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特開2017-225413オリゴヌクレオチド、アスペルギルス・テレウス検出用プローブ、及びアスペルギルス・テレウス検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-225413(P2017-225413A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】オリゴヌクレオチド、アスペルギルス・テレウス検出用プローブ、及びアスペルギルス・テレウス検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20171201BHJP
   C12Q 1/68 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12Q1/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-124912(P2016-124912)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】512253187
【氏名又は名称】株式会社BNA
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】村山 ▲そう▼明
(72)【発明者】
【氏名】今西 武
(72)【発明者】
【氏名】折田 文子
(72)【発明者】
【氏名】伴 育哉
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ05
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR74
4B063QS28
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】アスペルギルス・テレウスを特異的に検出することが可能な技術の提供。
【解決手段】以下の(i)〜(iii)からなる群より選択されるオリゴヌクレオチド。(i)特定の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;(ii)特定の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチド;及び(iii)(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)〜(iii)からなる群より選択されるオリゴヌクレオチド:
(i)配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
(ii)配列番号15に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチド;及び
(iii)(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
配列番号14若しくは15に記載の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる、請求項1に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
少なくとも1残基のBNA残基を含む、請求項1又は2に記載のオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
以下の(a)〜(c)からなる群より選択される塩基配列からなる、請求項3に記載のオリゴヌクレオチド:
(a)配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、及び18位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列;
(b)配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、2位のアデニン残基、3位のグアニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、16位のグアニン残基、17位のシトシン残基、及び18位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列;並びに
(c)配列番号15に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、3位のグアニン残基、6位のグアニン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、18位のグアニン残基、20位のシトシン残基、及び21位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドを含む、アスペルギルス・テレウス検出用プローブ。
【請求項6】
請求項5に記載のアスペルギルス・テレウス検出用プローブを、被検体に対して、ハイブリダイゼーションする工程を含む、アスペルギルス・テレウスの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オリゴヌクレオチド、アスペルギルス・テレウス検出用プローブ、及びアスペルギルス・テレウス検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、全世界で、年間3億人が侵襲性の真菌症に感染しており、年間約135万人が死亡している。真菌症の中でも、アスペルギルス(Aspergillus)属菌を起因菌とするアスペルギルス症は、感染頻度が高く、侵襲性の真菌症である。アスペルギルス属菌の胞子は、環境中に広く存在しており、免疫力のある健常者であれば問題ないが、免疫力が低下している患者等の場合には、日和見感染症の原因となる。アスペルギルス属菌は、病院内の観葉植物や花瓶の水、エアコン等の空調の吹き出し口から高頻度で検出されるが、その危険性については周知されていないのが現状である。患者の免疫力は元々低下しているため、アスペルギルス症の予後はきわめて悪く、致死率も高い。
【0003】
真菌は培養が成功しないことも多く、培養できたとしても正確な菌種を同定するのが難しい場合も多い。生化学的手法を用いても菌種レベルでの確定診断は困難である。そのため真菌症が疑われた場合は、予防投与として副作用の少ない抗真菌薬の投与が行われる。菌種同定が行われないため抗真菌薬が有効でない場合は、症状が進行し、致死的な転帰をとることも少なくない。アスペルギルス属菌は、培養が難しいため、培養して正確な菌種を特定することは困難である。そのため、一般的に、アスペルギルス症が疑われた場合には、正確な菌種の特定は行わず、抗菌スペクトルの広い抗真菌薬の投与が行われる。それによって、効果的な治療が行われず、症状が進行していく場合も多い。
【0004】
アスペルギルス属菌種の中でも、アスペルギルス・テレウス(Aspergillus terreus)は、真菌症のゴールドスタンダードであり他のアスペルギルス属菌種に対して効果的な抗真菌薬であるアムホテリシンBに対する一次耐性菌が多い。また抗真菌薬のアゾール系薬に対しても他のアスペルギルス属菌種に比較して耐性を獲得しやすいとの報告もある。そのためかアスペルギルス・テレウスによる感染は他のアスペルギルス属菌種による感染に比較して重症化しやすい。播種性感染の場合、致死率は90 %以上との報告もある。アスペルギルス・テレウスを他のアスペルギルス属菌種と見分け、アスペルギルス・テレウス感染に効果的な治療を行うことが重要である。しかしながら、アスペルギルス・テレウスを他のアスペルギルス属菌種と判別し、同定するための有効な方法は実用化されておらず、治療方針を立てることがきわめて困難である。
