【解決手段】レーダ装置1は、自車両の周辺へ送信したレーダ送信波が該周辺に存在する物標に反射した反射波を受信して取得される受信信号に基づいて物標に係るパラメータ及び物標の検知距離を導出する。そして、検知距離に応じた、判別対象が静止車両及び静止車両以外の物のいずれであるかにより異なるパラメータの既知の特性と、導出したパラメータ及び検知距離とから、物標が静止車両及び静止車両以外の物のいずれかであるかを判定する。
  自車両の周辺へ送信したレーダ送信波が該周辺に存在する物標に反射した反射波を受信して取得される受信信号に基づいて前記物標に係るパラメータ及び前記物標の検知距離を導出する導出部と、
  前記自車両の進行方向に存在する物標が、該自車両が前記進行方向に進んだときに衝突する物標、及び、該自車両が前記進行方向に進んだときに衝突しない物標のいずれであるかを、前記パラメータの既知の特性と、前記導出部により導出されたパラメータ及び検知距離とから判定する判定部と
  を備えたことを特徴とするレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
  以下に添付図面を参照して本願の実施形態に係るレーダ装置及びレーダ装置の制御方法について説明する。なお、以下に示す実施形態は、一例を示すに過ぎず、本願を限定するものではない。また、以下に示す実施形態は、開示の技術に係る構成及び処理について主に示し、その他の構成及び処理の説明を省略する。そして、各実施形態及び変形例は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせてもよい。また、各実施形態において、同一の構成及び処理には同一の符号を付与し、既出の構成及び処理の説明は省略する。
 
【0010】
[実施形態1]
(実施形態1に係るレーダ装置による物標検出の概要)
  実施形態1は、レーダ装置による検出のターゲットとなる車両が、車体の背面や下面にレーダ送信波(ビーム)の反射点が複数存在するトラックやトレーラー等の大型車の場合であっても、上方物であると誤判別せず、比較的遠距離から検出する。
 
【0011】
  すなわち、トラック等のタイヤ径が大きい大型車は、車体後端以外の車体部分にもビームの反射波のピークが多く検出されるという特徴がある。これは、レーダ装置が、レーダ装置から照射されたビームが車体の下に潜り込み、反射して返ってきたピークを検知するためである。
 
【0012】
  そこで、実施形態1では、車体後端の物標を基準物標とし、基準物標から自車線内の所定範囲内で検出した物標の数、位置関係、角度パワーの傾向からナイーブベイズフィルタを用いて車両及び上方物を判別し、車両の信頼度を高める。以下の実施形態1では、レーダ装置による検出のターゲットとなる車両がトラックである場合を示すが、トラックと同様のレーダ反射特性を有する車両も同様である。
 
【0013】
  図1は、実施形態1に係るレーダ装置による物標検出の概要を示す模式図である。実施形態1に係るレーダ装置1は、例えば自車両Aのフロントグリル内等の前方部位に搭載され、自車両Aの進行方向に存在する物標T(物標T1及びT2)を検出する。物標Tは、移動物標及び静止物標を含む。
図1に示す物標T1は、例えば自車両Aの進行方向に沿って移動する先行車両もしくは静止する静止物(静止車両を含む)である。また、
図1に示す物標T2は、例えば自車両Aの進行方向の上方で静止する車両以外の上方物、例えば信号機、陸橋、道路標識、案内標識等である。
 
【0014】
  レーダ装置1は、自車両Aにおいて積荷やサスペンションによりレーダ搭載の垂直軸が傾いた場合であっても性能保証するため、
図1に示すように、下方送信波TW1及び上方送信波TW2を、例えば5msec毎に交互に送信するスキャンレーダである。下方送信波TW1は、レーダ装置1の下方送信部TX1から自車両Aの進行方向の下方側へ向けて送信される。上方送信波TW2は、レーダ装置1の上方送信部TX2から自車両Aの進行方向の上方側へ向けて送信される。下方送信部TX1及び上方送信部TX2は、例えばアンテナである。
 
【0015】
  図1に示すように、レーダ装置1は、下方送信波TW1及び上方送信波TW2によるスキャン範囲の一部が自車両Aに対する垂直方向で重複することにより、下方送信波TW1又は上方送信波TW2単独よりも垂直方向のより広い範囲で物標Tを検出する。レーダ装置1は、下方送信波TW1及び上方送信波TW2が物標Tに反射して得られる反射波を受信部RXで受信することで、物標Tを検出する。
 
【0016】
  なお、レーダ装置1は、下方送信波TW1及び上方送信波TW2の各送信波を送信する2つの送信部を有し、下方送信波TW1及び上方送信波TW2を交互に送信するとするが、これに限られるものではない。すなわち、レーダ装置1は、1つの送信部を有し、1方向に送信波を送信するものであってもよい。
 
【0017】
(実施形態1に係るレーダ装置の構成)
  
図2は、実施形態1に係るレーダ装置の構成を示す図である。実施形態1に係るレーダ装置1は、例えばミリ波レーダの各種方式のうち、周波数変調した連続波であるFM−CW(Frequency  Modulated-Continuous  Wave)を用いて、自車両Aの周辺に存在する物標Tを検出する。
 
【0018】
  図2に示すように、レーダ装置1は、車両制御装置2と接続される。車両制御装置2は、ブレーキ3等と接続される。車両制御装置2は、例えば、レーダ装置1が照射した送信波が物標T1で反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離が所定距離以下となって自車両Aが物標T1と追突する危険性がある場合に、ブレーキ3や、スロットル、ギア等を制御して自車両Aの挙動をコントロールし、自車両Aが物標T1と追突することを回避する。このような車両制御を行うシステムの例として、例えばACC(Adaptive  Cruise  Control)システムがある。
 
【0019】
  なお、レーダ装置1が照射した送信波が物標T1で反射した反射波がレーダ装置1の受信アンテナに受信されるまでの距離を「縦距離」といい、自車両Aの左右方向(車幅方向)における物標Tの距離を「横距離」という。自車両Aの左右方向とは、自車両Aが進行する道路の車線幅の方向でもある。「横距離」は、自車両Aの中心位置を原点とし、自車両Aの右側では正値、自車両Aの左側では負値で表現される。
 
【0020】
  また、
図2に示すように、レーダ装置1は、送信部4、受信部5、信号処理部6を含む。
 
【0021】
  送信部4は、信号生成部41、発振器42、スイッチ43、下方送信部TX1、上方送信部TX2を含む。信号生成部41は、三角波状に電圧が変化する変調信号を生成し、発振器42へ供給する。発振器42は、信号生成部41で生成された変調信号に基づいて連続波の信号を周波数変調し、時間の経過に従って周波数が変化する送信信号を生成して、下方送信部TX1及び上方送信部TX2へ出力する。
 
【0022】
  スイッチ43は、下方送信部TX1及び上方送信部TX2のいずれかと、発振器42とを接続する。スイッチ43は、後述する送信制御部61の制御により所定のタイミング(例えば5msec毎)で動作し、下方送信部TX1及び上方送信部TX2のいずれかと、発振器42との接続を切り替える。すなわち、スイッチ43は、例えば、・・・→下方送信部TX1→上方送信部TX2→下方送信部TX1→上方送信部TX2・・・の順に発振器42との接続を切り替える。
 
【0023】
  下方送信部TX1及び上方送信部TX2は、送信信号に基づき下方送信波TW1及び上方送信波TW2を自車両Aの外部へ送出する。以下、下方送信部TX1及び上方送信部TX2を「送信部TX」と総称する場合がある。
図2では、下方送信部TX1及び上方送信部TX2を1つずつ例示するが、その数は適宜設計変更可能である。送信部TXは、複数本のアンテナで構成され、複数本のアンテナを介してそれぞれ異なる方向へ下方送信波TW1及び上方送信波TW2を出力し、スキャン範囲をカバーする。以下、下方送信波TW1及び上方送信波TW2を「送信波TW」と総称する場合がある。
 
【0024】
  下方送信部TX1及び上方送信部TX2は、スイッチ43を介して発振器42に接続される。そのため、送信部TXのうちの1本の送信部TXから、スイッチ43のスイッチング動作に応じて、下方送信波TW1及び上方送信波TW2のいずれかが出力される。また、出力される送信波TWも、スイッチ43のスイッチング動作によって順次切り替えられる。
 
【0025】
  受信部5は、アレーアンテナを形成する4本の各アンテナである受信部RX、受信部RXのそれぞれに接続された個別受信部52を含む。
図2では、受信部RXを4つ例示するが、その数は適宜設計変更可能である。各受信部RXは、物標Tからの反射波RWを受信する。各個別受信部52は、対応する受信部RXを介して受信した反射波RWを処理する。
 
【0026】
  各個別受信部52は、ミキサ53、A/D(Analog/Digital)変換器54を含む。受信部RXで受信された反射波RWから得られる受信信号は、ミキサ53へ送られる。なお、受信部RXとミキサ53との間にはそれぞれ対応する増幅器を配してもよい。
 
【0027】
  ミキサ53には、送信部4の発振器42から分配された送信信号が入力され、ミキサ53において送信信号と受信信号とがそれぞれミキシングされる。これにより、送信信号の周波数と、受信信号の周波数との差分周波数であるビート周波数を示すビート信号が生成される。ミキサ53で生成されたビート信号は、A/D変換器54でデジタルの信号に変換された後に信号処理部6へ出力される。
 
【0028】
  信号処理部6は、CPU(Central  Processing  Unit)及び記憶部63等を含むマイクロコンピュータであり、レーダ装置1全体を制御する。信号処理部6は、演算対象とする各種のデータや、データ処理部7が検出する物標の情報等を、記憶部63に記憶させる。また、記憶部63は、後述する、ペア総数モデル63a、重心誤差モデル63b、バラつきモデル63c、平均基準パワー差モデル63dを記憶する。記憶部63は、例えばEPROM(Erasable  Programmable  Read  Only  Memory)やフラッシュメモリ等を用いることができるが、これに限定されるものではない。
 
【0029】
  信号処理部6は、マイクロコンピュータでソフトウェア的に実現される機能として、送信制御部61、フーリエ変換部62、データ処理部7を含む。送信制御部61は、送信部4の信号生成部41を制御するとともに、スイッチ43のスイッチングを制御する。データ処理部7は、ピーク抽出部70、角度推定部71、ペアリング部72、連続性判定部73、フィルタリング部74、物標分類部75、不要物標除去部76、グループ化部77、物標情報出力部78を含む。
 
