【解決手段】実施形態に係るレーダ装置は、物標からの反射波を複数の受信アンテナで受信した受信信号間の位相差に基づいて物標の角度を算出するレーダ装置であって、送信部と、算出部と、第1判定部と、第2判定部とを備える。送信部は、ビームパターンがそれぞれ異なる第1送信波および第2送信波を交互に送信する。算出部は、第1送信波による反射波および第2送信波による反射波の各受信信号に基づき、第1送信波および第2送信波によるそれぞれの受信レベルと、物標が存在すると推定される推定角度を算出する。第1判定部は、算出部によって算出された受信レベル同士のレベル差と、推定角度に予め対応付けられたレベル差の基準値との比較に基づき、レベル差の確度を判定する。第2判定部は、第1判定部の判定結果と、第1送信波による受信レベルとに基づき、推定角度における物標の存否を判定する。
前記第2判定部によって前記折り返しゴーストであると判定された前記物標につき、当該物標の移動する向き、または、当該物標の折り返し元となる別物標の存否に基づいて低反射物であるか否かを判定する第3判定部
をさらに備えること
を特徴とする請求項3、4または5に記載のレーダ装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本願の開示するレーダ装置および物標検知方法の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
また、以下では、本実施形態に係る物標検知方法の概要について
図1A〜
図1Eを用いて説明した後に、実施形態に係る物標検知方法を適用したレーダ装置について、
図2〜
図11Bを用いて説明することとする。なお、
図1A〜
図7Bを用いた説明では、第1の実施形態について、
図8A〜
図11Bを用いた説明では、第2の実施形態について、それぞれ説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
まず、本実施形態に係る物標検知方法の概要について
図1A〜
図1Eを用いて説明する。
図1A〜
図1Eは、実施形態に係る物標検知方法の概要説明図(その1)〜(その5)である。
【0016】
図1Aに示すように、レーダ装置1は、たとえば自車両MCのフロントグリル内に搭載され、自車両MCの進行方向に存在する物標を検出する。なお、レーダ装置1が設置される位置は限定されるものではなく、たとえばフロントガラスやリアグリル、左右の側部(たとえば、左ドアミラーや右ドアミラー)などその他の場所に設置されていてもよい。
【0017】
そして、本実施形態では、レーダ装置1は、ビームパターンがそれぞれ異なる送信波を自車両MCの進行方向に向けて交互に送信する。具体的には、レーダ装置1は、狭角ビームBPSと、広角ビームBPWとを送信する。
【0018】
狭角ビームBPSおよび広角ビームBPWは、送信軸CLが同一である。また、狭角ビームBPSは、送信範囲が広角ビームBPWの送信範囲より狭く、かつ、送信距離が広角ビームBPWの送信距離より長い。そして、狭角ビームBPSおよび広角ビームBPWの送信範囲の一部は、レーダ装置1の正面、言い換えれば、送信軸CLの方向において重畳している。
【0019】
したがって、狭角ビームBPSは、送信軸CLに対する送信範囲は広角ビームBPWに比べて狭いが、送信パワーは広角ビームBPWに比べて大きい。なお、
図1Aに示すゾーンCは、レーダ装置1が認識可能な反射波の位相差360[deg](±180[deg])未満の範囲に対応する。かかるゾーンCの右側(+側)の領域はゾーンAとする。また、左側(−側)の領域はゾーンBとする。
【0020】
図1Bに示すのは、このような狭角ビームBPSおよび広角ビームBPWによる反射波の到来角度に対する受信レベル(受信パワー)である。まず、ゾーンCに物標が存在する場合、
図1Bに示すように、かかる物標からの反射波について、狭角ビームBPSによる受信レベルTX1は、広角ビームBPWによる受信レベルTX2よりも大きくなる。
【0021】
一方、ゾーンAまたはBに物標が存在する場合は逆に、かかる物標からの反射波について、狭角ビームBPSによる受信レベルTX1は、広角ビームBPWによる受信レベルTX2よりも小さくなる。
【0022】
したがって、レーダ装置1が実測する反射波の到来角度が、位相の折り返されていない「折り返しなし」の角度であるのか、位相の折り返された「折り返しあり」の角度であるのかを判定する「折り返し判定」にあたっては、かかる受信レベルTX1,TX2同士のレベル差を利用することができる。
【0023】
具体的には、まず、実測した反射波の到来角度については、実際に物標が存在する可能性のある実在角度の候補(以下、「候補角度」と言う)を、理論上定めることができる。すなわち、候補角度は、実測した到来角度が「折り返しなし」である場合の角度と、「折り返しあり」である場合の角度とを含む。
【0024】
これら候補角度に対してはそれぞれ、たとえば実験等により得られたデータ(たとえば
図1B参照)に基づいて上記レベル差の基準値を予め対応付けることができる。すなわち、実測した到来角度に物標が実際に存在する場合、しない場合それぞれにおける上記レベル差のマッピング情報である。本実施形態では、これをマップ情報74a(
図2以降参照)として設けることとした。マップ情報74aの具体例については、
図6A以降を用いて説明する。
【0025】
そして、実測した到来角度に対応する候補角度ごとの基準値と、実測した受信レベルTX1,TX2から算出したレベル差とを比較して、算出したレベル差が、どの基準値に最も近いかを判定する。ここで、最も近い基準値に対応する候補角度が「折り返しなし」であるか、「折り返しあり」であるかにより、実測した到来角度が「折り返しなし」であるか、「折り返しあり」であるかを判定し、到来角度に物標が実在するか否かを判定することができる。
【0026】
しかしながら、このように「折り返し判定」を行う場合であっても、
図1Cに示すように、実在しない折り返しゴーストGを、実在する物標として誤検知してしまうケースがある。
【0027】
ここで、
