【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、気体分子の固体内表面拡散による物質移動度が、気体内拡散による物質移動度を上回るように膜状態を設定すると、膜の一方の側と他方の側とに温度差を付与した場合に、膜中において固体内表面を移動する気体分子の移動量が、気体中を移動する気体分子の移動量に比べて大きくなり、膜の例えば低温側で吸着した気体分子は、吸着した低温側から膜内の表面拡散によって吸着した低温側とは反対側の高温側へ輸送することが可能であるとの知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
本発明においては、上記の知見に基づき、固体内表面拡散が気体内拡散に優る膜条件下において温度差を利用する。上記した課題を達成するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
すなわち、前記目的を達成するため、第1の発明は、
<1> 気体分子の吸着が可能な孔を有し、かつ、下記式1を満たし、膜の一方面と他方面との間の温度差によって気体中の気体分子の一部を一方面から他方面に移動させて、前記気体から前記気体分子の一部を分離する、多孔質膜である。
J
surf − J
gas > 0 ・・・式1
式1において、J
surfは、固体内表面拡散による固体内物質移動度[g/秒]を表し、J
gasは、気体内拡散による気体内物質移動度[g/秒]を表す。
【0012】
第1の発明においては、多孔質膜の一方の側を流通する気体中の気体分子を多孔質膜の一方面で吸着し、吸着した気体分子を、膜中を移動させて他方面で放出することで、所望の気体分子を気体中から分離、除去することができる。
以下に、第1の発明をより具体的に説明する。
目的の気体分子として例えば水蒸気を含有する気体を、多孔質膜の一方の側(例えば低温側)において膜面に接触させて流通し、他方の側に比べて低温な膜の一方面に水蒸気を吸着させる。第1の発明の多孔質膜は、気体分子の吸着が可能な孔を有するので、吸着材の吸着等温線にしたがって水蒸気を吸着することができる。そして、第1の発明である多孔質膜は、固体内表面拡散による固体内物質移動度が、気体内拡散による気体内物質移動度に比べて卓越した状態(J
surf−J
gas>0)にあるので、吸着成分である水蒸気は、流通する気体中への拡散よりも多孔質膜の固体内表面拡散が優位となる。よって、水蒸気は、多孔質膜内の水蒸気吸着量が均一になる方向に輸送されることになる。膜中を通って多孔質膜の他方の側(例えば高温側)に達した水蒸気は、前記一方面に比べて高温の他方面で多孔質膜中の吸着材の吸着等温線にしたがって脱離する。
第1の発明においては、上記のように、低温側での気体分子のガス吸着、固体内表面拡散による輸送、高温側での気体分子の脱着が連続的に進行することによって、気体分子の連続的なポンピング効果が得られる。
第1の発明では、既述の従来技術のようにデシカントロータ等の機械的な駆動部、回転部を有さず、かつ、吸着材の温度スウィングもないため、小型化が可能で高い信頼性を確保しつつ、所望とする気体分子を気体中から選択的に分離することができる。
【0013】
<2> 第1の発明は、前記<1>に記載の多孔質膜において、前記孔は、平均孔径が10nm以下であることが好ましい。
【0014】
多孔質膜における孔の大きさ(孔径)が10nm以下のナノサイズであると、気体中に含まれる気体分子が吸着しやすく、気体分子の分離性がより高められる。
【0015】
<3> 第1の発明は、前記<1>又は前記<2>に記載の多孔質膜において、気孔率が0.7%未満であることが好ましい。
【0016】
多孔質膜の気孔率は、固体内表面拡散による固体内物質移動度が、気体内拡散による気体内物質移動度に比べて卓越した状態に維持される観点から、0.7%未満の範囲が好ましい。
例えば多孔質膜がシリカゲルからなる膜である場合、膜の気孔率が0.7%である場合に、固体内表面拡散による固体内物質移動度と、気体内拡散による気体内物質移動度と、が等しくなる。したがって、多孔質膜の気孔率が0.7%未満であると、気体分子は流通する気体中に拡散するよりも多孔質膜の固体内表面拡散が優位となる。これにより、気体分子は、多孔質膜内において気体分子の吸着量が均一になる方向に輸送される。例えば膜の低温側に気体分子を吸着させた場合、低温側から高温側への気体分子の輸送が可能になる。
【0017】
