【解決手段】高気密空間(C)の壁面材(13)及び天井面材(20)は水平方向の面材離間帯(4)により天井外周域で相互離間する。廻り縁部材(50)は、壁構造体(1)に固定される。廻り縁部材と天井面材とは分離・離間して横目地空間(63)を形成し、シーリング材(66)が横目地空間に充填される。鉛直方向の面材離間帯(5)が壁構造体同士の接続部(V)に形成される。第1壁構造体(1Y)に固定され且つ第2壁構造体(1X)から分離・離間した壁コーナ部材(70)により縦目地空間(83)が形成され、シーリング材(86)が縦目地空間に充填される。シーリング材(66,86)は、壁構造体及び天井構造体(2)の相対変位や、壁構造体同士の相対変位を吸収する。
壁芯方向が相違する第1及び第2の壁構造体の接続部又は交差部において各壁構造体の相対変位を可能にする鉛直方向の面材離間帯が形成されるように、第1及び第2壁構造体の前記壁面材が、前記接続部又は交差部において相互離間し、
該面材離間帯には壁コーナ部材が配設され、該壁コーナ部材は、第1壁構造体に固定されるとともに、第2壁構造体から分離し且つ離間して第2壁構造体の壁面との間に縦目地空間を形成し、該目地空間には、第1及び第2壁構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の区画構造。
前記壁構造体は、床構造体のコンクリートから一体的に上方に延び且つ壁構造体の壁厚に相応した壁厚を有するコンクリート構造の立上げ部を含み、該立上げ部は、壁芯方向に延び、前記間柱を支持する床ランナを敷設可能な上面を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の区画構造。
前記シーリング材は、室内空間に露出する第1シーリング材層と、該第1シーリング材の裏側又は背後に位置し且つ室内空間から隠蔽された第2シーリング材層とから構成される二重又は二層の気密シール構造を構成しており、各シーリング材層は、10mm以上の目地幅及び厚さを有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の区画構造。
壁芯方向が相違する第1及び第2の壁構造体の接続部又は交差部において各壁構造体の相対変位を可能にする鉛直方向の面材離間帯を形成すべく、第1及び第2壁構造体の前記壁面材を前記接続部又は交差部において相互離間させ、
壁コーナ部材を該面材離間帯に配設し、該壁コーナ部材を第1壁構造体に固定するとともに、前記壁コーナ部材を第2壁構造体から離間させて第2壁構造体の壁面との間に縦目地空間を形成し、
第1及び第2壁構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材を該目地空間に充填することを特徴とする請求項6に記載の区画方法。
床構造体のコンクリートから一体的に上方に延び且つ壁構造体の壁厚に相応した壁厚を有するコンクリート構造の立上げ部を前記間柱の建込み前に構築し、壁芯方向に延び、前記間柱を支持する床ランナの敷設面を前記立上げ部によって形成することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の区画方法。
室内空間に露出する第1シーリング材層と、該第1シーリング材の裏側又は背後に位置し且つ室内空間から隠蔽された第2シーリング材層とから構成される二重又は二層の気密シール構造を形成するように、10mm以上の目地幅及び厚さの前記シーリング材を前記目地空間に二重に充填することを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の区画方法。
【背景技術】
【0002】
生物学的に危険な病原体の研究等を行うバイオハザード施設が知られている。バイオハザード施設においては、生物学的な危険を伴う病原体の培養等を実施するので、生物学的危険物質(バイオハザード物質)等が施設外に拡散するのを確実に阻止しなければならない。このため、病原体の取扱い方法や、施設の管理・運用において厳格な基準又は規定が定められるばかりでなく(特開2014-171587号公報等)、施設の構造及び設備等の構成に依存した物理的封じ込め等の様々な対策が採られる(特開2009-58191号公報等)。
【0003】
一般に、バイオハザード物質の開封・操作を実施する実験室等は、 取扱物質の生物学的な危険性等に相応してバイオセーフティレベル1〜4(BSL1〜BSL4)に等級化されている。BSL4は、エボラ出血熱、ラッサ熱等の原因菌の如く極めて危険な病原体を取扱い可能なバイオハザード施設であり、BSL3は、鳥インフルエンザ、狂犬病等の原因菌の如く、危険性が高い病原体を取扱うバイオハザード施設であり、BSL2及びBSL1は、比較的危険性が低い病原体を取扱うバイオハザード施設である。BSL3又はBSL4のような高度なバイオハザード施設における物理的封じ込め技術は、主として、次のとおり分類し得る。
(1)建築構造及び平面計画等に依存した建築構造的バリア
(2)一方向気流を企図した室間差圧制御に依るバリア
(3)HEPAフィルター等の排気浄化設備に依る排気濾過処理
(4)廃液滅菌機能を有する廃液処理設備等に依存した廃液滅菌処理
(5)両面オートクレーブ等の滅菌設備に依る実験器具等の滅菌処理
【0004】
上記室間差圧制御は、バイオハザード物質の開封・操作を実施する室(以下、「バイオハザード室」という。)の室内空気圧を極端な陰圧(負圧)に設定し、バイオハザード物質が室外に拡散するのを防止しようとする技術である。室間差圧の値等は、各国の基準や自主基準等により相違するが、BSL4のバイオハザード室の室内環境は、現状では、100〜250Pa(例えば、150Pa)という高い圧力値に設定されることが多く、気密性能試験時の室間差圧は、例えば、500Pa(Canadian Biosafety Standards)という極めて高い圧力値に設定されることもある。
【0005】
これに対し、室内空間を区画する壁体及び天井等がこのような室間差圧に耐える気密性能を有しない場合、室内外の差圧を維持し難い。即ち、室間差圧制御は、室内空間及び室外空間の空気の流入・流出(通気又は漏出)を確実に阻止する建築構造的バリアの構築を前提としたものであり、建築構造的バリアと相まって、バイオハザード室の安全性に寄与する技術要素である。
