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特開2017-226002溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226002(P2017-226002A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/095 20060101AFI20171201BHJP
   B23K 9/16 20060101ALI20171201BHJP
   B23K 9/00 20060101ALI20171201BHJP
   B23K 9/022 20060101ALI20171201BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   B23K9/095 501F
   B23K9/16 J
   B23K9/00 501L
   B23K9/022 Z
   B23K9/12 305
   B23K9/12 350D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-124675(P2016-124675)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】516144108
【氏名又は名称】三菱重工船舶海洋株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126893
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(72)【発明者】
【氏名】今川 雄三
(72)【発明者】
【氏名】榊原 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】児玉 克
(72)【発明者】
【氏名】井上 弘法
(72)【発明者】
【氏名】辻井 浩
【テーマコード(参考)】
4E001
4E081
【Fターム(参考)】
4E001BB08
4E001CA01
4E001CA03
4E001CB01
4E001DA03
4E001DD02
4E001DD03
4E001DF04
4E001EA08
4E001QA01
4E001QA02
4E081BA03
4E081BA08
4E081BA40
4E081BB15
4E081CA08
4E081DA20
4E081DA48
4E081DA63
4E081YL04
4E081YL07
4E081YL08
4E081YX11
4E081YX13
4E081YY19
(57)【要約】
【課題】コストを抑えつつ、開先部における溶け込みを十分に確保して、溶接品質の低減を抑制する。
【解決手段】溶接装置のコントローラーは、溶接ワイヤの先端が開先幅方向における往復動の中央位置P1に位置するときに溶接ワイヤに供給する電流の大きさを電流値R1とし、往復動の両端部P2,P3に位置するときに溶接ワイヤに供給する電流の大きさを電流値R1よりも高い電流値R2とし、溶接ワイヤに供給する電流を電流値R1から電流値R2に上昇させるときに中央位置P1から両端部P2,P3に向かって電流を漸次増加させるとともに、電流値R2から電流値R1に下降させるときに、両端部P2,P3から中央位置P1に向かって電流の大きさを漸次減少させ、漸次増減する電流の大きさに応じて溶接ワイヤの送給速度を増減させる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤを送り出すワイヤ送給部と、
前記ワイヤ送給部によって送り出された前記溶接ワイヤの先端を、溶接すべき母材の開先部に沿って変位させながら前記開先部が連続する方向に対して交差する開先幅方向に繰り返し往復動させることが可能なトーチ本体と、
前記溶接ワイヤに電流を供給する電流供給部と、
前記電流供給部により前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさ及び前記ワイヤ送給部により前記溶接ワイヤを送り出す速度をそれぞれ制御するコントローラーと、を備え、
前記コントローラーは、
前記溶接ワイヤの先端が前記開先幅方向における前記往復動の中央部に位置するときに前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを第一電流値とし、
前記トーチ本体が前記往復動の両端部に位置するときに前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを前記第一電流値よりも高い第二電流値とし、
前記溶接ワイヤに供給する電流を前記第一電流値から前記第二電流値に上昇させるときに前記中央部から前記両端部に向かって前記電流を漸次増加させるとともに、前記第二電流値から前記第一電流値に下降させるときに、前記両端部から前記中央部に向かって前記電流の大きさを漸次減少させ、
漸次増減する前記電流の大きさに応じて前記溶接ワイヤの送給速度を増減させる溶接装置。
【請求項2】
前記トーチ本体は、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する位置検出部を備え、
