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特開2017-226040加工方法、工具および動力伝達部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226040(P2017-226040A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】加工方法、工具および動力伝達部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 1/00 20060101AFI20171201BHJP
   B23B 27/00 20060101ALI20171201BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   B23B1/00 Z
   B23B27/00 A
   B23B27/14 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-123981(P2016-123981)
(22)【出願日】2016年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100166648
【弁理士】
【氏名又は名称】鎗田 伸宜
(72)【発明者】
【氏名】小野 裕治
(72)【発明者】
【氏名】竹内 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】山形 康弘
【テーマコード(参考)】
3C045
3C046
【Fターム(参考)】
3C045AA10
3C046AA00
3C046CC01
(57)【要約】
【課題】切削加工において、工具のクレーター摩耗を低減させることが可能な加工技術を提供すること。
【解決手段】第1の曲率半径を有する第1加工部と、第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、第1加工部と第2加工部との境界位置である変曲点と、を有する工具により被削材を切削加工する加工方法は、切込み方向の送りにより、被削材から所定の切込み量を切取る工程において、第1加工部および第2加工部による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、変曲点の位置が第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により被削材を切削加工する。
【選択図】 図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の曲率半径を有する第1加工部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有する工具により被削材を切削加工する加工方法であって、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程を有し、
前記工程では、前記第1加工部および前記第2加工部による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工する
ことを特徴とする加工方法。
【請求項2】
前記第1加工部および前記第2加工部は、前記被削材の表面の異なる位置をそれぞれ切削加工し、前記切削後の被削材の表面には、前記第1の曲率半径を有する第1加工部で切削加工された加工面と、前記第2の曲率半径を有する第2加工部で切削加工された加工面と、が前記被削材の表面の異なる位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
被削材を切削加工するための工具であって、
第1の曲率半径を有する第1加工部と、
前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、
前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有し、
前記第1加工部および前記第2加工部は、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取るように構成されており、
切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により、前記被削材を切削加工することを特徴とする工具。
【請求項4】
第1の曲率半径を有する第1加工部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有する工具により、動力伝達部品を切削加工する動力伝達部品の製造方法であって、前記製造方法は、
前記動力伝達部品を形成するための被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程を有し、前記工程では、
前記第1加工部および前記第2加工部による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工することを特徴とする動力伝達部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工方法、工具および動力伝達部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切削加工に使用される刃先交換式の工具が開示されている。特許文献1により開示される工具は、コーナー部が、被削材に貫入するための貫入部分と、貫入部分に引き続いて被削材の表面粗さを改良するためのフィニッシング部分とを有する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第WO95/00272号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の工具を用いた被削材(例えば、焼入鋼など)の切削加工では、被削材の切取り厚が厚くなり、塑性変形時の発熱量が大きくなる。このため、切削加工において工具の温度が高くなり、工具の摩耗(例えば、工具のすくい面におけるクレーター摩耗)が生じ得る。クレーター摩耗は工具の温度が主要因となり得るものであり、工具の温度上昇は被削材の塑性変形時における発熱が主要因となり得る。
