【解決手段】方位測定システムS1は、被測定対象100が発信する超音波バースト波110を受信装置200が受信して被測定対象100の方位を測定する方位測定システムであって、受信装置200は、所定の距離dで離隔配置された少なくとも1対の超音波受信器210A、210Bと、信号処理ユニット220と、を有し、信号処理ユニット220は、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し1対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波に含まれるピークの値に基づいて、2つの信号波の間の位相差に対応する時間差を取得して、時間差と1対の超音波受信器210A、210B間の距離dと音速とに基づき被測定対象100の方位を求めることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。 なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付すこととする。
【0013】
まず、本発明の実施形態の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る方位測定システムを示す構成図である。方位測定システムS1は、
図1に示されるように、被測定対象100と、受信装置200を有し、被測定対象100が発信する超音波バースト波を受信装置200が受信して被測定対象100の方位を測定するものである。この方位測定システムS1では、被測定対象100から受信装置200に向けて、超音波バースト波110が送信されることとなる。ここでは、方位測定システムS1を屋内閉空間に設置して、受信装置200から見た被測定対象100の方位を測定する方位測定システムS1の例を用いて説明する。
【0014】
被測定対象100は、一例として、
図1に示すように超音波発信回路120と、信号処理器130と、を有する。
【0015】
超音波発信回路120は、一例として、抵抗素子と、スイッチング素子と、パルストランスと、超音波振動子と、パルス整形用回路を有し、可聴域外周波数(20kHz以上の周波数、ここでは一例として30kHzの周波数)の超音波バースト波を発信する。パルストランスの1次側コイルの一方の端子は、直列に接続されたスイッチング素子を介してGNDに接続され、他方の端子は直列に接続された抵抗素子を介して電源に接続される。パルストランスの2次側の両端子は、超音波振動子とパルス整形用回路とに直列に接続される。後述の信号処理器130が出力する矩形波バースト信号(一例として、周波数30kHz、幅400usec、繰り返し周期100msec)によってスイッチング素子をON−OFFさせてパルストランスの1次コイルを駆動させ、パルストランスの2次コイルで昇圧されたパルス電圧により、圧電振動子を金属振動板に密着させた超音波振動子を駆動させることにより、超音波発信回路120が超音波バースト波110を発信する。
【0016】
信号処理器130は、メモリ131と、デジタル信号出力器132と、コントローラ133と、を有する。
【0017】
メモリ131には、矩形波バースト信号の周波数、バースト幅、繰り返し周期に係るデータがあらかじめ設定されている。
【0018】
コントローラ133は、メモリ131に設定されたデータに基づき、デジタル信号出力器132に指令を出して、矩形波バースト信号を出力させる。
【0019】
デジタル信号出力器132は、コントローラ133の指令に基づき、矩形波バースト信号を出力する。
【0020】
この矩形波バースト信号が超音波発信回路120に入力されて、超音波発信回路120から超音波バースト波110が発信される。
【0021】
受信装置200は、所定の距離dで離隔配置された1対の超音波受信器210A、210Bと信号処理ユニット220を有する。
【0022】
超音波受信器210A、210Bは、被測定対象100から発信された超音波バースト波110を受信して電気信号に変換し、それぞれが信号波R
A、R
Bとして出力する。超音波受信器210A、210Bの例としては、小型で高感度特性のMEMSマイクロフォンが挙げられる。1対の超音波受信器210A、210Bは、同一平面上に距離dだけ離隔されたA点、B点に、それぞれが配置されている。A点の超音波受信器210Aが出力する信号波R
Aを基準波とし、B点の超音波受信器210Bが出力する信号波R
