(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-227035(P2017-227035A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】接触防止アシストシステム
(51)【国際特許分類】
E02F 9/24 20060101AFI20171201BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20171201BHJP
E02F 3/90 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
E02F9/24 H
E02F9/26 B
E02F3/90 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-123580(P2016-123580)
(22)【出願日】2016年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】390001993
【氏名又は名称】みらい建設工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391006038
【氏名又は名称】東都電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】行平 文彦
(72)【発明者】
【氏名】下川 希
(72)【発明者】
【氏名】右田 雅也
【テーマコード(参考)】
2D015
【Fターム(参考)】
2D015GA03
2D015GB07
2D015HA03
(57)【要約】
【課題】簡易かつ安価に既設構造物と重機との接触を防止することを可能とした接触防止アシストシステムを提案する。
【解決手段】既設の橋梁Bの下側において河床を掘削するバックホウ1に固定されて、バックホウ1のアーム11またはブーム12から橋梁Bの下面までの距離を測定するレーザー距離計4と、レーザー距離計4の測定値が第一距離以下の場合にバックホウ1を停止し、測定値が第二距離以下で第一距離以上の場合に警報手段を作動させる制御手段5とを備える接触防止アシストシステム3。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の下側において稼働する重機に固定されて、前記既設構造物までの距離を測定する非接触距離計と、
前記非接触距離計の測定値が第一距離以下の場合に前記重機を停止する制御手段と、を備えていることを特徴とする、接触防止アシストシステム。
【請求項2】
前記非接触距離計は、前記重機に横軸を中心に回転可能に取り付けられており、当該非接触距離計の下端には錘が固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の接触防止アシストシステム。
【請求項3】
前記非接触距離計の測定値が前記第一距離よりも大きな第二距離以下の場合に、警報手段が作動することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の接触防止アシストシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触防止アシストシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
既設構造物の直下において、重機を利用して建設工事を行う場合には、既設構造物に重機が接触することがないように、既設構造物の下側に防護材を設置した状態で作業を行うのが一般的である。ところが、既設構造物への防護材の設置は、設置作業に手間がかかる。また、重機に対して十分な強度を防護材に持たせようとすると、防護材が大規模になる場合がある。さらに、防護材の設置により、既設構造物直下の作業空間が狭くなってしまう。
【0003】
そのため、防護材を要することなく既設構造物の直下における建設工事を実施するための装置として、特許文献1には、重機本体に超音波センサを取り付けておき、既設構造物の下方に設定された超音波センサの感知エリア内にブームが侵入した際に警報音を発する高さ制限装置が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、既設構造物の座標データに基づいて、既設構造物の周囲に警戒範囲を設定するとともに、重機の位置データを測定し、測定された重機の位置データにより重機が警戒範囲内に侵入したことが確認された際に、既設構造物側に接近する方向への重機の作動を制御する作業システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−191461号公報
【特許文献2】特開2015−214855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の高さ制限装置は、既設構造物との位置関係に応じて超音波センサの感知エリアを調整する必要があるため、その作業に手間がかかる。例えば、河川等において既設構造物の直下で浚渫作業を行う場合には、水位の変化に応じて感知エリアを調整する必要がある。
【0007】
また、特許文献2の作業システムは、重機の位置データ(座標)に基づいて既設構造物と重機との位置関係を把握するため、重機の位置データを測定するための測量装置と、既設構造物と重機との位置関係を算出するための算出装置等の複数の装置が必要となる。その結果、システムが複雑になるとともに、設備費が高くなる。
【0008】