【0005】
切削加工における被削材の周速や工具の送り量を下げることにより、被削材の塑性変形時における発熱を抑制することができ、工具の温度を下げることができるが、サイクルタイムが遅くなり生産能力が低下し得る。
【0006】
本願発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、切削加工において、工具のクレーター摩耗を低減させることが可能な加工技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面の加工方法は、第1の曲率半径を有する第1加工部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有する工具により被削材を切削加工する加工方法であって、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程を有し、
前記工程では、前記第1加工部および前記第2加工部による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の側面の加工方法によれば、前記第1加工部および前記第2加工部は、前記被削材の表面の異なる位置をそれぞれ切削加工し、前記切削後の被削材の表面には、前記第1の曲率半径を有する第1加工部で切削加工された加工面と、前記第2の曲率半径を有する第2加工部で切削加工された加工面と、が前記被削材の表面の異なる位置に形成されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第3の側面の工具は、被削材を切削加工するための工具であって、第1の曲率半径を有する第1加工部と、
前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、
前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有し、
前記第1加工部および前記第2加工部は、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取るように構成されており、
切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により、前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第4の側面の動力伝達部品の製造方法は、第1の曲率半径を有する第1加工部と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部と、前記第1加工部と前記第2加工部との境界位置である変曲点と、を有する工具により、動力伝達部品を切削加工する動力伝達部品の製造方法であって、前記製造方法は、
前記動力伝達部品を形成するための被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程を有し、前記工程では、
前記第1加工部および前記第2加工部による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、前記変曲点の位置が前記第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の側面から第4の側面によれば、工具温度の低減化を図ることが可能になり、工具温度の低減化により工具のクレーター摩耗を抑制することが可能になる。
【0012】
また、本発明の第1の側面から第4の側面によれば、工具のクレーター摩耗を抑制しつつ、工具の長寿命化および加工コストの低減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る工具による切削加工の概要および加工装置の機能構成を示す図。
図2】実施形態に係る工具がツール保持部に保持された状態を示す図。
図3】実施形態に係る工具の構成を例示する図。
図4】切込み量に対して変曲点の位置を変えた加工例を示す図。
図5】切込み量に対して変曲点の位置を変えて加工したときの工具温度の変化を示す図。
図6】実施形態に係る工具で被削材を加工したときの被削材の表面形状を模式的に示す図。
図7】本実施形態の加工方法の流れを説明する図。
図8】工具寿命および加工コストの比較例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1図8に基づいて本発明の実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
【0015】
(切削加工の概要および加工装置の機能構成)
図1は、本実施形態の刃先交換式の工具による切削加工の概要および加工装置の機能構成を例示的に示す図である。本実施形態の工具は、被削材10を切削加工する構成として、曲率半径の異なる複数の加工部を有する複合曲率形状の工具である(以下、「ワイパーインサート工具」という)。被削材10は回転軸15の回りを矢印17の方向に所定の周速度で回転可能に加工装置の固定部に保持されている。
【0016】
図2は、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具)20がツール保持部25に保持された状態を例示的に示す図であり、ワイパーインサート工具20は、固定機構30および敷金35を介してツール保持部25に保持されている。固定機構30によりワイパーインサート工具20はツール保持部25に対して着脱可能に構成されている。ワイパーインサート工具20は、被削材10を加工する構成として、第1加工部21(ノーズ部)と、第2加工部22(ワイパー部)とを有する。第1加工部21(ノーズ部)の曲率半径と第2加工部22(ワイパー部)の曲率半径はそれぞれ異なるように構成されている。
【0017】
図1において、送り方向40は、ワイパーインサート工具20が被削材10の回転ごとに、回転軸15に対して水平方向に進行する方向である。切込み方向45は、ワイパーインサート工具20が被削材10の外周から被削材10の中心方向(被削材10の回転軸15の方向)に向う方向である。また、ツール保持部25は、ワイパーインサート工具20が被削材10の表面を一定深さにわたって切削するように、被削材10の回転軸15に向かって前進可能に構成されている。切込み量50は、ワイパーインサート工具20により切削される量である。切込み量50に相当する材料が被削材10の面に沿って削り取られるように、ツール保持部25は、被削材10の回転毎に一定距離を移動可能に構成されている。