前記コントローラーは、前記位置検出部によって前記溶接ワイヤの先端位置が前記中央部から前記両端部の何れか一方に向かって移動したことが検出された場合に、前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを漸次増加させる請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
前記トーチ本体は、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する位置検出部を備え、
前記コントローラーは、前記位置検出部によって前記溶接ワイヤの先端位置が前記両端部の何れか一方から前記中央部に向かって移動したことが検出された場合に、前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを漸次減少させる請求項1又は2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記溶接ワイヤの先端部と前記開先部との間にシールドガスとしてアルゴンのみを供給するシールドガス供給部をさらに備える請求項1から3の何れか一項に記載の溶接装置。
【請求項5】
トーチ本体により溶接ワイヤの先端を溶接すべき母材の開先部に沿って変位させながら前記開先部が連続する方向に対して交差する開先幅方向に往復動させながら前記開先部を溶接する溶接方法であって、
前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する工程と、
前記溶接ワイヤの先端が、前記開先幅方向における前記往復動の中央部に位置すると判定されたときに、第一電流値で前記溶接ワイヤに対し電流を供給する工程と、
前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端の位置が前記中央部から変位したか否かを判定し、前記溶接ワイヤの先端の位置が前記中央部から変位した場合に前記溶接ワイヤに対して供給する電流の大きさを所定の変化率で漸次増加させる工程と、
前記溶接ワイヤの先端が、前記開先幅方向における前記往復動の両端部の何れか一方に位置するか否かを判定する工程と、
前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方に位置すると判定されたときに、前記第一電流値よりも高い第二電流値で前記溶接ワイヤに対し電流を供給する工程と、
前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方の位置から離脱したか否かを判定し、前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方の位置から離脱したと判定された場合に、前記溶接ワイヤに対して供給する電流の大きさを所定の変化率で漸次減少させる工程と、
を含む溶接方法。
【請求項6】
球形状をなすタンクの製造方法であって、
前記タンクを構成する複数枚の板材の端部同士を突き合わせて開先部を形成し、
請求項5に記載の溶接方法によって前記開先部を溶接するタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、LNG(液化天然ガス)等の液化ガスを収容するタンクは、球形状をなしている。このようなタンクは、複数枚のアルミニウム合金製の板を溶接することで形成されている。
アルミニウム合金をはじめとする金属製の板同士をアーク溶接する場合、板の端部同士を突き合わせた開先部に溶接ワイヤを対向させて、シールドガス中で溶接ワイヤに電流を流す。すると、溶接ワイヤの先端と開先部との間にアークが生じ、このアークの熱によって溶接ワイヤが溶融して板同士の溶接がなされる。
【0003】
このような溶接を行う際、溶接欠陥の発生を抑えるために、開先部への溶接金属の溶け込みを効率良くかつ確実に行うことが要求される。
例えば、特許文献1には、開先部に沿って立向継手溶接を行う際、開先部が連続する方向に対して交差する方向である開先幅方向に溶接ワイヤを揺動させる溶接方法が開示されている。さらに、この特許文献1においては、開先幅方向の溶け込みを深くするために、溶接ワイヤの揺動範囲の両端部で、溶接ワイヤに供給する溶接電流を大きくする溶接方法が開示されている。
この特許文献1に記載された技術においては、溶接ワイヤの揺動範囲の両端部で溶接電流を大きくすることで、揺動範囲の両端部において入熱が大きくなり、溶接金属の溶け込みを良好にすることが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平1−55075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された溶接方法は、揺動範囲の両端部で溶接電流を大きくしたときに、溶接ワイヤの溶融速度が高まる。そのため、溶接電流の増加に伴い溶接ワイヤの送給速度を高める必要がある。溶接ワイヤの送給速度は、溶接ワイヤを送り出すローラを駆動するモータの回転数を上昇させることで高められる。このとき、溶接電流の変動は、コントローラー側からの出力信号に基づいて直ちに行われるのに対し、モータ回転数の変更には、時間が掛かってしまう場合が多い。さらに、モータの回転数が即座に上昇して溶接ワイヤの送給速度が高まっても、溶接ワイヤが挿通されるコンジットケーブル等の筒状のシース内で弛む等して、溶接ワイヤの送給速度の変動が溶接ワイヤの先端部に伝播するまでにタイムラグが生じることがある。
