【解決手段】車両に搭載された赤外線カメラ装置101であって、赤外線透過部110と、赤外線透過部への飛来物の付着を防止する付着防止部120とを有する。付着防止部の胴体部材121は、流入口122を一端に吹出口124を他端に有し、これらの間に狭小部123を有し、流入口から狭小部に向けてテーパー形状を有する。狭小部は、吹出口と同形状で吹出口の流路断面積以下の流路断面積を有し、かつ鉛直方向において流入口よりも上方に位置する。
上記胴体部材は、上記流入口から上記狭小部までのテーパー形状を有するテーパー形状部分を有し、このテーパー形状部分における底板は、当該テーパー形状部分の内側へ凸である山形形状を有する、請求項1から3のいずれか1項に記載の赤外線カメラ装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態である赤外線カメラ装置及び当該赤外線カメラ装置を搭載した車両について、図を参照しながら以下に説明する。尚、各図において、同一又は同様の構成部分については同じ符号を付している。また、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け当業者の理解を容易にするため、既によく知られた事項の詳細説明及び実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。また、以下の説明及び添付図面の内容は、特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
また以下の実施の形態では、「車両」として自動車を例に採るが、自動車に限定されず、「車両」は、例えば、いわゆる新交通システムも含んだ鉄道における車両、さらには自転車等の移動体をも含む概念である。
【0009】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における赤外線カメラ装置101を示すと共に、この赤外線カメラ装置101を搭載した、自動車である車両1について、特に車両1における赤外線カメラ装置101の設置部分について示している。ここで、9は車両1のフロントグリルであり、車両1の前面に複数のスリットを備え設けられる。このフロントグリル9は、車両1の走行時、空気12を車両1の内部に流入させ、不図示のラジエータ等を冷やすために設けられる。本実施の形態1では、赤外線カメラ装置101は、このフロントグリル9よりも内側に設置される。
【0010】
図2は、赤外線カメラ装置101の正面図である。赤外線カメラ装置101は、基本的構成部分として、赤外線透過部110と付着防止部120とを有する。
本実施の形態1では、撮像部に相当するカメラ部111には、カメラ部111のレンズを保護するレンズカバー113がカメラ部111から突出して設けられており、このレンズカバー113の車両1の正面側には、カメラ部111に赤外線を取り込む部分である赤外線窓112が車両1の前方に配向されて設けられている。この赤外線窓112が赤外線透過部110の一例に相当する。尚、赤外線カメラの種類によっては、レンズカバー113及び赤外線窓112を有さず、レンズが露出したものも存在する。このような赤外線カメラの場合には、レンズ自体が赤外線透過部に相当する。
また、赤外線窓112の位置に対応して、フロントグリル9には開口部115aが設けられており、115は開口部115aの外枠である。この外枠115は、フロントグリル9と開口部115aとを分離する枠組みであり、フロントグリル9の部材を固定する。尚、フロントグリル9の形状によっては、外枠115は必要ない場合もある。また、
図1、
図6及び
図7において、外枠115とレンズカバー113との間の点線部分は、当該赤外線カメラ装置101の撮像範囲を表している。
【0011】
付着防止部120は、ダクト状の胴体部材121を有し、車両1の走行中、雨滴及び埃等の飛来物12aが赤外線窓112に付着するのを防止する部分である。尚、開口部115aから進入する飛来物について「12a」を符番する。
このような付着防止部120を構成する胴体部材121は、車両1の走行によって空気12が流入する流入口122を一端に有し、赤外線透過部110つまり本実施の形態1では赤外線窓112に隣接して前方に位置する吹出口124を他端に有する。
ここで、鉛直方向30に直交する、車両1の車幅方向31において、
図2に示すように、流入口122の幅W1は、開口部115aの幅W2に対して同じもしくはより大きいことが好ましい。
また吹出口124は、車両1の走行によって流入口122へ流入した空気12を赤外線窓112に向って吹き出す。
図2に示すように、吹出口124における幅W3は、赤外線窓112の幅と略同一もしくは僅かに大きく構成している。吹出口124におけるこのような構成は、赤外線窓112に飛来物12aが付着するのを、付着防止部120が効果的に抑制、防止可能とする一要因となる。
【0012】
さらに胴体部材121は、流入口122と吹出口124との間に狭小部123を有する。この狭小部123は、吹出口124と同形状であり吹出口124の流路断面積以下の流路断面積を有し、かつ、
図1及び
図2に示すように鉛直方向30において流入口122よりも上方に位置する。このような構成から、胴体部材121は、流入口122から狭小部123に向けてテーパー形状部分121aを有し、このようなテーパー形状部分121aにおいて、狭小部123は、
