【解決手段】球体研磨装置(1)の第一研磨溝(23a)の中心軸線(L1)と第二研磨溝(33a)の中心軸線(L2)は、平行にずれて配置され、第一研磨溝(23a)の溝中心線(CC1)と第二研磨溝(33a)の溝中心線(CC2)とが、中心軸線(L2(L1))方向から見た場合に最も離れている位置において、第一研磨溝(23a)及び第二研磨溝(33a)と球体(2)との各接触部位が、楕円形状の輪郭を有する。
前記第一研磨溝の中心軸線と前記第二研磨溝の中心軸線との最大のずれ量は、前記第一研磨溝及び前記第二研磨溝の一方の前記断面円弧半径、並びに前記球体の半径に基づく関係式から求める、請求項3に記載の球体研磨装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1.球体研磨装置の構成)
本実施形態の球体研磨装置1について
図1を参照して説明する。球体研磨装置1は、基台11、コラム12、第一移動体13、第二移動体14、上下駆動機構15及び調整機構17を備える。基台11は、床面に設置され、中央に上下方向への貫通孔11aを備える。コラム12は、基台11の上面に固定される。コラム12の側面には、上下方向に延びるガイドレール12a,12bが設けられる。
【0012】
第一移動体13は、基台11の上面及び貫通孔11aに配置される。第一移動体13は、第一本体部21、第一研磨盤支持体22、第一研磨盤23、第一静圧軸受24及び第一モータ25を備える。
【0013】
第一本体部21は、中央孔21aを有する円盤状に形成される。第一本体部21は、中央孔21aが基台11の貫通孔11aと同軸上に位置するように、基台11の上面に固定される。中央孔21aの中心軸線は、L1であり、鉛直軸方向に一致する。第一本体部21は、基台11に対して中心軸線L1の方向及び中心軸線L1の直交方向に移動規制される。
【0014】
第一研磨盤支持体22は、第一本体部21に対して、中心軸線L1の回りに回転可能に設けられる。第一研磨盤支持体22は、第一本体部21の中央孔21aを貫通する軸部22a、第一本体部21の上面及び下面に対向する円盤状のフランジ部22b,22cを備える。
【0015】
第一研磨盤23は、第一研磨盤支持体22の上側のフランジ部22bの上面に一体的に固定される。つまり、第一研磨盤23は、第一本体部21に対して中心軸線L1の回りに回転可能に設けられる。第一研磨盤23は、環状に形成される。さらに、第一研磨盤23は、一方の面(上面)に中心軸線L1の回りに環状に形成される第一研磨溝23aを有する。第一研磨溝23aの断面形状は、円弧凹状に形成される。第一研磨溝23aは、研磨対象である球体2を研磨する。
【0016】
第一静圧軸受24は、第一本体部21に保持され、第一研磨盤23に一体的に固定される第一研磨盤支持体22を、第一本体部21に対してラジアル方向及びスラスト方向に支持する。詳細には、第一静圧軸受24は、第一本体部21の中央孔21aに保持され、軸部22aの外周面に対して流体圧により支持するラジアル軸受24aを備える。さらに、第一静圧軸受24は、第一本体部21の上面及び下面に保持され、フランジ部22b,22cに対して流体圧により支持するスラスト軸受24b,24cを備える。
【0017】
第一静圧軸受24に供給される流体は、共通の流体供給源から供給され、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cに分岐される。第一静圧軸受24は、さらにオリフィス絞り24d(
図8に示す)を備える。オリフィス絞り24dは、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cのそれぞれに設けられる。ここで、第一静圧軸受24を構成するオリフィス絞り24dの位置は可変であるため、流体圧は可変とされる。第一モータ25は、第一本体部21又は基台11に支持され、第一研磨盤支持体22を回転駆動する。
【0018】
第二移動体14は、コラム12に対して上下方向に移動可能に配置される。第二移動体14は、第二本体部31、第二研磨盤支持体32、第二研磨盤33、第二静圧軸受34及び第二モータ35を備える。
【0019】
