(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-224583(P2017-224583A)
(43)【公開日】2017年12月21日
(54)【発明の名称】金属燃料電池用イオン分離技術
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20171124BHJP
H01M 2/16 20060101ALI20171124BHJP
【FI】
H01M12/06 Z
H01M2/16 L
H01M12/06 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-129355(P2016-129355)
(22)【出願日】2016年6月13日
(71)【出願人】
【識別番号】516195465
【氏名又は名称】株式会社TERASU Lab.
(71)【出願人】
【識別番号】516193623
【氏名又は名称】HTD株式会社
(72)【発明者】
【氏名】内田 才子
(72)【発明者】
【氏名】上山 竜生
(72)【発明者】
【氏名】内田 成明
【テーマコード(参考)】
5H021
5H032
【Fターム(参考)】
5H021BB12
5H021CC04
5H021EE25
5H032AA02
5H032AS02
5H032AS12
5H032CC06
5H032EE08
(57)【要約】
【課題】金属(負極)と酸素極(正極)でセパレータを挟み構成する金属燃料電池では負極で発生した金属イオンと正極で発生した水酸化物イオンが金属表面で反応し堆積することにより、負極表面を覆ってしまい、電池寿命が短縮されることが課題であった。
【解決手段】セパレータ構造に正イオンのみを通過させるイオン交換膜効果を付加し、セパレータ内部など負極表面から離れたところで電池反応物を堆積させ、負極の活性を維持し、溶けきるまで負極材料を使い切ることにより電池寿命を最大にする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と正極の間に設置するセパレータにイオン交換膜機能を付加し、電池の寿命を左右する金属水酸化物が負極表面に付着することを防止する電池構造。
【請求項2】
セパレータの正極に接する面には陰イオン交換膜を設け、正極で発生した水酸化物イオンを通過させ、金属(正)イオンはセパレータ側にとどめる機能を持つことを特徴とする構造。
【請求項3】
前項を実現するイオン交換膜機能を担うセパレータ構造は電池負極から発生する金属イオンが水酸化物(または酸化物)となって堆積しても電解液がセパレータ内を支障なく流通できるように水酸化物が堆積しない構造と素材でなる流路を有する。
【請求項4】
セパレータは当該電池を活性化させるために供給される電解液溶媒の電池構造内の唯一の供給経路となる構造を有する。正極(空気極)の微細構造表面上で起こる電子、水分子、空気分子の反応速度を最適に保つようにセパレータは電解液をその内部で保持し、かつ、適量を正極に順次供給する材料と構造である。ここで「最適」と「適量」は正極内を空気分子が拡散により電池外部から供給される流量にバランスする量である。これは正極材料の空隙率と正極層の厚さと面積に依存して決まる。
【請求項5】
水との親和性(親水性)を制御可能な素材構造と親水性制御を行う素材の組み合わせにより構成したセパレータにより、電解液を必要な流量で供給し、電池の出力を最適の条件で動作させる構造
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属燃料電池等の長寿命化技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属空気電池は適当な材料の選択により耐久性、軽量性、安全性、再生可能性など優れた特徴を備えた一次電池を構成することができる。本特許明細では金属を交換可能燃料とし、その酸化反応を用いて電力を発生する電池を「金属燃料電池」と称する。特に酸化反応により電子を発生する金属は負極として機能するが、金属にマグネシウムを選択すると先の特長をすべて兼ね備えた理想的な電池が構成可能である。以下、マグネシウムを金属燃料として採用した場合を例にとり本技術を説明する。
【0003】
金属燃料電池は負極に金属、正極に空気中の酸素を利用し、電気化学反応を起こす電解液が基本要素である。この要素を電池構造に配置した概念を