図1及び
図2に示すように最上部に位置する。
【0013】
また胴体部材121において、このような狭小部123から吹出口124までの通路部分121bにおける形状及び流路断面積は、狭小部123における形状及び流路断面積と同じであり変化させていない。
【0014】
よって付着防止部120におけるこのような胴体部材121の構成によれば、流入口122を通り進入する飛来物について「12c」を符番すると、飛来物12cのうち、狭小部123の形状及び流路断面積を超える飛来物12bは、狭小部123を通過することはできない。また、狭小部123がテーパー形状部分121aの最上部に位置することから、狭小部123を通過できない飛来物12bは、重力によって狭小部123から下方へ落下し流入口122から外部へ排出される。また、狭小部123から吹出口124までの通路部分121bにおける形状及び流路断面積は変化しないことから、狭小部123を通過可能な大きさの飛来物12cは、狭小部123から吹出口124までの通路部分121bにて詰まることはない。
【0015】
以上のような構成を有する赤外線カメラ装置101の動作について説明する。
車両1の走行中、赤外線窓112に対して、
図1に示すように雨滴及び埃といった飛来物12aが車両前方から飛来する。この飛来物12aが赤外線窓112に付着したままの状態では、赤外線カメラ装置101のカメラ部111への対象物の画像入射が阻害される。よって、赤外線窓112における飛来物12aの付着を放置すると、車両1のドライバーへ良好な画像を提供することができなくなる。
【0016】
これに対して本実施の形態1では、付着防止部120を設けたことで、赤外線窓112への飛来物12aの付着及び停滞を軽減することができる。即ち、車両1の走行中、前方からの空気12は、フロントグリル9を通過して車両1の内部へ進入する。そのフロントグリル9の一部に付着防止部120の流入口122が存在する。よって、フロントグリル9を通過した空気12の一部は、流入口122を通り付着防止部120内へ進入する。付着防止部120内に進入した空気12は、テーパー形状部分121aを通過することでその流速を増す。流速が増加した空気12は、狭小部123を通り吹出口124から赤外線窓112に向けて吹き出される。
【0017】
また付着防止部120には、流入口122を通り、狭小部123の形状及び流路断面積を超える飛来物12bが進入する場合もある。この場合、上述したように、飛来物12bは、狭小部123を通過することはできず、狭小部123から下方へ落下し流入口122から外部へ排出される。よって、吹出口124から吹き出されるものは、空気12及び飛来物12bよりも小さい飛来物12cである。
【0018】
一方、フロントグリル9より車両内側には、カメラ部111及び赤外線窓112が設置されており、赤外線窓112には同様に空気12、飛来物12aが飛来してくる。このとき、赤外線窓112に対向した開口部115aを通して進入した飛来物12aは、付着防止部120の吹出口124から吹き出される空気12によって、赤外線窓112上に付着あるいは停滞することなく吹き飛ばされる。
尚、上述した大きさの飛来物12bが開口部115aを通って進入する場合もあるが、飛来物12bについても吹出口124から吹き出される空気12によってその進行方向が変更可能である。
【0019】
本実施の形態1では、上述のように、また
図1及び
図2に示すように、吹出口124は、赤外線窓112の上方から空気12を吹き出しているが、赤外線窓112の下方あるいは側方等、いずれの方向から吹き出すように配向してもよい。尚、重力を考慮すると、図示のように赤外線窓112の上方から吹き出すのが望ましい。
【0020】
また、胴体部材121のテーパー形状部分121aにおいて、底板125は、
図1及び
図2に示すように平板を使用している。上述したように本実施の形態1では、流入口122の幅W1は、開口部115aの幅W2に対して同じもしくはより大きく設計しているが、底板125が平板の場合、狭小部123を通過できずに重力によって落下した飛来物12bが再び開口部115aから車両内側へ進入する可能性がある。
【0021】
そこで
図3に示すように、テーパー形状部分121aの底板125の車幅方向31における中央部分を、テーパー形状部分121aの内側へ凸とした山形形状126としてもよい。底板125が山形形状126を有することで、底板125へ落下してきた飛来物12bは、底板125の右側あるいは左側へ配向されて流入口122から外部に排出される。
このように山形形状126を有することで、幅W1≧幅W2の関係とも相俟って、流入口122から外部へ排出された飛来物12bが開口部115aから車両内側へ進入するのを防止することができる。
【0022】
以下には、飛来物が赤外線窓112上に付着あるいは停滞することなく処理されるための、流入口122の流路断面積と吹出口124の流路断面積との関係について説明する。
流入口122の流路断面積が吹出口124の流路断面積のn倍であった場合、
図4に示すように、車両1が速度v0[m/s]で走行すると、吹出口124から流出する空気の風速はn倍のnv0[m/s]となる。ここで、飛来物12aに作用する抗力Fは、係数kを用いて、以下の式で計算される。
【0023】
F=(Cd×s×ρ×v
2)/(2×g)=k×s×v
2
但し、k=(Cd×ρ)/(2×g)
