【実施例】
【0042】
上記回路基板付きヒートシンクの実施例を、以下に説明する。なお、本発明の回路基板付きヒートシンク及びその製造方法の態様は以下の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲において適宜構成を変更することができる。
【0043】
(実施例1)
本例のヒートシンク1は、
図1及び
図2に示すように、ヒートシンク本体2と、低膨張板3と、中間アルミニウム板4と、回路基板5とを有している。
図2に示すように、ヒートシンク本体2は、アルミニウム材から構成されており、平板状を呈するベース部21を有している。低膨張板3は、ヒートシンク本体2よりも低い線膨張係数を有し、ベース部21上に配置されている。中間アルミニウム板4は、低膨張板3上に配置されている。回路基板5は、中間アルミニウム板4上に配置されている。
【0044】
ベース部21と低膨張板3との間、低膨張板3と中間アルミニウム板4との間及び中間アルミニウム板4と回路基板5との間には、ろう材層(図示略)が介在している。回路基板5は、アルミニウム材からなり、ろう材層を介して中間アルミニウム板4上に積層された裏面金属層51と、裏面金属層51上に積層されたセラミックス板52と、アルミニウム材からなり、セラミックス板52上に積層された回路金属層53とを有している。
【0045】
図1及び
図2に示すように、本例のヒートシンク本体2は、ベース部21と、外枠部22と、放熱フィン23とを有している。
図1に示すように、ヒートシンク本体2は、ベース部21の厚み方向から視た平面視において、長方形状を呈している。本例のヒートシンク本体2における縦方向(長辺方向)の寸法は110mmであり、横方向(短辺方向)の寸法は90mmである。また、本例のベース部21の厚みは0.4mmである。また、本例のヒートシンク本体2は、JIS A3003合金から構成されている。
【0046】
図2に示すように、ベース部21における一方の板面211上には、ろう材層(図示略)を介して低膨張板3が積層されている。また、ベース部21の他方の板面、即ち、低膨張板3が積層されている板面211の裏面212には、多数の放熱フィン23が立設されている。本例の放熱フィン23は、直径1.5mm、高さ10mmの円柱状を呈している。また、放熱フィン23は、ベース部21の厚み方向から視た平面視において、一辺75mmの正方形状の領域内に配置されている。
【0047】
外枠部22は、ベース部21の外周縁部213に立設されており、
図1及び
図2に示すように、低膨張板3、中間アルミニウム板4及び回路基板5の周囲に配置されている。また、これらの部材と外枠部22との間には、
図2に示すように、ろう付時にベース部21と低膨張板3との間、低膨張板3と中間アルミニウム板4との間及び中間アルミニウム板4と裏面金属層51との間から流出したろう材11が保持されている。
【0048】
本例においては、ベース部21の裏面212を基準としたときの外枠部22の高さH1は、回路金属層53の高さH2の1.0倍である。具体的には、本例のヒートシンク1における外枠部22の高さH1及び回路金属層53の高さH2は、いずれも3.0mmである。
【0049】
図2に示すように、ベース部21上には、ろう材層(図示略)を介して低膨張板3が積層されている。本例の低膨張板3は、厚み0.64mmのニッケル板である。なお、ニッケルの典型的な線膨張係数は13.3ppm/Kであり、アルミニウム材の典型的な線膨張係数(23〜24ppm/K)よりも低い線膨張係数を有する。
【0050】
低膨張板3上には、ろう材層(図示略)を介して中間アルミニウム板4が積層されている。
【0051】
中間アルミニウム板4上には、ろう材層(図示略)を介して、回路基板5の裏面金属層51が積層されている。本例の回路基板5は、アルミニウム材からなる厚み0.4mmの裏面金属層51、窒化アルミニウムからなる厚み0.32mmのセラミックス板52及びアルミニウム材からなる厚み0.4mmの回路金属層53が順次積層された3層構造を有している。
【0052】
本例においては、表1に示すように、JIS A3003合金板、純アルミニウム板(純度99.50%)及びJIS A6063合金板のいずれかを中間アルミニウム板4として用い、3種のヒートシンク1(試験体A1〜A3)を作製した。試験体の作製は、以下の方法により行った。
【0053】