【0006】
一般に、一体施工された湿式工法の鉄筋コンクリート壁・床等は、継目を有しない実質的にシームレスな構造であるため、軽鉄間仕切壁等の乾式工法の構造体に比べ、耐久性、密実性、非通気性、非透気性及び非通水性等の点で優位性が高いと考えられている。このため、バイオハザード室の建築構造的バリアは、通常は、鉄筋コンクリート構造の躯体(壁、柱、梁、床スラブ、屋根スラブ等)によって区画される。なお、湿式工法は、一般に、コンクリートや、セメントモルタル、スタッコ等の水硬性材料を主材又は主要構成要素として用いた工法である。他方、乾式工法は、一般に、このような水硬性材料を主材又は主要構成要素として用いず、建築内外装面材、複合パネル、金属製型材等を係止具、係留具、接着剤等により建込み又は組み立てる工法である。
【0007】
また、バイオハザード室以外の高気密空間として、クラス10000以下又は1000以下の清浄度を有する工業用クリーンルーム、バイオクリーンルーム等のクリーンルームが挙げられる。一般に、このクラスのクリーンルームでは、粉塵、微生物等が室内空間に進入するのを防止すべく、室内空間の空気圧が比較的高い陽圧(正圧)に設定される。この種のクリーンルームの構造が、例えば、特開2015-190262号公報に記載されている。クリーンルームの室間差圧は、通常は、バイオハザード室の室間差圧ほど高い値に設定されないので、多くのクリーンルームでは、室内空間は、珪酸カルシウム板、石膏ボード等の建築内装面材を軽量鉄骨下地に固定してなる乾式工法の壁体及び天井によって区画される。また、樹脂発泡体をカラー鋼板等によって被覆してなる断熱パネル又は複合パネル等によって室内空間を形成するパネル組立式(乾式工法)のクリーンルーム構造も知られている(特開平8-68221号公報等)。
【0008】
乾式工法の壁体及び天井によって区画されたクリーンルーム等の高気密室では、室内空間の陰圧又は陽圧を維持するために、建築内装面材の継目部、壁及び天井の連接部、壁及び床の連接部等をシーリング材(剤)によって気密処理し、これにより、室内空間及び室外空間の空気の流入・流出(通気又は漏出)を阻止している。シーリング材(シール材)として、シリコン系シーリング材、アクリル系シーリング材、ウレタン系シーリング材等の弾性又は粘弾性シーリング材が一般に使用される。特開平11-1976号公報には、シーリング材を充填したシール目地の気密性能を向上すべく、異種のシーリング材を目地部に二重又は二層に充填した構成のシール構造が記載されている。このシール構造は、異種シーリング材の特性の相違を利用し、シール部を損傷させる異種の要因に対して少なくとも一方のシーリング材を有効に機能せしめることを意図したものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般に、乾式工法の構造体は、建物の軽量化、施工性の改善、工期の短縮、建設費の低廉化等の点で湿式工法の構造体に比べて有利である。また、鉄筋コンクリート壁・床等は、非通気性、非透気性等の点で有利であるといっても、コンクリート構造体には、施工後の乾燥収縮に起因した乾燥収縮クラックが発生する傾向があり、中性化、鉄筋腐蝕等の劣化要因に起因した損耗、損傷等が生じる可能性もある。このため、コンクリート構造体の非通気性又は非透気性等は、必ずしも恒久的なものではなく、その経年劣化を考慮しなければならない。しかも、我が国においては、比較的大規模な地震が発生する確立が高いという特有の事情があるので、大規模地震時の建築物の挙動及び層間変位に起因して鉄筋コンクリート壁等に構造クラック等が発生する懸念がある。
【0011】
このため、バイオハザード室のように極めて高い室間差圧を設定された高気密室においても、軽鉄間仕切壁等の乾式工法の壁及び天井によって高気密空間を構築することを検討し又は研究することは、有意義である。
【0012】
高気密室の壁及び天井を乾式工法で構築する場合、壁材同士の継目部、天井材同士の継目部、壁材及び天井の接合部、壁材及び床材の接合部等の多種多様な継目部又は目地部を気密処理しなければならない。しかしながら、これらの継目部又は目地部をシーリング材で気密処理した場合、建物の挙動及び層間変位に追従して継目部又は目地部が変形する際にシーリング材の破断・亀裂等が発生し易い。このため、壁材、天井材の継目部等のシーリング材充填目地に破断・亀裂等が発生するのを防止し、高い室間差圧を保持する気密構造を長期に亘って維持することは、極めて困難である。
【0013】
これに関し、異種シーリング材を目地部に二重又は二層に充填した上記シール構造(特許文献5)を採用し、目地自体の耐久性を向上する対策を考慮し得るかもしれない。しかしながら、シール構造自体をいかに最適化し得たとしても、従来の単層充填のシーリング材を複層充填に単に変更しただけでは、高気密室の多種多様なシーリング材充填目地は、比較的大規模な地震が発生した際に生じる比較的大きな建物の挙動及び層間変位に十分に適応し難い。
【0014】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、壁材及び天井材の継目部等のシーリング材充填目地に破断・亀裂等が発生するのを確実に防止し、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって建築物内に区画し又は構築するのを可能にする高気密空間の区画構造及びその区画方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、上記目的を達成すべく、高い気密性能を有する高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって建築物内に区画し又は構築する高気密空間の区画構造において、
前記壁構造体は、壁芯に沿って立設された複数の金属製間柱と、該間柱の室内側に取付けられた壁面材とを有し、
前記天井構造体は、屋根構造体、上階の床構造体、或いは、天井裏の支持構造部によって懸吊された天井下地と、該天井下地に固定された天井面材とを有し、
前記壁面材及び前記天井面材は、前記壁構造体及び天井構造体の相対変位を可能にする水平方向の面材離間帯を天井外周域に形成すべく、天井外周域において相互離間しており、