ここで、Cdは抗力係数、ρ[kg/s
3]は空気の密度で1.205、g[m/s
2]は重力加速度で9.8、sは飛来物12aの面積である。抗力係数Cdはレイノルズ数Reの関数で、レイノルズ数Reは、Re=(v×ρ×L)/η で表わされる。η[kg/ms]は、空気の粘性率で18.2×10
−6、L[m]は飛来物12aの大きさである。
【0024】
また、車両1が速度v0で走行すると、飛来物12aはカメラ部111に相対的に速度v0で接近してくると考えられる。ここで、鉛直方向30及び車幅方向31に直交する、車両1の進行方向(x方向)における吹出口124の長さつまり厚さをw[m]、吹出口124と赤外線窓112との間の距離をl(英子文字エル)[m]とすると、
図5に示すように、飛来物12aが吹出口124から風を受けている時間t0[s]、及び赤外線窓112に到達するまでの時間t1[s]は、それぞれ、
t0=w/v0、 t1=l/v0 となる。
【0025】
図5の横軸は、飛来物12aが吹出口124からの風を受け始める時刻を0とした経過時間であり、縦軸は飛来物12aの、鉛直方向30に相当するy軸の下方向への速度を表す。ここで、重力を無視した場合、飛来物12aのy軸の下方向への速度は、吹出口124から風を受けている時間t0の間は加速度a[n/s
2]で増加し、赤外線窓112に到達するまでの時間t1の間は一定速度vyとなる。
【0026】
ここで飛来物12aの質量をm[kg]、吹出口124からの風圧をFとすると、加速度a及び速度vyは、
a=F/m、 vy=a×t0=(F×w)/(m×v0) となる。
したがって、飛来物12aが赤外線窓112に到達するまでにy軸方向に移動する距離Li[m]は、
図5に示すS1とS2との面積の和になる。よって、
S1=(1/2)×vy×t0=(F×w
2)/(2×m×v0
2)
S2=vy×t1=(F×w×l)/(m×v0
2)
Li=S1+S2
=((F×w
2)/(2×m×v0
2))+((F×w×l)/(m×v0
2))
=(F×w×(w+2×l))/(2×m×v0
2)
=(k×s×n
2×w×(w+2×l))/(2×m)
となる。
【0027】
この距離Liが赤外線窓112の半径ri[m]よりも大きければ、飛来物12aは、赤外線窓112に付着しない。よって、以下の(1)式が成立するように、赤外線窓112の半径ri、吹出口124の厚さw、距離l、流入口122と吹出口124との流路断面積比nを決定すればよい。
【0028】
ri<(k×s×n
2×w×(w+2×l))/(2×m) …(1)
【0029】
以下では、一例としての具体的値を用いて、上述の流路断面積比nの説明を行う。
車両1の速度v0を10m/s(36km/h)、飛来物12aが直径L=1mm(半径r=0.5mm)の球体の石とした場合、レイノルズ数Reは、
Re=(v×ρ×L)/η
=(10×1.205×1×10
−3)/(18.2×10
−6)
=6.62×10
2
と計算され、そのときの抗力係数Cdは、約0.5となる。よって、係数kは、
k=(Cd×ρ)/(2g)
=(0.5×1.205)/(2×9.8)
=0.0307 となる。
【0030】
また、飛来物12aを球体の石と想定した場合、石の比重は2.6であることから、飛来物12aの体積V[m
3]及び質量m[kg]は、下記のように求まる。
V=(4/3)×π×r
3
=(4/3)×(3.14)×(0.5×10
−3)
3
=5.24×10
−10
m=5.24×10
−10×2.6
=1.36×10
−9
【0031】
また、一例として、赤外線窓112の半径riを10mm、吹出口124の厚さwを5mm、吹出口124と赤外線窓112との間の距離lを50mmとすると、飛来物12aの面積s、及び、上述の計算式における項 k×s×w×(w+2×l)は、
s=πr
2
=(3.14)×(0.5×10
−3)
3
=7.85×10
−7
k×s×w×(w+2×l)=0.0307×7.85×10
−7×5×10
−3×(5×10
−3+2×50×10
−3)
=1.26×10
−11
となる。
【0032】
上述の(1)式、及び以上の結果から、流入口122と吹出口124との流路断面積比nは、
n>√((2×m×ri)/(k×s×w×(w+2×l)))
=√((2×1.36×10
−9×10×10
−3)/(1.26×10
−11))
=√2.15
=1.47
となる。
【0033】
よって、流入口122の流路断面積は、吹出口124の1.47倍以上であれば、直径1mmまでの大きさの飛来物12aを赤外線窓112に付着させることなく、吹き飛ばすことが可能となる。
また、n>2.07になるように流入口122と吹出口124との流路断面積比を選択することで、直径が2mmまでの大きさの石の飛来物12aを吹き飛ばすことが可能となる。さらにnの値が大きくなるように流入口122と吹出口124の流路断面積比を選択することで、さらに大きな飛来物12aも吹き飛ばすことが可能になる。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態1における赤外線カメラ装置101によれば、狭小部123を有する付着防止部120を備えたことで、従来に比べてさらに赤外線透過部110つまり本実施の形態1では赤外線窓112の保護を図ることができる。
【0035】
実施の形態2.