その結果、溶接ワイヤの送給が追いつかずに溶接ワイヤの先端と開先部との間隔が大きく開き、アークが不安定となって開先部への溶接金属の溶け込みが不足してしまう場合がある。
【0006】
アルミニウム合金の溶接を行う際には、シールドガスとして、アルゴン(Ar)とヘリウム(He)とを混合させたものが用いられる場合が多い。これは、アルゴンとヘリウムとを混合したシールドガスを用いた場合、アルゴン単体で用いた場合よりも溶接金属の溶け込みが良くなるためである。より具体的には、アルゴンとヘリウムとを混合したシールドガスを用いた場合、アークの集中性が高まってアークによる熱をより多く母材に供給することができる。そのため、この母材への入熱により溶接金属の十分な溶け込み深さを確保することが可能となっている。
しかしながら、アルゴンにヘリウムを混合させる手法では、ヘリウムの入手性が悪く高価であるという課題がある。そこで、シールドガスのコスト削減のため、例えばヘリウムの使用をやめると、開先部への溶け込みが浅くなり、十分な溶接品質を確保できないことが想定される。
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、コストを抑えつつ、開先部における溶接金属の溶け込みを十分に確保して、溶接品質の低下を抑制することができる溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
この発明の第一態様によれば、溶接装置は、溶接ワイヤを送り出すワイヤ送給部と、前記ワイヤ送給部によって送り出された前記溶接ワイヤの先端を、溶接すべき母材の開先部に沿って変位させながら前記開先部が連続する方向に対して交差する開先幅方向に繰り返し往復動させることが可能なトーチ本体と、前記溶接ワイヤに電流を供給する電流供給部と、前記電流供給部により前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさ及び前記ワイヤ送給部により前記溶接ワイヤを送り出す速度をそれぞれ制御するコントローラーと、を備え、前記コントローラーは、前記溶接ワイヤの先端が前記開先幅方向における前記往復動の中央部に位置するときに前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを第一電流値とし、前記トーチ本体が前記往復動の両端部に位置するときに前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを前記第一電流値よりも高い第二電流値とし、前記溶接ワイヤに供給する電流を前記第一電流値から前記第二電流値に上昇させるときに前記中央部から前記両端部に向かって前記電流を漸次増加させるとともに、前記第二電流値から前記第一電流値に下降させるときに、前記両端部から前記中央部に向かって前記電流の大きさを漸次減少させ、漸次増減する前記電流の大きさに応じて前記溶接ワイヤの送給速度を増減させる。
【0008】
このように構成することで、第一電流値から第二電流値、第二電流値から第一電流値へ電流の大きさを変化させる際に、電流の大きさが急激に変化しない。そのため、溶接ワイヤに供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤの送給速度を増減させる際に、溶接ワイヤの供給が追いつかなくなったり、溶接ワイヤの供給が過剰になったりすることを抑制できる。溶接ワイヤの先端と開先部との間隔が大きく開いたり、溶接ワイヤの先端と開先部とが接触したりして、アークが不安定となって溶け込み深さが不足してしまうことを抑制できる。
さらに、溶接金属の十分な溶け込みが確保されるため、シールドガスに高価なヘリウムを混合させなくとも、十分な溶接品質を確保することが可能となる。
したがって、コストを抑えつつ、開先部における溶接金属の溶け込みを十分に確保して、溶接品質の低下を抑制することができる。
【0009】
この発明の第二態様によれば、溶接装置は、第一態様において、前記トーチ本体は、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する位置検出部を備え、前記コントローラーは、前記位置検出部によって前記溶接ワイヤの先端位置が前記中央部から前記両端部の何れか一方に向かって移動したことが検出された場合に、前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを漸次増加させるようにしてもよい。
このように構成することで、溶接ワイヤに供給する電流の大きさは、溶接ワイヤの先端位置が往復動の中央部から往復動の両端部の何れか一方に向かって移動する間に、漸次増加する。したがって、溶接ワイヤに供給する電流の大きさが急激に増加しないので、溶接ワイヤへ供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤの送給速度を増加させる際に、溶接ワイヤの供給が電流の増加に追いつかなくなることを抑えることができる。
【0010】
この発明の第三態様によれば、溶接装置は、第一又は第二態様において、前記トーチ本体は、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する位置検出部を備え、前記コントローラーは、前記位置検出部によって前記溶接ワイヤの先端位置が前記両端部の何れか一方から前記中央部に向かって移動したことが検出された場合に、前記溶接ワイヤに供給する電流の大きさを漸次減少させるようにしてもよい。
