【解決手段】基準発振器からの基準信号に基づいて、時間変化する周波数の出力信号を生成する局部発振器と、前記局部発振器からの出力信号が入力され、所定の通過帯域の信号を通過させて出力する可変帯域通過フィルタを備え、前記通過帯域は、前記局部発振器からの前記出力信号の周波数の時間変化に追従して、当該周波数を含むように制御される、不要放射抑制装置とする。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施形態について説明する。実施形態の構成は例示であり、発明の構成は、開示の実施形態の具体的構成に限定されない。発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。
【0012】
〔実施形態〕
(構成例)
〈レーダ装置の構成例〉
図1は、本実施形態に係るレーダ装置の構成例である。本実施形態に係るレーダ装置1は、車両に搭載され、他の車両、標識、ガードレール等、車両の周囲に存在する物標を検知することに用いることができる。但し、本実施形態に係るレーダ装置1は、車載レーダ装置以外の各種用途(例えば、飛行中の航空機や航行中の船舶の監視等)に用いられてもよい。レーダ装置1は、不要放射抑制装置の一例である。
【0013】
レーダ装置1は、基準発振器101、PLL回路102、帯域通過フィルタ103、送信回路104、送信アンテナ105、受信アンテナ106、受信回路107、帯域通過フィルタ108、ミキサ109、BB回路110、制御部111を含む。
【0014】
基準発振器101は、基準の周波数の信号(基準信号)を出力する発振器である。基準発振器101は、基準信号をPLL回路102に出力する。
【0015】
PLL回路102は、入力される基準信号にフィードバック制御を加えて、所定の周波数の信号を出力する電子回路である。PLL回路102は、制御部111による制御により、出力信号の周波数を変化させることができる。PLL回路102は、局部発振器の一例である。PLL回路102については後に説明する。
【0016】
帯域通過フィルタ103は、所定の帯域の信号を通過させ、所定の帯域以外の信号を減衰させるフィルタである。帯域通過フィルタ103は、制御部111による制御により、信号を通過させる帯域を変化させることができる。帯域通過フィルタ103は、所定の第1周波数以上の信号を通過させるハイパスフィルタと、所定の第2周波数(>第1周波数)以下の信号を通過させるローパスフィルタとを組み合わせて実現されてもよい。
【0017】
送信回路104は、帯域通過フィルタ103の出力を増幅して、送信信号を生成する回路である。
【0018】
送信アンテナ105は、送信回路104で生成された送信信号を送信する。
【0019】
受信アンテナ106は、送信アンテナ105からの送信信号等が物標等によって反射された信号等を受信する。
【0020】
受信回路107は、受信アンテナで受信された信号を増幅して出力する回路である。
【0021】
帯域通過フィルタ108は、所定の帯域の信号を通過させ、所定の帯域以外の信号を減衰させるフィルタである。帯域通過フィルタ108は、制御部111による制御により、信号を通過させる帯域を変化させることができる。帯域通過フィルタ103、帯域通過フィルタ108は、可変帯域通過フィルタの一例である。
【0022】
ミキサ109は、受信回路107の出力と、帯域通過フィルタ108の出力とを乗算してベースバンド信号を生成し、BB回路110に出力する。
【0023】
BB(Base Band)回路110は、ミキサ109で生成されたベースバンド信号に対す
る所定の処理を行う。
【0024】
制御部111は、PLL回路102から出力される信号の周波数、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108で通過させる帯域を、制御する。制御部111は、例えば、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の容量可変素子に印加する直流電圧を制御する。帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108は、制御部111によって同様に制御される。制御部111は、例えば、コンピュータプログラムに従って信号の演算処理を行うプロセッサや、演算処理に係る情報を記憶するメモリを備えたコンピュータによって実現される。メモリは、コンピュータプログラムや設定値を記憶する補助記憶部や、演算処理に用いる情報を一時的に記憶する主記憶部など、複数のメモリから構成されてもよい。制御部111は、例えば、PLL回路102から出力される信号を、FM−CWレーダやFCMレーダのFM変調信号に制御する。また、制御部111は、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の通過帯域(印加電圧)を、FM変調信号のタイミングにともなって制御する。
【0025】
〈PLL回路の構成例〉