【0030】
  フーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換(FFT:Fast  Fourier  Transform)を行う。これにより、フーリエ変換部62は、複数の受信部RXのそれぞれの受信信号に係るビート信号を、周波数領域のデータである周波数スペクトラムに変換する。フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムは、データ処理部7へ出力される。
 
【0031】
  ピーク抽出部70は、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムにおいて、所定の信号レベルを超えるピークを、送信信号の周波数が上昇するアップ区間と、周波数が下降するダウン区間とのそれぞれの区間で抽出する。
 
【0032】
  ここで、ピーク抽出部70の処理について、
図3、
図4A、
図4Bを参照して説明する。
図3は、送信波と反射波の関係及びビート信号を示す図である。
図4Aは、アップ区間のピーク抽出を説明する図である。
図4Bは、ダウン区間のピーク抽出を説明する図である。なお、説明を簡単にするため、
図3に示す反射波RWは1つの物標Tからの理想的な反射波としている。また、
図3では、送信波TWを実線で示し、反射波RWを破線で示す。
 
【0033】
  図3の上方図において、縦軸は周波数[GHz]、横軸は時間[msec]を示す。また、なお、
図3においては、下方送信波TW1は、タイミングt1〜t2の区間で出力され、上方送信波TW2は、タイミングt2〜t3の区間で出力されるものとする。
 
【0034】
  図3に示すように、下方送信波TW1及び上方送信波TW2は、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波であり、その周波数は、時間に対して線形的に変化する。ここでは、下方送信波TW1及び上方送信波TW2の中心周波数をf0、周波数の変位幅をΔF、周波数が上下する一周期の逆数をfmとする。
 
【0035】
  反射波RWは、下方送信波TW1及び上方送信波TW2が物標Tで反射したものであるため、下方送信波TW1及び上方送信波TW2と同様に、所定の周波数を中心として所定の周期で周波数が上下する連続波となる。ただし、反射波RWには、下方送信波TW1等に対して遅延が生じる。遅延時間τは、自車両Aから物標Tまでの縦距離に応じたものとなる。
 
【0036】
  また、反射波RWには、自車両Aに対する物標Tの相対速度に応じたドップラー効果により、送信波TWに対して周波数fdの周波数偏移が生じる。
 
【0037】
  このように、反射波RWには、下方送信波TW1等に対して、縦距離に応じた遅延時間とともに相対速度に応じた周波数偏移が生じる。このため、
図3の下方図に示すように、ミキサ53で生成されるビート信号のビート周波数は、送信信号の周波数が上昇するアップ区間(以下、「UP」という場合がある)と周波数が下降するダウン区間(以下、「DN」という場合がある)とで異なる値となる。
 
【0038】
  ビート周波数は、下方送信波TW1等の周波数と反射波RWの周波数との差の周波数である。以下、アップ区間のビート周波数をfup、ダウン区間のビート周波数をfdnとする。
図3の下方図では、縦軸は周波数[kHz]、横軸は時間[msec]を示す。
 
【0039】
  そして、
図4A及び
図4Bに示すように、フーリエ変換部62でのフーリエ変換後には、アップ区間のビート周波数fup及びダウン区間のビート周波数fdnのそれぞれの周波数領域における波形が得られる。
図4では、縦軸は信号のパワー[dB]、横軸は周波数[KHz]を示す。
 
【0040】
  ピーク抽出部70は、
図4A及び
図4Bに示す波形において、所定の信号パワーPrefを超えるピークPuと、ピークPdとを抽出する。なお、ピーク抽出部70は、
図3に示す、下方送信波TW1及び上方送信波TW2のそれぞれについて、ピークPu及びPdを抽出するものとする。所定の信号パワーPrefは、一定であっても、可変であってもよい。また、所定の信号パワーPrefは、アップ区間とダウン区間とで異なる値に設定されてもよい。
 
【0041】
  図4Aに示すアップ区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fup1、fup2、fup3の位置にそれぞれピークPuが現れている。また、
図4Bに示すダウン区間の周波数スペクトラムにおいては、3つの周波数fdn1、fdn2、fdn3の位置にそれぞれピークPdが表れている。
図4A及び
図4Bでは、ピークPu及びピークPdを3つずつ例示するが、ピークPu及びピークPdは1つ以上現れるものである。以下、周波数を別の単位のbin(ビン)と呼ぶことがある。1binは、約467Hzに相当する。
 
【0042】
  相対速度を考慮しなければ、周波数スペクトラムにおいてピークが表れる位置の周波数は、物標の縦距離に対応する。1binは、縦距離約0.36mに相当する。そして、例えばアップ区間の周波数スペクトラムに注目すると、ピークPuが表れる周波数fupに対応する縦距離の位置に物標が存在していることになる。このため、ピーク抽出部70は、アップ区間及びダウン区間の双方の周波数スペクトラムに関して、所定の信号パワーPrefを超えるパワーを有するピークPu及びピークPdが表れる周波数を抽出する。以下、このように抽出される周波数を「ピーク周波数」という。
 
【0043】
  図4A及び
図4Bに示すようなアップ区間及びダウン区間の周波数スペクトラムは、1つの受信部RXで受信した受信信号から得られる。従って、フーリエ変換部62は、4つの受信部RXで受信した受信信号のそれぞれから、アップ区間及びダウン区間それぞれの周波数スペクトラムを導出する。
 
【0044】
  4つの受信部RXは、同一の物標Tからの反射波RWを受信しているため、4つの受信部RXの周波数スペクトラムの相互間において、抽出されるピーク周波数は同一となる。ただし、4つの受信部RXの位置は互いに異なるため、受信部RX毎に反射波RWの位相は異なる。このため、同一binとなる受信信号の位相情報は、受信部RX毎に異なっている。また、同一binの異なる角度に複数の物標Tが存在する場合は、周波数スペクトラムにおける1つのピーク周波数の信号に、それら複数の物標Tについての情報が含まれる。
 
【0045】
  角度推定部71は、アップ区間及びダウン区間それぞれについて、方位演算処理により、1つのピーク周波数の信号から、同一binに存在する複数の物標Tについての情報を分離し、それら複数の物標Tそれぞれの角度を推定する。同一binに存在する物標Tは、それぞれの縦距離が略同一となる物標Tである。角度推定部71は、4つの受信部RXの全ての周波数スペクトラムにおいて同一binの受信信号に注目し、それら受信信号の位相情報に基づいて物標Tの角度を推定する。
 
【0046】
  このような物標Tの角度を推定する手法としては、ESPRIT(Estimation  of  Signal  Parameters  via  Rotational  Invariance  Techniques)、MUSIC(Multiple  Signal  Classification)、PRISM(Panchromatic  Remote-sensing  Instrument  for  Stereo  Mapping)等の周知の角度推定方式を用いることができる。これにより、角度推定部71は、1つの周波数の信号から、複数のピーク角度、それら複数の角度それぞれの信号のパワーを算出する。
 
【0047】
  図5は、方位演算処理により推定された角度を、角度スペクトラムとして概念的に示す図である。
図5において、縦軸は信号のパワー[dB]、横軸は角度[deg]を示す。角度スペクトラムにおいて、方位演算処理により推定された角度は所定の信号パワーPrefを超えるピークPaとして表れる。以下、方位演算処理により推定された角度を「ピーク角度」という。このように1つのピーク周波数の信号から同時に導出された複数のピーク角度は、同一binに存在する複数の物標Tの角度を示す。
 
【0048】
  角度推定部71は、このようなピーク角度の導出を、アップ区間及びダウン区間の周波数スペクトラムにおける全てのピーク周波数に関して行う。
 
【0049】
  以上の処理により、ピーク抽出部70及び角度推定部71は、アップ区間及びダウン区間それぞれにおける、自車両Aの前方に存在する複数の物標Tそれぞれに対応するピークデータを導出する。ピークデータは、上述したピーク周波数、ピーク角度、ピーク角度の信号のパワー(以下、「角度パワー」という)等のパラメータを含む。
 
【0050】
  ペアリング部72は、角度推定部71により算出されたアップ区間のピーク角度及び角度パワーと、ダウン区間のピーク角度及び角度パワーとの一致度合い等に基づき、アップ区間のピークPu及びダウン区間のピークPdを対応づけるペアリングを行う。
図6Aは、アップ区間及びダウン区間それぞれの方位角度及び角度パワーに基づくペアリングを説明する図である。
図6Bは、ペアリング結果を説明する図である。
 
【0051】
  図6Aに示すように、ペアリング部72は、UP及びDNそれぞれのピークの方位演算結果のうち、ピーク角度及び角度パワーが所定範囲内であるものをペアリングする。すなわち、ペアリング部72は、例えば、UP及びDNそれぞれの周波数ピークのピーク角度及び角度パワーを用いて、マハラノビス距離を算出する。マハラノビス距離の算出は、周知技術を用いる。ペアリング部72は、マハラノビス距離が最小値となるUP及びDNの2つのピークを対応付ける。
 
【0052】
  このように、ペアリング部72は、同一の物標Tに関するピーク同士を対応付ける。これにより、ペアリング部72は、自車両Aの前方に存在する複数の物標Tそれぞれに係る物標データを導出する。この物標データは、2つのピークを対応付けて得られるため、「ペアデータ」とも呼ばれる。
 
【0053】
  そして、
図6Bに示すように、ペアリング部72は、ペアリングしたUP及びDNのピークから、各物標Tの自車両Aに対する相対速度及び距離を算出する。例えば、ペアリング部72は、物標データ(ペアデータ)の元となったアップ区間及びダウン区間の2つのピークデータを用いることで、当該物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を導出できる。レーダ装置1は、ペアリングにより、物標Tの存在を検出することとなる。
 
【0054】
  上述のようなピーク抽出部70、角度推定部71、ペアリング部72による処理は、下方送信部TX1及び上方送信部TX2により交互に行うビーム照射毎(スキャン毎)に反射波RWを受信する都度行われ、物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)の瞬時値を導出する処理である。
 
