特開2017-225933(P2017-225933A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2017225933-多孔質膜及び気体分離装置 図000006
  • 特開2017225933-多孔質膜及び気体分離装置 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-225933(P2017-225933A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】多孔質膜及び気体分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 69/02 20060101AFI20171201BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20171201BHJP
   B01D 53/22 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   B01D69/02
   B01D71/02 500
   B01D53/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-123845(P2016-123845)
(22)【出願日】2016年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006KA15
4D006MA22
4D006MA24
4D006MA31
4D006MB04
4D006MC03
4D006PA05
4D006PB64
4D006PB65
4D006PB66
4D006PC72
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】水蒸気等の所望とする気体分子を気体中から選択的に分離する多孔質膜及び気体分離装置を提供する。
【解決手段】気体分子の吸着が可能な孔を有し、かつ、下記式1を満たし、膜の一方面と他方面との間の温度差によって気体中の気体分子の一部を一方面から他方面に移動させて、前記気体から前記気体分子の一部を分離する、多孔質膜である。式1中、Jsurfは、固体内表面拡散による固体内物質移動度を表し、Jgasは、気体内拡散による気体内物質移動度を表す。
surf − Jgas > 0 ・・・式1
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体分子の吸着が可能な孔を有し、かつ、下記式1を満たし、
膜の一方面と他方面との間の温度差によって気体中の気体分子の一部を一方面から他方面に移動させて、前記気体から前記気体分子の一部を分離する、多孔質膜。
surf − Jgas > 0 ・・・式1
式1中、Jsurfは、固体内表面拡散による固体内物質移動度[g/秒]を表し、Jgasは、気体内拡散による気体内物質移動度[g/秒]を表す。
【請求項2】
前記孔は、平均孔径が10nm以下であるナノ細孔である請求項1に記載の多孔質膜。
【請求項3】
気孔率が0.7%未満である請求項1又は請求項2に記載の多孔質膜。
【請求項4】
前記気孔率が0.5%未満である請求項3に記載の多孔質膜。
【請求項5】
ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材を含む請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項6】
前記気体分子が、水蒸気である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の多孔質膜。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の多孔質膜と、
前記多孔質膜の一方の側に配置された熱源と、
を備え、気体中の気体分子の一部を前記気体から分離する、気体分離装置。
【請求項8】
更に、前記多孔質膜の他方の側に、前記気体分子を含む気体が流通する気体流通経路を備えた請求項7に記載の気体分離装置。
【請求項9】
前記熱源は、内燃機関、燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置から選択される少なくとも一つから排出された加熱流体である請求項7又は請求項8に記載の気体分離装置。
【請求項10】
