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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-227283(P2017-227283A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】駆動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20171201BHJP
【FI】
   F16D25/12 C
   F16D25/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-124678(P2016-124678)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】中村 康文
(72)【発明者】
【氏名】小松 真
【テーマコード(参考)】
3J057
【Fターム(参考)】
3J057AA03
3J057BB04
3J057EE01
3J057EE05
3J057GA12
3J057HH02
3J057JJ05
(57)【要約】
【課題】相対回転可能に配置された一対の回転部材と、一対の回転部材の間に配置された摩擦クラッチと、摩擦クラッチを収容する収容室及び潤滑油を貯留する貯留室が形成された装置ケースとを備えた駆動力伝達装置において、装置ケースを簡素に構成し、もって製造コストの抑制を図ることが可能な駆動力伝達装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達装置1の装置ケース2は、摩擦クラッチ53を有するクラッチ機構5を収容する収容室2aが形成された第1のケース部材21と、第1のケース部材21と組み合わされて潤滑油Lを貯留する貯留室2bを構成する第2のケース部材22と、収容室2aと貯留室2bとを区画する隔壁部材24とを有し、隔壁部材24が第1のケース部材21と第2のケース部材22との間に挟まれて保持されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動源の駆動力を断続可能に伝達する駆動力伝達装置であって、
同軸上で相対回転可能に配置された一対の回転部材と、
前記一対の回転部材の間に配置された複数のクラッチプレートからなる摩擦クラッチと、
前記摩擦クラッチを収容する収容室、及び前記摩擦クラッチを潤滑する潤滑油を貯留する貯留室が形成された装置ケースとを備え、
前記装置ケースは、前記収容室が形成された第1のケース部材と、前記第1のケース部材と組み合わされて前記貯留室を構成する第2のケース部材と、前記収容室と前記貯留室とを区画する隔壁部材とを有し、前記一対の回転部材のうち少なくとも何れかの回転部材の回転によって掻き上げられた潤滑油が前記貯留室に導入されると共に前記貯留室に貯留された潤滑油が導出口から前記収容室に還流されるように構成され、
前記隔壁部材は、前記第1のケース部材と前記第2のケース部材との間に挟まれて保持されている、
駆動力伝達装置。
【請求項2】
前記隔壁部材は、円盤状に形成された金属板からなり、前記第1のケース部材に形成された第1の当接面と前記第2のケース部材に形成された第2の当接面との間に挟持され、
前記隔壁部材の外周端部が前記第1の当接面に当接し、前記隔壁部材の内周端部が前記第2の当接面に当接している、
請求項1に記載の駆動力伝達装置。
【請求項3】
前記一対の回転部材の回転軸線方向における前記第1の当接面と前記第2の当接面との間隔が前記隔壁部材の厚みよりも短く、
前記隔壁部材は、外周端部及び内周端部が前記第1及び第2の当接面に当接することにより軸方向に弾性変形した状態で保持されている、
請求項2に記載の駆動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動源の駆動力を断続可能に伝達する駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の駆動源の駆動力を摩擦クラッチにより断続可能に伝達する駆動力伝達装置が、例えば四輪駆動車の補助駆動輪への駆動力伝達系に用いられている。このような駆動力伝達装置では、補助駆動輪に駆動力が伝達されない二輪駆動状態での走行時において、クラッチプレートの摩耗を抑制するための潤滑油の粘性抵抗によって発生する引き摺りトルクが燃費性能に影響を及ぼしてしまう場合がある。そこで、本出願人は、特許文献1に記載の駆動力伝達装置を提案している。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、筒状部を有する第1の回転部材と、第1の回転部材の筒状部に一部が収容されて第1の回転部材と相対回転可能な第2の回転部材と、第1の回転部材と第2の回転部材との間に配置された複数のクラッチプレートを有する摩擦クラッチ(メインクラッチ)と、第1及び第2の回転部材を摩擦クラッチと共に収容する収容室を有する装置ケースとを備えている。装置ケースには、クラッチプレートの摩擦摺動を潤滑する潤滑油が封入されている。また、装置ケースには、二輪駆動状態での走行時に第1の回転部材の回転によって掻き上げられた潤滑油を貯留するタンク部が設けられている。