図2は、レーダ装置のPLL回路の構成例を示す図である。レーダ装置1のPLL回路102は、位相比較器201、LPF202、VCO203、分周器204を含む。
【0026】
位相比較器201は、基準発振器101から入力される基準信号と、分周器204から入力される参照信号との位相差を電圧に変換して出力する回路である。
【0027】
LPF(Low Pass Filter)202は、信号のうち、遮断周波数よりも低い周波数の成
分を通過させ、遮断周波数よりも高い周波数の成分を減衰させるフィルタである。LPF202は、位相比較器201からの信号を平滑化する。
【0028】
VCO(Voltage Controlled Oscillator)203は、入力された信号の電圧によって
、出力する信号の周波数を制御する回路である。
【0029】
分周器204は、入力された信号の周波数を整数分の1倍の周波数にして、出力する回路である。分周器204の分周する比率を制御することで、PLL回路102が出力する信号の周波数を制御することができる。分周器204には、VCO203の出力が入力される。
【0030】
《PLL回路の出力の例》
PLL回路102は、基準発振器101から出力される基準信号と、分周器204から出力される信号とを同期する。分周期204の入力は、VCO203の出力であることから、VCO203の出力信号の周波数は、基準信号の周波数の分周数倍(分周器204が入力信号の周波数をN分の1倍の周波数にする場合、N倍)の周波数となる。分周器203の分周する比率を変化させることで、出力信号の周波数を変化させることができる。
【0031】
図3は、PLL回路の出力の例を示す図である。
図3のグラフの横軸は、出力信号の周波数であり、縦軸は出力信号のレベルである。
図3の例では、所望の信号の周波数(基準信号の周波数のN倍)で、出力信号の最も高いピークが現れている。当該ピークの信号がレーダ装置1で出力したい信号である。また、最も高いピークから、基準信号の周波数分離れた位置等に、不要放射のピーク(
図3において楕円で囲まれた部分)が現れている(
図3において楕円で囲まれた部分)。これらの不要放射のピークは、PLL回路1の特性によって現れる。これらの不要放射のピークは、レーダ装置1から出力させたくない信号である。不要放射のピークの周波数は、所望の信号の周波数が変化するのに伴って、変化する。したがって、周波数固定のバンドパスフィルタ等では、不要放射のピークを除去することは難しい。
【0032】
〈帯域通過フィルタの構成例〉
帯域通過フィルタ103、帯域通過フィルタ108は、例えば、マイクロストリップ線路によって実現される。マイクロストリップ線路は、一方の面に導体を形成した板状の誘電体の他方の面に線状の導体を形成した構造を有する伝送路である。ここでは、誘電体として、液晶素子が用いられる。液晶素子には、可変の直流電圧が印加される。液晶素子は、印加される電圧によって、誘電率を変化させることができる。マイクロストリップ線路では、誘電体の誘電率が変化することで、通過する電磁波の周波数が変化する。なお、上記の例では帯域通過フィルタ103、帯域通過フィルタ108をマイクロストリップ線路を用いて実現したが、必ずしもマイクロストリップ線路を用いなくてもよく、プリント基板上に後述する可変容量素子等を実装して構成してもよく、また、可変容量素子等を含む集積回路として構成してもよい。
【0033】
帯域通過フィルタ103、帯域通過フィルタ108は、通過帯域を、出力信号の所望の周波数の範囲で変更できるフィルタであればよく、マイクロストリップ線路に限定されるものではない。
【0034】
図4は、マイクロストリップ線路の構成例、及び、マイクロストリップ線路の等価回路の例を示す図である。
図4のマイクロストリップ線路は、板状の容量可変素子の、一方の面に導体が形成され、他方の面に線状の導体が形成された構造を有する。容量可変素子には、可変の直流電圧が印加されるように形成される。容量可変素子に印加される直流電圧は、制御部111によって制御される。
図4の例では、複数の容量可変素子が配置される。容量可変素子は、印加される電圧を変更することにより、静電容量が変化する。容量可変素子は、例えば、液晶素子である。液晶素子を用いることで、ストリップ線路の一部として可変容量素子を一体的に形成することができ、通過帯域の制御特性が向上し、より効果的に、不要放射を抑制することができる。ただし、容量可変素子は、液晶素子に限定されるものではない。容量可変素子は、印加電圧等によって静電容量が変化する素子であればよく、たとえば可変容量ダイオードなどを用いることもできる。
図4のマイクロストリップ線路では、信号が線状導体の左側から入力され、線状導体の右側から出力される。また、
図4のマイクロストリップ線路の等価回路は、並列の容量可変コンデンサ及びコイルと、直列の容量可変コンデンサ及びコイルとを組み合わせることにより表される。当該等価回路は、コンデンサとコイルによる共振回路であり、入力される信号のうち共振周波数
