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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226793(P2017-226793A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】内燃機関用潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/08 20060101AFI20171201BHJP
   C10M 159/22 20060101ALI20171201BHJP
   C10M 129/54 20060101ALI20171201BHJP
   C10M 159/24 20060101ALI20171201BHJP
   C10M 135/10 20060101ALI20171201BHJP
   C10M 135/18 20060101ALI20171201BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 30/04 20060101ALN20171201BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20171201BHJP
【FI】
   C10M141/08
   C10M159/22
   C10M129/54
   C10M159/24
   C10M135/10
   C10M135/18
   C10N10:04
   C10N10:12
   C10N20:00 Z
   C10N20:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:04
   C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2016-125467(P2016-125467)
(22)【出願日】2016年6月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】楠原 慎太郎
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB24C
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BG06C
4H104BG10C
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB06C
4H104DB07C
4H104EA02A
4H104EA20Z
4H104FA02
4H104FA06
4H104LA02
4H104LA20
4H104PA41
4H104PA44
(57)【要約】
【課題】LSPI抑制能および清浄化性能を確保するとともに、省燃費性能を向上させることが可能な内燃機関用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】(A)100℃における動粘度が2〜5mm/sである潤滑油基油と、(B)(B1)Caを含有する金属系清浄剤と(B2)Mgを含有する金属系清浄剤とを含む金属系清浄剤を、組成物全量基準でCa量として500〜2500質量ppmかつMg量として100〜1000質量ppmと、(C)上記(B)成分の少なくとも一部を構成してもよい、油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有添加剤を、組成物全量基準でB量として50〜1000質量ppmと、(D)油溶性有機Mo化合物を、組成物全量基準でMo量として100〜2000質量ppmとを含み、組成物中のB含有量(MB)のMg含有量(Mg)に対する質量比(MB/Mg)が0.5〜10である、内燃機関用潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)100℃における動粘度が2〜5mm/sである潤滑油基油と、
(B)(B1)カルシウムを含有する金属系清浄剤と(B2)マグネシウムを含有する金属系清浄剤とを含む金属系清浄剤を、組成物全量基準でカルシウム量として500〜2500質量ppmかつマグネシウム量として100〜1000質量ppmと、
(C)前記(B)成分の少なくとも一部を構成してもよい、油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有添加剤を、組成物全量基準でホウ素量として50〜1000質量ppmと、
(D)油溶性有機モリブデン化合物を、組成物全量基準でモリブデン量として100〜2000質量ppmとを含み、
組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する質量比(MB/Mg)が0.5〜10であり、且つ、
下記(i)〜(iii)の要件:
(i)組成物中のホウ素含有量が、組成物全量基準で270質量ppm以上である;
(ii)前記(C)成分が、前記(B1)成分および/または前記(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよい、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を含む;
(iii)組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する前記質量比(MB/Mg)が0.8以上である、
からなる群から選ばれる1つ以上の要件を満たす、内燃機関用潤滑油組成物。
【請求項2】
前記(C)成分が、ホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートを含む、
請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
前記(B)成分が、過塩基性マグネシウムスルホネートを含む、
請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
前記(D)成分が、モリブデンジチオカーバメートを組成物全量基準でモリブデン量として100〜2000質量ppm含む、
請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
150℃におけるHTHS粘度が1.9〜2.7mPa/sである、
請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
150℃におけるHTHS粘度が1.9〜2.4mPa/sである、
請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
250℃におけるNOACK蒸発量が15質量%以下である、
請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用内燃機関、特に自動車用ガソリンエンジンの燃費低減を目的として、従来の自然吸気エンジンを、過給機を備えたより排気量の低いエンジン(過給ダウンサイジングエンジン)で置き換えることが提案されている。過給ダウンサイジングエンジンによれば、過給機を備えることにより、出力を維持しながら排気量を低減し、省燃費化を図ることが可能である。
【0003】
その一方で、過給ダウンサイジングエンジンにおいては、低回転域でトルクを高めていくと、予定されたタイミングよりも早くシリンダ内で着火が起きる現象(LSPI:Low Speed Pre-Ignition)が起きる場合がある。LSPIが起きるとエネルギー損失が増え、燃費改善および低速トルク向上の制約となる。LSPIの発生にはエンジン油の影響が疑われている。最近、LSPIを抑制しつつ清浄性能を確保するために、Ca系清浄剤とMg系清浄剤とを併用するエンジン油が提案されているが、そのようなエンジン油の省燃費性能は担保できていないか、或いは不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−140572号公報
【特許文献2】特開2013−159734号公報
【特許文献3】国際公開2015/114920号パンフレット
【特許文献4】国際公開2015/171292号パンフレット
【特許文献5】国際公開2015/171978号パンフレット
【特許文献6】国際公開2015/171980号パンフレット
【特許文献7】国際公開2015/171981号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、LSPI抑制能および清浄化性能を確保するとともに、省燃費性能を向上させることが可能な内燃機関用潤滑油組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物は、(A)100℃における動粘度が2〜5mm/sである潤滑油基油と、(B)(B1)カルシウムを含有する金属系清浄剤と(B2)マグネシウムを含有する金属系清浄剤とを含む金属系清浄剤を、組成物全量基準でカルシウム量として500〜2500質量ppmかつマグネシウム量として100〜1000質量ppmと、(C)上記(B)成分の少なくとも一部を構成してもよい、油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有添加剤を、組成物全量基準でホウ素量として50〜1000質量ppmと、(D)油溶性有機モリブデン化合物を、組成物全量基準でモリブデン量として100〜2000質量ppmとを含み、組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する質量比(MB/Mg)が0.5〜10であり、且つ、下記(i)〜(iii)の要件:
(i)組成物中のホウ素含有量が、組成物全量基準で270質量ppm以上である;
(ii)上記(C)成分が、上記(B1)成分および/または上記(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよい、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を含む;
(iii)組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する上記質量比(MB/Mg)が0.8以上である、
からなる群から選ばれる1つ以上の要件を満たすことを特徴とする。
【0007】
本明細書において、「100℃における動粘度」とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を意味する。「150℃におけるHTHS粘度」とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を意味する。
(C)成分について、ホウ素含有添加剤が「(B)成分の少なくとも一部を構成してもよい」とは、当該ホウ素含有添加剤が(B)成分の少なくとも一部を構成してもよく、(B)成分に該当しない添加剤であってもよいことを意味する。
要件(ii)について、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤が「(B1)成分および/または(C1)成分の少なくとも一部を構成してもよい」とは、当該金属系清浄剤が(B1)成分の少なくとも一部を構成してもよく、(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよく、(B1)成分の少なくとも一部および(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよく、(B1)成分および(B2)成分のいずれにも該当しない金属系清浄剤であってもよいことを意味する。要件(ii)が満たされるとき、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤は、(C)成分の含有量と(B)成分の含有量との両方に寄与する。
要件(iii)が満たされるとき、組成物の質量比MB/Mgの範囲は、0.5〜10と、要件(iii)に規定される範囲「0.8以上」との論理積、すなわち0.8〜10である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の内燃機関用潤滑油組成物によれば、LSPI抑制能および清浄化性能を確保するとともに、省燃費性能を向上させることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。なお、特に断らない限り、数値A及びBについて「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。また「又は」及び「若しくは」の語は、特に断りのない限り論理和を意味するものとする。
【0010】
<(A)潤滑油基油>
本発明の潤滑油組成物においては、基油として、100℃における動粘度が2〜5mm/sである潤滑油基油(以下において「本実施形態に係る潤滑油基油」ということがある。)が用いられる。
【0011】
本実施形態に係る潤滑油基油としては、例えば、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理から選ばれる1種または2種以上の組み合わせにより精製したパラフィン系鉱油、およびノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油、ならびにこれらの混合物などのうち、100℃における動粘度が2〜8mm/sであり、かつ芳香族含有量が10質量%以下であるものが挙げられる。
【0012】
本実施形態に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0013】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0014】
更に、本実施形態に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解基油
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または、当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化基油。脱ろう工程としては接触脱ろう工程を経て製造された基油が好ましい。
【0015】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を適当な段階で更に行ってもよい。
【0016】
また、上記水素化分解・水素化異性化に使用される触媒は特に制限されないが、分解活性を有する複合酸化物(例えば、シリカアルミナ、アルミナボリア、シリカジルコニアなど)または当該複合酸化物の1種類以上を組み合わせてバインダーで結着させたものを担体とし、水素化能を有する金属(例えば周期律表第VIa族の金属や第VIII族の金属などの1種類以上)を担持させた水素化分解触媒、あるいはゼオライト(例えばZSM−5、ゼオライトベータ、SAPO−11など)を含む担体に第VIII族の金属のうち少なくとも1種類以上を含む水素化能を有する金属を担持させた水素化異性化触媒が好ましく使用される。水素化分解触媒および水素化異性化触媒は、積層または混合などにより組み合わせて用いてもよい。
【0017】
水素化分解・水素化異性化の際の反応条件は特に制限されないが、水素分圧0.1〜20MPa、平均反応温度150〜450℃、LHSV0.1〜3.0hr−1、水素/油比50〜20000scf/bとすることが好ましい。
【0018】
本実施形態に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は2.0〜5.0mm/sであり、好ましくは4.5mm/s以下、さらに好ましくは4.4mm/s以下、特に好ましくは4.3mm/s以下であり、また好ましくは3.0mm/s以上、より好ましくは3.5mm/s以上、さらに好ましくは3.8mm/s以上、特に好ましくは4.0mm/s以上である。潤滑油基油の100℃における動粘度が5.0mm/sを超える場合には、潤滑油組成物の低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、2.0mm/s未満の場合には潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0019】
本実施形態に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは40mm/s以下、より好ましくは30mm/s以下、さらに好ましくは25mm/s以下、特に好ましくは22mm/s以下、最も好ましくは20mm/s以下である。一方、当該40℃における動粘度は、好ましくは10mm/s以上、より好ましくは14mm/s以上、さらに好ましくは16mm/s以上、特に好ましくは18mm/s以上、最も好ましくは19mm/s以上である。潤滑油基油の40℃における動粘度が40mm/sを超える場合には、潤滑油組成物の低温粘度特性が悪化し、また十分な省燃費性が得られないおそれがあり、10mm/s未満の場合には潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0020】
なお本明細書において「40℃における動粘度」とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を意味する。
【0021】
本実施形態に係る潤滑油基油の粘度指数は、100以上であることが好ましい。より好ましくは110以上、さらに好ましくは120以上、特に好ましくは125以上、最も好ましくは130以上である。粘度指数が100未満であると、潤滑油組成物の粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化するだけでなく、摩擦係数が上昇する傾向にあり、また、摩耗防止性が低下する傾向にある。なお、本明細書において粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0022】
本実施形態に係る潤滑油基油の15℃における密度(ρ15)は、好ましくは0.860以下、より好ましくは0.850以下、さらに好ましくは0.840以下、特に好ましくは0.835以下である。なお、本明細書において15℃における密度とは、JIS K 2249−1995に準拠して15℃において測定された密度を意味する。
【0023】
本実施形態に係る潤滑油基油の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下、特に好ましくは−17.5℃以下、最も好ましくは−20.0℃以下である。流動点が上記上限値を超えると、潤滑油組成物全体の低温流動性が低下する傾向にある。なお、本明細書において流動点とは、JIS K 2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0024】