まず、A3003合金の板材に鍛造加工を施して放熱フィン23を立設した。次いで、放熱フィン23を立設した面と反対側の板面に切削加工を施して深さ2.6mmの凹部を形成し、ヒートシンク本体2を作製した。また、厚み0.64mmのニッケル板を裏面金属層51と同じ寸法に切断することにより、低膨張板3を作製した。
【0054】
厚み0.82mmのA3003合金板、純アルミニウム板及びA6063合金板を低膨張板3と同じ寸法に切断することにより、中間アルミニウム板4を作製した。回路基板5には、市販品を採用した。また、Al−Si(アルミニウム−シリコン)系合金よりなる厚み0.1mmのろう箔を低膨張板3と同じ寸法に切断し、上側ろう箔、中間ろう箔及び下側ろう箔を準備した。
【0055】
これらの部材を準備した後、ベース部21上に、下側ろう箔、低膨張板3、中間ろう箔、中間アルミニウム板4、上側ろう箔及び回路基板5をこの順に載置し、被処理物を組み立てた。この被処理物に治具を取り付け、回路基板5をベース部21側に押圧した状態で窒素ガス雰囲気中で被処理物を600℃まで加熱し、ろう付を行った。以上により試験体A1〜A3を作製した。
【0056】
また、本例においては、試験体A1〜A3との比較のため、回路基板5がベース部21上に直接ろう付された試験体Rを作製した。試験体Rは、低膨張板3及び中間アルミニウム板4を有しない点以外は、試験体A1〜A3と同一の構成を有している。
【0057】
これらの試験体A1〜A3及び試験体Rについて、ろう付後の回路基板5の反り、はんだ付時の回路基板5の反り、冷却性能及び耐久性の評価を行った。
【0058】
・ろう付後の回路基板5の反り
ろう付後の試験体を治具から取り外した後、回路基板5の中央部と外周端部との高さの差を測定し、これを回路基板5の反り量とした。ろう付後の回路基板5は、ベース部21と回路基板5との積層方向における回路基板5側が凸となるように湾曲していた。ろう付後の回路基板5の反り量は、表1に示したとおりであった。
【0059】
・はんだ付時の回路基板5の反り
回路基板5へのはんだ付作業を想定し、試験体を270℃に加熱した状態での回路基板5の反り量を測定した。270℃に加熱された状態においては、回路基板5の反りの向きが加熱前とは逆向きとなり、ベース部21と回路基板5との積層方向におけるベース部21側が凸となるように湾曲していた。この状態での回路基板5の反り量は、表1に示したとおりであった。
【0060】
・冷却性能
各試験体の放熱フィン23側に水冷ジャケットを取り付け、この水冷ジャケット内に一定の流量で冷媒を流した。そして、回路金属層53上に発熱体を載置し、一定の出力で熱を発生させた。なお、冷媒としてはLLC(Long-Life Coolant)50%を使用し、流量は12L/minとした。また、発熱体の発熱量は800Wとした。
【0061】
この状態を保持し、定常状態に到達したときの発熱体の温度を計測した。そして、試験体Rにおける発熱体の温度をTr(K)、試験体A1〜A3における発熱体の温度をTs(K)とし、下記の式により、冷却性能の低下率R(%)を算出した。冷却性能の低下率Rは、表1に示した通りであった。
R=(Ts−Tr)/Tr×100
【0062】
・耐久性
温度サイクル試験機を用い、150℃に30分間保持する加熱ステップと、−50℃に30分間保持する冷却ステップとからなるサイクルを1000サイクル繰り返して温度サイクル試験を行った。温度サイクル試験後の回路基板5の反り量を測定し、温度サイクル試験前の回路基板5の反り量からの変化を算出した。温度サイクル試験による反り量の変化は表1に示した通りであった。
【0063】
【表1】
【0064】
表1から理解できるように、アルミニウム材からなる層と、アルミニウム材よりも低い線膨張係数を有する材料からなる層とが対称的に配置された積層構造を有する試験体A1〜A3は、ろう付後の反り量が小さく、270℃に加熱した際にセラミックス板52の割れは発生しなかった。また、試験体A3は、材料強度の高いA6063合金板を中間アルミニウム板4としたため、温度サイクル試験後の反り量の変化が小さく、特に優れた耐久性を示した。
【0065】
一方、試験体Rは、低膨張板3を有していないため、270℃に加熱した際にセラミックス板52に割れが発生した。
【0066】
(実施例2)
本例は、セラミックス板52の材質を種々変更した例である。なお、本実施例以降において用いる符号のうち、既出の実施例において用いた符号と同一のものは、特に説明のない限り、既出の実施例における構成要素等と同様の構成要素等を表す。