このように構成することで、溶接ワイヤに供給する電流の大きさは、溶接ワイヤの先端位置が往復動の両端部の何れか一方から往復動の中央部に向かって移動する間に、漸次減少する。したがって、溶接ワイヤに供給する電流の大きさが急激に減少しないので、溶接ワイヤへ供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤの送給速度を減少させる際に、溶接ワイヤの供給が過剰になることを抑制できる。
【0011】
この発明の第四態様によれば、溶接装置は、第一から第三態様の何れか一つの態様において、前記溶接ワイヤの先端部と前記開先部との間にシールドガスとしてアルゴンのみを供給するシールドガス供給部をさらに備えるようにしてもよい。
上記したように、溶接ワイヤの送給が溶接ワイヤに供給される電流の変化に追従できなくなって、溶接金属の溶け込みが不足してしまうことを抑制できるため、シールドガスにアルゴンのみを用いて、低コストで且つ溶接品質を低下させることなく溶接を行うことができる。
【0012】
この発明の第五態様によれば、溶接方法は、トーチ本体により溶接ワイヤの先端を溶接すべき母材の開先部に沿って変位させながら前記開先部が連続する方向に対して交差する開先幅方向に往復動させながら前記開先部を溶接する溶接方法であって、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端位置を検出する工程と、前記溶接ワイヤの先端が、前記開先幅方向における前記往復動の中央部に位置すると判定されたときに、第一電流値で前記溶接ワイヤに対し電流を供給する工程と、前記開先幅方向における前記溶接ワイヤの先端の位置が前記中央部から変位したか否かを判定し、前記溶接ワイヤの先端の位置が前記中央部から変位した場合に前記溶接ワイヤに対して供給する電流の大きさを所定の変化率で漸次増加させる工程と、前記溶接ワイヤの先端が、前記開先幅方向における前記往復動の両端部の何れか一方に位置するか否かを判定する工程と、前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方に位置すると判定されたときに、前記第一電流値よりも高い第二電流値で前記溶接ワイヤに対し電流を供給する工程と、前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方の位置から離脱したか否かを判定し、前記溶接ワイヤの先端が、前記両端部の何れか一方の位置から離脱したと判定された場合に、前記溶接ワイヤに対して供給する電流の大きさを所定の変化率で漸次減少させる工程と、を含む。
このように構成することで、第一電流値から第二電流値に電流を増加させる際、及び第二電流値から第一電流値に電流を減少させる際に溶接ワイヤに供給される電流の大きさが急激に変化しない。これにより、溶接ワイヤに供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤの送給速度を増減させる際に、溶接ワイヤの供給が追いつかなくなったり、溶接ワイヤの供給が過剰になったりすることを抑制できる。したがって、溶接ワイヤの先端と開先部との間隔が大きく開いたり、溶接ワイヤの先端と開先太が接触したりして、アークが不安定となって溶接金属の溶け込みが不足してしまうのを抑えることができる。
【0013】
この発明の第六態様によれば、タンクの製造方法は、球形状をなすタンクの製造方法であって、前記タンクを構成する複数枚の板材の端部同士を突き合わせて開先部を形成し、第五態様の溶接方法によって前記開先部を溶接する。
このように構成することで、アークが不安定となって溶け込みが不足してしまうことを抑制できるため、コスト低減を図りつつタンクの品質低下を抑制できる。
【発明の効果】
【0014】
上記溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法によれば、コストを抑えつつ、開先部における溶け込みを十分に確保して、溶接品質の低減を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】この実施形態の溶接装置の概略構成を示す図である。
図2】トーチ本体を揺動させて開先部を溶接する様子を示す断面図である。
図3】トーチ本体を揺動させて開先部を溶接する様子を示す斜視図である。
図4】溶接動作時における溶接ワイヤの先端の移動軌跡を示す図である。
図5】溶接動作時における電流供給部で供給する電流値の変化を示す図である。
図6】上記溶接装置を用いて製作する球形状のタンクの一例を示す斜視図である。
図7】上記溶接装置における溶接方法のフローチャートである。
図8】電流値が低い状態で溶接を行っている状態での開先部の溶け込み深さを示す図である。
図9】電流値が高い状態で溶接を行っている状態での開先部の溶け込み深さを示す図である。
図10】溶接ワイヤの先端部と開先部との間隔が開いた状態における開先部の溶け込み状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、この発明の一実施形態における溶接装置、溶接方法、タンクの製造方法を図面に基づき説明する。
