【解決手段】車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32と、前記状態検出部の検知状態に基づいて提示対象の乗員に対する方向を特定する提示方向決定部10と、前記方向識別部が特定した目的の方向を前記乗員に提示するための音響を出力する音提示部20とを備え、前記音響出力部は目的の近く方向D1を示す報知音So1を出力する前に、前記第1の音響とは前記乗員の知覚方向D2が異なる気づかせ音So2を出力する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術では、警報音を出力する前に別の種類のマーカー音を出力するので、運転者の意識をマーカー音の方向に向けることができる。このマーカー音を用いた予告により、運転者が警報音に気づきやすくなる。つまり、マーカー音の方向と警報音の出力を開始する方向とが同じなので、運転者はマーカー音を知覚した方向と同じ方向に意識を集中することで、その後に出力される警報音に気づきやすくなる。しかしながら、もしも運転者がマーカー音の方向自体を知覚しにくい状況であれば、その後に出力される警報音にも気づきにくくなると考えられる。
【0009】
例えば特許文献2に示されているように、特定の周波数帯の音響を用いる場合には、音像の定位方向とは無関係に、音響の聴取者は周波数帯に応じて「前方向」、「後ろ方向」、または「上方向」として知覚する傾向があることが知られている。したがって、前記マーカー音として採用した信号の周波数が不適切である場合は、運転者がマーカー音の方向自体を知覚しにくい状況になるか、あるいは前記マーカー音を知覚する方向が警報音の方向とずれる可能性がある。
【0010】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、方向を提示する音響に聴取者が気づきやすくすることが可能な車両用方向提示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車両用方向提示装置は、下記(1)〜(5)を特徴としている。
(1) 車両に搭載され、乗員に対し方向を提示する車両用方向提示装置であって、
前記車両上の状態、および前記車両の周辺の状況の少なくとも一方を検知する状態検出部と、
前記状態検出部の検知状態に基づいて、提示対象の前記乗員に対する方向を特定する方向識別部と、
前記方向識別部が特定した方向を前記乗員に対して提示するための第1の音響を含む音響を出力する音響出力部と、
を備え、
前記音響出力部は、前記第1の音響とは前記乗員の知覚方向が異なる第2の音響を出力し、所定の消音区間時間を経過した後で、前記第1の音響を出力する
ことを特徴とする
【0012】
上記(1)に記載の車両用方向提示装置によれば、第1の音響と第2の音響とで、前記乗員の知覚方向が明確に異なるので、乗員は違う方向から聞こえる第2の音響と第1の音響とを順番に知覚することになる。したがって、乗員は方向が違う第1の音響と第2の音響とを比較して大きな変化を認識することができる。これにより、乗員は報知音である前記第1の音響が出力されることに気づきやすくなり、第1の音響の方向も知覚しやすい状態になる。また、第2の音響と第1の音響とが不連続で、つまり断続的に出力されるので、乗員は前記第2の音響の出力終了と、第1の音響の出力開始と、方向の変化とをそれぞれ明確に知覚することになり、第1の音響が出力されることに気づきやすくなる。
【0013】
(2) 上記(1)に記載の車両用方向提示装置であって、
前記音響出力部は、前記第2の音響の出力を継続する時間の長さを、前記第1の音響の出力を継続する時間の長さよりも短い時間に定める、
ことを特徴とする。
【0014】
上記(2)に記載の車両用方向提示装置によれば、第2の音響の出力を継続する時間の長さが目的の方向を示す第1の音響の出力を継続する時間よりも十分に短いため、第2の音響で知覚する方向よりも第1の音響で知覚する方向を強く感じさせることができる。
【0015】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の車両用方向提示装置であって、
前記音響出力部は、前記第2の音響の出力の大きさを、前記状態検出部の検知状態に基づいて決定する、
ことを特徴とする。
【0016】
上記(3)に記載の車両用方向提示装置によれば、第2の音響の出力の大きさを変えることができるため、乗員に対し第1の音響をより明確に方向知覚させる必要がある状態では、第2の音響の出力を大きくすることにより乗員に明確に方向知覚させ強く注意喚起を行うことが可能となり、これ以外の状態では、第2の音響の出力を小さくし、乗員に与える煩わしさを低減することができる。
【0017】
(4) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の車両用方向提示装置であって、