【0005】
一般に、病原菌を同定する方法としては、PCR法が、感度が良いとされている。しかしながら、本邦で認可されていない。その原因として、1)腐生菌を起因菌とする真菌症の場合、コンタミネーションの問題を防ぐことが難しい、2)血液や髄液のような無菌的な検体でないと適応が難しい、ことがあげられる。一方、特許文献1には、アスペルギルス・テレウスを含むアスペルギルス属菌種及び他の糸状菌を検出するための核酸プローブが開示されている。特許文献1では、rDNAの内部転写スペーサー領域、5.8S領域、及び28S領域の配列から、各菌種に特異的な配列を見出し、各菌種を検出するためのプローブを作製している。
【0006】
一方、近年、BNA(bridged nucleic acids)やPNA(peptide nucleic acid)などの人工核酸が開発されている。これらの人工核酸は、RNA又はDNA相補鎖との結合親和性が天然核酸よりも高く、また核酸分解酵素にも高い抵抗性を示す。真菌菌種検出用プローブにも応用されている。例えば、非特許文献1には、2’,4’−BNA(LNA:locked nucleic acids)を用いた、アスペルギルス属のin situ検出用プローブが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−42005号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Montone KT, Feldman MD., Diagn Mol Pathol. 2009 Dec;18(4):239-42.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載のプローブは、各菌種から抽出したDNAのPCR産物に対する特異性しか確認しておらず、臨床検体等で正確に菌種を判別・同定できるかは確認されていない。一方、非特許文献1に記載のプローブは、アスペルギルス属菌種に対するユニバーサルな検出用プローブであり、アスペルギルス属菌を菌種レベルで判別することはできない。
【0010】
そこで、本発明は、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の通りである。
(1)以下の(i)〜(iii)からなる群より選択されるオリゴヌクレオチド:
(i)配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
(ii)配列番号15に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2(rDNAの内部転写スペーサー領域2)に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチド;及び
(iii)(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
(2)配列番号14若しくは15に記載の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる、(1)に記載のオリゴヌクレオチド。
(3)少なくとも1残基のBNA残基を含む、(1)又は(2)に記載のオリゴヌクレオチド。
(4)以下の(a)〜(c)からなる群より選択される塩基配列からなる、(3)に記載のオリゴヌクレオチド:
(a)配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、及び18位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列;
(b)配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、2位のアデニン残基、3位のグアニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、16位のグアニン残基、17位のシトシン残基、及び18位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列;並びに
(c)配列番号15に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、3位のグアニン残基、6位のグアニン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、18位のグアニン残基、20位のシトシン残基、及び21位のグアニン残基がBNA残基である、塩基配列。
(5)(1)〜(4)のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチドを含む、アスペルギルス・テレウス検出用プローブ。
(6)(5)に記載のアスペルギルス・テレウス検出用プローブを、被検体に対して、ハイブリダイゼーションする工程を含む、アスペルギルス・テレウスの検出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、in situでアスペルギルス・テレウスを特異的に検出することができるため、病理組織検体等で、迅速かつ正確に、アスペルギルス・テレウス感染を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】アスペルギルス・テレウス及びアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)菌体を対象として、Ater01〜Ater03を用いてISH法を行った結果を示す。
図2】アスペルギルス・テレウス及びアスペルギルス・フミガツス菌体を対象として、Ater05〜Ater07を用いてISH法を行った結果を示す。
図3】アスペルギルス・テレウス感染マウスの腎臓組織検体を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍、明視野)。(a)は陽性対照として汎真菌プローブの18S rRNA遺伝子プローブ、(b)はAter07をプローブとして用いた。
図4】アスペルギルス・フミガツス感染マウスの腎臓組織検体を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍、明視野)。(a)は陽性対照として汎真菌プローブの18S rRNA遺伝子プローブ、(b)はAter07をプローブとして用いた。
図5】アスペルギルス・フラブス感染マウスの腎臓組織検体を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍、明視野)。(a)は陽性対照として汎真菌プローブの18S rRNA遺伝子プローブ、(b)はAter07をプローブとして用いた。
図6】アスペルギルス・ニデュランス感染マウスの腎臓組織検体を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍、明視野)。(a)は陽性対照として汎真菌プローブの18S rRNA遺伝子 プローブ、(b)はAter07をプローブとして用いた。
図7】ヒト臨床検体1を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍)。(a)はAter07、(b)は陰性対照としてアスペルギルス・フミガツス特異的Afut1をプローブとして用いた。
図8】ヒト臨床検体2を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍)。(a)はAter07、(b)は陰性対照としてアスペルギルス・フミガツス特異的Afut1をプローブとして用いた。