近傍の成分を通過させ、共振周波数近傍以外の成分を減衰させる。マイクロストリップ線路の共振周波数は、容量可変素子に印加される電圧に依存する。マイクロストリップ線路の共振周波数は、帯域通過フィルタの通過帯域の通過特性のピークの周波数に相当する。即ち、容量可変素子に印加される電圧を変更することにより帯域通過フィルタの通過帯域を変更することができる。
図4のマイクロストリップ線路では、形状や印加電圧に基づく通過帯域外の信号が減衰されて出力される。
【0035】
図5は、
図4のマイクロストリップ線路の印加電圧と共振周波数との関係を示す図である。
図5のグラフの横軸は、マイクロストリップ線路の容量可変素子への印加電圧であり、縦軸はマイクロストリップ線路の共振周波数である。共振周波数の範囲が出力信号の所望の周波数の範囲となるように、マイクロストリップ線路が設計される。マイクロストリップ線路の設計は、周知の方法が使用され得る。さらに、印加電圧と共振周波数との関係が線形となる共振周波数の範囲が、出力信号の所望の周波数の範囲となるようにマイクロストリップ線路を設計することで、マイクロストリップ線路の共振周波数の制御が容易になる。
図5のグラフの例では、線形領域で、印加電圧が増大すると、共振周波数が低下する。
【0036】
図6は、マイクロストリップ線路に入力される信号の周波数と、通過特性との関係の例を示す図である。
図6のグラフでは、横軸がマイクロストリップ線路に入力される信号の周波数であり、縦軸がマイクロストリップ線路を通過する信号の通過特性である。縦軸の値が大きいほど、マイクロストリップ線路を通過する信号の割合が高くなる。
図6の例では、マイクロストリップ線路の容量可変素子の容量がAであるとき、マイクロストリップ線路の通過帯域は、周波数Xを中心とした領域となる。通過帯域は、通過特性が所定値以上の領域である。同様に、マイクロストリップ線路の容量可変素子の容量がBであるとき、マイクロストリップ線路の通過帯域は、周波数Yを中心とした領域となる。マイクロストリップ線路の容量可変素子の容量がCであるとき、マイクロストリップ線路の通過帯域は、周波数Zを中心とした領域となる。よって、例えば、PLL回路102の出力信号の周波数がXであるときには、容量可変素子の容量がAとなるように電圧を印加することで、周波数Xの信号を通過させることができる。さらに、周波数Xの周辺の不要放射による信号を除去することができる。マイクロストリップ線路の通過帯域は、容量可変素子の静電容量によって制御される。
【0037】
(動作例)
レーダ装置1の動作例について、説明する。レーダ装置1の基準発振器101は、所定の周波数の基準信号をPLL回路102に出力する。PLL回路102は、分周器204の分周の比率に基づく周波数の信号を出力信号として出力する。分周器204の分周の比率は、制御部111によって制御される。PLL回路102の出力信号には、不要放射の成分も含まれる。
【0038】
PLL回路102は、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108に、信号を出力する。制御部111は、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の容量可変素子に印加する電圧を制御して、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の通過帯域がPLL回路102の出力信号の周波数を含むようにする。これにより、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108から出力される信号は、不要放射の成分を減衰された信号となる。
【0039】
送信回路104は、帯域通過フィルタ103からの信号を増幅して、送信アンテナ105に出力する。送信アンテナ105は、送信回路104の出力を送信する。
【0040】
一方、受信アンテナ106は、送信アンテナ105から送信されて物標等で反射された
信号等を受信する。受信回路107は、受信アンテナ106が受信した信号を増幅して、ミキサ109に出力する。
【0041】
ミキサ109は、帯域通過フィルタ108の出力及び受信回路107の出力を乗算してベースバンド信号を生成し、BB回路110に出力する。BB(Base Band)回路110
は、ミキサ109で生成されたベースバンド信号に対する所定の処理を行う。ミキサ109に入力される信号において、不要放射の成分が除去されているため、誤ターゲットの検出やノイズレベルの上昇を抑制することができる。
【0042】
PLL回路102の出力信号の周波数に追従して、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の通過帯域を変更するため、出力信号の周波数に追従して周波数が変化する不要放射の信号を除去することができる。また、不要放射の成分が、PLL回路102の後段で除去されることで、不要放射の成分が送信アンテナ105から出力されない。したがって、BB回路110におけるベースバンド信号に対する処理においても不要放射の成分による影響を除去する処理を行わなくてもよい。また、PLL回路102の後段で、不要放射の成分を除去することができるので、PLL回路102のスプリアス性能に関する設計の自由度が上がる。