図1は、この実施形態の溶接装置の概略構成を示す図である。図2は、トーチ本体を揺動させて開先部を溶接する様子を示す断面図である。図3は、トーチ本体を揺動させて開先部を溶接する様子を示す斜視図である。
図1に示すように、この実施形態の溶接装置10は、ワイヤ送給部20と、トーチ40と、電流供給部50と、コントローラー60と、を備えている。
【0017】
ワイヤ送給部20は、溶接ワイヤWを送給する。ワイヤ送給部20は、溶接ワイヤWが巻き回されたワイヤドラム21と、ワイヤドラム21から繰り出される溶接ワイヤWを送り出す送給ローラ22と、を備えている。
送給ローラ22は、モータ24によって回転駆動される。送給ローラ22により送り出される溶接ワイヤWは、コンジットケーブル等の筒状のシース23内を通り、トーチ40へと送給される。ここで、溶接ワイヤWの送給量(送給速度)は、コントローラー60の制御によりモータ24の回転数を変動させることで調整可能となっている。
【0018】
トーチ40は、溶接ワイヤWの先端Wsを、溶接すべき板(母材)101に形成された開先部102に沿って開先部102が連続する方向に変位させることが可能となっている。さらに、トーチ40は、溶接ワイヤWの先端Wsを、開先部102が連続する方向に対して交差する開先幅方向に溶接ワイヤWの先端Wsを繰り返し往復動させることが可能となっている。トーチ40は、溶接ワイヤWの先端Wsを、開先部102に沿って移動させながら、開先幅方向へ往復動させることが可能となっている。
【0019】
図2図3に示すように、トーチ40は、溶接ワイヤWの先端Wsが挿通されるトーチ本体41と、トーチ本体41を揺動させる揺動動作部(図示せず)と、トーチ本体41を開先部102が連続する方向に移動させる倣い動作部(図示せず)と、を備えている。
トーチ本体41は、支軸42(図2参照)を介して支軸42の中心軸回りに揺動可能に設けられている。このトーチ本体41の揺動により、この実施形態における溶接ワイヤWの先端Wsは、開先幅方向に繰り返し往復動させることが可能となっている。
【0020】
揺動動作部(図示せず)は、トーチ本体41を支軸42回りに揺動させ、所定の角度範囲内で揺動させる。
倣い動作部(図示せず)は、トーチ本体41を、揺動動作部(図示せず)で揺動させつつ、開先部102が連続する方向Xに移動させる。倣い動作部(図示せず)は、トーチ40に設けても良い。また、倣い動作部は、溶接装置10全体を開先部102が連続する方向Xに移動させることで機能的に実現してもよい。
【0021】
トーチ40は、トーチ本体41の外周を覆うように設けられたシールドガス供給ノズル(シールドガス供給部)48からシールドガスを供給する。この実施形態では、シールドガスとして、アルゴン(Ar)のみを、所定の流量で供給する。
【0022】
このトーチ本体41には、トーチ本体41の揺動位置を検出するエンコーダ(位置検出部)45が設けられている。エンコーダ45は、検出したトーチ本体41の揺動位置をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、エンコーダ45により検出されたトーチ本体41の揺動位置によって、トーチ本体41により変位させる溶接ワイヤWの先端Wsの位置を認識する。
【0023】
電流供給部50は、トーチ本体41を介して溶接ワイヤWに電流を供給する。この実施形態における電流供給部50は、電源(図示せず)から溶接ワイヤWに電流を供給する。電流供給部50における溶接ワイヤWへの電流供給量は、コントローラー60の制御により調整可能となっている。
【0024】
コントローラー60は、トーチ本体41が支持する溶接ワイヤWによって溶接を行う際に、エンコーダ45からの出力信号に基づいて、送給ローラ22を駆動するモータ24と、トーチ本体41を動作させる揺動動作部(図示せず)及び倣い動作部(図示せず)と、電流供給部50と、をそれぞれ制御する。
【0025】
図4は、溶接動作時におけるトーチ本体の移動軌跡を示す図である。
図4に示すように、コントローラー60は、溶接の際、倣い動作部(図示せず)でトーチ本体41を開先部102が連続する方向Xに移動させつつ、揺動動作部(図示せず)でトーチ本体41を開先部102が連続する方向Xに交差する開先部102の幅方向である開先幅方向Yに揺動動作させる。さらに、コントローラー60は、トーチ本体41により支持された溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの両端部の端部位置P2,P3のそれぞれで一定時間停止するよう、揺動動作部(図示せず)を制御する。
【0026】
コントローラー60は、トーチ本体41を揺動動作部(図示せず)により上記のようにして動作させながら、電流供給部50からトーチ本体41で保持した溶接ワイヤWに電流を供給する。この電流の供給により、溶接ワイヤWの先端Wsと開先部102との間でアークA(図3参照)が発生し、このアークAの熱によって溶接ワイヤWの先端Wsが溶融して開先部102に溶け込み、開先部102の両側の板(母材)101,101同士の溶接がなされる。
コントローラー60は、エンコーダ45で検出される開先幅方向Yにおけるトーチ本体41の位置、言い換えれば、開先幅方向Yにおける溶接ワイヤWの先端Wsの位置に基づき、電流供給部50で供給する電流の大きさを変化させる。