【0055】
  連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとの時間的な連続性を判定する。すなわち、連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとが同一の物標か否かを判定する。例えば、過去処理は前回の物標データ導出処理であり、直近処理は今回の物標データ導出処理である。具体的には、連続性判定部73は、前回の物標データ導出処理で導出された物標データに基づいて今回の物標データの位置を予測し、今回の物標データ導出処理で導出されたその予測位置の所定範囲内で最も近い物標データを、過去処理で導出された物標データと連続性を有する物標データであるとする。
 
【0056】
  なお、連続性判定部73は、直近処理において、過去処理で導出された物標データと連続性を有する物標データが導出されていない場合、すなわち過去処理で導出された物標データの連続性がないと判定された場合、過去処理で導出された物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)に基づき、直近処理で導出されていない物標データを仮想的に導出する「外挿処理」を行う。
 
【0057】
  外挿処理により導出された外挿データは、直近処理で導出された物標データとして取り扱われる。そして外挿処理が、ある物標データに対して連続して複数回、あるいは比較的高い頻度で行われると、物標をロストしたとしてその物標データは記憶部63の所定記憶領域から削除される。具体的には、その物標を示す物標番号のパラメータの情報が削除され、その物標番号にはパラメータが削除されたことを示す値(削除フラグOFFを示す値)が設定される。物標番号はそれぞれの物標データを識別する指標であり、物標データごとに異なる番号が付与される。
 
【0058】
  フィルタリング部74は、過去処理及び直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を時間軸方向に平滑化して物標データを導出する。このようなフィルタ処理後の物標データは、瞬時値を表すペアデータに対して「内部フィルタデータ」とも呼ばれる。
 
【0059】
  物標分類部75は、相対速度に基づき、各物標を、先行車、静止物(静止車両を含む)、対向車に分類する。例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と向きであって、この速度の大きさよりもより大きな相対速度の物標を「先行車」と分類する。また、例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と概ね逆向きである相対速度の物標を「静止物」と分類する。また、例えば、物標分類部75は、自車両Aの速度と逆向きであって、この速度の大きさよりもより大きな相対速度の物標を「対向車」と分類する。なお、「先行車」は、自車両Aの速度と同じ向きであって、この速度の大きさよりも小さな相対速度の物標であってもよい。また、「対向車」は、自車両Aの速度と逆向きであって、この速度の大きさよりも小さい相対速度の物標であってもよい。
 
【0060】
  不要物標除去部76は、各物標のうち、上方物、下方物、雨、受信波ゴースト等を不要物標として判定し、出力物標から除外する。不要物標のうち、上方物を判別する処理については、後に詳述する。
 
【0061】
  グループ化部77は、複数の物標データを同一物体の物標データとして1つに統合するグループ化を行う。例えば、グループ化部77は、検知位置及び速度が所定範囲内で近い物標データを同一物体の物標データとして1つにまとめて1出力とすることで、物標データの出力数を削減する。
 
【0062】
  物標情報出力部78は、導出された、もしくは外挿により導出された複数の物標データから所定数(例えば10個)の物標データを出力対象として選択し、選択した物標データを車両制御装置2へ出力する。物標情報出力部78は、物標データの縦距離及び横距離をもとに、自車線内に存在し、かつ、自車両Aにより近い物標に係る物標データを優先的に選択する。ここで、「自車線」とは、自車両Aが車線の略中央を走行する場合、その車線の両端それぞれ1.8m程度の幅員を想定した走行レーンである。なお、「自車線」を規定する幅員は、適宜設計変更可能である。
 
【0063】
  以上の物標データ導出の処理で導出された物標データは、各物標データを示す物標番号と対応するパラメータとして記憶部63の所定記憶領域に記憶され、次回以降の物標データ導出の処理において過去処理で導出された物標データとして用いられる。
 
【0064】
  すなわち、過去の物標データ導出の処理で導出された物標データは、「履歴」として保存される。例えば、ピーク抽出部70は、「履歴」として記憶部63の所定記憶領域に保存される「ピーク周波数」を参照し、「履歴」と時間的な連続性を有する「ピーク周波数」を予測し、予測した「ピーク周波数」の例えば±3bin以内の周波数を抽出する。これにより、レーダ装置1は、車両制御装置2に対して優先的に出力する必要性のある物標に対応する「ピーク周波数」を迅速に選択することができる。予測した今回の物標データの「ピーク周波数」を「予測bin」という。
 
【0065】
(実施形態1に係るトラック及び上方物の判別処理)
  以下、
図7〜
図16を参照して、実施形態1に係る不要物標除去部76が行うトラック及び上方物の判別処理の詳細について、STEP1〜STEP4の順で説明する。
 
【0066】
<STEP1:基準物標抽出>
  不要物標除去部76は、次の(a1)〜(a6)の条件が充足されるか否かを判定した結果に基づいて静止車両(例えば、トラック)の後端相当の基準物標を抽出する。
 
【0067】
(a1)ターゲットが静止物である。
(a2)トンネルやトラス橋等、レーダ装置1にとって悪環境下のターゲットではない。(a3)距離及び角度パワーの傾向が減衰せずに上昇している。
(a4)自車線内かつ自車両Aに対して最近接のターゲットである。
(a5)直線近向しているときに反射点の変化が小さい。
(a6)ターゲット全体としての反射が安定している。
 
【0068】
  (a1)は、物標分類部75により、物標の相対速度に基づき判定される。(a2)は、角度推定部71により検知された物標の数が、自車線内に所定数以上存在しないことにより判定される。これは、例えば、トンネルやトラス橋等の、レーダ装置1にとって悪環境下のターゲットは、角度推定部71により検知された物標の数が、自車線内に所定数以上の多数存在することに基づく。
 
【0069】
  (a3)は、
図7に示すように、トラックの角度パワーは自車両Aとの距離が近くなるにつれて減衰せず上昇傾向にあるということに基づく。
図7は、トラックの角度パワー及び距離の関係を示す図である。
 
【0070】
  (a4)は、トラック後端は自車線内かつ自車両Aに対して最も近くに存在するターゲットであるということに基づく。
 
【0071】
  (a5)は、例えば、下記(1−1)〜(1−5)式の条件のもと、下記(1−6)〜(1−10)式に基づき算出した「平均横位置移動量」をもとに判定できる。例えば、陸橋等の幅があるターゲットや、足つきの看板等は、距離が近づくにつれて反射点が大きく移動する傾向がある。ここでは、ターゲットの反射点移動の大小を、平均化した横位置(「平均横位置移動量」)で定量的に表す。横位置面積の総和をとり、縦方向に進んだ距離で割る(すなわち平均化する)のは、初回検知距離の遠近の影響を吸収するためである。「平均横位置移動量」が所定量以下である場合に、(a5)の条件が満たされると判定される。
 
【0073】
  図8を参照して上記(1−1)〜(1−10)式を説明する。
図8は、実施形態1に係る平均横位置移動量算出を説明する図である。
図8は、自車線を走行する自車両Aの前方においてレーダ装置1により“▽”で示す物標の検出を時系列で示し、自車両Aに近いほど新しく検出されたことを示す。
 
【0074】
  上記(1−1)式は、
図8において“▽”で示す物標が、新規検出の物標ではなく、過去の処理で検出された物標であることを示す。上記(1−2)及び(1−3)式は、
図8において“▽”で示す物標が、先行車ではなく、静止物であることを示す。上記(1−4)式における“ABS(カーブR[m])”は、自車線の曲率半径の絶対値を示し、
図8において自車線が急カーブではなく概ね直線であることを示す。上記(1−5)式は、
図8において自車両Aが走行中であることを示す。
 
【0075】
  上記(1−6)式は、
図8において“▽”で示す相前後する物標間の中心線に沿った各距離(縦位置差)を算出する算出式である。上記(1−7)式は、上記(1−6)式で算出した各縦位置差を積算する算出式である。上記(1−8)式は、上記(1−6)式で算出した縦位置差と、
図8において“▽”で示す各物標の中心線からの各距離(横位置(前回))とを乗算し、
図8に示す各方形の面積を算出する算出式である。上記(1−9)式は、上記(1−8)式で算出した各横位置面積を積算する算出式である。上記(1−10)式は、上記(1−9)式で算出した横位置面積総和を、上記(1−7)式で算出した縦位置区間で除算し、平均横位置移動量を算出する算出式である。この処理により、平均横位置移動量が所定以上となるもの、すなわち平均横位置移動量が比較的大きい物標は、上方物の可能性が高い物標として判定される。
 
【0076】
  (a6)は、例えば、下記(2−1)〜(2−8)式に基づき算出した「外挿種別割合」、つまり外挿率及び外挿の要因別の各比率をもとに判定できる。例えば、陸橋等の上方物は、トラック同様にペアデータが複数検出される傾向があるが、反射が不安定であるため外挿処理されることが多い。ここでは、外挿データの特徴から判断して、上方物とされる場合は基準物標から除外する。下記(2−1)式に基づく外挿率及び下記(2−2)〜(2−8)式に基づく全ての「外挿種別割合」がそれぞれの所定値以下となる場合に、(a6)の条件が満たされると判定され、その物標は基準物標と判定される条件の一つを満たしたこととなる。
 
【0078】
  図9は、実施形態1に係る外挿種別割合算出を説明する図である。
図9に示す、自車線内の基準物標から例えば15[m]前方までのエリアに存在する全ての内部フィルタデータに関して外挿の有無と、外挿である場合の要因が種別毎にカウントされる。外挿累積数及び各外挿種別の各カウントの累積数は、例えば、外挿処理を行う連続性判定部73により計数され、記憶部63の所定記憶領域に記憶される。
 
【0079】
  なお、
図9に示す、自車線内の基準物標から例えば15[m]前方までのエリアは、トラックの車体(以下、「車体エリア」という)を想定しており、この15[m]は適宜設計変更可能である。今回スキャンまでの各カウントの累積数より、各外挿要因種別の割合が算出できる。外挿要因種別は、例えば「履歴なし」「ピークなし」「角度なし」「予測binずれ」「マハラノビス距離NG」「ペアなし」「連続性なし」の7種類がある。
 
【0080】
  「履歴なし」とは、今回抽出の「ピーク周波数」に対応する「履歴」が取得できない、もしくは「履歴」が存在しないことをいう。「ピークなし」とは、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムからピーク抽出部70によるピーク抽出ができないことをいう。「角度なし」とは、ピーク抽出部70によるピーク抽出はできたが、角度推定部71による物標の角度推定ができないことをいう。
 