【0004】
装置ケースのタンク部には、第1の回転部材の回転によって掻き上げられた潤滑油が油導入口を介して収容室から導入される。タンク部に貯留された潤滑油は、タンク部の下部に設けられた油導出口から収容室に導出される。油導出口の開口面積は、油導入口の開口面積よりも小さく、車速が高くなるほどより多くの潤滑油がタンク部に貯留され、収容室内の潤滑油が減少する。これにより、引き摺りトルクによる走行抵抗が低減され、燃費性能の向上に寄与することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−100079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置の装置ケースは、収容室及びタンク部が設けられたケース本体と、ケース本体の開口を閉塞する蓋体とを有している。ケース本体は、収容室及びタンク部の外壁と、収容室とタンク部とを区画する隔壁とが一体に形成されている。このような装置ケースは、その製造に多くの加工工程が必要となり、製造コストが嵩んでしまう。特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、この点においてなお改善の余地を有するものとなっていた。
【0007】
そこで、本発明は、相対回転可能に配置された一対の回転部材と、一対の回転部材の間に配置された摩擦クラッチと、摩擦クラッチを収容する収容室及び潤滑油を貯留する貯留室が形成された装置ケースとを備えた駆動力伝達装置において、装置ケースを簡素に構成し、もって製造コストの抑制を図ることが可能な駆動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を達成するため、車両の駆動源の駆動力を断続可能に伝達する駆動力伝達装置であって、同軸上で相対回転可能に配置された一対の回転部材と、前記一対の回転部材の間に配置された複数のクラッチプレートからなる摩擦クラッチと、前記摩擦クラッチを収容する収容室、及び前記摩擦クラッチを潤滑する潤滑油を貯留する貯留室が形成された装置ケースとを備え、前記装置ケースは、前記収容室が形成された第1のケース部材と、前記第1のケース部材と組み合わされて前記貯留室を構成する第2のケース部材と、前記収容室と前記貯留室とを区画する隔壁部材とを有し、前記一対の回転部材のうち少なくとも何れかの回転部材の回転によって掻き上げられた潤滑油が前記貯留室に導入されると共に前記貯留室に貯留された潤滑油が導出口から前記収容室に還流されるように構成され、前記隔壁部材は、前記第1のケース部材と前記第2のケース部材との間に挟まれて保持されている、駆動力伝達装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る駆動力伝達装置によれば、装置ケースを簡素に構成し、もって製造コストの抑制を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の構成例を示す構成図である。
図2】駆動力伝達装置の構成例を水平断面で示す断面図である。
図3】駆動力伝達装置の要部を垂直断面で示す断面図である。
図4】第2のケース部材と隔壁部材を第1のケース部材側から見た平面図である。
図5】(a)は、隔壁部材の図示を省略して示す図2の部分拡大図である。(b)は、隔壁部材を含む図2の部分拡大図である。
図6】(a)は、本発明の第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の部分断面図である。(b)は、(a)のA部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図5を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置が搭載された四輪駆動車の構成例を示す構成図である。
【0013】