前記音響出力部は、互いに異なる位置に配置された音響出力デバイスを利用し、前記乗員に目標とする方向を知覚させるための音を音響間でバランスの調整をする、
ことを特徴とする。
【0018】
上記(4)に記載の車両用方向提示装置によれば、音響間の時間差や位相差などのバランス調整により、例えば水平面内の様々な方向に音像を定位させることが可能であり、乗員に対して様々な方向を提示できる。また、第1の音響の方向と第2の音響の方向とをそれぞれ所望の方向に変更できる。
【0019】
(5) 上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の車両用方向提示装置であって、
前記音響出力部は、1つ以上の音響出力デバイスを利用し、前記乗員に目標とする方向を知覚させるための音の周波数を調整する、
ことを特徴とする。
【0020】
上記(5)に記載の車両用方向提示装置によれば、音響の周波数を調整することができるので、音響の方向決定帯域を利用して、乗員に対して前後方向を提示できる。また、音響出力デバイスを複数利用する場合には、前後方向に加え左右方向も提示できる。また、第1の音響の方向と第2の音響の方向とをそれぞれ所望の方向に変更できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の車両用方向提示装置によれば、方向を提示する音響に乗員が気づきやすくすることが可能である。すなわち、第1の音響と第2の音響とで、乗員の知覚方向が明確に異なるので、乗員は違う方向から聞こえる第1の音響と第2の音響とを順番に知覚することになる。したがって、乗員は方向が違う第1の音響と第2の音響とを比較して大きな変化を認識することができる。これにより、乗員は報知音である第1の音響が出力されることに気づきやすくなり、第1の音響の方向も知覚しやすい状態になる。
【0022】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0025】
まず、車両用方向提示装置の概要について説明する。
本発明の車両用方向提示装置は、車両上で運転者などの乗員に対して音響により方向を提示する機能を有している。例えば、運転者の視点位置から見て死角となる位置に存在する自車両周辺の他車両、歩行者、障害物のような物体や、天候などの影響により視界不良の状況になり視認しにくい物体については、それを運転者が認識する前に、センサ等で検知して運転者に物体の方向を提示することにより安全運転を支援することができる。また、例えば車両上で何らかのトラブルが発生している場合に、トラブルの発生箇所の方向を提示することにより、トラブルを解消するための操作を運転者が素早く行うことも可能になる。
【0026】
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100の構成例を
図1に示す。
図1に示した車両用方向提示装置100は、提示方向決定部10、音提示部20、車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32、4つのスピーカ34FR、34FL、34RR、および34RLを備えている。4つのスピーカ34FR、34FL、34RR、および34RLは、それぞれ聴取者37である運転者の周囲の右前、左前、右後、および左後の各位置に設置されている(
図3参照)。なお、設置するスピーカの数は必要に応じて増減できる。
【0027】
提示方向決定部10は、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11と、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12との少なくとも一方に基づいて、提示すべき方向を決定し、提示方向信号SG14を生成する。また、音響出力のオンオフ制御および断続制御をするために提示方向決定部10は音出力オンオフ信号SG13を出力する。
この音出力オンオフ信号SG13が正弦波信号発生器21および22の制御入力に印加される。つまり、
図9に示した波形WA、WBにおいて、時刻t2−t3の区間、時刻t4−t5の区間などで波形出力を周期的に停止するために音出力オンオフ信号SG13を利用している。
【0028】
音提示部20は、提示方向決定部10が出力する提示方向信号SG14および音出力オンオフ信号SG13に従い、指定された方向を音響として聴取者に提示するために必要な右前出力信号SG15FR、左前出力信号SG15FL、右後出力信号SG15RR、および左後出力信号SG15RLを生成する。
【0029】
