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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226319(P2017-226319A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20171201BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20171201BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20171201BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20171201BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20171201BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-123814(P2016-123814)
(22)【出願日】2016年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】特許業務法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 知行
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC03
3D232CC32
3D232CC35
3D232CC37
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA64
3D232DD03
3D232DD17
3D232EB04
3D232EB11
3D232EB12
3D232EC23
3D232EC27
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB13
3D333CB21
3D333CB31
3D333CB32
3D333CB46
3D333CC23
3D333CC33
3D333CC36
3D333CE28
3D333CE38
3D333CE50
(57)【要約】
【課題】パワーステアリングモードで転舵制御が行われるときに、システムが不安定になるのを抑制できる車両用操舵装置を提供する。
【解決手段】反力モータ14および反力モータ制御部70ならびに転舵モータ31および転舵モータ制御部50の正常時には、クラッチ制御部90は、第1クラッチ6を解放状態にさせるとともに第2および第3クラッチ13,32を締結状態にし、反力モータ制御部70は反力モータ14によってステアリングホイール2に操舵反力を付与し、転舵モータ制御部50は、転舵モータ31によって転舵輪3を転舵させる。反力モータ14または反力モータ制御部70の故障時には、クラッチ制御部90は、第1および第3クラッチ6,32を締結状態にさせるとともに第2クラッチ13を解放状態にし、転舵モータ制御部50は、転舵モータ31に操舵補助力を発生させる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を操向するための操舵部材と、
転舵輪を転舵させるための転舵機構と、
前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチを介して連結された反力モータと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に第3クラッチを介して連結された転舵モータと、
前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段と、
前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段と、
前記第1、第2および第3クラッチを制御するクラッチ制御手段とを含み、
前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2および第3クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、
前記反力モータまたは前記反力モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第3クラッチを締結状態にさせるとともに前記第2クラッチを解放状態にし、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置。
【請求項2】
前記転舵モータまたは前記転舵モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第2クラッチを締結状態にさせるとともに前記第3クラッチを解放状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータに操舵補助力を発生させる、請求項1に記載の車両用操舵装置。
【請求項3】
車両を操向するための操舵部材と、
転舵輪を転舵させるための転舵機構と、
前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチを介して連結された反力モータと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に第3クラッチを介して連結された転舵モータと、
前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段と、
前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段と、
前記第1、第2および第3クラッチを制御するクラッチ制御手段とを含み、
前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2および第3クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、
前記転舵モータまたは前記転舵モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第2クラッチを締結状態にさせるとともに前記第3クラッチを解放状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置。