【0081】
  「予測binずれ」とは、実際の今回の物標データの位置が、連続性判定部73により予測された今回の物標データの予測位置の所定範囲内(例えば±3bin以内)に存在しないことをいう。
 
【0082】
  「マハラノビス距離NG」は、マハラノビス距離の最小値が所定値以上であるためにペアリング部72によるペアリングができないことをいう。「ペアなし」は、「履歴なし」「ピークなし」「角度なし」「予測binずれ」「マハラノビス距離NG」以外の要因によりペアリング部72によるペアリングができないことをいう。
 
【0083】
  「連続性なし」は、ペアリング部72によるペアリングはできたが、連続性判定部73による連続性判定により、直近処理で導出された物標データとの時間的な連続性なしと判定されることをいう。
 
【0084】
  上記(2−1)式は、外挿種別に関わらず全ての内部フィルタデータの累積数に対する全外挿データの累積数の割合を算出する算出式である。上記(2−2)〜(2−8)式は、内部フィルタデータの累積数に対する、「履歴なし」「ピークなし」「角度なし」「予測binずれ」「マハラノビス距離NG」「ペアなし」「連続性なし」それぞれを要因とする外挿データの各累積数の割合を算出する算出式である。
 
【0085】
  このように、(a1)〜(a6)の条件に基づき、そのターゲットが静止物((a1)の条件充足)、レーダ装置1にとって悪環境下のターゲットではない((a2)の条件の条件充足),距離及び角度パワーの傾向が減衰せずに上昇している((a3)の条件充足)。そして、そのターゲットが自車線内かつ自車両Aに対して最近接しており((a4)の条件充足)、直線近向しているときに反射点の変化が小さく((a5)の条件充足)、ターゲット全体としての反射が安定している((a6)の条件充足)場合に、対象の物標は静止車両(例えば、トラック)の後端相当の基準物標として設定される。なお、(a1)〜(a6)のいずれかの条件を充足しないときは、対象の物標は上方物の可能性があるため、基準物標として設定されない。
 
【0086】
<STEP2:ペアデータ検索>
  STEP1により基準物標を抽出後、
図10に示す「車体エリア」に存在する静止物のペアリングデータ(フィルタリング前の瞬時値)を抽出する。
図10は、実施形態1に係るペアデータ検索を説明する図である。内部フィルタデータではなく静止物のペアリングデータを抽出するのは、静止物のペアリングデータが瞬時値であることから、サンプル数を確保でき、後述するSTEP3におけるScoreのバラつき算出に好適であるためである。なお、静止物のペアリングは、フィルタリング後のデータについて行ってもよい。
 
【0087】
<STEP3:Score算出>
  上述のSTEP2で抽出した静止物のペアデータの数(ペア総数)、規準物標との位置及びパワー関係から、下記(3−1)〜(3−2)式により、Scoreを算出する。Scoreは、下記(3−1)式に示すように、4つのパラメータ(Score1(ペア総数)、Score2(重心誤差)、Score3(バラつき)、Score4(平均基準パワー差))から構成され、毎サイクル蓄積される。この毎サイクル蓄積が、ベイズ更新に相当する。Scoreが、閾値以上である場合に信頼性が高いとして静止車両(トラック)と判定され、閾値未満である場合に信頼性が低いとして上方物と判定される。
 
【0089】
  上記(3−2)式は、Score1〜Score4の各スコアは、トラック及び上方物それぞれの確率分布モデルから対数尤度を算出し、ロジットを算出したものである。ペア総数、重心誤差、バラつき、平均基準パワー差の各パラメータは、ターゲットとの距離に依存して分布が変化することが分かっているため、Score算出に用いる確率分布モデルは、実測データに基づいて例えば10m毎に予め定義又は構築され、10m未満を線形補間したものを用いる。
 
【0090】
  Score算出に用いる確率分布モデルには、
図2を参照して上述したように、ペア総数モデル63a、重心誤差モデル63b、バラつきモデル63c、平均基準パワー差モデル63dがある。ペア総数モデル63aの詳細は、
図11を参照して後述する。重心誤差モデル63bの詳細は、
図13を参照して後述する。バラつきモデル63cの詳細は、
図15を参照して後述する。平均基準パワー差モデル63dの詳細は、
図17を参照して後述する。
 
【0091】
・STEP3−1:Score1(ペア総数)算出
  トラックと上方物とを判別する代表的なパラメータの1つが、ペア総数、すなわち「車体エリア」内に存在する静止物ペアリングデータの総数である。すなわち、上述のSTEP2:ペアデータ検索で検索されたペア総数が多いほど、言い換えると、安定した複数のペアリングデータ(反射ピーク)が多く得られるほど、ターゲットがトラックである尤度が高いという事実に基づく。Score1(ペア総数)は、ペアリングデータの総数を定量化したパラメータに対して統計モデルを適用し、尤度算出を行うものである。
 
【0092】
  Score1(ペア総数)は、
図11に例示するペア総数モデル63a及び上記(3−2)式から算出される。
図11は、実施形態1に係るペア総数モデルを示す図である。ペア総数モデル63aは、横軸をペア総数、縦軸を尤度とし、トラック及び上方物のそれぞれのペア総数及び尤度の関係を示す確率分布モデルである。
図11に示すトラックの確率分布モデルは、例えば正規分布(ガウス分布)に基づくモデルである。また、
図11に示す上方物の確率分布モデルは、最尤推定法及び実験計画法に基づくモデルである。なお、トラックのモデルについては、トラックの縦距離が例えば70mのときは、正規分布に基づくモデルを設定し、トラックの縦距離が例えば80mのときは、ガンマ分布に基づくモデルを設定する。すなわち、トラックの縦距離に応じて、モデルを設定する手法を変更する。このように、ペア総数モデル63aは、判定精度向上のため、トラック及び上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
 
【0093】
  なお、
図11は、ペア総数モデル63aとして、自車両Aから基準物標までの距離が80mの場合のペア総数モデルを例示し、自車両Aから基準物標までの距離が10m〜80m乃至150m程度までの10m単位の各距離のペア総数モデルの図示を省略している。
 
【0094】
  例えば、上述のSTEP2で算出したペア総数が“4”である場合を考える。この場合、
図11を参照すると、横軸のペア総数が“4”である場合には、縦軸のトラックの尤度は約“0.31”、上方物の尤度は約“0.15”となる。よって、上記(3−2)式において、n=1とした場合、Score1=log(トラック尤度1)−log(上方物尤度1)=log(0.31)−log(0.15)として、Score1を算出することができる。
 
【0095】
・STEP3−2:Score2(重心誤差)算出
  STEP3−1のペア総数のみでは、反射点が複数存在する上方物を十分に判別できない。そこで、ペアデータ群の偏りを定量化した重心をScore算出に用いる。トラックやトレーラー等、車体サイズによって重心の位置は異なる。すなわち小型であるほど重心は手前寄り(基準物標側の位置)で、大型であるほど奥寄り(基準物標から離れた位置)である。これらの違いをScoreに反映できるように、仮重心からのずれ量の割合を、重心誤差として算出する。Score2(重心誤差)は、ペアリングデータの位置関係を定量化したパラメータに対して統計モデルを適用し、尤度算出を行うものである。重心誤差は、下記(4−1)〜(4−4)式に基づき算出できる。
 
【0096】
【数4】
  図12を参照して重心誤差の算出について説明する。
図12は、実施形態1に係る重心誤差を説明する図である。上記(4−1)式は、基準物標を番号1のペア1とし、“ペア_距離i−ペア_距離1”により、番号iのペアi(i=2、・・・、n)それぞれと、ペア1との距離を算出し、その平均を算出する算出式である。上記(4−1)式により、“重心”が算出される。
 
【0097】
  例えば、
図12の(a)に示すように、上記(4−1)式に基づき、基準物標(ペア1)と、4つのペア(物標)が車体エリア内に存在し、4つのペア(物標)それぞれと、基準物標(ペア1)の各距離の平均を取ることにより、“重心”が算出される。そして、上記(4−2)式に基づき、4つのペア(物標)それぞれと、基準物標(ペア1)の各距離のうち、最大距離を“Length”として算出する。そして、上記(4−3)式に基づき、“Length÷2”により“仮重心”を算出する。そして、上記(4−4)式に基づき、上記(4−1)、(4−3)式で算出された“重心”及び“仮重心”から、“重心誤差”を算出する。
 
【0098】
  同様に、例えば、
図12の(b)に示すように、上記(4−1)式に基づき、基準物標(ペア1)と、3つのペア(物標)が車体エリア内に存在し、3つのペア(物標)それぞれと、基準物標(ペア1)の各距離の平均を取ることにより、“重心”が算出される。そして、上記(4−2)式に基づき、3つのペア(物標)それぞれと、基準物標(ペア1)の各距離のうち、最大距離を“Length”として算出する。そして、上記(4−3)式に基づき、“Length÷2”により“仮重心”を算出する。そして、上記(4−4)式に基づき、上記(4−1)、(4−3)式で算出された“重心”及び“仮重心”から、“重心誤差”を算出する。
 
【0099】
  “重心誤差”は、“重心”の“仮重心”からの“ずれ”の割合を示し、
図12の(a)及び(b)から分かるとおり、上方物はトラックと比較して“ずれ”(
図12の(b)中の“gap”)が大きいことが分かる。
 
【0100】
  Score2(重心誤差)は、
図13に例示する重心誤差モデル63b及び上記(3−2)式から算出される。
図13は、実施形態1に係る重心誤差モデルを示す図である。重心誤差モデル63bは、横軸を重心誤差、縦軸を尤度とし、トラック及び上方物のそれぞれの重心誤差及び尤度の関係を示す確率分布モデルである。
図13に示すトラック及び上方物の確率分布モデルは、最尤推定法及び実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。重心誤差モデル63bは、判定精度向上のため、トラック及び上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
 
【0101】
  なお、
図13は、重心誤差モデル63bとして、自車両Aから基準物標までの距離が80mの場合の重心誤差モデルを例示し、自車両Aから基準物標までの距離が10m〜80m乃至150m程度までの10m単位の各距離の重心誤差モデルの図示を省略している。
 