図9】ヒト臨床検体1を対象として、ISH法を行った結果を示す(40倍)。(a)はAter05、(b)はAter06をプローブとして用いた。
図10】ヒト臨床検体2を対象として、ISH法を行った結果を示す(200倍)。(a)はAter05、(b)はAter06をプローブとして用いた。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[オリゴヌクレオチド]
1実施形態において、本発明は、以下の(i)〜(iii)からなる群より選択されるオリゴヌクレオチドを提供する:
(i)配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
(ii)配列番号15に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチド;及び
(iii)(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0015】
本明細書において、「オリゴヌクレオチド」とは、天然ヌクレオチド残基のみから構成されるもの、少なくとも1部の残基にヌクレオチド類縁体残基を含むもの、及びヌクレオチド類縁体残基のみから構成されるものを全て包含する意味である。また、「残基」とは、DNAの場合のヌクレオチドに相当する単位を意味する。すなわち、「残基」とは、DNAの場合の「塩基、糖及びリン酸」からなる単位又はこれに相当する単位を意味する。また、「塩基」とは、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシル等のプリン塩基又はピリミジン塩基を意味する。すなわち、本明細書において、「塩基」とは、DNAの場合の「塩基、糖及びリン酸」からなる残基のうちの塩基部分又はこれに相当する部分を意味する。また、「アデニン残基」、「グアニン残基」、「チミン残基」、「シトシン残基」及び「ウラシル残基」とは、塩基部分が、それぞれアデニン、グアニン、チミン、シトシン及びウラシルである残基を意味する。
【0016】
本明細書において、「ヌクレオチド類縁体」とは、糖部分のいずれかの位置に化学修飾を含む修飾ヌクレオチド、又はその重合体が核酸類似様構造を示すモノマーを意味する。前者の例としては、BNA及びENA(2’−O,4’−C−エチレン−架橋化核酸)等が知られている。また、後者の例としては、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、鏡像体ヌクレオチド(例えば、β−D−デオキシヌクレオチドに代わるβ−L−デオキシヌクレオチド)等が知られている。なお、「ヌクレオチド類縁体」は、これらの例に限定されるものではない。また、ヌクレオチド類縁体は、塩基部分にメチル化等の修飾を含むものであってもよい。本明細書において、「ヌクレオチド類縁体残基」とは、DNAの場合のヌクレオチドに相当する単位が、ヌクレオチド類縁体由来である単位を意味する。
【0017】
本実施形態のオリゴヌクレオチドは、以下の(i)〜(iii)からなる群より選択されるオリゴヌクレオチドである:
(i)配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド;
(ii)配列番号15に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチド;及び
(iii)(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチド。
【0018】
本実施形態のオリゴヌクレオチドは、配列番号15(AAGnnGCAAAnAAAnGCGnCG:nはチミン残基又はウラシル残基)に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。配列番号15に記載の塩基配列は、アスペルギルス・テレウスのITS2の塩基配列の一部に相補的な配列である。そのため、配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2をコードするDNAのセンス鎖及びITS2塩基配列を有するRNAにハイブリダイズすることができる。一方、配列番号15に記載の塩基配列は、アスペルギルス・テレウスに特異的な塩基配列であり、他のアスペルギルス属菌種及び他の真菌種は、この塩基配列に高い類似性のある相補的な塩基配列をそのゲノム中に有しない。そのため、配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、他のアスペルギルス属菌種及び他の真菌種のゲノムDNA及びRNAには、ハイブリダイズしない。したがって、配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2塩基配列を有するRNA又はITS2DNA領域に特異的にハイブリダイズする。
【0019】
また、本実施形態のオリゴヌクレオチドは、配列番号15に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチドであってもよい。本明細書において、複数個とは、6個、5個、4個、3個又は2個を意味する。アスペルギルス・テレウスのITS2に対する特異的結合能を維持する限り、欠失、置換若しくは付加される残基の位置は特に限定されない。そのようなオリゴヌクレオチドの例としては、例えば、配列番号15に記載の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に位置する残基が複数個欠失した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。例えば、配列番号15に記載の塩基配列の3’末端の残基が、1個、2個又は3個欠失した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本実施形態のオリゴヌクレオチドの例である。配列番号14(AAGnnGCAAAnAAAnGCG:nはチミン残基又はウラシル残基)に記載の塩基配列は、配列番号15に記載の塩基配列の3’末端残基が3個欠失した塩基配列である。配列番号14に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本実施形態のオリゴヌクレオチドの一例である。
【0020】
また、本実施形態のオリゴヌクレオチドは、上記(i)又は(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであってもよい。上記(i)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列は、配列番号15に記載の塩基配列に相補的な配列である。配列番号15に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を、配列番号17(CGACGCAnnnAnnnGCAACnn:nはチミン残基又はウラシル残基)に示す。配列番号17に記載の塩基配列は、アスペルギルス・テレウスのITS2をコードするDNAのアンチセンス鎖の一部に相補的な配列である。そのため、配列番号17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2をコードするDNAのアンチセンス鎖にハイブリダイズすることができる。一方、配列番号17に記載の塩基配列は、アスペルギルス・テレウスに特異的な塩基配列であり、他のアスペルギルス属菌種及び他の真菌種は、この塩基配列に高い類似性のある相補的な塩基配列をそのゲノム中に有しない。そのため、配列番号17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、他のアスペルギルス属菌種及び他の真菌種のゲノムDNA及びRNAには、ハイブリダイズしない。したがって、配列番号17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2塩基配列のアンチセンス鎖に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。