四輪駆動車100は、走行用の駆動力を発生させる駆動源としてのエンジン102、トランスミッション103、左右一対の主駆動輪としての前輪104L,104R、及び左右一対の補助駆動輪としての後輪105L,105Rと、エンジン102の駆動力を前輪104L,104R及び後輪105L,105Rに伝達可能な駆動力伝達系101と、制御装置10及び油圧ユニット11とを備えている。なお、本実施の形態において、各符号における「L」及び「R」は、車両の前進方向に対する左側及び右側の意味で使用している。
【0014】
この四輪駆動車100は、エンジン102の駆動力を前輪104L,104R及び後輪105L,105Rに伝達する四輪駆動状態と、エンジン102の駆動力を前輪104L,104Rのみに伝達する二輪駆動状態とを切り替え可能である。なお、本実施の形態では、駆動源として内燃機関であるエンジンを適用した場合について説明するが、これに限らず、エンジンとIPM(Interior Permanent Magnet Synchronous)モータ等の高出力電動モータとの組み合わせによって駆動源を構成してもよく、高出力電動モータのみによって駆動源を構成してもよい。
【0015】
駆動力伝達系101は、駆動力伝達装置1、フロントディファレンシャル106、前輪側のドライブシャフト107L,107R、プロペラシャフト108、及び後輪側のドライブシャフト109L,109Rを有している。駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト108と後輪側のドライブシャフト109L,109Rとの間に配置されている。
【0016】
フロントディファレンシャル106は、デフケース106aと、デフケース106aに支持されたピニオンシャフト106bと、ピニオンシャフト106bに軸支された一対のピニオンギヤ106cと、一対のピニオンギヤ106cにギヤ軸を直交させて噛合する一対のサイドギヤ106dとを有している。デフケース106aには、ギヤ機構110によってトランスミッション103から出力される駆動力が伝達される。
【0017】
プロペラシャフト108は、駆動力伝達装置1とは反対側(フロント側)の一端部にギヤ部108aを有し、このギヤ部108aがデフケース106aと一体に回転するリングギヤ106eと噛み合っている。これにより、プロペラシャフト108は、四輪駆動車100の走行時において二輪駆動状態か四輪駆動状態かにかかわらず常にエンジン102の駆動力が伝達され、リングギヤ106eとギヤ部108aとのギヤ比に応じて変速されて回転する。
【0018】
前輪104L,104Rには、フロントディファレンシャル106によって配分された駆動力が前輪側のドライブシャフト107L,107Rを介して伝達される。後輪105L,105Rには、四輪駆動時にプロペラシャフト108によって伝達された駆動力が駆動力伝達装置1及び後輪側のドライブシャフト109L,109Rを介して伝達される。また、二輪駆動時には、プロペラシャフト108から後輪側のドライブシャフト109L,109Rへの駆動力の伝達が駆動力伝達装置1によって遮断される。
【0019】
油圧ユニット11は、制御装置10によって制御され、駆動力伝達装置1に作動油を供給する。駆動力伝達装置1は、この作動油の圧力によって作動し、プロペラシャフト108から後輪側のドライブシャフト109L,109Rへ駆動力を伝達する。
【0020】
(駆動力伝達装置1の全体構成)
図2は、駆動力伝達装置1の構成例を水平断面で示す断面図である。図3は、駆動力伝達装置1の要部を垂直断面で示す断面図である。図3では、図面上側が四輪駆動車100への搭載状態における鉛直方向の上側にあたり、図面下側が四輪駆動車100への搭載状態における鉛直方向の下側にあたる。
【0021】
駆動力伝達装置1は、車体に支持される装置ケース2と、プロペラシャフト108が連結される連結部材31と、連結部材31と一体に回転するピニオンギヤシャフト32と、ピニオンギヤシャフト32から伝達された駆動力を一対のサイドギヤ43から差動を許容して出力するディファレンシャル機構4と、ドライブシャフト109Lが一体回転するように連結される連結シャフト33と、ディファレンシャル機構4の一対のサイドギヤ43のうち一方のサイドギヤ43から連結シャフト33に伝達される駆動力を調節するクラッチ機構5とを備えている。
【0022】