【請求項4】
車両を操向するための操舵部材と、
転舵輪を転舵させるための転舵機構と、
前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチを介して連結された反力モータと、
前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に連結された転舵モータと、
前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段と、
前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段と、
前記第1および第2クラッチを制御するクラッチ制御手段とを含み、
前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、
前記反力モータまたは前記反力モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを締結状態にさせるとともに前記第2クラッチを解放状態にし、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車等の車両に用いられる車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達経路に設けられたクラッチと、動力伝達経路におけるクラッチよりもステアリングホイール側の部分に動力を付加する反力モータを有する操舵反力生成部と、動力伝達経路における前記クラッチよりも前記転舵輪側の部分に動力を付加するアシストモータを有する操舵アシスト部とを備えるステアリング装置が開示されている。特許文献1のステアリング装置では、操舵反力生成部および操舵アシスト部が正常に動作するときには、クラッチを切断した上で、反力モータの動力でステアリングホイールに操舵反力が付加されるとともに、アシストモータの動力で転舵輪を転舵される。つまり、ステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)モードで転舵制御が行われる。
【0003】
また、特許文献1のステアリング装置では、操舵反力生成部の故障時には、クラッチを接続した上で、アシストモータの動力で操舵のパワーアシストが行われる。また、特許文献1のステアリング装置では、操舵アシスト部の故障時には、クラッチを接続した上で、反力モータの動力で操舵のパワーアシストが行われる。つまり、操舵反力生成部の故障時または操舵アシスト部の故障時には、パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)モードで転舵制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−182507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のステアリング装置では、操舵反力生成部の故障時には、クラッチを接続した上で、アシストモータの動力で操舵のパワーアシストが行われるが、反力モータの慣性が影響して、通常の電動パワーステアリングシステムに比べてシステムが不安定になる。
また、特許文献1のステアリング装置では、操舵アシスト部の故障時には、クラッチを接続した上で、反力モータの動力で操舵のパワーアシストが行われるが、アシストモータの慣性が影響して、通常の電動パワーステアリングシステムに比べてシステムが不安定になる。
【0006】
この発明の目的は、パワーステアリングモードで転舵制御が行われるときに、システムが不安定になるのを抑制できる車両用操舵装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、車両を操向するための操舵部材(2)と、転舵輪(3)を転舵させるための転舵機構(4)と、前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチ(6)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチ(13)を介して連結された反力モータ(14)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に第3クラッチ(32)を介して連結された転舵モータ(31)と、前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段(70)と、前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段(50)と、前記第1、第2および第3クラッチを制御するクラッチ制御手段(90)とを含み、前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2および第3クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、前記反力モータまたは前記反力モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第3クラッチを締結状態にさせるとともに前記第2クラッチを解放状態にし、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0008】
この構成では、反力モータおよび反力モータ制御手段ならびに転舵モータおよび転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、ステアバイワイヤモードで転舵制御を行うことができる。反力モータまたは反力モータ制御手段の故障時には、転舵モータによって操舵補助力を発生させることにより、パワーステアリングモードで操舵補助を行うことができる。この際、第2クラッチは解放状態とされるので、反力モータの慣性がシステムに影響を及ぼさないため、反力モータの慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記転舵モータまたは前記転舵モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第2クラッチを締結状態にさせるとともに前記第3クラッチを解放状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータに操舵補助力を発生させる、請求項1に記載の車両用操舵装置である。