Bを比較波とする。超音波受信器210A、210Bとしては、超音波バースト波を受信して電気信号に変換するものであれば特に制限されず、例えば、MEMSマイクロフォンの代替として、圧電マイクロフォン、ムービングコイルマイクロフォン、またはコンデンサマイクロフォンなどでもよい。
【0023】
被測定対象100と受信装置200との間の距離が離隔距離dよりも十分大きい場合には、
図1に示すように、被測定対象100から発せられた超音波バースト波110は、一対の超音波受信器210A、210Bにほぼ平行に入射する。超音波受信器210A、210Bが実装された平面に直交する垂直軸の方向を0°とし、垂直軸を基準とした入射角αが0°の場合には、被測定対象100から同時刻に発信された同相の超音波バースト波110が、超音波受信器210Aに到達する到達時刻t1と超音波受信器210Bに到達する到達時刻t2とは、同時刻となる。α≠0°の場合には、到達時刻t1と到達時刻t2とは異なる時刻となり、(t2−t1)で与えられる時間差t
αは、被測定対象100の方位である入射角αと離隔距離dと音速ν
sによって以下の式(1)で表される。
t
α={d×sin(α)}/ν
s ・・・式(1)
【0024】
超音波バースト波110は、
図2に示すように 、その振幅が時間と共に増大する立ち上がり領域を有する。一対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波R
A、R
Bも、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応した、その振幅が時間と共に増大する立ち上がり領域を有する。信号処理ユニット220は、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し一対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波R
A、R
B(信号波R
A、R
Bの立ち上がり領域部分)に含まれるピークの値に基づいて、2つの信号波R
A、R
Bの間の位相差に対応する時間差t
αを取得して、時間差t
αと距離dと音速ν
sとに基づき被測定対象100の方位を求める。
【0025】
信号処理ユニット220について、具体的な例で説明する。信号処理ユニット220は、増幅器221と信号処理器222を有している。
【0026】
増幅器221は、超音波受信器210A、210Bが超音波バースト波110を電気信号に変換して出力した信号波R
A、R
Bを、その立ち上がり領域内の信号波(振幅が時間と共に増大する正弦波)が半波長以上含まれるように増幅し、それぞれ信号波R
A1、R
B1として出力する。信号波R
A1、R
B1も、信号波R
A、R
Bの立ち上がり領域(超音波バースト波110の立ち上がり領域)に対応した、その振幅が時間と共に増大する立ち上がり領域を有する。具体的には、増幅器221が、超音波受信器210A、210Bが出力した信号波R
A、R
Bを増幅し、出力した信号波R
A1、R
B1に、その立ち上がり領域内の信号波(振幅が時間と共に増大する正弦波)が半波長以上含まれるように、後述の信号処理器222によって増幅器221の増幅度が設定される。
【0027】
図3は、増幅器221が出力する信号波R
A1、R
B1の時間軸tに対する波形を表す。縦軸が、信号波の変位を表す電圧値であり、横軸は、経過時間を示す。
図3に示すように、信号波R
A1、R
B1の立ち上がり領域内には、振幅が時間と共に増大する信号波が半波長以上含まれており、或る時間が経過すると、増幅器からの出力が飽和して同一振幅の矩形波に変わっている。
【0028】
増幅器221の例としては、
図1には示さないが、初段に固定増幅度の差動オペアンプ増幅器、中段にアクティブバンドパスフィルタ回路、最終段に後述の信号処理器222によって増幅度を変更できるプログラマブル・ゲイン・アンプ、を有するものが挙げられる。増幅器221は、固定増幅度の増幅器とアクティブバンドパスフィルタ回路のみで構成されたものであってもよい。なお、アクティブバンドパスフィルタ回路は、所望の超音波バースト波の周波数のみを通過させ、それ以外の環境雑音を抑制することによって、信号波R
A1、R
B1の位相ばらつきを低減するための回路である。
【0029】
増幅器221は、固定増幅度の増幅器、アクティブバンドパスフィルタ回路およびプログラマブル・ゲイン・アンプを、信号波R