駆動力伝達装置1は、プロペラシャフト108から伝達されるエンジン102の駆動力を後輪側のドライブシャフト109L,109Rに断続可能かつ差動を許容して伝達する。クラッチ機構5は、ドライブシャフト109Lへの駆動力伝達経路において、一方のサイドギヤ43と連結シャフト33との間に配置されている。四輪駆動車100の直進時において、クラッチ機構5によって一方のサイドギヤ43から連結シャフト33を経てドライブシャフト109Lに伝達される駆動力が調節されると、ディファレンシャル機構4の差動機能により、ドライブシャフト109Rにも、ドライブシャフト109Lに伝達される駆動力と同等の駆動力が伝達される。
【0023】
連結部材31とピニオンギヤシャフト32とは、ボルト301及び座金302によって結合されている。また、ピニオンギヤシャフト32は、軸部321とギヤ部322とを有し、軸部321が一対の円錐ころ軸受73,74によって回転可能に支持されている。ギヤ部322は、ディファレンシャル機構4のリングギヤ44に噛み合っている。
【0024】
(ディファレンシャル機構4の構成)
ディファレンシャル機構4は、デフケース40と、デフケース40に支持されたピニオンシャフト41と、ピニオンシャフト41に軸支された一対のピニオンギヤ42と、一対のピニオンギヤ42にギヤ軸を直交させて噛合する一対のサイドギヤ43と、デフケース40と一体に回転するリングギヤ44とを有している。デフケース40は、車幅方向の両端部が円錐ころ軸受71,72によって回転可能に支持されている。一対のサイドギヤ43のうち、一方のサイドギヤ43には連結シャフト33がクラッチ機構5を介して連結され、他方のサイドギヤ43にはドライブシャフト109Rが相対回転不能に連結される。図2では、後輪側のドライブシャフト109L,109Rの端部に配置された等速ジョイントのアウタレースを図示している。
【0025】
(クラッチ機構5の構成)
クラッチ機構5は、油圧ユニット11から供給される作動油の圧力によって動作する押圧部材としてのピストン50と、連結シャフト33と一体に回転する筒状のクラッチドラム51と、ディファレンシャル機構4の一対のサイドギヤ43のうち一方のサイドギヤ43と一体に回転する軸状のインナシャフト52と、クラッチドラム51とインナシャフト52との間に配置された摩擦クラッチ53と、ピストン50の押圧力を摩擦クラッチ53に伝達する押圧力伝達機構54とを有している。インナシャフト52は、連結シャフト33及びクラッチドラム51と同軸上で相対回転可能である。すなわち、インナシャフト52、連結シャフト33、及びクラッチドラム51は、回転軸線Oを共有している。以下、回転軸線Oと平行な方向を軸方向という。なお、クラッチドラム51及びインナシャフト52が本発明の一対の回転部材に相当する。
【0026】
摩擦クラッチ53は、クラッチドラム51と共に回転する複数の第1クラッチプレートとしてのアウタクラッチプレート531と、インナシャフト52と共に回転する複数の第2クラッチプレートとしてのインナクラッチプレート532とからなる。アウタクラッチプレート531とインナクラッチプレート532との摩擦摺動は、潤滑油Lによって潤滑される。本実施の形態では、摩擦クラッチ53が、9枚のアウタクラッチプレート531と、同じく9枚のインナクラッチプレート532とを有し、これらのアウタクラッチプレート531及びインナクラッチプレート532が軸方向に沿って交互に配置されている。
【0027】
摩擦クラッチ53は、ピストン50の押圧力を押圧力伝達機構54を介して受けることにより、複数のアウタクラッチプレート531と複数のインナクラッチプレート532との間に摩擦力が発生し、この摩擦力によってクラッチドラム51とインナシャフト52との間で駆動力を伝達する。ピストン50は、回転軸線Oを中心とする環状である。
【0028】
押圧力伝達機構54は、図3に示すように、インナシャフト52に相対回転不能かつ軸方向に連結された環状のスライド部材541と、スラストニードルころ軸受542と、環状に形成され、その厚さを調整することでピストン50に対するスライド部材541の位置を調整するシム543とを有している。スライド部材541は、インナシャフト52が挿通された円筒部541aと、円筒部541aの軸方向の一端部から径方向外方に突出して形成された外鍔部541bと、円筒部541aの軸方向の他端部から径方向内方に突出して形成された内鍔部541cと、外鍔部541bからピストン50側に突出して形成された保持部541dとを一体に有している。
【0029】
スラストニードルころ軸受542とシム543は、それぞれの環状内径部が保持部541dによって径方向に支持されている。スライド部材541の円筒部541aとインナシャフト52の外周面との間には、付勢部材55が配置されている。付勢部材55は、例えばバネ等の弾性体からなり、軸方向の一端部がインナシャフト52に形成された段差面52aに当接し、他端部がスライド部材541の内鍔部541cに当接している。付勢部材55は、軸方向に圧縮された状態で段差面52aと内鍔部541cとの間に配置され、その復元力によってスライド部材541を摩擦クラッチ53から離間する方向に付勢している。