本実施形態に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、その原料の硫黄分の含有量に依存する。例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや精ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本実施形態に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。
【0025】
本実施形態に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は、好ましくは10質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が10質量ppmを超えると、熱・酸化安定性が低下する傾向にある。なお、本明細書において窒素分とは、JIS K 2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0026】
本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、さらに好ましくは85以上であり、また通常99以下、好ましくは95以下、より好ましくは94以下である。潤滑油基油の%Cが上記下限値未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0027】
本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、2以下であることが好ましく、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0028】
本実施形態に係る潤滑油基油の%Cは、好ましくは30以下であり、より好ましくは25以下であり、さらに好ましくは20以下であり、特に好ましくは15以下である。また潤滑油基油の%Cは、好ましくは1以上であり、より好ましくは4以上である。潤滑油基油の%Cが上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にある。また、%Cが上記下限値未満であると、添加剤の溶解性が低下する傾向にある。
【0029】
本明細書において%C、%Cおよび%Cとは、それぞれASTM D 3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、ナフテン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。つまり、上述した%C、%Cおよび%Cの好ましい範囲は上記方法により求められる値に基づくものであり、例えばナフテン分を含まない潤滑油基油であっても、上記方法により求められる%Cは0を超える値を示し得る。
【0030】
本実施形態に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、好ましくは95質量%以上、より好ましくは99質量%以上であり、また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、好ましくは35質量%以下であり、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、更に好ましくは21質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上させることができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。なお本明細書において飽和分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。
【0031】
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記ASTM D 2007−93に記載された方法の他、ASTM D 2425−93に記載の方法、ASTM D 2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0032】
本実施形態に係る潤滑油基油における芳香族分は、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、特に好ましくは3質量%以下、最も好ましくは2質量%以下であり、0質量%であってもよく、また好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、特に好ましくは1.5質量%以上である。芳香族分の含有量が上記上限値を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また、本実施形態に係る潤滑油基油は芳香族分を含有しないものであってもよいが、芳香族分の含有量を上記下限値以上とすることにより、添加剤の溶解性を更に高めることができる。
【0033】
なお、本明細書において芳香族分とは、ASTM D 2007−93に準拠して測定された値を意味する。芳香族分には、通常、アルキルベンゼン、アルキルナフタレンの他、アントラセン、フェナントレンおよびこれらのアルキル化物、更にはベンゼン環が四環以上縮環した化合物、ピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ原子を有する芳香族化合物などが含まれる。
【0034】
本実施形態に係る潤滑油基油として合成系基油を用いてもよい。合成系基油としては、100℃における動粘度が2.0〜5.0mm/sである、ポリα−オレフィン及びその水素化物、イソブテンオリゴマー及びその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル、並びにこれらの混合物等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは炭素数6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化生成物が挙げられる。
【0035】
ポリα−オレフィンの製法は特に制限されないが、例えば、三塩化アルミニウムまたは三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸またはエステルとの錯体を含む触媒のような重合触媒の存在下、α−オレフィンを重合する方法が挙げられる。
【0036】
本実施形態に係る潤滑油基油は、基油全体として100℃における動粘度が2.0〜5.0mm/sである限りにおいて、単一の基油成分からなってもよく、複数の基油成分を含んでもよい。
【0037】
<(B)金属系清浄剤>
本発明の潤滑油組成物は、(B)金属系清浄剤(以下において「(B)成分」ということがある。)として、(B1)カルシウムを含有する金属系清浄剤(以下において「(B1)成分」ということがある。)と、(B2)マグネシウムを含有する金属系清浄剤(以下において「(B2)成分」ということがある。)とを含有する。(B)成分としては例えば、フェネート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、サリシレート系清浄剤を挙げることができる。また、これら金属系清浄剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
フェネート系清浄剤としては、以下の式(1)で示される構造を有する化合物のアルカリ土類金属塩の過塩基性塩を好ましく例示できる。アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、これらの中でもマグネシウムまたはカルシウムが好ましい。
【0039】
【化1】
【0040】
式(1)中、Rは炭素数6〜21の直鎖もしくは分岐鎖、飽和もしくは不飽和のアルキル基又はアルケニル基を表し、mは重合度であって1〜10の整数を表し、Aはスルフィド(−S−)基またはメチレン(−CH−)基を表し、xは1〜3の整数を表す。なおRは2種以上の異なる基の組み合わせであってもよい。
【0041】
式(1)におけるRの炭素数は、好ましくは9〜18、より好ましくは9〜15である。Rの炭素数が6未満では基油に対する溶解性が劣るおそれがあり、一方、Rの炭素数が21を超える場合は製造が難しく、また耐熱性が劣るおそれがある。
【0042】
式(1)における重合度mは、好ましくは1〜4である。重合度mがこの範囲内であることにより、耐熱性を高めることができる。
【0043】
スルホネート系清浄剤としては、アルキル芳香族化合物をスルホン化することによって得られるアルキル芳香族スルホン酸のアルカリ土類金属塩またはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。アルキル芳香族化合物の重量平均分子量は好ましくは400〜1500であり、より好ましくは700〜1300である。