図1Cに示すように、自車両MCに対し、その隣接レーンにトラックTRが先行して走行し、トラックTRの荷台には、平面視で略L字状の積載物BGが積載されているものとする。
図1Dには、
図1C中のM1部を拡大した模式図を示した。
【0028】
図1Dに示すように、たとえば積載物BGは、レーダ装置1に対し、逆さにしたL字状の内側を向けるように積載されているが、この場合、積載物BGの直交する2面で、図中の矢印に示すように偏波が生じてしまう場合がある。
【0029】
前述の誤検知は、かかる偏波の影響により、狭角ビームBPSと広角ビームBPWとのレベル差の算出が正しく行えなくなる、すなわちレベル差の確度(正確度)が低下することによる。なお、ここでは、積載物BGの形状を例に挙げたが、たとえばトラックTRそのものの形状によっても同じことが言える。たとえば、ラダーフレームとキャビン後端とが形成する逆L字状の空間である。
【0030】
そこで、本実施形態では、
図1Eに示すように、実測した受信レベルTX1,TX2から算出したレベル差と、前述の基準値との比較に基づき、レベル差の確度の高低を判定することとした(ステップS1)。
【0031】
そして、判定した確度の高低に応じて、到来角度に物標TGが存在するか否かを判定するための判定条件を調整することとした(ステップS2)。具体的には、本実施形態では、算出したレベル差の確度が高い場合、折り返しゴーストGでない可能性が高いと言えるため、前述の判定条件が緩和されるように調整を行う。
【0032】
一方、算出したレベル差の確度が低い場合、折り返しゴーストGである可能性が高いと言えるため、前述の判定条件が強化されるように調整を行う。そして、本実施形態では、このように調整した判定条件に基づいて物標TGの存否を判定する(ステップS3)。なお、ステップS3の判定では、受信レベルTX1が用いられる。
【0033】
これにより、レーダ装置1による物標TGの検知において、自車両MCの周囲にたとえばトラックTRのような偏波による悪影響を生じさせる形状の物体があっても、精度よく物標TGの存否を判定することが可能となる。すなわち、物標TGの検知精度を向上させることができる。
【0034】
このように、本実施形態では、実測した受信レベルTX1,TX2から算出したレベル差と、到来角度に予め対応付けられた基準値との比較に基づき、レベル差の確度を判定することとした。
【0035】
そして、本実施形態では、判定した確度と、受信レベルTX1とに基づき、到来角度における物標TGの存否を判定することとした。したがって、本実施形態によれば、物標TGの検知精度を向上させることができる。
【0036】
以下、上述した物標検知方法を適用したレーダ装置1について、さらに具体的に説明する。
【0037】
図2は、第1の実施形態に係るレーダ装置1のブロック図である。なお、
図2では、本実施形態の特徴を説明するために必要な構成要素のみを機能ブロックで表しており、一般的な構成要素についての記載を省略している。
【0038】
換言すれば、
図2に図示される各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。例えば、各機能ブロックの分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することが可能である。
【0039】
図2に示すように、レーダ装置1は、送信系を構成する構成要素として、送信部2と、送信アンテナ4−1,4−2とを備える。送信部2は、信号生成部21と、発振器22と、スイッチ23とを備える。
【0040】
また、レーダ装置1は、受信系を構成する構成要素として、受信アンテナ5−1〜5−nと、受信部6−1〜6−nとを備える。受信部6−1〜6−nはそれぞれ、ミキサ61と、A/D変換部62とを備える。また、レーダ装置1は、信号処理系を構成する構成要素として、信号処理装置7を備える。
【0041】
なお、以下では、説明の簡略化のため、単に「送信アンテナ4」と記載した場合には、送信アンテナ4−1,4−2を総称するものとする。かかる点は、「受信アンテナ5」および「受信部6」についても同様とする。
【0042】
送信部2は、送信信号を生成する処理を行う。信号生成部21は、後述する信号処理装置7が備える送受信制御部71の制御により、三角波で周波数変調されたミリ波を送信するための変調信号を生成する。発振器22は、かかる信号生成部21によって生成された変調信号に基づいて送信信号を生成する。
【0043】
スイッチ23は、送信アンテナ4−1,4−2のいずれかと、発振器22とを接続する。スイッチ23は、後述する送受信制御部71の制御により、所定の周期で動作し、送信アンテナ4−1,4−2のいずれかと、発振器22との接続を切り替える。なお、
図2に示すように、発振器22によって生成された送信信号は、後述するミキサ61に対しても分配される。
【0044】
送信アンテナ4は、発振器22によって生成された送信信号を、自車両MCの前方へ送信波として送出する。送信アンテナ4−1,4−2からは、それぞれ異なるビームパターンで送信波が送出され、たとえば送信アンテナ4−1からは狭角ビームBPSが、送信アンテナ4−2からは広角ビームBPWが、それぞれ送出される。
【0045】
受信アンテナ5は、送信アンテナ4から送出された送信波が物標TGにおいて反射することで、かかる物標TGから到来する反射波を受信信号として受信する。受信部6のそれぞれは、受信した各受信信号を信号処理装置7へ渡すまでの前段処理を行う。
【0046】
具体的には、ミキサ61のそれぞれは、上述のように分配された送信信号と、受信アンテナ5のそれぞれにおいて受信された受信信号とを混合してビート信号を生成する。なお、受信アンテナ5とミキサ61との間にはそれぞれ対応する増幅器を配してもよい。
【0047】
A/D変換部62は、ミキサ61において生成されたビート信号をデジタル変換し、信号処理装置7に対して出力する。
【0048】
信号処理装置7は、送受信制御部71と、フーリエ変換部72と、データ処理部73と、記憶部74とを備える。
【0049】
データ処理部73は、ピーク抽出部73aと、方位演算部73bと、ペアリング部73cと、物標分類部73dと、折り返し判定部73eと、連続性判定部73fと、履歴対象物標選択部73gと、不要物標判定部73hと、結合処理部73iと、出力物標選択部73jとを備える。
