も低くなる。そして、観測時間がビート信号の3〜4周期分以上の時間が必要であることから、ビート周波数が低くなると観測時間が長くなる。観測時間が長くなると、以下に説明する理由により、初期位相の位相誤差が大きくなる。
【0016】
式1に必要な数値は、第1ビート信号の初期位相θ
S1や第2ビート信号の初期位相θ
S2ではなく、これら2つの初期位相θ
S1、θ
S2の位相差Δθ
Sである。第1ビート信号の初期位相θ
S1と第2ビート信号の初期位相θ
S2にそれぞれ誤差があっても、位相差Δθ
Sを計算することにより、この誤差が相殺されれば、位相差Δθ
Sの誤差は大きくならない。
【0017】
しかし、送信周波数が低くなると、送信周波数が高いときよりも、初期位相θ
S1、θ
S2の誤差を相殺することが困難になる。このことを次に説明する。
【0018】
周波数分解能は観測時間の逆数であることから、観測時間が長くなると、周波数分解能は高くなる。周波数分解能が高くなることは、周波数分解能により定まる幅で並ぶFFTビン間が狭くなることを意味する。
【0019】
FFT解析では、周波数分解能により定まる幅で並ぶFFTビンのいずれかに観測波形の周波数を当てはめており、あるFFTビンから隣接するFFTビンまでが単位周波数、換言すれば、位相の単位周期に対応する。周波数と周期は逆数の関係にあるので、周波数分解能が高いほど、周波数の差が同じでも、位相の差は大きくなる。
【0020】
FFT解析で推測する周波数は観測波形の周波数に対して誤差がある。周波数分解能が高くなると、周波数の推測誤差は小さくなるのだが、上述したように、周波数分解能が高いほど、周波数の差が同じでも、位相の差は大きくなる。
【0021】
そのため、周波数分解能が高い場合と周波数分解能が低い場合を比較すると、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数との差が同じでも、第1ビート信号の初期位相の位相誤差と、第2ビート信号の初期位相の位相誤差の差は大きくなるのである。位相誤差の差が大きくなるので、位相差Δθ
Sを算出しても、誤差が相殺されにくくなるのである。
【0022】
これに対して、本発明では、距離計算式に含まれる位相差は、初期位相の位相差ではなく、観測窓の開始時点よりも後であって観測窓の終了時点よりも前の時点である中間時点における位相差である。前述のように、FFT解析では、観測窓の1/2の時点において観測波形と推測波形の位相が一致することになるので、観測窓の開始時点の位相である初期位相は、真の位相との誤差が最も大きい。換言すれば、中間時点の位相は、初期位相よりは誤差が少ない。
【0023】
よって、本発明のように、距離計算式における位相差を中間時点における位相差とし、この距離計算式を用いて外部の物体までの距離を計算することで、低い周波数を用いても、距離誤差が大きくなりにくくできる。
【0024】
なお、距離計算式における位相差を中間時点における位相差とする場合、距離計算式には、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数との差を表す要素であるビート周波数差要素が含まれることになる。
【0025】
請求項2に係る発明では、中間時点を、観測窓により定まる観測時間の1/2の時点とする。FFT解析では、観測窓の1/2の時点において観測波形と推測波形の位相が一致することになるので、中間時点を観測窓により定まる観測時間の1/2の時点とすれば、位相差の誤差を最も小さくすることができる。その結果、距離計算式から計算する距離の誤差を最も小さくすることができる。
【0026】
請求項3に係る発明では、距離計算式のビート周波数差要素は、第1ビート信号の周波数および第2ビート信号の周波数のいずれか一方が、第1ビート信号の周波数および第2ビート信号の周波数のうちの他方と、第1送信波の周波数と第2送信波の周波数とにより表されることで、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数の差を含まない要素になっている。
【0027】