このような観点から、本発明は、簡易かつ安価に既設構造物と重機との接触を防止することを可能とした接触防止アシストシステムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための本発明の接触防止アシストシステムは、既設構造物の下側において稼働する重機に固定されて、前記既設構造物までの距離を測定する非接触距離計と、前記非接触距離計の測定値が第一距離以下の場合に前記重機を停止する制御手段とを備えていることを特徴としている。
【0010】
かかる接触防止アシストシステムによれば、非接触距離計により測定された重機から既設構造物までの距離が所定の値(第一距離)以下になった場合に重機の動力源または駆動系を停止するため、重機と既設構造物との接触を確実に防止することができる。また、座標計算等の複雑な演算処理を要しないため、簡易かつ安価な装置によって重機の制御が可能である。
【0011】
前記非接触距離計が、前記重機に横軸を中心に回転可能に取り付けられており、かつ、当該非接触距離計の下端に錘が固定されていれば、鉛直方向への非接触距離計による照射を維持することができる。また、前記非接触距離計の測定値が前記第一距離よりも大きな第二距離以下の場合に、警報手段が作動するようにすれば、エンジンが停止する前にオペレータが操作することで、作業を安全に継続して行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接触防止アシストシステムによれば、簡易かつ安価に既設構造物と重機との接触を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る重機を示す側面図である。
【
図2】接触防止アシストシステムのブロック図である。
【
図3】非接触距離計と取付部材を示す図であって、(a)は側面図、(b)は断面図である。
【
図4】重機による既設構造物下での施工状況を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態では、
図1に示すように、橋梁(既設構造物)Bの下側の河床を掘削する場合について説明する。
河床の掘削は、油圧ショベル(バックホウ1)が搭載された浚渫船である、いわゆるバックホウ浚渫船2により行う。橋梁Bの直下における河床の掘削時には、バックホウ浚渫船2を橋梁Bの直下あるいは橋梁Bの近傍に配置させた状態で、バックホウ1を稼働させる。
【0015】
なお、掘削に使用するバックホウ浚渫船2の規格等は限定されるものではなく、橋梁Bの高さ(水面から橋梁下面までの距離)、隣り合う橋脚間の距離、河川の規模等に応じて適宜選定すればよい。また、河床の掘削は、バックホウ浚渫船2により行う場合に限定されるものではない。例えば、台船に搭載されたバックホウ等の掘削機を利用して行ってもよい。
【0016】
バックホウ浚渫船2には、接触防止アシストシステム3が設置されている。接触防止アシストシステム3は、バックホウ1のアーム11、ブーム12またはバケット13等が橋梁Bに接触することを防止するためのシステムである。
図2に示すように、接触防止アシストシステム3は、レーザー距離計(非接触距離計)4および制御手段5を備えている。
【0017】
レーザー距離計4は、橋梁Bの下面までの距離を測定する。
図1に示すように、本実施形態では、バックホウ1のアーム11の中折れ部の側面、および、アーム11とブーム12との接続部近傍のブーム12の側面(計2箇所)にそれぞれレーザー距離計4が取り付けられている。
【0018】
図3(a)および(b)に示すように、レーザー距離計4は、取付部材6を介してバックホウ1に取り付けられている。なお、レーザー距離計4は、バックホウ1に直接取り付けてもよい。
取付部材6は、ベース板61と、マグネット62と、回転軸63とを備えている。すなわち、取付部材6は、マグネット62を介してバックホウ1に着脱可能に取り付けられている。
【0019】
ベース板61は、マグネット62を介してバックホウ1に固定される鋼板である。ベース板61は、取付面(バックホウ1のアーム11またはブーム12の表面)と平行になるように取付られる。本実施形態のベース板61は矩形状を呈しており、中央部には回転軸63が固定されている。また、ベース板61には、回転軸63の下側に弧状の開口64が形成されている。開口64は、回転軸の軸芯を中心とした円弧状を呈している。なお、開口64の半径は限定されるものではない。
【0020】
マグネット62は、取付部材6およびレーザー距離計4を支持可能な吸着力を有していて、アーム11またはブーム12に固定されている。マグネット62は、回転軸63を介してベース板61に固定されている。なお、マグネット62は直接ベース板61に固定されていてもよい。
【0021】
回転軸63は、ベース板61を貫通している。回転軸63の一端はマグネット62に固定されている。なお、回転軸63は、ベース板61を貫通することなくベース板61に固定されていてもよい。回転軸63は、ベース板61に対して直交している。すなわち、回転軸63は、バックホウ1のアーム11またはブーム12の側面(縦面)に対して交差する方向(本実施形態では直交する方向)に延設された横軸である。
【0022】
なお、取付部材6の構成は限定されるものではなく、適宜設定すればよい。例えば、取付部材6は、マグネット62に代えて、ボルト等により重機に固定してもよい。
また、取付部材6は、必ずしもベース板61を有している必要はなく、回転軸63(横軸)を直接重機に取り付けてもよい。
【0023】
レーザー距離計4は、回転軸(横軸)63に回転可能に取り付けられている。また、レーザー距離計4の後端(下端)には、錘41が固定されている。すなわち、レーザー距離計4は、錘41の重量により横軸を中心に回転することによって照射方向が常に鉛直方向となるように設置されている。