第二本体部31は、円筒状に形成され、下円盤部及び上円盤部には中央孔31a,31bを有する。第二本体部31の中央孔31a,31bの中心軸線は、L2であり、第一本体部21の中央孔21aの中心軸線L1に一致する。第二本体部31の円筒部は、コラム12の側面のガイドレール12a,12bに摺動可能に設けられる。つまり、第二本体部31は、コラム12に対して上下方向(Y1方向)に移動可能である。そして、第二本体部31は、基台11及びコラム12に対して中心軸線L2の直交方向に移動規制される。
【0020】
第二研磨盤支持体32は、第二本体部31に対して、中心軸線L2の回りに回転可能に設けられる。第二研磨盤支持体32は、第二本体部31の下円盤部の中央孔31aを貫通する軸部32a、第二本体部31の下円盤部の下面及び上面に対向する円盤状のフランジ部32b,32cを備える。
【0021】
第二研磨盤33は、第二研磨盤支持体32の下側のフランジ部32bの下面に一体的に固定される。つまり、第二研磨盤33は、第二本体部31に対して中心軸線L2の回りに回転可能に設けられる。第二研磨盤33は、環状に形成される。さらに、第二研磨盤33は、一方の面(下面)に中心軸線L2の回りに環状に形成される第二研磨溝33aを有する。第二研磨溝33aの断面形状は、円弧凹状に形成される。第二研磨溝33aは、研磨対象である球体2を研磨する。
【0022】
第二研磨盤33の第二研磨溝33a側の面は、第一研磨盤23の第一研磨溝23a側の面に対向する。第二研磨溝33aの環状径は、第一研磨溝23aの環状径と同径に形成される。さらに、第二研磨溝33aの断面円弧径は、第一研磨溝23aの断面円弧径と同径に形成される。
【0023】
第一研磨盤23及び第二研磨盤33は、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33a間の球体2の姿勢を変化させるため、調整機構17により中心軸線L1(L2)と直角な方向にずらして配置される。すなわち、詳細は後述するが、第一研磨溝23aの断面円弧中心C1(
図10、
図11参照)の軌跡である溝中心線CC1(
図9参照)と第二研磨溝32aの断面円弧中心C2(
図10、
図11参照)の軌跡である溝中心線CC2(
図9参照)とは、平行にずれている。
【0024】
第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部に保持され、第二研磨盤33に一体的に固定される第二研磨盤支持体32を、第二本体部31に対してラジアル方向及びスラスト方向に支持する。詳細には、第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部の中央孔31aに保持され、軸部32aの外周面に対して流体圧により支持するラジアル軸受34aを備える。さらに、第二静圧軸受34は、第二本体部31の下円盤部の上面及び下面に保持され、フランジ部32b,32cに対して流体圧により支持するスラスト軸受34b,34cを備える。
【0025】
第二静圧軸受34に供給される流体は、共通の流体供給源から供給され、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cに分岐される。第二静圧軸受34は、さらにオリフィス絞り34d(
図8に示す)を備える。オリフィス絞り34dは、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cのそれぞれに設けられる。ここで、第二静圧軸受34を構成するオリフィス絞り34dの位置は可変であるため、流体圧は可変とされる。また、第二静圧軸受34に流体を供給する流体供給源は、第一静圧軸受24に流体を供給する流体供給源と共通して設けられる。第二モータ35は、第二本体部31に支持され、第二研磨盤支持体32を回転駆動する。
【0026】
上下駆動機構15は、コラム12に対して第二本体部31を上下移動させる。上下駆動機構15は、コラム12の上端に固定されるモータ41と、モータ41の出力軸に連結されるボールねじ42と、ボールねじ42に螺合する第二本体部31の上円盤部の中央孔31bに固定されるボールねじナット43とを備える。
【0027】
調整機構17は、基台11に固定され、第一移動体13を支持する。調整機構17は、第一移動体13の第一本体部21に固定される。調整機構17は、第一研磨盤23の中心軸線L1に直交する方向(水平方向)への位置を調整可能である。さらに、調整機構17は、第一研磨盤23の中心軸線L1の傾きを調整可能である。つまり、調整機構17は、第一研磨盤23の中心軸線L1を第二研磨盤33の中心軸線L2に対し、平行状態を保って中心軸線L1に直交する方向にずらして配置することが可能となる。