【0018】
本実施形態の加工装置は、機能構成として、加工装置の全体的な制御を司る装置制御部100と、被削材10の回転駆動を制御する主軸制御部200と、工具の送りや切込み量等を制御する工具制御部300を有する。装置制御部100には、ユーザインタフェースとして機能する入力部110と、入力部110を介して入力された加工条件や工具の形状情報等を記憶する記憶部120とが接続されている。例えば、入力部110から加工条件が入力されると、装置制御部100は、入力された加工条件に基づいて、主軸制御部200および工具制御部300を制御して、被削材10の加工制御を行う。ここで、加工条件には、例えば、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の送りや切込み量、被削材の1回転当たりの送り量、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)を構成する変曲点60(図3)の位置に関する条件が含まれる。
【0019】
(ワイパーインサート工具の構成)
図3は、ワイパーインサート工具20の構成を例示する図である。図3(a)は、図2に示したツール保持部25に保持されたワイパーインサート工具20を上方から見たワイパーインサート工具20の全体的な構成を示している。図3(b)は、図3(a)の加工部26の詳細を示す図であり、ワイパーインサート工具20の第1加工部21(ノーズ部)および第2加工部22(ワイパー部)の構成を拡大して示している。
【0020】
本実施形態のワイパーインサート工具20は、複数の曲率半径の加工部を有する複合曲率形状の工具であり、第1加工部21(ノーズ部)は、第1の曲率半径R1を有しており、第2加工部22(ワイパー部)は、第1の曲率半径R1よりも大きい曲率半径R2を有する。図3において、第1加工部21と第2加工部22との境界位置(境目)を変曲点60としている。ワイパーインサート工具20は、例えば、立方晶窒化ホウ素(Cubic boron nitride:CBN)により形成可能である。尚、ワイパーインサート工具20を構成する材料は例示的なものであり、切削加工の工具として使用可能な材料を用いてワイパーインサート工具20を構成することは可能である。
【0021】
(変曲点の位置を変えた加工例)
図4は、切込み量に対して変曲点60の位置を変えた加工例を示す図である。図4(a)は、比較のため、単一の曲率形状の加工部を有する工具(図4(a)では、「単一曲率インサート」として示す)により加工した例を示している。ハッチング領域411は単一曲率インサートの加工部により切削加工される領域を示している。ハッチング領域411において、矢印は切削加工により切取られる切取り厚を示している。
【0022】
図4(b)〜図4(d)は、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)により加工した例を示しており、ハッチング領域412〜414は、ワイパーインサート工具20の加工部により切削加工される領域を示している。ハッチング領域412〜414において、矢印は切削加工により切取られる切取り厚を示している。
【0023】
図4(b)〜図4(d)において、ワイパーインサート工具20による切削後の被削材10の表面の底部(最下部)を含む表面を第1表面(基準表面)とし、切削前の被削材10の表面を第2表面とする。第1表面と第2表面との間の厚さ(距離)を切込み量Tとする。図4(b)は、第1表面と第2表面との間の切込み量Tにおいて、変曲点60の位置が第1表面(基準表面)から10%×切込み量Tとなるように、ワイパーインサート工具20の切込み方向45の加工条件を設定した加工例を示している。切削後の被削材10の第1表面(切込み量T(0%))から10%×切込み量Tまでの領域は、ワイパーインサート工具20の第2加工部22(ワイパー部)で加工され、10%×切込み量Tから切削前の被削材10の第2表面(切込み量T(100%))までの領域は、ワイパーインサート工具20の第1加工部21(ノーズ部)で加工される。
【0024】
図4(c)は、第1表面と第2表面との間の切込み量Tにおいて、変曲点60の位置が第1表面(基準表面)から50%×切込み量Tとなるように、ワイパーインサート工具20の切込み方向45の加工条件を設定した加工例を示している。切削後の被削材10の第1表面(切込み量T(0%))から50%×切込み量Tまでの領域は、ワイパーインサート工具20の第2加工部22(ワイパー部)で加工され、50%×切込み量Tから切削前の被削材10の第2表面(切込み量T(100%))までの領域は、ワイパーインサート工具20の第1加工部21(ノーズ部)で加工される。
【0025】
そして、図4(d)は、第1表面と第2表面との間の切込み量Tにおいて、変曲点60の位置が第1表面(基準表面)から100%×切込み量Tとなるように、ワイパーインサート工具20の切込み方向45の加工条件を設定した加工例を示している。図4(d)の場合では、変曲点60の位置が、切削前の被削材10の表面(第2表面)の位置となるため、被削材10は、ワイパーインサートの第2加工部22(ワイパー部)のみにより加工される。
【0026】
図5は、切込み量に対して変曲点60の位置を変えて加工したときのワイパーインサート工具20の温度(工具温度)の変化を示す図である。具体的には、ワイパーインサート工具20による切削後の被削材10の第1表面(基準表面)と、切削前の被削材10の第2表面との間の切込み量Tにおいて、変曲点60の位置を第1表面(基準表面:切込み量T(0%))から第2表面(切込み量T(100%))の範囲で変化させたときのワイパーインサート工具20の温度(工具温度)の変化を示している。図5において、横軸は、切込み量Tにおける変曲点60の位置(割合(%))を示しており、縦軸は、ワイパーインサート工具20の温度(工具温度)を示している。本実施形態では、切削シミュレーションソフトを用いて、ワイパーインサート工具20の温度(工具温度)を算出している。
【0027】