廻り縁部材が前記面材離間帯に配設され、該廻り縁部材は、前記壁構造体に固定されるとともに、前記天井面材の下面との間に横目地空間を形成するように前記天井面材から分離し且つ離間し、該目地空間には、前記壁構造体及び天井構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材が充填されていることを特徴とする高気密空間の区画構造を提供する。
【0016】
他の観点より、本発明は、高い気密性能を有する高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって建築物内に区画し又は構築する高気密空間の区画方法において、
壁芯に沿って複数の金属製間柱を建込み、該間柱の室内側に壁面材を取付けるとともに、屋根構造体、上階の床構造体、或いは、天井裏の支持構造部によって天井下地を懸吊し、天井面材を該天井下地に固定して前記天井構造体を施工し、
前記壁構造体及び天井構造体の施工の際に、前記壁面材及び前記天井面材を天井外周域において相互離間させ、前記壁構造体及び天井構造体の相対変位を可能にする水平方向の面材離間帯を天井外周域に形成し、
廻り縁部材を該面材離間帯に配置し、該廻り縁部材を前記壁構造体に固定するとともに、前記天井面材から離間させて該天井面材の下面との間に横目地空間を形成し、前記壁構造体及び天井構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材を前記目地空間に充填することを特徴とする高気密空間の区画方法を提供する。
【0017】
本発明の上記構成によれば、天井構造体及び壁構造体が上記面材離間帯において分離し、相対変位可能に離間するので、天井構造体及び壁構造体は、面材離間帯において互いに拘束されることなく比較的大きく相対変位することができる。地震時の建物の挙動及び層間変位に応答した比較的大きな相対変位(水平変位)が面材離間帯に発生するが、上記横目地空間のシーリング材は、その変形により、この相対変位を吸収する。このため、地震力又は加振力の負荷は、壁面全体及び天井面全体に大きく作用することなく、この横目地部分に集中する。
【0018】
即ち、地震時の建物の挙動及び層間変位の影響が、上記横目地部分に比較的大きく顕れる結果、壁面の目地や、天井面の目地等に作用する地震時の負荷又は応力が軽減するので、上記横目地部分以外の目地のシーリング材には、破断・亀裂等が発生し難い。かくして、本発明によれば、廻り縁部材と天井面材との間のシール構造について、建物の挙動又は層間変位に対する追従性を最適化すれば良いので、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって比較的容易に建築物内に区画し又は構築することができる。
【0019】
本発明は又、上記目的を達成すべく、高い気密性能を有する高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって建築物内に区画し又は構築する高気密空間の区画構造において、
前記壁構造体は、壁芯に沿って立設された複数の金属製間柱と、該間柱の室内側に取付けられた壁面材とを有し、
壁芯方向が相違する第1及び第2の壁構造体の接続部又は交差部において各壁構造体の相対変位を可能にする鉛直方向の面材離間帯が形成されるように、第1及び第2壁構造体の前記壁面材が、前記接続部又は交差部において相互離間し、
該面材離間帯には壁コーナ部材が配設され、該壁コーナ部材は、第1壁構造体に固定されるとともに、第2壁構造体から分離し且つ離間して第2壁構造体の壁面との間に縦目地空間を形成し、該目地空間には、第1及び第2壁構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材が充填されていることを特徴とする高気密空間の区画構造を提供する。
【0020】
他の観点より、本発明は、高い気密性能を有する高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって建築物内に区画し又は構築する高気密空間の区画方法において、
壁芯に沿って複数の金属製間柱を建込み、該間柱の室内側に壁面材を取付け、
壁芯方向が相違する第1及び第2の壁構造体の接続部又は交差部において各壁構造体の相対変位を可能にする鉛直方向の面材離間帯を形成すべく、第1及び第2壁構造体の前記壁面材を前記接続部又は交差部において相互離間させ、
壁コーナ部材を該面材離間帯に配設し、該壁コーナ部材を第1壁構造体に固定するとともに、前記壁コーナ部材を第2壁構造体から離間させて第2壁構造体の壁面との間に縦目地空間を形成し、
第1及び第2壁構造体の相対変位を吸収するように変形するシーリング材を該目地空間に充填することを特徴とする高気密空間の区画方法を提供する。
【0021】
本発明の上記構成によれば、壁芯方向が異なる壁構造体が上記面材離間帯において分離し、相対変位可能に離間するので、各壁構造体は、面材離間帯において互いに拘束されることなく比較的大きく相対変位することができる。地震時の建物の挙動及び層間変位に応答した比較的大きな相対変位(水平変位)が面材離間帯に発生するが、上記縦目地空間のシーリング材は、その変形により、この相対変位を吸収する。このため、地震力又は加振力の負荷は、壁面全体及び天井面全体に大きく作用することなく、この縦目地部分に集中する。
【0022】
即ち、地震時の建物の挙動及び層間変位の影響が、上記縦目地部分に比較的大きく顕れる結果、壁面の目地や、天井面の目地等に作用する地震時の負荷又は応力が軽減するので、上記縦目地部分以外の目地のシーリング材には、破断・亀裂等が発生し難い。かくして、本発明によれば、壁コーナ部材と壁面材との間のシール構造について、建物の挙動又は層間変位に対する追従性を最適化すれば良いので、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって比較的容易に建築物内に区画し又は構築することができる。
【0023】
好ましくは、上記壁構造体は、床構造体のコンクリートから一体的に上方に延び且つ壁構造体の壁厚に相応した壁厚を有するコンクリート構造の立上げ部を含む。立上げ部は、壁芯方向に延び且つ間柱を支持する床ランナを敷設可能な上面を有する。立上げ部の高さは、好ましくは、200mm以上、更に好ましくは、250mm以上に設定される。
【0024】