前記熱源として、前記加熱流体が流通する流通経路を備える請求項9に記載の気体分離装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質膜及び気体分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の産業分野において、混合ガスに含まれる特定ガス成分を分離、濃縮し、利用する技術が検討されている。具体的には、原燃料の水蒸気改質で生じた改質ガスから水素ガスや炭酸ガスを分離する技術、又は二酸化炭素を含む混合ガスから二酸化炭素を選択的に分離し、目的とするガス成分を単離したり、二酸化炭素を分離、回収する技術などが知られている。
【0003】
また、デシカント素子に水分を吸着させて除湿するデシカント方式の除湿技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。デシカント方式の除湿技術の具体例として、ゼオライトが付された回転ロータと熱交換器と吸着した水分を放出するためのヒーターとで構成されたデシカントローターシステムが知られている。
【0004】
上記以外に、細孔膜の低温部から高温部に向かって誘起される一方向の熱遷移流を利用する熱遷移流ポンプを備え、多孔体間の温度差により熱遷移流を生じさせて得られる圧力差を利用する熱遷移流ポンプが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−121103号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「除湿乾燥機こだわりの技術 デシカント式」、パナソニックエコシステムズ株式会社、インターネット<URL:http://panasonic.co.jp/es/peses/products/iaq/dtec02.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術のうち、上記したデシカント方式の除湿技術では、室内の温度が低温になっても除湿機能が保て、コンプレッサー式等に比べると構造が簡易であるものの、ロータを備えるためにコンパクト化に制限があり、ロータ回転部の劣化、ロータの温度スイング、ロータの温度スイングに伴う顕熱ロス及び吸着材の劣化などの課題がある。そのため、ロータ及びロータに起因して生じる温度スイングに対する改善が求められる。
【0008】
また、温度差を利用した熱遷移流ポンプでは、気体全体に対して圧力差を生じさせ、生じた圧力差で気体を分離するため、気体を選択的に分離することは困難である。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、水蒸気等の所望とする気体分子を気体中から選択的に分離する多孔質膜及び気体分離装置を提供することを目的とし、この目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、気体分子の固体内表面拡散による物質移動度が、気体内拡散による物質移動度を上回るように膜状態を設定すると、膜の一方の側と他方の側とに温度差を付与した場合に、膜中において固体内表面を移動する気体分子の移動量が、気体中を移動する気体分子の移動量に比べて大きくなり、膜の例えば低温側で吸着した気体分子は、吸着した低温側から膜内の表面拡散によって吸着した低温側とは反対側の高温側へ輸送することが可能であるとの知見に基づいて達成されたものである。
【0011】
本発明においては、上記の知見に基づき、固体内表面拡散が気体内拡散に優る膜条件下において温度差を利用する。上記した課題を達成するための具体的な手段には、以下の態様が含まれる。
すなわち、前記目的を達成するため、第1の発明は、
<1> 気体分子の吸着が可能な孔を有し、かつ、下記式1を満たし、膜の一方面と他方面との間の温度差によって気体中の気体分子の一部を一方面から他方面に移動させて、前記気体から前記気体分子の一部を分離する、多孔質膜である。
surf − Jgas > 0 ・・・式1
式1において、Jsurfは、固体内表面拡散による固体内物質移動度[g/秒]を表し、Jgasは、気体内拡散による気体内物質移動度[g/秒]を表す。
【0012】
第1の発明においては、多孔質膜の一方の側を流通する気体中の気体分子を多孔質膜の一方面で吸着し、吸着した気体分子を、膜中を移動させて他方面で放出することで、所望の気体分子を気体中から分離、除去することができる。
以下に、第1の発明をより具体的に説明する。