図4(b)〜図4(d)に示したように、変曲点60の位置の割合が大きくなるほど切取り厚は薄くなる。切取り厚が薄くなると、切削加工における塑性変形時の発熱が抑制されため、工具温度は低くなる。図5に示すように、変曲点60の位置の割合が0%から50%までは、変曲点60の位置の割合の増加に従って工具温度は低下する傾向を示す。そして、変曲点60の位置の割合が切込み量Tに対して50%以上の領域では、工具温度は温度T3(℃)前後でほぼ変化しない。第1加工部21および第2加工部22による切削後の被削材の表面の底部(最下部)を含む第1表面と、切削前の被削材の表面である第2表面との間の切込み量(T)において、変曲点60の位置が第1表面から50%×切込み量以上となるように、切込み方向の加工条件を設定して切削加工を行うことにより、工具温度の低減化を図ることが可能になる。工具温度の低減化により、クレーター摩耗の発生を抑制することが可能になる。
【0028】
図6は、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)で被削材10を加工したときの被削材10の表面形状を模式的に示す図である。ワイパーインサート工具20は、切込みにより被削材10の外周から被削材10の中心方向(被削材10の回転軸15の方向)に向う切込み方向45の加工条件が設定され、被削材10は所定の周速で回転している。このため、被削材10の表面はミクロンオーダーのレベルで、図6に示すように波状の表面形状が形成されながら部材表面が切削される。図6において、黒丸で示す位置が変曲点60に対応する位置であり、参照番号121で示す領域は、第1加工部21(ノーズ部)で加工された領域を示し、参照番号122で示す領域は、ワイパーインサートの第2加工部22(ワイパー部)で加工された領域を示している。第1加工部21(ノーズ部)および第2加工部22(ワイパー部)は、被削材の表面の異なる位置をそれぞれ切削加工する。切削後の被削材の表面には、第1の曲率半径を有する第1加工部21(ノーズ部)で切削加工された加工面と、第2の曲率半径を有する第2加工部22(ワイパー部)で切削加工された加工面と、が被削材の表面の異なる位置に形成される。
【0029】
図6では、図4で示した切込み量と切取り厚が等しいものとして示している。参照番号63は、ワイパーインサート工具20による切削後の被削材10の第1表面(基準表面)を示しており、参照番号64は、切削前の被削材10の表面(第2表面)を示している。第1表面と第2表面との間の厚さ(距離)は切込み量Tである。変曲点60の位置が、第1表面(基準表面)から50%×切込み量Tとなるように加工することにより、図5で示したように工具温度の低減化を図ることが可能になる。
【0030】
(加工方法の処理フロー)
図7は、本実施形態の加工方法の流れを説明する図である。ステップS1において、加工条件を設定する。本ステップでは、例えば、切削速度、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の送りや切込み量、ワイパーインサート工具20の形状および変曲点60の位置、ワイパーインサート工具20を被削材に当てる角度等に関する加工条件が設定される。例えば、図1で示した入力部110から加工条件が入力されると、装置制御部100は、入力された加工条件に基づいて、主軸制御部200および工具制御部300を制御して、被削材10の加工制御を行う。
【0031】
ステップS2において、装置制御部100は、設定された加工条件(例えば、切削速度)に基づいて、主軸制御部200を介して、被削材10を固定する固定部の回転を制御する。
【0032】
次に、ステップS3において、装置制御部100は、設定された加工条件(例えば、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の送り(送り速度)や切込み量、ワイパーインサート工具20の形状および変曲点60の位置、ワイパーインサート工具20を被削材に当てる角度等)に基づいて、工具制御部300を介して、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)が固定されているツール保持部25の送り方向40の移動および切込み方向45の移動を制御する。例えば、変曲点60の位置が設定(例えば、50%以上と設定)された場合、装置制御部100の制御の下、工具制御部300は、記憶部120に記憶されている、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の工具形状に基づいて、被削材10の切込み量Tの情報を算出し、算出した切込み量Tの情報に基づいて、被削材10の中心方向(被削材10の回転軸15の方向)に向う切込み方向45のツール保持部25の移動を制御する。設定された加工条件に基づいて、被削材の外周から被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、第1加工部21および第2加工部22は、切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、変曲点60の位置が第1表面から50%×切込み量以上となるように、被削材を切削加工する。また、工具制御部300は、切込み方向45のツール保持部25の移動制御を行うとともに、図1の送り方向40のツール保持部25の移動制御を行う。尚、ステップS2とステップS3は、図7のフローチャートで示した工程順に限定されるものではなく、ステップS3とステップS2の工程順を逆にしてもよい。
【0033】
本実施形態によれば、変曲点60の位置が、第1表面(基準表面)から50%×切込み量以上となるように被削材10の加工を行うことにより、切削加工における塑性変形時の発熱が抑制され、工具温度の低減化を図ることが可能になる。また、複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の送り量(図1の送り方向40の移動量)を増加させることにより、切削長の低減(短縮)化、及び周速の低減が可能になる。工具温度の低減化、切削長の低減(短縮)化、及び周速の低減により、クレーター摩耗の発生を抑制しつつ、工具の長寿命化を図ることが可能になる。
【0034】
(工具寿命および加工コストの比較)