【0024】
レーザー距離計4の下部には、バックホウ1側に突出する突起42が突設されている。突起42は、開口64の幅よりも小さい外径を有した棒状部材であって、開口64を貫通している。レーザー距離計4が回転軸63を中心に回転すると、突起42が開口64に沿って移動する。レーザー距離計4の回転範囲は、突起42の可動範囲(開口64の一端から他端まで)に制限される。そのため、アーム11またはブーム12が激しく動いた場合であっても、レーザー距離計4の回転が制御されて、レーザー距離計4に不具合が生じることが防止されている。
【0025】
制御手段5は、レーザー距離計4の計測値に基づいて、バックホウ1の稼働を制御する。
図1に示すように、本実施形態の制御手段5は、バックホウ1の運転室内に設置されている。なお、制御手段5の設置個所は限定されるものではない。
図2に示すように、制御手段5には、レーザー距離計4、警報手段51、油圧回路52および停止解除スイッチ53が有線または無線により接続されている。
【0026】
制御手段5は、レーザー距離計4の計測値に応じて油圧回路(駆動系)52を制御する。すなわち、制御手段5は、レーザー距離計4の計測値が予め設定された距離(第一距離L
1)以下になった場合(
図4参照)に、油圧回路52の油圧を制御することで、バックホウ1を停止させる。なお、第一距離L
1は、バックホウ1の最も高い部分(例えば、アーム11の中折れ点の頂点やアーム11とブーム12との接続部の頂点等)が橋梁の下面との離隔距離が所定の距離(例えば50cm)以上確保できる値に設定する。制御手段5による油圧回路52の制御方法は限定されるものではないが、例えば、油圧シリンダに至る油路を閉じたり、油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプを停止することにより油圧回路52を制御する。
【0027】
停止解除スイッチ53は、バックホウ1を再稼働するためのスイッチである。停止解除スイッチ53は、バックホウ53の安全が確保されたことが確認できた場合に操作する。
【0028】
なお、本実施形態では、
図4に示すように、第一距離L
1よりも大きな数値の第二距離L
2を予め設定しておき、レーザー距離計4の計測値が、第二距離L
2を下回った時点(第一距離L
1と第二距離L
2との間)で、制御手段5が警報手段51に信号を送り、オペレータおよび作業者に警報する。なお、警報方法としては、警報音を発したり、警報ランプを点灯することにより行う。このとき、制御手段5が、バックホウ1の動作が遅くなるように、油圧回路52の油圧を調整してもよい。
【0029】
本実施形態の接触防止アシストシステム3によれば、レーザー距離計4により測定されたバックホウ1から橋梁Bの下面までの距離が第一距離L
1以下になった場合に駆動系を停止するため、バックホウ1が橋梁Bに接触することを確実に防止することができる。また、測定値を直接使用しており、座標計算等の複雑な演算処理を要しない。そのため、高性能のコンピュータ等を必要とせず、簡易かつ安価な装置によるバックホウ1の制御が可能である。
【0030】
また、レーザー距離計4は、横軸を中心に回転可能に取り付けられており、かつ、レーザー距離計4の下端に錘41が固定されているため、アーム11やブーム12を移動させた場合であっても、鉛直方向への照射を維持することができ、ひいては、バックホウ1と橋梁Bとの離隔距離を正確に測定することができる。また、レーザー距離計4はマグネット62を介して着脱可能に取り付けられるため、他の重機に使用することも可能である。
【0031】
また、レーザー距離計4の測定値が第一距離L
1よりも大きな第二距離L
2以下の場合に、警報手段51が作動する。このようにすると、レーザー距離計4の測定値が第一距離L
1に近づいていることをオペレータが認識できるので、オペレータに慎重な操作を促すことができ、ひいては、作業を安全に継続して行うことができる。そのため、停止させたバックホウ1を再稼働させるために要する手間を省略することができる。
【0032】
以上、本発明に係る実施形態について説明した。しかし、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、河川において橋梁の直下の河床の掘削を行う場合について説明したが、接触防止アシストシステムが適用可能な施工箇所および施工目的は、上側に既設構造物が存在する場所であれば限定されるものではない。例えば、高架橋の下側での施工等であってもよい。
【0033】
前記実施形態では、バックホウ1のアーム11とブーム12との2箇所にレーザー距離計4,4が設置されている場合について説明したが、レーザー距離計4の数および取付箇所は限定されるものではない。例えば、アーム11の中折れ部(1個所)のみにレーザー距離計4が取り付けられていてもよいし、または、アーム11の中折れ点と先端部にそれぞれレーザー距離計4が取り付けられていてもよい。さらに、レーザー距離計4は、3カ所以上に設置してもよい。
【0034】
前記実施形態では、第一距離L
1を下回った場合に制御手段5により駆動系を制御する場合について説明したが、制御手段5によるバックホウ1の制御方法は限定されるものではなく、例えば、制御手段5は、バックホウ1の動力源(エンジンやモーター等)を停止させてもよい。
【0035】
非接触距離計は、重機から既設構造物までの距離を測定することが可能であれば、レーザー距離計に限定されるものではない。
また、第二距離は、必要に応じて設定すればよい。
【符号の説明】
【0036】
1 バックホウ(重機)
2 バックホウ浚渫船
3 接触防止アシストシステム
4 レーザー距離計(非接触距離計)
5 制御手段
6 取付部材