この構成では、転舵モータまたは転舵モータ制御手段の故障時には、反力モータによって操舵補助力を発生させることにより、パワーステアリングモードで操舵補助を行うことができる。この際、第3クラッチは解放状態とされるので、転舵モータの慣性がシステムに影響を及ぼさないため、反力モータの慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、車両を操向するための操舵部材(2)と、転舵輪(3)を転舵させるための転舵機構(4)と、前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチ(6)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチ(13)を介して連結された反力モータ(14)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に第3クラッチ(32)を介して連結された転舵モータ(31)と、前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段(70)と、前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段(50)と、前記第1、第2および第3クラッチを制御するクラッチ制御手段(90)とを含み、前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2および第3クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、前記転舵モータまたは前記転舵モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1および第2クラッチを締結状態にさせるとともに前記第3クラッチを解放状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置である。
【0011】
この構成では、反力モータおよび反力モータ制御手段ならびに転舵モータおよび転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、ステアバイワイヤモードで転舵制御を行うことができる。転舵モータまたは転舵モータ制御手段の故障時には、反力モータによって操舵補助力を発生させることにより、パワーステアリングモードで操舵補助を行うことができる。この際、第3クラッチは解放状態とされるので、転舵モータの慣性がシステムに影響を及ぼさないため、反力モータの慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、車両を操向するための操舵部材(2)と、転舵輪(3)を転舵させるための転舵機構(4)と、前記操舵部材と前記転舵輪との間の動力伝達経路に設けられた第1クラッチ(6)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記操舵部材側の部分に第2クラッチ(13)を介して連結された反力モータ(14)と、前記動力伝達経路における前記第1クラッチよりも前記転舵輪側の部分に連結された転舵モータ(31)と、前記反力モータを駆動制御する反力モータ制御手段(70)と、前記転舵モータを駆動制御する転舵モータ制御手段(50)と、前記第1および第2クラッチを制御するクラッチ制御手段(90)とを含み、前記反力モータおよび前記反力モータ制御手段ならびに前記転舵モータおよび前記転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを解放状態にさせるとともに前記第2クラッチを締結状態にし、前記反力モータ制御手段は、前記反力モータによって前記操舵部材に操舵反力を付与し、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータによって前記転舵輪を転舵させ、前記反力モータまたは前記反力モータ制御手段の故障時には、前記クラッチ制御手段は、前記第1クラッチを締結状態にさせるとともに前記第2クラッチを解放状態にし、前記転舵モータ制御手段は、前記転舵モータに操舵補助力を発生させる、車両用操舵装置である。
【0013】
この構成では、反力モータおよび反力モータ制御手段ならびに転舵モータおよび転舵モータ制御手段が正常に動作するときには、ステアバイワイヤモードで転舵制御を行うことができる。反力モータまたは反力モータ制御手段の故障時には、転舵モータによって操舵補助力を発生させることにより、パワーステアリングモードで操舵補助を行うことができる。この際、第2クラッチは解放状態とされるので、反力モータの慣性がシステムに影響を及ぼさないため、反力モータの慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
図2図2は、ECUの電気的構成を示すブロック図である。
図3図3は、SBWモード時の転舵モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
図4図4は、SBWモード時の反力モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
図5図5は、第1のEPSモード時の転舵モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
図6図6は、第2のEPSモード時の反力モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用操舵装置の概略構成を示す模式図である。
車両用操舵装置1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、転舵輪3を転舵するための転舵機構4と、ステアリングホイール2に連結されたステアリングシャフト5と、ステアリングシャフト5(ステアリングホイール2)と転舵機構4とを機械的に連結したり分離したりするための第1クラッチ6とを含む。この実施形態では、第1クラッチ6は、電磁クラッチである。第1クラッチ6は、入力軸と出力軸とを含み、入出力軸間のトルクの伝達・遮断を行う機能を有している。
【0016】
ステアリングシャフト5は、ステアリングホイール2に連結された第1軸7と、第1クラッチ6の入力軸に一体的に連結された第2軸9と、第1軸7と第2軸9とを連結するトーションバー8とを含む。