【0067】
本例においては、低膨張板3、中間アルミニウム板4及びセラミックス板52の構成を表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法により試験体B1〜B10を作製した。なお、表2中には、低膨張板3の線膨張係数として、その値とともに、セラミックス板52の線膨張係数を1倍としたときの倍率を記載した。
【0068】
そして、これらの試験体について、実施例1と同様の手順により評価を行った。評価結果は表3に示す通りであった。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表2及び表3から理解できるように、試験体B1〜B10は、低膨張板3として、ニッケルに比べて熱伝導率の高いモリブデンを採用したため、試験体A1〜A3(表1参照)に比べて冷却性能が向上した。
【0072】
また、これらの試験体のうち、試験体B1〜B3及びB6〜B8は、低膨張板3の線膨張係数がセラミックス板52の線膨張係数の0.7〜2.0倍である。そのため、低膨張板3の線膨張係数が上記の範囲外である試験体A1(表1参照)やB4等に比べて、はんだ付時の回路基板5の反り量を低減することができた。
【0073】
(実施例3)
本例は、低膨張板3の厚みを種々変更した例である。本例においては、ヒートシンク本体2における外枠部22の高さH1を3.5mmに変更し、低膨張板3、中間アルミニウム板4及びセラミックス板52の構成を表4に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により試験体C1〜C5を作製した。なお、表4中には、低膨張板3の厚みとして、その値とともに、セラミックス板52の厚みを1倍としたときの倍率を記載した。また、中間アルミニウム板4の厚みは、回路金属層53の高さH2が3.5mmとなるように調整されている。
【0074】
これらの試験体について、実施例1と同様の手順により評価を行った。評価結果は表5に示す通りであった。
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
試験体C1〜C5は、低膨張板3の線膨張係数がセラミックス板52の線膨張係数の0.7〜2.0倍であるため、はんだ付後の反り量を、試験体B1〜B10(表3参照)と同等以上に抑制することができた。
【0078】
また、表4及び表5に示したように、試験体C1、C2及びC4は、低膨張板3の厚みがセラミックス板52の厚みの0.5〜2.0倍である。そのため、これらの試験体は、セラミックス板52の厚みが上記の範囲外である試験体C3等よりもさらに回路基板5の反り量を低減することができた。
【0079】
(実施例4)
本例は、ベース部21の厚みを種々変更した例である。本例においては、低膨張板3として厚み1.0mmのモリブデン板(線膨張係数5.0ppm/K)、セラミックス板52として厚み0.64mmの窒化アルミニウム板(線膨張係数4.5ppm/K)を採用し、ヒートシンク本体2及び中間アルミニウム板4の構成を表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により試験体D1〜D5を作製した。なお、表6中には、ベース部21の厚みとして、その値とともに、回路金属層53の厚みを1倍としたときの倍率を記載した。また、中間アルミニウム板4の厚みは、回路金属層53の高さH2が3.5mmとなるように調整されている。
【0080】
これらの試験体について、実施例1と同様の手順により評価を行った。評価結果は表7に示す通りであった。
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
試験体D1〜D5は、低膨張板3の線膨張係数がセラミックス板52の線膨張係数の0.7〜2.0倍であるため、はんだ付後の反り量を試験体B1〜B10(表3参照)と同等以上に抑制することができた。
【0084】
また、表6及び表7に示したように、試験体D2〜D4は、ベース部21の厚みが回路金属層53の厚みの1.0〜1.5倍である。そのため、これらの試験体は、ベース部21の厚みが上記の範囲外である試験体D1等よりもさらに回路基板5の反り量を低減することができた。
【0085】
(実施例5)