ビート信号の周波数は、送信波の周波数の高低に応じて変化する。したがって、送信波の周波数を低くすると、ビート信号の周波数も低下する。第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数の差が、高速フーリエ変換の周波数分解能の以下になってしまった場合、高速フーリエ変換で得られる第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数が同じになる。この場合には、距離計算式に、第1ビート信号の周波数と、第2ビート信号の周波数との差を計算する部分が含まれていると、距離が計算できなくなってしまう。しかし、この請求項3では、ビート周波数差要素が、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数の差を含まない要素となっている。よって、第1ビート信号の周波数と第2ビート信号の周波数が同じになっても、距離を計算することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施形態となる2周波CWレーダ1の構成図である。
図1に示す2周波CWレーダ1は、通信部10と信号処理部40を備える。
【0030】
[通信部10の構成]
通信部10は、送信部20と受信部30を備える。送信部20は、発振器21、発振制御回路22、分配器23、送信アンテナ24を備える。発振器21は、高周波信号を発生させる。発振制御回路22は、発振器21の発振周波数を時間によって切り替える制御信号を出力する。これにより、発振器21は、発振周波数を第1周波数f
1と第2周波数f
2に交互に切り替える。本実施形態における第1周波数f
1および第2周波数f
2は、ともに、UHF帯の周波数である。たとえば、第1周波数f
1は916.8MHz、第2周波数は921.6MHzである。
【0031】
分配器23は、発振器21が発生させた高周波信号を、送信アンテナ24とミキサ32に分配する。送信アンテナ24は、分配器23を介して供給された第1周波数f
1の高周波信号と第2周波数f2の高周波信号を、それぞれ連続波の電波として送信する。以下、第1周波数f
1で送信される電波を第1送信波Tf
1とし、第2周波数f
2で送信される電波を第2送信波Tf
2とする。
【0032】
送信アンテナ24から送信された第1送信波Tf
1と第2送信波Tf
2が、移動体などの外部の物体Mで反射すると、第1反射波Rf
1、第2反射波Rf
2が生じる。これら第1反射波Rf
1、第2反射波Rf
2は、受信部30が備える受信アンテナ31に受信される。受信部30は、受信アンテナ31の他に、ミキサ32、検波回路33、2つのフィルタ回路34、35を備える。
【0033】
ミキサ32は、受信アンテナ31から供給される信号と分配器23から供給される信号を混合する。よって、ミキサ32では、第1送信波Tf
1と第1反射波Rf
1を混合するとともに、第2送信波Tf
2と第2反射波Rf
2を混合する。ミキサ32でこれら送信波Tfと反射波Rfが混合されることで、ビート信号Bfが生成される。以下、第1送信波Tf
1と第1反射波Rf
1が混合されて生成するビート信号Bfを第1ビート信号Bf
1とし、第2送信波Tf
2と第2反射波Rf
2が混合されて生成するビート信号Bfを第2ビート信号Bf
2とする。
【0034】
検波回路33は、発振制御回路22が出力する制御信号に基づいて、発振器21の発振周波数毎に同期検波を行う。フィルタ回路34、35は、検波回路33で同期検波された、2つの発振周波数に対応する各出力から第1ビート信号Bf
1と第2ビート信号Bf
2を抽出する。フィルタ回路34、35が抽出した第1ビート信号Bf
1と第2ビート信号Bf
2は、図示しないAD変換回路でデジタル信号に変換されて信号処理部40に入力される。
【0035】
[信号処理部40の構成]
信号処理部40は、CPU、RAM、ROM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータとして構成されている。ROMには、汎用的なコンピュータを信号処理部40として機能させるためのプログラムが格納されている。信号処理部40は、CPUがROMに格納されているプログラムを実行することによって、
図1に示すフーリエ変換部41、距離計算部42としての機能を提供する。なお、信号処理部40が実行する機能の一部または全部を、一つあるいは複数のIC等によりハードウェア的に構成してもよい。
【0036】
また、信号処理部40は、記憶部43を備える。記憶部43は、たとえばEPROMであり、式2に示す距離計算式を記憶している。なお、上記ROMを記憶部43として用いてもよい。
【数2】
【0037】
この式2において、Lは外部の物体Mまでの距離、Cは光速、f
1は第1送信波Tf
1の周波数、f
2は第2送信波Tf
2の周波数、Δθ
Mは観測窓の中心時点の時間における第2ビート信号Bf
2の位相θ
M2から観測窓の中心時点における第1ビート信号Bf
1の位相θ
M1を引いた位相差、すなわち、θ
M2−θ
M1である。また、Tは観測時間の1/2の時間、f
beat1は第1ビート信号Bf
1の周波数、f
beat2は第2ビート信号Bf