A、R
B毎に備えることが望ましい。
【0030】
受信装置200には、増幅器221の出力が所定の閾値以上になった場合にトリガー信号を発するコンパレータ回路が、後述するA/D変換器223と電気的に並列に接続されていてもよい。このコンパレータ回路の入力側は増幅器221の出力側のそれぞれに接続され、コンパレータ回路は、増幅器221の出力する信号波のいずれか1つが所定の閾値以上になった場合にトリガー信号を発する。コンパレータ回路の出力側であるトリガー信号発信端子は、後述する信号処理器222に接続されているものとする。
【0031】
信号処理器222は、A/D変換器223と、メモリ224と、コントローラ225と、を有し、増幅器221の増幅度の制御と、増幅器221が出力した信号波R
A1、R
B1をデジタル信号に変換して、デジタル信号の解析・判断等を行う。
【0032】
A/D変換器223は、増幅器221が出力した信号波R
A1、R
B1を、その立ち上がり領域内の信号波を半波長以上含むように、信号波R
A1、R
B1のそれぞれの変位を表す電圧データ列D
A、D
Bとしてデジタル信号に変換する。A/D変換器223には、信号波R
A1、R
B1毎に、一例として変換スピード3Ms/sのA/D変換器が1チャンネルずつ備えられる。A/D変換器223は、後述のコントローラ225によって、変換動作の開始・停止が制御される。A/D変換器223は、変換スピードが1波長あたり100サンプル程度のものであれば特に制限されない。
【0033】
メモリ224には、電圧データ列D
A、D
Bが時系列で格納される。
【0034】
コントローラ225は、被測定対象100から発せられた超音波バースト波110が受信装置200に到達する前のあらかじめ決められた時刻tsでA/D変換器223の変換動作の開始を行い、あらかじめ決められた時刻teでA/D変換器223の変換動作の停止を行う。
【0035】
受信装置200が上述したコンパレータ回路を備える場合には、コントローラ225は、トリガー信号の受信を受けて、A/D変換器223の変換動作の開始を行い、あらかじめ決められた時刻te2でA/D変換器223の変換動作の停止を行ってもよい。
【0036】
なお、あらかじめ決められた時刻teは、増幅器221が出力した信号波R
A1、R
B1の立ち上がり領域内の信号波を半波長以上含むようにデジタル信号に変換するのに要する時間が時刻tsから経過した時刻である。
【0037】
ここで、コントローラ225は、メモリ224に格納された時系列の電圧データ列D
A、D
Bのうち、信号波R
A1、R
B1の立ち上がり領域内の信号波に対応するデータ列に対して、時系列の電圧データ列が時間と共に振幅が増大する正弦波に近似するようにデータ補完処理を行い、新たな時系列の電圧データ列をD
A1、D
B1としてメモリ224に格納する。
【0038】
図4は、A/D変換器223でデジタル信号に変換された時系列の電圧データ列D
A、D
Bと、データ補完処理後の時系列の電圧データ列D
A1、D
B1を模式的に示した図である。縦軸は電圧値を示し、横軸は時刻を示す。
図4では、時系列の電圧データ列D
A、D
Bについては、離散的時刻に対応する電圧値の大きさが線の長さで表されている。データ補完処理後の時系列の電圧データ列D
A1、D
B1については、間隔の狭められた離散的時刻に対応する電圧値の大きさが、
図4において点線で表されている。
【0039】
コントローラ225は、データ補完処理された電圧データ列D
A1、D
B1を選び取り、基準波とした電圧データ列D
A1の中から、所定の閾値を超えている時系列的に最初の電圧ピークの値と、その電圧ピークに対応する時刻データ値を第一のピーク点として選び取り、メモリ224のメモリエリアである第一ピーク点レジスタに格納する。更に電圧データ列D
A1の中から第一のピーク点に続く最初のゼロクロス点を第一の時刻t1として演繹的に取得し、メモリ224のメモリエリアである第一ゼロクロス点レジスタに時刻t1の値を格納する。演繹的な取得方法の1つには、電圧データ値がゼロクロスする前後の電圧データ値に対応する時刻データ値を選び取り、それぞれの時刻データ値の平均値をt1として取得する方法がある。更に好ましい別の演繹的な取得方法としては、電圧データ値がゼロクロスする前後の電圧データ値V10、V11に対応する時刻データ値t10、t11を選び取り、時刻データ値t10、t11における電圧値のゼロクロス点からの大きさを表す値|V10|、|V11|に応じて式(2)で示すように重みづけしたゼロクロス時刻t1を取得する方法が挙げられる。但し、電圧データ値V10とV11はゼロクロス点を挟んで符号が逆符号であり、時刻データ値t10、t11および時刻t1の大小関係は、t11≧t1≧t10である。