車両状態検出部31は、必要に応じて自車両における様々な状態を検出し、何らかの方向と関連のある車両状態信号SG11を出力する。具体例としては、車両状態検出部31として、車載カメラ、ドアスイッチ、トランクスイッチ、車輪の空気圧センサ等を用いることが考えられる。例えば、自車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のいずれかに空気圧の異常が発生したことを検知した場合は、右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のうち異常が発生した箇所を特定可能な車両状態信号SG11を出力する。車両状態検出部31は、自車両に搭載された1つ以上のセンサであってもよいし、様々なセンサが接続された電子制御ユニット(ECU)であってもよい。
【0030】
車両周辺情報検出部32は、自車両の周辺における様々な情報を検知して車両周辺情報SG12を出力する。例えば、自車両の進行方向に存在する他車両、歩行者、障害物や、自車両に接近する他車両などを車両周辺情報検出部32が検知する。車両周辺情報検出部32は、例えば自車両の周辺の様々な映像を撮影するカメラと映像の内容を自動的に認識する認識装置とを組み合わせて構成することもできるし、レーザ光やミリ波などを用いて自車両の周辺の障害物等を検知するレーダ装置として構成することもできるし、ITSから得られた情報でも構成できる。
【0031】
スピーカ34FR、34FL、34RR、および34RLは、それぞれ電気信号として入力される右前出力信号SG15FR、左前出力信号SG15FL、右後出力信号SG15RR、および左後出力信号SG15RLを音響に変換して出力する。
【0032】
例えば、
図4に示すようにスピーカ34FRおよび34FLは聴取者37である運転者の前方の右および左にそれぞれ配置され、スピーカ34RRおよび34RLは運転者の後方の右および左にそれぞれ配置される。
【0033】
なお、実際に使用するスピーカ等の音響出力デバイスについては、車室内に固定されているメータ内蔵スピーカ、オーディオ用スピーカや、ユーザが車内に持ち込む機器に搭載されているデバイス(スマートフォン内蔵スピーカ、ヘッドマウントディスプレイ付属スピーカ、ヘッドホン等)や、一般的なスピーカ以外のブザー、パラメトリックスピーカなどを利用可能である。
【0034】
車両用方向提示装置100が出力する音の出力タイミングの例を
図2に示す。
図2において、横軸は時間(t)を表し、縦軸は音の振幅の大きさを表す。
【0035】
図2に示すように、本実施形態の車両用方向提示装置100は、方向を提示する際に、報知音So1と気づかせ音So2とを出力する。報知音So1が提示する方向を示す音の本体であり、気づかせ音So2は報知音So1を聴取者37に気づかせるための補助的な音である。ここで、気づかせ音So2に対して聴取者37が知覚する方向と、報知音So1に対して聴取者37が知覚する方向とは明確に異なる。
【0036】
また、
図2に示した例のように、気づかせ音So2は、報知音So1よりも時間的に先行した時刻t1で出力を開始し、比較的短い時間長T1だけ出力される。また、気づかせ音So2の出力が終了した時刻t2の後、更に時間長T2の音出力停止区間が経過した後の時刻t3で、報知音So1の出力が開始される。
【0037】
また、報知音So1は自車両の状態や他車両等の状態に応じて方向の提示が必要な時に出力されるので、比較的長い時間(時間長T3)にわたって出力が継続される。したがって、(T1<T3)の状態になる。
【0038】
次に、出力する音の具体例について説明する。
車室内の聴取者37と各スピーカ34FL、34FR、34RL、34RRとの位置関係および音の知覚方向D1、D2の例を
図3に示す。また、各スピーカの音出力状態の例(1)を
図4(A)および
図4(B)に示す。
図4(A)は気づかせ音を出力している状態、
図4(B)は報知音を出力している状態を示す。また、自車両と接近する他車両との位置関係の例を
図5に示す。
【0039】
図5に示すように、他車両が自車両の右後ろ側から接近している状況においては、自車両の運転者に対して、右後方に注意する必要があることを示す報知音を出力することにより、安全な運転を支援することができる。このような報知音を
図1に示した車両用方向提示装置100が出力する。
【0040】
つまり、
図3に示すように、報知音So1の知覚方向D1が右後方になるように車両用方向提示装置100が音を出力する。また、運転者である聴取者37がこの報知音So1に気づきやすくなるように、報知音So1に先行して気づかせ音So2を出力する。気づかせ音の知覚方向D2は、例えば
図3に示すように報知音の知覚方向D1の反対方向とすることができる。
【0041】
図4(A)および
図4(B)においては、4つのスピーカ34FL、34FR、34RL、および34RRの中で、太い実線で示したスピーカのみから音を出力している。
【0042】
例えば、
図4(A)の例では左前のスピーカ34FLと、右前のスピーカ34FRと、左後のスピーカ34RLとの3つから同時にほぼ同じ大きさの音を出力しているので、これらの音響全体の音量バランスにより聴取者37に対して左前方に音像が定位する。つまり、聴取者37は
図3に示す「D2」の方向を知覚することになる。
【0043】
一方、