【0050】
記憶部74は、ハードディスクドライブや不揮発性メモリ、レジスタといった記憶デバイスであって、マップ情報74aと、閾値情報74bとを記憶する。
【0051】
送受信制御部71は、上述の信号生成部21およびスイッチ23を含む送信部2を制御する。また、図示していないが、受信部6それぞれの制御もあわせて行う。
【0052】
フーリエ変換部72は、各A/D変換部62から入力したビート信号に対してフーリエ変換を施して、データ処理部73のピーク抽出部73aへ出力する。
【0053】
ピーク抽出部73aは、フーリエ変換部72によるフーリエ変換結果においてピークとなるピーク周波数を抽出して方位演算部73bへ出力する。なお、ピーク抽出部73aは、後述するビート信号の「UP区間」および「DN区間」のそれぞれについてピーク周波数を抽出する。
【0054】
方位演算部73bは、ピーク抽出部73aにおいて抽出されたピーク周波数のそれぞれに対応する反射波の到来角度とその強度(受信レベル)を算出する。この時点で、到来角度は、位相折り返しされた場合を含み、物標TGが存在すると推定される角度であることから、以下、「推定角度」と記載する。また、方位演算部73bは、算出した推定角度と受信レベルとを、ペアリング部73cへ出力する。
【0055】
ペアリング部73cは、方位演算部73bの算出結果に基づいて「UP区間」および「DN区間」それぞれのピーク周波数の正しい組み合わせを判定し、組み合わせ結果から各物標TGの距離および相対速度を算出する。また、ペアリング部73cは、各物標TGの推定角度、距離および相対速度を含む情報を、物標分類部73dへ出力する。
【0056】
ここで、以下の説明を分かりやすくする観点から、信号処理装置7におけるここまでの一連の処理の流れを
図3および
図4A〜
図4Cを用いて説明しておく。
【0057】
図3は、信号処理装置7の前段処理から信号処理装置7におけるピーク抽出処理までの処理説明図である。また、
図4Aは、方位演算処理の処理説明図である。また、
図4Bおよび
図4Cは、ペアリング処理の処理説明図(その1)および(その2)である。
【0058】
なお、
図3は、2つの太い下向きの白色矢印で3つの領域に区切られている。以下では、かかる各領域を順に、上段、中段、下段と記載することとする。
【0059】
図3の上段に示すように、送信信号fs(t)は、送信アンテナ4から送信波として送出された後、物標TGにおいて反射されて反射波として到来し、受信アンテナ5において受信信号fr(t)として受信される。
【0060】
このとき、
図3の上段に示すように、受信信号fr(t)は、自車両MCと物標TGとの距離に応じて、送信信号fs(t)に対して時間差τだけ遅延している。この時間差τと、自車両MCおよび物標TGの相対速度に基づくドップラー効果とにより、受信信号fr(t)と送信信号fs(t)とが混合されて得られる出力信号においては、周波数が上昇する「UP区間」の周波数fupと、周波数が下降する「DN区間」の周波数fdnとが繰り返されるビート信号が得られる(
図3の中段参照)。
【0061】
図3の下段には、かかるビート信号をフーリエ変換部72においてフーリエ変換した結果を、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて模式的に示している。
【0062】
図3の下段に示すように、フーリエ変換後には、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれの周波数領域における波形が得られる。ピーク抽出部73aは、かかる波形においてピークとなるピーク周波数を抽出する。
【0063】
たとえば、
図3の下段に示した例の場合、ピーク抽出閾値が用いられ、「UP区間」側においては、ピークPu1〜Pu3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fu1〜fu3がそれぞれ抽出される。
【0064】
また、「DN区間」側においては、同じくピーク抽出閾値により、ピークPd1,Pd2,Pd3がそれぞれピークとして判定され、ピーク周波数fd1,fd2,fd3がそれぞれ抽出される。なお、ピーク抽出閾値は、後述する閾値情報74bにあらかじめ格納されていてもよい。
【0065】
ここで、ピーク抽出部73aが抽出した各ピーク周波数の周波数成分には、複数の物標TGからの反射波が混成している場合がある。そこで、方位演算部73bは、各ピーク周波数のそれぞれについて方位演算を行い、ピーク周波数ごとに対応する物標TGの存在を解析する。
【0066】
なお、方位演算部73bにおける方位演算は、たとえばESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)などの所定の到来方向推定手法を用いて行われるが、これに限定されるものではない。
【0067】
図4Aは、方位演算部73bが行った方位演算結果を模式的に示すものである。方位演算部73bは、かかる方位演算結果の各ピークPu1〜Pu3から、これらピークPu1〜Pu3にそれぞれ対応する各物標TGの推定角度を算出する。また、各ピークPu1〜Pu3の大きさが受信レベルとなる。
【0068】
方位演算部73bは、かかる方位演算処理を、
図4Bに示すように、「UP区間」側および「DN区間」側のそれぞれについて行う。また、方位演算部73bは、かかる方位演算処理を、狭角ビームBPSによる反射波、および、広角ビームBPWによる反射波のそれぞれについて行う。
【0069】
すなわち、方位演算部73bは、狭角ビームBPSによる反射波の受信レベルTX1と、広角ビームBPWによる同じ推定角度からの反射波の受信レベルTX2を算出する。
【0070】
そして、ペアリング部73cは、
図4Bに示すように、方位演算部73bの方位演算結果において、推定角度および受信レベルの近い各ピークを組み合わせるペアリングを行う。
【0071】