t1=(t11×|V10|+t10×|V11|)/(|V10|+|V11|) ・・・式(2)
【0040】
また、コントローラ225は、電圧データ列D
B1の中から、第一ピーク点レジスタに格納された電圧ピーク値とほぼ等しい(一例として後述する例においては、第一ピーク点レジスタに格納された電圧ピーク値に対する差異が、第一ピーク点レジスタに格納された電圧ピーク値の±10%以内の)電圧ピークとその電圧ピークに対する時刻データ値を第二のピーク点として選び取り、メモリ224のメモリエリアである第二ピーク点レジスタに格納する。更に、第一の時刻t1を取得する場合と同様にして、電圧データ列D
B1の中から第二のピーク点に続く最初のゼロクロス点を第二の時刻t2として演繹的に取得し、メモリ224のメモリエリアである第二ゼロクロス点レジスタに時刻t2の値を格納する。このように取得された第一の時刻t1と第2の時刻t2に対応する信号の部分(2つのゼロクロス点)は、被測定対象100から同時刻に発信された同相の超音波バースト波110の信号に対応している。その後コントローラ225は、メモリ224の第一ゼロクロス点レジスタと第二ゼロクロス点レジスタに格納された時刻t1、t2を呼び出し、差分t
α=t2−t1を計算して、差分t
αと一対の超音波受信器210の間の距離dと音速ν
sとを式(1)に代入して被測定対象100の方位を求める。
【0041】
つまり、この例では、信号処理ユニット220は、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し一対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波R
A、R
Bから、その値が互いにほぼ等しい、 一方の超音波受信器210Aから出力された信号波R
Aのピーク点と他方の超音波受信器210Bから出力された信号波R
Bのピーク点との位相差に対応する時間差t
αを取得して、時間差t
αと距離dと音速ν
sとに基づき被測定対象100の方位を求めている。
【0042】
方位測定システムS1によれば、1対の超音波受信器210A,210Bによって受信された2つの超音波バースト波の位相差が180°を超える、いわゆる位相の折り返し現象が生じる場合でも、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し1対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波R
A、R
Bに含まれるピークの値は、被検出対象100から発信された元の超音波バースト信号110の位相に応じて異なる値となるので、1対の超音波受信器210A、210Bのそれぞれで受信された超音波バースト波110の信号のうち、どの部分が被測定対象100から同時刻に発信された同相の信号に対応しているものであるかを判断することができる。
【0043】
信号波R
A、R
B(電圧データ列D
A1、D
B1)に含まれる2つのピーク値をほぼ等しいと判断するピーク値の差異の閾値については、ピーク値が互いにほぼ等しいと判断される2つのピーク点が、被検出対象100から同時刻に発信された同相の信号のピーク点に対応するものとなるように、距離d、受信装置の設置箇所および超音波バースト波110の立ち上がり特性に応じて適切な値を設定するようにすればよい。
【0044】
ここで、超音波バースト波110の周波数が30kHzであり、被測定対象100と超音波受信器210Aとの距離Rが1mと8.3mの場合の例について説明する。これらの例においては、電圧データ列D
A1(基準波)の電圧ピーク値と電圧データ列D
B1(比較波)の電圧ピーク値を比較して、これらの電圧ピーク値の差異が電圧データ列D
A1の電圧ピーク値の±10%以内であれば、これらのピーク値が互いにほぼ等しいと判断し、値が互いにほぼ等しいと判断した2つのピーク点が、被検出対象100から同時刻に発信された同相の超音波バースト波110の信号に対応するものとする。この理由は、以下の通りである。
【0045】