図6は、実施の形態2における赤外線カメラ装置102を示すと共に、この赤外線カメラ装置102を搭載した、自動車である車両1について、特に車両1における赤外線カメラ装置102の設置部分について示している。ここで赤外線カメラ装置102は、実施の形態1における赤外線カメラ装置101に対して加振装置140を備えた点でのみ相違し、その他の構成部分については同じである。また、車両1について相違する構成部分はない。したがって以下では、主にこの相違部分について説明を行い、同一の構成部分についての説明は省略する。
【0036】
本実施の形態2における赤外線カメラ装置102においても、付着防止部120の胴体部材121は、狭小部123を有しており、上述したように、狭小部123を通過できないような大きさの飛来物12bは、狭小部123にて制動され流入口122から外部へ排出される。
しかしながら、飛来物12bが勢い良くテーパー形状部分121aに進入した場合、飛来物12bが狭小部123に引っ掛かり捕捉され、落下しない可能性も考えられる。そこで本実施の形態2の赤外線カメラ装置102では、テーパー形状部分121aに振動を与える加振装置140を付着防止部120の外壁に設けた。加振装置140として、既存の振動装置が使用可能である。本実施の形態2では加振装置140は、
図6に示すように、狭小部123寄りに位置して、テーパー形状部分121aの側壁127に取り付けられている。
【0037】
加振装置140による振動は、テーパー形状部分121aに対して常時で、連続的あるいは間欠的に作用させてもよい。また例えば、エンジン始動時あるいは停止時など、規定のタイミングで作用させてもよい。さらには、付着防止部120に設置したセンサによって、飛来物12bが狭小部123に挟まったことを検出し、検出に応じて加振装置140を作動させてもよい。
【0038】
このような構成を有する本実施の形態2における赤外線カメラ装置102は、実施の形態1の赤外線カメラ装置101における効果を奏することができ、さらに、加振装置140によって狭小部123から飛来物12bを強制的に排除することができる。よって、狭小部123への飛来物12bの詰まりを防止することができ、さらに赤外線透過部110の保護を図ることが可能となる。
【0039】
実施の形態3.
図7は、実施の形態3における赤外線カメラ装置103を示すと共に、この赤外線カメラ装置103を搭載した、自動車である車両1について、特に車両1における赤外線カメラ装置103の設置部分について示している。ここで赤外線カメラ装置103は、実施の形態1における赤外線カメラ装置101に対して導振部材142を備えた点でのみ相違し、その他の構成部分については同じである。また、車両1について相違する構成部分はない。したがって以下では、主にこの相違部分について説明を行い、同一の構成部分についての説明は省略する。
【0040】
実施の形態3における赤外線カメラ装置103は、加振装置140に代えて、あるいは加振装置140と共に、車両1のエンジン23の振動をテーパー形状部分121aに伝える導振部材142を設ける。導振部材142の一端はエンジン23に接続され、他端はテーパー形状部分121aにおける例えば側壁127に接続される。
導振部材142を設けることで、エンジン23の振動を付着防止部120に導くことができ、狭小部123から飛来物12bを強制的に排除することができ、狭小部123への飛来物12bの詰まり防止という効果が得られる。また、導振部材142を含む構成では、エンジン23の稼働中は常に付着防止部120を振動させることができ、加振装置140を設けない場合でも飛来物12bの除去が可能であり、また加振装置140を設けた場合でもエンジン23の稼働中では加振装置140を作動させる必要がないことから省エネルギーにて飛来物12bの除去が可能という効果がある。
【0041】
上述した各実施の形態を組み合わせた構成を採ることも可能であり、また、異なる実施の形態に示される構成部分同士を組み合わせることも可能である。