この立上げ部は、塗床材を巾木部分で立上げる塗床下地を構成するのみならず、室内側の床面にこぼれた薬液、薬剤や、室内の滅菌液、消毒液、除染液等が壁下端部を介して室外に漏出するのを阻止する堰又は堤として機能する。
【0025】
更に好ましくは、室内空間に露出する第1シーリング材層と、該第1シーリング材の裏側又は背後に位置し且つ室内空間から隠蔽された第2シーリング材層とから構成される二重又は二層の気密シール構造を形成するように、10mm以上の目地幅及び厚さの前記シーリング材が上記目地空間に二重又は二層に充填される。シーリング材として、シリコン系シーリング材を好適に使用し得る。
【0026】
このような二重又は二層の気密シール構造は、気密性を向上するだけではなく、比較的劣化し易い室内側のシーリング材のみを交換することにより、シール構造を保守・管理し得るので、実用的に極めて有利である。例えば、バイオハザード室の室内空間は、ホルマリン、過酸化水素等による滅菌、消毒又は除染を比較的高頻度に実施され、室内側のシーリング材は、比較的早期に劣化し、比較的高い頻度で交換される傾向がある。しかし、二重又は二層の気密シール構造によれば、室内側のシーリング材のみを交換すれば良いので、実用的に極めて有利である。
【0027】
好ましくは、シーリング材として、地震時の挙動又は変位に対する設計許容伸縮率及び設計許容剪断変形率が夫々、25%以上及び50%以上のシーリング材(更に好ましくは、30%以上及び60%以上のシーリング材)を使用し得る。地震時の挙動又は変位に対する適応性を重視すると、気密シール構造の目地幅は、構造設計において設定された建物の層間変位角と、目地の高さ位置と、シーリング材の設計許容伸縮率又は設計許容剪断変形率との関係で実質的に定まる。このため、建物の層間変位角が比較的大きく設定される建物においては、目地幅も比較的大きな値に設定され、例えば、シール構造の目地幅は、20mm以上50mm以下の範囲内に設定される。他方、シーリング材の施工性を重視した場合、目地幅の増大を抑制することが望ましく、目地幅は、好ましくは、30mm以下、更に好ましくは、25mm以下に設定される。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る高気密空間の区画構造及び区画方法によれば、壁材及び天井材の継目部等のシーリング材充填目地に破断・亀裂等が発生するのを防止し、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって比較的容易に建築物内に区画し又は構築することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0031】
図1及び
図2は、バイオハザード室を有するバイオハザード施設の構成を示す部分断面図及び部分平面図である。
【0032】
図1には、床構造体F、屋根構造体R、内壁Wi及び外壁Woを有する鉄筋コンクリート構造の建築物Aが示されている。バイオハザード施設Bは、バイオハザード室C、バッファエリアD及び天井裏設備空間(インタースティシャルスペース)Eを含む。本実施形態では、バイオハザード施設Bは、建築物Aの一部を構成するにすぎないが、建築物A全体をバイオハザード施設Bとして構成することも可能である。
【0033】
バイオハザード室Cは、乾式工法の壁構造体1と、乾式工法の天井構造体2とによって区画される。本実施形態において、壁構造体1は、角形鋼管からなる鋼製間柱11(
図2)に建築内装面材を固定してなる乾式工法の間仕切壁であり、床構造体F上に立設され、屋根構造体Rまで垂直(鉛直)に延びる。
【0034】
バッファエリアDは、内壁Wiと屋内側の壁構造体1との間に形成されるとともに、外壁Woと屋外側の壁構造体1との間に形成される。バッファエリアDは、バイオハザード施設Bの管理区域内の領域であるが、バイオハザード施設Bに入室を許可された施設管理者等が点検・保守管理等のために歩行可能な一般環境の建築空間である。
【0035】
建築物Aは、屋根レベルの梁Gに懸吊された鉄骨ぶどう棚構造の骨組Jを備える。骨組Jは、特定天井基準に規定された「支持構造部」である。骨組Jは、水平な格子状梁部材Nを多数の鉛直支柱Mによって天井裏空間に懸架した構造を有する。鉛直支柱Mの上端部は、鋼製ブラケット及びアンカーボルト等(図示せず)によって梁Gに固定される。梁部材Nは、鋼製ブラケット及びボルト・ナット組立体等(図示せず)によって鉛直支柱Mの下端部に固定される。点検・保守管理用のキャットウォーク(高所歩廊)を構成する鋼製グレーチング等の鋼製床材Qが、梁部材N上に敷設される。
【0036】
天井構造体2は、吊りボルトKによって骨組Jの下側に懸吊される。吊りボルトKの長さは、好ましくは、300〜1000mmの範囲内(本実施形態では、約600mm)に設定される。梁部材Nの上側領域の天井裏設備空間Eは、多種多様な建築設備(設備機器、ダクト、配管等)が設置又は配置される建築設備空間を構成するとともに、前述の施設管理者等が点検・保守管理等のために歩行し又は作業し得る一般環境の建築空間である。天井裏設備空間Eは、建築設備計画上は、可及的に大きい高さを確保することが望ましいが、一般には、建物全体の構造、高さ制限等の関係が考慮され、1800〜2500mm程度の高さを有する建築設備空間として設計されることが多い。
【0037】
図1に示す如く、天井構造体2は、バイオハザード室Cの天井領域に水平に延在してバイオハザード室Cの天井面を形成し、壁構造体1に近接した位置において終端する。
図2に示す如く、壁構造体1は、XY方向に延び、X方向及びY方向に延びる壁構造体1X、1Yは、建築計画上、壁隅部(コーナ部)Vにおいて互いに接続される。なお、
図2には、バイオハザード室C間のドア9が図示されるとともに、壁構造体1の壁芯上に所定間隔を隔てて配列された鋼製間柱11が図示されている。
【0038】
図3は、壁構造体1及び天井構造体2の構造を示す縦断面図であり、
図4は、
図3に示す各種目地部の拡大断面図である。
【0039】
図3に示す如く、天井構造体2は、骨組J(