目的の気体分子として例えば水蒸気を含有する気体を、多孔質膜の一方の側(例えば低温側)において膜面に接触させて流通し、他方の側に比べて低温な膜の一方面に水蒸気を吸着させる。第1の発明の多孔質膜は、気体分子の吸着が可能な孔を有するので、吸着材の吸着等温線にしたがって水蒸気を吸着することができる。そして、第1の発明である多孔質膜は、固体内表面拡散による固体内物質移動度が、気体内拡散による気体内物質移動度に比べて卓越した状態(Jsurf−Jgas>0)にあるので、吸着成分である水蒸気は、流通する気体中への拡散よりも多孔質膜の固体内表面拡散が優位となる。よって、水蒸気は、多孔質膜内の水蒸気吸着量が均一になる方向に輸送されることになる。膜中を通って多孔質膜の他方の側(例えば高温側)に達した水蒸気は、前記一方面に比べて高温の他方面で多孔質膜中の吸着材の吸着等温線にしたがって脱離する。
第1の発明においては、上記のように、低温側での気体分子のガス吸着、固体内表面拡散による輸送、高温側での気体分子の脱着が連続的に進行することによって、気体分子の連続的なポンピング効果が得られる。
第1の発明では、既述の従来技術のようにデシカントロータ等の機械的な駆動部、回転部を有さず、かつ、吸着材の温度スウィングもないため、小型化が可能で高い信頼性を確保しつつ、所望とする気体分子を気体中から選択的に分離することができる。
【0013】
<2> 第1の発明は、前記<1>に記載の多孔質膜において、前記孔は、平均孔径が10nm以下であることが好ましい。
【0014】
多孔質膜における孔の大きさ(孔径)が10nm以下のナノサイズであると、気体中に含まれる気体分子が吸着しやすく、気体分子の分離性がより高められる。
【0015】
<3> 第1の発明は、前記<1>又は前記<2>に記載の多孔質膜において、気孔率が0.7%未満であることが好ましい。
【0016】
多孔質膜の気孔率は、固体内表面拡散による固体内物質移動度が、気体内拡散による気体内物質移動度に比べて卓越した状態に維持される観点から、0.7%未満の範囲が好ましい。
例えば多孔質膜がシリカゲルからなる膜である場合、膜の気孔率が0.7%である場合に、固体内表面拡散による固体内物質移動度と、気体内拡散による気体内物質移動度と、が等しくなる。したがって、多孔質膜の気孔率が0.7%未満であると、気体分子は流通する気体中に拡散するよりも多孔質膜の固体内表面拡散が優位となる。これにより、気体分子は、多孔質膜内において気体分子の吸着量が均一になる方向に輸送される。例えば膜の低温側に気体分子を吸着させた場合、低温側から高温側への気体分子の輸送が可能になる。
【0017】
<4> 第1の発明は、前記<3>に記載の多孔質膜において、前記気孔率が0.5%未満であることが好ましい。
【0018】
多孔質膜の気孔率は、値が小さいほど気体分子の固体内表面拡散が起こり易くなる点で好ましい。気孔率が0.5%未満の範囲であると、固体内表面拡散による固体内物質移動度と気体内拡散による気体内物質移動度との差を大きく保つことができ、固体内表面拡散による固体内物質移動度を、気体内拡散による気体内物質移動度に対してより卓越した状態とすることができる。
【0019】
第1の発明は、前記<1>〜前記<4>のいずれか1つに記載の多孔質膜において、
<5> ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材を含む態様が好ましく、前記吸着剤からなる態様がより好ましい。
【0020】
ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材は、物理吸着もしくは化学吸着による気体分子の吸着能に優れている。
【0021】
第1の発明は、前記<1>〜前記<5>のいずれか1つに記載の多孔質膜において、
<6> 吸着される前記気体分子は、水蒸気であることが好ましい。
【0022】
第1の発明である多孔質膜は、気体分子として水蒸気の吸着能に優れていることが好ましい。この場合、気体中に存在する水分の分離、除去を迅速又は効率良く行うことができ、加湿雰囲気中の水分を除去して除湿するのに適している。
【0023】
次に、第2の発明は、
<7> 上記の<1>〜<6>のいずれか1つに記載の多孔質膜と、前記多孔質膜の一方の側に配置された熱源と、を備え、気体中の気体分子の一部を前記気体から分離する気体分離装置である。
【0024】