【0028】
(2.調整機構の詳細構成)
調整機構17の詳細構成について
図2−
図5Bを参照して説明する。調整機構17は、支持部材61、傾動部材62、ブラケット63a,63b,63c,63d、位置調整ボルト64a,64b,64c,64d、位置固定ナット65a,65b,65c,65d、傾き調整ボルト66、傾き固定ボルト67及び固定ボルト68を備える。
【0029】
支持部材61は、円環状に形成される。支持部材61の上面の内周側には、球面凹状に形成された傾き調整面61aが形成される。支持部材61の上面の外周側は、平面状に形成される。支持部材61の平面状上面には、
図4に示すように、直径D1(
図2に示す)の位置に、傾き固定ボルト67に螺合する雌ねじ61bが等間隔に4カ所形成される。さらに、支持部材61の外周面には、
図3に示すように、等間隔に、径方向内方に向かう4カ所の雌ねじ61cが形成される。つまり、対向する位置に、雌ねじ61cが形成される。
【0030】
傾動部材62は、支持部材61と同程度の円環状に形成され、支持部材61の上面に固定される。傾動部材62の下面の内周側には、支持部材61の傾き調整面61aの球面凹状に対応する球面凸状に形成された傾き調整面62aが形成される。つまり、傾動部材62は、支持部材61に対して傾きが変化した状態であっても、支持部材61に面接触した状態で固定される。
【0031】
傾動部材62の外周側には、支持部材61の雌ねじ61bに対応する位置に、直径D1の位置に、傾き固定ボルト67を挿通する貫通孔62bが等間隔に4カ所形成される。傾き固定ボルト67が、貫通孔62bを挿通し且つ雌ねじ61bに螺合されることで、傾動部材62が支持部材61に固定される。ここで、貫通孔62bの穴径は、支持部材61に対して傾動部材62の傾き調整可能な程度に形成される。
【0032】
さらに、傾動部材62における直径D1の位置には、それぞれの貫通孔62bに近接した位置に、貫通雌ねじ62cが等間隔に4カ所形成される。貫通雌ねじ62cには、傾き調整ボルト66が螺合される。複数の傾き調整ボルト66が、それぞれの貫通雌ねじ62cに螺合され、支持部材61の上面を押圧することで、支持部材61に対する傾動部材62の傾きが調整される。
【0033】
つまり、複数の傾き調整ボルト66による傾動部材62の下面からの突出量を調整することによって、傾動部材62が支持部材61に対して傾きが調整される。傾き調整時において、支持部材61の球面凹状の傾き調整面61aと傾動部材62の球面凸状の傾き調整面62aとが接触した状態を維持するように行う。
【0034】
ブラケット63a,63b,63c,63dは、支持部材61の外周面から径方向に離間した位置の基台11上に固定される。ブラケット63a,63b,63c,63dは、
図5A及び
図5Bに示すように、座板71と、座板71の上面に立設された壁部72とを備える。壁部72には、上縁側に切欠72aが形成される。
【0035】
ブラケット63a,63b,63c,63dは、支持部材61の複数の雌ねじ61cに対向する位置に配置される。ブラケット63a,63b,63c,63dの壁部72の切欠72aには、位置調整ボルト64a,64b,64c,64dが配置され、この位置調整ボルト64a,64b,64c,64dが支持部材61の雌ねじ61cに螺合される。
【0036】
さらに、位置固定ナット65a,65b,65c,65dが位置調整ボルト64a,64b,64c,64dに螺合され、位置調整ボルト64a,64b,64c,64dの頭部と位置固定ナット65a,65b,65c,65dとによって、ブラケット63a,63b,63c,63dの壁部72が挟まれることによって、位置調整ボルト64a,64b,64c,64dの位置決めがされる。
【0037】
ここで、ブラケット63a,63cが対向し、ブラケット63b,63dが対向する。つまり、ブラケット63aに取り付けられる位置調整ボルト64aの位置を調整する際には、同時に、ブラケット63cに取り付けられる位置調整ボルト64cの位置を調整する必要がある。また、ブラケット63bに取り付けられる位置調整ボルト64bの位置を調整する際には、同時に、ブラケット63dに取り付けられる位置調整ボルト64dの位置を調整する必要がある。
【0038】