アルカリ土類金属としては、例えば、マグネシウム、バリウム、カルシウムが挙げられ、マグネシウム又はカルシウムが好ましい。アルキル芳香族スルホン酸としては、例えば、いわゆる石油スルホン酸や合成スルホン酸が挙げられる。ここでいう石油スルホン酸としては、鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものや、ホワイトオイル製造時に副生する、いわゆるマホガニー酸等が挙げられる。また、合成スルホン酸の一例としては、洗剤の原料となるアルキルベンゼン製造プラントにおける副生成物を回収すること、もしくは、ベンゼンをポリオレフィンでアルキル化することにより得られる、直鎖状または分枝状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものを挙げることができる。合成スルホン酸の他の一例としては、ジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したものを挙げることができる。また、これらアルキル芳香族化合物をスルホン化する際のスルホン化剤としては、特に制限はなく、例えば発煙硫酸や無水硫酸を用いることができる。
【0044】
サリシレート系清浄剤としては、金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を好ましく例示できる。ここでいう金属サリシレートとしては、以下の式(2)で表される化合物を好ましく例示できる。
【0045】
【化2】
【0046】
上記式(2)中、Rはそれぞれ独立に炭素数14〜30のアルキル基またはアルケニル基を表し、Mはアルカリ土類金属を表し、nは1又は2を表す。Mとしてはカルシウムまたはマグネシウムが好ましい。nとしては1が好ましい。なおn=2であるとき、Rは異なる基の組み合わせであってもよい。
【0047】
サリシレート系清浄剤の好ましい一形態としては、上記式(2)においてn=1であるアルカリ土類金属サリシレートまたはその塩基性塩もしくは過塩基性塩を挙げることができる。
【0048】
アルカリ土類金属サリシレートの製造方法は特に制限されるものではなく、公知のモノアルキルサリシレートの製造方法等を用いることができる。例えば、フェノールを出発原料として、オレフィンを用いてアルキレーションし、次いで炭酸ガス等でカルボキシレーションして得たモノアルキルサリチル酸、あるいは、サリチル酸を出発原料として、当量の上記オレフィンを用いてアルキレーションして得られたモノアルキルサリチル酸等に、アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基を反応させること、又は、これらのモノアルキルサリチル酸等を一旦ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としてからアルカリ土類金属塩と金属交換させること等により、アルカリ土類金属サリシレートを得ることができる。
【0049】
金属系清浄剤は、炭酸塩(例えば炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩。)で過塩基化されていてもよく、ホウ酸塩(例えばホウ酸カルシウムやホウ酸マグネシウム等のアルカリ土類金属ホウ酸塩。)で過塩基化されていてもよい。
アルカリ土類金属炭酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、例えば、炭酸ガスの存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。
アルカリ土類金属ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤を得る方法は特に限定されるものではないが、ホウ酸もしくは無水ホウ酸またはホウ酸塩の存在下で、金属系清浄剤(例えばアルカリ土類金属フェネート、アルカリ土類金属スルホネート、アルカリ土類金属サリシレート等。)の中性塩をアルカリ土類金属の塩基(例えばアルカリ土類金属の水酸化物、酸化物等。)と反応させることにより得ることができる。
【0050】
(B1)成分としては例えば、カルシウムフェネート清浄剤、カルシウムスルホネート清浄剤、若しくはカルシウムサリシレート清浄剤、又はこれらの組み合わせを用いることができる。(B1)成分は少なくとも過塩基性カルシウムサリシレート清浄剤を含むことが好ましい。(B1)成分は炭酸カルシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸カルシウムで過塩基化されていてもよい。
【0051】
(B2)成分としては例えば、マグネシウムフェネート清浄剤、マグネシウムスルホネート清浄剤、若しくはマグネシウムサリシレート清浄剤、又はこれらの組み合わせを用いることができる。(B2)成分は過塩基性マグネシウムスルホネート清浄剤を含むことが好ましい。(B2)成分は炭酸マグネシウムで過塩基化されていてもよく、ホウ酸マグネシウムで過塩基化されていてもよい。
【0052】
(B)成分の金属比は以下の式に従って計算される値であり、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、また好ましくは10以下、より好ましくは3.0以下である。
(B)成分の金属比=(B)成分の金属含有量(mol)/(B)成分のせっけん基含有量(mol)
後述する(C)成分としてホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートを含む場合、該ホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートの金属比は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.5以上であり、また好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2.0以下である。
【0053】
潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、カルシウム量として500〜2500質量ppmであり、好ましくは1000質量ppm以上、より好ましくは1200質量ppm以上であり、また好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1600質量ppm以下である。カルシウム量としての含有量が2500質量ppmを超えると、LSPIが発生しやすくなる。またカルシウム量としての含有量が上記下限値以上であることにより、エンジン内部の清浄性を高く保つことができるとともに、塩基価維持性も向上する。
【0054】
潤滑油組成物中の(B)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、マグネシウム量として100〜1000質量ppmであり、好ましくは150質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上であり、また好ましくは800質量ppm以下、より好ましくは500質量ppm以下である。マグネシウム量としての含有量が上記下限値以上であることにより、LSPIを抑制しながらもエンジン清浄性を高めることができる。またマグネシウム量としての含有量が上記上限値以下であることにより、摩擦係数の上昇を抑制できる。
【0055】
<(C)ホウ素含有添加剤>
本発明の潤滑油組成物は、(C)油溶性又は分散性の油中で安定なホウ素含有添加剤(以下において単に「(C)成分」ということがある。)を含有する。(C)成分は、上記(B)成分の少なくとも一部を構成してもよい。
【0056】
(C)成分としては、(C1)ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤(以下において単に「(C1)成分」ということがある。)、及び/又は、(C2)ホウ素化変性無灰分散剤(以下において単に「(C2)成分」ということがある。)を好ましく用いることができ、(C)成分が少なくとも(C1)成分を含むことが好ましい。
【0057】
潤滑油組成物が(C1)成分を含む場合、該(C1)成分は上記(B)成分の少なくとも一部を構成する。(C1)成分としては、例えばホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属フェネート、ホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレート、ホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属スルホネート等を用いることができ、これらの中でもホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートを好ましく用いることができる。(C1)成分は上記(B1)成分の少なくとも一部を構成してもよく、上記(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよく、上記(B1)成分の少なくとも一部および上記(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよく、上記(B1)成分および上記(B2)成分のいずれにも該当しなくてもよい。
【0058】
(C2)成分としては、例えば窒素含有無灰分散剤のホウ素化変性物を好ましく用いることができる。ホウ素化変性する窒素含有無灰分散剤としては、例えば、以下の(C2a’)〜(C2c’)から選ばれる1種以上の窒素含有無灰分散剤を用いることができる。