図1)から垂下した吊りボルトKと、吊りボルトKの下端部に取付けられたTバー形態の野縁21と、係留具22を介して野縁21に取付けられた複合パネル20とから構成される。複合パネル20は、樹脂発泡体20bをカラー鋼板等の被覆材20aによって被覆してなる厚さ約50mmの断熱パネルである。隣り合う複合パネル20同士は、天井面全域に格子状の目地として延在するシーリング材充填目地23を介して連接する。目地23の目地幅t1は、10〜20mm、例えば、12mmに設定される。
【0040】
図4(A)に示す如く、金属製の目地底部材24が目地内に位置決めされ、バックアップ材25及びシーリング材26が目地内に二重又は二層に敷設又は充填される。二重又は二層構造のシーリング材充填目地23の施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ3mm程度のバックアップ材25aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材26aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ3mm程度のバックアップ材25bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材26bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材26として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0041】
図3に示す如く、壁構造体1は、鋼製間柱11、下部ランナ(又は床ランナ)12、上部ランナ又は天井ランナ(図示せず)、建築内装面材13、14、15及びコンクリート立上げ部3を有する。上部ランナは、例えば、屋根スラブR(
図1)の下面に固定される。鋼製間柱11は、100mm×100mm(板厚2.3mm)の断面寸法を有する角形鋼材である。鋼製間柱11は、下端部及び上端部を下部ランナ12及び上部ランナに係止又は係留することにより、
図2に示す如く、所定間隔を隔てて壁芯位置に立設される。鋼製間柱11の間隔は、壁芯方向に300〜600mmの間隔、例えば、450mm間隔に設定される。なお、本実施形態において、上下のランナは、軽鉄(LGS)壁下地用ランナ(JIS A 6517-2010:建築用鋼製下地材)である。所望により、鋼製間柱11の間隔を800〜900mm程度に設定し、C形鋼材(100mm×45mm(板厚0.8mm))等のように比較的軽量又は低剛性の鋼製間柱(図示せず)を鋼製間柱11の間に配設しても良い。
【0042】
図3に示す如く、下部ランナ12は、コンクリート立上げ部3の上面に固定される。立上げ部3は、概ね壁構造体1の壁厚と同等の厚さで床構造体Fから一体的に鉛直上方に延びる鉄筋コンクリートの隆起部であり、立上げ部3の高さは、床面から約200〜300mm程度に設定される。床構造体F上に施工された塗床材30が、バイオハザード室Cの側(以下、単に「室内側」という。)において立上げ部3の起立面に塗り上げられ、塗床材湾曲部31及び塗床材立上げ部32が形成される。面材13と塗床材立上げ部32との境界には、見切り縁40が配設される。床構造体Fと一体化した立上げ部3は、室内側の床面にこぼれた薬液又は薬剤や、室内の滅菌液、消毒液、除染液等が壁下端部を介して室外に漏出するのを確実に阻止する隆起部、堰又は堤として機能する。
【0043】
図4(C)に示す如く、見切り縁40は、立上げ部3の室内側上端部に取付けられたZ形又はカギ形断面の長尺金属部材(本実施形態ではアルミ形材)であり、塗床材立上げ部32の上端部が見切り縁40内に近接して終端する。
【0044】
塗床材立上げ部32の上端部と見切り縁40のカギ形突出部とによって形成される下面開口形の溝には、バックアップ材35及びシーリング材36が二重又は二層に敷設又は充填され、二重又は二層構造のシーリング材充填目地33が形成される。目地33の施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ3mm程度のバックアップ材35aを溝内に挿入する。
(2)シーリング材36aを厚さ5〜10mm程度(例えば7mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ3mm程度のバックアップ材35bを溝内に挿入する。
(4)シーリング材36bを厚さ5〜10mm程度(例えば7mm)に溝内に注入又は充填する。
シーリング材36として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0045】
このような巾木部分に配置された見切り縁の下面開口にシーリング材を注入又は充填する人為作業は、作業空間及び作業姿勢が極めて限定又は制限されるために、一般に極めて困難であるが、本実施形態では、見切り縁40は、立上げ部3の形成により、床面から200〜300mm程度の高さ位置に配置されるので、見切り縁40の溝内に下側からシーリング材36を充填又は注入する人為作業の作業性は、かなり改善する。
【0046】
図3に示すとおり、鋼製間柱11の室内側面には、厚さ25〜45mm程度(本実施形態では、厚さ35mm)の比較的厚い面材13が内装壁材として固定される。
図4(B)及び
図4(C)に示す如く、面材13は、板状の樹脂発泡体からなる芯材13bと、芯材の室内側面及び外周端面を被覆する薄い金属板13aとから構成される比重0.5以下(好ましくは、比重0.4以下)の複合パネルである。
図4(C)に示すように、面材13の下端面は、見切り縁40から離間しており、面材13と見切り縁40との間には、目地幅t2=10〜15mm、例えば、目地幅t2=12mmのシーリング材充填目地43が形成される。
【0047】
目地43は、バックアップ材45及びシーリング材46を目地内に二重又は二層に敷設又は充填した目地構造を有する。目地43の具体的な施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ5mm程度のバックアップ材45aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材46aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ5mm程度のバックアップ材45bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材46bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材46として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0048】