表1は、超音波バースト波110の周波数が30kHzであり、基準波に対する比較波の振幅の減衰率が最も大きくなるα=90°(
図1参照)の場合であって、距離dを超音波バースト波110の波長に対して、半波長、1波長、2波長、3波長、4波長、・・・とし、被測定対象100と超音波受信器210Aとの距離Rを0.1m、0.2m、0.5m、1m、2m、・・・とした場合の、基準波に対する比較波の振幅の比率を%で示した表である。
【0046】
ここで、α≠0°の場合に、基準波と比較波の振幅が異なる理由は、2つある。第一に、媒質である空気が振動して超音波を伝える場合、超音波のエネルギーの一部は熱などに変わるため、減衰する。これを空気吸収減衰と呼び、媒質中の伝搬距離が長いほど大きくなる。第二に、球面波である超音波は、音源からの距離が離れるほど拡がるため、エネルギーは音源からの距離の逆2乗に比例して減衰する。これを拡散減衰と呼び、近距離で単位距離当たりの減衰の差異が大きく、遠方で小さくなる。α≠0°の場合には、被測定対象100から発信された同相の信号波が、超音波受信器210A、210Bに到達するまでの伝搬距離には、わずかながら違いが生じる。その伝搬距離の差異rは、式(3)で表され、α=90°で最大となる。
r=d×sin(α) ・・・式(3)
表1は、α=90°で最大となる伝搬距離の差異r(超音波受信器210A、210Bの離隔距離dに等しい)に基づく2つの減衰要因で生じた振幅の差異を、基準波に対する比較波の振幅の比率として示した表である。
【0048】
表1に示すように、距離dが大きいほど、基準波に対する比較波の振幅の比率は小さくなるが、距離dが超音波バースト波110の波長の4倍の長さまでの範囲であれば、受信装置200から見た被測定対象100の最近接距離が0.5mであっても、基準波に対する比較波の振幅の変化率は10%未満となる。また、受信装置200から見た被測定対象100が1m以上遠方にある場合には、距離dを超音波バースト波110の波長の8倍としても、基準波に対する比較波の振幅の変化率の大きさは10%未満である。従って、これらの場合においては、被測定対象100から同時刻に発信された同相の超音波バースト波110の信号に対応した、電圧データ列D
A1(基準波)のピーク値と電圧データ列D
B1(比較波)のピーク値との差異は、電圧データ列D
A1の電圧ピーク値の±10%以内となる。
【0049】
また、
図5、6に、増幅器221が出力した信号波R
A1(A/D変換前の信号波)をオシロスコープで測定した波形を示す。
図5は、被測定対象100と超音波受信器210Aとの距離Rが1mの場合の図であり、
図6は被測定対象100と超音波受信器210Aとの距離Rが8.3mである場合の図である。
図5、6において、縦軸は信号波R
A1の変位を表す電圧値であり、横軸は経過時間を示す。
図5と
図6の縦軸は1V/DIV、
図5の横軸は50usec/DIV、
図6の横軸は、100usec/DIVである。
【0050】
図5、6に示すように、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応する領域おいて、信号波R
A1の1波長当りの振幅(ピーク値)の変化率は、距離Rが1mの場合に100%を超えており、距離Rが8.3mの場合に30%を超えている。従って、電圧データ列D
A1(基準波)の電圧ピーク値と電圧データ列D
B1(比較波)の電圧ピーク値を比較して、これらの電圧ピーク値の差異が電圧データ列D
A1の電圧ピーク値の±10%以内であれば、被測定対象100から別時刻に発信された異相の超音波バースト波110の信号を、被測定対象100から同時刻に発信された同相の超音波バースト波110の信号とみなしてしまうことが無い。
【0051】
これらの例では、信号波R
A、R
B(電圧データ列D
A1、D
B1)に含まれる2つのピーク値をほぼ等しいと判断するピーク値の差異の閾値を±10%以下としたが、上述のように、距離Rが少なくとも1〜8.3mの範囲において、超音波受信器210A、210Bの離隔距離dが超音波バースト波110の波長の10倍以下であれば、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応する領域おいて、常に、(信号波R
A1、R
B1の1波長当りの振幅の変化率)>2×(基準波に対する比較波の振幅の減衰率(≦12.2%))であるので、信号波R
B(電圧データ列D
B1)から、信号波R
A(電圧データ列D