第2の発明は、上記した第1の発明である多孔質膜の一方の側に熱源が配されていることで、多孔質膜の一方の側に熱が付与されるので、多孔質膜の一方の側と他方の側との間に温度差を与えることができる。この場合、多孔質膜の他方の側に分離対象である気体が供給されると、多孔質膜の他方の側に気体分子が吸着して気体分子の濃度は高まる一方、昇温状態にある一方の側では、気体分子が膜から脱離して気体分子の濃度は低下する。これにより、多孔質膜の低温側(他方の側)に分離対象である気体を流通した場合、低温側の膜面に吸着した気体分子は、気体分子が疎な高温側に向かって固体内表面拡散し、多孔質膜の高温側にて脱離して気体中から除去される。
【0025】
第2の発明は、前記<7>に記載の気体分離装置において、
<8> 更に、前記多孔質膜の他方の側に、前記気体分子を含む気体が流通する気体流通経路を備えた態様が好ましい。
【0026】
昇温する一方の側に比べて低温の他方の側に、分離対象である気体が流通する気体流通経路を備えることで、多孔質膜の一方の側への気体分子の供給を連続的に行うことができる。これにより、気体流通経路中の水分の分離、除去を連続的かつ継続的に行うことが可能である。
【0027】
また、第2の発明は、前記<7>又は前記<8>に記載の気体分離装置において、
<9> 前記熱源は、内燃機関、燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置から選択される少なくとも一つから排出された加熱流体であることが好ましい。
【0028】
多孔質膜に付与される熱の供給源(熱源)としては、特に制限されるものではないが、排熱(又は廃熱)を有効に利用することが、熱エネルギーの利用効率の点で好ましい。中でも、内燃機関、燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置などから排出される熱を有効に利用すると熱効率の良いシステムが構築できる。具体的には、燃焼排ガス、電池反応後の排ガス(オフガス)、加熱空気などの加熱流体を、多孔質膜の一方の側に流通される態様が好ましい。
【0029】
第2の発明は、前記<9>に記載の気体分離装置において、
<10> 前記熱源として、前記加熱流体が流通する流通経路を備えることが好ましい。
【0030】
多孔質膜の一方の側に流通経路を備え、加熱流体が流通することで、多孔質膜中を固体内表面拡散して多孔質膜の一方の側(高温側)に到達した気体分子が、多孔質膜の一方の側から脱離し、脱離した気体分子を加熱流体とともに除去することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、水蒸気等の所望とする気体分子を気体中から選択的に分離する多孔質膜及び気体分離装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の気体分離装置の実施形態の概略を示す概略図である。
図2】気孔率εと物質移動度との関係を示す関係式である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図1図2を参照して、本発明の気体分離装置の実施形態について具体的に説明する。但し、本発明においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0034】
本実施形態では、気体として、気体分子である水蒸気(HO)を含む大気を用い、水蒸気を吸着、輸送する多孔質膜として、シリカゲルからなる多孔質膜を用いた気体分離装置を一例に詳細に説明する。
【0035】
気体分子としては、水蒸気のほか、二酸化炭素、窒素、等が含まれる。
【0036】
本実施形態の気体分離装置100は、図1に示すように、多孔質膜11と、多孔質膜11の一方面に配置され、多孔質膜の一方面が内壁面の一部をなす排ガス流通管(加熱流体が流通する流通経路)13と、多孔質膜11の他方面に配置され、多孔質膜の他方面が内壁面の一部をなす水蒸気含有ガス流通経路(気体流通経路)15と、を備え、排ガス流通管13には、熱源として、不図示の内燃機関から排出された排ガスが流通し、かつ、水蒸気含有ガス流通経路15には、分離対象である水蒸気含有ガスとして水蒸気を含む大気が流通する。
【0037】
多孔質膜11は、水蒸気の吸着、吸着された水蒸気の固体内表面拡散による輸送、及び輸送された水蒸気の脱離の機能を担い、膜の一方の側から他方の側へ水蒸気を送ることによって分離対象である大気からの水蒸気の分離、除去が行えるようになっている。
【0038】