また、その組み合わせ結果から、ペアリング部73cは、各ピークの組み合わせに対応する各物標TGの距離および相対速度を算出する。距離は、「距離∝(fup+fdn)」の関係に基づいて算出される。相対速度は、「速度∝(fup−fdn)」の関係に基づいて算出される。その結果、
図4Cに示すように、自車両MCに対する、各物標TGの推定角度、距離および相対速度を示すペアリング処理結果が得られる。
【0072】
図2の説明に戻り、つづいて物標分類部73dについて説明する。物標分類部73dは、ペアリング部73cのペアリング処理結果に基づき、各物標TGを移動物(たとえば先行車、対向車等)および静止物に分類する。また、物標分類部73dは、分類した分類結果を折り返し判定部73eへ出力する。
【0073】
折り返し判定部73eは、方位演算部73bによって算出された受信レベルTX1,TX2同士のレベル差と、推定角度に予め対応付けられたレベル差の基準値との比較に基づき、レベル差の確度を判定する。
【0074】
また、折り返し判定部73eは、判定したレベル差の確度と、狭角ビームBPSの受信レベルTX1とに基づき、推定角度における物標TGの存否を判定する。また、折り返し判定部73eは、判定結果を連続性判定部73fへ出力する。
【0075】
ここで、折り返し判定部73eが行う折り返し判定処理について、
図5〜
図6Eを用いてさらに具体的に説明する。
図5は、折り返し判定部73eのブロック図である。また、
図6A〜
図6Eは、折り返し判定処理の処理説明図(その1)〜(その5)である。
【0076】
図5に示すように、折り返し判定部73eは、レベル差確度判定部73eaと、物標存否判定部73ebとを備える。
【0077】
レベル差確度判定部73eaは、方位演算部73bによって算出された受信レベルTX1,TX2同士のレベル差を算出する。また、レベル差確度判定部73eaは、マップ情報74aに予め設定された、推定角度に対応する各候補角度のレベル差の基準値と、算出したレベル差とを比較して、レベル差の確度の高低を判定する。また、レベル差確度判定部73eaは、判定したレベル差の確度の高低を物標存否判定部73ebへ出力する。
【0078】
物標存否判定部73ebは、レベル差確度判定部73eaによって判定された確度の高低に応じて、推定角度に物標TGが存在するか否かを判定するための判定条件を調整する。
【0079】
具体的には、物標存否判定部73ebは、レベル差の確度が高い場合、折り返しゴーストGでない可能性が高いとみなし、前述の判定条件が緩和されるように、物標TGの存否を判定するための判定閾値へ、閾値情報74bに含まれる所定の低閾値(第1閾値)を設定する。
【0080】
一方、物標存否判定部73ebは、レベル差の確度が低い場合、折り返しゴーストGである可能性が高いとみなし、前述の判定条件が強化されるように、前述の判定閾値へ、閾値情報74bに含まれる所定の高閾値(第2閾値)を設定する。
【0081】
そのうえで、物標存否判定部73ebは、受信レベルTX1が判定閾値を超える場合に、推定角度の物標TGが折り返しゴーストGでなく実在するものと判定し、受信レベルTX1が判定閾値以下である場合に、推定角度の物標TGが折り返しゴーストGであると判定する。
【0082】
そして、物標存否判定部73ebは、判定した判定結果を次段の処理部(連続性判定部73f)へ出力する。
【0083】
かかる折り返し判定処理について、さらに具体的に説明する。まずマップ情報74aの具体例を
図6Aに示す。
図6Aに示すように、マップ情報74aには、実測された推定角度に対応するたとえば候補角度#1〜#3と、各候補角度#1〜#3にそれぞれ対応する設計値(基準値)#1〜#3とが予め設定されている。
【0084】
設計値はたとえば、上述した実験等により導出された狭角ビームBPSの受信レベルTX1から広角ビームBPWの受信レベルTX2を減算した値である。候補角度#1〜#3は、方位演算部73bが算出した推定角度に対して、実際に物標TGが存在する可能性のある角度である。
【0085】
候補角度#1は、推定角度に対応する位相差から360°を減算した「−側折り返し角度」である。候補角度#2は、推定角度に対応する位相と同じ位相の「折り返しなし角度」である。候補角度#2は、推定角度と同じ角度となる。候補角度#3は、推定角度に対応する位相差に360°を加算した「+側折り返し角度」である。
【0086】
ここで、方位演算部73bによって算出された受信レベルTX1,TX2同士のレベル差に対し、その確度の高低を考慮しないならば、推定角度に対応する候補角度#1〜#3の各設計値#1〜#3と、レベル差とを比較して、レベル差が、どの設計値#1〜#3に最も近いかが判定され、最も近い設計値#1〜#3に対応する候補角度#1〜#3のいずれかが、実在角度とされる。
【0087】
しかしながら、物標TGの形状等により偏波の影響を受けた場合、算出されるレベル差が正しくない可能性があるため、やはりレベル差の確度の高低を考慮することが好ましい。そこで、レベル差確度判定部73eaは、候補角度#1〜#3ごとの設計値#1〜#3とレベル差との差分量を算出し、かかる差分量間の差が所定の閾値を超える場合に確度が高いと判定し、差分量間の差が閾値以下である場合に確度が低いと判定する。
【0088】
さらに具体的に説明する。
図6Bおよび
図6Cに示す波形は、マップ情報74aに設定される設計値曲線である。たとえば、
図6Bは、物標TGが実在する割り込み車両(以下、「カットイン車両」と言う)であり、偏波の影響を受けてない場合であるものとする。
【0089】
かかる場合には、方位演算部73bの算出したレベル差(図中の実測値)は、正しく算出され、方位演算部73bの算出する推定角度は、たとえば折り返しなしの角度である候補角度#2を示すと考えられる。
【0090】
このとき、たとえばかかる候補角度#2と、+側折り返しありの角度である候補角度#3とにおいて、設計値がとり得る値と実測値との差分量をみると、かかる差分量間の差は、後述する
図6Cの場合に比べて大きくなる傾向がある。
【0091】
これに対し、たとえば、
図6Cは、物標TGが、偏波の影響を受けた折り返しゴーストGの場合であるものとする。
【0092】