【0027】
図5は、溶接動作時における電流供給部で供給する電流値の変化を示す図である。
図5に示すように、コントローラー60は、トーチ本体41により支持された溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの中央位置P1に位置しているときに、電流供給部50により溶接ワイヤWに供給する電流の大きさが電流値(第一電流値)R1となるように電流供給部50を制御する。さらに、コントローラー60は、溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの両端部の端部位置P2,P3に位置しているときに、電流供給部50により溶接ワイヤWに供給する電流の大きさが電流値(第二電流値)R2となるように電流供給部50を制御する。ここで、電流値R2は、電流値R1よりも高い電流値に設定されている。
コントローラー60は、トーチ本体41により支持された溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの中央位置P1から端部位置P2又はP3に移動するときに、中央位置P1から端部位置P2又はP3に向かって溶接ワイヤWに供給する電流を漸次増加させる。さらに、コントローラー60は、トーチ本体41により支持された溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの端部位置P2又はP3から中央位置P1に移動するときに、端部位置P2又はP3から中央位置P1に向かって溶接ワイヤWに供給する電流の大きさを漸次減少させる。この実施形態におけるコントローラー60は、中央位置P1から端部位置P2又はP3へ移動するとき及び端部位置P2又はP3から中央位置P1へ移動するときに、電流供給部50で供給する電流の大きさを、図5に示す中央位置P1と端部位置P2又はP3とを結ぶ直線の傾きである一定の変化率dで変動させる。
【0028】
コントローラー60は、電流供給部50で供給する電流の大きさを増減させるのと連動して、ワイヤ送給部20でトーチ本体41に送給する溶接ワイヤWの送給量(送給速度)を増減させる。より具体的には、コントローラー60は、送給ローラ22を駆動するモータ24の回転数を変動させることで、溶接ワイヤWの送給量を増減させている。すなわち、溶接ワイヤWの送給量は、溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1と端部位置P2又はP3との間を移動する際には、漸次増減する。この実施形態においては、溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1と端部位置P2又はP3との間を移動する際の溶接ワイヤWの送給量が、溶接ワイヤWに供給される電流の増減に応じた一定の変化率で変動することとなる。
【0029】
以下、上記溶接装置による溶接方法について説明する。
図6は、上記溶接装置を用いて製作する球形状のタンクの一例を示す斜視図である。図7は、上記溶接装置における溶接方法のフローチャートである。
図6に示すように、この実施形態では、LNG等の液化ガスを収容する球形状のタンク100を製作するに際し、上記したような溶接装置10を用い、タンク100を構成する複数枚のアルミ合金製の板101,101同士を溶接するものとする。
【0030】
図2図3に示すように、溶接すべき板101,101には、その端部同士を突き合わせた位置に断面V字溝状の開先部102を形成しておく。なお、開先部102の形状は断面V字状に限られず、I字状等であっても良い。
開先部102の溶接を行うには、まず、トーチ本体41で保持した溶接ワイヤWの先端Wsを、開先部102に対向させる。この実施形態においては、溶接を開始する際に、溶接ワイヤWの先端Wsを開先幅方向の中央位置P1に配置させる場合を一例にして説明する。しかし、溶接を開始する際の先端Wsの位置は、中央位置P1に限られない。
【0031】
次に、コントローラー60は、電流供給部50によって溶接ワイヤWへの電流供給と、シールドガスの供給とを開始させて、溶接ワイヤWの先端Wsと開先部102との間にアークを発生させる。この際、溶接ワイヤWへ供給する電流の大きさは、アークを発生させるために必要な所定の電流値とされる。
さらに、コントローラー60は、倣い動作部(図示せず)を制御して溶接ワイヤWの先端Wsを開先部102に沿って開先部102が連続する方向に移動させつつ、揺動動作部(図示せず)を制御してトーチ本体41の揺動動作を開始する。
【0032】
図7に示すように、コントローラー60は、トーチ本体41の揺動動作を開始する際に、エンコーダ45からの出力信号に基づいて、溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1に位置しているか否かを判定する(ステップS101)。この実施形態においては、先端Wsが中央位置P1に配置されるため、コントローラー60は、電流供給部50を制御して溶接ワイヤWへ供給する電流の大きさを電流値R1とする(ステップS102)。
【0033】
コントローラー60は、トーチ本体41が中央位置P1から端部位置P2又はP3に移動するときには、溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1から離脱したか否かを、エンコーダ45からの出力信号で判断する(ステップS103)。