図4(B)において、右後方のスピーカ34RRのみから音を出力しているので、この音により、聴取者37に対して右後方に音像が定位する。つまり、聴取者37は
図3に示す「D1」の方向を知覚することになる。
【0044】
したがって、
図2に示した時刻t1−t2の区間で
図4(A)に示すような状態で音を出力し、時刻t3−t4の区間で
図4(B)に示すような状態で音を出力すれば、
図3に示すように「D2」方向に聴取者37が知覚する気づかせ音So2を出力し、更に「D1」方向に聴取者37が知覚する報知音So1を出力することができる。
【0045】
なお、
図4(A)および
図4(B)は最も単純な方向の制御例を示しており、実際には知覚する方向を精密に調整することができる。すなわち、前後左右の音量のバランスや、前後左右の音の位相差や、前後左右の音の到達時間差を利用して、音像が定位する方向を細かく制御して聴取者37の知覚する方向を変更できる。
【0046】
なお、
図4(A)および
図4(B)の例では、報知音So1を聴取者37に気づかせるために、報知音の知覚方向D1と気づかせ音の知覚方向D2とを反対方向に向けているが、必ずしも反対方向である必要はない。つまり、報知音の知覚方向D1と気づかせ音の知覚方向D2とが異なっていれば、これらの間の違いを聴取者37が知覚できるので、気づかせ音So2の影響により報知音So1に気づきやすくなる。
【0047】
本発明の実施形態における車両用方向提示装置100の制御手順の例を
図6に示す。
図6の制御手順について以下に説明する。
【0048】
ステップS11では、
図1に示した提示方向決定部10が状態の検出処理を実行する。すなわち、車両状態検出部31が出力する車両状態信号SG11や、車両周辺情報検出部32が出力する車両周辺情報SG12を提示方向決定部10が入力し、提示対象(例えば他車両の存在する位置)の方向を識別したり、方向提示の必要性の大小を識別する。
【0049】
提示方向決定部10は、S11で方向を提示する必要があると認識した場合は、ステップS12からS13に進む。ステップS13では、目的の提示方向、つまり報知音の知覚方向D1を提示方向決定部10が決定する。例えば
図5に示すような状況であれば、提示方向決定部10が報知音の知覚方向D1を「右後方」に定める。
【0050】
ステップS14では、提示方向決定部10は、S13で決定した報知音の知覚方向D1に基づいて気づかせ音の知覚方向D2を決定する。ここで、気づかせ音の知覚方向D2が報知音の知覚方向D1に対して明確に異なるように決定することが重要である。例えば、
図3に示したように気づかせ音の知覚方向D2が、報知音の知覚方向D1の反対方向になるように定めることで、この気づかせ音を効果的に利用できる。つまり、報知音So1と気づかせ音So2との方向の違いが大きいため、大きな変化を知覚することになり、聴取者37が報知音So1に気づきやすくなる。
【0051】
ステップS15では、提示方向決定部10が「気づかせ音の知覚方向D2」を示す提示方向信号SG14を出力すると共に、音出力オンオフ信号SG13をオンにする。これにより、スピーカ34FL、34FR、34RL、および34RRの少なくとも1つから気づかせ音So2の音響出力が開始される。
【0052】
気づかせ音So2の音響出力を開始してから所定の時間長T1を経過すると、ステップS16からS17に進む。つまり
図2の時刻t2では、提示方向決定部10は音出力オンオフ信号SG13をオフに切り替えて音響出力を一時停止する。
【0053】
また、ステップS17で音響出力を一時停止してから一定の時間長T2が経過すると、ステップS18からS19に進む。ステップS19では、提示方向決定部10はS13で決定した「報知音の知覚方向D1」を示す提示方向信号SG14を出力すると共に、音出力オンオフ信号SG13をオンに切り替える。これにより、スピーカ34FL、34FR、34RL、および34RRの少なくとも1つから報知音So1の音響出力が開始される。
【0054】
ステップS20では、S11と同様に、提示方向決定部10が最新の車両状態信号SG11や、車両周辺情報SG12を入力し、提示対象の方向を識別したり、方向提示の必要性の大小を識別する。そして、次のステップS21では、S20の処理結果に基づき、提示方向決定部10が報知音の知覚方向D1を最新の情報に更新する。
【0055】
ステップS22では、S20における処理結果から方向提示が必要な状態が継続しているか否かを提示方向決定部10が識別し、方向提示が必要な状態であればS19に戻り、方向提示が不要な状態であればS23に進む。
【0056】
ステップS23では、提示方向決定部10は音出力オンオフ信号SG13をオフに切り替えて音響の出力を終了する。
【0057】
次に、使用する音源の具体例について説明する。
図2に示した報知音So1および気づかせ音So2を実際に出力する場合には、次に示すように様々な信号を音源として利用することが考えられる。