多孔質膜は、気体分子の吸脱着が可能で、かつ、吸着した気体分子の膜内輸送が可能な材料を用いた膜であれば、任意に選択することができる。好ましくは、気体分子の吸脱着が可能で、かつ、吸着した気体分子の膜内輸送が可能な材料からなる多孔質膜である。
気体分子の吸脱着が可能で、かつ、吸着した気体分子の膜内輸送が可能な材料としては、例えば、ゼオライト、シリカゲル、及びメソポーラスシリカから選択される吸着材が好適に挙げられる。
【0039】
多孔質膜11における気体分子の吸着特性は、ナノ細孔に由来する特性であり、気体分子の吸着し易さの観点から、孔の平均孔径で10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましく、2nm以下が更に好ましい。また、孔径は、0.5nm以上が好ましい。
なお、平均孔径は、細孔分布測定装置BELSORP−miniII(マイクロトラック・ベル社製)を用いて求められる値である。
【0040】
多孔質膜11の気孔率(ε)は、膜中の空間を占める比率のことであり、気孔率が低いほど気体分子の移動(輸送)には有利である。かかる観点から、気孔率は、0.7%未満が好ましく、0.5%未満がより好ましく、0.3%未満がより好ましい。また、気孔率は、0.1%以上が好ましく、0.2%以上がより好ましい。
なお、気孔率は、10cm角の試料(多孔質膜)を用意し、その試料体積(cm)、質量(g)、及びヘリウムピクノメーター(BELPycno、マイクロトラック・ベル社製)により求めた試料真密度(g/ml)を用いて次式から求められる値である。試料体積(cm)は、10cm×10cm×多孔質膜の厚み(cm)で算出される。
気孔率(%)=(1−(試料質量/試料真密度)/試料体積)×100
【0041】
上記のうち、気体分子が吸着しやすく、かつ、吸着した気体分子が膜中を移動しやすい点から、気孔率εが0.1%〜0.5%である場合が好ましい。
【0042】
多孔質膜の膜厚としては、100μm〜1000μmが好ましく、150μm〜400μmがより好ましい。膜厚は、多孔質膜を膜面の法線方向に平行方向に裁断した際の裁断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、観察画像から求められる。
【0043】
多孔質膜は、例えば、気体分子の吸脱着が可能で、かつ、吸着した気体分子の膜内輸送が可能な材料(本実施形態ではシリカゲル)を塗布し、乾燥させることにより形成することができる。また、多孔質膜は、所望とする表面にシリカゲル又はメソポーラスシリカを合成することにより形成することも可能である。
【0044】
排ガス流通管13は、熱源として、不図示の内燃機関から排出された加熱流体である排ガスを流通し、多孔質膜11の一方面Bを昇温する。これにより、多孔質膜11の一方面Bが他方面Aに比べて温度が高くなり、多孔質膜11の一方面と昇温されない他方面との間で温度差が形成されるようになっている。
熱源としては、上記の内燃機関から排出された排ガスを用いた例を示したが、内燃機関に加えて燃焼器、燃料改質器、燃料電池、及び加熱装置から選択される少なくとも一つから排出された加熱流体を用いることができる。
【0045】
排ガス流通管13では、図1に示すように、大気中から分離されて多孔質膜11中を拡散して移動してきた水分子(HO)20が多孔質膜11の一方面Bから脱離し、排ガスに取り込まれて排ガスとともに排出される。
【0046】
水蒸気含有ガス流通経路15は、分離対象である気体として、水蒸気を含む大気(水蒸気含有ガス)を流通し、大気が多孔質膜11の他方面Aに接触する。大気が多孔質膜11の他方面Aに接触すると、大気中に含まれる水蒸気(気体分子)が多孔質膜11の他方面Aに吸着する。多孔質膜11の他方の側には、常温(例えば20℃〜35℃)の大気が流通するので、水蒸気の吸着面となる多孔質膜11の他方面Aは、多孔質膜11の昇温された一方面に比べて低い温度状態にある。
【0047】
多孔質膜11の他方面Aに吸着した水蒸気は、図1に示すように、多孔質膜11中を水蒸気の吸着量がより少ない方向に拡散し、水蒸気含有ガス流通経路15から排ガス流通管13に向かって移動する。
以下に、具体的に説明する。