【0021】
上記(ii)のオリゴヌクレオチドの塩基配列に相補的な塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、配列番号17に記載の塩基配列において1又は複数個の残基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、かつアスペルギルス・テレウスのITS2塩基配列のアンチセンス鎖に対する特異的結合能を有するオリゴヌクレオチドである。そのようなオリゴヌクレオチドの例としては、例えば、配列番号17に記載の塩基配列の5’末端及び/又は3’末端に位置する残基が複数個欠失した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドが挙げられる。例えば、配列番号17に記載の塩基配列の5’末端の残基が、1個、2個又は3個欠失した塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本実施形態のオリゴヌクレオチドの例である。一例として、配列番号14に記載の塩基配列に相補的な塩基配列を配列番号16(CGCAnnnAnnnGCAACnn:nはチミン残基又はウラシル残基)に示す。配列番号16に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本実施形態のオリゴヌクレオチドの一例である。
【0022】
本実施形態のオリゴヌクレオチドは、全ての残基が天然ヌクレオチド残基であってもよく、一部の残基がヌクレオチド類縁体残基であってもよく、全ての残基がヌクレオチド類縁体残基であってもよい。なお、本実施形態のオリゴヌクレオチドが、天然ヌクレオチド残基を含む場合、天然ヌクレオチド残基は、デオキシリボヌクレオチド残基とリボヌクレオチド残基のいずれであってもよい。全ての天然ヌクレオチド残基がデオキシリボヌクレオチド残基であってもよく、全ての天然ヌクレオチド残基がリボヌクレオチド残基であってもよい。また、任意の数のデオキシリボヌクレオチド残基と任意の数のリボヌクレオチド残基とから構成されるものであってもよい。例えば、本実施形態のオリゴヌクレオチドが、配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである場合、配列番号15に記載の塩基配列中、任意の位置の残基がリボヌクレオチド残基であってもよい。配列番号14、16又は17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドについても同様である。なお、配列番号14〜17に記載の塩基配列が全てデオキシリボヌクレオチド残基で構成される場合、それぞれ配列番号4、5、12及び13に記載の塩基配列となる。
【0023】
本実施形態のオリゴヌクレオチドが、ヌクレオチド類縁体残基を含む場合、ヌクレオチド類縁体残基の数は、特に限定されない。例えば、ヌクレオチド類縁体残基を1残基含むようにしてもよく、2残基以上含むようにしてもよい。また、全ての残基をヌクレオチド類縁体残基としてもよい。本実施形態のオリゴヌクレオチドにおいては、少なくとも1残基のヌクレオチド類縁体残基を含むことが好ましい。例えば、5〜15個、好ましくは7〜12個、より好ましくは8〜10個のヌクレオチド類縁体残基を含むことができる。BNA、PNA、GNA、TNA等のヌクレオチド類縁体は、相補鎖のDNAやRNAに対する親和性が高く、熱安定性も高い。また、ヌクレアーゼによる分解も受けにくい。そのため、ヌクレオチド類縁体残基を含むオリゴヌクレオチドは、標的配列に対して、安定的にハイブリダイゼーションすることができる。なお、ヌクレオチド類縁体残基以外の残基は、デオキシリボヌクレオチド残基とリボヌクレオチド残基のいずれであってもよい。ヌクレオチド類縁体以外の残基の全てがデオキシリボヌクレオチド残基であってもよく、全てがリボヌクレオチド残基であってもよい。また、任意の数のデオキシリボヌクレオチド残基と任意の数のリボヌクレオチド残基とから構成されるものであってもよい。例えば、本実施形態のオリゴヌクレオチド残基が、配列番号15に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである場合、配列番号15に記載の塩基配列中、任意の位置の残基がヌクレオチド類縁体残基であり、それ以外の任意の位置の残基がリボヌクレオチド残基であってもよい。配列番号14、16又は17に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドについても同様である。
【0024】
本実施形態のオリゴヌクレオチドがヌクレオチド類縁体残基を含む場合、ヌクレオチド類縁体残基の種類は、特に限定されない。例えば、本実施形態のオリゴヌクレオチドは、上記したような種類のヌクレオチド類縁体に由来するヌクレオチド類縁体残基を含むことができる。本実施形態のオリゴヌクレオチドにおいては、ヌクレオチド類縁体残基は、BNA残基であることが好ましい。BNAは、相補鎖のDNAやRNAに対する結合親和性が高く、ヌクレアーゼ耐性も高い。また、所望の位置に所望の数のBNA残基を導入することが容易である。
【0025】
BNAは、糖部分に架橋化構造を有する架橋化核酸であり、これまでに、2’,4’−BNA、3’−amino−2’,4’−BNA、5’−amino−2’,4’−BNA、5’−amino−3’,5’−BNA、3’−amino−3’,4’−BNA、2’,4’−BNACOC、2’,4’−BNANC等が知られている。例えば、2’,4’−BNAは、リボースの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子とがメチレン基を介して架橋した構造を有する。また、3’−amino−2’,4’−BNAは、2’,4’−BNAの3’部位の炭素原子に結合する酸素原子が、−NH−で置換された構造を有する。また、2’,4’−BNACOCは、リボースの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子とが、−CHOCH−で架橋された構造を有する。また、2’,4’−BNANCは、リボースの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子とが、−NRCH−(Rはアルキル基等の官能基)で架橋された構造を有する。本実施形態においては、これらのいずれのBNAも使用することができる。また、本実施形態において使用可能なBNAは、これらに限定されず、例えば国際公開第03/068795号、国際公開第03/068794号、国際公開2005/021570号に記載されるもの等、公知のBNAを適宜選択して使用することができる。
【0026】
なお、BNAは、塩基部分にメチル化等の修飾を有するものであってもよい。例えば、塩基部分がメチル化シトシンであるBNA等が、一般的に用いられている。そのようなBNAの例として、5−メチルシトシンを塩基部分に有するBNA等が挙げられる。
【0027】
本実施形態のオリゴヌクレオチドがヌクレオチド類縁体残基を含む場合、ヌクレオチド類縁体残基の位置は、特に限定されない。例えば、ヌクレオチド類縁体残基の位置として、配列番号14における1〜4位、7位、8位、11位、13位及び15〜18位等を挙げることができる。また、配列番号15における1位、3位、6位、8位、11位、13位、15位、18位、20位及び21位等を挙げることができる。