【0102】
  例えば、上記(4−4)式により算出された重心誤差が“0.15”である場合を考える。この場合、
図13を参照すると、横軸の重心誤差が“0.15”である場合には、縦軸のトラックの尤度は約“2.1”、上方物の尤度は約“1.1”となる。よって、上記(3−2)式において、n=2とした場合、Score2=log(トラック尤度2)−log(上方物尤度2)=log(2.1)−log(1.1)として、Score2を算出することができる。
 
【0103】
・STEP3−3:Score3(バラつき)算出
  
図14は、実施形態1に係るバラつきを説明する図である。ペア総数や重心誤差では、例えば、
図14の(a)に示すように、ペアデータの位置に偏りがない場合にはトラックであると判別できるが、
図14の(b)のように、ペアデータの位置が基物標側と基準物標より最遠側とに偏って存在する場合にはトラック及び上方物の判断が難しい。よって、抽出したペアデータのバラつきを定量化し、評価する。なお、ペアデータのバラつきとは、ある物体から検出される物標の位置が処理タイミングごとに変化することをいい、ある物体がレーダ装置の送信波を反射する箇所が上記処理タイミングごとに異なることによって発生する。これは、比較的大きなサイズで複雑な形状の物体の場合に発生しやすい。
 
【0104】
  すなわち、Score3(バラつき)は、ペアリングデータの位置関係を定量化したパラメータに対して統計モデルを適用し、尤度算出を行うものである。バラつきは、
図14の(c)のように、ペアデータ間の距離の標準偏差σから不偏標準偏差Vを算出することで算出される。不偏標準偏差Vの算出は、周知の方法を用いる。ペアデータのバラつきの定量化によるトラック及び上方物の判別は、トラックは反射点が定まっているのに対し、上方物は不安定なためばらつくという事実に基づく。
 
【0105】
  Score3(バラつき)は、
図15に例示するバラつきモデル63c及び上記(3−2)式から算出される。
図15は、実施形態1に係るバラつきモデルを示す図である。バラつきモデル63cは、横軸を不偏標準偏差、縦軸を尤度とし、トラック及び上方物のそれぞれの不偏標準偏差及び尤度の関係を示す確率分布モデルである。
図15に示すトラック及び上方物の確率分布モデルは、最尤推定法及び実験計画法により予め構築された、例えば指数分布に基づくモデルである。バラつきモデル63cは、判定精度向上のため、トラック及び上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
 
【0106】
  なお、
図15は、バラつきモデル63cとして、自車両Aから基準物標までの距離が80mの場合のバラつきモデルを例示し、自車両Aから基準物標までの距離が10〜80m乃至150m程度までの10m単位の各距離のバラつきモデルの図示を省略している。
 
【0107】
  例えば、不偏標準偏差Vが“0.4”である場合を考える。この場合、
図15を参照すると、横軸の不偏標準偏差が“0.4”である場合には、縦軸のトラックの尤度は約“0.7”、上方物の尤度は約“0.58”となる。よって、上記(3−2)式において、n=3とした場合、Score3=log(トラック尤度3)−log(上方物尤度3)=log(0.7)−log(0.58)として、Score3を算出することができる。
 
【0108】
・STEP3−4:Score4(平均基準パワー差)算出
  トラックは、後端の基準物標と比較して、車体エリア内のペアデータは、多点反射やマルチパスの影響により反射レベルが減衰する傾向がある。よって、全ペアデータについて、各ペアデータと基準物標とのパワー差を算出し、Score算出に用いる。Score4(平均基準パワー差)は、ペアリングデータの角度パワーを定量化したパラメータに対して統計モデルを適用し、尤度算出を行うものである。Score4(平均基準パワー差)では、ペア総数が多いことでパワー差が過剰に算出されないように、下記(5)式に示すように、規格化(平均化)を行う。
 
【0109】
【数5】
  上記(5)式に示す“距離差
i−1”は、基準物標を番号1のペア1とし、車体エリア内においてペア1からの距離が相前後するペアデータの各距離を示す。例えば、車体エリア内においてペア1からの距離が最も近いペアをペア2とした場合、“距離差
1=ペア2とペア1の距離”となる。また、例えば、車体エリア内においてペア1からの距離が2番目に近いペアをペア3とした場合、“距離差
2=ペア3とペア2の距離”となる。その他の“距離差
i−1”についても同様である。
 
【0110】
  また、上記(5)式に示す“角度パワー
i”は、車体エリア内においてペア1からの距離が(i−1)(i=2、・・・、n)番目に近いペアをペアiとした場合、ペアiの角度パワーを示す。また、上記(5)式に示す“角度パワー
1”は、車体エリア内においてペア1の角度パワーを示す。よって、上記(5)式における“角度パワー
i−角度パワー
1”は、ペアiの角度パワーとペア1の角度パワーとの差となる。
 
【0111】
  以上から、上記(5)式は、“平均基準パワー差”として、
図16Aに示すハッチングした方形の各面積を算出し、その平均を算出していることになる。
図16Bにおいても同様である。なお、
図16A及び
図16Bの横軸は周波数を示し、縦軸は(角度)パワーを示す。よって、
図16A及び
図16Bに示すように、トラックは、上方物と比較して、基準物標から離れるほど物標の角度パワーが減少する傾向があることから、“平均基準パワー差”が大きいほどトラックである尤度が高く、小さいほど上方物である尤度が高いことが分かる。
 
【0112】
  Score4(平均基準パワー差)は、
図17に例示する平均基準パワー差モデル63d及び上記(3−2)式から算出される。
図17は、実施形態1に係る平均基準パワー差モデルを示す図である。平均基準パワー差モデル63dは、横軸を平均基準パワー差、縦軸を尤度とし、トラック及び上方物のそれぞれの平均基準パワー差及び尤度の関係を示す確率分布モデルである。
図15に示すトラック及び上方物の確率分布モデルは、最尤推定法及び実験計画法により予め構築された、例えば正規分布に基づくモデルである。平均基準パワー差モデル63dは、判定精度向上のため、トラック及び上方物それぞれについて、モデルを特徴付けるパラメータが調整される。
 
【0113】
  なお、
図17は、平均基準パワー差モデル63dとして、自車両Aから基準物標までの距離が80mの場合の平均基準パワー差モデルを例示し、自車両Aから基準物標までの距離が10m〜80m乃至150m程度までの10m単位の各距離の平均基準パワー差モデルの図示を省略している。
 
【0114】
  例えば、不偏標準偏差が“−15”である場合を考える。この場合、
図17を参照すると、横軸の不偏標準偏差が“−15”である場合には、縦軸のトラックの尤度は約“0.064”、上方物の尤度は約“0.031”となる。よって、上記(3−2)式において、n=4とした場合、Score4=log(トラック尤度4)−log(上方物尤度4)=log(0.064)−log(0.031)として、Score4を算出することができる。
 
【0115】
<STEP4:トラック及び上方物の判別処理>
  不要物標除去部76は、上述のSTEP3で算出したScoreを閾値判定することにより、ターゲットがトラックであるか上方物であるかを判別する。すなわち、不要物標除去部76は、Scoreが、所定閾値上である場合にターゲットがトラックであると判定し、所定閾未満である場合にターゲットが上方物であると判定する。
 
【0116】
(実施形態1に係る物標情報導出処理)
  
図18Aは、実施形態1に係る物標情報導出処理を示すフローチャートである。信号処理部6は、物標情報導出処理を、一定時間(例えば、5msec秒)毎に周期的に繰り返す。物標情報導出処理の開始時点では、4つの受信部RXから信号処理部6へ、反射波RWが変換されたビート信号が入力される。
 
【0117】
  先ず、信号処理部6のフーリエ変換部62は、複数の個別受信部52のそれぞれから出力されるビート信号を対象に、高速フーリエ変換を行う(ステップS11)。次に、ピーク抽出部70は、フーリエ変換部62で生成された周波数スペクトラムから、所定の信号レベルを超えるピークを、送信信号の周波数が上昇するアップ区間及び周波数が下降するダウン区間のそれぞれの区間で抽出する(ステップS12)。
 
【0118】
  次に、角度推定部71は、アップ区間及びダウン区間それぞれについて、方位演算処理により、1つのピーク周波数の信号から、同一binに存在する複数の物標についての情報を分離し、それら複数の物標それぞれの角度を推定する(ステップS13)。
 
【0119】
  次に、ペアリング部72は、同一の物標Tに関するピーク同士を対応付け、自車両Aの前方に存在する複数の物標Tそれぞれに係る物標データを導出する(ステップS14)。次に、連続性判定部73は、過去処理で導出された物標データと、直近処理で導出された物標データとが同一の物標か否かの連続性を判定する(ステップS15)。
 
【0120】
  次に、フィルタリング部74は、過去処理及び直近処理のそれぞれの処理で導出された2つの物標データのパラメータ(縦距離、横距離、相対速度)を時間軸方向に平滑化して物標データ(内部フィルタデータ)を導出する(ステップS16)。次に、物標分類部75は、相対速度に基づき、各物標を、先行車、静止物(静止車両を含む)、対向車に分類する(ステップS17)。
 
【0121】
  次に、不要物標除去部76は、各物標のうち、上方物、下方物、雨等を不要物標として判定し、出力物標から除去する(ステップS18)。なお、ステップS18の処理のうち、上方物を出力物標から除去する処理については、
図18Bを参照して後述する。
 
【0122】
  次に、グループ化部77は、複数の物標データを同一物体の物標データとして1つに統合するグループ化を行う(ステップS19)。次に、物標情報出力部78は、導出された、もしくは外挿により導出された複数の物標データから所定数の物標データを出力対象として選択し、選択した物標データを車両制御装置2へ出力する(ステップS20)。ステップS20が終了すると、信号処理部6は、物標情報導出処理を終了する。
 
【0123】
(実施形態1に係る不要物標除去)
  
図18Bは、実施形態1に係る不要物標除去のサブルーチンを示すフローチャートである。
図18Bは、
図18Aに示すステップS18の不要物標除去のうち、実施形態1に係る上方物を除去する処理のフローを示す。
 
【0124】
  先ず、不要物標除去部76は、上述の(a1)〜(a6)の条件が充足されるか否かを判定した結果に基づいてトラック後端相当の基準物標を抽出する(ステップS18−1)。次に、不要物標除去部76は、ステップS18−1で抽出した基準物標を含む「車体エリア」に存在する静止物のペアリングデータ(フィルタリング前の瞬時値)を抽出する(ステップS18−2)。
 