第1軸7の周囲には、第1軸7の回転角である操舵角θhを検出するための舵角センサ10が配置されている。この実施形態では、舵角センサ10は、第1軸7の中立位置からの第1軸7の正逆両方向の回転量(回転角)を検出するものであり、中立位置から右方向への回転量を例えば正の値として出力し、中立位置から左方向への回転量を例えば負の値として出力する。
【0017】
また、ステアリングシャフト5の周囲には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、第1軸7および第2軸9の相対回転変位量、つまり、トーションバー8の捩れ角に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクThを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクThは、右方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、左方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0018】
第2軸9には、減速機12および第2クラッチ13を介して反力モータ14が連結されている。反力モータ14は、通常時は、ステアリングホイール2に操舵反力(操舵方向と反対方向のトルク)を付与するための電動モータである。第2クラッチ13は、電磁クラッチである。第2クラッチ13は、入力軸と出力軸とを含み、入出力軸間のトルクの伝達・遮断を行う機能を有している。反力モータ14の出力軸は、第2クラッチ13の入力軸に連結されている。減速機12は、第2クラッチ13の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、第2軸9に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。反力モータ14には、反力モータ14の回転角を検出ための回転角センサ15が設けられている。
【0019】
転舵機構4は、第1クラッチ6の出力軸に一体的に連結された第1ピニオン軸16と、転舵軸としてのラック軸17と、ラック軸17に転舵力を付与するための転舵アクチュエータ30とを含む。ラック軸17の各端部には、タイロッド18およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。第1ピニオン軸16の先端には、第1ピニオン19が連結されている。ラック軸17は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸17の軸方向の第1端部には、第1ピニオン19に噛み合う第1ラック20が形成されている。
【0020】
転舵アクチュエータ30は、転舵モータ31と、第3クラッチ32と、減速機33と、第2ピニオン軸34と、第2ピニオン35と、第2ラック36とを含む。第2ピニオン軸34は、ステアリングシャフト5とは、分離して配置されている。第3クラッチ32は、電磁クラッチである。第3クラッチ32は、入力軸と出力軸とを含み、入出力軸間のトルクの伝達・遮断を行う機能を有している。転舵モータ31の出力軸は、第3クラッチ32の入力軸に連結されている。減速機33は、第3クラッチ32の出力軸に一体的に回転可能に連結されたウォーム軸(図示略)と、このウォーム軸と噛み合い、第2ピニオン軸34に一体的に回転可能に連結されたウォームホイール(図示略)とを含むウォームギヤ機構からなる。
【0021】
第2ピニオン35は、第2ピニオン軸34の先端に連結されている。第2ラック36は、ラック軸17の軸方向の第1端部とは反対の第2端部側に設けられている。第2ピニオン35は、第2ラック36に噛み合っている。転舵モータ31には、転舵モータ31の回転角を検出するための回転角センサ37が設けられている。ラック軸17の近傍には、ラック軸17の軸方向移動量を検出するためのストロークセンサ38が配置されている。ストロークセンサ38が検出したラック軸17の軸方向移動量から、転舵輪3の転舵角θtが検出されるようになっている。
【0022】
舵角センサ10、トルクセンサ11、回転角センサ15,37、ストロークセンサ38および車速センサ39の検出信号ならびにイグニッションキーの状態検知信号は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)40に入力される。ECU40は、これらの入力信号に基づいて、第1〜第3クラッチ6,13,32、反力モータ14および転舵モータ31を制御する。
【0023】
図2は、ECU40の電気的構成を示すブロック図である。
ECU40は、マイクロコンピュータ41と、マイクロコンピュータ41によって制御され、転舵モータ31に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)42と、転舵モータ31に流れるモータ電流を検出する電流検出部43と、マイクロコンピュータ41によって制御され、反力モータ14に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)44と、反力モータ14に流れるモータ電流を検出する電流検出部45とを備えている。また、ECU40は、マイクロコンピュータ41によって制御され、第1、第2および第3クラッチ6,13,32をそれぞれ駆動するための駆動回路46,47,48を備えている。
【0024】
マイクロコンピュータ41は、CPUおよびメモリ(ROM、RAM、不揮発性メモリなど)を備えており、所定のプログラムを実行することによって、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、転舵モータ31を制御するための転舵モータ制御部50と、反力モータ14を制御するための反力モータ制御部70と、第1、第2および第3クラッチ6,13,32を制御するためのクラッチ制御部90とを備えている。
【0025】
第1クラッチ6は、例えば、常時は締結状態であり、通電状態とされることで解放状態となる。第2および第3クラッチ13,32は、例えば、常時は解放状態であり、通電状態とされることで締結状態となる。これらのクラッチ6,13,32は、イグニッションキーの状態によって次のように制御される。イグニッションキーがオン位置に操作されると、第1クラッチ6は、通電状態とされて解放状態とされ、第2および第3クラッチ13,32は、通電状態とされて締結状態とされる。イグニッションキーがオン位置からオフ位置に操作されると、第1クラッチ6は、非通電状態とされて締結状態とされ、第2および第3クラッチ13,32は、非通電状態とされて解放状態とされる。