図3に示す如く、鋼製間柱11の室外側面(バッファエリアDの側)には、下貼り面材として面材14が固定される。面材14は、例えば、板厚12.5mmの石膏ボードである。面材14の室外側の面には、面材15が上貼り面材として固定される。面材15は、例えば、板厚6.0mmの珪酸カルシウム板である。面材14、15は、床構造体Fから屋根スラブRまで従来工法により施工される。
【0049】
これに対し、室内側に配置された面材13の上縁は、複合パネル20の下面により規定される天井面レベルCPの下方に位置する。天井面レベルCPと面材13の上縁との離間距離s1は、80〜120mm(例えば、100mm)に設定される。
【0050】
天井面の外周部分(天井外周域)に位置する複合パネル20の縁部20cは、鋼製間柱11の室内側面から距離s2だけ離間する。本実施形態において、離間距離s2は、25〜50mm、例えば、35mmに設定される。縁部20cを支承する支承具16が、鋼製間柱11に固定される。支承具16は、50mm×50mmのアングル形(L形)鋼材からなる。支承具16の水平なフランジ上面16a(
図4(B))は、複合パネル20の縁部下面を水平変位可能に支承する水平支承面を構成する。なお、距離s2は、地震時の層間変形角又は挙動と関連して定められる数値であり、地震時に縁部20cが鋼製間柱11に接触しないような値に設定される。
【0051】
金属製見切り縁17が、支承具16の上縁に隣接して鋼製間柱11に固定される。見切り縁17も又、アングル形(L形)鋼材からなる。面材18が、見切り縁17の上側において鋼製間柱11に固定される。面材18は、例えば、板厚12.5mmの石膏ボードからなり、見切り縁17と屋根スラブRとの間に延在する。支承具16、見切り縁17及び面材18の接合部又は隣接部は、シーリング材19によって気密処理される。なお、面材18の施工や、その接合部等の気密処理、更には、バッファエリアD側の壁面の形成(面材13、14の施工及びその気密処理)は、バイオハザード室Cの建築構造的バリアを構成する面材13及び複合パネル20の外側に補助的なバリアを形成し、バイオハザード施設Bの安全性を向上するためのものである。
【0052】
前述のとおり、面材13の上縁と複合パネル20の下面とは、上下方向に離間距離s1だけ離間し、比較的大きな離間帯域(離間空間)4が、天井及び壁の取合い部に形成される。離間帯域4は、壁構造体1及び天井構造体2の相対変位を可能にする水平方向且つ天井外周域の面材離間帯を構成する。
【0053】
離間帯域4を室内側から閉塞する廻り縁部材50が、複合パネル20及び面材13を架橋するように壁・天井の取合い部に配設される。廻り縁部材50は、長尺の金属成形部材、例えば、長尺のアルミ形材からなる。廻り縁部材50は、曲率半径20〜50mm程度(例えば、30mm)の湾曲部51と、湾曲部51から水平に室内側に延びる水平部52と、湾曲部51から垂下し且つ室外側に水平に屈曲する基部57と、基部57に一体的に連接した垂直基板部58とを有する。垂直基板部58は、スクリュービス等の係留具又は固定具60によって鋼製間柱11に固定される。
【0054】
図4(B)に示す如く、廻り縁部材50の基部57と、面材13の上端部とは垂直距離t3だけ離間しており、距離t3は、10〜20mm、例えば、15mmに設定される。基部57と面材13との間には、バックアップ材55及びシーリング材56が二重又は二層に敷設又は充填され、二重又は二層構造のシーリング材充填目地53が形成される。目地53の具体的な施工方法は以下のとおりである。
(1)厚さ5mm程度のバックアップ材55aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材56aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ5mm程度のバックアップ材55bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材56bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材56として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0055】
また、廻り縁部材50の水平部52と、複合パネル20の下面とは、垂直距離t4だけ離間しており、距離t4は、30〜40mm、例えば、35mmに設定される。水平部52と複合パネル20との間には、横目地空間が形成される。この横目地空間には、バックアップ材65及びシーリング材66が二重又は二層に敷設又は充填され、二重又は二層構造のシーリング材充填目地63が形成される。目地63は、壁構造体1及び天井構造体2の相対変位を吸収するように変形する弾性変形能又は粘弾性変形能を有する。目地63の具体的な施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ5mm程度のバックアップ材65aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材66aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ5mm程度のバックアップ材65bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材66bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材66として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0056】
このような天井及び壁の取合い部の構造によれば、天井構造体1及び壁構造体2が離間帯域4によって相対変位可能に離間しているので、地震時に建物の揺れが発生すると、天井構造体1及び壁構造体2は、離間帯域4において互いに拘束されることなく比較的大きく相対変位(水平変位)する。地震時の建物の挙動及び層間変位に応答した比較的大きな相対変位(水平変位)が廻り縁部材50と複合パネル20との間に発生するが、この相対変位は、目地63のシーリング材66の弾性変形又は粘弾性変形により実質的に吸収される。