【0028】
例えば、配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、及び18位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドは、本実施形態のオリゴヌクレオチドの好適な例である。また、配列番号14に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、2位のアデニン残基、3位のグアニン残基、4位のチミン残基若しくはウラシル残基、7位のシトシン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、16位のグアニン残基、17位のシトシン残基、及び18位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドもまた、本実施形態のオリゴヌクレオチドの好適な例である。さらに、配列番号15に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、3位のグアニン残基、6位のグアニン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基若しくはウラシル残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基若しくはウラシル残基、18位のグアニン残基、20位のシトシン残基、及び21位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドもまた、本実施形態のオリゴヌクレオチドの好適な例である。上記の例において、ヌクレオチド類縁体残基は、BNA残基であることが好ましい。また、BNA残基を用いる場合、塩基部分がメチル化されたものであってもよい。例えば、シトシン残基について、5−メチルシトシンを塩基部分に有するBNA残基等を使用することができる。
【0029】
なお、上記のようなオリゴヌクレオチドの例として、配列番号4に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、4位のチミン残基、7位のシトシン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基、及び18位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを挙げることができる。また、配列番号4に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、2位のアデニン残基、3位のグアニン残基、4位のチミン残基、7位のシトシン残基、11位のチミン残基、15位のチミン残基、16位のグアニン残基、17位のシトシン残基、及び18位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドも挙げることができる。さらに、配列番号5に記載の塩基配列において、1位のアデニン残基、3位のグアニン残基、6位のグアニン残基、8位のアデニン残基、11位のチミン残基、13位のアデニン残基、15位のチミン残基、18位のグアニン残基、20位のシトシン残基、及び21位のグアニン残基がヌクレオチド類縁体残基である、塩基配列からなるオリゴヌクレオチドもまた、挙げることができる。なお、これらの例においても、ヌクレオチド類縁体残基は、BNA残基であることが好ましい。BNA残基を用いる場合、塩基部分がメチル化されたものであってもよいのは、上記と同様である。
【0030】
本実施形態のオリゴヌクレオチドは、公知の核酸合成方法により、製造することができる。例えば、一般的なホスホロアミダイト法による核酸自動合成機等を用いて、本実施形態のオリゴヌクレオチドを製造することができる。本実施形態のオリゴヌクレオチドが、ヌクレオチド類縁体残基を含む場合も、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、ヌクレオチド類縁体残基が、BNA等の修飾ヌクレオチドであれば、所望の位置に修飾ヌクレオチドを組み込んで核酸合成を行うことにより、所望の位置に修飾ヌクレオチド残基を有するオリゴヌクレオチドを製造することができる。
【0031】
本実施形態のオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2塩基配列を有するRNA及びITS2をコードするDNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に、特異的にハイブリダイズすることができるため、アスペルギルス・テレウス検出用プローブとして用いることができる。
【0032】
[アスペルギルス・テレウス検出用プローブ]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態のオリゴヌクレオチドを含む、アスペルギルス・テレウス検出用プローブを提供する。
【0033】
本明細書において、「プローブ」とは、検出対象となる物質に特異的に結合し、被検体における検出対象物質の有無の判断を可能にする物質をいう。本実施形態のプローブにおいて、検出対象はアスペルギルス・テレウス、又はそのゲノムDNA若しくはその遺伝子産物である。
【0034】
本実施形態のプローブは、上述した実施形態のオリゴヌクレオチドを含む。上記実施形態のオリゴヌクレオチドは、アスペルギルス・テレウスのITS2に特異的な塩基配列を有する。そのため、アスペルギルス・テレウスのITS2塩基配列を有するRNA及びITS2をコードするDNAのセンス鎖又はアンチセンス鎖に特異的にハイブリダイズすることができる。したがって、上述した実施形態のオリゴヌクレオチドを用いれば、他のアスペルギルス属菌種とは区別して、アスペルギルス・テレウスのみを特異的に検出するプローブを作成することができる。
【0035】
本実施形態のプローブは、上記実施形態のオリゴヌクレオチドの他、適当な標識物質を含むことができる。標識物質は、核酸プローブに一般的に用いられるものを使用することができる。例えば、標識物質としては、蛍光色素、金ナノ粒子、ビオチン、抗体、抗原、ラジオアイソトープ、化学発光体、酵素等が挙げられる。蛍光色素の例としては、FAM(カルボキシフルオレセイン)、JOE(6−カルボキシ−4’,5’−ジクロロ2’ ,7’−ジメトキシフルオレセイン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート)、TET(テトラクロロフルオレセイン)、HEX(5'−ヘキサクロロ−フルオレセイン−CEホスホロアミダイト)、Cy3、Cy5、Alexa568、Alexa647等を挙げることができる。また、抗原の例としては、DIG(ジゴキシゲニン)、FAM、FITC等が挙げられる。標識物質は、標識物質の種類に応じた公知の方法を用いて、上記実施形態のオリゴヌクレオチドに結合することができる。
【0036】
本実施形態のプローブは、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出するために用いることができる。
【0037】
[アスペルギルス・テレウスの検出方法]
1実施形態において、本発明は、上記実施形態のプローブを、被検体に対して、ハイブリダイゼーションする工程を含む、アスペルギルス・テレウスの検出方法を提供する。
【0038】