図1に示す。基本構造は電解液を保持するセパレータを挟んだ板状の金属負極と空気正極である。金属負極は電解質との反応により正イオンとなり溶けだし、電極内に電子を残す。この電子は電池外部に取り付けた負荷に電流となって流れ、光、熱や動力などの有効な仕事となり利用される。この電流は空気正極に流れ込み、微細構造を有する炭素構造上で水および酸素分子と反応し水酸化物イオンを発生する。一方、負極から電解液に溶けだした金属イオンは正極で発生した水酸化物イオンと結合することにより、電荷が一周する回路を完成する。即ち外部回路では電子が、電池内部(電解液中)は水酸化物イオン(陰イオン)が電荷の移動を担うことにより電流の連続性が担保される。このときセパレータには厚さ方向に大きな分極が発生し、負極と正極間の電圧を維持する。
【0004】
以上をまとめると電解液は金属の酸化を促す電解質を含むとともに正極では酸素分子を利用して正極に流れこむ電子のシンクとなる還元反応を担う。電解質溶媒に例えば水を採用する場合には正極で水と酸素の分子および電子が出会って反応することにより水分子が還元され水酸化物イオン(OH
−)が発生する。これにより電池の電気化学反応が定常的に進行し、電池として電気エネルギーが発生する。負極にマグネシウムを用いた場合には正極、負極でそれぞれ次の反応が進む。
正極:O
2+2H
2O+4e
− → 4OH
− …(1)
負極:2Mg → 2Mg
2++4e
− …(2)
全体:2Mg+O
2+2H
2O → 2Mg(OH)
2【0005】
電池反応全体としてはマグネシウムが酸化され水酸化物となる反応であるが、従来型の電池ではこの水酸化物が負極金属表面に堆積する。この堆積物はマグネシウムイオンの流動を阻害すると共に電解質をマグネシウム表面から遮断してマグネシウムの酸化反応も阻害するため、マグネシウム電極を消費し尽くす前に電池反応が停止し、電池の寿命を短縮する。
【0006】
水酸化物の堆積を防止するために従来はクエン酸を電解質に混合させ電解質のpHを制御することによる水酸化物堆積の抑制などが試みられてきた(特許文献1)。しかし、電解液の溶媒量が常に流動的な解放型の電池構造ではpHを設定条件に固定することが困難であり、水酸化物の堆積抑制効果は限定的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−134160号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属燃料電池の寿命を短くしている負極金属電極表面に堆積する水酸化マグネシウムを負電極表面への金属酸化物の堆積の防止と正極へのイオン移動を制御することにより、電池寿命の最大化を図ることを課題とする。
【0009】
電池の寿命を最大にするためには電池反応生成物の負極表面への堆積を防止するとともに、電池性能を損なわない形で反応生成物を処理する必要がある。
【0010】
負極と正極の表面はともに電池反応生成物が発生する場所であり金属水酸化物が堆積しやすい。理想的な形は負極で発生した金属イオンと正極で発生した水酸化物イオンがそれぞれの表面を離れ、セパレータなどの電極反応に関わらない場所に蓄積されることである。
【0011】
このような電池構造内での物質の移動を実現するためには負極、正極、電解質内での各物質の発生と移動の速度を全てバランスさせ、定常性を維持することも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために第一発明は負極の表面に堆積しやすい金属水酸化物の発生を抑制するため、正極で発生した水酸化物イオンが負極表面に到達しないようにセパレータ構造にイオン交換膜機能を付加する。この機能により負極表面で発生した金属イオンは負極表面に留まらず陽イオン交換膜を通過しセパレータに達し、一方、正極で生じた水酸化物イオンは陽イオン交換膜を通過できず負極に到達することがない。
【0012】
第一発明のセパレータでは水酸化物イオンが正極付近に滞留するとともに、負極からの金属イオンが正極側に流入が発生し、水酸化物の堆積が正極側に多発する可能性がある。これを防止するために第二発明はセパレータの正極側に陰イオン交換膜構造を設け、金属イオンの正極への流入を阻止する。
【0013】
第一、第二の発明によりセパレータで金属水酸化物が堆積、蓄積し電解液の流通を阻害するのを防止するため第三の発明として析出した金属水酸化物をセパレータから排出する構造を設ける。水酸化物は重力により自然に流路から排出されるが、対流により強制的にセパレータ構造から排出する構造を設ける。
【0014】
第三の発明の実施一例である。電池内では常に内部抵抗が存在し通電時には熱が発生する。特に正極の炭素極で発熱が顕著である。この熱を利用して電荷液の対流を電極に沿わせる形で発生させる構造を形成する。正極で発生した熱はこの水路内の電解液を温め上昇させ、電池上部でセパレータ上部へ導かれる。セパレータには排水路が設けられており、内部を下向きに電解液が流れる。この時にセパレータ内で析出した水酸化物をセパレータ下方へ排出する。
【0015】