(C2a’)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド(以下において「無灰分散剤(C2a’)」ということがある。)、
(C2b’)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン(以下において「無灰分散剤(C2b’)」ということがある。)、
(C2c’)アルキル基もしくはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン(以下において「無灰分散剤(C2c’)」ということがある。)。
以下において、無灰分散剤(C2a’)のホウ素化変性物を「(C2a)成分」といい、無灰分散剤(C2b’)のホウ素化変性物を「(C2b)成分」といい、無灰分散剤(C2c’)のホウ素化変性物を「(C2c)成分」ということがある。
これらの中でも、(C2a)成分を特に好ましく用いることができる。
【0059】
無灰分散剤(C2a’)としては、下記式(3)または式(4)で表される化合物を例示できる。
【0060】
【化3】
【0061】
式(3)中、Rは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を示し、hは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0062】
式(4)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を示し、異なる基の組み合わせであってもよい。R及びRは特に好ましくはポリブテニル基である。また、iは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。R及びRの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0063】
式(3)、式(4)におけるR〜Rの炭素数が上記下限値以上であることにより、潤滑油基油に対する良好な溶解性を得ることができる。一方、R〜Rの炭素数が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の低温流動性を高めることができる。
【0064】
式(3)及び式(4)におけるアルキル基またはアルケニル基(R〜R)は直鎖状でも分枝状でもよく、好ましくは、例えば、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィンのオリゴマーや、エチレンとプロピレンとのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基を挙げることができる。なかでも慣用的にポリイソブチレンと呼ばれるイソブテンのオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基またはアルケニル基や、ポリブテニル基が最も好ましい。
式(3)及び式(4)におけるアルキル基またはアルケニル基(R〜R)の好適な数平均分子量は800〜3500である。
【0065】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドには、ポリアミン鎖の一方の末端のみに無水コハク酸が付加した、式(3)で表される、いわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミン鎖の両末端に無水コハク酸が付加した、式(4)で表される、いわゆるビスタイプのコハク酸イミドとが包含される。本発明の潤滑油組成物には、モノタイプのコハク酸イミド及びビスタイプのコハク酸イミドのいずれが含まれていてもよく、それらの両方が混合物として含まれていてもよい。
【0066】
アルキル基またはアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミドの製法は、特に制限されるものではなく、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸を、ポリアミンと反応させることにより得ることができる。ここで、ポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミンを例示できる。
【0067】
無灰分散剤(C2b’)としては、下記式(5)で表される化合物を例示できる。
【0068】
【化4】
【0069】
式(5)中、Rは炭素数40〜400のアルキル基またはアルケニル基を表し、jは1〜5、好ましくは2〜4の整数を表す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0070】
無灰分散剤(C2b’)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、又はエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを、フェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドと、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンとをマンニッヒ反応により反応させる方法が挙げられる。
【0071】
無灰分散剤(C2c’)としては、下記式(6)で表される化合物を例示できる。
【0072】
【化5】
【0073】
式(6)中、Rは炭素数40〜400以下のアルキル基またはアルケニル基を表し、kは1〜5、好ましくは2〜4の整数を表す。Rの炭素数は好ましくは60以上であり、また好ましくは350以下である。
【0074】
無灰分散剤(C2c’)の製法は特に制限されるものではない。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテンまたはエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させる方法が挙げられる。
【0075】
(C2a)〜(C2c)成分、すなわち、無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)のホウ素化変性物は、例えば、無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)をホウ酸と反応させ、残存するアミノ基および/もしくはイミノ基の一部又は全部をホウ酸で中和またはアミド化することにより得ることができる。ホウ素化変性は後述する他の試薬による変性と組み合わせて行われていてもよい。
【0076】
潤滑油組成物中の(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、ホウ素量として50〜1000質量ppmであり、好ましくは190質量ppm以上、より好ましくは270質量ppm以上、特に好ましくは400質量ppm以上であり、また好ましくは800質量ppm以下である。(C)成分に由来するホウ素含有量が上記下限値以上であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。また(C)成分に由来するホウ素含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性能を維持することが可能となる。
【0077】
一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、(C)成分として少なくとも(C1)成分を含み、より好ましくは(C1)成分として少なくともホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートを含む。ホウ酸塩で過塩基化されたアルカリ土類金属サリシレートのアルカリ土類金属は、好ましくはカルシウム及び/又はマグネシウムである。
【0078】
潤滑油組成物が(C)成分として少なくとも(C1)成分を含む場合、(C1)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、ホウ素量として好ましくは200質量ppm以上、より好ましくは300質量ppm以上、特に好ましくは400質量ppm以上であり、また好ましくは700質量ppm以下である。(C1)成分に由来するホウ素含有量が上記範囲内であることにより、省燃費性を高めることが容易になる。
【0079】
他の一の好ましい実施形態において、潤滑油組成物は、(C)成分として(C1)成分および(C2)成分を含む。潤滑油組成物が(C)成分として(C1)成分および(C2)成分を含む場合、(C2)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、ホウ素量として好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは100質量ppm以上であり、また好ましくは400質量ppm以下である。(C2)成分に由来するホウ素含有量が上記範囲内であることにより、省燃費性能を高めることが容易になる。
【0080】
<(D)油溶性有機モリブデン化合物>
本発明の潤滑油組成物は、(D)油溶性有機モリブデン化合物(以下において「(D)成分」ということがある。)を、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として100〜2000質量ppm含有する。(D)成分としては、(D1)モリブデンジチオカーバメート(硫化モリブデンジチオカーバメート又は硫化オキシモリブデンジチオカーバメート。以下において「(D1)成分」ということがある。)を含有することが好ましい。