<4> 第1の発明は、前記<3>に記載の多孔質膜において、前記気孔率が0.5%未満であることが好ましい。
【0018】
多孔質膜の気孔率は、値が小さいほど気体分子の固体内表面拡散が起こり易くなる点で好ましい。気孔率が0.5%未満の範囲であると、固体内表面拡散による固体内物質移動度と気体内拡散による気体内物質移動度との差を大きく保つことができ、固体内表面拡散による固体内物質移動度を、気体内拡散による気体内物質移動度に対してより卓越した状態とすることができる。
【0019】
第1の発明は、前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の多孔質膜において、
<5> ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材を含む態様が好ましく、前記吸着剤からなる態様がより好ましい。
【0020】
ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材は、物理吸着もしくは化学吸着による気体分子の吸着能に優れている。
【0021】
第1の発明は、前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の多孔質膜において、
<6> 吸着される前記気体分子は、水蒸気であることが好ましい。
【0022】
第1の発明である多孔質膜は、気体分子として水蒸気の吸着能に優れていることが好ましい。この場合、気体中に存在する水分の分離、除去を迅速又は効率良く行うことができ、加湿雰囲気中の水分を除去して除湿するのに適している。
【0023】
次に、第2の発明は、
<7> 上記の<1>〜<6>のいずれか1つに記載の多孔質膜と、前記多孔質膜の一方の側に配置された熱源と、を備え、気体中の気体分子の一部を前記気体から分離する気体分離装置である。
【0024】
第2の発明は、上記した第1の発明である多孔質膜の一方の側に熱源が配されていることで、多孔質膜の一方の側に熱が付与されるので、多孔質膜の一方の側と他方の側との間に温度差を与えることができる。この場合、多孔質膜の他方の側に分離対象である気体が供給されると、多孔質膜の他方の側に気体分子が吸着して気体分子の濃度は高まる一方、昇温状態にある一方の側では、気体分子が膜から脱離して気体分子の濃度は低下する。これにより、多孔質膜の低温側(他方の側)に分離対象である気体を流通した場合、低温側の膜面に吸着した気体分子は、気体分子が疎な高温側に向かって固体内表面拡散し、多孔質膜の高温側にて脱離して気体中から除去される。
【0025】
第2の発明は、前記<7>に記載の気体分離装置において、
<8> 更に、前記多孔質膜の他方の側に、前記気体分子を含む気体が流通する気体流通経路を備えた態様が好ましい。
【0026】
昇温する一方の側に比べて低温の他方の側に、分離対象である気体が流通する気体流通経路を備えることで、多孔質膜の一方の側への気体分子の供給を連続的に行うことができる。これにより、気体流通経路中の水分の分離、除去を連続的かつ継続的に行うことが可能である。
【0027】
また、第2の発明は、前記<7>又は前記<8>に記載の気体分離装置において、
<9> 前記熱源は、内燃機関、燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置から選択される少なくとも一つから排出された加熱流体であることが好ましい。
【0028】
多孔質膜に付与される熱の供給源(熱源)としては、特に制限されるものではないが、排熱(又は廃熱)を有効に利用することが、熱エネルギーの利用効率の点で好ましい。中でも、内燃機関、燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置などから排出される熱を有効に利用すると熱効率の良いシステムが構築できる。具体的には、燃焼排ガス、電池反応後の排ガス(オフガス)、加熱空気などの加熱流体を、多孔質膜の一方の側に流通される態様が好ましい。
【0029】
第2の発明は、前記<9>に記載の気体分離装置において、
<10> 前記熱源として、前記加熱流体が流通する流通経路を備えることが好ましい。
【0030】
多孔質膜の一方の側に流通経路を備え、加熱流体が流通することで、多孔質膜中を固体内表面拡散して多孔質膜の一方の側(高温側)に到達した気体分子が、多孔質膜の一方の側から脱離し、脱離した気体分子を加熱流体とともに除去することができる。