【0043】
図7は、PLL回路の出力信号の周波数、容量可変素子への印加電圧、帯域通過フィルタの通過帯域のピーク周波数の時間依存性の例を示す図である。
図7(a)は、PLL回路102の出力信号の周波数の時間依存性を示す。PLL回路102の出力信号の周波数は、制御部111によって制御される。ここでは、FM−CWレーダのFM変調信号である三角波変調の例を示す。三角波変調では、出力信号の周波数が、周波数A及び周波数B(<A)の間で、上昇下降を繰り返す。出力信号の周波数の上昇下降にともなって不要放射の周波数も上昇下降を繰り返すことになる。
【0044】
図7(b)は、帯域通過フィルタ103の容量可変素子に印加される直流電圧の時間変化の例を示す。帯域通過フィルタ103の共振周波数は、印加電圧によって、
図5のグラフのように変化するとする。ここでは、PLL回路102の出力信号の周波数がAであるときに、印加電圧がDとなり、PLL回路102の出力信号の周波数がBであるときに、印加電圧がCとなっている。
【0045】
図7(c)は、帯域通過フィルタ103の通過帯域のピークの周波数の時間変化の例を示す。帯域通過フィルタ103の通過帯域のピークは、帯域通過フィルタ103の共振周波数である。帯域通過フィルタ103の通過帯域のピークは、印加電圧の変化にともなって変化する。印加電圧がDであるときに、通過帯域のピークの周波数はAとなっている。また、印加電圧がCであるときに、通過帯域のピークの周波数はBとなっている。通過帯域のピークの周波数はPLL回路102の出力信号の周波数とほぼ一致する。制御部111は、容量可変素子への印加電圧を、PLL出力信号の周波数の変化に合わせて制御することで、通過帯域のピークの周波数をPLL回路102の出力信号の周波数に一致させる。これにより、帯域通過フィルタ103は、PLL回路102の出力信号に含まれる不要放射の成分を減衰させることができる。帯域通過フィルタ108についても同様である。レーダ装置1は、帯域通過フィルタ103により、送信アンテナ105からの、レーダのFM変調信号に伴う不要放射を抑制することができる。
【0046】
ここで、PLL回路102において、出力信号の周波数はVCO203に入力される電圧に依存する。また、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108において、共振周波数は容量可変素子に印加される電圧に依存する。また、PLL回路102の出力信号の周波数と、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の共振周波数は、一致することが求められる。そこで、VCO203に入力される電圧を用いて、容量可変素
子に印加される電圧を設定してもよい。これにより、より簡易に、PLL回路102の出力信号の周波数と帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の共振周波数とが、同期して一致することができる。
【0047】
(本実施形態の作用、効果)
レーダ装置1は、PLL回路102の出力側に帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108を設けることで、PLL回路102で発生する不要放射の成分を減衰させる。ローカル系(Lo系:PLL回路等の局部発振器から出力された信号が通過する系)で不要信号を除去することで、後段の信号処理(例えば、BB回路110における処理)でのノイズ除去が不要になり、また、レーダ装置1としてのノイズレベルの上昇を抑制することができる。レーダ装置1は、PLL回路102の出力信号の周波数が、時間変化する場合、帯域通過フィルタ103及び帯域通過フィルタ108の通過帯域を、出力信号の周波数に追従して変化させることで、不要放射の成分を減衰させる。レーダ装置1は、出力信号の周波数が時間変化する場合であっても、不要放射を効果的に抑制することができる。
【0048】
〈コンピュータ読み取り可能な記録媒体〉
コンピュータその他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記いずれかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0049】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体内には、CPU、メモリ等のコンピュータを構成する要素を設け、そのCPUにプログラムを実行させてもよい。
【0050】
また、このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R/W、DVD、DAT、8mmテープ、メモリカード等がある。
【0051】
また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。