(1)人工的に生成した矩形波やのこぎり波のような単調な波形の信号を利用する。
(2)正弦波などの複数の波形を合成して使用する。
(3)ホワイトノイズなどの人工的に生成したノイズ信号を用いる。
(4)環境音を収集しこれを増幅した信号波形を用いる。
【0058】
しかし、使用する音源の種類によっては、報知音としてふさわしい音でなかったり、方向を知覚しにくい音であったりするので、車両用方向提示装置100の場合には適切な音源を採用することが非常に重要である。
【0059】
また、音響を用いて方向を提示する場合に、音像を定位させたい位置から受聴者の耳までの音響伝達特性を考慮したり、人間の頭部伝達関数を利用することにより、所望の位置に音像を定位させることが可能である。しかし、頭部伝達関数については個人差が大きく、受聴ポイントの位置ずれの影響も受けやすいため、誤差が大きくなるという難点がある。
【0060】
そこで、本発明の車両用方向提示装置100の好ましい実施形態においては、報知音So1および気づかせ音So2の少なくとも一方を出力する際に、聴取者37が特定の方向を知覚する特性を有する周波数帯、つまり「方向決定帯域」の音響を利用して方向を提示する。なお、「方向決定帯域」を使う場合には使用するスピーカの数は最小1つに減らすことができる。
【0061】
次に、「方向決定帯域」について説明する。
図7(A)、
図7(B)、および
図7(C)に、聴取者と知覚する方向との関係を示す。
図7(A)のグラフにおいて、縦軸は相対頻度[%]、横軸は周波数[Hz、kHz]を表している。このグラフには、3つの特性曲線Cv、Ch、およびCoが示されている。また、
図7(B)は上方から見た聴取者と各方向との関係を示し、
図7(C)は左側方から見た聴取者と各方向との関係を示している。
【0062】
つまり、「Blauert」が定義しているように、狭帯域ノイズを聴取者に対して正中面内から提示すると、生じる音像の方向は音源方向と関係なく、刺激の中心周波数に依存して知覚される。このような音像方向を決定する周波数帯域を方向決定帯域(Directional Band)と定義する。
【0063】
図7(A)に示したグラフを得るための実験においては、音源としては、ホワイトノイズから抽出した一部の特定帯域の信号成分を利用している。このような音源について、正中面に配置したスピーカから周波数を変更しながら実際に音響を出力し、各聴取者が知覚した方向を特定するデータを取得した。そして、多数の聴取者が知覚した方向の相対頻度と周波数との関係を3つの特性曲線Cv、Ch、およびCoとして
図7(A)に示してある。
【0064】
つまり、
図7(B)、
図7(C)に示す「前」方向として各聴取者が知覚した相対頻度が特性曲線Cvとして示され、「後」方向として知覚した相対頻度が特性曲線Chとして示され、「上」方向として知覚した相対頻度が特性曲線Coとして示されている。
【0065】
例えば、
図7(A)に示した特性曲線Cvを参照すると、315〜500[Hz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B1)と、3.15〜5[kHz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B3)とで高い相対頻度が得られている。また、
図7(A)に示した特性曲線Chを参照すると、800〜1600[Hz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B2)と、10〜12.5[kHz]程度の範囲内の周波数帯(方向決定帯域B5)とで高い相対頻度が得られている。
図7(A)に示した特性曲線Coを参照すると、8[kHz]近傍の比較的狭い範囲内の周波数帯(方向決定帯域B4)で高い相対頻度が得られている。
【0066】
つまり、音の発生位置が正中面に固定されている場合であっても、不特定の聴取者が知覚する方向は、周波数の違いに応じて
図7(A)のように変化する。また、
図7(A)に示す特性曲線Cvから、B1、B3の各周波数帯域は聴取者に「前方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。また、
図7(A)に示す特性曲線Chから、B2、B5の各周波数帯域は聴取者に「後方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。
図7(A)に示す特性曲線Coから、B4の周波数帯域は聴取者に「上方向」を知覚させるための方向決定帯域として利用できることが分かる。
【0067】
したがって、
図7(A)に示す方向決定帯域B1、B2、B3、B4、およびB5を選択的に使用して作成した音響を出力することにより、聴取者が知覚する「前方向」、「後方向」、および「上方向」を制御することができる。
【0068】
「方向決定帯域」を使用する音提示部20の構成例(1)を
図8に示す。また、提示する音を構成する各成分の波形および周波数の例を