かかる場合には、方位演算部73bの算出したレベル差(図中の実測値)は、正しく算出されず、方位演算部73bの算出する推定角度は、たとえば候補角度#2ではなく、−側折り返しありの角度である候補角度#1を示したりすることが考えられる。すなわち、推定角度とレベル差が、理論上、妥当性のない組み合わせになることが考えられる。
【0093】
このとき、たとえばかかる候補角度#1と、候補角度#3とにおいて、設計値がとり得る値と実測値との差分量をみると、かかる差分量間の差は、上述した
図6Bの場合に比べて小さくなる傾向がある。
【0094】
このため、
図6Dに示すように、レベル差確度判定部73eaは、上述の差分量間の差が所定の閾値を超える場合に、レベル差の確度が高い(すなわち、折り返しゴーストGの可能性が低い)と判定し、差分量間の差が閾値以下である場合に、レベル差の確度が低い(すなわち、折り返しゴーストGの可能性が高い)と判定している。このように、レベル差の確度の高低を考慮することによって、実在する物標TGを折り返しゴーストGと誤判定することを防止するのに資することができる。
【0095】
そして、物標存否判定部73ebは、
図6Eに示すように、レベル差確度判定部73eaにより、レベル差の確度が高いと判定された場合には、判定条件を緩和する低閾値である第1閾値を、判定閾値へ設定する。
【0096】
また、物標存否判定部73ebは、レベル差確度判定部73eaにより、レベル差の確度が低いと判定された場合には、判定条件を強化する高閾値である第2閾値を、判定閾値へ設定する。これにより、レベル差の確度の高低に応じて判定条件を緩和したり、強化したりすることができるので、偏波の影響等によりレベル差が正しく算出されない場合であっても、誤判定を防ぎ、物標TGを精度よく検知するのに資することができる。
【0097】
そして、物標存否判定部73ebは、受信レベルTX1が、かかる判定閾値に基づき、物標TGの存否を判定することとなる。
【0098】
図2の説明に戻り、つづいて連続性判定部73fについて説明する。連続性判定部73fは、今回のスキャンにより判定中の物標TGの瞬時値に、前回のスキャンまでに検知していた物標TGと連続性があるか否かを判定する。具体的には、前回のスキャンまでの物標TGの位置から今回の予測位置を算出し、今回のスキャンにおいて予測位置に近い瞬時値があれば、かかる瞬時値に連続性があると判定する。
【0099】
履歴対象物標選択部73gは、次回以降の処理における履歴対象とする所定数の物標TGに関するデータを選択する。不要物標判定部73hは、システム制御上、不要となる物標TGであるか否かを判定する。不要となる物標TGは、たとえば折り返しゴーストGや構造物、壁反射等である。なお、不要とされた物標TGは、基本的に外部装置への出力対象としないが、内部的には保持されていてよい。
【0100】
結合処理部73iは、実在するとして検知されている複数の物標TGのうち、同一物からの反射点であると推定されるものについて、1つの物標TGにまとめるグルーピングを行う。
【0101】
出力物標選択部73jは、システム制御上、外部装置へ出力することが必要となる物標TGを選択する。したがって、出力物標選択部73jは、物標存否判定部73ebの判定結果に基づき、折り返しゴーストGであると判定された物標TGについては、出力対象として選択しない。これにより、システム制御上の誤動作を防止することができる。たとえば、隣接レーンを走行する車両を自車両MCの正面を走行すると誤検知し、自動的にブレーキが作動することを防止できる。また、出力物標選択部73jは、選択した物標TGに関する物標情報(実在角度や距離、相対速度等を含む)を外部装置へ出力する。
【0102】
ここで、外部装置は、たとえば車両制御装置10である。車両制御装置10は、自車両MCの各装置を制御するECU(Electronic Control Unit)である。車両制御装置10は、たとえば、車速センサ11と、舵角センサ12と、スロットル13と、ブレーキ14と、電気的に接続されている。
【0103】
車両制御装置10は、レーダ装置1から取得した物標情報に基づき、たとえばACC(Adaptive Cruise Control)やPCS(Pre-Crash Safety System)等の車両制御を行う。
【0104】
たとえば、車両制御装置10は、ACCを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、先行車との車間距離を一定距離に保ちつつ、自車両MCが先行車に追従するように、スロットル13やブレーキ14を制御する。また、車両制御装置10は、随時変化する自車両MCの走行状況、すなわち車速や舵角等を、車速センサ11や舵角センサ12等から都度取得し、レーダ装置1へフィードバックする。
【0105】
また、たとえば、車両制御装置10は、PCSを行う場合、レーダ装置1から取得した物標情報を使用し、自車両MCの進行方向に衝突危険性のある先行車や静止物等が存在することが検知される場合には、ブレーキ14を制御して自車両MCを減速させる。また、たとえば、自車両MCの搭乗者に対して図示略の警報器を用いて警告したり、車室内のシートベルトを引き込んで搭乗者を座席に固定したりする。
【0106】
次に、本実施形態に係るレーダ装置1のデータ処理部73が実行する処理手順について、
図7Aおよび
図7Bを用いて説明する。
図7Aは、第1の実施形態に係るレーダ装置1のデータ処理部73が実行する処理手順を示すフローチャートである。また、
図7Bは、折り返し判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0107】
図7Aに示すように、まずピーク抽出部73aが、ピーク抽出処理を行う(ステップS101)。そして、方位演算部73bが、ピーク抽出処理の処理結果に基づき、方位演算処理を行う(ステップS102)。
【0108】
そして、ペアリング部73cが、方位演算処理の処理結果に基づき、ペアリング処理を行う(ステップS103)。
【0109】
つづいて、ペアリングされたペアデータが前回までの履歴対象物標であるか、すなわち履歴ペアであるか否かが判定される(ステップS104)。ここで、履歴ペアでない新規のペアデータである場合(ステップS104,No)、物標分類部73dが、物標分類処理を行う(ステップS105)。