本実施形態の方法において、ハイブリダイゼーションの方法は特に限定されない。例えば、臨床検体等から核酸を抽出し、サザンハイブリダイゼーションやノーザンハイブリダイゼーションを行ってもよい。また、抽出した核酸を、真菌種のITS2を増幅し得るユニバーサルプライマーを用いてPCR増幅し、得られたPCR産物に対してサザンハイブリダイゼーション等を行ってもよい。
【0039】
一方、上述した実施形態のプローブは、ISH法(in situハイブリダイゼーション法)においても、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出できるという特徴を有する。そのため、ハイブリダイゼーションの方法としては、ISH法を好適に用いることができる。
【0040】
本実施形態の方法には、プローブとして、上述した実施形態のプローブを用いる。上記実施形態のプローブは、組織や細胞等から抽出した核酸やPCR増幅した核酸のみならず、ISH法においても、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出できることが見出された。したがって、上記実施形態のプローブを用いれば、病理組織検体等において、直接、アスペルギルス・テレウスを検出することができる。
【0041】
本実施形態の方法において、ISH法は、常法により行うことができる。例えば、アスペルギルス・テレウス感染が疑われる患者から採取した組織で組織切片を作製し、プローブを細胞内へ浸透させるためにプロテアーゼ処理等を行った後、プローブをハイブリダイゼーションさせる。そして、プローブが有する標識物質に応じて可視化操作を行うことにより、組織切片上でアスペルギルス・テレウスの検出を行うことができる。以下、本実施形態の方法の一例について説明するが、本実施形態の方法は、以下に例示する方法に限定されるものではない。
【0042】
本実施形態の方法において、アスペルギルス・テレウスの検出対象となる被検体は、アスペルギルス・テレウスの存在が疑われる試料である。試料の種類は、特に限定されず、例えば、アスペルギルス・テレウス感染が疑われる患者から採取した生体試料等を用いることができる。そのような生体試料としては、例えば、肺、気管支、腎臓、皮膚等の組織検体、血液、痰、唾液、尿、便等の検体、及び気管支肺胞洗浄液(BAL)等が挙げられる。また、被検体は、前記したような生体試料の培養物等であってもよい。また、被検体は、生体試料に限定されず、食品試料や環境試料等であってもよい。
【0043】
被検体は、組織又は細胞の固定を行うことが好ましい。固定の方法は、特に限定されず、一般的な組織固定方法を使用することができる。固定液としては、例えば、ホルマリンやアルコールをベースにした固定液等が挙げられる。アルコールをベースにした固定液としては、一般に95 %エタノールが用いられる。また、被検体は、スライドガラス上等に固定してもよい。本実施形態の方法における被検体の好適な例としては、ホルマリン固定されたパラフィン包埋組織切片等を挙げることができる。
【0044】
また、被検体は、ハイブリダイゼーション反応を行う前に、前処理を行ってもよい。前処理の例としては、脱パラフィン処理、プロテアーゼ処理、アセチル化処理、塩酸処理、界面活性剤処理等が挙げられる。
【0045】
被検体が、パラフィン包埋組織切片等である場合、前処理として、脱パラフィン処理を行ってもよい。脱パラフィン処理は、キシレン等を用いて行うことができる。
【0046】
また、前処理として、プロテアーゼ処理を行ってもよい。温和にプロテアーゼ処理を行うことにより、菌の局在を変えることなく、プローブを組織に浸透しやすくすることができる。また、標的DNAに架橋したタンパク質が分解されて、後の変性工程において、DNAが1本鎖になりやすくなり、標的へのプローブの到達を容易にする。プロテアーゼ処理に用いるプロテアーゼは、ISH法に一般的に使用されるものを用いることができる。プロテアーゼの例としては、プロテアーゼKやペプシン等が挙げられる。
【0047】
また、前処理としてアセチル化処理を行ってもよい。アセチル化処理を行うことにより、組織やスライドガラスに対するプローブの静電気的な非特異的結合を減少させることができる。さらに、アセチル化処理は、塩基性タンパク質などポジティブチャージの分子の中和に寄与するとされている。アセチル化は、酢酸や無水酢酸トリエタノールアミン溶液等によって行うことができる。
【0048】
また、前処理として塩酸処理を行ってもよい。塩酸処理を行うことにより、塩基性タンパク質を除去し核酸を露出させることにより,プローブの透過性を高め非特異反応を防止する。
【0049】
被検体は、適宜、上記のような前処理を行った後、プレハイブリダイゼーションを行ってもよい。プレハイブリダイゼーションを行うことにより、バックグラウンド染色を防ぐことが期待できる。プレハイブリダイゼーションを行う場合、プレハイブリダイゼーション溶液には、ハイブリダイゼーション溶液からプローブを除いたもの等を使用することができる。プレハイブリダイゼーションは、例えば、スライドガラス上の被検体にプレハイブリダイゼーション溶液を滴下し、40〜60℃で、30分〜2時間程度静置することにより行うことができる。なお、プレハイブリダイゼーション溶液を滴下した後、被検体はカバーガラスやパラフィルム等で被覆してもよい。
【0050】
ハイブリダイゼーション反応は、上述した実施形態のプローブを用いて行う。その他のハイブリダイゼーション条件等は、ISH法で通常用いられる条件等を使用することができる。
【0051】
一般的には、プローブと被検体とのハイブリダイゼーション反応を行う前に、被検体中の核酸が1本鎖となるように変性させておく。変性は、ISH法で通常用いられる条件で行うことができる。例えば、80〜100℃で、3〜10分間程度加熱することにより、変性を行うことができる。
【0052】
ハイブリダイゼーション反応は、上述した実施形態のプローブを含むハイブリダイゼーション溶液をスライドガラス上の被検体に滴下し、40〜60℃で、30分〜15時間程度静置することにより、行うことができる。ハイブリダイゼーション溶液を滴下した後、被検体はカバーガラスやパラフィルム等で被覆してもよい。
【0053】
ハイブリダイゼーション溶液には、ISH法に一般的に用いられるものを使用すればよい。例えば、デンハルト溶液、ホルムアミド、デキストラン硫酸、SDS、EDTA、塩、バッファ等を混合して、ハイブリダイゼーション溶液を調製することができる。
【0054】
ハイブリダイゼーション反応後は、必要に応じて、洗浄を行ってもよい。洗浄により、非特異的に結合するプローブを除去することができる。洗浄は、洗浄液の塩濃度および洗浄温度などにより特異度を調製できる。一般に洗浄液の塩濃度を上げ、洗浄温度を下げれば特異度は低下する。洗浄液にホルムアミドを加えれば特異度は下がる。
【0055】
ハイブリダイゼーション反応後、適宜洗浄を行った後、標的配列にハイブリダイズしているプローブの標識を検出する。標識の検出方法は、使用する標識に応じて適宜選択することができる。例えば、標識が6−FAMである場合には、アルカリフォスファターゼ等の酵素結合抗6−FAM抗体を用いて、検出を行うことができる。また、DIGやFITC等も、酵素結合抗体が市販されているため、これらの抗体を用いて検出を行ってもよい。標識が蛍光色素である場合には、蛍光顕微鏡で観察することにより、標識を検出することができる。また、標識がラジオアイソトープである場合には、オートラジオグラフィー等により標識を検出することができる。
【0056】
本実施形態の方法によれば、病理組織検体等において、直接、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出することができるため、培養ができない、あるいは培養がされない場合においても迅速かつ正確に、アスペルギルス・テレウス感染を診断することができる。また、レトロスペクティブな解析も可能である。