【0081】
(D1)成分としては、例えば次の式(7)で表される化合物を用いることができる。
【0082】
【化6】
【0083】
上記一般式(7)中、R〜R11は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数2〜24のアルキル基又は炭素数6〜24の(アルキル)アリール基、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基又は炭素数10〜15の(アルキル)アリール基である。アルキル基は第1級アルキル基、第2級アルキル基、第3級アルキル基のいずれでもよく、また直鎖でも分枝状でもよい。なお「(アルキル)アリール基」は「アリール基若しくはアルキルアリール基」を意味する。アルキルアリール基において、芳香環におけるアルキル基の置換位置は任意である。Y〜Yはそれぞれ独立に硫黄原子又は酸素原子であり、Y〜Yのうち少なくとも1つは硫黄原子である。
【0084】
(D1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物としては、例えば、モリブデンジチオホスフェート;モリブデン化合物(例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等。)と、硫黄含有有機化合物(例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等。)又はその他の有機化合物との錯体等;および、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等の、硫黄を含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。なお有機モリブデン化合物は、単核モリブデン化合物であってもよく、二核モリブデン化合物や三核モリブデン化合物等の多核モリブデン化合物であってもよい。
【0085】
また、(D1)成分以外の油溶性有機モリブデン化合物として、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることも可能である。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0086】
潤滑油組成物中の(D)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として100〜2000質量ppmであり、好ましくは500質量ppm以上、より好ましくは700質量ppm以上、特に好ましくは900質量ppm以上であり、また好ましくは1500質量ppm以下である。(D)成分の含有量が上記下限値未満の場合、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、潤滑油組成物の省燃費性および熱・酸化安定性が不十分となる傾向にある。一方、(D)成分の含有量が上記上限値を超える場合、含有量に見合う効果が得られず、また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が低下する傾向にある。
【0087】
(D)成分が(D1)成分を含む場合、(D1)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準でモリブデン量として、好ましくは300質量ppm以上、より好ましくは500質量ppm以上、さらに好ましくは600質量ppm以上、特に好ましくは700質量ppm以上であり、また好ましくは1200質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。モリブデン含有量が上記下限値以上であることにより、省燃費性、およびLSPI抑制能を高めることができる。またモリブデン含有量が上記上限値以下であることにより、潤滑油組成物の貯蔵安定性を高めることができる。
<無灰分散剤>
本発明の潤滑油組成物は、上記(C)成分に該当する無灰分散剤(すなわち上記(C2)成分)を含有してもよく、上記(C)成分に該当しない無灰分散剤を含有してもよく、その両方を含有してもよい。上記(C)成分に該当しない無灰分散剤の例としては、上記の無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)のほか、無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)のホウ素化変性物以外の誘導体を挙げることができる。
無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)の、ホウ素化変性物以外の誘導体としては、例えば、
(i)無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)に、脂肪酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸、炭素数2〜30のポリカルボン酸(例えばシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等。)、これらの無水物もしくはエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、又はヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを作用させたことにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている、含酸素有機化合物による変性物;
(ii)無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)にリン酸を作用させることにより、残存するアミノ基および/またはイミノ基の一部又は全部が中和またはアミド化されている、リン酸変性物;及び、
(iii)無灰分散剤(C2a’)〜(C2c’)に硫黄化合物を作用させることにより得られる、硫黄変性物、
を挙げることができる。これらの(i)〜(iii)の変性は組み合わせて行われてもよい。
【0088】
無灰分散剤の分子量には特に制限は無いが、好適な重量平均分子量は1000〜20000である。
【0089】
潤滑油組成物が無灰分散剤を含有する場合、無灰分散剤がホウ素を含むか否か(すなわち(C)成分の含有量に寄与するか否か)に関わらず、潤滑油組成物が含有する全ての無灰分散剤の合計の含有量は、潤滑油組成物全量基準で窒素分として、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは300質量ppm以上であり、さらに好ましくは400質量ppm以上、また好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1000質量ppm以下である。全無灰分散剤の含有量が上記下限値以上であることにより、潤滑油組成物の耐コーキング性(耐熱性)を十分に向上させることができる。また全無灰分散剤の含有量が上記上限値以下であることにより、省燃費性を高く維持することができる。
【0090】
<その他の添加剤>
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている他の添加剤を含有させることができる。そのような添加剤としては、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、酸化防止剤、無灰摩擦調整剤、摩耗防止剤または極圧剤、粘度指数向上剤または流動点降下剤、腐食防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、抗乳化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0091】
ジアルキルジチオリン酸亜鉛としては、例えば次の式(8)で表される化合物を用いることができる。
【0092】
【化7】
【0093】
式(8)中、R12〜R15は、それぞれ独立に炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基を表し、異なる基の組み合わせであってもよい。また、R12〜R15の炭素数は好ましくは3以上であり、また好ましくは12以下であり、より好ましくは8以下である。また、R12〜R15は、第1級アルキル基、第2級アルキル基、及び第3級アルキル基のいずれであってもよいが、第1級アルキル基もしくは第2級アルキル基またはそれらの組み合わせであることが好ましく、さらに第1級アルキル基と第2級アルキル基とのモル比(第1級アルキル基:第2級アルキル基)が、0:100〜30:70であることが好ましい。この比は分子内のアルキル鎖の組み合わせ比であっても良く、第1級アルキル基のみを有するZnDTPと第2級アルキル基のみを有するZnDTPとの混合比であっても良い。第2級アルキル基が主であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。
【0094】
上記ジアルキルジチオリン酸亜鉛の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、R12〜R15に対応するアルキル基を有するアルコールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和することにより合成することができる。