このような電池内の物質移動制御機能を実現するためには電解液の流路制御が重要である。ここで電池構造を構成する各電極層間の界面に求められる条件とそれを実現する電解液の流路構造を説明する。負極とセパレータが接する界面では金属が電解液に正イオンとなって溶出する。電解液が金属表面を「濡らして」いる状態で必要である。溶出したイオンは密度勾配により電極表面から拡散しイオン交換膜を通過してセパレータに入る。このイオンの拡散力が電池の性能を規定していると考えられる。
【0016】
正極の表面に求められる条件は負極のそれよりも複雑でありそれを実現するのが第四の発明である。。正極では電池反応が進行するためには酸素分子、水分子、電子が同時に存在し遭遇する必要がある。酸素分子は空気から供給されるので正極には気相が存在できる環境が必要である。したがって水分子も気相(水蒸気)で供給されると考えられ、負極の条件と異なる。
【0017】
このような負極、正極に特異な電解質条件を整えるためにセパレータは電解液の溶媒(典型的には水)を単独で制御できる構造を持たせる。第五の発明ではセパレータの構造として排出水路の他に高分子吸収体などを材料とした電解液保持層を設け、電解質の濃度により高分子吸収体の給水性能が変化することを利用し、正極への電解液の供給量や蒸気圧を最適値に保つ。
【発明の効果】
【0018】
第一発明から第三発明によれば電池内で生成した金属水酸化物が正極や負極表面に堆積し電池反応を阻害することを防止することができる。
【0019】
また第四および第五発明によれば電池構造内各所で進行する電気化学反応の速度間のバランスを調整することにより、電池の寿命を短命化する不必要な反応を抑制することができる。
【0020】
全体として電池反応を阻害する反応生成物を排除し、電池内の各反応速度をバランスさせることにより電池の潜在的放電エネルギーを最大限に取り出し、長寿命電池が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】発明のうちイオン移動を制御する一実施形態を示す概念図である。
【
図2】発明のうち電池反応の有害生成物を速やかに排除し、かつ電池反応速度のバランスを調整する電解液の供給制御機構を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
この発明の原理を説明するため実施形態の一例を
図1、2に示す。
【0023】
図1は金属燃料電池の基本構造(単一セル)の斜視図である。セルは層状の金属電極1、セパレータ3、炭素電極5およびイオン交換膜2,4で構成される。図では説明のために各層要素に隙間を開けて示している。電解液(または水などの溶媒)はセパレータを通してセルに供給される。電解液はイオン交換膜を通して金属電極と炭素電極に接する。金属電極表面では金属イオン6が溶解し、陽イオン交換膜2を通してセパレータに拡散移動する。また、セパレータと炭素電極の間に設けた陰イオン交換膜4は金属陽イオンを通過させないので金属イオンはセパレータ内に留まる。一方、炭素電極に到達した水分子は酸素と電子との反応により水酸化物イオン(OH
−)7となる。このイオンは反対に陽イオン交換膜を通過しないのでやはりセパレータに留まる。このように電池反応により発生した水酸化物は電気化学反応を担う金属電極や炭素極の表面ではなくセパレータ層に析出するので電極材料を全て使い尽くすことが可能となる。
【0024】
図2は電池反応生成物の金属水酸化物の排出を促し、かつ電解液の条件を最適に保つセパレータ、正極に附随する電解液の流体運動を発生する構造である。
図1を90度水平面内で回転し、金属極側から見た斜視図である。破線で囲ったセパレータ構造11は水酸化物の排出水路13と電解液を保持・供給する電解液保持層12で構成される。また、セパレータ下部には電解液タンク15が設けられ電池保管中の電解液を貯蔵するとともに、セパレータと後述の冷却水路17のみに限定的に電解液給水を行う機能を果たす。
【0025】
炭素極の外側には冷却水路17を設ける。
図2の例では正極に沿わせる形で板状筒として示されている。発電中の炭素極を流れる電流による発熱を利用し冷却水路内の電解液に対流効果を生じる。冷却水路は上部でセパレータ構造に接続しており(
図2では示さず)、対流による電解液の流体運動をセパレータ構造内の排出水路13に生じさせる。この電解液流れはセパレータ内で析出した金属水酸化物をセパレータ構造から排出し14、電解液タンク15に保管する。
【符号の説明】
【0026】
1. 金属電極(負極)
2. 陽イオン交換膜
3. セパレータ
4. 陰イオン交換膜
5. 炭素電極(正極)
6. 金属イオン
7. 水酸化物イオン
10.金属電極(負極)
11.セパレータ構造
12.電解液保持層
13.排出水路
14.水酸化物排出路
15.電解液タンク
16.炭素電極(正極)
17.冷却水路(対流流路)