【0026】
転舵モータ制御部50は、転舵モータ31または転舵モータ制御部50に故障が発生した場合には、その旨を反力モータ制御部70およびクラッチ制御部90に通知する機能を備えている。反力モータ制御部70は、反力モータ14または反力モータ制御部70に故障が発生した場合には、その旨を転舵モータ制御部50およびクラッチ制御部90に通知する機能を備えている。
【0027】
反力モータ14および反力モータ制御部70並びに転舵モータ31および転舵モータ制御部50が正常である場合には、反力モータ制御部70、転舵モータ制御部50およびクラッチ制御部90は、ステアバイワイヤモード(以下、「SBWモード」という。)で動作する。SBWモードでは、クラッチ制御部90は、第1クラッチ6を解放状態とし、第2および第3クラッチ13,32を締結状態とする。また、反力モータ制御部70は、反力モータ14によってステアリングホイール2に操舵反力を付与する。また、転舵モータ制御部50は、転舵モータ31によって転舵輪3を転舵させる。
【0028】
反力モータ14または反力モータ制御部70に故障が発生した場合には、転舵モータ制御部50およびクラッチ制御部90は、第1のパワーステアリングモード(EPSモード)で動作する。第1のEPSモードでは、クラッチ制御部90は、第2クラッチ13を開放状態とし、第1クラッチ6および第3クラッチ32を締結状態とする。また、転舵モータ制御部50は、転舵モータ31に操舵補助力を発生させる。
【0029】
転舵モータ31または転舵モータ制御部50に故障が発生した場合には、反力モータ制御部70およびクラッチ制御部90は、第2のパワーステアリングモード(EPSモード)で動作する。第2のEPSモードでは、クラッチ制御部90は、第3クラッチ32を開放状態とし、第1クラッチ6および第2クラッチ13を締結状態とする。また、反力モータ制御部70は、反力モータ14に操舵補助力を発生させる。
【0030】
なお、反力モータ14または反力モータ制御部70と、転舵モータ31または転舵モータ制御部50とに故障が発生した場合には、クラッチ制御部90は、第2クラッチ13および第3クラッチ32を開放状態とし、第1クラッチ6を締結状態とする。
図3は、SBWモード時の転舵モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
【0031】
SBWモード時においては、転舵モータ制御部50は、その機能処理部として、目標転舵角設定部51と、角度偏差演算部52と、電流指令値生成部53と、電流フィードバック制御部54とを含む。
目標転舵角設定部51は、車速センサ39によって検出される車速Vおよび舵角センサ10によって検出される操舵角θhに基づいて目標転舵角θtを設定する。たとえば、目標転舵角設定部51は、所定の伝達関数を用いて車速Vおよび操舵角θhに応じた目標転舵角θtを設定する。
【0032】
角度偏差演算部52は、目標転舵角設定部51によって設定された目標転舵角θtと、ストロークセンサ38によって検出される実転舵角θtとの偏差を演算する。
電流指令値生成部53は、角度偏差演算部52によって演算された角度偏差に対するPI演算等を行うことにより、モータ電流指令値を生成する。
電流フィードバック制御部54は、電流検出部43によって検出されるモータ電流が、電流指令値生成部53によって生成されたモータ電流指令値に等しくなるように、駆動回路42を制御する。
【0033】
これにより、ストロークセンサ38によって検出される実転舵角θtが、目標転舵角設定部51によって設定される目標転舵角θtに等しくなるように、転舵モータ31が制御される。
図4は、SBWモード時の反力モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
【0034】
SBWモード時においては、反力モータ制御部70は、その機能処理部として、目標反力トルク設定部71と、電流指令値生成部72と、電流フィードバック制御部73とを含む。
目標反力トルク設定部71は、車速センサ39によって検出される車速V、舵角センサ10によって検出される操舵角θhおよびトルクセンサ11によって検出される操舵トルクThに基づいて、目標反力トルクTfを設定する。例えば、目標反力トルク設定部71は、操舵角θhおよび車速Vに基づいて目標反力トルク基本値を求め、この目標反力トルク基本値に対して操舵トルクThに応じたゲインを乗じることにより、目標反力トルクTfを設定する。
【0035】
電流指令値生成部72は、目標反力トルク設定部71によって演算された目標反力トルクTfに応じたモータ電流指令値を生成する。
電流フィードバック制御部73は、電流検出部45によって検出されるモータ電流が、電流指令値生成部72によって生成されたモータ電流指令値に等しくなるように、駆動回路44を制御する。
【0036】
これにより、目標反力トルクTfに応じたモータトルクが反力モータ14から発生するように、反力モータ14が制御される。
図5は、第1のEPSモード時の転舵モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
第1のEPSモード時には、第2クラッチ13は開放状態とされ、第1クラッチ6および第3クラッチ32は締結状態とされる。これにより、反力モータ14と減速機12とは切り離され、ステアリングシャフト5と第1ピニオン軸16とは連結され、転舵モータ31と減速機33とは連結された状態となる。
【0037】
第1のEPSモード時においては、転舵モータ制御部50は、その機能処理部として、操舵トルク演算部61と、目標アシストトルク演算部62と、電流指令値生成部63と、電流フィードバック制御部64とを含む。
操舵トルク演算部61は、舵角センサ10によって検出される操舵角θhと、回転角センサ37によって検出される転舵モータ31の回転角とに基づいて、操舵トルクThを演算する。舵角センサ10によって検出される操舵角θhは、トーションバー8に対してステアリングホイール2側の第1軸7の回転角に対応する。また、第1クラッチ6が接続された状態では、第1ピニオン軸16、ラック軸17および第2ピニオン軸34が連結されているので、転舵モータ31の回転角から、トーションバー8に対してステアリングホイール2とは反対側の第2軸9の回転角を求めることができる。したがって、操舵角θhと転舵モータ31の回転角から、トーションバー8の捩れ角を求めることができ、この捩れ角から操舵トルクThを求めることができる。これにより、トルクセンサ11の検出結果を利用できない反力モータ14または反力モータ制御部70の故障時において、操舵トルクThを演算できるようになる。