なお、本実施形態においては、4個のブラケット63a,63b,63c,63dを用いたが、隣り合う2個のブラケット63a,63bのみを用いるようにしてもよい。この場合、位置調整ボルト64a,64b及び位置固定ナット65a,65bが用いられる。
【0039】
傾動部材62の上面には、第一本体部21が配置され、複数の固定ボルト68によって両者が固定される。固定ボルト68は、傾動部材62の雌ねじ62cに螺合される。つまり、位置調整ボルト64a,64b,64c,64dの調整によって、基台11に対する支持部材61の位置が調整される。さらに、傾き調整ボルト66の調整によって、支持部材61に対する傾動部材62の傾きが調整される。
【0040】
傾動部材62には、第一本体部21が固定され、第一本体部21には第一研磨盤23が回転可能に支持される。つまり、第一研磨盤23の中心軸線L1は、調整機構17による位置調整及び傾き調整によって、第二研磨盤33の中心軸線L2に対し、平行状態を保って中心軸線L1に直交する方向にずらして配置することができる。
【0041】
(3.ツルーイング装置の構成)
球体研磨装置1は、さらにツルーイング装置18を備える。ツルーイング装置18について、
図6及び
図7を参照して説明する。ツルーイング装置18は、ガイド部材81、第一移動体82、第二移動体83、回転軸部材84及びツルア85を備える。
【0042】
ガイド部材81は、基台11の上面に配置される。ガイド部材81は、第一研磨盤23の中心軸線L1に直交する軸線L3方向に沿って形成される。第一移動体82は、ガイド部材81の上に配置され、ガイド部材81の軸線L3方向に移動可能に設けられる。第一移動体82は、図示しないモータによって、ガイド部材81上を、軸線L3方向に移動する。第一移動体82の側面には、第一研磨盤23の中心軸線L1方向に沿ってガイドが形成される。
【0043】
第二移動体83は、第一移動体82の側面ガイドに係止され、第一移動体82の側面ガイドの軸線L1方向に移動可能に設けられる。第二移動体83は、図示しないモータによって、第一移動体82の側面ガイドに沿って、軸線L1方向に移動する。
【0044】
回転軸部材84は、第二移動体83に軸線L3の回りに回転可能に設けられる。回転軸部材84は、図示しないモータによって、第二移動体83に対して回転可能とされる。ツルア85は、回転軸部材84の先端に取り付けられる。つまり、ツルア85は、第一研磨盤23及び第二研磨盤33に対して、第一研磨盤23の中心軸線L1方向及び中心軸線L1の直交方向の少なくとも2軸方向に相対的に移動可能に基台11に設けられる。このツルア85は、回転軸部材84の回転に伴って回転するロータリツルアである。1個のツルア85は、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aをツルーイングする。
【0045】
(4.制御装置の構成)
球体研磨装置1は、さらに制御装置16を備える。制御装置16は、
図8に示すように、モータ制御部51と、流体圧調整部52と、ツルーイング制御部53とを備える。モータ制御部51は、各モータ25,35,41を制御する。つまり、モータ制御部51が第一モータ25を回転駆動することにより、第一研磨盤23が回転する。また、モータ制御部51が第二モータ35を回転駆動することにより、第二研磨盤33が回転する。また、モータ制御部51がモータ41を回転駆動することにより、第二移動体14が上下動する。
【0046】
流体圧調整部52は、各オリフィス絞り24d,34dの絞り量を調整する。流体圧調整部52が第一オリフィス絞り24dの位置を移動させることにより、第一静圧軸受24の剛性が変化する。また、流体圧調整部52が第二オリフィス絞り34dの位置を移動させることにより、第二静圧軸受34の剛性が変化する。
【0047】
第一オリフィス絞り24dは、ラジアル軸受24a、スラスト軸受24b,24cの流体圧全てを同時に調整する。つまり、第一オリフィス絞り24dが調整されることで、ラジアル軸受24aによる剛性、及び、スラスト軸受24b,24cによる剛性が調整される。同時に、第一静圧軸受24によるモーメント剛性が調整される。
【0048】
また、第二オリフィス絞り34dは、ラジアル軸受34a、スラスト軸受34b,34cの流体圧全てを同時に調整する。つまり、第二オリフィス絞り34dが調整されることで、ラジアル軸受34aによる剛性、及び、スラスト軸受34b,34cによる剛性が調整される。同時に、第二静圧軸受34によるモーメント剛性が調整される。