【0110】
そして、折り返し判定部73eが、折り返し判定処理を行う(ステップS106)。なお、ステップS104において履歴ペアであると判定される場合(ステップS104,Yes)、ステップS107へ制御を移す。
【0111】
ここで、折り返し判定処理の処理手順について説明する。
図7Bに示すように、折り返し判定処理では、レベル差確度判定部73eaが、受信レベルTX1,TX2同士のレベル差を算出する(ステップS201)。そして、レベル差確度判定部73eaは、推定角度に対応する候補角度ごとの設計値とレベル差との差分量を算出する(ステップS202)。
【0112】
そして、レベル差確度判定部73eaは、差分量間の差が所定の閾値を超えるか否かを判定する(ステップS203)。ここで、差分量間の差が所定の閾値を超える場合(ステップS203,Yes)、レベル差確度判定部73eaは、レベル差の確度が高いと判定する(ステップS204)。また、これを受けて、物標存否判定部73ebは、判定閾値へ所定の低閾値を設定する(ステップS205)。
【0113】
一方、差分量間の差が所定の閾値以下である場合(ステップS203,No)、レベル差確度判定部73eaは、レベル差の確度が低いと判定する(ステップS206)。また、これを受けて、物標存否判定部73ebは、判定閾値へ所定の高閾値を設定する(ステップS207)。
【0114】
つづいて、物標存否判定部73ebが、受信レベルTX1が判定閾値を超えるか否かを判定する(ステップS208)。受信レベルTX1が判定閾値を超える場合(ステップS208,Yes)、物標存否判定部73ebは、推定角度に対応する物標TGが折り返しゴーストGでないと判定し(ステップS209)、折り返し判定処理を終了する。なお、受信レベルTX1が判定閾値を超える場合に物標TGが折り返しゴーストGでないと判定することで、離反カットイン車両CCを誤って折り返しゴーストGと判定していた場合に、当該判定を解除することができる。離反カットイン車両CCの形状によっては、レベル差が誤って算出され、離反カットイン車両CCを折り返しゴーストGと誤判定する場合があるからである。また、離反カットイン車両CCが自車正面に位置した場合には受信レベルTX1が高くなる。したがって、判定閾値は他車両が自車正面に位置した場合に受信する程度の受信レベルである。
【0115】
一方、受信レベルTX1が判定閾値以下である場合(ステップS208,No)、物標存否判定部73ebは、推定角度に対応する物標TGが折り返しゴーストGであると判定し(ステップS210)、折り返し判定処理を終了する。
【0116】
図7Aの説明に戻り、ステップS107から説明する。つづいて、連続性判定部73fが、連続性判定処理を行う(ステップS107)。そして、履歴対象物標選択部73gが、連続性判定処理の処理結果に基づき、履歴対象物標選択処理を行う(ステップS108)。
【0117】
そして、不要物標判定部73hが、履歴対象物標選択処理の処理結果に基づき、不要物標判定処理を行う(ステップS109)。そして、結合処理部73iが、不要物標判定処理の処理結果に基づき、結合処理を行う(ステップS110)。
【0118】
そして、出力物標選択部73jが、結合処理の処理結果に基づき、出力物標選択処理を行い(ステップS111)、出力対象として選択された物標TGの物標情報を外部装置へ出力して、処理を終了する。
【0119】
上述してきたように、第1の実施形態に係るレーダ装置1は、物標TGからの反射波を複数の受信アンテナ5で受信した受信信号間の位相差に基づいて物標TGの角度を算出するレーダ装置1であって、送信部2と、方位演算部73b(「算出部」の一例に相当)と、レベル差確度判定部73ea(「第1判定部」の一例に相当)と、物標存否判定部73eb(「第2判定部」の一例に相当)とを備える。
【0120】
送信部2は、ビームパターンがそれぞれ異なる狭角ビームBPS(「第1送信波」の一例に相当)および広角ビームBPW(「第2送信波」の一例に相当)を交互に送信する。
【0121】
方位演算部73bは、狭角ビームBPSによる反射波および広角ビームBPWによる反射波の各受信信号に基づき、狭角ビームBPSおよび広角ビームBPWによるそれぞれの受信レベルTX1,TX2と、物標TGが存在すると推定される推定角度を算出する。
【0122】
レベル差確度判定部73eaは、方位演算部73bによって算出された受信レベルTX1,TX2同士のレベル差と、推定角度に予め対応付けられたレベル差の設計値(「基準値」の一例に相当)との比較に基づき、レベル差の確度を判定する。
【0123】
物標存否判定部73ebは、レベル差確度判定部73eaの判定結果と、狭角ビームBPSによる受信レベルTX1とに基づき、推定角度における物標TGの存否を判定する。
【0124】
したがって、第1の実施形態に係るレーダ装置1によれば、物標TGの検知精度を向上させることができる。
【0125】
ところで、これまでは、折り返し判定部73eが、レベル差の確度に応じて調整された判定閾値を受信レベルTX1が超えるか否かによって物標TGの存否を判定する場合を例に挙げた。しかしながら、物標TGが、実在はするものの、受信レベルTX1の低い低反射物であることはあり得る。
【0126】
そこで、一旦、折り返し判定部73eにより折り返しゴーストGと判定された物標TGに対し、実在する低反射物であるか否かを判定することとしてもよい。かかる場合を第2の実施形態として、以下、説明する。
【0127】
(第2の実施形態)
まず、第2の実施形態の概要について、
図8Aおよび
図8Bを用いて説明する。
図8Aおよび
図8Bは、第2の実施形態の概要説明図(その1)および(その2)である。
【0128】
図8Aに示すように、折り返しゴーストGと判定され得る低反射物としては、移動物であって、たとえば自車両MCに対し離反する相対速度を有するカットイン車両CC(以下、「離反カットイン車両CC」と言う)を挙げることができる。
【0129】
第2の実施形態では、一旦折り返しゴーストGと判定された物標TGに対し、かかる離反カットイン車両CCであるか否かを判定する処理を行う。かかる判定は、物標TGの移動する向きに基づいて行われる。