【0125】
  次に、不要物標除去部76は、ステップS18−2で抽出したペアリングデータの総数(ペア総数)に基づき、ペア総数モデル63a及び上記(3−2)式から、Score1(ペア総数)を算出する(ステップS18−3)。次に、不要物標除去部76は、上記(4−2)式により算出した重心誤差に基づき、重心誤差モデル63b及び上記(3−2)式から、Score2(重心誤差)を算出する(ステップS18−4)。
 
【0126】
  次に、不要物標除去部76は、ステップS18−2で抽出したペアリングデータのバラつきを示す不偏標準偏差Vを算出し、不偏標準偏差Vに基づき、バラつきモデル63c及び上記(3−2)式から、Score3(バラつき)を算出する(ステップS18−5)。次に、不要物標除去部76は、上記(5)式により算出した平均基準パワー差に基づき、平均基準パワー差モデル63d及び上記(3−2)式から、Score4(平均基準パワー差)を算出する(ステップS16−8)。
 
【0127】
  次に、不要物標除去部76は、ステップS18−3〜ステップS18−6で算出したScore1〜Score4及び上記(3−1)式からScoreを算出する(ステップS18−7)。次に、不要物標除去部76は、ステップS18−7で算出したScoreが閾値以上であるか否かを判定する(ステップS18−8)。不要物標除去部76は、Scoreが閾値以上である場合(ステップS18−8:Yes)、ターゲットをトラックと判定する(ステップS18−9)。一方、不要物標除去部76は、Scoreが閾値未満である場合(ステップS18−8:No)、ターゲットを上方物と判定する(ステップS18−10)。不要物標除去部76は、ステップS18−9又はステップS18−10が終了すると、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0128】
(実施形態1に係るトラックと上方物の判別)
  
図19は、実施形態1に係るトラックと上方物の判別を説明する図である。
図19において、“ペア数:×”は、静止物のペアリングデータのペア総数が所定値未満である(少ない)ことを示し、“ペア数:○”は、ペア総数が所定値以上である(多い)ことを示す。また、“重心:×”は、上記(4−1)式から算出される“重心”が前方(車体エリアにおける基準物標側)もしくは後方(車体エリアにおける基準物標から最遠側)に偏ることを示し、“重心:○”は、“重心”が車体エリアにおける前方及び後方の中心付近に位置することを示す。また、“バラつき:×”は、上述の不偏標準偏差Vが所定値以上である(大きい)ことを示し、“バラつき:○”は、不偏標準偏差Vが所定値未満である(小さい)ことを示す。
 
【0129】
  図19の(a)に示すように、ターゲットがトラックである場合には、“ペア数”“重心”“バラつき”のいずれも“○”となる。その一方、
図19の(b)に示すように、ターゲットが上方物である場合には、“ペア数”“重心”“バラつき”の少なくとも1つが“×”となる。よって、Score1〜Score3にScore4を加えたScore1〜Score4の合計に基づき、ターゲットがトラックか上方物であるかを判別することができる。
 
【0130】
  実施形態1は、4つのパラメータを取得するたびに尤度変換し、これを毎回ベイズ更新して得られるロジット:log(トラック尤度/上方物尤度)を判定値として用い、判定値が閾値以上でトラックと判断し、トラック信頼度を高める。よって、実施形態1によれば、自車両の進行方向に検出された物標が自車両と衝突する物標か否か(例えばブレーキ制御等の車両制御が必要な物標か否か)を正確に判定でき、トラックやトレーラー等の大型車を比較的遠距離(例えばターゲットの手前約80m)から識別できるとともに検知率が改善し、ターゲット検知に基づく車両制御を適切なタイミング及び適切な指示で作動させることができる。
 
【0131】
[実施形態1の変形例]
・確率比Scoreについて
  実施形態1では、Scoreが閾値以上である場合にターゲットをトラックと判定し、閾値未満である場合にターゲットを上方物と判定する。しかし、これに限らず、ターゲットがトラックであるか否かを「トラックの信頼度」を閾値との比較により判定する場合に、「トラックの信頼度」に乗算する倍率CとしてScoreを換算して用いてもよい。すなわち、“閾値判定に用いるトラックの信頼度=C×(トラックの信頼度)”が所定閾値以上である場合に、当該ターゲットをトラックと判定する。
 
【0132】
  ここで、「トラックの信頼度」は、物標データがトラックに係るデータであるか否かを示す、例えば0〜100の範囲の値を取る指標であり、数値が高いほどトラックである可能性が高いことを示す。「トラックの信頼度」は、物標データに含まれる複数の情報(例えば「縦距離」「角度パワー」「外挿頻度」等)を用いて算出される。
 
【0133】
  例えば、閾値1>閾値2の2つの閾値を設けるとする。Score≧閾値1である場合は、倍率C=1とする。これは、「トラックの信頼度」が高いと判定できるため、「トラックの信頼度」をそのままトラックであるか否かの閾値判定に用いることを示す。また、閾値2≧Scoreである場合には、倍率C=0とする。これは、「トラックの信頼度」が低いと判定できるため、「トラックの信頼度」を0にしてトラックであると判定されないようにすることを示す。
 
【0134】
  また、閾値1>Score>閾値2である場合には、倍率C=(Score−閾値2)/(閾値1−閾値2)とする。すなわち、倍率Cは、Scoreが、閾値1及び閾値2間でどれだけの割合だけ閾値2を超過しているかを示す。例えば、C=0.5となった場合には、「トラックの信頼度」に0.5を乗じて算出した「閾値判定に用いるトラックの信頼度」をトラックであるか否かの閾値判定に用いることを示す。
 
【0135】
  このように、Scoreを「トラックの信頼度」に乗じる倍率Cへ変換することにより、トラックであるか否かの判定ラインに幅を持たせ、多様な要因を加味してより総合的にトラックを判別できる。
 
【0136】
[実施形態2]
(実施形態2に係るレーダ装置による物標検出の概要)
  実施形態1は、トラックやトレーラー等の大型車をより正確に検出するが、バス等の後端面が路面近くまで延びている構造の大型車は、その構造上ビームが下に潜り込むことができないため単体のピークしか検出できず、実施形態1では検出が難しい。これにより、ターゲットの信頼度が過小評価され、例えば20m以下の接近距離でしか検知できない場合がある。
 
【0137】
  そこで、実施形態2では、バス等の大型車は反射レベル(角度パワー)が高く、また反射点が安定しており、ターゲットに近づいたときの角度パワーの推移が特徴的であることに着目する。実施形態2は、この特徴を定量化したパラメータを用いてバス及び上方物の判定を行い、バスであると判断できれば信頼度を上げる。以下の実施形態2では、レーダ装置による検出のターゲットとなる車両がバスである場合を示すが、バスと類似のレーダ反射特性を有する車両も同様である。
 
【0138】
(バス及び上方物の角度パワーと距離)
  
図20Aは、バスの角度パワーと距離の関係を示す図である。
図20Bは、上方物の角度パワーと距離の関係を示す図である。バスは、上方物と比較して、次の(b1)〜(b4)の特徴を有する。実施形態2に係る不要物標除去部76A(
図2参照)は、次の(b1)〜(b4)の条件が充足されるか否かを判定した結果に基づいてバス及び上方物を判別する。
 
【0139】
(b1)角度パワーが、距離が近付くにつれて上昇する傾向がある(例えば、任意の第1の検知距離における角度パワーから、第1の検知距離より以遠の任意の第2の検知距離における角度パワーを減算した角度パワー差が正である割合が所定値以上)。
(b2)遠距離(例えば約80mよりも以遠)でスキャン毎の変動が小さい(例えば、変動が所定値以下)。
(b3)外挿頻度が低い(例えば、外挿率が所定値以下)。
(b4)遠距離(例えば約80mよりも以遠)で、マルチパスによる角度パワーの凸Nullの特徴が出現している。なお、“凸Null”とは、極大点の近傍で上に凸の曲線であり、極小点の近傍で例えばサイクロイド曲線の極小点近傍に類似する形状を取る曲線をいう。
 
【0140】
  上記(b1)の特徴は、
図20Aから読み取ることができる。上記(b2)の特徴は、
図20A及び
図20Bの枠囲み部分の比較から読み取ることができる。上記(b4)の特徴は、
図20Aの枠囲み部分から読み取ることができる。
 
【0141】
<平均凸Nullパワー算出>
  バスと上方物を判別するもとになる大きな特徴として、遠方におけるマルチパスによるパワー変動(凸Null)が挙げられる。すなわち、バスは緩やかに凸点及びNull点が観察される(凸Null頻度が低い)が、上方物はマルチパスの影響を強く受けるため凸Null頻度が高い。実施形態2では、単位距離における凸Null変化量(平均凸Nullパワー)を算出し、閾値判定に用いる。平均凸Nullパワーは、下記(6)式により算出される。
 
【0143】
  図21を参照して、平均凸Nullパワーの算出について説明する。
図21は、実施形態2に係る平均凸Nullパワー算出を説明する図である。遠距離から近距離へターゲットが接近し、その角度パワーが算出される都度、今回の角度パワーと、1回前の前回の角度パワーとのパワー差を算出する。そして、前回距離と、今回距離との距離差を算出する。そして、このパワー差と、距離差とを乗算する。この各乗算結果が、
図21に示す各方形の面積である。この各方形の面積を“凸Null面積”という。“凸Null面積”は、下記(7)式により算出できる。
 
【0145】
  そして、前回パワー差と今回パワー差の符号が一致する(すなわち変曲点でない)場合、“凸Null面積”の符号を“プラス(+)”と定義し、前回パワー差と今回パワー差の符号が異なる(すなわち変曲点である)場合、“凸Null面積”の符号を“マイナス(−)”と定義する。
図21では、斜線ハッチングしている“凸Null面積”を示す方形が“プラス符号の凸Null面積”である。また、ハッチングなしの“凸Null面積”を示す方形が“マイナス符号の凸Null面積”である。
 
【0146】
  上記(6)式の右辺の分母は、前回距離と、今回距離との距離差の累積値である。また、上記(6)式の右辺の分子は、符号付きの全ての“凸Null面積”の総和である。そして、上記(6)式のように、符号付きの全ての“凸Null面積”の総和を、前回距離と、今回距離との距離差の累積値で除算することで、“平均凸Nullパワー”を算出する。
 