2の周波数である。式2の導出方法は後述する。
【0038】
フーリエ変換部41は、フィルタ回路34、35からそれぞれ供給される第1ビート信号Bf
1、第2ビート信号Bf
2をFFTにより解析する。FFT解析は周知の手法で行う。FFTでは観測窓を設定し、観測窓で切り出した観測波形を1つ以上の周波数成分で表す。ただし、周波数成分として決定できる周波数の分解能は、観測窓の時間である観測時間の逆数となる。そして、各周波数成分について振幅と位相を演算して出力する。
【0039】
本実施形態では、観測波形は第1ビート信号Bf
1、第2ビート信号Bf
2であり、これらは、2周波CWレーダ1と物体Mとの相対速度Vにより生じるドップラーシフトに相当する周波数を持つ信号である。
【0040】
よって、フーリエ変換部41は、第1ビート信号Bf
1、第2ビート信号Bf
2の持つ周波数で変動する推測波形を決定することになる。このとき、推測波形は、第1ビート信号Bf
1、第2ビート信号Bf
2との残差が最も少なくなるようにマッチングを行う。そして、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1、振幅、位相、および、第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2、振幅、位相を出力する。
【0041】
距離計算部42は、上記式2を用いて、この2周波CWレーダ1から物体Mまでの距離Lを計算する。式2の右辺において、f
1、f
2、T、Cは既知の値である。また、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1は、フーリエ変換部41が決定している。また、位相差Δθ
Mは、観測窓の中心時点における第2ビート信号Bf
2の位相θ
M2から第1ビート信号Bf
1の位相θ
M1を引いた値を意味する。
【0042】
位相差Δθ
Mの計算には、FFT変換で得た第1ビート信号Bf
1の位相と、第2ビート信号Bf
2の位相を用いる。よって、位相差Δθ
Mの値は、従来の位相差Δθ
Sと同じ値になる。距離計算部42が計算した距離Lは、所定の表示部に表示される。
【0043】
[距離計算式の導出]
次に、式2に示す距離計算式の導出方法を説明する。時間tにおける第1ビート信号Bf
1(t)、第2ビート信号Bf
2(t)は、それぞれ、式3、式4で表される。なお、式3、式4において、Kは係数である。他の文字は説明済みである。
【数3】
【数4】
【0044】
従来の2周波CWレーダでは、この式3と式4の初期位相の位相差Δθ
Sを用いて距離Lを計算する。したがって、従来の2周波CWレーダでは、前述した式1から距離Lを計算することになる。このように初期位相の位相差Δθ
Sを用いて距離を計算している理由は、cos内の第2項であるドップラーシフトの項は、式3と式4で等しいとみなせると考えていたからである。
【0045】
これに対して、本実施形態では、観測窓の1/2の時点の位相差Δθ
Mを用いて距離Lを計算する。そのため、cos内の第2項のtに観測時間の1/2の時間であるTを代入した上で、cos内の第2項まで含めた位相から、距離Lを計算する式を導出する。
【0046】
観測窓の1/2の時点の位相差Δθ
Mは、式5で表せる。
【数5】
【0047】
ここで、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1、第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2を用いると、式5の右辺の第4項、第2項のカッコ内は、式6、式7で表される。この式6、式7を式5に代入した上で、距離Lについて整理すると式8が得られる。
【数6】
【数7】
【数8】
【0048】
さらに、式6÷式7より式9が得られる。式9を式8に代入すると、式2が得られる。
【数9】
【0049】
式2におけるf
beat1((f1−f2)/f2)は、f
beat1−f
beat2と同じ意味であることから、f
beat1((f1−f2)/f2)は第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1と第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2との差を表す要素、すなわち、ビート周波数差要素である。本実施形態のビート周波数差要素は、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1と第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2との差を表す要素を含んでいない。