【0130】
また、
図8Bに示すように、同様の低反射物としては、移動物であって、たとえば自車両MCに先行する、離反カットイン車両CC以外の低反射車両LCを挙げることができる。
【0131】
第2の実施形態では、一旦折り返しゴーストGと判定された物標TGに対し、かかる低反射車両LCであるか否かを判定する処理を行う。かかる判定は、折り返しゴーストGの折り返し元となる他の物標TGの存否に基づいて行われる。
【0132】
これらにより、物標TGが折り返しゴーストGと判定され得る低反射物であっても、折り返しゴーストGと誤判定されるのを防ぐことができる。すなわち、物標TGの検知精度を向上させることができる。
【0133】
以下、さらに具体的に説明する。
図9は、第2の実施形態に係るレーダ装置1’のブロック図である。なお、
図9には、
図2に示したレーダ装置1のデータ処理部73に対応するデータ処理部73’のみを示している。レーダ装置1’のその他の構成要素についてはレーダ装置1と同様であるため、ここでの記載を省略する。
【0134】
また、かかる
図9を用いた説明では、主にデータ処理部73と異なる部分について説明することとし、既に説明済みの各処理部(ピーク抽出部73a等)については、省略するか、必要最小限の説明に留める。
【0135】
図9に示すように、第2の実施形態に係るデータ処理部73’は、さらに低反射物判定部73kを備える点が、第1の実施形態に係るデータ処理部73とは異なる。
【0136】
また、データ処理部73’では、折り返し判定部73eによる折り返し判定処理が、物標分類部73dによる物標分類処理もしくは不要物標判定部73hによる不要物標判定処理の後段で行われる点が、データ処理部73とは異なる。
【0137】
低反射物判定部73kは、折り返し判定部73eによる折り返し判定処理の処理結果に基づき、低反射物判定処理を行う。また、低反射物判定部73kは、低反射物判定処理の処理結果を結合処理部73iへ出力する。
【0138】
低反射物判定部73kが行う低反射物判定処理について、
図10A〜
図10Dを用いてさらに具体的に説明する。
図10A〜
図10Dは、低反射物判定処理の処理説明図(その1)〜(その4)である。
【0139】
上でも述べたが、低反射物判定部73kは、一旦折り返しゴーストGと判定された物標TGにつき、その移動する向きに基づいて離反カットイン車両CCであるか否かを判定する。
【0140】
具体的には、
図10Aに示すように、低反射物判定部73kは、折り返しゴーストGが自車両MCに対し、離反する相対速度を有し、かつ、狭角ビームBPSのビーム範囲の内側へ向けて移動する場合に、かかる折り返しゴーストGを離反カットイン車両CCであると推定する。
【0141】
仮に、折り返しゴーストGが、離反する相対速度を有するが、カットインすることなく隣接レーンを走行し続ける車両からの折り返しゴーストGであった場合、その移動する向きは
図10Aに示したものとならず、逆に狭角ビームBPSのビーム範囲の外側へ向けて移動するものとなる。
【0142】
かかる違いにより、折り返しゴーストGが離反カットイン車両CCであるか否かを推定することができる。なお、かかる折り返しゴーストGが離反カットイン車両CCであるか否かを推定するための判定条件に、折り返しゴーストGが、広角ビームBPWのビーム範囲で検知されていたかを付け加えてもよい。
【0143】
ここで、折り返しゴーストGが、広角ビームBPWのビーム範囲で検知されていれば、折り返しゴーストGが離反カットイン車両CCである可能性をさらに高めることができる。
【0144】
そのうえで、低反射物判定部73kは、
図10Bに示すように、離反カットイン車両CCであると推定した折り返しゴーストGから所定範囲R1内にn個以上の割れ物標TDがある場合に、かかる折り返しゴーストGを離反カットイン車両CCであると判定する。
【0145】
ここで、割れ物標TDは、物標TGと同一物からの他の反射点を指す。たとえば、物標TGが車両であれば、その反射点は、車両の各端部や、側面等にあらわれる。したがって、所定範囲R1は、折り返しゴーストGから遠方へ、たとえば車長L相当分の長さを有する範囲であることが好ましい。
【0146】
図10Aおよび
図10Bに示した方法により、離反カットイン車両CCを、折り返しゴーストGと誤判定することなく、精度よく検知することができる。また、上述の、広角ビームBPWのビーム範囲で検知されていたかという判定条件を付け加えることにより、より早い段階から離反カットイン車両CCを検知することができる。
【0147】
また、
図10Cに示すように、低反射物判定部73kは、一旦折り返しゴーストGと判定された物標TGに対し、そもそも折り返し元となる他の物標TGが存在しない場合に、かかる折り返しゴーストGを、離反カットイン車両CC以外の低反射車両LCであると推定する。
【0148】
そのうえで、低反射物判定部73kは、
図10Bで説明した判定条件、すなわち、折り返しゴーストGから所定範囲R1内にn個以上の割れ物標TDがあるか否かを判定し、判定条件を満たすならば、折り返しゴーストGを、離反カットイン車両CC以外の低反射車両LCであると判定する。これにより、離反カットイン車両CC以外の低反射車両LCについても、折り返しゴーストGと誤判定することなく、精度よく検知することができる。
【0149】
また、上述した割れ物標TDに関し、
図10Dに示すように、低反射物判定部73kは、折り返しゴーストGから狭角ビームBPS外側の所定範囲R2内にn個以上の割れ物標TDがある場合に、かかる折り返しゴーストGを、やはり折り返しゴーストGであると判定することができる。
【0150】
所定範囲R2は、たとえば隣接レーンのトラックTRを示す物標TGからの所定範囲R1が折り返された範囲に相当する。したがって、実在する物標TGの所定範囲R1内に割れ物標TDがあるならば、かかる割れ物標TDは所定範囲R2へ折り返される可能性が高い。これにより、折り返しゴーストGを精度よく検知することができる。
【0151】
次に、本実施形態に係るレーダ装置1’のデータ処理部73’が実行する処理手順について、