【0147】
  このように、“平均凸Nullパワー”は、前回パワー差と今回パワー差の符号が同じ場合はプラス、異なる場合(変曲点)はマイナスされるので、凸Null頻度が高い上方物は負値もしくは0近傍の正値をとりやすく、バスは所定以上の正値をとりやすい。よって、“平均凸Nullパワー”を閾値判定することで、バス及び上方物を判別できる。なお、“平均凸Nullパワー”は、下方送信波TW1の反射波を受信して物標を検出するタイミング、及び、上方送信波TW2の反射波を受信して物標を検出するタイミングのそれぞれのタイミングで算出され、バス及び上方物の判別に用いられる。
 
【0148】
(実施形態2に係る不要物標除去)
  
図22は、実施形態2に係る不要物標除去のサブルーチンを示すフローチャートである。
図22は、
図18Aに示すステップS18の不要物標除去のうち、実施形態2に係る上方物を除去する処理のフローを示す。実施形態2に係る物標情報導出処理(
図18A参照)及び不要物標除去処理(
図22参照)は、実施形態2に係る不要物標除去部76A(
図2参照)が実行する。なお、不要物標除去部76Aは、実施形態2に係るレーダ装置1Aの信号処理部6Aのデータ処理部7Aに含まれる。
 
【0149】
  先ず、不要物標除去部76Aは、ターゲットとの距離が近付くにつれてビームパワーが上昇するか否かを判定する(ステップS18−11)。すなわち、不要物標除去部76Aは、上記(b1)の条件が満たされるか否かを判定する。不要物標除去部76Aは、ターゲットとの距離が近付くにつれてビームパワーが上昇する場合(ステップS18−11:Yes)、ステップS18−12へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Aは、ターゲットとの距離が近付くにつれてビームパワーが上昇しない場合(ステップS18−11:No)、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0150】
  ステップS18−12では、不要物標除去部76Aは、所定距離以遠においてスキャン毎のパワーの変動が所定値以下か否かを判定する。すなわち、不要物標除去部76Aは、上記(b2)の条件が満たされるか否かを判定する。不要物標除去部76Aは、所定距離以遠においてスキャン毎のパワーの変動が所定値以下の場合(ステップS18−12:Yes)、ステップS18−13へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Aは、所定距離以遠においてスキャン毎のパワーの変動が所定値より大の場合(ステップS18−12:No)、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0151】
  ステップS18−13では、不要物標除去部76Aは、ペアリングの際の外挿頻度が所定割合以下か否かを判定する。すなわち、不要物標除去部76Aは、上記(b3)の条件が満たされるか否かを判定する。不要物標除去部76Aは、ペアリングの際の外挿頻度が所定割合以下である場合(ステップS18−13:Yes)、ステップS18−14へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Aは、ペアリングの際の外挿頻度が所定割合より大である場合(ステップS18−13:No)、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0152】
  ステップS18−14では、不要物標除去部76Aは、上記(6)式から、“平均凸Nullパワー”を算出する。次に、不要物標除去部76Aは、ステップS18−14で算出した“平均凸Nullパワー”が閾値以上か否かを判定する。不要物標除去部76Aは、“平均凸Nullパワー”が閾値以上である場合(ステップS18−15:Yes)、ステップS18−16へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Aは、“平均凸Nullパワー”が閾値未満である場合(ステップS18−15:No)、ステップS18−17へ処理を移す。
 
【0153】
  ステップS18−16では、不要物標除去部76Aは、ターゲットをバスと判定する。また、ステップS18−17では、不要物標除去部76Aは、ターゲットを上方物と判定する。ステップS18−16又はステップS18−17が終了すると、不要物標除去部76Aは、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0154】
  実施形態2は、バスの反射波のパワーの上記(b1)〜(b4)の特徴を定量化したパラメータを用いてバス及び上方物の判定を行い、バスであると判断できれば信頼度を上げる。よって、実施形態2によれば、バス等の大型車を比較的遠距離(例えばターゲットの手前約80m)から識別できるとともに検知率が改善し、ターゲット検知に基づき車両制御を適切なタイミング及び適切な指示で作動させることができる。
 
【0155】
[実施形態3]
(実施形態3に係るレーダ装置による物標検出の概要)
  実施形態3は、レーダ装置による検出のターゲットとなる車両と、路上に存在するマンホール、路標、グレーチング等の路上物(以下、「下方物」という)とを、比較的遠距離から精度よく検出する。
 
【0156】
  すなわち、既存の路上物判定では、ターゲットの受信レベル(角度パワー)の変動を監視して静止車両及び下方物を判別している。しかし、レーダ装置の取付け高さや仰角等の搭載条件、ターゲットの形状によっては正確に判定できず、下方物を至近距離においても誤検出してしまう場合がある。また、下方物を誤検出しないようにレーダ装置を調整すると、静止車両の検知距離が短くなってしまうというジレンマがある。
 
【0157】
  そこで、実施形態3では、角度パワーの大きさ、マルチパスによる角度パワーの変化量(増幅量及び減衰量)、マルチパスの発生頻度の傾向を監視して、静止車両及び下方物を判断する。これにより、レーダ装置の搭載条件やターゲットの形状に因らない判別が可能になり、静止車両及び下方物を精度よく検知することができる。
 
【0158】
  図23は、実施形態3に係るレーダ装置による物標検出の概要を示す模式図である。実施形態3に係るレーダ装置1Bは、例えば自車両Aのフロントグリル内等の前方部位に搭載され、自車両Aの進行方向に存在する物標T(物標T1及びT3)を検出する。
図23に示す物標T3は、例えば自車両Aの進行方向の下方で静止する車両以外の下方物である。その他については、実施形態3に係るレーダ装置1Bは、実施形態1に係るレーダ装置1と同様である。
 
【0159】
(実施形態3に係るレーダ装置の構成)
  
図24は、実施形態3に係るレーダ装置の構成を示す図である。
図24に示すように、実施形態3に係るレーダ装置1Bは、信号処理部6B、記憶部63Bを含む。信号処理部6Bは、不要物標除去部76Bを含む。また、記憶部63Bは、後述する、初回検知パワー判定閾値63e、角度パワー判定閾値63f、角度パワー変動判定閾値63g、角度パワー変化量閾値63h、角度パワー振動率判定閾値63iを記憶する。その他の構成については、実施形態3に係るレーダ装置1Bは、実施形態1に係るレーダ装置1と同様である。
 
【0160】
(実施形態3に係る車両及び下方物の判別処理)
  以下、
図25〜
図30を参照して、実施形態3に係る不要物標除去部76Bが行う車両及び下方物の判別処理の詳細について、STEP1〜STEP5の順で説明する。実施形態3では、STEP1〜STEP5のいずれかの判定でターゲットが下方物であるとされると、そのターゲットは下方物であると判定する。
 
【0161】
<STEP1:初回検知角度パワー判定>
  下方物の反射レベルは、新規検出時が最も低く、距離が近くなるにつれて単調増加する特徴をもつ。実施形態3では、ターゲットが、トンネルやトラス橋等の周辺物が存在しない、レーダ装置1Bにとって良環境下の物標であると判断できた場合に、遠距離において新規検出時の角度パワーを用いて静止車両及び下方物を判別する。
 
【0162】
  図25は、新規検出角度パワーと距離の関係を示す図である。
図25から分かるとおり、“◇”で示す下方物の新規検知角度パワーは、130mの距離以下で、概ね−60dB以下である。よって、
図25において“●”で示すような閾値を設定することにより、新規検知角度パワーが閾値以下のターゲットは、下方物であると判定する。
 
【0163】
<STEP2:角度パワー判定>
  静止しているターゲットに近向するとき、反射レベルの距離推移の傾向は、静止車両及び路上物で、次のように異なる。すなわち、静止車両の反射波の角度パワー(瞬時値)は、マルチパスの影響により、凸(増幅)とNull(減衰)が繰り返し表れる。一方、下方物の反射波の角度パワーは、高さがないためマルチパスの影響が小さく、単純増加する。角度パワー(瞬時値)は、フーリエ変換部62(
図24参照)におけるFFTの結果を、物標の角度方向へ分解する方位演算の演算結果である。
 
【0164】
  図26は、角度パワー(瞬時値)と距離の関係を示す図である。
図26において“●”で示すような閾値を設定することにより、閾値より大の領域では、凸(増幅)とNull(減衰)が繰り返し表れる静止車両の反射波の角度パワーが現れている。一方、
図26において“●”で示す閾値以下の領域では、単純増加する下方物の反射波の角度パワーが現れている。よって、
図26において“●”で示すような閾値を設定することにより、角度パワー(瞬時値)が閾値以下のターゲットは、下方物であると判定する。
 
【0165】
<STEP3:角度パワー変動判定>
  実施形態3に係る角度パワー変動の算出は、既存手法を用いる。例えば、実施形態3に係る角度パワー変動は、実施形態2のステップS18−12において用いたパワー変動と同様に算出される。角度パワー変動が閾値以上のターゲットは、下方物であると判定する。
 
【0166】
<STEP4:角度パワー変化量判定>
  実施形態3に係る角度パワー変化量判定は、角度パワーの変化量(増幅量+減衰量)を用いて下方物の出力を抑制し、静止車両を検出する。これは、マルチパスによる反射レベルの変化が、物標高により異なることを用いている。静止車両の物標高>下方物の物標高である。
 
【0167】
  図27は、マルチパスを考慮した角度パワーの変化と距離の関係における静止車両及び下方物の角度パワーの変化を説明する図である。
図27から分かるとおり、静止車両は、物標高があるためマルチパスの影響が強く、反射レベルの変化が急峻な“凸Null”となっている。一方、下方物は、物標高が低いためマルチパスの影響が弱く、反射レベルの変化がなだらかな単調増加となっている。角度パワー変化量判定は、次のSTEP4−1:角度パワー差分算出及びSTEP4−2:角度パワー変化量算出を含む。
 