【0057】
本実施形態においては、シーリング材66として、地震時の挙動又は変位に対する設計許容伸縮率及び設計許容剪断変形率が夫々、25%以上及び50%以上(好ましくは、30%以上及び60%以上)のシーリング材が使用される。気密シール構造の目地幅は、構造設計において設定された建物の層間変位角に基づく天井面レベルCPの水平変位と、これに追従するシーリング材66の設計許容伸縮率又は設計許容剪断変形率とにより設定される。
【0058】
かくして、地震時の建物の挙動及び層間変位が、目地63のシーリング材66に比較的大きく変形させ、地震力又は加振力が目地63の変形により吸収され又は分散するので、他の目地23、33、43、53や、壁面の目地73、83、93(
図5)等に作用する地震時の負荷が軽減する結果、これら目地部におけるシーリング材の破断・亀裂等の発生が、バイオハザード室Cの目地全般において抑制される。
【0059】
また、上記構成の天井・壁取合い部の構造によれば、建物の挙動又は層間変位に対する目地63の追従性を最適化することにより、バイオハザード室Cの目地全般の気密性能を比較的容易に確保することができ、従って、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって比較的容易に建築物内に区画し又は構築することが可能となる。
【0060】
図5は、壁構造体1の壁隅部Vの構造を示す横断面図であり、
図6は、
図5に示す縦目地部の拡大断面図である。
【0061】
図5には、直交する壁構造体1の壁隅部Vの構造が示されている。
図5に示すバイオハザード施設Bの部分においては、X方向の壁構造体1Xの両側にバイオハザード室Cが形成されている。また、Y方向の壁構造体1Yは、バッファエリアDとバイオハザード室Cと境界壁を構成する。壁構造体1Xは、壁構造体1Yに直角に接続されている。
【0062】
壁構造体1X、1Yの立上げ部3は一体化しているが、壁構造体1X、1Yの下部ランナ12は不連続であり、下部ランナ12の上方の壁構造は、互いに独立している。壁構造体1Xを構成する面材13の縁部13cは、壁構造体1Yを構成する面材13の室内側面(壁面)から距離s3だけ離間し、離間帯域5が形成される。離間距離s3は、60〜100mm、例えば、80mmに設定される。離間帯域5は、壁芯方向が相違する壁構造体1X、1Yの接続部又は交差部において各壁構造体の相対変位を可能にする鉛直方向の面材離間帯を構成する。離間帯域5を閉塞する壁コーナ部材70が、壁構造体1X、1Yの面材13同士を架橋するように室内側から壁隅部Vに取付けられる。
【0063】
図6に示す如く、壁コーナ部材70は、曲率半径20〜50mm程度(例えば、30mm)の湾曲部71と、湾曲部71から壁構造体1Xの側に延び且つ間柱側(室外側)に直角に屈曲した延出部72と、湾曲部71から壁構造体1Yの側に延び且つ間柱側(室外側)に直角に屈曲した基部74と、基部74に一体的に連接した垂直基板部77とを有する。基板部77は、スクリュービス等の係留具又は固定具80によって鋼製間柱11に固定される。他方、壁体内方に屈曲した壁コーナ部材70の延出部72は、シール用バッカー部材87を位置決め可能な形態を有する屈曲部79において更に屈曲して終端する。
【0064】
屈曲部79は、X方向及びY方向にカギ形に屈曲し、鋼製間柱11の各面からX方向及びY方向に距離s4、s5だけ離間する。バッカー部材87は、屈曲部79に保持される。バッカー部材87は、弾力的に変形可能な樹脂発泡体からなり、バックアップ材85(85a)と協働してシーリング材86(86a)の充填域を画成する。後述するように、屈曲部79は、鋼製間柱11と壁コーナ部材70とが地震時の壁構造体1X、1Yの相対変位により物理的に干渉するのを防止するためのものである。
【0065】
壁コーナ部材70の延出部72と、壁構造体1Xの面材13とは離間しており、その離間距離t5は、30〜40mm、例えば、35mmに設定される。面材13の縁部13cは、スクリュービス等の係留具又は固定具81によって鋼製間柱11に固定されており、延出部72及びバッカー部材87と、面材13の縁部13cとの間には、縦目地空間が形成される。この縦目地空間には、バックアップ材85及びシーリング材86が二重又は二層に敷設又は充填され、二重又は二層構造のシーリング材充填目地83が、壁コーナ部材70と面材13との間に形成される。目地83の具体的な施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ5mm程度のバックアップ材85aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材86aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ5mm程度のバックアップ材85bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材86bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材86として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0066】
本実施形態においては、シーリング材86として、地震時の挙動又は変位に対する設計許容伸縮率及び設計許容剪断変形率が夫々、25%以上及び50%以上(好ましくは、30%以上及び60%以上)のシーリング材が使用される。気密シール構造の目地幅は、構造設計において設定された建物の層間変位角に基づく壁構造体1X、1Yの相対変位と、これに追従するシーリング材86の設計許容伸縮率又は設計許容剪断変形率とにより設定される。
【0067】
また、壁コーナ部材70の基部74と、壁構造体1Yの面材13も又、相互離間しており、離間距離t6は、10〜20mm、例えば、15mmに設定される。基部74と面材13の縁部13cとの間には、縦目地空間が形成される。この縦目地空間には、バックアップ材75及びシーリング材76が二重又は二層に敷設又は充填され、二重又は二層構造のシーリング材充填目地73が、壁コーナ部材70と面材13との間に形成される。目地73の具体的な施工方法は、次のとおりである。