【0050】
[式2で距離Lを計算する理由]
次に、本実施形態では、従来式である式1に代えて式2を用いて距離Lを計算する理由を説明する。本実施形態の2周波CWレーダ1では、従来の2周波CWレーダで用いる周波数よりも、ずっと低い920MHz付近を送信波Tfの周波数とする。送信波Tfの周波数が低いとビート周波数も低くなるので、本実施形態では、観測窓の時間を比較的長くしている。
【0051】
ところで、FFT解析では、推測波形と観測波形との残差が最も小さくなるように、推測波形の位相を決定する。その結果、観測窓の中心の時点で両波形の位相を一致させることになる。観測窓の中心で位相を一致させれば、時間変化に応じて両波形の位相ずれが大きくなっていくとしても、位相ずれは、最大でも、観測窓の半部の時間に相当する位相ずれで済むからである。
【0052】
図2は、観測波形が0.5Hzであるとした場合であって、観測時間を3秒とした場合の推測波形を例示している。観測時間が3秒であり、周波数分解能は観測時間の逆数になるので、周波数分解能は0.33Hzである。この周波数分解能の場合、観測波形の周波数0.5Hzに最も近い周波数は0.67Hzとなる。したがって、推測波形の周波数は0.67Hzになる。
【0053】
そして、
図2にも示されるように、推測波形は、観測時間の1/2の時点である1.5秒において観測波形と位相が一致するように推測される。一方、観測時間の開始時点の位相である初期位相は、観測波形と推測波形の位相誤差が観測時間内で最も大きい。
【0054】
それにも関わらず、従来の2周波CWレーダでは、初期位相の位相差Δθ
Sを用いる式1から距離Lを計算する。従来の2周波CWレーダでは、初期位相の位相差Δθ
Sを用いて距離Lを計算しても、距離Lの誤差が大きくないからである。
【0055】
この理由は以下の通りである。従来の2周波CWレーダは、送信波の周波数が高い。そのため、送信波に比例するビート周波数も高い。つまり、ビート信号の周期が短い。観測時間は、観測する信号の3〜4周期分以上の時間が必要であるが、ビート信号の周期が短いので、従来の2周波CWレーダは観測時間を短くできる。観測時間が短いほど周波数分解能は低くなる。そのため、周波数分解能により定まるFFTビンとFFTビンとの間は広くなる。
【0056】
ところで、初期位相の誤差は、FFTビンの周波数と観測波形の周波数の真値との差により生じる。
図3に、FFT解析で生じる周波数誤差を概念的に示している。
図3に示すように、FFTビンの周波数と、観測波形の周波数の真値との差が周波数誤差である。FFT解析では、観測窓の1/2の時点において、観測波形の位相と推測波形の位相とを一致させる処理を行うので、周波数誤差がある場合、初期位相にも誤差があることになる。また、周波数の逆数が周期であることから、周波数誤差が小さいほど、初期位相の位相誤差は大きくなる関係になる。
【0057】
この周波数誤差と初期位相の位相誤差との関係を考慮すると、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1と第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2の差が同じであっても、ビン間が広いほど、第1ビート信号Bf
1の初期位相の誤差と、第2ビート信号Bf
2の初期位相の誤差との差は小さくなる。このことを
図4、
図5を用いてさらに説明する。
【0058】
図4と
図5において、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1の真値は同じ値であり、また、第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2の周波数の真値も同じ値である。
図4と
図5の違いは、ビン間の周波数であり、
図4は
図5に比較してビン間が広い。
【0059】
図4の場合、第1ビート信号Bf
1の初期位相の位相誤差θe1は80°であり、第2ビート信号Bf
2の初期位相の位相誤差は78°である。これに対して、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1、第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2が
図4と同じであっても、
図5では、第1ビート信号Bf
1の初期位相の位相誤差θe1は80°であり、第2ビート信号Bf
2の初期位相の位相誤差は50°になっている。
図5は、