【0168】
・STEP4−1:角度パワー差分算出
  実施形態3に係るレーダ装置1Bは、1スキャン毎に上ビーム及び下ビームを交互に打ち分けている。角度パワー差分は、下記(8−2)式に基づき、今回角度パワーから前回角度パワーの減算を、上ビーム及び下ビーム毎に算出する。このとき、S/N(Signal  to  Noise)が低いことで、パワー差分が過剰に算出されるのを防ぐため、下記(8−1)式の条件に示すように、上ビーム及び下ビームそれぞれの今回角度パワー及び前回角度パワーは、例えば−55dB以上を用いる。
 
【0170】
・STEP4−2:角度パワー変化量算出
  下方物は、静止車両と比較すると、頻度は低いが、反射点の変化やマルチパスの影響を受けて、パワーがバラつくことがある。よって、頻度(確率)の違いに着目して、ある水準以上の角度パワー差分が算出された場合のみ、角度パワー変化量として積算する。
 
【0171】
  図28は、実施形態3に係る角度パワー差分布における角度パワーの変化量算出を説明する図である。
図28から分かるとおり、下方物の角度パワー差分は、静止車両の角度パワー差分と比較して分布のバラつきが小さく、概ね[−4.0,2.0]の範囲に分布する。しかし、下方物の角度パワー差分は、[−4.0,2.0]の範囲外であっても若干ながら分布する。よって、例えば“−4.0”及び“2.0”を角度パワー差分の積算対象とするか否かのボーダーラインとし、[−6.0,−4.0]及び[2.0,5.0]の範囲に分布する角度パワー差分の積算値が閾値以下のターゲットは、下方物であると判定する。
 
【0172】
<STEP5:角度パワー振動率判定>
  実施形態3に係る角度パワー振動率判定は、角度パワーの振動率(なめらかさ)を用いて下方物の出力を抑制し、静止車両を検出する。これは、物標との距離が近いとき、マルチパスによるパワー変動の発生頻度が物標高により異なることを用いている。
 
【0173】
  図29は、マルチパスを考慮した角度パワーの変化と距離の関係における静止車両及び下方物の角度パワーの変動の変化を説明する図である。静止車両の物標高>下方物の物標高であるが、
図29に示すように、物標高が高い静止車両の場合は物標との距離が近いほどマルチパスによるパワー変動の発生頻度が高い。角度パワー振動率判定は、次の角度パワー振動率算出を含む。
 
【0174】
・角度パワー振動率算出
  角度パワー振動率は、下記(9−2)〜(9−3)式に基づき、今回角度パワーと前々回角度パワーの平均値と、前回角度パワーの差分を算出する。角度パワー振動率は、上ビーム及び下ビームそれぞれ算出する。ただし、下記(9−1)式に示すように、今回値、前回値、前々回値は連続で正常検知しており、各角度パワーはいずれも−55dB以上であるとする。
 
【0176】
  そして、静止車両及び下方物の判定は、今回スキャンまでで算出した角度パワー振動率の最大値と最小値の差、すなわちレンジ(範囲)を用いる。
図30Aは、実施形態3に係る静止車両判定を説明する図である。
図30Bは、実施形態3に係る下方物判定を説明する図である。
図30Aに示すように、静止車両は、遠距離ではマルチパスによるパワー変動の間隔が広く、近距離ではパワー変動の間隔が狭い一方、
図30Bに示すように、下方物は、距離にかかわらずパワー変動の間隔が狭く、ほぼ一致するという特徴に基づいている。角度パワー振動率が閾値以下のターゲットは、下方物であると判定する。
 
【0177】
(実施形態3に係る不要物標除去)
  
図31は、実施形態3に係る不要物標除去のサブルーチンを示すフローチャートである。
図31は、
図18Aに示すステップS18の不要物標除去のうち、実施形態3に係る下方物を除去する処理のフローを示す。実施形態3に係る物標情報導出処理(
図18A参照)及び不要物標除去処理(
図31参照)は、実施形態3に係る不要物標除去部76B(
図24参照)が実行する。
 
【0178】
  先ず、不要物標除去部76Bは、初回検知角度パワーは閾値以下か否かを判定する(ステップS18−21)。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP1の初回検知角度パワー判定を行う。不要物標除去部76Bは、初回検知角度パワーが閾値以下の場合(ステップS18−21:Yes)、ステップS18−30へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Bは、初回検知角度パワーが閾値より大の場合(ステップS18−21:No)、ステップS18−22へ処理を移す。
 
【0179】
  ステップS18−22では、不要物標除去部76Bは、角度パワーは閾値以下か否かを判定する。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP2の角度パワー判定を行う。不要物標除去部76Bは、角度パワーが閾値以下の場合(ステップS18−22:Yes)、ステップS18−30へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Bは、角度パワーが閾値より大の場合(ステップS18−22:No)、ステップS18−23へ処理を移す。
 
【0180】
  ステップS18−23では、不要物標除去部76Bは、角度パワーの変動は閾値以上か否かを判定する。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP3の角度パワー変動判定を行う。不要物標除去部76Bは、角度パワーの変動が閾値以上の場合(ステップS18−23:Yes)、ステップS18−30へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Bは、角度パワーの変動が閾値より大の場合(ステップS18−23:No)、ステップS18−24へ処理を移す。
 
【0181】
  ステップS18−24では、不要物標除去部76Bは、角度パワー差分を算出する。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP4−1の角度パワー差分算出を行う。次に、不要物標除去部76Bは、角度パワー変化量を算出する(ステップS18−25)。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP4−2の角度パワー変化量算出を行う。
 
【0182】
  次に、不要物標除去部76Bは、角度パワー変化量が閾値以下か否かを判定する(ステップS18−26)。すなわち、不要物標除去部76Bは、上記STEP4の角度パワー変化量判定を行う。不要物標除去部76Bは、角度パワー変化量が閾値以下の場合(ステップS18−26:Yes)、ステップS18−30へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Bは、角度パワー変化量が閾値より大の場合(ステップS18−26:No)、ステップS18−27へ処理を移す。
 
【0183】
  ステップS18−27では、不要物標除去部76Bは、角度パワー振動率を算出する。次に、不要物標除去部76Bは、ステップS18−27で算出した角度パワー振動率のレンジが閾値以下か否かを判定する(ステップS18−29)。不要物標除去部76Bは、角度パワー振動率のレンジが閾値以下である場合(ステップS18−28:Yes)、ステップS18−30へ処理を移す。一方、不要物標除去部76Bは、角度パワー振動率のレンジが閾値より大の場合(ステップS18−28:No)、ステップS18−29へ処理を移す。
 
【0184】
  ステップS18−29では、不要物標除去部76Bは、ターゲットを静止車両と判定する。一方、ステップS18−30では、不要物標除去部76Bは、ターゲットを下方物と判定する。ステップS18−29又はステップS18−30が終了すると、不要物標除去部76Bは、
図18AのステップS19へ処理を移す。
 
【0185】
(実施形態3に係る静止車両及び下方物の判別の相互補完関係)
  
図32は、実施形態3に係る静止車両及び下方物の判別の相互補完関係を示す図である。
図32に示す“1.初回検知角度パワー判定”“2.角度パワー判定”“4.角度パワー変化量判定”“5.角度パワー振動率判定”の各グラフの上下幅は、各距離における各下方物判定の有効性を示す。なお、“3.角度パワー変動判定”は、検知距離に関わらず、静止車両及び下方物の判別の有効性は一定である。
 
【0186】
  図32によれば、例えば、“1.初回検知角度パワー判定”は、初回検知距離150〜80mで概ね一定の静止車両及び下方物の判別の有効性を有するが、初回検知距離80m未満では判別の有効性がないことを示す。また、例えば、“2.角度パワー判定”は、検知距離150〜120mで概ね一定の静止車両及び下方物の判別の有効性を有するが、検知距離120〜0mでは徐々に判別の有効性が低下することを示す。
 
【0187】
  また、例えば、“4.角度パワー変換量判定”は、検知距離150〜80mでは静止車両及び下方物の判別の有効性がないが、検知距離80〜40mで徐々に判別の有効性が上昇し、検知距離40〜20mで判別の有効性が概ね一定であり、検知距離20〜0mで判別の有効性が徐々に低下することを示す。
 
【0188】
  また、例えば、“5.角度パワー振動率判定”は、検知距離150〜120mでは静止車両及び下方物の判別の有効性がないが、検知距離120〜40mで徐々に判別の有効性が上昇し、検知距離40〜10mで判別の有効性が概ね一定であり、検知距離10〜0mで判別の有効性がないことを示す。
 
【0189】
  よって、
図32によれば、“1.初回検知角度パワー判定”“2.角度パワー判定”“3.角度パワー変動判定”“4.角度パワー変化量判定”“5.角度パワー振動率判定”の5つの判定を併用し、いずれかの判定で静止車両及び下方物のいずれであると判定され、その判定結果に基づき、ターゲットが静止車両又は下方物であるとすると、各判定方法による静止車両及び下方物の判別が有効である距離を相互補完し、静止車両及び下方物の判別をより精度よく行うことができることが分かる。
 
【0190】
  例えば、
図32に示すように、“1.初回検知角度パワー判定”“2.角度パワー判定”“3.角度パワー変動判定”“4.角度パワー変化量判定”“5.角度パワー振動率判定”の5つの判定をこの順序で行う。これにより、遠距離からでも静止車両及び下方物を判別できるとともに、中〜近距離に至っても静止車両及び下方物を精度よく判別できることが分かる。
 
【0191】
  実施形態3では、角度パワーの大きさ、マルチパスによる角度パワーの変化量(増幅量及び減衰量)、マルチパスの発生頻度の傾向をもとに、静止車両及び下方物を判断する。よって、実施形態3は、下方物の大きさや種類、下方物の検知距離、レーダ装置の搭載高や仰角、自車速度等のばらつきに対するロバスト性が向上し、静止車両及び下方物を比較的遠距離(例えばターゲットの手前約150m)から識別できるとともに検知率が改善し、ターゲット検知に基づき車両制御を適切なタイミング及び適切な指示で作動させることができる。
 
【0192】
  実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を手動的に行うこともできる。もしくは、実施形態において説明した各処理のうち、手動的に行われるものとして説明した処理の全部又は一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
 
【0193】
  また、実施形態において説明した各部の統合及び分散は、処理負荷や処理効率をもとに適宜変更することができる。この他、上述及び図示の処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて適宜変更することができる。
 
【0194】
  さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、開示の技術のより広範な態様は、上述のように表しかつ記述した特定の詳細及び代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲及びその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。