【0030】
クラッチドラム51は、内周面に軸方向に延びる複数のスプライン突起からなるスプライン嵌合部511aが形成された円筒状の円筒部511と、円筒部511の一端部から内方に延在する底壁部512と、底壁部512の内周側の端部から連結シャフト33の外周面に沿って延びる連結部513とを一体に有し、ピストン50側に開口51aを有している。摩擦クラッチ53は、円筒部511の内側に配置されている。底壁部512と第1のケース部材21の内面との間にはスラストころ軸受75が配置され、このスラストころ軸受75によってクラッチドラム51の軸方向移動が規制されている。連結部513は、スプライン嵌合によって連結シャフト33に相対回転不能に連結されている。
【0031】
インナシャフト52は、軸方向の一端部がクラッチドラム51の円筒部511に収容されている。インナシャフト52は、クラッチドラム51の円筒部511の内側に配置される大径部521と、大径部521よりも外径が小さい中径部522と、一方のサイドギヤ43に相対回転不能に連結される小径部523とを一体に有している。付勢部材55の一端部が当接する段差面52aは、大径部521と中径部522との間に形成されている。インナシャフト52は、第2のケース部材22に形成された軸孔220に挿通されている。インナシャフト52の中径部522の外周面と軸孔220の内周面との間には、玉軸受76が配置されている。
【0032】
インナシャフト52には、大径部521の外周面に第1スプライン嵌合部521aが形成され、中径部522の外周面に第2スプライン嵌合部522aが形成されている。第1スプライン嵌合部521a及び第2スプライン嵌合部522aは、共に軸方向に延びる複数のスプライン突起からなる。第2スプライン嵌合部522aには、スライド部材541の内鍔部541cが嵌合している。
【0033】
アウタクラッチプレート531には、その外周側の端部にクラッチドラム51の円筒部511の内周面に形成されたスプライン嵌合部511aに係合する複数の突起531aが形成されている。これにより、アウタクラッチプレート531は、クラッチドラム51に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。また、インナクラッチプレート532には、その内周側の端部にインナシャフト52の大径部521の外周面に形成された第1スプライン嵌合部521aに係合する複数の突起532aが形成されている。これにより、インナクラッチプレート532は、インナシャフト52に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。
【0034】
インナクラッチプレート532は、外周側の一部がアウタクラッチプレート531と摩擦摺動する。インナクラッチプレート532には、アウタクラッチプレート531よりも内側にあたる部分に潤滑油Lを流通させる複数の油孔532bが形成されている。また、スライド部材541の外鍔部541bにも、潤滑油Lを流通させる複数の油孔541eが形成されている。これらの油孔532b,541eを介してクラッチドラム51の開口51aから導入された潤滑油Lは、遠心力によってアウタクラッチプレート531とインナクラッチプレート532との間を通過して、クラッチドラム51の円筒部511に形成された複数の排出孔511bから外方に排出される。
【0035】
インナシャフト52には、クラッチドラム51の連結部513、及び連結シャフト33の一部を収容する収容孔520が中心部に形成されている。収容孔520は、インナシャフト52の大径部521側の端部から中径部522の軸方向の一部に亘って形成されている。連結シャフト33は、収容孔520の内面との間に配置された玉軸受77、及び第1のケース部材21との間に配置された玉軸受78によって回転可能に支持されている。
【0036】
(装置ケース2の構成)
装置ケース2は、クラッチ機構5を収容する収容室2aが形成された第1のケース部材21と、第1のケース部材21と組み合わされて潤滑油Lを貯留する貯留室2bを形成する第2のケース部材22と、ディファレンシャル機構4を収容する収容室2cが形成された第3のケース部材23と、収容室2aと貯留室2bとを区画する隔壁部材24とを有している。第1のケース部材21と第2のケース部材22とは複数のボルト201によって締結され、第2のケース部材22と第3のケース部材23とは複数のボルト202によって締結されている。図2及び図3では、複数のボルト201,202のうち、それぞれ1つずつのボルト201,202を図示している。