多孔質膜11は、上記のような孔径の孔を含み、上記の気孔率を有しており、多孔質膜11の表面には水蒸気が吸着可能なようになっている。そのため、大気中の水蒸気は、多孔質膜11の他方面Aに吸着し、吸着した水蒸気は、多孔質膜中を拡散できるようになる。ここで、気体分子は一般に濃度差によるガス拡散の原理に基づいて拡散しやすいが、本実施形態の多孔質膜11では、固体内表面拡散による固体内物質移動度が、気体内拡散による気体内物質移動度に比べて卓越した状態とされているので、吸着した気体分子である水蒸気は、水蒸気含有ガス流通経路15内を流通する大気へ戻ろうとする拡散移動よりも、むしろ多孔質膜の固体内表面拡散が優勢となって、多孔質膜中を、水蒸気吸着量の多い低温側(他方面A)から高温側(一方面B)へ移動しやすい状態となる。そのため、水蒸気は、多孔質膜内の水蒸気吸着量が均一化する方向に輸送されるので、多孔質膜11の他方面Aに吸着した水蒸気は、多孔質膜11の一方面Bへ輸送される。多孔質膜11中を通って多孔質膜の高温側の膜面に達した水蒸気は、多孔質膜の吸着材の吸着等温線にしたがって脱離する。これにより、大気中の水蒸気は大気から分離され、排ガスとともに排気されて除去される。
このように、多孔質膜において、低温側での水蒸気吸着、吸着後の固体内表面拡散による水蒸気の輸送、及び高温側での水蒸気脱離が連続的に進行することによって、気体分子の連続的なポンピング効果が得られる。
【0048】
シリカゲルからなる多孔質膜11における気体分子の固体内表面拡散(Jsurf)と気体内物質移動度(Jgas)について説明する。
まず、固体内表面拡散(Jsurf;単位:g/秒)及び気体内物質移動度(Jgas;単位:g/秒)は、下記の式(1)、式(2)により求められる。
【0049】
【数1】
【0050】
上記において、相互拡散係数Dmは、多孔質膜(本実施形態ではシリカゲル)中における気体分子(本実施形態では水蒸気)の拡散を示し、文献値(シリカゲル及び水蒸気を用いた本実施形態では2.4×10−5/s)を採用できる。
表面拡散Dsurfは、1.0×10−8/sの値が用いられる。
固体粒子密度ρsは、内部に孔を含む結晶の体積に対する重量密度を指し、結晶の物性値より求められる。
真密度ρcrystalは、ヘリウムピクノメーター(BELPycno、マイクロトラック・ベル社製)で求められる固体壁の密度(内部の孔を除いた固体壁自体の体積に対する重量密度)である。
【0051】
また、下記表1中の記号の詳細は以下の通りである。
温度T1、T2は、多孔質膜11の他方面A、一方面Bのそれぞれの温度(膜表面の温度)を指す。温度は、熱電対により測定される値である。
湿度C1、C2は、多孔質膜11の他方面A、一方面Bのそれぞれの湿度(膜表面の湿度)を指す。湿度は、湿度計により測定される値である。
飽和蒸気密度ρ1、ρ2は、多孔質膜11の他方面A、一方面Bのそれぞれにおける飽和蒸気密度を指し、飽和蒸気曲線により求められる値である。
吸着量W1、W2は、多孔質膜11の他方面A、一方面Bのそれぞれにおける気体分子の吸着量を示し、シリカゲルの吸着等温線を作成して求められる値である。
屈曲度は、多孔質膜(本実施形態ではシリカゲル)内のマクロ孔の屈曲度を指す。
【0052】
【表1】
【0053】
上記において、各パラメータの値を下記のように仮定し、上記の式(1)及び式(2)より固体内表面拡散(Jsurf)及び気体内物質移動度(Jgas)を算出すると、図2に示すようにε−物質移動度の関係を示すグラフが得られる。
【0054】
【表2】
【0055】
上記から求められる固体内表面拡散による固体内物質移動度(Jsurf)、及び気体内拡散による気体内物質移動度(Jgas)は、下記のように算出される。
・Jsurf= 3.47×10−7 [g/秒]
・Jgas = 3.29×10−7 [g/秒]
【0056】
また、図2に示されるように、シリカゲルを用いて形成された本実施形態の多孔質膜では、気孔率εが0.7%である場合、多孔質膜での固体内表面拡散と大気中での気体内拡散とのバランスがとれていることが分かる。そして、ε<0.7の領域になると、固体内表面拡散による固体内物質移動度(Jsurf)が、気体内拡散による気体内物質移動度(Jgas)に比べて卓越した状態となり、気体分子は、気体中よりもむしろ多孔質膜内で移動しやすくなり、低温側から高温側に向かって気体分子を輸送しやすくなる。
このような観点から、ε値は、0.5未満が好ましく、0.3未満がより好ましい。また、ε値は、0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。
【符号の説明】
【0057】
11・・・多孔質膜
13・・・排ガス流通管(加熱流体が流通する流通経路)
15・・・水蒸気含有ガス流通経路(気体流通経路)
100・・・気体分離装置
A・・・多孔質膜11の他方面
B・・・多孔質膜11の一方面
図1
図2