図9に示す。
【0069】
なお、
図8に示す音提示部20と同等の機能を実現する装置については、構成上の様々な変形が考えられる。例えば、アナログ電気回路で構成することもできるし、デジタル回路で構成することもできるし、マイクロコンピュータを主体とする回路とソフトウェアとの組み合わせで構成することもできる。したがって、
図8に示した複数の構成要素を一体化したり、複数の構成要素の接続関係を変更したり、各構成要素をソフトウェアで置き換えるような変更も考えられる。
【0070】
図8に示した音提示部20について以下に説明する。この音提示部20は、正弦波信号発生器21、22、周波数選択部23、信号合成部26、左右バランス調整部27、および増幅器28、29を備えている。
【0071】
正弦波信号発生器21は、周波数が可変の正弦波を正弦波信号SG21として出力することができる。この正弦波信号SG21は、
図9に示した(音A)の波形WAに相当する信号である。また、正弦波信号発生器21は、出力する信号の周波数を決定するための制御入力と、出力する信号のオンオフを切り替える制御入力とを備えている。前者の制御入力には周波数制御信号SG23が印加され、後者の制御入力には音出力オンオフ信号SG13が印加される。
【0072】
正弦波信号発生器22は、周波数が可変の正弦波を正弦波信号SG22として出力することができる。この正弦波信号SG22は、
図9に示した(音B)の波形WBに相当する信号である。また、正弦波信号発生器22は、出力する信号の周波数を決定するための制御入力と、出力する信号のオンオフを切り替える制御入力とを備えている。前者の制御入力には変調周波数制御信号SG24が印加され、後者の制御入力には音出力オンオフ信号SG13が印加される。
【0073】
周波数選択部23は、
図1に示した提示方向決定部10から出力される提示方向信号SG14に従って、適切な方向決定帯域の周波数を選択するための周波数制御信号SG23を生成する。この周波数制御信号SG23が、正弦波信号発生器21の制御入力に印加される。
また、周波数選択部23は、
図9に示した特性曲線CBと同等の波形が周期的に現れる変調周波数制御信号SG24を生成する。この変調周波数制御信号SG24が正弦波信号発生器22の変調入力に印加される。
【0074】
信号合成部26は、正弦波信号発生器21が出力する正弦波信号SG21と、正弦波信号発生器22が出力する正弦波信号SG22とを加算してその結果を合成信号SG26として出力する。つまり、合成信号SG26は、
図9に示した波形WAと波形WBとを合成したものとなる。
【0075】
左右バランス調整部27は、信号合成部26から出力される合成信号SG26に基づいて、左側出力信号SG27Lおよび右側出力信号SG27Rを生成する。また、左右バランス調整部27は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG27Lと右側出力信号SG27Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
【0076】
例えば、聴取者37から見て左側に音源が存在するように音量バランスを調整する場合には、左側出力信号SG27Lの振幅を大きくして、同時に右側出力信号SG27Rの振幅を小さくするように左右バランス調整部27が制御する。
【0077】
増幅器28は、左側出力信号SG27Lを増幅して左側のスピーカを駆動するのに十分な電力の左側出力信号SG15Lを出力する。この左側出力信号SG15Lが左側のスピーカ34FLまたは34RLに印加される。増幅器29は、右側出力信号SG27Rを増幅して右側のスピーカを駆動するのに十分な電力の右側出力信号SG15Rを出力する。この右側出力信号SG15Rがスピーカ34FRまたは34RRに印加される。
【0078】
次に、音提示部20の動作について説明する。
図8に示した音提示部20においては、入力される提示方向信号SG14に従って、適切な方向決定帯域内の周波数を選択するための周波数制御信号SG23、変調周波数制御信号SG24を周波数選択部23が生成する。そして、周波数制御信号SG23に従って、正弦波信号発生器21、変調周波数制御信号SG24に従って正弦波信号発生器22がそれぞれ適切な方向決定帯域内の周波数を選択する。
【0079】
例えば、提示方向信号SG14の提示方向が「後方向」である場合は、
図7に示した方向決定帯域B2内の周波数を正弦波信号発生器21および22がそれぞれ選択する。そして、
図9に示す(音A)の波形WAのように、例えば周波数が1[kHz]の正弦波を正弦波信号発生器21が生成する。また、
図9に示す(音B)のように、例えば周波数が800〜1600[Hz]の範囲の正弦波を正弦波信号発生器22が生成する。
【0080】
また、正弦波信号発生器22が生成する正弦波は周波数選択部23が出力する変調周波数制御信号SG24によって周波数変調されるので、正弦波信号SG22の周波数は、