【実施例】
【0057】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0058】
[アスペルギルス・テレウス検出用プローブの作製]
アスペルギルス・テレウス、及びアスペルギルス・フミガツスを含むアスペルギルス菌種において、ITS領域を含む18S〜28S rDNA配列のBLAST検索を行い、アスペルギルス・テレウス特異的配列の探索を行った。
【0059】
その結果、アスペルギルス・テレウス検出用プローブの候補配列として、表1に示す5種類の配列を選択した。
【0060】
【表1】
【0061】
上記表1の塩基配列は、BLAST検索により、アスペルギルス属菌種以外の他菌種にも類似性がないことが確認された。
【0062】
上記表1の塩基配列を基に、表2に示す6種類のプローブを設計した。なお、表2に示す塩基配列中、下線太字で示した残基は、BNA残基である。プローブの合成に使用したBNAは、2’,4’−BNANC(N−Me)(リボースの2’部位の酸素原子と4’部位の炭素原子とが、−NRCH−(Rはメチル基)で架橋されたもの)である。なお、塩基としてシトシンを有するBNAには、シトシンの5位がメチル化されたものを用いた。
【0063】
【表2】
【0064】
プローブに相補的な塩基配列を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
表2に示す配列に基づいて、6種類のオリゴヌクレオチドを合成し、5’末端を6−FAMで標識して、プローブAter01〜03及びAter05〜07を作製した。
【0067】
[実験例1:培養菌体を対象としたISH法による検出]
アスペルギルス・テレウスとアスペルギルス・フミガツスの培養菌体を対象として、ISH法により、アスペルギルス・テレウスの検出を試みた。プローブは、Ater01〜Ater03、及びAter05〜Ater07を使用した。ISH法は、以下のような手順で行った。
【0068】
(前処理)
まず、アスペルギルス・テレウス及びアスペルギルス・フミガツスの培養菌体のパラフィン包埋切片を作製し、スライドガラス上に固定した。次に、キシレンを用いて、脱パラフィン処理を行った。具体的には、キシレンが入っているドーゼに、菌体を固定したスライドガラスを入れ、50℃で30分間加温した。その間適宜、ピンセットでスライドガラスを上下させた。次に、新しいキシレンが入っている別のドーゼにスライドガラスを入れ、室温で10分間静置した。その後、100 %、90 %、80 %、及び70 %のエタノールにそれぞれ2分間ずつ浸漬して、親水化を行った。親水化処理後、スライドガラスを蒸留水に浸漬して、室温で10分間静置した。
【0069】
次に、0.2 N塩酸を用いて、室温で2分間、塩酸処理を行った。その後、PBSを用いて、室温で2分間洗浄処理を行った後、2 μg/mLのプロテアーゼK(PBS溶液)を用いて、37℃で5分間、プロテアーゼ処理を行った。プロテアーゼ処理の後、G−PBS(2 mg/mL グリシンを含むPBS)を用いて、室温で10分間、次いでPBSを用いて、室温で2分間、洗浄処理を行った。
【0070】
次に、20 %酢酸を用いて、氷温で15秒間、アセチル化処理を行った。アセチル化処理後、PBSを用いて、室温で2分間、洗浄処理を行った後、スライドガラスを軽く立てて、水を切った。
【0071】
(in situハイブリダイゼーション)
あらかじめ50℃に温めておいたハイブリダイゼーション溶液100 μLを、スライドガラス上の菌体に滴下し、カバーガラスをのせた。その後、ホットプレート上で、94℃で10分間、スライドガラスを加熱し、変性処理を行った。その後、氷上のアルミ板上で、スライドガラスを急冷した。
【0072】
次に、プレハイブリダイゼーションを行った。50 %ホルムアミドで湿潤させた箱を、あらかじめ50℃に温めておき、スライドガラスを箱の中に入れ、1時間静置することにより、プレハイブリダイゼーションを行った。
【0073】
プローブは、ハイブリダイゼーション溶液で100 μLとなるように調製した。
【0074】
次に、ハイブリダイゼーション反応を行った。まず、加温しておいた2×SSC(SSC:0.03 Mクエン酸ナトリウム、0.3 M塩化ナトリウム)内でカバーガラスをピンセットではずし、スライドガラスの液を切った。その後、プローブを終濃度130 pmol/mLで含むハイブリダイゼーション溶液100 μLをスライドガラス上に滴下し、パラフィルムで覆った。そのまま、50℃で、1晩静置することにより、ハイブリダイゼーション反応を行った。
【0075】
上記の処理で用いたハイブリダイゼーション溶液の組成は以下のとおりである。
1×デンハルト溶液(デンハルト溶液:1 %Ficoll、1 %ポリビニルピロリドン(P−5288)(SIGMA)、1 %BSA(fraction V,SIGMA))
50 % ホルムアミド
10 % 硫酸デキストラン
0.25 % SDS
600 mM NACl
1 mM EDTA・2Na pH8.0
10 mM Tris pH7.6
【0076】
(検出反応)
スライドガラスは、2×SSCを用いて、50℃で15分間、77 rpmの振盪下で、2回の洗浄を行った。次に、0.2×SSCを用いて、50℃で15分間、77 rpmの振盪下で、2回の洗浄を行った。その後、バッファ1(100 mM Tris−HCl、150 mM NaCl;pH7.5)で、スライドガラスをゆすいだ。
【0077】
次に、ブロッキング処理を行った。ブロッキング処理は、ブロッキング液にスライドガラスを浸漬し、室温で1時間、穏やかに振盪することにより行った。
【0078】
ブロッキング液には、1 %ブロッキング試薬(#1096 176、ロシュ・ライフサイエンス)を含むバッファ1を使用した。
【0079】
ブロッキング液からスライドガラスを取り出し、アルカリフォスファターゼ標識抗FITC抗体(#11 426 338 910、ロシュ・ライフサイエンス、1.5 U/ml)をスライドガラス上に滴下した。スライドガラスをパラフィルムで覆い、室温で30分間、湿潤箱中で静置した。その後、バッファ2(0.2 % Tween20を含むバッファ1)にスライドガラスを浸漬し、15分間、強めに振盪しながら、3回洗浄を行った。
【0080】
次に発色反応を行った。まず、スライドガラスを0.1 M Tris pH9.5でゆすいだ。次に、発色液をスライドガラス上に滴下し、カバーガラスをのせた。スライドガラスを湿潤箱中に置き、37℃で発色反応を行った。なお、発色液は、Alkaline Phosphatase Conjugate Substrate Kit(#170−6432、バイオ・ラッド)を用いて調製した。発色反応中、スライドガラス上で、発色を確認しながら、最長1晩、発色反応を行った。
【0081】
(結果)
プローブとして、Ater01〜Ater03を用いて、ISH法を行った結果を図1に示す。また、プローブとして、Ater05〜Ater07を用いて、ISH法を行った結果を図2に示す。
【0082】
図1に示すように、Ater01〜Ater03では、アスペルギルス・テレウス及びアスペルギルス・フミガツスの両菌体において、発色が認められた。この結果は、Ater01〜Ater03が、アスペルギルス・テレウスのDNA及びRNAのみならず、アスペルギルス・フミガツス菌体内の核酸にも、ハイブリダイズしてしまうことを示している。したがって、Ater01〜Ater03では、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出できないことが明らかになった。
【0083】