A1)に含まれる第一のピーク点の値に最も近い値のピーク点を、第一のピーク点の値とほぼ等しいピーク値をもつ第二のピーク点として選び出すようにしてもよい。
【0052】
また、表2は、超音波バースト波110の周波数が40kHzであり、基準波に対する比較波の振幅の減衰率が最も大きくなるα=90°(
図1参照)の場合であって、距離dを超音波バースト波110の波長に対して、半波長、1波長、2波長、3波長、4波長・・・とし、被測定対象100と超音波受信器210Aの距離Rを0.1m、0.2m、0.5m、1m、2m、・・・とした場合の、基準波に対する比較波の振幅の比率を%で示した表である。表1と比較して分かることは、距離dが同じでも、超音波バースト波110の周波数が40kHzの場合の方が、基準波に対する比較波の振幅の変化率(振幅の減衰率)が小さいということである。このように、超音波バースト波110の周波数が300kHz以下の範囲では、超音波バースト波110の周波数が大きいほど、基準波に対する比較波の振幅の変化率(振幅の減衰率)は小さくなる。
【0054】
このように、方位測定システムS1は、被測定対象100が発信する超音波バースト波110を受信装置200が受信して被測定対象100の方位を測定する方位測定システムであり、受信装置200は、所定の距離dで離隔配置された少なくとも1対の超音波受信器210A、210Bと、信号処理ユニット220と、を有し、信号処理ユニット220は、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し1対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波(電圧データ列D
A1、D
B1に対応した信号波)に含まれるピークの値に基づいて、2つの信号波の間の位相差に対応する時間差t
αを取得して、時間差t
αと一対の超音波受信器210A、210B間の距離dと音速ν
sとに基づき被測定対象100の方位を求めている。
【0055】
従って、1対の超音波受信器210A、210Bによって受信された2つの超音波バースト波110の位相差が180°を超える、いわゆる位相の折り返し現象が生じる場合でも、超音波バースト波110の立ち上がり領域に対応し一対の超音波受信器210A、210Bの各々から出力される2つの信号波に含まれるピークの値を用いることで、所定の距離dだけ離隔配置された1対の超音波受信器210A、210Bのそれぞれで受信された超音波バースト波110の信号のうち、どの部分が被測定対象100から同時刻に発信された同相の信号に対応しているかを判断することができる。従って、この2つの信号波の間の位相差に対応する時間差t
αと一対の超音波受信器210A、210B間の距離dと音速ν
sとに基づき被測定対象100の方位を求めることができる。この場合、受信装置200において超音波受信器は2個あればよく、信号処理ユニット220の占める面積も小さくできるので、方位測定システムS1によれば、小型の方位測定システムを提供できる。
【0056】
なお、上述した実施形態の方位測定システムS1では、受信装置200が一対の超音波受信器210A、210Bを有する例で説明しているが、受信装置200が2対以上の超音波受信器を有していても良い。例えば、同一平面上の直交する2軸の交点をA点とし、A点と、A点から距離d1だけ離隔された一方の軸上のB点と、A点から距離d2だけ離隔された一方の軸上のC点との3か所に、それぞれ超音波受信器が配置された構成でも良い。ここで、距離d1と距離d2は同じであっても、互いに異なっていても良い。この場合、A点の超音波受信器が出力する信号波を基準波とし、B点、C点の超音波受信器が出力する信号波を基準波に対する比較波とする。A点の超音波受信器とB点の超音波受信器とで一対の超音波受信器であり、A点の超音波受信器とC点の超音波受信器とでもう一対の超音波受信器となる。この場合、一方の対の超音波受信器を水平方向の方位測定に用い、他方の対の超音波受信器を鉛直方向の方位測定に用いることができる。2対の超音波受信器のそれぞれの機能は、方位測定システムS1における一対の超音波受信器210A、210Bと同じである。信号処理ユニット220は、上述の実施形態の信号波R
A、R
Bと同様に、C点の超音波受信器が出力する信号波を処理し、上述の実施形態と同様にして、A点の超音波受信器とC点の超音波受信器が出力する信号波の間の位相差に対応する時間差を取得する。