【0037】
装置ケース2において、第1のケース部材21の収容室2aと、第3のケース部材23の収容室2cとは、第2のケース部材22の中心部に形成された軸孔220の内面に固定されたシール部材61によって区画されている。収容室2aには、摩擦クラッチ53の複数のアウタクラッチプレート531と複数のインナクラッチプレート532との摩擦摺動を潤滑するのに適した粘度の潤滑油Lが封入されている。第3のケース部材23の収容室2cには、ギヤの潤滑に適した粘度のデフオイル(図示せず)が封入されている。
【0038】
第1のケース部材21には、連結シャフト33を挿通させる挿通孔の内面にシール部材62が嵌着されている。第3のケース部材23には、ドライブシャフト109Rを挿通させる挿通孔の内面にシール部材63が嵌着され、連結部材31及びピニオンギヤシャフト32を挿通させる挿通孔の内面にシール部材64が嵌着されている。
【0039】
図4は、第2のケース部材22及び隔壁部材24を第1のケース部材21側から見た平面図である。図4では、図面上側が四輪駆動車100への搭載状態における鉛直方向の上側にあたる。
【0040】
第2のケース部材22には、ピストン50に油圧を付与して摩擦クラッチ53側に移動させる作動油が供給される環状のシリンダ室22a、及びシリンダ室22aに作動油を供給する作動油供給孔22b(図2参照)が設けられている。図2では、作動油供給孔22bを破線で示している。
【0041】
シリンダ室22a及び貯留室2bは、回転軸線Oを中心として同心状に形成された円環状である。第2のケース部材22において、貯留室2bはシリンダ室22aよりも外周側に形成されている。第2のケース部材22には、貯留室2bとシリンダ室22aとの間に、円筒状の環状壁部221が設けられている。シリンダ室22a及び貯留室2bは、共に第1のケース部材21の収容室2aに開口し、第3のケース部材23側に向かって回転軸線O方向に窪む凹部として形成されている。貯留室2bは、凹部の開口の一部が環状の隔壁部材24によって閉塞されている。
【0042】
シリンダ室22aには、作動油供給孔22bを介して油圧ユニット11から作動油が供給される。ピストン50は、軸方向の一部がシリンダ室22a内に配置された状態で回転軸線O方向に進退移動可能であり、シリンダ室22aに供給される作動油の油圧によって収容室2a側に移動して摩擦クラッチ53を押圧する。また、ピストン50は、シリンダ室22aの作動油の圧力が低下すると、押圧力伝達機構54を介して受ける付勢部材55の付勢力によってシリンダ室22aの奥側に移動し、摩擦クラッチ53から離間する。ピストン50の内周面及び外周面には、それぞれ周方向溝が形成され、これらの周方向溝にOリング81,82(図3に示す)が保持されている。Oリング81,82は、ピストン50の進退移動に伴い、シリンダ室22aの内面を摺動する。
【0043】
四輪駆動車100の前進走行時には、クラッチドラム51が図4の反時計回り方向に回転する。また、図4では、四輪駆動車100が停止してクラッチドラム51及びインナシャフト52が回転停止状態にある場合の潤滑油Lの油面を符号Lで示し、四輪駆動車100の高速走行時(例えば100km/h)における貯留室2bの潤滑油Lの油面を符号Lで示している。
【0044】
隔壁部材24は、環状に形成された冷間圧延鋼板等の金属板からなる。隔壁部材24は、には、その下端部付近に隔壁部材24を板厚方向に貫通する貫通孔241が形成されている。この貫通孔241は、貯留室2bに貯留された潤滑油Lを収容室2aに導出する導出口として機能する。また、隔壁部材24の上端部には、隔壁部材24をその周方向に回り止めするための切り欠き242が形成され、この切り欠き242に第2のケース部材22に形成された突部222が係合する。
【0045】
第2のケース部材22には、クラッチドラム51の回転によって掻き上げられた潤滑油Lを貯留室2bに導く導入口22cが形成されている。導入口22cは、貯留室2bの開口が、その上端部において隔壁部材24の外縁よりも外側に張り出して形成されている。図4の図示例では、導入口22cが水平方向に張り出している。なお、第1のケース部材21は、導入口22cと軸方向に向かい合う部位に図略の切り欠きが形成されている。
【0046】