【0038】
目標アシストトルク演算部62は、操舵トルク演算部61によって演算された操舵トルクThと、車速センサ39によって検出された車速Vとに基づいて、目標アシストトルクTaを設定する。目標アシストトルク演算部62は、例えば、操舵トルクThに車速Vに応じた車速ゲインを乗算することにより目標アシストトルクTaを演算する。車速ゲインは、車速が大きいほど小さい値をとる。したがって、目標アシストトルクTaの絶対値は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど大きく、車速が大きいほど小さくなる。
【0039】
電流指令値生成部63は、目標アシストトルク演算部62によって演算された目標アシストトルクTaに対応したモータ電流指令値を生成する。
電流フィードバック制御部64は、電流検出部43によって検出されるモータ電流が、電流指令値生成部63によって生成されたモータ電流指令値に等しくなるように、駆動回路42を制御する。
【0040】
これにより、目標アシストトルクTaに応じたモータトルクが転舵モータ31から発生するように、転舵モータ31が制御される。これにより、操舵トルクに応じた操舵補助力が発生される。この際、第2クラッチ13は解放状態とされているので、反力モータ14の慣性がシステムに影響を及ぼさないため、反力モータ14の慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【0041】
図6は、第2のEPSモード時の反力モータ制御部の動作を説明するための機能ブロック図である。
第2のEPSモード時には、第3クラッチ32が開放状態とされ、第1クラッチ6および第2クラッチ13が締結状態とされる。これにより、転舵モータ31と減速機33とは切り離され、ステアリングシャフト5と第1ピニオン軸16とは連結され、反力モータ14と減速機12とは連結された状態となる。
【0042】
第2のEPSモード時においては、反力モータ制御部70は、その機能処理部として、目標アシストトルク演算部81と、電流指令値生成部82と、電流フィードバック制御部83とを含む。
目標アシストトルク演算部81は、車速センサ39によって検出された車速Vと、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクThとに基づいて、目標アシストトルクTaを設定する。目標アシストトルク演算部81は、例えば、操舵トルクThに車速Vに応じた車速ゲインを乗算することにより目標アシストトルクTaを演算する。車速ゲインは、車速が大きいほど小さい値をとる。したがって、目標アシストトルクTaの絶対値は、操舵トルクThの絶対値が大きいほど大きく、車速が大きいほど小さくなる。
【0043】
電流指令値生成部82は、目標アシストトルク演算部81によって演算された目標アシストトルクTaに対応したモータ電流指令値を生成する。
電流フィードバック制御部83は、電流検出部45によって検出されるモータ電流が、電流指令値生成部82によって生成されたモータ電流指令値に等しくなるように、駆動回路44を制御する。
【0044】
これにより、目標アシストトルクTaに応じたモータトルクが反力モータ14から発生するように、転舵モータ31が制御される。これにより、操舵トルクに応じた操舵補助力が発生される。この際、第3クラッチ32は解放状態とされているので、転舵モータ31の慣性がシステムに影響を及ぼさないため、転舵モータ31の慣性によってシステムが不安定になるのを抑制できる。
【0045】
また、上記実施形態では、転舵輪3の転舵角θtをストロークセンサ38によって検出されるラック軸17の軸方向移動量から検出しているが、転舵輪3の転舵角θtを回転角センサ37によって検出される転舵モータ31の回転角に基づいて検出してもよい。
また、上記実施形態では、転舵モータ31の出力軸は、第3クラッチ32を介して減速機33に連結されているが、転舵モータ31の出力軸を、第3クラッチ32を介さずに減速機33に連結するようにしてもよい。つまり、第3クラッチ32を省略してもよい。
【0046】
このように第3クラッチ32を省略した構成において、反力モータ14および反力モータ制御部70並びに転舵モータ31および転舵モータ制御部50が正常である場合には、反力モータ制御部70、転舵モータ制御部50およびクラッチ制御部90は、前述のステアバイワイヤモード(SBWモード)と同様な動作を行うようにしてもよい。ただし、第3クラッチ32は設けられていないので、クラッチ制御部90は、第3クラッチ32を締結させる必要はない。
【0047】
また、第3クラッチ32を省略した構成において、反力モータ14または反力モータ制御部70に故障が発生した場合には、転舵モータ制御部50およびクラッチ制御部90は、前述の第1のパワーステアリングモード(EPSモード)と同様な動作を行うようにしてもよい。ただし、第3クラッチ32は設けられていないので、クラッチ制御部90は、第3クラッチ32を締結させる必要はない。
【0048】
また、第3クラッチ32を省略した構成において、転舵モータ31または転舵モータ制御部50に故障が発生した場合の動作には、反力モータ制御部70およびクラッチ制御部90は、前述の第2のパワーステアリングモード(EPSモード)と同様な動作を行うようにしてもよい。ただし、第3クラッチ32は設けられていないので、転舵モータ31は減速機33に連結された状態となる。
【0049】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…車両用操舵装置、2…ステアリングホイール、3…転舵輪、4…転舵機構、6…第1クラッチ、10…舵角センサ、11…トルクセンサ、13…第2クラッチ、14…反力モータ、31…転舵モータ、32…第3クラッチ、40…ECU、50…転舵モータ制御部、70…反力モータ制御部、90…クラッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6