【0049】
ツルーイング制御部53は、ツルーイング装置18を制御する。詳細には、ツルーイング制御部53は、第一移動体82を移動するモータ、第二移動体83を移動するモータ、及び、回転軸部材84を回転するモータをそれぞれ制御する。
【0050】
(5.球体研磨装置を用いる球体の研磨方法)
先ず、研磨開始前に、調整機構17により、第一研磨盤23の中心軸線L1を、第二研磨盤33の中心軸線L2に対し、平行状態を保って中心軸線L1に直交する方向に後述するずれ量σだけずらして配置する。
【0051】
次に、制御装置16は、第一,第二静圧軸受24,34の流体圧が球体2の研磨を行うときに使用する流体圧となるように、オリフィス絞り24d,34dを設定しておく。そして、制御装置16は、モータ41を駆動して、第二移動体14を上方へ移動させておく。この状態で、研磨素材である複数の球体2を、第一研磨盤23の第一研磨溝23aに配置する。続いて、制御装置16は、モータ41を駆動して、第二移動体14を下方へ移動させて、第二研磨盤33の第二研磨溝33aが球体2に接触させて挟圧する。
【0052】
続いて、制御装置16は、第一研磨盤23の回転速度を一定値とするように又は周期的に変動させるように第一モータ25を駆動し、且つ、第二研磨盤33の回転速度を一定値とするように第二モータ35を駆動する。このとき、第一研磨盤23と第二研磨盤33とは逆方向に回転される。
【0053】
このようにして、球体2は、第一,第二研磨盤23,33によって研磨される。この状態を設定した時間を経過したところで、制御装置16は、第一モータ25及び第二モータ35を停止して、モータ41を駆動して第二移動体14を上方へ移動させる。なお、球体2の研磨中において、ツルア65は、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の径方向外側に位置している。
【0054】
(6.第一、第二研磨溝による球体の動作)
課題でも述べたように、第一研磨盤23及び第二研磨盤33の中心軸線L1(L2)と直角な方向のずれが大きい場合、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との間で接触状態が不均衡となり、球体2の真球度の向上に限界がある。ここで、一般的に、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との各接触部位は、均衡に接触している場合、楕円形状の輪郭を有する。
【0055】
そこで、第一研磨溝23aの断面円弧中心C1の軌跡である溝中心線CC1と第二研磨溝33aの断面円弧中心C2の軌跡である溝中心線CC2とが、中心軸線L2(L1)方向から見た場合に最も離れている位置において、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との各接触部位が、楕円形状の輪郭を有するように、つまり、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aの溝縁部に掛からないように、第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝32aの溝中心線CC2とを平行にずらす。
【0056】
先ず、第一、第二研磨溝23a,33aに挟圧される球体2の研磨時における球体2の動作について、図を参照して説明し、次に、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との各接触部位が、楕円形状の輪郭を有するための第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝32aの溝中心線CC2の最大のずれ量σについて、図を参照して説明する。なお、第一研磨盤23と第二研磨盤33とは、逆方向に絶対値が同一回転速度となるように回転されるものとする。
【0057】
ここで、