図8は、工具寿命および加工コストの比較例を示す図である。図8(a)は、従来の単一の曲率形状の加工部を有する工具(単一曲率インサート)と、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)との工具寿命を比較した例を示す図である。図8(a)に示すように、従来の工具(単一曲率インサート)の寿命(N1)に対して、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の寿命(N5)は、約5倍になっている。
【0035】
図8(b)は、従来の単一の曲率形状の加工部を有する工具(単一曲率インサート)で被削材10を加工した場合に要する加工コストと、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)で被削材10を加工した場合に要する加工コストとを比較した例を示す図である。図8(b)に示すように、従来の工具(単一曲率インサート)の加工コスト(C5)に対して、本実施形態の複合曲率形状の工具(ワイパーインサート工具20)の加工コスト(C1)は、約1/5になっている。
【0036】
(動力伝達部品の製造方法)
先に説明した加工方法および工具は、パワートレインを構成する動力伝達部品の製造方法に適用することができる。例えば、CVTに使用するプーリのハードターニング加工の工程として適用することが可能である。動力伝達部品の製造方法は、動力伝達部品を形成するための被削材の外周から被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、被削材から所定の切込み量を切取る工程を有する。ここで、被削材から所定の切込み量を切取る工程では、第1加工部21および第2加工部22による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の被削材の表面である第2表面との間の切込み量において、変曲点60の位置が第1表面から50%×切込み量以上となるように設定された加工条件により被削材を切削加工する。
【0037】
(実施形態のまとめ)
構成1.本実施形態の加工方法は、以下の工程を有する。すなわち、加工方法は、第1の曲率半径を有する第1加工部(21)と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部(22)と、前記第1加工部(21)と前記第2加工部(22)との境界位置である変曲点(60)と、を有する工具(20)により被削材を切削加工する加工方法であって、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程(300、S3)を有し、
前記工程では、
前記第1加工部(21)および前記第2加工部(22)による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量(T)において、前記変曲点(60)の位置が前記第1表面から50%×切込み量(T)以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【0038】
構成2.構成1に記載の加工方法であって、前記第1加工部(21)および前記第2加工部(22)は、前記被削材の表面の異なる位置をそれぞれ切削加工し、前記切削後の被削材の表面には、前記第1の曲率半径(R1)を有する第1加工部(21)で切削加工された加工面(図6の121)と、前記第2の曲率半径(R2)を有する第2加工部(22)で切削加工された加工面(図6の122)と、が前記被削材の表面の異なる位置に形成されることを特徴とする。
【0039】
構成3.本実施形態の工具は、以下の構成を備える。すなわち、工具は、被削材を切削加工するための工具(20)であって、
第1の曲率半径を有する第1加工部(21)と、
前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部(22)と、
前記第1加工部(21)と前記第2加工部(22)との境界位置である変曲点(60)と、を有し、
前記第1加工部(21)および前記第2加工部(22)は、
前記被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取るように構成されており、
切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量(T)において、前記変曲点(60)の位置が前記第1表面から50%×切込み量(T)以上となるように設定された加工条件により、前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【0040】
構成4.本実施形態の動力伝達部品の製造方法は、以下の工程を有する。すなわち、動力伝達部品の製造方法は、第1の曲率半径を有する第1加工部(21)と、前記第1の曲率半径よりも大きい第2の曲率半径を有する第2加工部(22)と、前記第1加工部(21)と前記第2加工部(22)との境界位置である変曲点(60)と、を有する工具(20)により、動力伝達部品を切削加工する動力伝達部品の製造方法であって、前記製造方法は、
前記動力伝達部品を形成するための被削材の外周から前記被削材の回転軸に向う切込み方向の送りにより、前記被削材から所定の切込み量を切取る工程(300、S3)を有し、前記工程では、
前記第1加工部(21)および前記第2加工部(22)による切削後の被削材の表面の底部を含む第1表面と、切削前の前記被削材の表面である第2表面との間の切込み量(T)において、前記変曲点(60)の位置が前記第1表面から50%×切込み量(T)以上となるように設定された加工条件により前記被削材を切削加工することを特徴とする。
【0041】
第1の構成から第4の構成によれば、工具温度の低減化を図ることが可能になり、工具温度の低減化により工具の摩耗(例えば、クレーター摩耗の発生)を抑制することが可能になる。
【0042】
また、第1の構成から第4の構成によれば、工具の摩耗(例えば、クレーター摩耗の発生)を抑制しつつ、工具の長寿命化および加工コストの低減を図ることが可能になる。
【符号の説明】
【0043】
20: ワイパーインサート工具、21:第1加工部21(ノーズ部)、22:第2加工部22(ワイパー部)、60:変曲点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8