【0095】
潤滑油組成物にZnDTPを含有させる場合、その含有量は、組成物全量基準でリン量として、好ましくは600質量ppm以上、より好ましくは700質量ppm以上、特に好ましくは800質量ppm以上であり、また好ましくは1000質量ppm以下である。ZnDTPの含有量が上記下限値以上であることにより、酸化安定性を高めることができるだけでなく、LSPI抑制能を高めることができる。また、ZnDTPの含有量が上記上限値を超えると、排気ガス処理触媒の触媒被毒が著しくなり好ましくない。
【0096】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の公知の酸化防止剤を使用可能である。例としては、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミンなどのアミン系酸化防止剤、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)などのフェノール系酸化防止剤などを挙げることができる。
潤滑油組成物に酸化防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常5.0質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、また好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上である。
【0097】
無灰摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられている化合物を特に制限なく用いることができる。無灰摩擦調整剤としては、例えば、分子中に酸素原子、窒素原子、硫黄原子から選ばれる1種以上のヘテロ元素を含有する、炭素数6〜50の化合物が挙げられる。さらに具体的には、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基、分岐アルキル基、または分岐アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等の無灰摩擦調整剤等が挙げられる。
潤滑油組成物に無灰摩擦調整剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.3質量%以上であり、また、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0.8質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量が0.01質量%未満であると、その添加による摩擦低減効果が不十分となる傾向にあり、また2質量%を超えると、耐摩耗性添加剤などの効果が阻害されやすく、あるいは添加剤の溶解性が悪化する傾向にある。
【0098】
摩耗防止剤または極圧剤としては、摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる摩耗防止剤・極圧剤を特に制限なく使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。潤滑油組成物に摩耗防止剤(または極圧剤)を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。
【0099】
粘度指数向上剤としては、非分散型粘度指数向上剤や分散型粘度指数向上剤が使用可能であり、具体的には、非分散型又は分散型のポリメタクリレートやオレフィンコポリマー、あるいはポリイソブテン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ジエン共重合体及びその水素化物等が使用できる。これらの重量平均分子量は、一般に5,000〜1,000,000であるが、省燃費性能をより高めるために、重量平均分子量が100,000〜1,000,000、好ましくは200,000〜900,000、特に好ましくは400,000〜800,000である上記粘度指数向上剤を使用することが望ましい。なお、本発明の潤滑油組成物においては、省燃費性向上の観点から、下記一般式(9)で表される構造単位の割合が30〜90モル%、下記一般式(10)で表される構造単位の割合が0.1〜50モル%、炭化水素主鎖比率が0.18以下のポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤である粘度指数向上剤を特に好ましく用いることができる。なお本明細書において、ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤について「炭化水素主鎖比率」とは、当該ポリ(メタ)アクリレート系粘度指数向上剤の全炭素数中の、主鎖に由来する炭素数の割合(主鎖炭素数/全炭素数)を意味する。
【0100】
【化8】
【0101】
【化9】
【0102】
上記一般式(9)中、R16は水素又はメチル基であり、R17は炭素数6以下の直鎖状又は分枝状の炭化水素基であり、一般式(10)中、R18は水素又はメチル基であり、R19は炭素数16以上の直鎖状又は分枝状の炭化水素基である。
また、この粘度指数向上剤は、ディーゼルインジェクター法におけるPSSI(パーマネントシアスタビリティインデックス)が、30以下であることが好ましい。PSSIが30を超える場合にはせん断安定性が悪く、使用後の動粘度やHTHS粘度を一定以上に保つために、初期の省燃費性が悪化するおそれがある。
なお、ここでいう「ディーゼルインジェクター法におけるPSSI」とは、ASTM D6022−01(Standard Practice for Calculation of Permanent Shear Stability Index)に準拠し、ASTM D6278−02(Test Method for Shear Stability of Polymer Containing Fluids Using a European Diesel Injector Apparatus)に規定の方法により測定されたデータに基づき計算された、ポリマーの永久せん断安定性指数(Permanent Shear Stability Index)を意味する。
潤滑油組成物に粘度指数向上剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0質量%超20質量%以下である。具体的な含有量は、例えば潤滑油組成物が後述する望ましい粘度特性(動粘度、粘度指数、HTHS粘度)を備えるような含有量とすることができる。
【0103】
流動点降下剤の例としては、ポリメタクリレート系ポリマー等を挙げることができる。潤滑油組成物に流動点降下剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.01〜2質量%である。
【0104】
腐食防止剤としては、例えばベンゾトリアゾール系化合物、トリルトリアゾール系化合物、チアジアゾール系化合物、及びイミダゾール系化合物等の公知の腐食防止剤を使用可能である。潤滑油組成物に腐食防止剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0105】
防錆剤としては、例えば石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルキルスルホン酸塩、脂肪酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、脂肪酸セッケン、多価アルコール脂肪酸エステル、脂肪酸アミン、酸化パラフィン、アルキルポリオキシエチレンエーテル等の公知の防錆剤を使用可能である。潤滑油組成物に防錆剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0106】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール及びその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、並びにβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等の公知の金属不活性化剤を使用可能である。潤滑油組成物にこれらの金属不活性化剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜1質量%である。
【0107】
抗乳化剤としては、例えばポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等の公知の抗乳化剤を使用可能である。潤滑油組成物に抗乳化剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.005〜5質量%である。
【0108】
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコーン、及びフルオロアルキルエーテル等の公知の消泡剤を使用可能である。潤滑油組成物にこれらの消泡剤を含有させる場合、その含有量は、潤滑油組成物全量基準で、通常0.0001〜0.1質量%である。
【0109】
着色剤としては、例えばアゾ化合物等の公知の着色剤を使用可能である。
【0110】