クラッチドラム51の回転によって収容室2a内の潤滑油Lが掻き上げられると、掻き上げられた潤滑油Lが導入口22cから貯留室2bの内部に導入される。貯留室2bには、クラッチドラム51の回転速度が高いほど、多くの潤滑油Lが導入される。また、隔壁部材24の貫通孔241からは、貯留室2bにおける油面の高さ(油面高)が高いほど、多くの潤滑油Lが収容室2aに導出される。
【0047】
このため、車速が上昇する加速時には貯留室2bに貯留される潤滑油Lが増大して収容室2a内の潤滑油Lが減少し、減速時には貯留室2bに貯留される潤滑油Lが減少して収容室2a内の潤滑油Lが増大する。このように、装置ケース2は、クラッチドラム51の回転によって掻き上げられた潤滑油Lが貯留室2bに導入されると共に、貯留室2bに貯留された潤滑油Lが隔壁部材24の貫通孔241から収容室2aに還流されるように構成されている。
【0048】
隔壁部材24は、第1のケース部材21と第2のケース部材22との間に挟まれて保持されている。次に、この隔壁部材24の保持構造について、図5を参照して詳細に説明する。
【0049】
図5(a)は、隔壁部材24の図示を省略して示す図2の部分拡大図である。図5(b)は、隔壁部材24を含む図2の部分拡大図である。
【0050】
貯留室2bの内周内面(内周側の内面)2bi、底面2bb、及び外周内面(外周側の内面)2boは、第2のケース部材22に形成されている。
【0051】
隔壁部材24は、第1のケース部材21に形成された第1の当接面21aと第2のケース部材22に形成された第2の当接面22dとの間に挟持されている。本実施の形態では、第1の当接面21aが、第2のケース部材22と向かい合う第1のケース部材21の軸方向端面に形成されている。より具体的には、第1のケース部材21の軸方向端面のうち、内径側の一部が第1の当接面21aとなっている。また、第2の当接面22dは、第2のケース部材22の環状壁部221の外周面において外径が異なる段差部の段差面として形成されている。第1の当接面21aは、貯留室2b側を指向する軸方向に対して垂直な面であり、第2の当接面22dは、収容室2a側を指向する軸方向に対して垂直な面である。
【0052】
隔壁部材24は、その外周端部が第1の当接面21aに当接し、内周端部が第2の当接面22dに当接している。図5(a)に示すように、軸方向における第1の当接面21aと第2の当接面22dとの間隔をgとすると、この間隔gは、隔壁部材24の厚みtよりも狭い。隔壁部材24の厚みtは、例えば1.0mmであり、第1の当接面21aと第2の当接面22dとの間隔gは、例えば0.9mmである。
【0053】
このため隔壁部材24は、外周端部及び内周端部が第1及び第2の当接面21a,22dに当接することにより、軸方向に弾性変形した状態で保持されている。具体的には、第1の当接面21aに当接する隔壁部材24の外周端部が、第2の当接面22dに当接する内周端部よりも第2のケース部材22側(貯留室2bの軸方向の奥側)に偏って位置している。そして、隔壁部材24は、その復元力により、外周端部が第1の当接面21aに弾性的に押し付けられ、内周端部が第2の当接面22dに弾性的に押し付けられている。これにより、貯留室2bに貯留された潤滑油Lが隔壁部材24の内周又は外周から収容室2aに漏れ出すことが抑制されている。
【0054】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
以上説明した第1の実施の形態によれば、収容室2aと貯留室2bとが隔壁部材24によって区画され、隔壁部材24が第1のケース部材21と第2のケース部材22との間に挟まれて保持されるので、例えば隔壁部材24を第1のケース部材21又は第2のケース部材22と一体に形成する場合に比較して、装置ケース2を簡素に構成して製造コストの抑制を図ることが可能となる。
【0055】
また、隔壁部材24は、外周端部が第1の当接面21aに当接すると共に内周端部が第2の当接面22dに当接して保持されるので、例えば第1の当接面21aと第2の当接面22dとの間隔gに製造上の誤差があったとしても、隔壁部材24が弾性変形することでその誤差が吸収され、隔壁部材24を確実に保持することができる。
【0056】
またさらに、隔壁部材24は、軸方向に弾性変形した状態で保持されるので、外周端部が第1の当接面21aに密着すると共に内周端部が第2の当接面22dに密着し、貯留室2bに貯留された潤滑油Lが隔壁部材24の内周又は外周から収容室2aに漏れ出すことが確実に抑止される。