【0034】
溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1を離脱したら、電流供給部50で供給する電流の大きさを電流値R1から一定の変化率dで増加させる(ステップS104)。
ここで、コントローラー60は、電流供給部50で供給する電流の大きさを変化率dで漸次増加させるのと連動して、ワイヤ送給部20でトーチ本体41に送給する溶接ワイヤWの送給量(送給速度)を変化率dに応じた変化率で漸次増加させる。この際、コントローラー60は、送給ローラ22を駆動するモータ24の回転数を漸次上昇させる。
【0035】
トーチ本体41が端部位置P2又はP3に到達したら、予め設定した電流値R2で電流を供給する(ステップS105,S106)。
このように電流を増減させるときの変化率dは、中央位置P1と、端部位置P2又はP3との間の移動に要する時間tと、予め設定された電流値R1と電流値R2との差ΔR(=R2−R1)とに基づいて、d=ΔR/tと設定することができる。
【0036】
溶接ワイヤWの先端Wsが、端部位置P2又はP3で停止し、予め設定した一定時間が経過したら、コントローラー60は、トーチ本体41を揺動させて溶接ワイヤWの先端Wsを端部位置P2又はP3から離脱させ、中央位置P1に向かって移動させる。
コントローラー60は、エンコーダ45からの出力信号に基づき、溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの端部位置P2又はP3から離脱したことを検出したら、電流供給部50で供給する電流の大きさを電流値R2から一定の変化率dで減少させる(ステップS107,S108)。そして、コントローラー60は、溶接ワイヤWの先端Wsが中央位置P1に到達したら、電流供給部50から予め設定した電流値R1で溶接ワイヤWに電流を供給させる。
コントローラー60は、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさを漸次増加させるときと同様に、電流供給部50から溶接ワイヤWに供給する電流の大きさを漸次減少させるのと連動して、ワイヤ送給部20でトーチ本体41に送給する溶接ワイヤWの送給量(送給速度)を、漸次低下させる。
ここで、変化率dが一つの場合について説明したが、トーチ本体41に供給する電流を増加させるときと減少させるときとで、互いに異なる変化率を用いるようにしてもよい。
【0037】
開先部102の溶接が終了するまでの間は、上記のステップS101〜S109を繰り返し、トーチ本体41を開先部102が連続する方向Xに沿って一定の速度で移動しながら、開先幅方向Yに揺動させて、開先部102の溶接を継続する。
開先部102の溶接が終了したら(ステップS109)、トーチ本体41の揺動、及び電流供給を停止する(ステップS110)。
【0038】
したがって、上述した実施形態によれば、溶接ワイヤWに供給する電流を開先幅方向Yの中央位置P1における電流値R1から開先幅方向Yの端部位置P2又はP3における電流値R2に上昇させるとき、及び電流値R2から電流値R1に下降させるときには、電流の大きさを漸次増減することによって、溶接ワイヤWに供給される電流の大きさが急激に変化しない。そのため、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤWの送給速度を増減させる際に、溶接ワイヤWの供給が追いつかなくなることを抑制できる。これにより、溶接ワイヤWの先端Wsと開先部102との間隔が大きく開いたり、溶接ワイヤWの先端Wsが開先部102に接触したりして、アークAが不安定となって溶接金属の溶け込みが不足してしまうことを抑制できる。
さらに、このようにすることで、入手性が悪く高価なヘリウムをシールドガスに混合させず、アルゴンガスのみを供給しても、十分な溶け込みを確保できる。
その結果、コストを抑えつつ、溶接品質の低下を抑制することが可能となる。
【0039】
さらに、コントローラー60は、エンコーダ45の検出結果に基づいて溶接ワイヤWの先端Wsの位置が開先幅方向Yの中央位置P1から開先幅方向Yの何れか一方の端部位置P2又はP3に向かって移動したことを検知した場合に、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさが変化率dで漸次増加する。この溶接ワイヤWに供給する電流の増加は、溶接ワイヤWの先端Wsが開先幅方向Yの中央位置P1から開先幅方向Yの何れか一方の端部位置P2又はP3に向かって移動する間に行われる。
また、コントローラー60は、開先幅方向Yの何れか一方の端部位置P2又はP3からエンコーダ45の検出結果に基づいて溶接ワイヤWの先端Wsの位置が開先幅方向Yの中央位置P1に向かって移動したことを検知した場合に、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさが変化率dで漸次減少する。この溶接ワイヤWに供給する電流の減少は、開先幅方向Yの何れか一方の端部位置P2又はP3から開先幅方向Yの中央位置P1に向かって移動する間に行われる。