図9に示すように、球体2を挟圧した当初の第一、第二研磨盤23,33を中心軸線L2(L1)方向の上方から見たとき、第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝32aの溝中心線CC2とは、中心軸線L2(L1)に直交する方向にずれ量σだけずれているので、第一研磨溝23aと第二研磨溝33aは、図示一点鎖線で囲まれる交差部Ac,Bcにおいて重なり、交差部Ac,Bcから90度離れた図示二点鎖線で囲まれる離間部Cs,Dsにおいて最大ずれ量σだけずれている。以下の説明では、交差部Acに位置する球体2A、及び、離間部Csに位置する球体2Bに着目して説明する。
【0058】
図10に示すように、球体2Aと第一研磨溝23aは、第一研磨溝23aの断面円弧中心C1を通る中心軸線L1に平行な軸線L11と、第一研磨溝23aの断面円弧と、の交点P1を中心とする楕円形状の部位Aa1と接触する。また、球体2Aと第二研磨溝33aは、第二研磨溝33aの断面円弧中心C2を通る中心軸線L2に平行な軸線L22と、第二研磨溝33aの断面円弧と、の交点P2を中心とする楕円形状の部位Aa2と接触する。
【0059】
そして、第一研磨盤23と第二研磨盤33とは、相対的に回転するため、接触楕円部位Aa1,Aa2において研磨抵抗が発生し、球体2Aは、第一研磨盤23の中心軸線L1に直交する軸線X1の回りに回転する。
【0060】
図11に示すように、球体2Bにおいては、第一研磨溝23aと第二研磨溝33aが中心軸線L1(L2)と直角な方向にσだけずれているため、球体2Bと第一研磨溝23aの接触楕円部位Aa11は、接触楕円部位Aa1に対し図示時計回りの方向に角度θだけずれ、球体2Bと第二研磨溝33aの接触楕円部位Aa12は、接触楕円部位Aa2に対し図示時計回りの方向に角度θだけずれる。よって、球体2Bは、軸線X1に対し図示時計回りの方向に角度θだけずれた軸線X11回りに回転する。
【0061】
つまり、第一研磨盤23と第二研磨盤33との相対的な回転によって、球体2は、第一研磨盤23の中心軸線L1に直交する軸線X1の回りに回転するとともに、軸線X1に対し図示時計回りの方向に角度θだけずれた軸線X11回りに回転する。従って、球体2は、第一、第二研磨溝23a,33aによって研磨されている最中において、球体2の姿勢が常に変化する。その結果、球体2の真球度が向上する。
【0062】
次に、第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝33aの溝中心線CC2のずれについて説明する。第一研磨盤23及び第二研磨盤33は、以下の2つのずれの条件を満たすように配置する。第1の条件としては、第一研磨溝23a(第二研磨溝33a)の中心軸線L1(L2)回りの一周にわたってずれ量が一定とならないように第一研磨盤23及び第二研磨盤33を配置する。この理由は、第一、第二研磨溝23a,33aに挟圧されて研磨される球体2の自転軸を変動させて姿勢を変化させる必要があるためである。
【0063】
第2の条件としては、最大ずれ量σが、第二研磨溝33aの断面円弧半径γ
U、球体2の半径R
S及び公知のヘルツの理論等から導かれる式(1)−式(4)を満たすように第一研磨盤23及び第二研磨盤33を配置する。最大ずれ量σが大き過ぎると、接触楕円部位Aa11,Aa12が第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aの内周面からはみ出し、球体2と第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aとの接触圧力が局所的に高くなって真球度の向上を図ることが困難となるからである。
【0064】
なお、式(1)−式(4)は、球体2と第二研磨溝33aとの最大ずれ量σを表しているが、球体2と第一研磨溝23aとの最大ずれ量σも同様である。式(1)−式(4)から、接触楕円部位Aa12が、第二研磨溝33aと第二研磨盤33との境界部(肩部)に掛からないずれ量を算出する方法としては以下の方法がある。すなわち、ずれ量を変化させながら式(1)−式(4)に当てはめ、各ずれ量での接触楕円部位Aa12をシミュレーションし、接触楕円部位Aa12が上記境界部(肩部)に掛かるか否かを確認してずれ量が適切であるか否かを判定する方法である。
【0069】
ここで、式(1)−式(4)の各符号は、
図12に示す通りであり、各符号の意味は、以下の通りである。
γ
U:第二研磨溝33aの断面円弧半径
R
S:球体2の半径
【0070】
de
U:第二研磨溝33aの溝深さ
C
UL:第二研磨溝33aの断面円弧中心C2と第一研磨溝23aの断面円弧中心C1との中心間距離