図11Aおよび
図11Bを用いて説明する。
図11Aは、第2の実施形態に係るレーダ装置1’のデータ処理部73’が実行する処理手順を示すフローチャートである。また、
図11Bは、低反射物判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0152】
なお、
図11Aは、
図7Aに対応しており、ステップS301〜S309までは、
図7AのステップS101〜S109と同様である。また、ステップS312,S313も、
図7AのステップS110,S111と同様である。このため、
図11Aでは、主に
図7Aと異なる部分について説明する。
【0153】
図11Aに示すように、データ処理部73’では、ステップS301〜S309までの各処理が行われた後、折り返し判定部73eが、再び折り返し判定処理を行う(ステップS310)。
【0154】
そして、低反射物判定部73kが、かかる折り返し判定処理の処理結果に基づき、低反射物判定処理を行う(ステップS311)。
【0155】
ここで、低反射物判定処理の処理手順について説明する。
図11Bに示すように、低反射物判定処理では、低反射物判定部73kはまず、折り返しゴーストGと判定された物標TGが移動物であるか否かを判定する(ステップS401)。
【0156】
ここで、物標TGが移動物である場合(ステップS401,Yes)、低反射物判定部73kは、つづいてかかる物標TGが、離反する相対速度を有するか否かを判定する(ステップS402)。
【0157】
なお、ステップS401で物標TGが移動物でない場合(ステップS401,No)、低反射物判定処理を終了する。
【0158】
物標TGが、離反する相対速度を有する場合(ステップS402,Yes)、低反射物判定部73kは、つづいて物標TGが、狭角ビームBPSのビーム範囲の内側へ向けて移動しているか否かを判定する(ステップS403)。
【0159】
ここで、物標TGが、同範囲の内側へ移動している場合(ステップS403,Yes)、低反射物判定部73kは、物標TGが低反射物(離反カットイン車両CC)であると推定し(ステップS404)、ステップS407へ制御を移す。
【0160】
一方、ステップS402またはS403の判定条件を満たさなかった場合(ステップS402,No/ステップS403,No)、低反射物判定部73kは、物標TGに対し、折り返し元となる他の物標TGがないか否かを判定する(ステップS405)。
【0161】
ここで、折り返し元となる他の物標TGがない場合(ステップS405,Yes)、低反射物判定部73kは、物標TGが低反射物(離反カットイン車両CC以外の低反射車両LC)であると推定し(ステップS406)、ステップS407へ制御を移す。
【0162】
ステップS407では、低反射物判定部73kは、物標TGから所定範囲R1内にn個以上の割れ物標TDがあるか否かを判定する。ここで、所定範囲R1内にn個以上の割れ物標TDがある場合(ステップS407,Yes)、低反射物判定部73kは、物標TGが低反射物であると判定し(ステップS408)、低反射物判定処理を終了する。
【0163】
一方、ステップS407の判定条件を満たさない場合(ステップS407,No)、低反射物判定部73kは、低反射物判定処理を終了する。
【0164】
また、ステップS405の判定条件を満たさなかった場合(ステップS405,No)、低反射物判定部73kは、狭角ビームBPS外側の所定範囲R2内にn個以上の割れ物標TDがあるか否かを判定する(ステップS409)。
【0165】
ここで、所定範囲R2内にn個以上の割れ物標TDがある場合(ステップS409,Yes)、物標TGが折り返しゴーストGであると判定し(ステップS410)、低反射物判定処理を終了する。
【0166】
また、ステップS409の判定条件を満たさない場合(ステップS409,No)、低反射物判定処理を終了する。
【0167】
図11Aの説明に戻り、ステップS312から説明する。つづいて、結合処理部73iが、低反射物判定処理の処理結果に基づき、結合処理を行う(ステップS312)。
【0168】
そして、出力物標選択部73jが、結合処理の処理結果に基づき、出力物標選択処理を行い(ステップS313)、出力対象として選択された物標TGの物標情報を外部装置へ出力して、処理を終了する。
【0169】
上述してきたように、第2の実施形態に係るレーダ装置1’は、低反射物判定部73k(「第3判定部」の一例に相当)をさらに備える。
【0170】
低反射物判定部73kは、折り返し判定部73eによって折り返しゴーストGであると判定された物標TGにつき、かかる物標TGの移動する向き、または、かかる物標TGの折り返し元となる他の物標TG(「別物標」の一例に相当)の存否に基づいて低反射物であるか否かを判定する。
【0171】
したがって、第2の実施形態に係るレーダ装置1’によれば、物標TGが折り返しゴーストGと判定され得る低反射物であっても、折り返しゴーストGと誤判定されるのを防ぐことができる。すなわち、物標TGの検知精度を向上させることができる。
【0172】
なお、上述した各実施形態では、レーダ装置1,1’の送信アンテナ4の本数を2本、受信アンテナ5の本数をn本としたが、これは一例であって、複数の物標TGを検出可能であれば他の本数であってもよい。
【0173】
また、上述した各実施形態では、レーダ装置1,1’の用いる到来方向推定手法の例にESPRITを挙げたが、これに限られるものではない。たとえばDBF(Digital Beam Forming)や、PRISM(Propagator method based on an Improved Spatial-smoothing Matrix)、MUSIC(Multiple Signal Classification)等を用いてもよい。
【0174】
また、上述した各実施形態では、レーダ装置1,1’は車両に設けられることとしたが、無論、車両以外の移動体、たとえば船舶や航空機等に設けられてもよい。
【0175】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。