図9に示す(音B)のように、例えば周波数が800〜1600[Hz]の範囲で周期的に変動する。
【0081】
また、正弦波信号発生器21および22は、それぞれの制御入力に印加される音出力オンオフ信号SG13に従って信号出力のオンオフを周期的に切り替えるので、正弦波信号SG21およびSG22のそれぞれは、
図9に示す波形WA、WBのように断続的に現れる。
【0082】
また、正弦波信号発生器21が出力する正弦波信号SG21と正弦波信号発生器22が出力する正弦波信号SG22とを信号合成部26で合成するので、
図9に示した(音A)、(音B)の各信号成分を同時に同じスピーカ34FLおよび34FRからそれぞれ出力することができる。
【0083】
また、スピーカ34FLおよび34FRから出力される音響は、
図9に示した(音A)の波形WA、および(音B)の波形WBを含み、これらの周波数は提示方向信号SG14に従って選択されたいずれかの方向決定帯域内の周波数である。したがって、選択された方向決定帯域の違いにより、聴取者37は「前方向」、「後方向」、「上方向」のいずれかを知覚できる。
【0084】
更に、提示方向信号SG14に従って、左右バランス調整部27が左右の音量バランスを自動的に調節するので、聴取者37は左右の方向の違いも知覚できる。
【0085】
なお、
図9に示す例では波形WA、WBの振幅が一定の場合を示しているが、出力する音響の振幅を変調してもよい。そして、一般的な車載機器が出力する報知音のように、例えば「ポーン」のように聞こえる音を出力してもよい。
【0086】
<音提示部20の変形例>
「方向決定帯域」を使用する音提示部20の構成例(2)を
図10に示す。なお、
図10に示した主要な構成要素については、アナログ電気回路で構成することもできるし、デジタル回路で構成することもできるし、マイクロコンピュータを主体とする回路とソフトウェアとの組み合わせで構成することもできる。
【0087】
図11に示した音提示部20Cは、マイク41、周波数フィルタ42、方向決定帯域選択部43、左右バランス調整部44、位相調整部45、46、および増幅器28、29を備えている。
【0088】
マイク41は、例えば車室内の運転席に着座している運転者に相当する聴取者37の顔の前方に配置される。もちろん、車室内の別の位置にマイク41を設置してもよいが、聴取者37に聞こえる環境音と同等の音を集音できる位置に配置するのが好ましい。このマイク41は、車室内で集音可能な様々な環境音を集音し、集音した音を電気信号に変換して環境音信号SG41として出力する。この環境音には、例えば自車両の走行に伴って発生する走行音、エンジン音、車室内のオーディオ装置などが出力する音楽等の音、自車両の周囲で発生した環境騒音などが含まれる。
【0089】
周波数フィルタ42は、環境音信号SG41を入力し、不要な周波数成分を除去した結果を信号SG42として出力する。つまり、音源として使用する環境音信号SG41の中で、必要な周波数成分のみを抽出する。具体的には、
図7(A)に示した方向決定帯域B1〜B5の各々に該当する周波数以外の成分を周波数フィルタ42で除去する。したがって、環境音信号SG41の中の、方向決定帯域B1〜B5の周波数成分のみが信号SG42に現れる。
【0090】
方向決定帯域選択部43は、抽出する周波数が可変のフィルタであり提示方向信号SG14に従って、信号SG42の中から選択した特定の周波数成分のみを方向決定帯域信号SG43として出力する。
【0091】
例えば、提示方向信号SG14が「前方向」の場合には、方向決定帯域B1またはB3内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「後方向」の場合には、方向決定帯域B2またはB5内の周波数成分を選択的に抽出し、提示方向信号SG14が「上方向」の場合には、方向決定帯域B4内の周波数成分を選択的に抽出する。
【0092】
左右バランス調整部44は、方向決定帯域信号SG43を入力し、これと同等の信号を左側出力信号SG44L、および右側出力信号SG44Rとして出力する。また、左右バランス調整部44は提示方向信号SG14に従って、左側出力信号SG44Lと、右側出力信号SG44Rとの間の音量バランスを自動的に調整する。
【0093】
例えば、提示方向信号SG14が「左方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を大きくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を小さくするように音量バランスを調整する。逆に、提示方向信号SG14が「右方向」の成分を含む場合には、左側出力信号SG44Lの振幅を小さくすると共に、右側出力信号SG44Rの振幅を大きくするように音量バランスを調整する。
【0094】