その結果、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさに応じて溶接ワイヤWの送給速度を増減させる際に、溶接ワイヤWの供給が追いつかなくなったり過剰になったりすることを抑制できる。
【0040】
さらに、シールドガス供給ノズル48からは、シールドガスとしてアルゴンガスのみが供給される。そのため、シールドガスに入手性が悪く高価なヘリウムを混合させる必要が無い。
【0041】
(実施例)
上記実施形態で示した溶接方法を用い、実際に溶接を行い、その品質確認を行った。
ここで、溶接動作は、トーチ本体41を開先部102が連続する方向に移動させながら、幅方向に揺動させた。揺動範囲の両端部では、溶接ワイヤWに供給する電流値を高めて開先部102の溶接を行った。
【0042】
上記実施形態のように電流を増減するに際し、図5中に実線L1で示したように、電流値の変化率dを予め定めた基準以下に抑えて溶接を行った場合(実施例)と、図5中に二点鎖線L2で示したように、電流の変化率を抑えずに、矩形パルス状に電流値を変化させて溶接を行った場合(比較例)とで比較を行った。ここで、実施例、比較例の何れにおいても、溶接ワイヤWと開先部102との間の電圧は、所定の電圧値となるように定電圧制御としている。
【0043】
図8は、電流値が低い状態で溶接を行った場合の開先部の溶け込み状態を示す図である。図9は、電流値が高い状態で溶接を行った場合の開先部の溶け込み状態を示す図である。図10は、溶接ワイヤの先端部と開先部との間隔が開いた状態における開先部の溶け込み状態を示す図である。
溶接ワイヤWに供給する電流の大きさを増減するときに、電流の大きさを変化率dで徐々に増加および減少させて溶接を行った実施例では、開先幅方向Yの中央位置P1における電流値R1に対して、開先幅方向Yの両端部位置P2又はP3において溶接ワイヤWに供給される電流の大きさを電流値R2に高めた結果、図8に示す開先幅方向Yの中央位置P1における開先部102の溶け込み深さZ1よりも、図9に示す開先幅方向の両端部の端部位置P2,P3における開先部102の溶け込み深さZ2が大きくなった。
【0044】
また、溶接ワイヤWに供給する電流の大きさを増減させる際に、矩形パルス状にて電流値を急峻に変化させて溶接を行った比較例では、図10に示すように、溶接ワイヤWに供給する電流の増加に溶接ワイヤWの送給が追いつかず、溶接ワイヤWの先端Wsと開先部102との間隔が大きく開き、アークが不安定となって溶け込み深さが不足した。
【0045】
(その他の変形例)
この発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。すなわち、実施形態で挙げた具体的な形状や構成等は一例にすぎず、適宜変更が可能である。
例えば、上記実施形態では、中央位置P1、端部位置P2又はP3から移動を開始すると同時に電流を増減させる場合について説明した。しかし、この構成に限らず、例えば、トーチ本体41が中央位置P1を通過、端部位置P2又はP3から離脱してから、所定の時間が経過してから電流の増減を開始するようにしてもよい。
【0046】
さらに、上述した実施形態においては、トーチ本体41の揺動により溶接ワイヤWの先端Wsを往復動させる場合について説明した。しかし、溶接ワイヤWの先端Wsを往復動させる方法は、トーチ本体41の揺動に限られない。
【0047】
また、上述した実施形態においては、溶接により球形状のタンクを製造する場合を例示した。しかし、上述した実施形態の溶接装置、溶接方法によって製造されるタンクは球形状に限られず、また、製造されるものはタンクにも限られない。
さらに、上述した実施形態においては、溶接する母材がアルミニウム合金の場合について説明した。しかし、母材はアルミニウム合金に限られず、例えば、ステンレス鋼や炭素鋼等であっても良い。
【0048】
さらに、シールドガスとしてアルゴンのみを用いる場合について説明したが、ヘリウム以外のガスを含んでいても良い。
【0049】
さらに、上述した実施形態においては、中央位置P1と端部位置P2又はP3との間における溶接ワイヤWに供給する電流の増減を、図5に示すように、中央位置P1と端部位置P2又はP3とを直線で繋ぐように一定の変化率で行う場合について説明した。しかし、この電流の増減は、漸次増減すればよく、直線状となるように一定の変化率で行うものに限られない。例えば、中央位置P1と端部位置P2又はP3との間を曲線等で繋ぐように、電流値を増減させても良い。つまり、電流の変化率を、中央位置P1と端部位置P2又はP3との間で変化させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0050】
10 溶接装置
20 ワイヤ送給部
21 ワイヤドラム
22 送給ローラ
23 シース
24 モータ
40 トーチ
41 トーチ本体
42 支軸
45 エンコーダ(位置検出部)
48 シールドガス供給ノズル(シールドガス供給部)
50 電流供給部
60 コントローラー
100 タンク
101 板(母材)
102 開先部
A アーク
P1 中央位置(中央部)
P2 端部位置
P3 端部位置
R1 電流値(第一電流値)
R2 電流値(第二電流値)
W 溶接ワイヤ
Ws 先端
Z1 溶け込み深さ
Z2 溶け込み深さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10