【0071】
R
U:第二研磨溝33aの断面円弧中心C2と第二研磨盤33の中心軸線L2との距離
R
L:第一研磨溝23aの断面円弧中心C1と第一研磨盤23の中心軸線L1との距離
a
U:接触楕円部位Aa2の長半径
σ:第一研磨溝23aの断面円弧中心C1と第二研磨溝33aの断面円弧中心C2との中心軸線L1(L2)と直角な方向の最大ずれ量
【0072】
(7.ツルーイング方法)
ツルーイング装置18による第一、第二研磨溝23a,33aのツルーイング方法について、
図13及び
図14を参照して説明する。本実施形態においては、ツルア85によって第一研磨溝23aと第二研磨溝33aとを別々にツルーイングする方法を採用するが、ツルア85によって第一研磨溝23aと第二研磨溝33aとを同時にツルーイングすることも可能である。
【0073】
図13を参照して、ツルア85による第一研磨溝23aのツルーイング方法について説明する。まず、モータ制御部51は、モータ41を駆動して、第二研磨盤33を上方へ移動させる。続いて、ツルーイング制御部53は、ツルーイング装置18の第二移動体83を上方(Y2方向)へ移動させた後に、ツルア85が第一研磨溝23aの上方に対向する位置に至るまで第一移動体82を第一研磨盤23側(X2方向)へ移動させる。
【0074】
続いて、ツルーイング制御部53がツルア85を軸線L3の回りに回転させると共に、モータ制御部51が第一研磨盤23を軸線L1の回りに回転させる。続いて、ツルーイング制御部53が、第一移動体82のX2方向へ移動と第二移動体83のY2方向への移動を同期制御しながら、ツルア85を第一研磨溝23aの成形形状に沿って移動させる。このとき、ツルア85は、第一研磨溝23aの外周縁から溝底を通過して内周縁へ移動することによって、第一研磨溝23aを成形する。
【0075】
次に、
図14を参照して、ツルア85による第二研磨溝33aのツルーイング方法について説明する。まず、モータ制御部51は、モータ41を駆動して、第二研磨盤33を上方へ移動させて位置決めする。続いて、ツルーイング制御部53は、ツルーイング装置18の第二移動体83を上方(Y2方向)へ移動させた後に、ツルア85が第二研磨溝33aの下方に対向する位置に至るまで第一移動体82を第二研磨盤33側(X2方向)へ移動させる。
【0076】
続いて、ツルーイング制御部53がツルア85を軸線L3の回りに回転させると共に、モータ制御部51が第二研磨盤33を軸線L2の回りに回転させる。続いて、ツルーイング制御部53が、第一移動体82のX2方向へ移動と第二移動体83のY2方向への移動を同期制御しながら、ツルア85を第二研磨溝33aの成形形状に沿って移動させる。このとき、ツルア85は、第二研磨溝33aの外周縁から溝底を通過して内周縁へ移動することによって、第二研磨溝33aを成形する。
【0077】
(8.その他)
上述の実施形態では、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aは、中心軸線L1,L2回りに円形状に形成したが、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aの一方又は両方を楕円形状、花冠形状等の非円形状に形成してもよい。
【0078】
(9.実施形態の効果)
本実施形態の球体研磨装置1は、一方の面に中心軸線L1回りに環状に形成される第一研磨溝23aを有する第一研磨盤23と、第一研磨盤23に対して中心軸線L2回りに相対的に回転可能に設けられ、第一研磨盤23の一方の面に対向する面に、中心軸線L2回りに環状に形成される第二研磨溝33aを有する第二研磨盤33と、を備え、研磨対象である球体2を第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aで挟圧して、第一研磨盤23及び第二研磨盤33を相対的に回転させることで、球体2を研磨加工する。
【0079】
そして、第一研磨溝23aの中心軸線L1と第二研磨溝33aの中心軸線L2は、平行にずれて配置され、第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝33aの溝中心線CC2とが、中心軸線L2(L1)方向から見た場合に最も離れている位置において、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との各接触部位が、楕円形状の輪郭を有する。