【0057】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について、図6を参照して説明する。第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置は、隔壁部材24の保持構造が第1の実施の形態と異なり、その他の構成については第1の実施の形態と共通であるので、図6において第1の実施の形態で説明したものに対応する部材等については、図2乃至5に用いたものと同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0058】
図6(a)は、第2の実施の形態に係る駆動力伝達装置の部分断面図である。図6(b)は、図6(a)のA部拡大図である。
【0059】
本実施の形態では、貯留室2bの内周内面(内周側の内面)2bi、底面2bb、及び外周内面(外周側の内面)2boが第2のケース部材22に形成されている。また、本実施の形態では、第1のケース部材21に段差面として形成された第1の当接面21aと第2のケース部材22の軸方向端面22fとの間に、隔壁部材24の外周端部が挟まれている。隔壁部材24の内周端部は、貯留室2bの内周内面2bi(環状壁部221の外周面)に接触している。なお、隔壁部材24の内周端部と貯留室2bの内周内面2biとの間に僅かな隙間が形成されていてもよい。
【0060】
本実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、装置ケース2を簡素に構成して製造コストの抑制を図ることが可能となる。
【0061】
(付記)
以上、本発明を第1及び第2の実施の形態に基づいて説明したが、上記に記載した各実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【0062】
また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、摩擦クラッチ53を押圧する押圧部材が作動油の圧力によって動作するピストン50である場合について説明したが、これに限らず、例えば電動モータの出力トルクによって作動するカム機構のカム推力によって摩擦クラッチ53を押圧するようにしてもよい。この場合、例えばカム機構を構成するカム部材が摩擦クラッチ53を押圧する押圧部材となる。
【0063】
また、上記実施の形態では、クラッチドラム51の回転によって掻き上げられた潤滑油Lが貯留室2bに導入される場合について説明したが、これに限らず、インナシャフト52の回転によって掻き上げられた潤滑油Lが貯留室2bに導入されるようにしてもよい。この場合、例えば潤滑油Lを掻き上げるための羽根等が設けられた掻き上げ部材をインナシャフト52と一体に回転するように固定してもよい。
【0064】
また、上記実施の形態では、クラッチドラム51が連結シャフト33と一体に回転し、インナシャフト52の外周面にインナクラッチプレート532と係合する第1スプライン嵌合部521aが形成された場合について説明したが、クラッチドラム51をインナシャフト52と一体に回転するように連結し、連結シャフト33の外周面にインナクラッチプレート532と係合するスプライン嵌合部を形成してもよい。この場合、クラッチドラム51及び連結シャフト33が本発明の一対の回転部材に相当する。
【0065】
また、上記実施の形態では、駆動力伝達装置1がディファレンシャル機構4を有する場合について説明したが、これに限らず、駆動力伝達装置を入力回転部材(例えばインナシャフト52)から出力回転部材(連結シャフト33)に駆動力を断続可能に伝達する1入力1出力のものとして構成することも可能である。この場合、装置ケース2は、第1のケース部材21及び第2のケース部材22からなる。
【0066】
またさらに、第1のケース部材21を複数の分割体から構成してもよい。例えば、上記実施の形態では、第1のケース部材21が、スラストころ軸受75が当接する底部とクラッチドラム51に対向する内周面を有する円筒部とを有する有底円筒状の一体の部材からなる場合について説明したが、これらの底部と円筒部とを、例えばボルトによって結合される2つの分割体として構成してもよい。また、第2のケース部材21を複数の分割体から構成してもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…駆動力伝達装置 2…装置ケース
21…第1のケース部材 21a…第1の当接面
22…第2のケース部材 22d…第2の当接面
24…隔壁部材 2a…収容室
2b…貯留室 51…クラッチドラム(回転部材)
52…インナシャフト(回転部材) 53…摩擦クラッチ
531…アウタクラッチプレート 532…インナクラッチプレート
L…潤滑油
図1
図2
図3
図4
図5
図6