位相調整部45は、左側出力信号SG44Lを入力し、位相を調整した結果を左側出力信号SG27Lとして出力する。位相調整部46は、右側出力信号SG44Rを入力し、位相を調整した結果を右側出力信号SG27Rとして出力する。
【0095】
次に、音源の選択について説明する。例えば、
図8に示した音提示部20の構成を採用することにより、正弦波等の波形を音源として報知音So1および気づかせ音So2を出力することができる。また、
図10に示した音提示部20Cの構成を採用することにより、環境騒音などの波形を音源として報知音So1および気づかせ音So2を出力することができる。
【0096】
ところで、
図8に示した音提示部20を音源として使用する場合と、
図10に示した音提示部20Cを音源として使用する場合との効果にはそれぞれ一長一短がある。したがって、複数種類の音源を用意しておき、用途に応じて複数種類の音源を使い分けることが考えられる。
【0097】
図6に示した制御手順の変形例を
図11に示す。
図11に示した制御手順においては、ステップS15Bで気づかせ音So2を出力する時に1番目の音源を選択し、ステップS19Bで報知音So1を出力する時に2番目の音源を選択している。
【0098】
図11の制御手順において、例えば1番目の音源として
図8に示した音提示部20を使用し、2番目の音源として
図10に示した音提示部20Cを選択することで望ましい結果が得られる。すなわち、気づかせ音So2については出力する時間長T1が比較的短いので、正弦波のように比較的存在感のある波形を選択することにより、この音を聴取者37に容易に気づかせることができる。また、報知音So1については出力する時間長T3が比較的長いので、運転者にとって邪魔になったり煩わしく感じることがないように、そのような性質を有する環境音を音源とすることが望ましい。報知音So1として環境音を使用する場合であっても、これを出力する前に気づかせ音So2を出力するので、聴取者37は報知音So1に容易に気づくことができ、提示方向を容易に知覚できる。
【0099】
しかも、方向決定帯域の周波数を利用しているので、個人差の影響や、聴取者37の位置の違いによる影響を受けにくく、聴取者37は車両用方向提示装置100が提示した方向を正しく知覚できる可能性が高い。
【0100】
また、更なる変形例として、音提示部20は、状況に応じて気づかせ音So2の出力の大きさを異ならせるようにしてもよい。例えば、車両に乗員の顔の方向や視線などを検出するカメラを搭載し、検出した結果に基づいて、乗員が脇見をしていたり、睡魔に襲われていると判断した場合には、気づかせ音So2の出力を大きくする。一方、乗員が通常の運転操作を行っていると判断した場合には、気づかせ音So2の出力を小さくする。つまり、カメラが状態検出部として機能する。
【0101】
ここで、上述した本発明に係る車両用方向提示装置の実施形態の特徴をそれぞれ以下[1]〜[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車両に搭載され、乗員に対し方向を提示する車両用方向提示装置であって、
前記車両上の状態、および前記車両の周辺の状況の少なくとも一方を検知する状態検出部(車両状態検出部31、車両周辺情報検出部32)と、
前記状態検出部の検知状態に基づいて、提示対象の前記乗員に対する方向を特定する方向識別部(提示方向決定部10)と、
前記方向識別部が特定した方向を前記乗員に対して提示するための第1の音響(報知音So1)を含む音響を出力する音響出力部(音提示部20)と、
を備え、
前記音響出力部は、前記第1の音響とは前記乗員の知覚方向が異なる第2の音響(気づかせ音So2)を出力し、所定の消音区間時間(T2)を経過した後で、前記第1の音響を出力する
ことを特徴とする車両用方向提示装置。
【0102】
[2] 前記音響出力部は、前記第2の音響の出力を継続する時間の長さ(T1)を、前記第1の音響の出力を継続する時間の長さ(T3)よりも短い時間に定める、
ことを特徴とする上記[1]に記載の車両用方向提示装置。
【0103】
[3] 前記音響出力部は、前記第2の音響の出力の大きさを、前記状態検出部の検知状態に基づいて決定する、
ことを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の車両用方向提示装置。
【0104】
[4] 前記音響出力部は、互いに異なる位置に配置された音響出力デバイスを利用し、前記乗員に目標とする方向を知覚させるための音を音響間でバランスの調整をする、
ことを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の車両用方向提示装置。
[5] 前記音響出力部は、1つ以上の音響出力デバイス(スピーカ34FL、34FR、34RL、34RR)を利用し、前記乗員に目標とする方向を知覚させるための音の周波数を調整する、
ことを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の車両用方向提示装置。