Ater01〜Ater03は、アスペルギルス・テレウスに特異的な塩基配列として、BLAST検索により見出された塩基配列であり、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出できることが期待された。しかし、ISH法では、非特異的な結合が生じ、アスペルギルス・テレウスの特異的な検出はできなかった。この結果は、BLAST検索等でアスペルギルス・テレウスに特異的な塩基配列を見出したとしても、必ずしもISH法用プローブとして使用できるとは限らないことを示す。
【0084】
一方、図2に示すように、Ater05〜Ater07では、アスペルギルス・テレウス菌体においては発色が認められたが、アスペルギルス・フミガツス菌体においては発色が認められなかった。この結果は、Ater05〜Ater07が、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出できるプローブであることを示している。なお、Ater05よりもAter06及びAter07の方が、アスペルギルス・テレウス菌体における発色強度が強かった。
【0085】
なお、ハイブリダイゼーション反応は、40℃、55℃、60℃でも行ったが、50℃の場合と特異性に変化は認められなかった(データは示さず)。
【0086】
また、Ater05〜Ater07を用いて、臨床で見られる他の糸状菌種菌体(アスペルギルス・フラブス(Aspergillus flavus)、アスペルギルス・ニゲル(Aspergillus niger)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、フサリウム・ソラニ(Fusarium solani)、シュードアレシェリア・ボイジイ(Pseudallescheria boydii)、リゾプス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、及びペニシリウム(Penicillium)でもISH法を行ったが、これらの菌体で発色は認められなかった(データは示さず)。
【0087】
以上の結果から、Ater05〜Ater07が、ISH法により、アスペルギルス・テレウス菌体を特異的に検出できるプローブであることが確認された。
【0088】
[実験例2:感染動物組織を対象としたISH法による検出]
アスペルギルス・テレウス感染マウスの腎臓と、アスペルギルス・フミガツス感染マウスの腎臓から組織検体を作製し、ISH法により、アスペルギルス・テレウスの検出を試みた。
【0089】
ISH法は、実験例1と同様の手順で行った。プローブには、Ater07を使用した。Ater07は、終濃度130 pmol/mLに調製して、ハイブリダイゼーション反応を行った。また、陽性コントロールとして、18Sプローブ(真菌の18S rDNA配列を標的とした汎真菌プローブ)でも、ISH法を行った。18Sプローブは、PCR法によりDIG標識した568 bpのプローブであり(Hanazawa R, Murayama SY, Yamaguchi H. In-situ detection of Aspergillus fumigatus. J Med Microbiol. 2000 Mar;49(3):285-90.)、終濃度1 %に調製して使用した。
【0090】
プローブとして、Ater07を用いてISH法を行った結果を図3〜6に示す。図3に示すように、Ater07では、アスペルギルス・テレウス感染マウスの腎臓組織切片において発色が認められた。一方、図4に示すように、アスペルギルス・フミガツス感染マウスの腎臓組織切片では、発色が認められなかった(図4右)。なお、18Sプローブでは、発色が認められることから、菌体が組織中にあることは確認できた(図4左)。
【0091】
また、アスペルギルス・テレウスの近縁種であるアスペルギルス・フラブス及びアスペルギルス・ニデュランスでも感染マウスの腎臓組織を対象として、Ater07を用いてISH法を行った。その結果、図5及び図6に示すように、これらの感染マウスの腎臓組織切片では、発色が認められなかった。なお、18Sプローブでは、発色が認められることから、菌体が組織中に存在することは確認できた(図5左、図6左)。
【0092】
以上の結果から、Ater07は、組織切片においても、アスペルギルス・テレウス特異的に検出できるプローブであることが確認された。
【0093】
[実験例3:ヒト臨床検体を対象としたISH法による検出]
2種類の臨床組織検体を対象として、ISH法により、アスペルギルス・テレウスの検出を試みた。臨床組織検体の1つは、侵襲性肺アスペルギルス症患者から採取された肺組織検体であり、近畿大学より提供を受けた(以下、「検体1」という。)。検体1は、剖検時に採取した肺から、アスペルギルス・テレウスの培養に成功しており、アスペルギルス・テレウス感染肺であることが確認されている。また、もう1つの臨床組織検体は、アレルギー性気管支肺真菌症患者から採取された粘液栓子検体であり、独立行政法人国立病院機構 東京病院より提供を受けた(以下、「検体2」という。)。検体2は、同じ患者の喀痰からアスペルギルス・テレウスが培養されている。
【0094】
ISH法は、実験例1と同様の手順で行った。プローブには、Ater05〜Ater07を使用した。なお、Ater05〜Ater07は、終濃度130 pmol/mLに調製して、ハイブリダイゼーション反応を行った。また、アスペルギルス・フミガツスに特異的なプローブAfut1(245 bp、DIG標識(Neuveglise C. Nucleic Acids Res 24:1428-34, 1996)でも、ISH法を行った。
【0095】
プローブとして、Ater07を用いてISH法を行った結果を図7及び図8に示す。図7は検体1、図8は検体2を対象としたものである。図7及び図8に示すように、Ater07では、検体1及び検体2の両検体において、発色が認められた。一方、アスペルギルス・フミガツス特異的プローブであるAfut1を用いた場合には、いずれの検体でも発色は確認されなかった。なお、近畿大学検体は、1998年に採取された検体であり、ほぼ30年前の検体においても、アスペルギルス・テレウスの特異的検出が可能であることが示された。
【0096】
以上の結果から、Ater07は、ヒト臨床検体においても、アスペルギルス・テレウス特異的な検出が可能であることが確認された。
【0097】
また、プローブとして、Ater05又はAter06を用いて、ISH法を行った結果を図9及び図10に示す。図9は検体1、図10は検体2を対象としたものである。図9及び図10に示すように、Ater05及びAter06でも、検体1及び検体2の両検体において、発色が認められた。これらの結果から、Ater05及びAter06も、ヒト臨床検体において、アスペルギルス・テレウスの特異的な検出が可能であることが確認された。なお、Ater05及びAter06は、Ater07と比較すると発色強度が弱く、Ater07の方がISH法のプローブとして適している。
【0098】
以上の結果より、Ater05〜Ater07は、臨床組織検体においても、ISH法により、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出することが可能なプローブであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のオリゴヌクレオチド、プローブ、検出方法によれば、病理組織検体において、アスペルギルス・テレウスを特異的に検出することができる。本発明により、アスペルギルス・テレウス感染の迅速かつ正確な診断方法が提供される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]