【0080】
第一研磨溝23aの溝中心線CC1と第二研磨溝33aの溝中心線CC2とは、中心軸線L1(L2)と直角な方向にずれて配置されるので、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との接触位置は変化することになり、球体2の自転軸の傾きは変動する。よって、球体2は、第一、第二研磨溝23a,33aによって研磨されている最中において、球体2の姿勢が変化する。
【0081】
そして、球体2と第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aとの各接触部位が、楕円形状の輪郭を有するので、球体2と第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aとの接触圧力が、局所的に高くなることを防止できる。よって、真球度を大幅に向上できる。
【0082】
また、第一研磨溝23aの溝中心線CC1及び第二研磨溝33aの溝中心線CC2は、同一円形状に形成されるので、第一研磨溝23aの溝中心線CC1及び第二研磨溝33aの溝中心線CC2の芯ずれを容易に制御できる。
また、第一研磨溝23aは、中心軸線L1方向の断面の内周縁が円弧状に形成され、第二研磨溝33aは、中心軸線L2方向の断面の内周縁が第一研磨溝23aの断面円弧半径と同一の断面円弧半径を有する円弧状に形成される。これにより、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aを容易に形成できる。
【0083】
また、球体研磨装置1は、第一研磨盤23が設けられる基台11と、基台11に対して第一研磨盤23及び第二研磨盤33の少なくとも一方を支持し、基台11に対して第一研磨盤23及び第二研磨盤33の少なくとも一方の中心軸線L1(L2)と直角な方向への位置を調整可能な調整機構17と、を備える。
【0084】
これにより、交差部AC,BCにおける第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aと球体2との接触楕円部位が大きくなるので、第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aの全周にわたって接触圧力をより均等化できる。よって、球体2の真球度をさらに向上できる。
【0085】
また、調整機構17は、基台11に対して第一研磨盤23及び第二研磨盤33の少なくとも一方の中心軸線L1(L2)の傾きを調整可能である。これにより、第一研磨盤23の中心軸線L1と第二研磨盤33の中心軸線L2とを平行状態を保って中心軸線L1(L2)と直角な方向にずらすことができる。
【0086】
また、第一研磨盤23は、第二研磨盤33の下方に対向して配置され、調整機構17は、基台11に対して第一研磨盤23を調整可能であり、第二研磨盤33は、基台11に対する中心軸線L2と直角な方向への位置及び中心軸線の傾きを調整不能である。下方に配置される第一研磨盤23を調整するのは比較的容易であるのに対して、上方に配置される第二研磨盤33を調整するのは容易ではない。そこで、下方に配置される第一研磨盤23のみを調整することで、装置全体の構成が小型となり、作業者による調整作業が容易になる。
【0087】
また、第一研磨溝23aの中心軸線L1と第二研磨溝33aの中心軸線L2との最大のずれ量σは、第二研磨溝33aの断面円弧半径γ
U(第一研磨溝23aの断面円弧半径)、並びに球体2の半径R
Sに基づく関係式から求める。最大ずれ量σが、上記関係式を満たしていれば、接触楕円部位Aa11,Aa12が第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aの内周面からはみ出すことはなく、球体2と第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aとの接触圧力が局所的に高くならないので、真球度の向上を図ることができる。
【0088】
球体研磨装置1による球体研磨加工方法は、研磨対象である球体2を第一研磨溝23a及び第二研磨溝33aで挟圧して、第一研磨盤23及び第二研磨盤33を相対的に回転させることで、球体2を研磨加工する。これにより、上述の球体研磨装置1の効果と同様の効果が得られる。