図4に比較してビン間が狭いので、ビン間の周波数差を基準とすると、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1と第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2との差が、
図4の場合よりも相対的に大きくなるからである。
【0060】
図4の例では、第1ビート信号Bf
1の初期位相の位相誤差θe1と、第2ビート信号Bf
2の初期位相の位相誤差θe2は互いに類似している。そのため、位相差Δθ
Sを計算すると、その位相誤差の大部分は相殺される。
【0061】
これが、従来の2周波CWレーダにおいて、初期位相の位相差Δθ
Sを用いて距離Lを計算しても、距離Lの誤差が大きくない理由である。
【0062】
これに対して、
図5のように、ビン間が狭い場合、第1ビート信号Bf
1の初期位相の位相誤差θe1と第2ビート信号Bf
2の初期位相の位相誤差θe2の違いが大きくなる。そのため、位相差Δθ
Sを計算しても位相誤差はあまり相殺されない。したがって、送信波の周波数を低くすると、式1を用いることにより生じる距離Lの計算誤差が大きくなる。
【0063】
そこで、本実施形態では、初期位相の位相差Δθ
Sではなく、観測窓の1/2の時点における位相差Δθ
Mを用いることにしたのである。FFT解析では、観測窓の1/2の時点において観測波形と推測波形の位相が一致するので、観測窓の1/2の時点における位相差Δθ
Mを用いた式2により距離Lを計算すれば、距離Lの精度が向上すると考えたからである。
【0064】
図6に、従来手法と本実施形態の手法とでそれぞれ計算した距離および距離精度を比較して示す。
図6の計算における他の条件は次の通りである。第1送信波Tf
1の周波数f
1は916.8MHz、第2送信波Tf
2の周波数f
2は919.2MHz、物体Mの移動速度は1.1m/s、物体Mまでの距離は1.0m、観測時間が4.096秒、サンプリング回数が4096回、窓関数はなしである。
図6に示すように、本実施形態の手法を用いると、従来手法よりも距離精度が著しく向上することが分かる。
【0065】
[本実施形態のまとめ]
以上、説明した本実施形態では、距離Lを計算する式2に、初期位相の位相差Δθ
Sではなく、観測時間の1/2の時点の位相差Δθ
Mが含まれる。FFT解析では、観測窓の1/2の時点において観測波形と推測波形の位相が一致するので、観測窓の1/2の時点の位相は誤差が少ない。よって、観測時間の1/2の時点の位相差Δθ
Mに基づいて距離Lを計算することで、送信波の周波数が低くても、精度のよい距離Lを計算することができる。
【0066】
ここで、たとえば、上記条件を式6、式7に代入して第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1と第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2を計算して、周波数差を計算すると、約0.04Hzとなる。
【0067】
式8を用いても距離Lを計算することはできるが、式8を用いて距離Lを計算しようとする場合、0.04Hzよりも小さい周波数分解能が必要であることから、長い観測時間が必要となる。これに対して、式2を使えば観測時間が約4秒であっても、距離Lを計算できる。よって、本実施形態では、短い観測時間で距離Lを計算することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。なお、以下の説明において、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0069】
<変形例1>
前述の実施形態では、式2を使って距離Lを計算していたが、式8を使って距離Lを計算してもよい。つまり、式8を距離計算式として使ってもよい。
【0070】
<変形例2>
式9を変形して、第1ビート信号Bf
1の周波数f
beat1を、第2ビート信号Bf
2の周波数f
beat2と、第1送信波Tf
1の周波数f
1と第2送信波Tf
2の周波数f
2とにより表す式とし、この式を式8に代入して距離計算式としてもよい。
【0071】
<変形例3>
式2に含まれている位相差Δθ
Mは、観測時間の1/2の時点における位相差であった。しかし、式2に含まれる位相差は、前述の実施系形態で示した時点に限られない。式2における位相差は、観測窓の開始時点よりも後であって、観測窓の終了時点よりも前の時点である中間時点であれば、どの時点の位相差であってもよい。観測窓の開始時点よりも後であって観測窓の終了時点よりも前の時点の位相差であれば、初期位相よりは位相誤差が小さくなるからである。