本例は、回路金属層53の高さH2を変更した例である。本例においては、低膨張板3として厚み1.0mmのモリブデン板(線膨張係数5.0ppm/K)、セラミックス板52として厚み0.64mmの窒化アルミニウム板(線膨張係数4.5ppm/K)を採用し、ヒートシンク本体2及び中間アルミニウム板4の構成を表8に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により試験体E1〜E2を作製した。なお、表8中には、外枠部22の高さH1として、その値とともに、回路金属層53の高さH2を1倍としたときの倍率を記載した。
【0086】
これらの試験体について、実施例1と同様の手順により評価を行った。評価結果は表9に示す通りであった。
【0087】
【表8】
【0088】
【表9】
【0089】
試験体E1〜E2は、外枠部22の高さH1が回路金属層53の高さH2の0.9〜1.1倍であったため、ろう付をより容易に行うことができた。
【0090】
(実施例6)
本例は、低膨張板306及び中間アルミニウム板406のバリ31、41の影響を評価した例である。本例においては、以下のようにして試験体F1及びF2を作製した。
【0091】
まず、A6063合金の板材に鍛造加工を施して放熱フィン23を立設し、次いで、放熱フィン23を立設した面と反対側の板面に切削加工を施して深さ2.6mmの凹部を形成することにより、ヒートシンク本体2を作製した。次に、厚み0.82mmの純アルミニウム板にプレス打ち抜き加工を施して中間アルミニウム板4、406を作製するとともに、厚み1.0mmのモリブデン板にプレス打ち抜き加工を施して低膨張板3、306を作製した。
【0092】
このとき、試験体F1に用いる中間アルミニウム板4及び低膨張板3については、裏面金属層51と同じ寸法となるようにプレス打ち抜き加工を行った。一方、試験体F2に用いる中間アルミニウム板406については、裏面金属層51よりもわずかに寸法が大きくなるようにプレス打ち抜き加工を行った。また、試験体F2に用いる低膨張板306については、中間アルミニウム板406よりもわずかに寸法が大きくなるようにプレス打ち抜き加工を行った。
【0093】
回路基板5としては、市販品を採用した。また、Al−Si(アルミニウム−シリコン)系合金よりなる厚み0.1mmのろう箔を低膨張板3、306と同じ寸法に切断し、上側ろう箔、中間ろう箔及び下側ろう箔を準備した。
【0094】
試験体F1については、ベース部21上に、下側ろう箔、低膨張板3、中間ろう箔、中間アルミニウム板4、上側ろう箔及び回路基板5をこの順に載置し、被処理物を組み立てた。一方、試験体F2については、
図3に示すように、プレス打ち抜き加工の際に形成されたバリ31、41が、ベース部21と回路基板5との積層方向における回路基板5側に突出するようにして被処理物を組み立てた。
【0095】
その後、実施例1と同様の方法によりろう付を行い、試験体F1及びF2を作製した。
【0096】
ろう付後の試験体F2は、
図3に示すように、中間アルミニウム板406の外周端縁411が、裏面金属層51の外周端縁511よりも外方に延出するとともに回路基板5側に突出していた。また、低膨張板306の外周端縁311が、中間アルミニウム板406の外周端縁411よりも外方に延出するとともに回路基板5側に突出していた。より具体的には、中間アルミニウム板406の外周端縁411は、裏面金属層51の外周端縁511よりも0.1mm外方に延出していた。また、低膨張板306の外周端縁311は、中間アルミニウム板406の外周端縁411よりも0.1mm外方に延出していた。
【0097】
以上により得られた試験体F1及びF2を用い、実施例1と同様の方法により評価を行った。評価結果は、表10に示した通りであった。
【0098】
【表10】
【0099】
表10に示したように、試験体F1及びF2は、低膨張板3の線膨張係数がセラミックス板52の線膨張係数の0.7〜2.0倍であるため、はんだ付後の反り量を、試験体B1〜B10(表3参照)と同等以上に抑制することができた。さらに、試験体F2は、
図3に示すように、低膨張板306及び中間アルミニウム板406のバリ31、41が、これらの上部に積層される材料と接触することなく、ベース部21と回路基板5との積層方向における回路基板5側に突出している。そのため、試験体F1に比べて、低膨張板306と中間アルミニウム板406との隙間及び中間アルミニウム板406と裏面金属層51との隙間を小さくすることができた。以上の結果、試験体F2は、試験体F1に比べて冷却性能を向上させることができたと考えられる。