(1)厚さ5mm程度のバックアップ材75aを目地内に挿入する。
(2)シーリング材76aを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
(3)厚さ5mm程度のバックアップ材75bを目地内に挿入する。
(4)シーリング材76bを厚さ10〜15mm程度(例えば12mm)に目地内に注入又は充填する。
なお、シーリング材76として、シリコン系シーリング材を好ましく使用し得る。
【0068】
図5には、面材13同士を連接する壁面のシーリング材充填目地93が示されている。シーリング材充填目地93は、シーリング材充填目地73と同じく、バックアップ材及びシーリング材を二重又は二層構造に縦目地空間に挿入又は充填した目地構造を有する。
【0069】
上記の如く構成された入り隅部(壁隅部V)の構造によれば、壁構造体2同士が離間帯域5によって相対変位可能に離間するので、地震時に建物の揺れが発生すると、壁構造体2は、離間帯域5において互いに拘束されることなく比較的大きく相対変位する。地震時の建物の挙動及び層間変位に応答した比較的大きな相対変位が壁コーナ部材70と面材13との間に発生するが、この相対変位は、目地83のシーリング材86の弾性変形又は粘弾性変形により吸収される。
【0070】
また、壁構造体1X、1YがX方向又はY方向に相対変位する場合には、壁コーナ部材70及び鋼製間柱11が変位時に干渉する虞はないが、壁構造体1X、1YがX方向又はY方向の中間の角度方向(例えば、
図6に破線矢印で示す角度45度の方向)に相対変位した場合、殊に天井近傍において、鋼製間柱11の角部が壁コーナ部材70に干渉する事態が懸念される。しかしながら、屈曲部79は、このような干渉を回避すべく、鋼製間柱11の角部の挙動域を確保するクリアランスを形成しているので、壁コーナ部材70及び鋼製間柱11の干渉は、確実に防止することができる。なお、鋼製間柱11の各面に対する屈曲部79の離間距離s4、s5は、地震時の建物の挙動特性及び層間変位によって個々の建物毎に設定すべきものであるが、一般には、15mm以上の値に設定することが望ましいと考えられる。
【0071】
従って、地震時の建物の挙動及び層間変位が、目地83のシーリング材86を比較的大きく変形させ、地震力又は加振力が目地83の変形により吸収され又は分散するので、他の目地23、33、43、53、63、73、93等に作用する地震時の負荷が軽減する結果、これら目地部におけるシーリング材の破断・亀裂等の発生が、バイオハザード室Cの目地全般において抑制される。
【0072】
また、上記壁隅部Vの構造によれば、建物の挙動又は層間変位に対する目地83の追従性を最適化することにより、バイオハザード室Cの目地全般の気密性能を比較的容易に確保することができ、従って、高気密室を乾式工法の壁構造体及び天井構造体によって比較的容易に建築物内に区画し又は構築することが可能となる。
【0073】
更に、このような壁隅部Vの構造によれば、壁構造体1Xの面材13と壁コーナ部材70とは、シーリング材充填目地83によって構造的に分離し、相互の応力伝達は、遮断される。従って、壁構造体1Xに作用する地震力又は地震加速度に起因して壁構造体1Xに作用する剪断応力は、シーリング材充填目地83によって絶縁され、壁構造体1Yに伝達せず、壁構造体1Yに作用する地震力又は地震加速度に起因して壁構造体1Yに作用する剪断応力も又、シーリング材充填目地83によって絶縁され、壁構造体1Xに伝達しない。従って、壁構造体1X、1Yの各々の耐震性能を所望の如く設計することが可能となる。例えば、バイオハザード室Cの間の間仕切壁(壁構造体1X)の耐震性及び気密性と、バイオハザード施設Bの境界壁(壁構造体1Y)の耐震性及び気密性とを個別に設計することが可能となる。
【0074】
また、上記バイオハザード室Cの目地23、33、43、53、63、73、83、93は、バックアップ材及びシーリング材を二重又は二層に敷設又は充填した二重又は二層構造のシーリング材充填目地であるので、比較的劣化し易い室内側のシーリング材だけを早期に交換することにより、その気密性能を維持管理することができる。例えば、バイオハザード室Cの室内空間においては、ホルマリン、過酸化水素等による滅菌、消毒又は除染等が比較的頻繁に実施されるが、このような滅菌液等の作用で劣化又は変質するシーリング材は、室内側のシーリング材のみに限定されるので、これを交換することにより、比較的容易に気密シール構造の気密性能を維持管理することができる。
【0075】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内において種々の変更又は変形が可能であり、かかる変更又は変形例も又、本発明の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【0076】
例えば、上記実施形態は、バイオハザード施設に関するものであるが、クリーンルーム等の他の機能・用途の高気密空間の区画構造又は区画方法に本発明を適用して良い。
【0077】
また、上記実施形態に係る壁構造体は、軽量形鋼の間柱と、軽鉄(LGS)壁下地用ランナ(JIS A 6517-2010:建築用鋼製下地材)とを用いた構造のものであるが、他の構成の壁下地、例えば、軽鉄(LGS)壁下地用の鋼製スタッド(JIS A 6517-2010:建築用鋼製下地材)を間柱として用いた壁構造であっても良い。
【0078】
更に、上記実施形態に係る天井構造体は、Tバー形態の野縁によって天井面材を支持する構成のものであるが、軽鉄天井下地(JIS A 6517-2010:建築用鋼製下地材)等の他の構造の天井下地を用いた天井構造体であっても良い。
【0079】
加えて、上記実施形態においては、天井及び壁の面材として断熱パネル又は複合パネルを用いることにより、二重シール構造のための奥行寸法(目地の深さ)を確保しているが、他の手段により、目地の奥行寸法(目地の深さ)を確保しても良い。また、上記実施形態においては、施工時の軽量性又は作業性を重視し、軽量化された複合パネルを壁面材として採用したが、防火性又は耐火性を重視し、石膏ボード等の比較的重い面材又はその複合面材を壁面材として採用しても良い。