<潤滑油組成物>
潤滑油組成物の100℃における動粘度は、4.0〜12mm/sであることが好ましく、より好ましくは9.3mm/s以下、特に好ましくは8.5mm/s以下であり、またより好ましくは5.0mm/s以上、さらに好ましくは5.5mm/s以上、特に好ましくは6.1mm/s以上である。潤滑油組成物の100℃における動粘度が4.0mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、12mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0111】
潤滑油組成物の40℃における動粘度は、4.0〜50mm/sであることが好ましく、より好ましくは40mm/s以下、特に好ましくは35mm/s以下であり、またより好ましくは15mm/s以上、さらに好ましくは18mm/s以上、特に好ましくは20mm/s以上である。潤滑油組成物の40℃における動粘度が4mm/s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、50mm/sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0112】
潤滑油組成物の粘度指数は、140〜400であることが好ましく、より好ましくは160以上、さらに好ましくは180以上、特に好ましくは200以上、最も好ましくは210以上である。潤滑油組成物の粘度指数が140未満の場合には、150℃におけるHTHS粘度を維持しながら省燃費性を向上させることが困難となるおそれがあり、さらには低温(例えば省燃費油の粘度グレードとして知られるSAE粘度グレード0W−Xに規定されるCCS粘度の測定温度である−35℃。)における粘度を低減させることが困難となるおそれがある。また、潤滑油組成物の粘度指数が400を超える場合には、蒸発性が悪化するおそれがあり、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合が発生するおそれがある。
【0113】
潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、好ましくは5.5mPa・s以下、より好ましくは5.0mPa・s以下、特に好ましくは4.8mPa・s以下であり、また好ましくは3.0mPa・s以上、より好ましくは3.5mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上である。本明細書において、100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。100℃におけるHTHS粘度が3.0mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、5.5mPa・sを超える場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0114】
潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、好ましくは2.7mPa・s以下、より好ましくは2.4mPa・s以下であり、また好ましくは1.9mPa・s以上、より好ましくは2.1mPa・s以上である。本明細書において、150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃におけるHTHS粘度が1.9mPa・s未満の場合には、潤滑性不足を来たすおそれがあり、2.7mPa・sを超える場合には十分な省燃費性能が得られないおそれがある。
【0115】
潤滑油組成物の蒸発損失量は、250℃におけるNOACK蒸発量として、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。潤滑油基油成分のNOACK蒸発量が30質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、粘度増加等の原因となるため好ましくない。なお本明細書においてNOACK蒸発量とは、ASTM D 5800に準拠して測定される潤滑油の蒸発量である。潤滑油組成物の250℃におけるNOACK蒸発量の下限は特に制限されるものではないが、通常5質量%以上である。
【0116】
潤滑油組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する質量比(MB/Mg)は、0.5〜10であり、好ましくは0.8以上であり、また好ましくは8以下である。質量比MB/Mgが上記下限値以上であることにより、省燃費性を高めることが可能になる。また質量比MB/Mgが上記上限値以下であることにより、省燃費性を維持することが可能となる。
【0117】
本発明の潤滑油組成物は、以下の(i)〜(iii)のうち1つ以上の要件を満たす。
(i)組成物中のホウ素含有量が、組成物全量基準で270質量ppm以上である。
(ii)上記(C)成分が、ホウ酸塩で過塩基化された金属系清浄剤(上記(B1)成分および/または上記(B2)成分の少なくとも一部を構成してもよい。)を含む。
(iii)組成物中のホウ素含有量(MB)のマグネシウム含有量(Mg)に対する上記質量比(MB/Mg)が0.8以上である。
上記(i)〜(iii)のうち少なくとも1つの要件が満たされることにより、省燃費性を高めることが可能になる。
【実施例】
【0118】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0119】
<実施例1〜8、比較例1〜5>
以下に示す基油および添加剤を用いて、本発明の潤滑油組成物(実施例1〜8)及び比較用の潤滑油組成物(比較例1〜5)をそれぞれ調製した。各組成物の組成を表2に示す。表2中、「mass%」は組成物全量を基準とする質量%を表し、「mass ppm」は組成物全量を基準とする質量ppmを表し、「mass ratio」は質量比を表す。
【0120】
(基油)
A−1: 表1に示す性状を有する水素化分解基油である。表1中、「mass ppm」は基油全量を基準とする質量ppmを表し、「mass%」は基油全量を基準とする質量%を表す。
【0121】
【表1】
【0122】
(金属系清浄剤)
B1−1:炭酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量6.2質量%、金属比2.3、アルキル基鎖長14−18、塩基価(過塩素酸法)180mgKOH/g
B1−2(C1):ホウ酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量6.8質量%、ホウ素含有量2.7質量%、金属比2.5、塩基価(過塩素酸法)190mgKOH/g
B1−3(C1):ホウ酸カルシウム過塩基化カルシウムサリシレート、Ca含有量5.0質量%、ホウ素含有量1.8質量%、金属比1.5、塩基化(過塩素酸法)140mgKOH/g
B2−1:炭酸マグネシウム過塩基化マグネシウムスルホネート、Mg含有量9.5質量%、塩基価(過塩素酸法)400mgKOH/g、硫黄含有量2質量%
【0123】
(無灰分散剤)
C2a’−1:ポリブテニルコハク酸イミド、分子量9000、窒素含有量0.7質量%、ホウ素含有量0質量%
C2a−1:ホウ酸変性ポリブテニルコハク酸イミド、分子量6000、窒素含有量1.6質量%、ホウ素含有量0.5質量%
【0124】
(油溶性有機モリブデン化合物)
D−1:硫化(オキシ)モリブデンジチオカーバメート、
D−2:Mo系酸化防止剤
【0125】
(粘度指数向上剤)
E−1:非分散型ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、重量平均分子量400,000、PSSI:25
【0126】
(その他の添加剤)
F−1:ジアルキルジチオリン酸亜鉛、無灰系酸化防止剤、消泡剤、を含む添加剤混合物
【0127】
【表2】
【0128】
(単体動弁試験)
実施例1〜8および比較例1〜5の各潤滑油組成物について、動弁系モータリング摩擦試験機にて低摩擦性能を評価した。
動弁系モータリング摩擦試験機は、直打型エンジンの動弁系のカムおよびタペット一対の摩擦トルクを測定可能な装置である。該装置を各潤滑油組成物で潤滑しながら、油温80℃、回転数350rpmにおける摩擦トルクを測定し、比較例1における測定値に対するトルクの低減率を算出した。低減率が高いほど省燃費性に優れることを意味する。結果を表2に示している。
【0129】
(モータリングエンジントルク試験)
実施例1、7、8、及び比較例1の潤滑油組成物についてはさらに、モータリングエンジントルク試験を行った。各潤滑油組成物について、当該潤滑油組成物(油温80℃)により潤滑されたDOHCエンジン(排気量2L)の出力軸を電動モータにより一定速度で回転させるのに必要なトルクを測定した。測定は1400rpmで行い、比較例1における測定値に対するトルクの低減率を算出した。トルクの低減率が高いほど省燃費性に優れることを意味する。結果を表2に示している。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の潤滑油組成物によれば、LSPI抑制能および清浄化性能を確保するとともに、省燃費性能を向上させることが可能である。したがって本発明の潤滑油組成物は、LSPIが問題になりやすい過給ガソリンエンジン、特に過給直噴エンジンの潤滑に好ましく用いることができる。